障害のある人のオープンエンドな
創作活動についての考察
梶 谷 素 女
† 1.問題の所在 特別支援学校において知的障害の子ども達 の作品を目にすると、特に重度のこども達の作 品は、言葉でうまく表せない気持ちの表出や、 何者にも影響されないオリジナルの表現がある と感じる。絵画表現では、筆が持てない人も手 指を直接使ったり、垂らしたり、流したり、吹 き付けたり、技法に左右されずに自由に自己表 現を楽しむことができる。創作は、言葉ではな く感性を通して自分を表出できる手段である。 セルフエスティーム self-esteem とは、「自己肯 定感」や「自尊感情」と訳される概念であるが、 欧米では、芸術表現がセルフエスティームを育 み、肯定的アイデンティティーを確立すること に早くから着目し、実践を積み重ねている(川 井田 2013)1) 。 創作活動は、健常者にとっても障害者にとっ ても、自由に自己を表現できる手段であるが、違 いがあるとすれば、知的障害などの障害のある 人の創作活動は、自分だけで場や材料を用意し たり、環境を整えたりすることが難しく、周囲 の何らかの支援や条件が必要なことであろう。 障害のある人の創作は、その人の際立つ個性 をストレートに表現していて、何にも属さない 唯一無二の魅力がある。アウトサイダー・アー トの自由奔放な表現は、衝撃以外の何ものでも なく、また、アウトサイダー・アートが与えて くれるものは、人の目を気にして自分の気持ち を押さえ込むのはつまらないということ、たと え周囲に笑われても、自分が信じる道を進むこ との大切さを教えてくれると服部(2003)2) は † 障害児教育コース 障害児教育領域 担当教員:白石惠理子 述べている。障害のある人の創作活動に対する 注目度は、ここ 20 年来ずっと「右肩上がり」で あるが、20 年前と今では、その注目度の中身に は隔世の感がある。今、障害のある人の作品は、 公立美術館の自主企画展として巡回され、海外 の美術館でも作品展が行われている。 日本においては、障害者の創作活動は、主に 福祉的事業所を中心とした取り組みの中で発展 してきた。滋賀県は、そのような障害者の芸術 活動の支援については、全国に先駆ける歴史が あり、現在も、作家の支援、創作活動を行う事 業所への支援に先進的に取り組んでいる。その ような歴史的経緯を経て現在の創作活動の状況 があるわけだが、日中活動の全てで創作活動を 行っている施設は県内でも数が少なく、限られ た時間や曜日で行っているところがほとんどで ある。創作活動をしたい人がいても、近くに該 当する施設が無いということもある。 障害のある人の余暇に関しては、これまでに も余暇の過ごし方の幅の狭さ、家族への依存、 社会資源の不足といった問題が指摘されている (丸山 20163) など)。滋賀大学教育学部附属特別 支援学校において、2004 年と 2017 年4) に卒業 生を対象にした実態調査5) を行っている。2017 年の調査では、年代別でみると 20 歳代以下の青 年期においては、SNS の普及などもあり、過ご し方のバリエーションが豊富で、積極的に活動 していることが推察された。しかし、本人や保 護者の年齢が高くなるにつれて、暮らしの中で 健康面の不安が高まったり、また、卒業生の同 窓会である「青年学級」への参加度が減ったり するなど、「社会参加の場が狭くなっている傾 向」がみられ、余暇活動を含む社会参加の在り 方を考える必要性が指摘されている6) 。実態調 査のなかでは、事業所での過ごしや自宅での余暇に、絵を描くなどの創作活動に取り組む人が 一定数いることが分かった。創作活動は、障害 の程度や、年齢に関係なく取り組める活動であ ることが、調査結果からも示された。 では、実際に創作活動をしている障害者の生 活や、その背景、現状とはどのようなものであ るのだろうか、障害者の生活の中で、創作活動 はどのような意味を持っているのだろうか。そ の活動の現状、創作に至る経緯や、創作活動を 支える共通の条件、要因、課題とは何か、ま た、学校在学時から成人期に繋がる創作活動の 在り方とはどのようなものであるかを、インタ ビュー調査の結果などから明らかにしていきた い。また、障害のある人が創作活動を行うこと は、社会的にどんな意義があるのか、オープン エンドな創作活動の在り方とはどのようなもの か、本研究を通して考えたい。 2.目的 本研究の目的は、以下の 2 点である。 1) 障害のある人の創作活動の現状を探り、それ を支える条件、要因とはどのようなものか、 また課題とは何かを考察する。 2) 成人期の創作活動の多様な現状を明らかに することで、学校教育における図工・美術 の在り方を考えるための視点を得る。また、 オープンエンドな創作活動の在り方とはど のようなものかを考察する。 3.方法 創作の現場を取材し、作者本人や、家族、事 業所の支援者等の関わりのある人々を対象に半 構造化インタビューを行う。また、創作に至る 経緯や、その表現がいつ、どのように生まれた のか、創作活動 を支える共通の条件、要因、ま た課題等を考察していく。 創作活動の場の内、福祉的事業所 9 ヶ所、絵 画教室 1 ヶ所を対象に、半構造化インタビュー と、創作活動の場の見学を行った。また、創作 活動をしている作者とその家族への半構造化イ ンタビューも行い、当事者の実態や思いに迫っ た。期間は、2017 年 10 月から、2018 年 11 月ま でである。 インタビューを行った訪問先事業所は、A、 B、C、D、E、F、G、H、I事業所の 9 か 所である。また、絵画教室としてJアトリエに インタビューを行った。 作者は、作者 1(Nさん)、作者 2(Rさん) の 2 人である。家族は、家族 1(Nさんの父)、 家族 2(Dさんの母)の 2 人である。 インタビューの内容は、①創作活動の概要、 ②支援で大切にしていること、③材料、画材で 工夫していること、それについての意図、④障 害のある人にとっての創作活動の意味、⑤障害 のある人の作品やスタイルについて、⑥制作時 間と生活の区切りについて、⑦今後、障害のあ る人の創作活動がどのようなものになるとよい と考えるか、⑧学校教育の中で図工・美術を経 験する意味、⑨創作活動は本人の生き方の充実 に繋がるのか、の主に 9 項目である。但し、イ ンタビューの対象者によって質問項目をアレン ジした。 なお、調査内容をまとめるにあたり、各事業 所、絵画教室で配られている要項や、パンフレッ トなども参考にした。 4.結果 (1)創作活動を行う事業所と絵画教室 ①A事業所(回答者;アートディレクター) A事業所は、B型・生活介護事業所である。法 人の経営方針の一つとして、新しい社会的価値 の創出と発信を挙げているが、その中で、アー ル・ブリュット等を発信することによって、新 たな社会的価値を生み出すとしている。生活介 護の定員は 30 人であるが、事業所内で行われて いる絵画教室の参加者は 15 人である。創作活動 については、主に土曜日と、平日の午後、事業 所のアートディレクターが中心となって行って いる。活動内容は、絵画、油絵などである。 〇日課の中の創作活動 制作時間については、「施設、学校もかもし れないが、時間区切りで動くので、利用者はそ れに合わせてもらうしかなく、そういう風にス タッフも動かざるをえない」と言う。「生活の大 きな流れにはほとんどの人が逆らえず、周囲も
時間を守らせようとする。創作での自由な活動 と、集団生活での時間枠、規則などは方向性が 違う」とのことであった。 〇障害のある人にとっての創作活動の意味 「アートか、アートでないかという線引きは、 無いほうが自由になることもある。こだわりや 問題行動と思ってその人の事を見ない。認める 支援の中に福祉の可能性がある。美術を見る視 点に近い。福祉と美術は真逆なところがある。 それを理解しないと、無理に繋げても上手くい かない。こちら側が自由な発想を持っていない と彼らの表現を引き出せない。」ということであ る。 ②B事業所(回答者;施設長) B事業所は、多機能型施設(生活介護・就労 継続B型)である。1990 年、従来から行ってい た下請け中心の生産活動から、個性豊かに自分 らしく生きる事を目的に、一人ひとりの思いや ペースに沿ったさまざまな表現活動に取り組む ようになった。表現活動を通し、障害のあるな しに関わらず穏やかに心豊かに成長すること、 その人がその人らしく健康で生き生きと過ごせ ることを目指している。多機能型施設であり、 個々の目的に応じた 6 つのグループに分かれて 活動を行っている。敷地内には、カフェやギャ ラリー、オリジナルブランドを販売するショッ プなどが併設されている。テレビ出演や映画制 作など、アートに関する専門家も関わって外部 に積極的に発信している。事業所の利用者 は、 就労継続B型 31 人、生活介護 52 人の計 83 人 (10 ∼ 70 歳代)である。施設の概念としては 絵を描く人自体をアートと捉えている。例えば 一日中ラーメンを持って過ごしている人もいる ので、「そういう人も含めると、8 割、9 割の人 がアート活動を行っている」と言う。自由に取 り組めるような状況を作っていて、やるかやら ないかはその人の自由であり、その日の彼らの 気持ちに沿って過ごしている。絵画、陶工、布 や刺繍の表現などの創作活動を日中活動として 行っている。アートというよりも彼らがやりた いこと、望むことを大事にしている。 〇社会の中での創作活動 制作した作品は、工房内で完結するのではな く、展覧会、作品展を始め、布に加工されて使 われたり、海外にも作品が出展されて評価を得 ていたりする。制作物に対して対価を得ること についても、最初に取り決めを交わし、本人や 家族に収入が入るようになっていて、「本人が意 識できなくても、家族がそのことで我が子を誇 りに感じ、喜び、それが本人にも返っていく」 ということである。 〇今後の障害のある人の芸術活動について 「彼らは芸術家として評価されたいのではな く、人としてお互いに対等な関係性を築きたい と思っている。芸術活動を通してそういう社会 になればいいと思う。彼らの本意に沿った人生 が送れればそれが一番いい」とのことであっ た。 ③C事業所(回答者;代表) C事業所は、アートをコミュニケーションの 手段の一つと捉え、社会とのコミュニケーショ ンに役立てたいという考えのもと、2015 年に 生活介護事業所を開設。障害者の人生の選択肢 にアーティストという生き方があってもよいの ではないか、一生涯学べる場所があってもよい のではないか、好きなことを仕事にしてもよい のではないかなど、生涯を通して自分の生き方 を見つけることを支援していくことを謳ってい る。各種展覧会、コンクール等への出展、個展 の開催など、発信に積極的である。一日 10 人前 後が通所して、日中活動として創作活動を毎日 行っている。活動内容は、油絵、パステル、水 彩、その他様々な技法による絵画などの創作活 動である。 〇障害者の芸術活動についての課題 「絵を描くのも好き、物を作るのも好き、いい ものを作っている人がいても、所属している事 業所の状況で作品の扱いが左右されてしまう。 障害のある人は、住んでいるところ、最小単位 では事業所、大きい所では自治体、地域で左右 される所が課題である」とのことである。障害 のある人の創作活動は、置かれている環境や属 性に大きく影響を受ける現実がある。 ④D事業所(回答者;施設長) D事業所は、2015 年に開所した、生活介護事 業所である。2009 年に障害を持つ人がその人の 得意な事で 活躍する・仕事する ことを目標 に設立された福祉施設の ギャラリー&カフェで
ある。施設では、絵画、創作、オリジナルグッ ズ製造、展示販売やパフォーマンス活動を行っ ている。これまで、各地で展覧会を開催し、作 品のライセンス事業や、ライブイベント等のパ フォーマンス活動を展開している。D事業所で は、ハンディキャップのある人がその人の得意 なことでお店作りに参加できる地域の文化的交 流の場になることを目指して、ギャラリーでの 作品展、ワークショップの企画運営等を行って いる。事業所の一日の利用者数は、ギャラリー &カフェでは、20 人程度(事業所総登録人数 100 人程度)である。創作は、日中活動として平日に 行っている。油絵、水彩、ペン、色鉛筆、その 他様々な技法による絵画などの創作活動を行っ ている。その他、メンバーの特技を活かしたパ フォーマンス活動、出張公演など幅広い活動を 行っている。取材やメディアへの露出も、作者 の紹介も含めてオープンに受け入れていて、外 部、社会に対して開かれている。この事業所の 特徴の一つは、自由な雰囲気である。好きな仕 事を続けていって、それが少しでも賃金に還元 されて活躍できれば、自信に繋がり、毎日が楽 しくなるのではないかということで取り組まれ ている。 〇創作への働きかけ 「外から来た依頼にも対応し、本人が受ける と言えばやってもらう。個展でこういう感じの ものを出して欲しいと言われれば、本人が良け ればそういうこともやってもらう。半分創作 で、半分仕事みたいな感じになっているかもし れない」ということであるが、このように外部か らのオファーを受ける形の創作活動の展開は、 特徴的な取り組みである。 ⑤E事業所(回答者;施設長) 施設が所属する法人は、1959 年に生活保護 法に基づく救護施設として設立された。生活介 護、施設入所支援、短期入所の事業所である。 創立まもなく 1964 年、画家、西垣籌一が指導者 として赴任。氏主催の絵画クラブが誕生する。 1994 年にはスイス・ローザンヌ市立アール・ブ リュット美術館に 6 人、32 点の作品が永久収蔵 される。2012 年、日本財団の助成を受け、美術館 を開館する。現在のアトリエは 2010 年からで、 現代美術作家が支援している。作品収蔵庫を建 て、現在アーカイブの作成を継続中である。創 作活動の概要は、毎週金曜日に施設内のアトリ エで絵画クラブ、絵画クラブの後に、余暇支援 を行っている。土曜日にも余暇支援を行ってい る。絵画クラブは、水彩、ペン画など、様々な 画材を使用し、10 数人がアトリエで主に平面の 制作を行っている。 〇創作活動の支援で目指すもの 「障害のある人が、作家として活躍すること で社会的に認められるようになり、障害者自体 の立場がもっと社会の中で対等になれるのでは ないかと思う。ここのように、やりたい人が活動 する場がきちんとあって、その場所にきたらい つも創作ができて、それをすることが生き甲斐 につながるようなことが広がるといいと思う。 その人の内側に何かを表現する力のある人には 尚更、環境を作るべきである。その人が願うも のを理解して環境設定をするのが私達の努めだ と思う」と言う。 ⑥F事業所(回答者;陶器班職員) 昭和 30 年に事業を開始した、B型、生活介 護事業所である。作業は、陶器班など 4 つの班 に分かれている。障害者の創作活動の先駆けと して、陶芸に取り組んできた歴史のある事業所 である。造形物研究班では、絵画制作、織物、 刺し子作業などに取り組んでいる。年齢層は高 く、入所施設のため、ここで暮らしている人が ほとんどである。陶器班は 20 人、造形物研究班 は 15 人である。日中活動として、毎日行ってい る。活動内容は、陶器班については働くことを 大切に、実用品などの製品を作り、販売してい る。創作の陶芸をしている人は 20 人中 5,6 人 である。長年の生活リズムなので、この活動が なければ過ごし方が分からないかもしれないと いうことである。 〇 創作活動の意味 製品を作ることは慣れた作業工程であると 思われるが、時々創作の陶芸を間に挟むこと で、気持ちや感性に変化や楽しみが感じられて いるとのことであった。 ⑦ G事業所 (回答者;陶芸指導者) 事業所は、社会福祉法人N福祉会に所属して おり、G 1 事業所(就労継続B型、生活介護多機 能型事業所)と、G 2 事業所(就労継続支援B
型)に分かれている。G 1 事業所は、1998 年に 開所し、主に下請け作業をしている。陶芸の窯 が 2000 年に作られ、どちらの事業所からも利用 者が参加する形で、日中活動以外の余暇支援と して、窯場で造形活動を行が行われており、表 現や創作活動を大事にしている事業所である。 事業所でも創作活動が行われているが、それと は別に、窯場には週 4 日程度、3 ∼ 4 人がメン バーを交代してここを訪れ、陶芸活動に取り組 んでいる。窯場は、事業所の場所からは離れた 山中にある。焼成日には、職員や利用者、保護 者が集い、窯焼きの番を行う。指導を行うI氏 は、昭和 34 年に落穂寮に採用され、長年造形 活動の指導に取り組んできた。「近江学園の田 村一二先生から多くを学んだ」とのことであっ た。滋賀の障害者福祉の中で脈々と流れてきた 陶芸の歴史を次世代に引き継いでいる。 〇造形活動で大切にしていること 「基本的には本人が作りたいものを作るが、 カタチが生き生きとしなくなり、マンネリ化し てきて「お仕事」のようになってくると、様々 な刺激を提供する。彼ら同士でも言葉の無いコ ミュニケーションをしている。お互いにカタチ を真似てみたりして、影響を与えあっている。表 現を待つのは大事なこと。表現は天性のもの、 みんな違う。粘土の焼き色や質感を予想して、 その作品に適し、その作品を生かせる焼成方法 を工夫する事も大切」とのことである。 ⑧H事業所(回答者;施設、アトリエ職員) H事業所は、社会福祉法人I会が、アート活 動で利用者が関わる仕事を作ることはできない かと考え、2001 年に始まった。社会福祉法人I 会の事業の一環としてアトリエ活動を行ってお り、アトリエとして建てられた施設には、同じ 法人の 4 つの事業所から、曜日ごとに異なるメ ンバーが来て創作活動をしている。ここでは創 作活動を仕事として行い、商品を作ったり販売 したりしている。メンバーと職員が得意な事を 生かし合いながら商品や作品の制作、展覧会の 開催などを行っている。「ひとりひとりが、そ の人らしい表現の仕方で生き生きと制作ができ る場所であること」を大切にしている。活動に 参加している人は 18 人で、年齢は 30 代から 60 代位までである。メンバーは、知的障害の中度 から軽度の人である。ここに来る時以外は、所 属する作業所でそれぞれの仕事をしている。 〇福祉施設におけるアトリエの意味 「外の社会と繋がるきっかけにここはなって いると思う。作業所ではその中で人間関係が完 結してしまっている。ここは間口が広いという か、見学などにも来やすい。自分が喋れなくて も外の人を受け入れることに慣れている人も多 い」とのことである。 ⑨I事業所(回答者;制作アドバイザー) I事業所は、1991 年 5 月に開所。現在 37 人在 籍。「どんなに障害が重くても、仲間とともに住 み慣れた地域で過ごしたい」という願いを実現 するために開所した作業所である。生活や労働 に向かう力を育むために、作業という枠組みに とらわれることなく、一人ひとりの願いや課題 にあった実践・支援を積み重ねている。造形活動 については、生活を描き、表現することを大切 にし、絵画や粘土などの活動を展開している。 その中で生まれた作品は、展覧会に出展したり 作品展を開催したりするなど障害のある人の表 現世界を社会との接点とした運動を進め、取り 組んでいる。各曜日に少人数のグループで、陶 芸や絵画などの活動を行っているが、水曜日の 午後は、造形グループ 16 人で創作活動をする。 〇創作の支援について 水曜日の午後の造形活動には、月に 1 回、美術 の専門家としてMさんが訪れて支援している。 作業所の職員は、Mさんの助言を日々の活動に 生かしている。Mさんが行う活動以外は、題材 の設定や活動の組み立て、材料の用意など、造 形活動を担当する職員が行っている。造形担当 の職員は、「創作について聞きたい時に聞ける、 日常的に学べる、そのような環境があるとよ い」ということを語っている。 ⑩Jアトリエ(回答者;代表) ダウン症のH君は、6 歳で絵を描き始め、絵を 描くことが大好きだった。母のMさんが、その 才能を伸ばしてやりたいと、E事業所の絵画教 室に連れていくようになった。そこで西垣籌一 先生に出会い、絵の指導を受ける。1993 年に日 曜画家展で受賞したのをきっかけに、自宅近く に借りていた家でIさんを指導者に迎え、1995 年にアトリエが開設された。利用者は現在 13 人
で、26 歳∼ 57 歳。ダウン症の人や自閉症の人が いる。 週 3 日、絵を描く活動をしている。金曜 日には「お出かけ」をしている。スペースが狭 いので人数を分けていて、曜日によって来る人 達が違う。福祉施設ではなく会費で運営すると いう形なので、家族にそのような気持ちがなけ ればここには来られない。最初はH君の為に作 られたが、後にIさんは、H君と同じように在 宅になって、どこにも行くことができない人達 に声をかけた。喜んで来てくれている。H君が 一生懸命楽しそうに描く姿を見て、来た人達は こういうことをする所だと一目瞭然に分かる。 〇アトリエの意義と役割 元々はH君が仲間と創作活動ができるよう に、母の思いで作られたアトリエである。ここは 様々な事情で作業所に通いにくかったり、通え なかったりする人達が集える居場所にもなって いる。福祉制度が整ってきたとはいえ、狭間な 立場の人もいる。ここで行われている創作活動 の意義と共に、様々な事情を抱えた人の拠り所 としてアトリエの果たしている役割は大きい。 ⑪作者 1(Nさん;22 歳、ASD 男性) 地域の小学校から、養護学校の中学部に進学 している。訪問したのは個展の会場であるが、 そこには小学校時代の絵も展示されていた。好 きなもの、興味のあるものを特徴のある線画で 描いている。会場の入り口に絵が広げられてい て、彼が続きを描きながら、海外に行った話な どをぽつりぽつりと答えてくれた。 ⑫作者 2(Rさん;29 歳、肢体不自由、男性) 手の動きにも不自由さがあるが、5 年前位か ら絵を描き始めている。小、中学校は地域の通 常学校の特別支援学級で、高校から養護学校に 進学している。絵を描くようになったのは、A 事業所の創作支援で、油絵を勧められたことが きっかけである。手が不自由なため、筆やペン などの道具を扱いにくかったRさんが、直接、 指で油絵の具を画面に塗りつけることで、一か ら自分の力で表現ができる手法である。画材や 絵の具は用意してもらうが、色を選び、描くこ とは自分で行う。指で描いた斜めのタッチで、 自然な美しさを感じさせる抽象表現である。彼 は、「作品展を開きたい、もっと大きな画面に挑 戦したい」と、制作に意欲的である。作品を通 して自分を知ってもらいたい、自分が感じたり 考えたりしている一人の人間であることを理解 して欲しいと述べている。画材との出会いがR さんの表現に対する思いを大きく変えた。そし て今は描くことが楽しい、もっと続けたいとい う希望が膨らんでいる。 ⑬家族 1(作者 1 の父) Nは、小学校一年生の時は通常学級に在籍し ていたが、過敏さなどがあって周囲の環境に馴 染めず、教室で過ごす為に絵を描き始めたとい うことだった。幼い頃からコピー用紙などに絵 を描いていたが、高等部ではそれを貼り合わせ て続きものを描いていた。それを見た美術の先 生が、大きい紙に描いたらどうだろうというこ とで 10㍍の紙を用意し、8 等分に切って、絵を 8 点描いて、「ポコラート」など全国公募の作品展 に出したら入選したということである。紙の四 方から建物や道路、線路などの建造物が伸び、 細い線が複雑に重なった表現で、鳥瞰図のよう な不思議な世界観の絵である。彼の絵は、スイ スのアール・ブリュット・コレクションにも収 蔵されている。Nさんの父は、幼少期から思春 期の育ちの中での苦労を語っているが、その苦 労を経ることで今の過ごしに繋がっていると述 べている。 ⑭家族 2(作者Dさんの母) Dさんは、幼少期から絵を描き始めている。 小学校低学年の時は、冬休みでも朝 6 時に起き て、こたつで描いていた。描くペースが速いの で 1 時間もするとこたつの周りが絵でいっぱい になる。1 日に何十枚も白黒で描く。6 時間くら いぶっ通しで描いている。「上手だな」と思っ たのは小学校 5 年生の頃、歌舞伎の絵の中で 5 枚くらい、大人の人が描いたと思うくらい上手 な絵があった。その絵は大切に取っている。D さんの母は、幼少期の子育ての苦労を父親の協 力で乗り切ってきたことを語っている。母は、 彼が絵を描いて過ごすことを大切に考え、絵画 教室に通わせるなど、環境を与えることに心を 配ってきた。
5.考察 ⅰ 創作活動の目的 インタビューを行った事業所と絵画教室は、 それぞれが違う経過やねらいを持ち、様々な形 態で創作活動に取り組んでいる。創作活動のね らいは異なる部分もあるが、障害のある人の生 活の質を高め、より良い生き方を目指すという 点において共通していた。例えば、Bの「利用 者一人ひとりに寄り添い、本人が本人らしくあ るということ」や、Fの「利用者一人ひとりが 生き甲斐を持って生活できるように」などであ る。そのねらいは、障害のある人が、より豊か に生きるためであることが大きい。事業所等 で、創作活動を行う主なねらいとして、①人間 として自分らしく生活する(幸せに生きる)、② やりたいことを〈仕事に〉する(主体的に生き る) 、③余暇の充実(楽しく豊かに生きる) 、④ 生きがいをもつ(意欲的に生きる)、 ⑤社会との 繋がりをもつ(自立して生きる)の 5 点があげ られる。 いずれの事業所においても、「人間として自 分らしく生活する」というところを基盤にし て、これら 5 つのねらいが重なりあっていた。 ⅱ 創作活動の為の環境、条件 インタビューを行った 9 の事業所の種別を見 てみると、全てが生活介護のサービス枠を持つ 事業所である。就労継続支援B型を伴う事業所 もあるが、創作活動を行う場は生活介護事業所 が多い。創作活動は、やり方は自由であり、ど んな表現も作品となり得る。また、重度の人の 中に素晴らしい表現をする人がいる。内職が上 手くできない人も、創作活動で生き生きと力を 発揮できる人がいる。ⅰで挙げた創作活動の目 的に照らし合わせると、「やりたいことを仕事 にする」や、「余暇の充実」、「社会との繋がり」 など、障害の重い人も、創作活動に取り組める からこそ、それを可能にできるということでも ある。 事業所が、障害のある人に創作活動の支援を 行おうとする時には、幾つかの条件が必要であ る。創作活動を行う形は様々で、自由であるが、 「条件が充分整っていないので、創作活動に踏 み切れなかった」事業所もあると考えられる。 創作活動に必要な条件、方法として考えられる ことは、①場所 (建物、部屋、スペース)、②物 (画材、材料、モチーフ) 、③支援する人(専門 家がいればなお良い)、④手立て(具体的なやり 方、ノウハウ、技法、商品化、販売方法など)、 ⑤経費(運営に関わる費用、著作権料、給料な ど)、⑥時間(日課、余暇、実施する時間)、⑦ 仲間(一緒に取り組む人) 、⑧周囲の理解と支援 (家族、地域、社会)である。これらは、創作 活動を行う際に必要な具体的な条件であると考 える。しかし、それだけではなく、普段の暮ら しが心地よく過ごせる場所であるか、支援者の 働きかけが気持ちに寄り添ったものであるかな ど、特に障害の重い人には日常そのものが表現 に重なってくる。人との関わりの中で、嬉しい ことや楽しいことがあったり、散歩で生き物に 触れるなどの心を動かされる場面があったりす ることで、自然と表現に結びつくこともある。 見える支援の背景にはこのような暮らしがある ことも忘れてはならない。中津川(2017 年)7) は、「1 人ひとりを大切にして信頼関係をつく り、気持ちのやりとりができていないと豊かな 作品は生まれない」と述べている。表現活動に 取り組み始めるにあたって、マニュアルだけを 手がかりにすることは本来のねらいから外れた ものになってしまう。その人の表現のプロセス を大切に考えることが必要である。 ⅲ 創作活動の意義と課題 インタビュー調査の結果から、障害のある 人の創作活動を行うことの意義と課題を考察す る。創作活動の意義としては、前述のねらいと重 なるが、「自分らしく生きられる(自由)」「やり たいことを仕事にできる(主体的・自立)」「人 とのコミュニケーションツール(横の広がり)」 「自己表現・精神の解放・気持ちの安定(豊か に生きる)」「生きがいをもてる(意欲的に生き る)」「余暇の充実(楽しく生きる)」「社会との 接点になる(自信・自立)」などが挙げられる。 これらの意義が創作活動を行う人に全て当ては まる訳ではなく、その人の状況に応じて意義は 異なってくる。何よりもその人が、創作活動が 好きであるか、楽しんでいるか、そこに何を望 んでいるのかなどを支援者は常に考える必要が ある。
創作活動の課題としては、「社会の中の理解」 「社会資源、制度(公的な補助など)」「創作活 動を行う場(選択肢を増やす)」「創作活動の支 援(支援者の不足、専門性など)」などが挙げら れる。まず、「社会の中の理解」について述べ る。障害のある人の創作活動は、一般的な認知 度は上がってきており、創作活動の理解も随分 進んできた。以前は、価値がないと思われてい た創作物が、良さを見出されて展示され、作者 にスポットが当るなど、創作活動を通して障害 のある人が認められ、活躍する機会が増えてき たが、それでも作家として認知されている人は 数少ない。障害者としてではなく、創作を通し て、人として対等になることが希望であると幾 つかの事業所が述べているが、まだそこには課 題がある。「社会資源、制度」については、障害 福祉事業所が創作活動を行おうとする時、その ための補助となる制度や公的な支援などが充実 すれば、もっと創作活動に取り組みやすくなる と考える。「創作活動を行う場」については、滋 賀県の生活介護の事業所では、早くから創作活 動が行われてきた経緯があり、比較的多くの事 業所で取り入れられている。ただ、事業所全体 で日中活動として行う所は、滋賀県でもB事業 所などに限られる。B事業所は、先進的な取り 組みを行っているが、創作活動を主体に事業所 を運営することには難しさがある。その一つと して、生活時間と、創作時間の区切りの問題を A事業所は挙げていた。全国的に際だった取り 組みをしている事業所はあるが、創作活動の実 践内容も今後の課題であると考える。BやDの 事業所では、作家として活躍する人がいたり、 様々な取り組みを行ったりする中で運営が行わ れている。Dでは事業所と取り決めをすること で、他の利用者にも売り上げが還元されている ということである。契約や、著作権、作品の扱 いについても、本人だけではなく、事業所、家 族を含めて周囲が判断をすることになる。本人 が利益や権利を侵害されないように、本人の思 いや願いが尊重される必要がある。 創作活動を事業所で行う場合、何をするか、 どのように行うのか、画材や材料に何を用意す るのか、外部へのアウトプットはどうするのか など、専門的な知識のないスタッフは迷うこと も多い。事業所に優れた創作をする人がいて も、支援する側に美術的な視点がなければ見出 されることはなく、埋もれてしまう。ただ、美 術の専門家ではなくても、支援する人が創作に 関心を持つことは、その人自身を尊重すること でもある。Eでは、ものを作って飾る意味は、 鑑賞だけではなく、その人が取り組む姿勢を大 切にしようとするものであり、それが福祉の支 援であると述べている。実際、美術のスタッフ が居なくても、学び、活動の仕方を工夫して創 作活動に取り組む事業所も多い。福祉スタッフ が創作活動について学ぶ場があったり、福祉の 専門家ではなくても、創作に関心を持つ人が関 わったり働くことができるようなシステムがあ ればよいと考える。滋賀県ではグローがその為 の支援活動を行っており、全国的にもネット ワークが出来てきている。美術大学の学生が関 わるなどの方法もある。地域に開かれた創作活 動の在り方の中で、才能が埋もれずに見出され ることも増えるのではないかと考える。 ⅳ 今後の展望 創作活動の今後の展望として、①創作できる 環境が整う(やりたい人が創作できる、仕事に できる)、②創作の場の選択肢が増える(仕事、 日中活動、余暇の充実)、③平等に才能を生かせ るチャンスがある(創作活動の可能性、社会の システム)が挙げられる。 特別支援学校在学中から絵を描くのが大好 きな生徒がいたが、創作活動を日中活動として 本格的に行う事業所は圏域を外れた遠方にあ り、就労の実現には苦労があった。創作活動を 行う事業所において、活動内容や進め方は様々 である。好きなことだから仕事としたいのか、 日課の中の楽しみや発散としたいのか、余暇の 幅を広げる楽しむ時間を持ちたいのか、創作活 動に求めるものも人によって違いがある。様々 な形態で創作活動を行う場が身近な地域に増え ることで、創作の場の選択肢が増え、創作活動 の機会が増えると考える。創作の場は事業所だ けでなく、絵画教室や地域の集いなどでも可能 である。 ⅴ 作者と家族の思い 家族は、Nさんの父と、C事業所のDさんの 母にインタビューを行った。NさんとDさんに
は共通点がある。どちらも ASD の 20 代前半の 男性であることと、精神的な状態が影響してい ることである。また、どちらも絵を描くことに幼 少期から興味を持って描き続けていること、そ れが心の支えや、毎日の過ごしになっているこ とである。NさんもDさんも全国規模の公募展 で入賞するなど、その才能を認められている。 小さい頃から描き続けているので、そのスタイ ルは、量を描く中で確立されているように見え る。表現自体は全く異なり、Nさんは複雑な線で 表わされた鳥瞰図的な絵で、Dさんは、人物画を 描く。Dさんは雑誌のモデルを見ながら、自分 なりの表現にそれを落とし込んでいく。色も形 も独特の、強烈な個性を持った表現である。ど ちらも絵に入り込んで描いていることが伝わっ てくる。それだけ描かずにはいられない切迫感 があるのかもしれない。絵は言葉では伝えきれ ないものを代弁する手段であり、気持ちの発散 であり、居場所であり、描くことが生き方その ものである人もいる。どちらの家族も、彼らの 今とこれからについて、絵を描くという表現が どうなるかは分からないが、絵を描いているの ならそれらのことを守っていくのだと述べてい る。彼らは、家族の支えがあって創作に専念し ている。尚且つ、彼らの絵が評価されているこ とは、家族の喜びや誇り、支えにもなっている と感じる。 事業所のインタビューの中でも、作品が展覧 会などに出展されたり、創作活動で収入を得た りすることを家族が喜び、それが本人にも返っ ていくのだということを聞いた。また、作品が 売れるなどで収入が入ると、家族の支えだけで はなく、自分の力で生きる自立した生き方に繋 がっていく。 ⅵ 障害のある人のオープンエンドな創作活動 障害のある人の作品は、ストレートで、人の 心を真直ぐに捉え、訴えかける魅力がある。そ れは、作者の個性によるものだが、純粋に創作 だけに没頭することから生まれる表現の原点で もあると感じる。Eの事業所の作品などは、そ の価値や魅力を評価されてスイスのアール・ブ リュット・コレクションに収蔵されている。勿 論、そのように評価されていなくても、とても 良い表現を持っている人は大勢いる。 15、6 年前とは異なり、自治体が主催する公 募展や、一般の公募展も行われ、作品を目にす る機会も格段に増えた。そのような障害のある 人の創作活動は、社会の中でその価値を認めら れ、障害のある人の立場にも、変化をもたらす 可能性を持っている。創作活動を通して障害の ある人がより良く生きることの意味は、①社会 の中で自分らしく生きる(やりたい人が創作で きる、仕事にできる)、②創作活動から広がる人 との繋がり(創作、作品、発表の場を通じて) ③障害のある人もない人も、創作の価値や良さ を認め合える(違い、人格、個性を認め合える) ことであると考える。 障害のある人の創作の課題の一つとして、場 や支援する人など、環境を自分では選べない、 選びにくいということがある。創作活動の場が 増え、環境が整っていくことによって、「創作 活動が好きな人が自由に活動し、また、創作を 仕事にできる」という可能性が広がっていくと 考える。創作が仕事として成り立つような支援 や工夫もあるとよいが、好きな創作活動を充分 に行えたり、生活の中で楽しさや生きがいを感 じたりできることの意義は大きい。それは、事 業所での創作活動のねらいにも重なり、美術教 育の中で、創作が好きな生徒や将来も続けたい と思う生徒に対しても希望になる。白石(2018) 8) は、知的障害がある人の加齢に伴う体力の低 下や運動機能の低下などの問題を指摘している が、創作活動は、体力や運動能力を問うもので はない。その為、若い人も年配の人も男女問わ ず誰もが取り組むことができる活動である。青 年学級のアンケート調査からも、高齢の人にな るほど余暇活動の幅が狭くなることが明らかに なっている。高齢になった人の生活の質を保つ 為にも、考え、イメージし、目と手を動かす創 作活動は有効ではないかと考える。 作品が展覧会に出展され、見られることで、 多くの人が作品から価値や良さを感じとる。作 品の発表の場があることで、人々が知る機会が 増え、また、その作者にも目が向けられることに なる。評価が高まれば、素晴らしい作品を作っ た人として、リスペクトの思いや、感嘆する思 いが生まれることにもなる。作品に興味を持っ て、そのような創作の場に関わりたいと思う人
もいるかもしれない。Rさんは、展覧会に出し た作品を、好きだと言って買ってくれた人がい ることを嬉しそうに語っている。作品を描くだ けでなく、展示することで、世界が広がってい く。多くの人が知ることで、作品に興味を持っ たり、好きになったりする人も増える。色々な アウトプットの仕方があると考えられるが、そ の人に適した形でどのように行っていくかも、 周囲の支援に拠るところが大きい。作品を通じ て、直接人とのコミュニケーションが生まれる こともある。重度の自閉症と知的障害を併せ持 つ卒業生は、作品に描いたものを簡単な単語で 教えてくれる。描いているのは、好きな食べ物 などであるが、それが何であるかをやりとりす る中で気持ちが通じ、聞いてもらって嬉しいと いう思いから、彼が笑顔になる。上手く話せな い人も、作品を通して気持ちを表現することが できる。 事業所での支援について、「福祉施設で作品 を飾るということは、その人を大切に思うこと であり、その行為を尊重することである」とE の事業所が述べている。作品や創作活動を介し て、人との繋がりが横軸で広がっていくことが あると考える。森下(2016)9) が述べるように、 アートやデザインのもつ創造性には大きな可能 性があり、分野をこえて様々な人と連帯してい くネットワークから、創作に関わる未来の仕事 が生まれてくるのではないだろうか。 人を感動させる作品には影響力がある。芸術 は、作った人がどういう人かではなく、結実し た成果が何であるかを問う。特に現代アートの 世界は、自由で、どのような軌跡も表現として 捉える幅がある。このような場で、人に認めら れ、感動を生む作品の存在は、社会を変える力 にもなる。良いものは良いと認め合うことで、 お互い対等に向き合うことになる。「創作の力 が、人間として平等な立場で生きることに繋が るとよい」と語る事業所もある。創作すること や、作品の価値を感じ、互いの違いを認め合う 姿勢は、人を尊重し、個性を認める、どんな人 にも優しい共生社会の形にも通じる。 障害のある人が創作活動を好きで、人生の中 で創作を続けていこうとする時、必要な支援や 条件がある。子どもは、小さい頃から鉛筆を持っ てグルグル描いたりすることに喜びを感じる。 描くことのおもしろさは、絵という結果にある のではなくて、描くという過程(プロセス)に ある(齋藤(2014)10) )。また、人は、表象を描 こうとする欲求が強く、まだ自力では表象を描 けない運動調整能力が未熟なうちから「ない」 ものを補って表象を完成させようとするという ことである。人は、根源的に描くという行為に 引きつけられるのだ。ないものから生み出す面 白さ、そのプロセスは感情に快として響く行為 である。学校教育の中で、創作の楽しみを見つ けることができれば、大人になっても何らかの 形で創作活動を続けることに繋がる。好きなこ とを学校時代に作っておくかどうかは、将来の 生活の充実にも大きく影響する。 事業所では、幾つかのねらいを持って、創作 活動を行っている。人間として自分らしく生き ることを基盤に、様々なねらいを持っている。 そのねらいは、学校教育の中で、卒業後を見通 して子ども達に培う力、その目標にも連なって いると考える。 学校時代から創作活動が好きで、それを続 けていくことがその人の人生を豊かにすること ならば、その思いを大切にするべきである。卒 業後も場や環境があり、仕事でするのか余暇で 楽しむのかなど、その人に応じた形で選択でき ることが望ましい。その為には、社会の理解や 支援が進み、創作の場が増え、環境が整うこと が必要である。子ども時代から、その人の願い や思いを大切にし、成長してステージが変わっ てもその願いに応える縦の支援が継続して行わ れ、その人に合った環境を選択できること、そ して、家族だけではなく、生活や仕事や趣味の 活動を支える様々な人々が関わり、横の繋がり や支援が広がっていくこと、それが、障害のあ る人が生涯を通して自由に創作を続けていける オープンエンドな創作活動の在り方であると考 える。 創作活動の持つ特性として、どんな人も何 らかの形で自己表現できる、自分を表出できる 手段に成り得るということが挙げられる。 表現 のプロセスで人とのやりとりが生まれ、作品を 介して人との繋がり、コミュニケーションが生 まれる。創作の価値が認められることは、対等
な人間同士としてその個性を認め合えることに 繋がる。今後の展望として、それぞれの実践の 積み重ねから新たな社会の変化が生み出されて いくと考える。そして障害のある人の創作の場 や在り方が社会に向けてもっと開かれたものと なり、関心のある様々な人が関わることによっ て、その可能性がオープンエンドに広がってい くのではないかと考える。 謝辞 本研究を進めるにあたり、終始ご指導ご佃 撻をいただきました滋賀大学大学院教育学研究 科、白石惠理子教授に、深謝いたします。本研 究の趣旨を理解していただき、インタビュー調 査にご協力くださいました各事業所、絵画教室 の皆様、作者ならびにご家族の皆様に深く感謝 申し上げます。 注 1. 川井田祥子(2013)「障害者の芸術表現共生的な まちづくりにむけて」水曜社 2. 服部正(2003)『アウトサイダー・アート』現代 美術が忘れた「芸術」光文社新書 3. 丸山啓史(2016)「知的障害者の余暇をめぐる状 況と論点」、『障害者問題研究』44 巻 3 号 pp2-9 4. 調査主体(滋賀大学教育学部、滋賀大学教育学 部附属特別支援学校、滋賀大学大学院教育学研 究科) 5. パイデイア(2018)滋賀大学教育学部附属教育 実践総合センター紀要 voi.26 2018pp77-84 6. 平成 16 年度滋賀大学教育学部附属養護学校年報 pp142-157 7. 問いかけるアート編集委員会(2017 年)『問いか けるアート』―工房集の挑戦 さわらび舎 pp94-95 中津川浩章(画家、美術家 1pp94-958 ∼) 8. 白石惠理子(2007)『しなやかにしたたかに仲間 と社会に向き合って』全国障害者問題研究会出 版部 9. 服部正編著(2016)『障がいのある人の創作活動』 あいり出版 森下静香(社会福祉法人わたぼう しの会 GoodJob !センター施設長) 10. 齋藤亜矢(2014)『人はなぜ絵を描くのか』芸術 認知科学への招待 岩波書店