博 士 ( 獣 医 学 ) 森 石 恒 司
学 位 論 文 題 名
ボ ツ リ ヌ ス 菌 ADP ― リ ボ シ ル 基 転 移 酵 素 (C 3) の 産 生 機 構 , 分 子 性 状 お よ び 生 物 活 性 に 関 す る 研究
学 位 論 文 内 容 の要 旨
ボツリヌス菌が産生 するADP―リボシル基転移酵 素(C3)は,真核細胞内の分子量20,000 から26,000の低分子量GTP結合蛋白質を基質とする。本研究では,C3の産生機構,分子性状 およびその基質の機能を解析する目的で以下の実験を行った。
1)ボツリヌスC型およびD型菌のC3産生株と神経毒素産生株
ボツリヌスC型とD型菌で,どの株がC3を産生しているのかを検索した。また,神経毒素 および赤血球凝集素 と同様にファージの感染によ りC3を産生するのかどうかを調べた。
CM―Toyopearl 650M,SephadexG―100 superfineカラムによって,ボ`ソリヌスC型菌 2株の培養上清から,C3を精製した。それら精製C3をウサギに免疫することによって抗体 を作製し,その特異 抗体を精製C3カラムによって精製した。それら抗体を用いたWestern blotting法によって,神経毒素産生株11株,非産生株11株の培養上清中のC3を検索した。
神経毒素産生株11株と非産生株1株がC3を産生していた。
また,神経毒素非産生株に神経毒素産生株のファージを感染させると,その培養上清中にC3 を産生するようになった。C3産生株がすべてファージに感染していることから,ボツリヌスC 型 と D型 菌 は フ ァ ー ジ の 感 染 に よ っ て C3を 産 生 す る こ と が 示 さ れ た 。 2) C3の分子性状と酵素活性
ボツリヌスC型とD型菌の4株からの培養上清か らC3を精製し,それらC3の分 子性状を 比較検討した。ゲル 濾過とSDS―PAGEから,それらC3は単量体で分子量25,000から25,5 00であった。精製C3の抗原性,アミノ酸組成,アミノ末端配列から,C3は2群に分類され た。ラット脳細胞膜画分を基質としたとき,すべてのC3の基質特異性は全く同じであった。
し か し な が ら , そ の 2種 類 の C3の 酵 素 比 活 性 は 約 15倍 違 っ て い た 。 3)低分子量GTP結合蛋白質の細胞内機能の解析
真核 細 胞内 の低 分子 量GTP結 合蛋 白 質をADP―リボシル化する活性 がCl型とD型神経
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毒素にも報告されている。神経伝達物質放出機構にその基質の細胞内機能がかかわるのかどう かを明確にするため ,D型神経毒素の毒素活性とADPーリボシル化活性の異同を各種クロマ トグラフィーによヮ て検索した。ゲル濾過とハイド口キシアパタイ卜カラムク口マ卜グラ フィーで,毒素活性とADP―リボシル化活性は異なるピークとして認められ,ほとんどの毒 素蛋白質は毒素活性ピークに存在しており,ADP一リボシル化活性ピーク中にはほとんど認 められなかった。抗C3 IgGカラムに神経毒素をかけたとき,毒素活性と毒素分子は素通り 画分にほとんど溶出され,その画分にはADPーリボシル化活性は認められなかった。これら の結果から,神経伝 達物質放出阻害機構は,基質 の低分子量GTP結合蛋白質をADP―リボ シル化する活性に依存しないことが明らかになった。
C3の培 養 細胞 に対 する 生 物活 性をPC12細胞 とNG108ー15細胞で比較した。C3をPC12 細胞の培養系に加え,二日後にその形態を観察した。最終濃度20〃g/施になるようにC3を 加えたときPC12細胞 は細胞体の2倍から3倍の長さ の神経突起を伸長した。同じ濃度のC3 をNG108―15細胞の培 養系に加えた場合,細胞体の5倍以上の長さの神経突起を伸長し,近 く の 細 胞 と 接 着 し て ネ ッ ト ワ ー ク を 形 成 し て い る よ う に 観 察 さ れ た 。 このように,C3の 基質である低分子量GTP結合 蛋白質は,神経伝達物質の放出よりは,
むしろ細胞分化および増殖と密接にかかわり合うことが示唆されたので,細胞分化機構を解析 する有用な手段となるであろう。
学位論文審査の要旨
細胞の増殖・分化を制御する細胞内情報伝達系に,ras遺伝子産物を姶めとする分子量20,000
〜 26,000の低分子量GTP結合蛋白質(sG蛋白質)が関与することが知られている。1988年,
ボ ツ リ ヌ ス 菌の 産生 するADPーリ ボ シル 基転 移酵 素(C3)が ,幾 種類 か のsG蛋白 質を ADPーリボシル化しその機能を 変化させることが見いださ れて以来,C3はそれらsG蛋白 質
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之 郎
操 榮
昌
茂
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藤
岡
沼
藤
斉
波
小
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授 授
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教
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助
査
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主
副
副
副
の機 能と作 用機 構を解 析する プロ― ブとして多大ナょ関心を集めている。しかしナょがら, C3の分 子 性状 およ びそれ が修飾 した基 質の機 能変 化にっ いては 不明な 点が 多い。 これら をふま えて, 申 請 者 はC3の 産 生 株と 産 生 機 構 を 明確 に し た 上 で,C3を分 離精製 し,分 子性状 を調 べた。 また,
そ の基 質の 生物活 性にっ いても 検討を 加え ている 。これ らの成 績を まとめ た本論 文は, 和文48頁 から なり, 参考 論文5編を 付して いる。 その概 略は以 下の 通りで ある。
1) ボ ツ リ ヌ スC型 菌2株 の 培 養 上清 か ら , 陽 イオ ン 交 換 や ゲル 濾 過 カ ラ ムを 用 い て ,C3を 精 製 し , ウサ ギ に 免 疫 して 抗 血 清 を 作製 し た 。 こ の抗体 を用い たWestern blotting法に よっ て,
C型 およ びD型 菌 の神 経 毒 素 産 生 株, 非 産 生 株 それ ぞれ11株の培 養上清 を検索 した ところ ,神経 毒 素 産 生 株11株 ど 非 産 生 株1株 がC3を 産 生し て い た 。C3産 生 株 は すべ て フ ァ ー ジ に感 染 し て お り , しか も 神 経 毒 素非 産 生 株 に 神経 毒 素 産 生 株のフ ァージ を感 染させ ると,C3を産 生する よ う に ナ ょっ た 。 従 っ て, ボ ツ リ ヌ スC型 とD型 菌は ファー ジの 感染に よってC3を産 生する ことが 示さ れた。
2) ボ ツ リ ヌ スC型 とD型 菌 の4株 の 培 養 上 清 か ら , そ れ ぞれC3を 精製 し , 分 子 性 状を 比 較 検 討 し た 。 ゲ ル 濾 過 とSDS―PAGEで の 分 析 に よ る と ,い ず れ のC3も 単 量 体 で 分子 量 は25,000 か ら25, 500で あ っ た 。し か し , 抗 原 性, ア ミ ノ酸 組成 ,N― 末端 アミノ 酸配列 の比較 から ,C3 は2群 に 分 類 さ れ た 。 ラ ッ ト 脳 細 胞膜 画 分 を 基 質と し て ,2群のADP一 リボ シ ル 化 反 応を 比 較 す る と , 基 質 特 異 性 は 全 く 同 じ で あ っ た が , 比 活 性 は 約15倍 異 ナ ょ っ て い た 。 3) 従 来 ,C1型 とD型 の 神 経 毒 素 に もsG蛋 白 質 をADP− リ ボ シ ル 化 す る 活 性 が あ る と 報 告 さ れ て おり , 神 経 伝 達物 質 の 放 出 機構 とsG蛋 白質 との関 係が 議論さ れてき た。こ の点 を明確 に す る た め に ,D型 神 経 毒 素 の 毒 素 活 性 とADP― リ ボ シ ル 化 活 性 の 異 同 を 各 種 ク ロ マ ト グ ラ フ ィー によ って検 索した 。ゲル 濾過と ヒド 口キシ アパタ イ卜カ ラム クロマ トグラ フィー で,毒 素 活 性 とADP− リ ボ シ ル 化 活 性 は 異な る ピ ー ク とし て 認 め ら れた 。C3に 対す る 抗 体 を 結合 さ せ た カ ラ ムに 神 経 毒 素 をか け る と , 素通 り 画 分 に 大部 分 の 毒 素 活 性が 回 収さ れたが ,ADP一リ ボ シ ル 化 活性 は 認 め ら れナ ょ かっ た。従 って, 従来言 われ ていた 神経毒 素のADP−リ ボシ ル化活 性 は , 標 品中 に 混 在 し てい た 微 量 のC3に よ る も ので あり, この 反応と 神経毒 素の作 用と は無関 係 で あ る と 結 論 し た 。 一 方 ,C3の 培 養 細 胞 に 対 す る 作 用 をPC12細 胞 とNG108ー15細 胞で 形 態 学 的 に 比 較 し た と こ ろ ,C3を 培 養系 に 加 え る と, 二 日 後 に は,PC12細胞 は 細 胞 体 の2倍 か ら 3倍 の 長 さ の 神 経 突 起 を 伸 長 す る こ と が 見 い だ さ れ た 。 同 じ濃 度 のC3をNG108一15細 胞 の培 養 系 に 加え た 場 合 , 細胞 体 の5倍 以上 の 長 さ の 神経 突 起 を 伸 長し た 。 こ れらの 結果か ら,C3の 基 質 で あるsG蛋 白質 は , 神 経 伝 達物 質 の 放 出 より は,む しろ 細胞の 分化や 増殖と 密接 にかか わ
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り合うことが示唆されたので,C3が細胞分化機構を解析する有用な手段となることが期待され る。
以上のように,本論文はC3に関して,分子性状から生物活性まで基本的かっ広範な成績を含 んでおり,sG蛋白質を始めとして,細胞の増殖・分化にかかわる細胞内分子機構の解析に貢献 するところが大きいと考えられる。よって,審査員一同は,申請者森石恒司氏が博士(獣医学)
の学位を受ける資格を有するものと認める。
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