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博士(農学)渡部敏裕 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)渡部敏裕 学位論文題名

植物の強酸性土壌に対する適応機構の解析 学位論文内容の要旨

  食糧生産からみて世界に分布する不良土壌の中で最も重要なもののーっが酸陸土壌である。

酸性土壌では低pHだけではなく、低pHが引き起こす二次的な要因、特にアルミニウム(AI) 過剰毒性により多くの作物種は正常に生育することができない。食糧生産のために酸陸土壌 を有効に利用することを目的として、植物の耐酸性機構についてこれまでに様々な研究がな されてきたが、未だ決定的な結果は得られていない。一方、強酸陸土壌であってもほとんど の場合不毛ではなく、多くの野生植物種が自生している。これらの種は強酸性土壌に対する 何らかの適応機構を獲得していると考えられるが、その適応機構については不明な点が多い。

そこで本研究は、強酸性土壌に生育する各種植物の生育特性とAl過剰に対する適応機構を明 らか に す るこ と を目 的 と して 実 施し た。 得られた 結果の概 要は下記 の通りであ る。

1.強酸性土壌に適応した植物の生育特性

  1)強酸性土壌に適応した植物種は、Al耐性が非常に強いだけではをく、その多くはA1に よって生育が促進され、培地にAlが溶存しない場合には生育が障害を受けた。また、生育が 促進されない植物であってもAl耐性は強かった。

  2)土壌酸陸により硝酸化成作用が阻害されるため、強酸性土壌における有効態窒素はアン モニウム態窒素が主体である。強酸性土壌に適応した植物では硝酸態窒素よルァンモニウム 態窒素を窒素源とした場合に生育および窒素吸収が良好であり、アンモニウム態窒素の吸収 による根圏pHの低下は培地の溶存AlおよびP濃度を上昇させ、これらの植物の生育に対して 有益な効果を与えた。

  3)酸性土壌ではしばしば塩基が不足し、さらにAlによってCaとMgの吸収が拮抗的に阻 害される植物が多いが、強酸性土壌に適応した植物種はAlによってCaやMgの吸収が阻害さ れない特性、あるいは低の含有率耐性や低Mg含有率耐性が強い特性を持つことを明らかに した。

  4)通常、低pH自身も強酸性土壌での植物の生育を制限する要因であるが、強酸性土壌に 適応し た植物種 のほとんどは、3.5とぃう極めて低いpHでも生育は影響されなかった。

  5)Al排除植物であるメラルーカ(Melaleuca campM灯)の根は強カなAl排除能を持っが、

これに根からのクエン酸放出が関わっていることが示された。Acロc血mロngmmの根では、高 濃度の培地AIにより何らかのAlキレート物質の放出が誘導され、Al排除に貢献していると考 えられた。Al排除植物におけるAl排除能は、培地のAl濃度が極めて高い場合のAl耐性機構 のーっとして機能していると理解された。

(2)

2.   Alによる生育促進機構の解析   1)Alによ る養分吸収の促進

    (1)一 般に、Alによる生育の促進は低pH条件におけるH゛毒性をAlが軽減することが原因 であ ると 考え られ てい るが、本研究で 供試した強酸性土壌に適応した植物種の多くは低pH耐 性が極めて強く、H゛毒性の軽減だけではAlによる生育促進機構を説 明することはできなかっ た。

    (2) Alに よる 生育 の 促進 は、Al排 除植 物、 集積植物ともに、Alによる葉のN、PおよびK 含有 率の 上昇 と密 接に 関連しており、Alと養分元素が培地に共存しない場合には、Alによる 生育 促進 の程 度が はる かに小さくなる 、あるいは全く生育が促進されなかった。メラストー マ(Melastoma malabathricum)の 切断 根にAl前 処理 を 行い 、P吸収 を調 査し たところ、能動 的P吸 収能 がAl前処 理に より 著し く上 昇し た。 さら に、能動的養分吸収に対するエネルギー 供給 能を 反映 する 根の 活性もAl処理に より上昇した。これらの結果から、強酸性土壌に適応 した 植物 種のAlに よる 生 育促 進に 養分 吸収 能の 活性化に起因するN、P、Kなどの吸収増加が 重要な要因として関与すると考えられた 。

  (3)強酸 性土壌に生育する植物の根では培地にAlが溶存しない場 合に原形質膜機能が低下 し、 細胞 が障 害を 受け るためにりグニ ン沈積量が増加すると理解された。このりグニン沈積 量の 増加 は細 胞の 伸長 阻害の原因とな り、その結果、細根の減少や褐色を呈するなどの形態 的な障害が引き起こされると考えられた 。

  2) Al集積植物におけるAl独自の効 果

    (1) 本研究で供試した植物の中でAlによって生育が最も促進されたメラストーマは、根だ けで なく 葉に も10,000mgkg.I以上のAlを集積するAl集積植物 であった。メラストーマの生 育 はAlに よ る 養 分 吸 収 の 促 進 の み で な く 、Al単 独 の 効 果 に よ っ て も 促 進 さ れ た 。   (2)メ ラス,トーマ切断根のAl吸収はAl非集積植物の場合と同 様に、初期の段階ではほと んど が陽 イオ ン交 換 基への受動的な吸着であり、細胞内への取 り込みは緩やかであった。し かし 、長 期間Al処 理 下で生育した植物の根では細胞内のAl集積 量が著しく多いことから、Al の膜 透過 は全 生育 期 間に渡って継続的に行われていると理解さ れた。さらに、根端近傍部位 か ら 蒸 散 流 に よ り 地 上 部 に 速 や か に 移 行 す るAlも 相 当 量 存 在 す る と 考 え ら れ た 。   (3)メ ラストーマの葉にはAl―シュウ酸キレートが存在したが、主要形態はAl ゛であり、

Al― シュ ウ酸 キレ ー トは、Alを無毒化するための形態ではなく 、シンプラステイックな経路 による地上部へのAlの移行に関わって いると考えられた。

  (4)メ ラストーマの葉において、Alは表側の表皮細胞の細胞壁 に最も多く集積し、次いで 柵状 組織 の細 胞で 多 かった。葉に存在するAlの主要形態であるAl はpHが中性付近の細胞質 内に 高濃 度で 存在 す ることはできないため、細胞壁、液胞、あ るいはその他のオルガネラに 集積 して いる と考 え られた。Alの集積により葉の構造、特に表 皮細胞の構造が安定化し、光 合成が上昇したことから、Al の細胞 壁への集積と細胞膜への吸着が細胞を安定化ならびに活 性 化 し 、 ク ロ ロ プ ラ ス ト へ の 集 積 が 光 合 成 能 を 上 昇 さ せ る と 理 解 さ れ た 。

(3)

学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 助教授

但野 波多野 大崎

学 位 論 文 題 名

利秋 隆介     満

植物の強酸性土壌に対する適 応機構の解析

  本 論 文 は 、 図 44、 表14、 引 用 文 献223を 含 む 総 項 数147の 和 文 論 文 で あ り 、 別 に 参 考 論 文10編 が 添 え ら れ て い る 。

  本 研 究 は 、 強 酸 陸 土 壌 に 適 応 し た 植 物 の 適 応 機 構 、 特 に ア ル ミ ニ ウ ム ( 問) 過 剰 に 対 す る 適 応 機 構 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し て 実 施 し た も の で あ る 。 得 ら れ た 結果 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。

1. 強 酸 性 土 壌 に 適 応 し た 植 物 の 生 育 特 性

  1) 強 酸 性 土 壌 に 適 応 し た 植 物 は 、Al耐 性 が 非 常 に 強 い だ け で は な く 、 そ の 多 く は Alに よ っ て 生 育 が 促 進 さ れ た 。 ま た 、 生 育 が 促 進 さ れ な い 植 物 で あ っ て もAl耐 性 は 強 か っ た 。

  2) 強 酸 性 土 壌 に 適 応 し た 植 物 で はN0−Nよ りNH。 ―NをN源 と し た 場 合 に 生 育 とN 吸 収 が 良 好 で あ り 、NH。 ―Nの 吸 収 に よ る 根 圏pHの 低 下 は 培 地 の 溶 存NとP濃 度 を 上 昇 さ せ 、 生 育 に 対 し て 有 益 な 効 果 を も た ら し た 。

  3) 強 酸 性 土 壌 に 適 応 し た 植 物 に はNに よ っ てCaやMgの 吸 収 が 阻 害 さ れ な い 特 性 、 あ る い は こ れ ら の 元 素 の 低 含 有 率 耐 性 が 強 い 特 性 が あ っ た 。   4) 問 排 除 植 物 で あ る メ ラ ル ー カ (Aね 眦H餾 粥 仰Hガ ) の 根 の 強 カ なN排 除 能 に ク エ ン 酸 放 出 能 が 関 わ っ て い る と 考 え ら れ た 。Ac粥 ぬm伽gmmの 根 で は 、 高 濃 度 の 培 地 問 に よ り 何 ら か のNキ レ ー ト 物 質 の 放 出 が 誘 導 さ れ 、N排 除 に 貢 献 し て い る と 考 え ら れ た 。

2.Alに よ る 生 育 促 進 機 構 の 解 析   1)Alに よ る 養 分 吸 収 の 促 進

  (1) 強 酸 性 土 壌 に 適 応 し た 植 物 の 多 く は 低pH耐 性 が 極 め て 強 く 、Alに よ る生 育 促 進 はH゛ 毒 性 の 軽 減 が 主 因 で は な か っ た 。

(4)

  (2) A1 による生育促進は、Al 排除植物、集積植物ともに、 Al によるN 、 P および K 含有率の上昇と密接に関連しており、養分元素が培地に存在しない場合には、Al が 溶存していても生育促進の程度がはるかに小さくなる、あるいは全く生育が促進され なかった。 Al 無添加で生育させたメラストーマ(Melastoma ma ため鋤庇Hm )の切断根の 能動的P 吸収能は朋前処理により著しく上昇し、根の活性も魁処理により上昇した。

これらの結果から、N による生育促進に養分吸収の活性化に起因する N 、P 、 K など の吸収量増加が重要な要因として関与すると考えられた。

   ( 3 )強酸性土壌に生育する植物種の根はN 無添加時に形態的障害を示した。その 主因として培地に触が溶存しないことによって引き起こされる原形質膜機能の低下 により根細胞が障害を受け、リグニン沈積量が増大した結果、細胞の伸長が阻害され たことが関係していると考えられた。

  2 ) Al 集積植物におけるハ独自の効果

   (1 )メラストーマは根および葉に10 ,OOOmg kg‑' 以上のAl を集積し、養分吸収の促 進に起因しない、触単独によっても生育が促進された。

  (2) メラストーマ切断根の Al 吸収は、初期の段階ではほとんどが根の陽イオン交 換基への吸着であり、シンプラストヘの流入は緩やかであった。しかし、長期間ハ 処理下で生育した植物体の根ではシンプラストのAl が非常に多いため、尚の膜透過 は継続的に行われると考えられた。さらに、根端近傍などの部位から蒸散流により地 上部に速やかに移行する魁も相当量存在すると考えられた。

    (3) メラストーマの葉には Al ―シュウ酸キレートが存在したが、主要形態はAl3 + であり、シュウ酸はシンプラステイックな経路による地上部への尚の移行に関わって いる可能性が高かった。

  (4) メラストーマの葉において心は表側の表皮細胞の細胞壁に最も多く集積し、

次いで柵状組織の細胞で多かった。葉におけるAl の主要形態であるAl3 ゛はpH が中性 付近の細胞質内に高濃度では存在できないため、細胞壁、液胞、あるいはその他のオ ルガネラに集積していると考えられた。越の集積により葉の構造、特に表皮細胞の構 造は安定化し、光合成能は上昇したことから、尚の細胞壁への集積と細胞膜への吸着 が細胞を安定化ならびに活性化し、ク口口プラストへの集積が光合成能を上昇させる と 理 解 さ れ 、 こ れ ら の 効 果 は 存 在 比 の 高 い 閊 に よ る と 考 え ら れ た 。

   以上のように、本研究は強酸性土壌に適応した多くの植物種の生育がAl によって促

進され、このAl による生育促進は Al の能動的養分吸収促進効果とハ集積植物におけ

る体内での尚独自の生理的な効果に起因することを明らかにした。これらの知見は学

術的に高く評価されると同時に、酸性土壌の農業利用と破壊された森林生態系の修復

のために極めて有益な情報を提供するものである。よって審査員一同は、渡部敏裕が

博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

    ‑1033 ー

参照

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