14 しがだい
連載 今の研究を語る
障害のある人の
ライフサイクルと発達保障
知的障害とADHDをあわせもつAくんは、障害児学級で学び、放課
後は学童保育ですごす。気持ちや行動をコントロールすることが苦手
で、怒ったときだけでなく、うれしいときにも「ひゃーおもしろーい」
と言いながら走り回り、すれちがいざまに人をたたいてしまう。とき
には、窓ガラスに自分から突っ込んでけがをしてしまう。こんなAくんだが、手を出してしまったあとに
は、「どうしよう…」と廊下の端から相手の様子をうかがっている。どうしても叱られることが多くなり
やすいAくんではあるが、叱られるだけで自分をコントロールする力を育むことはできないと、学童保育
の指導員は、Aくんのおしゃべりに耳を傾け、あそびにたっぷりつきあう。
陸上競技大会が数日後にせまったある日、Aくんは指導員に「厚紙がほしい」と言いにくる。厚紙で色
紙をつくったAくんは、そこに「ぼくより早く走ってね。西武線より」「ロマンスカーも応援しているよ。
小田急線より」と、大好きな電車から自分を励ますことばを指導員に書いてもらう。跳びはねて喜んだA
くんは、陸上競技大会当日、自分のもっている力を発揮した。
この実践報告を書いた学童保育指導員は、Aくんの「自分を自分で励ます」力をうみだしたものは何だっ
たのかを振り返る。
日中は障害者作業所で働き、夜はグループホームで生活するBさん。テレビへのこだわりがあり、リビ
ングにある共有のテレビをつけることを強く拒否するようになった。無理につけようとすると、パニック
を起こしてしまう。しかしある日、「ホームの世話人さんへの誕生日プレゼントだよ。みんなも一緒に見
ようよ」と、作業所職員がテレビを持ち込んだところ、Bさんは、テレビをつけることを拒否しなくなった。
今では、ときどき、他の仲間と一緒に野球や時代劇を見ることもあるという。
作業所職員は、Bさんのこだわりに戸惑いながらも、本当は人の役に立ちたい、人と一緒に楽しみたい
思いをBさんがもっていることを感覚的にとらえている。
保育所でも幼稚園でも、学校でも学童保育でも、そして、成人期の作業所でも、たくさんの障害のある
人たちが、学び、くらし、働いている。そのなかには、パニックやこだわり、落ち着きのなさなどを強く
示す人たちもいる。しかし、その人たちも、「陸上競技大会でがんばりたい」とねがい、世話人さんにプ
レゼントするテレビならと、こだわりをつくりかえたりする。一見、「困った行動」ばかりが目立ってし
まうこともあるが、その裏には、たくさんの前向きな思いや、人とつながりたいねがいが隠れていること
も多い。そして、その思いによりそい、実践のなかでねがいを育て、自分で自分をつくりかえていく営み
を長い目で見守ろうとする保育者や教師や指導員がいる。
私の研究は、そうした障害のある人たちの姿を発達的視点からとらえ、自らの人生の主人公として輝い
ていくために、それぞれのライフステージで大切なことは何かを考えていくことである。そして、ことば
や行動ではうまく思いや悩みを表現しにくい人たちによりそい、向き合っている教師や指導員の実践に隠
れている「宝物」をとりだし、多くの人に伝えていくことである。
白石 惠理子
(教育学部教授)