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東北医科薬科大学 審査学位論文(博士)要旨

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Academic year: 2021

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(1)

東北医科薬科大学

審査学位論文(博士)要旨

氏名(本籍)

ヤマガタ リョウタ

山縣 涼太(長野県)

学位の種類 博士(薬学)

学位記番号 博薬学第 17 号

学位授与の日付 令和 3 年 3 月 10 日

学位授与の要件 学位規則第4条1項該当

学位論文題名

糖尿病性神経障害性疼痛における脊髄内アンジオテンシン変換 酵素2の役割の解明 -レプチン欠損2型糖尿病モデルマウスを 用いた検討-

論文審査委員

主査 教 授 溝 口 広 一

副査 教 授 東 秀 好

副査 教 授 丹 野 孝 一

(2)

糖尿病性神経障害性疼痛における

脊髄内アンジオテンシン変換酵素 2 の役割の解明

-レプチン欠損 2 型糖尿病モデルマウスを用いた検討-

東北医科薬科大学大学院薬学研究科 薬理学教室 山縣 涼太

糖尿病はインスリンの機能不全により生じる慢性高血糖を主徴とし,腎症や 網膜症,神経障害をはじめとする様々な合併症を誘発することで罹患患者の

quality of life (QOL) 低下を招くことから,早期の治療が望まれる.これらの合併

症の中でも神経障害は比較的早期に発症することに加え,発症率も高く,糖尿病 患者の少なくとも半数が神経障害を合併している.さらに,糖尿病患者の 20-34%

が痛みを伴う神経障害を経験することが知られている.糖尿病性神経障害性疼 痛の治療にはアミトリプチリンやデュロキセチン,プレガバリンといった薬物 が使用されているが,鎮痛効果が限定的であることに加え,治療継続が困難とな る副作用を認めることから,既存の治療法だけでは十分な疼痛管理を行えてい ないのが現状である.したがって,これらの患者の QOL を改善するためにも,

糖尿病性神経障害性疼痛に対する新規治療標的の探索が望まれている.

Renin-angiotensin (Ang) system (RAS) は,生体内の体液量や電解質バランスの 調節ならびに血圧の維持に関与しており,古くから知られている循環 RAS と,

組織局所で機能する組織 RAS が存在する.循環 RAS では,腎臓の傍糸球体細胞 から放出された renin が肝臓で産生された angiotensinogen (AGT) に作用して Ang I を産生し,この Ang I は肺や血管内皮細胞に発現する Ang 変換酵素 (ACE) に より Ang II へと変換される. Ang II は RAS の主要な生理活性ペプチドであり,

G タンパク質共役型受容体の Ang II type 1 (AT1) および Ang II type 2 (AT2) 受容

(3)

体を活性化することで生理作用を示す.また, Ang II に ACE2 が作用することに より生成される Ang (1-7) は,G タンパク質共役型受容体の Mas 受容体に結合

して, Ang II の AT1 受容体を介する生理作用を抑制する.すなわち, ACE2/Ang

(1-7)/Mas 受容体系は ACE/Ang II/AT1 受容体系に相反する作用を示し, RAS 内に おいて拮抗的な役割を担っている.一方で,腎臓や血管,脳,肺,肝臓などには 循環 RAS とは独立し,局所で Ang II をはじめとする Ang 関連ペプチドを産生す る機構である組織 RAS が存在する.組織 RAS により局所で産生された Ang 関 連ペプチドはオートクリンあるいはパラクリン作用により近傍の細胞に働き,

臓器・組織の構造や機能の維持,疾患の進展に関与している.

我々はこれまでに脊髄における組織 RAS が疼痛伝達に関与することを報告 している.すなわち, ACE/Ang II/AT1 受容体系を介する p38 MAPK のリン酸化 が 脊 髄 疼 痛 伝 達 機 構 に お い て 促 進 的 な 役 割 を 示 し , こ の 系 の 活 性 化 が

streptozotocin (STZ) 誘発性 1 型糖尿病モデルマウスの糖尿病性神経障害性疼痛

の一因であることを明らかにしている (Mol Pharmacol, 2016, 90:205-213).一方 で,この神経障害性疼痛は Ang (1-7)/Mas 受容体系の活性化により抑制される (Eur J Pain, 2019, 23:739-749).これらの結果は,脊髄内 Ang 系が糖尿病性神経障 害性疼痛の調節において極めて重要な役割を果たすことを示している.しかし ながら, STZ は高血糖とは無関係に末梢神経を直接活性化することにより, 神経 障害性疼痛を誘発することが報告され (Mol Pharmacol, 2008, 73:995-1004; J Biol Chem, 2015, 290:15185-15196), STZ マウスが糖尿病性神経障害性疼痛の研究に適 した動物モデルでは無い可能性が示されている.加えて,糖尿病患者の約 90%

は 2 型糖尿病であり,2 型糖尿病に伴う神経障害性疼痛に脊髄内 Ang 系が関与 しているかは不明である.

そこで,2 型糖尿病モデルとしてよく知られているレプチン欠損 ob/ob マウ

(4)

スを用いて糖尿病性神経障害性疼痛における脊髄内 Ang 系の関与について行動 薬理学的および神経化学的な解析を行った.

まずはじめに, lean および ob/ob マウスの血糖値および痛覚過敏を 5-20 週齢 にかけて測定した.接触性および熱性刺激に対する痛覚過敏はそれぞれ,von Frey filament 法および Hargreaves 法により測定した. ob/ob マウスは, 5-15 週齢 において高血糖状態にあったが,その後は lean マウスと同程度まで血糖値が低 下した.一方,接触性および熱性痛覚過敏は,それぞれ 11-14 週齢および 9-15 週 齢において観察された.これらの結果より,接触性および熱性痛覚過敏は持続的 な高血糖状態に引き続いて発症し,血糖値が正常に戻るまで持続することが明 らかとなった.ob/ob マウスでは持続的な高血糖状態が,痛覚過敏発症のトリガ ーとなっている可能性が考えられるため,これを証明する目的で, 5-16 週齢の ob/ob マウスに中間型インスリン (s.c., b.i.d.) を投与し,血糖値を正常値レベル までコントロールした際の痛覚過敏を測定した.その結果,インスリンを投与し

ob/ob マウスでは,高血糖の改善に伴い接触性および熱性痛覚過敏の消失が認

められた.これらの結果より, ob/ob マウスで認められる痛覚過敏は,高血糖に 起因して発症する糖尿病性神経障害性疼痛であることが明らかとなった.

糖尿病性神経障害性疼痛発症下における脊髄内 Ang 系の変化を明らかにす るため,12 週齢の ob/ob マウスの脊髄背側部における Ang 系構成因子の発現量

を Western blot 法により解析した.その結果, ob/ob マウスの脊髄背側部細胞膜

上における ACE2 の発現量は顕著に減少しており,Mas 受容体の発現量につい ては減少傾向を示した.一方で, AGT , ACE および AT1 受容体の発現量に変化 は認められなかった.したがって, ob/ob マウスの脊髄背側部において ACE2/Ang

(1-7)/Mas 受容体系の機能低下が生じていることが明らかとなった.

ob/ob マウスの脊髄背側部において ACE2 の発現量が減少するメカニズムを

(5)

明らかにするため,免疫組織学的手法により脊髄後角における ACE2 の発現分 布を解析した.その結果,脊髄後角 (ラミナ I-III 層) において ACE2 は, neuronal nuclei (NeuN) 陽性神経細胞および ionized calcium binding adapter protein 1 (Iba-1) 陽性ミクログリアに発現し,glial fibrillary acidic protein (GFAP) 陽性アストロサ イトには発現していなかった.そこで次に,脊髄後角における神経細胞およびミ クログリア数の変化を解析したところ, ob/ob マウスの脊髄後角では lean マウス と比較して Iba-1 陽性ミクログリア数に変化は認められなかったものの, NeuN 陽性神経細胞数が有意に減少していた. ob/ob マウスにおける神経細胞数の減少

は, Western blot 法による NeuN 発現量の低下からも確認された.さらに, ob/ob

マウスの脊髄後角では ACE2 陽性神経細胞数が有意に減少していた.これらの

結果は, ob/ob マウスの脊髄後角で認められる ACE2 の発現量低下が神経細胞数

の減少に起因することを示唆している.

ACE2 の発現量低下による Ang (1-7) 産生系の機能低下が痛覚過敏の発現に 関与しているのか否かを探る目的で,ob/ob マウスの脊髄クモ膜下腔内 (i.t.) へ Ang (1-7) を投与し,痛覚過敏の変化を検討した.その結果, Ang (1-7) (3 pmol) は,lean マウスに影響を与えることなく,ob/ob マウスで認められる接触性およ び熱性痛覚過敏を有意に抑制した.また,この Ang (1-7) による抗痛覚過敏作用 は Mas 受容体拮抗薬 A779 (0.3 nmol) の i.t.同時投与によって完全に拮抗された.

尚, Ang (1-7) (3 pmol) および A779 (0.3 nmol) は, ob/ob マウスの血糖値には無 影響であった.

最後に, Ang (1-7) の抗痛覚過敏作用に対する脊髄内 p38 MAPK の関与を検

討した.p38 MAPK 阻害薬 SB203580 (1 nmol) を i.t.投与した後に痛覚過敏の変

化を測定したところ, SB203580 は血糖値に影響を与えることなく,接触性およ

び熱性痛覚過敏を有意に抑制した.加えて,ob/ob マウスの脊髄背側部において

(6)

認められる p38 MAPK のリン酸化は Ang (1-7) (3 pmol, i.t.) により有意に抑制さ れた.さらに,この Ang (1-7) による抑制作用は A779 (0.3 nmol, i.t.) により完全 に拮抗された.これら結果より, Ang (1-7) は Mas 受容体を介して ob/ob マウス の脊髄背側部における p38 MAPK のリン酸化を抑制し,その結果として抗痛覚 過敏作用を示すことが明らかとなった.

本研究成果を総括すると,2 型糖尿病マウスにおいて認められる神経障害性

疼痛には ACE2/Ang (1-7)/Mas 受容体系のダウンレギュレーションが関与してい

ることが明らかとなった (Fig. 1).このダウンレギュレーションは,脊髄後角に おける ACE2 陽性神経細胞の減少

により引き起こされると考えら れる.また, ACE2/Ang (1-7)/Mas 受容体系の活性化は痛覚過敏の 抑制に結びつく可能性が示され たことから, Ang (1-7) などの Mas 受容体アゴニストは 2 型糖尿病の 合併症である神経障害性疼痛に 対して効果的な治療薬となり得 ると考えられる.

主論文 (原著論文)

Yamagata R, Nemoto W, Nakagawasai O, Takahashi K, Tan-No K.

Downregulation of spinal angiotensin converting enzyme 2 is involved in neuropathic pain associated with type 2 diabetes mellitus in mice.

Biochem Pharmacol, 174:113825 (2020).

Fig. 1. Putative mechanism by which imbalance of spinal RAS contributes to diabetic neuropathic pain observed in ob/ob mice.

Fig.  1.  Putative  mechanism  by  which  imbalance  of  spinal  RAS  contributes  to  diabetic  neuropathic  pain  observed in ob/ob mice

参照

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