博士(農学)渡辺賢二 学位論文題名
マクロフォミン酸合成酵素の発見および その性質と反応機構
学位論文内容の要旨
露草Commelina communisの葉の病班から単離された糸状菌Macrophoma commelinae (IF0 9570) は、 様々な2‐ ピ口ン誘導 体を生成 することが知られている。本菌培養液から安息香酸誘導体で あるマク口フォミン酸【4―acetyl‑3―methoxy―5‑methylbenzoic acid (1)]が単離された。その後5− acetyl‑4‑methoxy−6−methyl‑2‑pyrone (2)と未同定のC3単位前駆体が縮合することで1に変換さ れ る こと が 明ら か と なっ た 。基 質2の 各 種同 位 体標 識 化 合物 を 用いた 研究で2の2位の炭素 が 脱 炭 酸さ れ 、他 の 炭 素骨 格 はす べ て1に移 行するこ とが明ら かにされて いた。そ れに伴い1の 1位 、6位 、11位 にC3単 位 前駆 体 が 導入 さ れ るこ と を予 測 し たが 、 本反 応 に おけ る このC3単 位 前 駆体 は 未同 定 の まま で あっ た 。 また2ー ピ 口ン2か ら1へ の 変換反応 において は、C3単位 前 駆 体とピ口 ン骨格か ら少なく とも2回の 炭素炭素 結合形成 、脱炭酸を 経由しな ければな らな いた め多段階 の反応が関 与すると 考えられ る。これ まで複数 の反応を 触媒する酵素が分離精製 され てぃる例 は少なく、 既知の酵 素反応か ら反応経 路を推定 するのは 困難であった。本研究で は 、 この 新 規芳 香 環 形成 反 応に お けるC3単 位前駆体 の決定、 これを触媒 する酵素 の精製、 お よびその反応機構を解明することを目的とし研究を行った。
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1)マ ク口フォ ミン酸合 成酵素の 反応
糸状 菌M. commelinaeの無 細胞抽出 液に2−ピ 口ン2から安 息香酸誘 導体1を生 成する酵 素活 性を 見いだし 、得られ た条件で 調製したM. commelinaeの無細胞 抽出液を用い、C3単位前駆体 の候 補化合物 を調べた 結果オキ ザ口酢酸 と決定し た。
2)マク口 フォミン 酸合成酵 素の精製 および諸 性質
2−ピ口ン2から1への 変換反応 は、単一 のタンパク質によって触媒されることを明らかにし、
酵素 を 精 製し 、 その 性 質 を明 ら か にした。精 製酵素はSDS―PAGEにおい て分子量 約40,000の 位置に単 一パンド を示し、 ゲル濾過 により分 子量約90。OOOで あると算出され、等電点は5.3と 確認 さ れ た。 マ ク口 フ ォ ミン 酸 合 成酵素はMg (n)を 固く結合 しており 、ピルピ ン酸も弱 い基 質となっ た。
3)マク口フォミン酸合成酵素の基質認識の多様性
マク口フォミン酸合成酵素は多くの類縁化合物を基質とする。活性には2‐ピロン骨格を必要 とし、3位に置換基を有するものは全く変換されず、4、5あるいは6位置換体をある程度許容 する空間的余地があることが明らかになった。さらに6位置換体に関しては置換基が小さくな るほど変換率が増大した。4あるいは5位置換体に関してはかなり基質特異性が低く、4位置換 基としてはアルキル基、ハ.ロゲンあるいはアルコキシ基のものが、5位置換基としてはハ口ゲ ンまたはアシル基のものが対応する芳香族化合物に変換された。しかし水酸基やカルボキシル 基のような極性の官能基があるものは全く変換が起こらなかった。
4)マクロフォミン酸合成酵素cDNAの単離と塩基配列の決定および大腸菌における大量発現系 の構築
精製マク口フォミン酸合成酵素のN末端、部分アミノ酸配列からマク口フォミン酸合成酵素 に特異的なプ口ーブを合成しM. commelinae菌体から作製したcDNAライブラリーのスクリー ニングを行った。その結果、完全長と考えられるク口ーンを得た。マク口フォミン酸合成酵素 cDNAは内部に339アミノ酸をコードするORFを含み、予想されるタンバク質の分子量は36,244 と計算された。さらにアミノ酸配列およびそれをコードするcDNAは、相同性の検索で既知の タンパク質および塩基配列から類似したものを指定できなかった。またマク口フォミン酸合成 酵素の大量調製を図る目的で大腸菌を宿主とした発現系を構築した。大腸菌抽出液からは一段 階のカラムク口マトグラフイーで精製された。精製された酵素のSDS‑PAGEにおける移動度お よび酵素化学的諸性質は、M. commelinaeから精製した酵素とほぼ同一であった。したがって、
大 腸 菌 を 宿 主 と し た 発 現 系 に よ り 本 酵 素 を 大 量 に 調 製 す る こ と が 可 能 と な っ た 。 5)マク口フオミン酸合成酵素の反応機構
マク口フォミン酸合成酵素にオキザ口酢酸のみを反応させた場合、オキザ口酢酸脱炭酸活性 を示した。したがって、本酵素が触媒する多段階の反応における1番目の反応はオキザ口酢酸 の脱炭酸であることが明らかとなった。ただし本酵素が触媒する次の反応は炭素炭素結合形成 反応と予想されることから、2―ピロン2に付加する直前の生成物は反応性の高いピルピン酸エ ノラートであると考えられた。マクロフォミン酸合成酵素の基質認識の多様性を調べる過程で オキザ口酢酸とクマリン酸メチル3を酵素反応させたところ、予想された安息香酸誘導体4で はなく炭素炭素結合形成が生じた後、本来の脱離反応が進行していない環化生成物5が得られ た。環化生成物5の絶対配置から1番目の反応で生じたエノラートは、図示したようにピ口ン 環の上側から接近し炭素炭素結合形成反応する。このことから、マク口フォミン酸合成酵素の 3番目の反応は予想中間体6からの脱炭酸、脱水反応であると推定され、以上5段階の酵素反 応の概要を明らかにすることができた。
4
ヘノ丶C02.
O
02CH3 − → H
3
C02 5
C02CH3
02C ` C02 0
V
‑z‑!
3 C
6
―H20
−C02 1
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
本 問 守 田 原 哲 士 及 川 英 秋 伊 藤 浩 之
学 位 論 文 題 名
マクロフォミン酸合成酵素の発見および その性質と反 応機構
本 論 文 は 序 論 と 結 論 を 含 め て7章 で 構 成 さ れ 、 図40、 表7、 引 用 文 献86を 含 む83頁 の 邦 文 で あ る 。 別 に 参 考 文 献5編 が 添 え ら れ て い る 。
露草Commelina communisの 葉の 病 班 から 単 離 され た 糸 状菌Macrophoma commelinae (IF0 9570) は 、 様 々 な2− ピ 口 ン 誘 導 体 を生 成 す る こと が 知 られ て い る。 本 菌 培養 液 か ら安 息 香 酸誘 導 体 で あ る マク ロ フ ォミ ン 酸4‑acetyl‑3‑methoxy‑5‑methylbenzoic acid (1)1が 単離さ れた。そ の後5‐ acetyl‑4‑methoxy‑6‑methyl‑2‑pyrone (2)と未 同 定 のC3単 位 前駆 体 が 縮合 す る こと で1に変 換 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た2― ピ ロ ン2か ら1へ の 変 換 反 応 に お い て は 、C3単 位 前 駆 体 と ピ ロ ン 骨 格 か ら 少 な く と も2回 の 炭 素 炭 素 結 合 形 成 、 脱 炭 酸 を 経 由 し な け れ ぱ な らな い た め 多 段 階 の 反 応 が 関 与 す る と 考 え ら れ る 。 本 論 文 で は 、 こ の 新 規 芳 香 環 形 成 反 応 に お け るC3単 位 前 駆 体 の 決 定 、 こ れ を 触 媒 す る 酵 素 の 精 製 、 お よ び そ の反 応 機 構の 解 明 を目 的 と して い る 。
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1) マ ク ロ フ ォ ミ ン 酸 合 成 酵 素 の 反 応
糸 状 菌M. commelinaeの 無 細 胞 抽 出 液 に2− ピ ロ ン2か ら 安 息 香 酸 誘 導 体1を 生 成 す る 酵素 活 性 を 見 い だ し 、 得 ら れ た 条 件 で 調 製 し たM. commelinaeの無 細 胞 抽出 液 を 用い 、C3単 位 前 駆 体 の 候 補 化 合 物 を 調 べ た 結 果 オ キ ザ ロ 酢 酸 と 決 定 し た 。
2) マ ク ロ フ ォ ミ ン 酸 合 成 酵 素 の 精 製 お よ び 諸 性 質
2‐ ピ ロ ン2か ら1へ の変 換 反 応 は、 単 一 のタ ン パ ク質 に よ って 触 媒 され る こ とを 明 ら か にし 、 酵 素 を 精 製 し 、 そ の 性 質 を 明 ら か に し た 。 マ ク 口 フ ォ ミン 酸 合 成酵 素(Mr 90,000、2量 体 )は
Mg(H)を固く結合しており、ピルピン酸も弱い基質となった。
3)マクロフォミン酸合成酵素の基質認識の多様性
マ クロフォミン酸合成酵素は多くの類縁化合物を基質とする。活性には2.ピロン骨格を必要 と し、3位に 置換基を 有するも のは全く変換されず、4、5あるいは6位置換体をある程度許容す る 空間的余地があることが明らかになった。6位置換体に関しては置換基が小さくなるほど変換 率 が増大し た。4ある いは5位置 換体に関 してはかな り基質特 異性が低く、4位置換基としては ア ルキル基、ハロゲンあるいはアルコキシ基のものが、5位置換基としてはハロゲンまたはアシ ル基のものが対応する芳香族化合物に変換された。しかし水酸基やカルボキシル基のような極性 の官能基があるものは全く変換が起こらなかった。
4)マク ロフォミ ン酸合成 酵素cDNAの単 離と塩基 配列の決定および大腸菌における大量発現系 の構築
精製酵 素のN末端 、部分ア ミノ酸配 列からマ クロフォミ ン酸合成酵素に特異的なプ口ーブを 合成しM.commelinae菌体から 作成したcDNAライブラ リーのス クリーニン グを行っ た。その結 果、マクロフォミン酸合成酵素残基をコードするクローンを得た。またマクロフォミン酸合成酵 素の大 量調製を 図る目的 で大腸菌を宿主とした発現系を構築した。精製された酵素のSDS‑PAGE における移動度および酵素化学的諸性質は、M. commelinaeから精製した酵素とほば同一であっ た。
5)マクロフォミン酸合成酵素の反応機構
マクロフォミン酸合成酵素は、オキザロ酢酸脱炭酸活性を示した。したがって、本酵素が触媒 する多段階の反応における1番目の反応はオキザ口酢酸の脱炭酸であることが明らかとなった。
マクロフォミン酸合成酵素の基質認識の多様性を調べる過程でオキザロ酢酸とクマリン酸メチル 3を酵素反応させたところ、予想された安息香酸誘導体4ではなく炭素炭素結合形成が生じた後、
本来の脱 離反応が 進行して いなぃ環 化生成物5が得られた。環化生成物5の絶対配置から1番目 の反応で生じたエノラートは、図示したようにピロン環の上側から接近し炭素炭素結合を形成す る。この ことから 、中間体6の脱炭酸、脱水反応を含む5段階の酵素反応の概要を明らかにする ことができた。
2CH3
‑ ← X―
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3 5
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‑ H20 一―――_ト1 ‑ C02
以上の成果は、新しい種類の芳香環合成酵素を発見し特性と反応機構を明らかにしたもので学 術的に高く評価され、特に、重要な代謝中問体オキザ口酢酸の脱炭酸酵素としての特性は植物や 微生物による二次代謝産物生合成の理解に応用されるものと考えられる。よって審査員一同は、
渡 辺 賢 二 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め る 。