博 士 ( 農 学 ) 福 田 健 二
学 位 論 文 題 名
放線 菌StrePt071/lyces sp .No . 35 の生産する グ ‑Glucosidase ア イ ソ ザ イ ム の 構 造 と 機 能
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
D‐グルコシダーゼ(p‑D‑glucoside glucohydrolase,EC 3.2.1.21)は、p‐グルコシ聯古合を有 する基質を 非還元末端側から加水分解し、p_グルコースを遊離するエキソ型酵素である。微生 物・ 植物 ・動 物に 普遍 的に 存在レ、セ ルロース・配糖体・細胞膜の糖脂質などの代謝に関与す る重 要な 糖質 加水 分解 酵素 のーつであ る。特に、セルロースは年間1,000億トン以上も生産さ れる 有望 な糖 質資 源と して 注目されて いる。その分解において最終的にグルコースに導く酵素 はp‑グル コシ ダー ゼで ある 。高 濃度 の生 成物 ( グル コ― ス) 存在 下で も阻 害を 受けず、基質 に作用する 酵素はセルロース利用を促進させる上で重要である。Streptomyces sp. No. 35は高 グル コー ス濃 度で 阻害 を受 けに くい 酵素 生産 株 とし て取 得さ れた 。本 菌は3種のp‐グルコシ ダ ー ゼ(Fi`F2. F3と 略 称 ) を 産 し 、F3は グ ルコ ース(0.1M濃 度 )に より 活性 が上 昇す るこ と が 見 い 出 さ れ た 。Fiは 通 常 のp‐ グ ル コ シ ダ ― ゼ と 同 様 に グ ル コ ー ス で 阻 害 さ れ る 。 本 研究 は、F3が 示す 特徴 的な 現象 の機 構究 明 を目 的と した 。FiとF3の基 質へ の作用を詳細 に解 析比 較し た結 果、F3が グル コー スに よる 活 性化 だけ でな く、 基質 の種 類に より負の協同 性( 基質 濃度 の上 昇に 伴う 活性 化) を示 した 。F3は 反応 中に 大き な構 造変 化を 生じる履歴酵 素(hysteretic enzyme、ア ロステリッ ク酵素の一種)の性質を与え、報告例が極めて少ない単 量体 アロ ステ リッ ク酵 素で あると考え られた。F3遺伝子のクローニングと大腸菌での発現に成 功 レ 、 ポ ケ ッ ト 状の 活性 中心 入り 口 に存 在す るMet‑356変 異酵 素 の作 製を 行い 、F3の示 す協 同性に対し解析を行った。
(1)p‐グルコシダーゼF1およびF3の諸性質の比較
菌 体破 砕液 か らFiとF3の精 製を 行い 、電 気泳 動的 に単 一な 酵素 標品 を 得た 。両者は分子量 51,000の 単量 体酵 素で ある が、pHや 温度 に 対す る至適値や安定領域に相違 が認められた。基 質(アリルp.グルコシド、p‐クン レコ二糖類、ラミナリオリゴ糖)に対する特異性も異なり、
N末 端(F1,AVEGLPADFV; F3,ADTSFPPGFV)や 内 部 ア ミ ノ 酸 配 列 も 完 全 に は 一 致 し な か った 。従 って 、 両酵 素は 性質や構造の異なるアイソザイムであり、遺伝子は ゲノム上で別個の 部位 に存 在す る こと が判 明した。また、Fiは通常酵素に見られるミカエリス ーメンテン型の作
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用 様 式 で 基 質を 分解 し、0.1Mグル コ― ス共 存下 で活 性が 阻 害さ れた 。F3は約1.2倍に 活 陸化 され、基質(アリルp‐グルコシド、セロビオ―ス、ラミナリービオース、‐トリオース、.テト ラオ ース )に 対し 負 の協 同性 を示 した 。さ らに 、F3には 履歴 酵素 の性 質( 反応初期に遅い構 造変 化に 起因 する 数 秒から数十秒の立ち上がりや 立ち遅れを与える)が見い出され、基質やグ ルコ ース 分子 によ り 構造 変化 を生 じる 単畳 体ア ロステリック酵素と考えられ た。なお、3酵素 は菌体内のプロテアーゼにより限定消 化を受けることが観察された。
(2)p−グルコシダ―ゼF3遺伝子の解析および大腸菌での発現
ゲ ノ ムDNAか らF3遺 伝 子 の ク ロ ー ニ ン グ を 行 っ た 。ORFの 全 長 は1458 bpで あ り 、485 ア ミノ 酸を コ ード して いた 。本 酵素 はN末 端の13ア ミノ 酸残 基を 欠い てお り、 Ala‑14からの 配 列で あっ た 。欠 落し た13アミ ノ酸 残基 は、 その 特徴 から シグ ナル 配 列で はないと予想され た 。 ORF51上 流に は糖 の輸送夕ンパクとセロ‐ビオ―ス宀トリオース結合 夕ンパクと予測され るORFが‑3| 下 流 に はlacLフ ァ ミ リ ー の 転写 帯啣 夕 ンパ クと 相同 性の 高いORFが 存在 した 。 こ れ らORFの 転写 方向 は すべ て同 じで あり 、プ 口モ ータ ー様 配列 がな いた めシ ス ト口 ンを 形 成する と推定された。従って、F3は菌体内に取り込まれたセ口 ―ビオースや‐トリオースの分解 に 関与 する こ とが 示唆 された。F3のアミノ酸配歹IJと最も保存性が高く(43%)、立体構造既 知であ るBacillus circulansB−グ ルコシダーゼの情報を利用してホモ口ジーモデリングを行い、
( 彫a)8バ レ ル 構 造 お よ びgreekkeymo斑 ( ル ー プCに 相 当 す るSer‐3nか ら心p‐361の50残 基 の 領 域 、 基 質 分 子 の 取 り 込 み に 伴 い 倒 れ込 んで 活性 部位 を覆 う) の存 在カ 咏 唆さ れた 。 心a‐14をN末 端 と す る 遺 伝 子 発 現 プ ラ ス ミド を構 築し 、大 腸菌 に導 入し た。 誘 導発 現を 行 い 、 培 養 液1L当 た り44mgの 酵 素 量 ( 本 放 線 菌 の22倍 ) を 得 た 。 電 気 泳 動 的 に 単 一 に 精 製 し た組 換え 酵 素は 、放 線菌 酵素 と比 較し て僅 かにpHと 温度 安定 性が 低 下し たが、他の性質は 一致し た。グルコース活性化や負の協同性が観察された。
(3) Glu‑178変 異 酵 素 、Glu‑385変 異 酵 素 お よ び Met‑356変 異 酵 素 の 性 質 相 同酵 素 の立 体構 造や阻害剤 の実験結果から、F3の一般酸塩基触媒残基および求核触 媒残基 は 、 Glu‑178お よ びGlu‑385と 予 想 さ れ た 。 確 認 の た め 、 そ れ ぞ れ をGlnあ る いはAlaに置 換し た変 異 酵素 を作 製・ 精製 した 。Glu‑178‑Gln/Alaは野生型酵素の1/103、Glu‑385‑Gln〃抛 は1/105の 残存 活性 とな り、Glu‐178とGlu‐385が触媒残基と推定した。ホモロジーモ デリン グ に よ りF3の 活 性 部 位 入 り 口 に 位 置 し 、 倒 れ 込 ん だ ル ー プCと の 相 互 作 用 が 予 想 さ れ る Mbt‐356を 、Ile、Gk、Glu、Lys、Phcお よびGり に 置換 した 酵素 を作 成し た。 各変 異酵 素を 精製 し、 種 々の 基質 に対する反 応パラメ一夕一を測定した。また、協同性を示すものに ついて は 、Hm係 数 を 求 め た 。GluヽLysお よ びGly置 換 酵 素 は 各 基 質 に 対 す る反 応効 率が 野生 型酵 素の1/10 以下 に低 下レ、Met‐356が酵素活性発現について重要な機能を示すことが明 らかに なっ た。Met−356‐nリGm膚heに 対す る 解析 の結 果、Met‐356がサブサイト3および4に おける 親和 カに 影 響を 与え ていること が認められた。また、負の協同性の度合いが増減し、Met―356
がア口ステリック作用に関与することが示唆された。以上の結果から、基質やグルコース分子 によって引き起こされる大きな構造変化(ループCの倒れ込みと想像される)が活性部位入 ル 口 近 傍 に 発 生 し 、 ア ロ ス テ リ ッ ク 現 象 が 生 じ る 作 用 機 構 を 提 唱 し た 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 木村淳夫 副査 教授 内藤 哲
副査 教授 米山道男(留学生センター)
副 査 助 教 授 森 春 英
学 位 論 文 題 名
放 線 菌 StrePt07nyces sp. No . 35 の 生 産 す る グ ・ Glucosidase ア イ ソ ザ イ ム の 構 造 と 機 能
本 論 文 は 、7章 か ら な り 、 図93.表22.文 献266を 含 む 総 頁 数235の 日 本 語 論 文で あ り 、 別に参考論文2編が付されている。
p‐グルコシダーゼ(p ‑D‑glucoside glucohydrolase,EC 3.2.1.21)は、p‐グルコシド結合を有 す る基質を 非還元 末端から 分解し 、p‐ グルコ―スを与えるエキソ型酵素である。生物界に普遍 的 に存在し 、セル ロース・ 配糖体 ・細胞膜 の糖脂質 などの 代謝に関 与する重要な糖質加水分解 酵 素のーつ である 。特に、 セルロ ースは年 間1,000億 トン以上 も生産される有望な糖質資源あ り 、そ の分解に おいて 最終的に グルコ ースに導 く酵素 はp‐ グルコシ ダーゼ である。 高濃度 の 生 成物(グ ルコー ス)存在下でも阻害を受けず基質に作用する酵素は、`セルロース利用を促進 さ せる上で 重要で ある。Streptomyces sp. No. 35は高グルコース濃度で阻害を受けにくい酵素 生 産 株 とし て 取 得さ れ た 。本 菌は3種のp.グ ルコシ ダーゼ(Fi`F2丶F3と 略称)を 産し、F3 lま グ ルコ ー ス(0.1M濃 度 ) によ り活性が 上昇する 。Fiは通 常酵素と 同様に グルコー スで阻 害 さ れ る 。本 研 究 の主 な 目 的は 、F3が 示す特徴 的な現 象(グル コース活 性化や 基質に対 する負 の協同性)の機購究明である。
1.p− グルコ シダーゼFiおよびF3の諸性質 の比較
菌体 破 砕 液か らFiとF3の精 製 を 行 った 。 両 者は 分 子量51,000の単量体 酵素であ るが、pH や温 度に対す る至適 値や安定 領域に 相違が認 められ た。基質 に対する 特異性 も異なり 、N末端 や内 部アミノ 酸配列も一致しなかった。従って、両酵素;ま性質や構造の異なるアイソザイムで あ り 、遺 伝 子 はゲ ノ ム 上で 別の 部位に存 在するこ とが判 明した。F1は通常 酵素と同 様にミ カ エ リ ス― メ ン テン 型 の 様式 で基 質を分解 し、0.1Mグ ルコース 共存下 で活性が 阻害され た。F3 は 約1.2倍 に活 性 化 され 、8種 の基質 に対し負 の協同 性を示し た。さ らに、F3に は履歴 酵素の
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性質が 見い出さ れ、基 質やグル コ―ス 分子によ り構造 変化を生 じる単量体アロステリック酵素 と考え られた。 なお、3酵素 は菌体 内プロテ アーゼにより限定消化を受けることが観察された。
2.p‐グルコシダーゼF3遺伝子の解析および大腸菌での発現
ゲ ノ ムDNAか らF3遺 伝 子 を ク ロ ー ニ ン グ し た 。ORFの 全 長 は1458 bpで あ り 、485ア ミ ノ酸 を コ ード レ て いた 。 本 酵素 はN末 端の13アミ ノ 酸 残基 を 欠い ており 、Ala‑14からの 配列 であ っ た 。欠 落 し た13ア ミノ 酸 残 基はシ グナル配 列では ないと考 えられ た。ORF5|上 流に糖 の輸 送 蛋白 とセロ _ビオー ス宀トリ オース 結合蛋白 と予測 されるORFが、31下流にlacLフ ァミ リー の 転 写制 御 蛋 白と 相 同 性の 高 いORFが 存 在レ 、 オ ペロ ン を形 成する と推定さ れた。従 っ て、F3は菌 体内に 取り込まれたセロ‐ビオースや‐トリオースを分解することが示唆された。F3 のアミノ酸配列と最も保存性カヽロく、立体構造既知であるBacillus circulansp―グルコシダーゼ の情 報 を利 用して ホモロジ ーモデリ ングを 行い、( 即a)8バレル構 造およ びgreekkeym0丗( ル ープCに 相当 す るSer‐311か ら 心p.361の 領 域、 基 質 分子 の 取り 込みに 伴い倒れ 込んで 活性 部位を覆 う)の 存在が示 唆され た。遺伝 子発現プ ラスミ ドを構築 後、大 腸菌に導入し、発現に 成功 し た 。精 製 し た組 換 え 酵素 は 、放 線菌酵素 と比較 して僅か にpHと温 度安定性 が低下し た が 、 他 の 性 質 は 一 致 し た 。 グ ル コ ー ス 活 性 化 や 負 の 協 同 性 が 観 察 さ れ た 。
3.Glu‑178変異酵素、Glu‑385変異酵素およびMet‑356変異酵素の性質
相同 酵素の立 体構造や 阻害剤 の実験結 果から 、F3の一般 酸塩基 触媒残基および求核触媒残基 は 、Glu‑178お よ びGlu‑385と 予 想 さ れ た た め 、 そ れぞ れ をGlnあ るい はAlaに 置 換し た 変 異 酵素 を 作 製し 、 Glu‑178とGlu‑385カ 激 媒残 基 と 推定 レ た。 ホモロジ ーモデ リングに より F3の 活 性 部位 入 ル ロ に位 置 し 、倒 れ 込 んだ ル ー プCと の 相互 作 用 が予 想 さ れ るMet‑356を、
Ile、Gln、Glu、Lys、Pheお よ びGlyに置換 した酵素 を作製 し、種々 の基質に 対する 反応パラ メ ー タ ー やHill係 数 を 求 めた 。Glu、Lysお よ びGly置 換酵 素 の 反応 効 率 は大 き く 低下 し 、 Met‑356カ・重要な機能を幸争つことが明らかになったo Met‑356‑Ile/Gln/Pheに対する解析の結果、
Met‑356がサブサ イト3および4にお ける親和 カに影 響を与え ている ことが認 められ た。また 、 負の協 同性の 度合いが 増減し 、 Met‑356がア 口ステリ ック作 用に関与 することが示唆された。
以 上の 結果か ら、基質 やグル コース分 子によっ て弓| き起こさ れる大 きな構造 変化( ループC の 倒れ 込 み と想 像 さ れ る) が 活性 部位入り 口近傍 に発生し 、アロ ステリッ ク現象が 生じる 作 用機構を提唱した。
以上の ように本 研究は 、Streptomyces sp. No. 35が産す る2種 のp‐ グルコ シダーゼ(F1と F3)、 特にF3の 反応 機 構 、一 次 構 造、 触 媒 アミ ノ酸 残基の 推定を行 ったも のであり 、報告例 が極め て少ない 単量体ア ロステ リック酵 素の作 用機作を 考える上で学術的に貴重な基礎的知見 を提供 している 。よって 審査員 一同は、 福田健 二が博士 (農学)の学位を受けるに十分な資格 を有す るものと 認めた。
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