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博士(医学)太田 聡 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(医学)太田   聡 学位論文題名

変異体Crk II ― 23 によるNRK 細胞の

EGF, TGF‑ グ依存性トランスフオーメーションの抑制機構の解析 学 位 論 文 内 容 の 要旨

[ 目的]アダ プター・ 蛋白は様 々な細胞表面から受容体を介した細胞内への情報を伝 達 す る役 割 を担っ ている。v―Crkはニワ トりのレト ロウイル スCT10の癌遺 伝子産物 で あり、その 細胞内ホ モログが 、アダプ ター蛋白 として初 めに見い出された。Crk蛋 白 は様々な組 織で胎児 から成人 ですべて の臓器で 発現して いる。このことはCrk蛋白 は 細胞に不可 欠な蛋白 であるこ とを示唆 する。上 皮増殖因 子(Eく弭)とトランスフ オ ーミング増 殖因子(Tく弭―p) でトラン スフオー メション するNRK細胞に突然変異 源 を作用させ て、トラ ンスフオ ーメショ ン抵抗性 変異復帰 株NRK23細胞が得られた。

こ の 変異 復 帰株NRK23細 胞の解析 からアダ プター分子CrkIIをコード する遺伝 子に変 異 が 生じ て い るこ と が判 明 し た。 遺 伝 子変 異 の結 果 、CruI蛋白 の アミ ノ末端 側の SH3領 域に2カ所に アミノ酸 置換が生 じている(CrkII―23)。そこで本研究では、Crk 蛋 白の正常細 胞での役 割を明ら かにする 目的で、 野性型Crkuと 変異型CrkII−23の生 化学的違いを調べた。

[材料と方法]1.発現ベクター:野性型Crlm、変異型(:rkII−23、CrIdI‐23―R38V変 異 体とCrkII−23‐W169L変 異体にMyc夕 グのcDNAをcrkのcDNAのN末端に結合させた。

夕 グ を つ け たcDNAはpCAGGS発 現 ベ タ タ ー ま た は ネ オ マ イシ ン 耐 性遣 伝 子を も つ pCAGGS発現べ夕夕ーヽpCXN2にサブクローニングした。

2. 細 胞 : 人 のEGF受 容 体 を 発 現 し たNm3T3細 胞 系 とCOSl細 胞 を 、5%FBS添 加 DMEMに て培養を行 った。発 現ベクタ ーとp―cos−SV2hmB―pLをLipofectamineを用い Nm3T3細 胞 に トラ ン ス フェ ク トし 、 ハ イグ ロ マイ シ ンBで 選別 を 行い 、 数個独立 し た ク ロー ン を 分離 し 、Crk蛋 白 を同 等 量 発現して いるクロ ーンを実 験で使用 した。

3. 免疫沈降と 免疫ブロ ッテング :細胞を飢餓状態にしたのち、Eく弭で刺激した。細 胞 をTBS―Vbufferで2度洗 浄し、溶 解バッフ ァーで細 胞を溶解 した。同等量の蛋白を 免疫沈降と免疫ブロッテングに使用した。

4.EGF受 容体 と大腸菌 にて作成 したCrk蛋白 の結合:ラ ットのCrImとCrku‐23をGST 融 合 蛋白 と し て発 現 、精 製 し た。EGF刺 激前 後 のNm3T3細胞 を 溶解 バ ッフ ァーで溶 解 し 、GST−CrkHま たはGST‐CrkH‐23を加 え反応さ せた。GST融合 蛋白を回 収し、

SDS‐PAGE後 、 抗 EGF受 容 体 抗 体 に て ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ テ イ ン グ を 行 っ た 。 5.Crkの 脱リ ン 酸 化:MH3T3に 発 現さ せ たCrkII蛋 白を抗Crkモノ クローナ ル抗体に て 免 疫沈 降 し た。 こ の免 疫 複 合体 をPTPlBと反応さ せた。溶 解バッフ ァーで洗 浄し た 後、SDS‐PAGEし、 抗Crkモノク ローナル抗体にてウエスタンブロッテイングした。

6.コ ロ ニー アッセ イによる トランス フオーム能 の解析: 野性型ま たは変異 型のCrk を り ン酸 カ ル シウ ム 法に てNRK細胞 に ト ランスフ ェクトし た。トラ ンスフェ クトし たNRK細胞 をG418を 含む メ デイ ウ ム にて 培 養し、抗生 剤耐性に なったコ ロニーの う ちEGFとTGF‐p存在下でトランスフオーム能を検討した。

[ 結 果 ]1.EGF刺 激 下 に お けるCrkIIの チ ロシ ン リン 酸 化 :Nm3T3にてEGF刺激 後 42kDaのCI・kuが増加し 、リコン ピナント のプロテ インチロ シンフオスファターゼ、

GST‐PTPlBを 反応 さ せ ると42kDaのCrImは消 失した。 このことは 電気泳動 速度の遅

(2)

い 42 kDaの CrkHは チ ロ シ ン リ ン 酸 化 型 で あ る こ と を 示 唆 し て い る 2.C細 とCruI―23のEGF受 容 体 への 結 合:CrkII−23はNRK細胞に おいてEGFとTGF― p依存 性トラン スフオー メーショ ンを抑制することから、CrkuとCrkH―23のEく弭受容 体へ の結合に ついて調べた。Nm3T3、3T3−Myc‐Crku、と3T3‐Myc−CrkH―23細胞を用 い 、E( 預刺 激 前後 で 細 胞を 溶 解し 、 抗EGF受 容 体 抗体 で 免疫 沈 降 した 。野 性型の CrkIIは、EGF刺激依存性にEく弭受容体に結合する。対照的に、変異体であるCrku−23 は刺激前にも結合している。E(預刺激後には、野性型CrkIIと変異型CruI‐23は同等量 EGF受容体に結合した。、

3.加W鰤でのGST‐CdmとGST―CrkII−23のEGF受容体への結合:変異型CrkII―23がEGF 受 容 体に 静 止状 態 の 細胞 で 結 合す る 機構 を 明 らか に する た め に、mW鰤で の結合を 見 た 。GST―CrkIIとGST―Crku−23はEGF受 容 体に 同 等 量EGF刺 激後 に 結 合し た 。 MH3T3、3T3−Myc−Crkuと3T3‐Myc―CrkH―23細胞溶解液間の違いも見られなかった。

これ らの結果 は、真核生物におけるCrku‐23の翻訳後修飾が、静止期細胞でEく亜受容 体に対しての結合の違いの理由であることを示唆する。

4.CrkII‐23の変異体 解析:Crkn―23がNRK細胞の トランスフ オメーション抑制機構 にSH2ま たはSH3(N) 領域が必 須である かを調べた 。SH2またはSH3領域の結合能に必 須なアミノ酸を置換したCrldI‐23‐R38VまたはCrkII‐23―W169Lとぃう2つの変異体を 作成 し、この 変異体の 生物学的 活性を調べた。C水H−23とは対照的にCrkn・23‐R38V また はCrku―23‐W169Lと ぃう2つの 変異体は 、EGFとTGF−p存在 下でトランスフオー メーションを抑制できなかった。このことはCrkII−23のトランスフオーメ.ション抵抗 性 機 能に は 、SH2ま たSH3(N)領 域が必須 であるこ とを示し ている。 変異体のEGF受 容体 への結合 を調べた。CrldI―23―R38VとCrkII―23−W169LともにEGF刺激以前のEGF 受容体に結合した。

[考 察]NRK23細胞 は、CrkII蛋白 をコード する対立遺 伝子のう ちSH3(C)領域の1本 に変 異が入り 変異型Crku‐23をコード しもう1本は 野性型CrkHを コードしている。こ の た めにNRK23細 胞 は、EGFとTGF―p存 在 下で の ト ラン ス フオ ー メ ーシ ョ ンに抵抗 性と なった。 変異型CruI―23が機能消 失型ではなく機能獲得型の変異であることが以 下のことから考えられる。CrkII―23のSH3(C)領域が機能を失っているとするならば、

SH3(C) 領域を持 たず、NRK細 胞のトラ ンスフオー メーショ ン抑制す ることのできな いCrldとCrkII−23は 同等 の 機 能を 持 っと 考 えられる 。NRK23細胞とNRK細胞でCrku ま た は CrkII−23の 全 蛋 白 発 現 量 ま た はmRNA発 現 量 に も 違 い は な い 。   CrkIIとCrkII‐23の違いは、CrkII―23は静止期細胞でEく弭受容体に結合することであ る 。SH2ま た はSH3(N) 領域の変 異体を用 いた解析 によって 、この結 合はSH2または SH3(N)領域を介した結合ではなくSH3(C)領域を介したものであることが示唆された。

大腸菌で発現させたCrkuとCrkII―23を用い、この刺激前の結合の原因がEく弭受容体側 かCrk側の ど ちらに あるかを 面W加で調 べたが面 忻yDでの結 合の違い は見られな い。

静止 期細胞でCrku‐23がEく弭受容体に結合する機構は、他の蛋白との物理学的結合を 含 め 細 胞 内 で の 翻 訳 後 修 飾 が 調 節 し て い る の で は な い か と 思 わ れ る 。   アダ プター蛋 白の機能 の1っは、 細胞質の酵 素をチロ シンキナ ーゼ受容体のような 膜 に 局在 す る蛋 白近傍に 移動させ ることに ある。Crku−23がEGF刺激前 にEGF受容体 に 結 合し て いる ことは、Crku―23はCrkHの膜 移行かつ 活性化状 態を反映 していると を み なす こ とが で き る。NRK23細 胞 のEGFとT13F‐p存在 下でのト ランスフ オーメー ショ ン抑制にCrkH‐23のSH2またはSH3(N)領域が必要であることは、膜近傍に存在す るCrldI―23は活性化状態であることを支持する。

  多く の蛋白が、CrkuのSH2またはSH3(N)領域に結合するが、SH3(C)領域の機能に つ い ては ほ とん ど わ かっ て い ない 。SH2領 域 を介して 刺激後に 情報を下流 に伝える とさ れているEGF受容体の複合体に、SH3(C)領域に変異が入ったCrkn−23変異体が含 まれることを明らかにした。

[ 結 語 ]NRK細 胞 は 、 上 皮 増 殖 因 子 (EGF) と ト ラ ン ス フ オ ー ミ ン グ 増 殖 因 子

(TGF−p)で トラン スフオー メション する。ト ランスフ オーメシ ョン抵抗性 変異復 帰 株NRK23細 胞の 解 析か ら ア ダプ タ ー分 子CrImをコ ードする 遺伝子に 変異が生じ て い る こと が 判明 した。遺 伝子変異 の結果、CrkH蛋白のア ミノ末端 側のSH3領域に2カ 所に アミノ酸 置換が生 じている (CrkII―23)。そこで野性型CrkIIと変異型CrkH―23

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の生化学的違いを調べた結果以下の結果が得られた。

1)伽vivoで、野性型CrkIIと変異型CrkH−23は、EGF刺激後に同等にEGF受容体に結 合するが 、変異型CruI−23は静止期のNm3T3細胞でもEGF受容体に結合できた。

2)加Wロ.Dでは大腸菌にて作成したGSTーCrkIIとGST―Crku―23は、EGF刺激前後の Nm3T3細胞のEGF受容体に同等量結合し、而W加での結合能に違いは見られなかっ た。3)変異型CrkH−23のSH2またはSH3の機能消失変異体はCrkII―23のトランスフオメー シ ョ ン 抑 制 活 性 を 失 う が 、 静 止 期 細 胞 のEGF受 容 体 に 結 合 で き た 。 以上の結果より、継続的にCrku23がEGF受容体に結合することと、CrkH−23のSH2ま たはSH3を介した情報が伝達されることが、NRK23細胞でEGF、TGF―pによるトラ ン ス フ オ メ ー シ ョ ン を 抑 制 す る メ カ ニ ズ ム で あ る こ と 示 さ れ た 。

(4)

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    守 内 哲也 副 査    教 授    齋 藤 政樹 副 査    教 授    葛 巻    暹

     学位論文題名

     変異体 Crk II ―23 による NRK 細胞の     q  I

EGF, TGF‑ グ依存性トランスフオーメーションの抑制機構の解析

  アダプター蛋白は、細胞表面から様々な受容体を介した細胞内への情報を伝達する役割 を担っており、Crk蛋白は最初に見出されたアダプター蛋白である。そのほとんどの部分 がSrc homology2  (SH2)領 域及ぴSrc homology3 (SH3)領域からなり、それ自体は 酵素活性を持たなぃ。Crkは、そのSH2を介しりン酸化チロシンを合む分子に特異的に結 合することにより情報を受け取り、そのSH3を介してプロリンに富んだSH3結合領域を持 つSH3結合タンパタへと情報を伝えていく。Crk蛋白は増殖因子、細胞接着や、免疫抗原 刺激などさまざまな情報伝達に関わっていることが報告されている。近藤らは、上皮増殖 因子(EGF)とトランスフオメーション増殖因子(TGF‑p)でトランスフオーメションす るNRK細胞に突然変異源を作用させて、トランスフオーメション抵抗性変異株NRK23細胞 を得た。この変異株NRK23細胞ではCrkII蛋白のアミノ末端側のSH3領域に2カ所アミノ 酸置換が生じている(CrkIエ‑23)ことが知られている。そこで、野性型CrkIIと変異型 CrkII‑23の生化学的違いを調べた。

  はじめに、SH3 (N)を介してシグナルを伝えるC3G蛋白への結合を、COS細胞に一過性 に発現させたCrkエエまたは変異型CrkエI‑23蛋白を用いて免疫沈降法により調べた。その 結果、野性型Crkエエまたは変異型CrkエI‑23の問にC3Gへの結合の差はみられなかった。次 に、EGF受容体を発現しているNIH3T3細胞で野性型CrkIIまたは変異型Crkエェ‑23を過剰 発現させ、EGF受容体とCrk蛋白との結合をみた。その結果in vitroで、野性型CrkエI と変異型Crkエエ‐23は、EGF刺激後に同等にEGF受容体に結合するが、変異型CrkII‑23は 静止期のNエH3T3細胞でもEGF受容体に結合できた。変異型CrkII‑23のSH2またはSH3の 機能消失変異体を発現することのできるべクターをNRK細胞にトランスフェタションし、

EGFおよびTGF‑ロ依存性トランスフオーメーションを抑制できるかを調べた。しかしこれ

(5)

らの変異体はEGF およびTGF‑ ロ依存性トランスフオーメーションを抑制できなかった。こ のことは変異体CrkII −23 は機能消失型の変異体ではなく、むしろ機能獲得型の変異体で あることを示唆している。また変異型Crk エェ―23 のSH2 またはSH3 (N) の機能消失変異体 を過剰発現させた細胞を作成してEGF 受容体への結合をみた。その結果、変異体は静止期 細胞のEGF 受容体に結合できることが示された。変異体CRK エエ―23 のこれらの結果から、

継続的にCrk エエ−23 がEGF 受容体に結合すること、韜よびCrk エエ‑23 のSH2 またはSH3 を介 した情報が伝達されることが、NRK23 細胞でEGF およびTGF‑p によるトランスフオメーシ ヨンを抑制するメカニズムであることが示された。

   以上のことから、正常NRK 細胞では、 EGF 刺激が入った後にRas を介するシグナルが大 量に伝わるために細胞増殖およびトランスフオメーションに向かう。しかし、NRK23 細胞 では、恒常的にCrk エエ‑23 が細胞膜近傍に存在するためにC3G 一Rapl を介したシグナルが 恒常的入っており、Ras を介するシグナルを抑制できるという予測モデルを提示した。

   発表後、葛巻教授より野性型 CrkI エと変異型CrkII‑23 の結合様式の違いに関して、

NRK 細胞の性質についておよび癌化抑制のメカニズムについての質問がなされた。次いで 斉藤政樹教授より、Crk 蛋白とcell cycle との関連性について、癌抑制シグナルの様式 についておよび膜移行蛋白についての考え方について質問がなされた。最後に守内教授 より、癌化と癌抑制へのCrk 蛋白の関与について、Crk エとCrkII の違いについて、Crk エエ のC 末端のSH3 の役割についておよび今後のCrk 蛋白の研究における課題についての質問 がなされた。発表者はいずれの質問に対しても豊宮な知識に基づぃて明解に回答した。

   さらに、本研究で用いた実験系から細胞の癌化とその抑制に関する分子生物学的知見が 得られると期待される。

   審査員一同はこれらの、 Crk の EGF 韜よびTGF‑p 依存性トランスフオーメーションの

抑 制機 構の 解析 を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資

格を有するものと判定した。

参照

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