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博士(医学)山下 登 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(医学)山下   登 学位論文題名

末 梢 神 経系 に おけ る セ リン合 成酸素(3PGDH) の 発現局在および損傷後の発現増強

学位論文内容の要旨

【緒言】L‑セリンは非必須アミノ酸のーつである.このアミノ酸は蛋白質合成の 材料となるばかりではなく,グリシンやシステイン,D−セリン等他のアミノ酸合成,

ホスフんチジルセリンやスフインゴ脂質など細胞膜の構成脂質合成,核酸塩基合成 のための炭素や窒素の供給体としても重要である.L‑セリンは解糖系の糖代謝の中 間体である3ホスホグリセリン酸より生合成されるが,この過程の第1段階の酵素 が3ホスホグリゼリン酸脱水素酵素(3PGDH)である.最近の小脳プルキンエ細胞や 海馬神経細胞を用いた培養実験から,L‑セリンが顕著な神経栄養効果を有することが わかった.また,マウス脳における遺伝子発現の解析により,3PGDHは神経細胞に は発現せず,星状膠細胞と嗅神経被覆グリアに選択的に発現している事実が判明し た.この結果は,脳では神経細胞はL‑セリン合成能を持たず,グリアにその合成と 供給を委ねていることを意味している.今回,末梢神経の経路におけるL−セリン合 成系を明らかにする目的で,ラット脊髄および坐骨神経を用い,3PGDH発現細胞の 同定を行った.さらに,末梢神経損傷とその後の治癒再生におけるL‑セリン合成能 の変化についても検討を加えた.

【材料と方法】成獣ラットを使用し,一部には坐骨神経に挫滅損傷を加えた.In situ ハイブリダイゼーションにはラット3PGDH cDNAに相補的なアンチセンスオリゴヌ クレオチドプローブを用い,35S―ATPとターミナルデオキシヌクレオチジルトランス フェラーゼを用いてオリゴヌクレオチドの放射標識を行った.免疫組織化学にはウ サギ 抗ラット3PGDH抗体を用 いた.螢光 抗体法では3PGDH抗体と細胞マーカー抗 体との二重染色を行い,共焦点レーザー顕微鏡で観察した.また酵素抗体法では免 疫電子顕微鏡法も行った.

【結果】アフイニテイー精製を行ったウサギポリクローナル抗3PGDH抗体を用い,

ウエスタンブロットを脊髄,後根神経節,坐骨神経で行ったところ,いずれの組織に おいても抗体は57 kDaの単一蛋白バンドを認識した.これは予測されている分子 量と 一致する値 で,これら の組織で抗体が特異的に3PGDHと結合していることが 示された.

  坐骨 神経では,3PGDHはニュ ーロフイラメント(NF)陽性の神経軸索とは重なら ず,S―100陽性のシュワン細胞と共陽性を示した.また,免疫電顕法で観察すると,

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3PGDHの免疫反応はシュワン細胞に加え,その周囲の線維芽細胞にも認められた.

坐骨神経の知覚神経線維の起始ニューロンが存在する後根神経節では,3PGDH陽性 反応はS―100陽性のシュワン細胞と衛星細胞に認められ,軸索や神経節細胞の細胞体 は陰性であった.坐骨神経を通る運動神経線維の起始である脊髄前角の大型運動ニ ユーロンの細胞体や、脊髄の灰白質・白質を通過するNF陽性軸索は3PGDH陰性で あった.脊髄前角における3PGDH陽性反応は,神経細胞周囲のGFAP陽性の星状膠 細胞と、PLP mRNA陽性の乏突起膠細胞に認められた.

  次いで,末梢神経損傷に伴う3PGDHの発現変化を調べる目的で,挫減損傷を加え た坐骨神経をIn一situハイブリダイゼーション法と螢光免疫法により解析した.

3PGDH mRNAの発 現レベ ルは ,対照側と比べると創部およびその末梢側で発現増 強が観察された.蛋白レベルにおいても,創部およびその末梢側での螢光強度の増 強 が観 察さ れた ,損傷 後も3PGDH陽性細胞はNF陰性のままで,3PGDHとS―100の 共存も保たれていた.また,損傷神経に進入している多数のED―1陽性マクロファー ジを観察したが,3PGDHの発現は陰性であった

【考察】末梢神経系では3PGDHは神経細胞には発現せず,その周囲のグリア細胞 や線維芽細胞などの支持細胞に選択的に発現することを確認した.この細胞発現特 性 は マ ウ ス 脳 での3PGDH発 現パ ター ンと 基本的 に一 致し ている ,従 って3PGDH の発現は神経細胞では抑制され,周囲の支持細胞で選択的に誘導されており,これが 神経系に共通した発現調節であることが明らかとなった.

  シュワン細胞は末梢神経系における髄鞘形成細胞で,多彩な栄養因子やサイトカ インを産生する.また,シュワン細胞を損傷脊髄に移植すると本来再生しなぃとさ れてきた脊髄神経細胞の伸張が促進されることが知られている.これらの所見から,

シュワン細胞は細胞間のメデイエーターの発現調節を介して,軸索の発達や再生を 制御していると考えられている.今回,坐骨神経の損傷により3PGDHの発現が創 部およぴその末梢側において増強することが転写レベルと蛋白レベルの両面から確 認されたが,細胞膜の構成脂質合成におけるL‑セリンの重要性を考え合わせると.

L‑セリンの合成と供給を介してシュワン細胞が軸索の形成・維持・再生を積極的に 支援している代謝的関係が示唆、される.また神経線維間に介在する線維芽細胞にも 3PGDHが発現していることが免疫電顕で確認されたが,この2種の支持細胞が共同 して末梢神経内でのL‑セリン合成を担当し,軸素への供給源となっている可能性が 考えられる.

  神経が損傷を受けると,マク口ファージは速やかに損傷神経に浸潤し,変性軸索お よびミエリンを除去する.活性化されたマク口ファージは盛んに分裂をしているた め,蛋白合成,細胞膜合成,核酸合成に要するL‑セリンの需要も増大していること が予測される.しかし,マク口ファージは3PGDHを発現してレゝなしゝことから.マ クロファージに対しても,シュワン細胞と線維芽細胞によるL「セリンの合成と供給 が需要な役割を果たしていることが推測される.

  ニューロン周囲には髄鞘を形成しない乏突起膠細胞が存在することが古くから指 摘されてきたが,その機能についてはほとんど不明なままであった.今回これらの細

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胞体にも3PGDHの発現が確認できたことから,髄鞘非形成性の乏突起膠細胞にも L「セリン合成能が備わっており,神経細胞への供給機能を持っものと考えられた.

  なぜ神経細胞はL‑セリン合成能を失ってしまったのかとぃう疑問に対して,次の ように考えられる.L一セリンは解糖系中間体を材料として合成されるため,L‑セリ ン合成には,エネルギー産生のための基質の損失を伴う.神経細胞は低エネルギー 状態に極めて脆弱な細胞であるが,そのような細胞が3PGDHを発現していれば,エ ネルギー代謝と同化代謝の両方にグルコースが消費され,特に同化代謝の亢進して いる神経再生時には細胞生存が危機に陥ることが予想される.神経細胞や軸索の生 存・再生を安全かつ効率良く行うために,ニューロンはグルコースを専らエネルギ ー代謝に利用し,同化代謝に必要なL‑セリンは周囲の支持細胞からの供給に委ねる ようになったのではないかと推測している.

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

末 梢 神 経 系 にお ける セリ ン合成 酸素 (3PGDH) の      発 現 局 在 お よ び 損 傷 後 の 発 現 増 強

  L‑セ リ ン は 非 必 須 ア ミ ノ 酸 の ー つ で 、蛋 白質 合成 の 材料 とな るば かり では をく 、他 の アミ ノ酸 合成 、細 胞膜 の構 成脂 質合 成、 核 酸塩 基合 成の ため の炭 素や 窒素 の供給体として も 重 要 で あ る 。L「 セ リ ン は 解 糖 系 糖 代 謝の 中間 体3ホ スホ グリ セリ ン酸 より 生合 成さ れ る が こ の 過 程 の 第1段 階 の 酵 素 が3PGDHで あ る 。 最 近 の 培 養 実 験 か らL‑セ リ ン が 顕 著 な 神 経 栄 養 効 果 を 有 す る こ と が わ か っ た 。 ま た マ ウ ス 脳 で は3PGDHは 神 経 細 胞 に は 発 現せ ず星 状膠 細胞 と嗅 神経 被覆 グリ アに 選 択的 に発 現し てい る事 実が 判明 した。この結果 は 、 脳 で は 神 経 細 胞 は ト セ リ ン 合 成 能 を持 たず 、グ リ アに その 合成 と供 給を 委ね てい る こ と を 意 味 し て い る 。 今 回 末 梢 神 経 経 路に おけ るL‑セ リン 合成 系を 明ら かに する ため 、 ラ ッ ト を 用 い て3PGDH発 現 細 胞 の 同 定 お よ び 末 梢 神 経 損 傷 後 のL‑セ リ ン 合 成 能 の 変 化 に つ い て 検 討 を 加 え た 。 坐 骨 神 経 で は3PGDHは ニ ュ ー ロ フ イ ラ メ ン ト 陽 性 の 神 経 軸 索 で 陰 性 で 、S100陽 性 の シ ュ ワ ン 細 胞 と共 陽性 を示 し た。 また 、免 疫電 顕法 で観 察す る 3PGDHの 免 疫 反 応 は 線 維 芽 細 胞 に も 認 め ら れ た 。 後 根 神 経 節 で は シ ュ ワ ン 細 胞 と 衛 星 細 胞 が3PGDH陽 性 で 、 軸 索 や 神 経 節 細 胞 の 細 胞 体 は 陰 性 で あ っ た 。 脊 髄 前 角 の 運 動 ニ ュ ー 口 ン の 細 胞 体 や 脊 髄 の 灰 白 質 ・ 白 質 を 通 過 す る 軸 索 は3PGDH陰 性 で あ っ た 。 脊 髄 前 角 に お け る3PGDH陽 性 細 胞 はGFAP陽 性 の 星 状 膠 細 胞 とPLP mRNA陽 性 の 稀 突 起 膠 細 胞 で あ っ た 。 次 い で 損 傷 に 伴 う3PGDHの 発 現 変 化 を 調 べ る た め 、 挫 滅 損 傷 を 加 え た 坐 骨 神 経をInsituハ イブ リダ イゼ ーシ ョン 法と 螢光 免疫 法に より 解析 した 。3PGDH mRNAの 発 現 レ ベ ル は 対 照 側 と 比 べ る と 創 部 と そ の 末 梢 側 で 発 現 増 強 が 観 察 さ れ 、 蛋 白 レ ベ ル で も 同 様 の 発 現 増 強 が 観 察 さ れ た 。 ま た 、 損 傷 神 経 部 のED―1陽 陸マ クロ ファ ー ジ を 観 察 し た が3PGDHの 発 現 は 陰 性 で あ っ た 。 以 上 か ら 、3PGDHの 発 現 は 末 梢 神 経

彦 郎彦 知 芳雅 柳上 辺 小井 渡 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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系では神経細胞で抑制され、周囲の支持細胞で選択的に誘導されていることが明らかとな った。シュワン細胞と線維芽細胞は多彩な栄養因子やサイトカインを産生する。またシュ ワン細胞を損傷脊髄に移植すると本来再生しないとされてきた脊髄神経細胞の伸張が促進 されることが知られている。これらの所見から、この2種の支持細胞は細胞間のメデイエ ーターの発現調節を介して軸索の発達や再生を制御していると考えられ、そのーっとして L‑セリンの合成、軸索への供給を担当している可能性が考えられる。また、神経損傷に より3PGDHの発現増 強が確認 されたが 、細胞膜の 構成脂質 合成にお けるL‑セリンの重 要性を考え合わせると、L‑セリンの合成と供給を介して神経周囲の支持細胞が軸索の形 成 ・ 維 持 ・ 再 生 を 積 極 的 に 支 援 し て い る 代 謝 的 関 係 が 示 唆 さ れ た 。   この 論文に対 して、3PGDHの発現における有髄繊維と無髄繊維の違いについて、シュ ワ ン 鞘の 最 外層 と 最 内層 で の3PGDH発現 の 違 いに つ いて 、 末 梢神 経 に おけ る3PGDH のシ ュワン細 胞と線維 芽細胞以 外の細胞で の発現の 有無につ いて、神 経細胞が3PGDH を発現していない理由について、血中などにもL―セリンは存在するのに神経周囲の支持 細 胞 が3PGDHを強 く 発現 す る 理由 に つい て 、 損傷 の 違い に よ る3PGDH発現 の 差に つ いての質問があった。さらに今回の実験の臨床応用の可能性についての質問があった。こ れら の質問に 対して、 申請者は 、坐骨神経 では3PGDHはシ ュワン鞘 と線維芽 細胞のみ に発現しており、有髄神経と無髄神経でその発現に差がないこと、有髄の場合にはミエリ ン鞘 の内側の シュワン細胞質部にも外層と同様3PGDH発現は認められることを述べた。

次に3PGDHの発現局 在につい て、神経 細胞は虚血 に伴う低 血糖や低 酸素状態 に対して 極め て脆弱な 細胞であ るが、そ のような細 胞が3PGDHを発 現してい ればエネ ルギー代 謝とL‑セリン合成の同化代謝の両方にグルコースが消費されるため、細胞の生存と再生 を安全かつ効率良く行うために神経細胞はグルコースを専らエネルギー代謝に回し,同化 代謝に必要なL‑セリンを周囲の支持細胞から獲得するようになったと推測していると述 べた 。次に、 損傷の違 いによる3PGDH発現に差異 はないこ とを述べ た。また 臨床応用 として、障害神経へのセリン補充療法について述べた。

  この論文は、末梢でのセリン合成酵素の局在を確認した初めての論文として、またその 実験手技、特に免疫組織化学的手法の技術、論理的な考察内容で高く評価され、今後の臨 床応用の可能性についても期待される。

  審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ 申請者が 博士(医 学)の学 位を受ける のに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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