博士(農学)哈 学位論文題名
,Melilo と tLS 属の種間差異に関する遺伝学的研究
学位論文内容の要旨
森
マメ科牧草の一種 であるスイ一卜クローバを 含むMelilotus属はEume LilotusとMicrome lilotusの2亜属に大別され,特にスイートク口ーバの属するEumelilotus亜属の種間には種々 の生殖的な隔離が発達しており,相互転座の存在も明らかにされている。Eumelilotus亜属の 全9種はいずれも染色体数が2nー16で,種の分化は染色体の構造的差異と遺伝子レベルの分化 によると考えられる 。本研究では,Eumelilotusの9種間の染色体の構造差を解明し,含まれ る2種の転座の同定を行うと共に生殖と深い関わりをもつ遺伝子が転座染色体に座乗することを 明らかにした。一方,タンパク質レベルでも種間の遺伝的差異を調べて,種の類縁関係を明らか にした。
IEumelilotusの9種間における細胞学的関係
Eumelilotusの9種 は生殖的隔離と染色体の構造差から4群(M. alba,M.officinalis群(4 種),M.dentata群(3種),およびM. altissima)に分けられている。これまでこれらの群 間には部分的に生殖的隔離が発達しているため,細胞学的関係を明らかにすることが極めて困難 であった。そこで最 初に,M. albaとM. officinalis群,M. albaとM. dentata群間におい てFI雑種が得られる ことを利用して,これらの群間における(M. officinalis群xM. alba) F| XM.dentata群という三系交雑を行った。このような三系交雑においては,雑種致死や幼 苗の黄自化を生じたものの,12種の交雑からできた140個体が開花にまで到達した。これらのF1 個体の減数分裂を観察した結果,相互転座ヘテ口型1に対して相互転座ホモ型あるいは正常型の みが1という割合で 生じた。この結果から,M. albaとM.officinalis群間にある相互転座と M.albaとM. dentata群 間 に あ る 相 互 転 座 は 同 一 起 源 に よ る こ と が 同 定 さ れ た 。 一方,M. altissimaと他種間の交雑においては雑種種子が得られるものの,発芽後に強度の 葉緑素異常を生じ枯死に至った。このような雑種致死を克服するため行った試験管内での無菌的 栽培 に より ,M. albax M. altissimaのF13個体とM. altissimax M. tauricaのF12個体 を開花まで生育させることに成功した。得られたFl個体にっいて花粉稔性と減数分裂を観察し
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た 結 果 ,M. albaとM. altissima間 に は1個 の 相 互 転 座 が見 出 さ れ た 。一 方 ,M. altissi‑
max M. taurzcaのFlで は 花粉 稔 性 が 低 かっ た も のの ,減数 分裂に おけ る染色 体対合 などは 正 常 で, 両種の 染色体 間には 構造差 がないと判定された。同様な試験管内栽培によりM. officinalis 群 とM. dentata群間 の 交 雑 で 得ら れ たM. suaveolensx M. wolgicaのFlで も , 葉緑 素 異 常 が 回 復し2個 体が開 花に まで至 った。 これら の個 体の花 粉稔性 は低か ったも のの ,滅数 分裂に お け る 染 色 体 行動 は 正 常 で あ った 。 し た が って ,M. SLtaveolensとM. wolgicaとの間 には染 色 体 の 構造 差 は な か った 。 以 上 の 結 果か ら ,Eumelilotus亜 属の9種 間 で は,M. albaだ けが 他 の8種 と1個の相 互転座 で異 なるこ とが明 らかに された 。
皿 転座 染色体 の同定 と昆虫 訪花に 関す る遺伝 子の座 位
M. albax M. suaveolensのFiおよ びその 両親を 用いて ,ギム ザ分 染(G分染 )法に より染 色 体 を 識 別 して , 転 座 染 色 体の 同 定 を 試 みた 。 そ の 結 果,SDS法 によ るG分 染で前 中期 の染色 体 にお いて動 原体付 近に明 瞭なバ ンド がみら れた。 核型の 比較 から, 両種と もに付随体染色体が 最 も 短く ,そ の大き さと長 腕の長 さに 差があ った。 さらに ,付随 体染 色体以 外に2種の 染色体 に も 差 異 が み ら れ た 。Fiと 両 親の 核 型 の 比 較に よ っ て ,suaveolens型の5Sと8Sの 長 腕 の 端 部 に 切 断 が 起 こ っ て 相 互 転 座 を 生じ , そ れ ぞ れalba型 の7Aと8Aに な っ た も のと 推 定 さ れ た 。 こ の こ と は ,M.alba XM. suaveolensのFlに おけ る 減 数 分 裂の 太 糸 期 で十 字型の 染色体 を生 じ ,そ の一端 が仁に 付着し ている こと からも 裏付け られた 。さ らに, 昆虫の 訪花を支配するネク タ ー ガ イ ド 遺伝 子(Ncg)が 転 座 点 と9.5土5.3% の組 換価で 連鎖す るこ とを見 出した 。また , Ng遺伝子 はS型付随 染色体 の長腕 上に あると 推定さ れた。
mアイ ソザイ ムや 種子夕 ンパク 質によ る種間 の遺 伝的差 異
6種 の ア イ ソ ザ イ ム (LAP,PGM,EST,IDH,PGIお よ びPOX) で 種 間 に 変 異 が み ら れ た も の の ,LAPを 除 い て五 , ‖me臣Z0£Ms亜属9種 におけ るアイ ソザ イムの 変異は 少なく ,ク ラ ス タ ー 分 析 の結 果 か らM.sMOU∞2eれs,M.w0をfc0お よ びM. ぬUんc0に っいて のみ明 瞭に 区 別 で き た 。 一方 ,SDS―PAGE電気 泳 動 法 に よる 種 子 夕 ン パ ク質 を 分 析 した 結果,Eumenめ£Ms 亜 属 の9種51系統に おいて 総数54本のバ ンドが 検出さ れ,種 間に 大きな 変異が みられ た。 共通バ ン ドを 除いた49バンド にっ いての クライ スタ一 分析に よる と,種 内にお ける類 似度が高かった。
し か し ,M.nfb0だ け は 種 内 で さ ら に3群 に 分 か れ, そ の う ち のI群 はM.c桝cfn0臣s種 と 近 緑 で あ っ た 。ま た , い ず れ の結 果 か ら も ,M.sUaUe0ぬnsだ けは明 瞭に ーっの クラス ターを 形 成 し, 独自の 進化経 路をた どった もの と考え られる 。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 木 下 俊 郎 副査 教授 中世古公男 副 査 教 授 島 本 義 也
マメ科牧草の一種 であるスイートク口ーバはMelilotus alba Med.とM. o襾cf凡a臣sMed. に属し,環境条件の劣悪な所でもよく生育する重要な二年生の牧草種である。また,家畜に有害 なクマリンを無毒化 するために必要ナょ遺伝子を近縁種から導入したことでも有名である。
本研究では,Me臣 め£us属の1っの亜属であるEMme臣Z0¢Msの9種間において,交雑不和合 性による生殖的隔離を種々の方法により克服してから,種間における染色体の構造差や系統分化 に関する機構を明らかにした。特にタンパク質レベルでの種間の遺伝的差異を明らかにして,種 間交雑育種の基礎となる知見を提供した。
本論文は5章より 成り,117頁で表42と図27を 含む。主な内容は下記の如く要約される。
(1)Eumelilotus亜 属ではM. altissimaを除い た8種が3群に分けられている。栽培種のM.
albaと他の2群7種間 にはこれまで2個の相互転座が見出されているが,これまでofficinalis 群とdentata群の間 にある交雑不和合性のために2個の転座の同定が不能であった。そこで,
この交雑不和合性を 打破するために両群と和合関係にあるM. albaを橋渡し種に用いて,(M.
albaxM. officinalis)FlXM. dentataなる三系交 配を行い,初めて140個体を開花まで生育 させた。減数分裂における染色体対合型を調べることにより,M. albaとM. officinalis両に ある相互転座がM.albaとM. dentata間の相互転 座と同一の転座とみなしてよいことを実証 した。
(2)M.alba XM. altissimaのFlでは通常高度の 葉緑素異常により幼苗致死を生じる。Fl種 子を試験管内で無菌培養することにより葉緑素異常を回復せしめて,開花まで育てることに成功 した。Fl個体の減数分裂太糸期における染色体対合では,1個の相互転座の存在を検出した。
一方 ,M. altissimaxM. tauricaのFIなどにっいても同様 な方法によりFt個体を育て て減 数分裂を観察したが,いずれの種間とも染色体の構造差がないことを確かめた。その結果,栽培 種のM. albaだけが 同じ亜属の近縁種8種と1個の 相互転座により異なっていることを明らか にした。
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(3) M. alba,M. suaveolensおよび両種の交雑のFl個体の染色体にっいて,ギムザ染色法に より核型を調べたところ,付随体染色体を含む少なくとも3種の染色体をバンド型から明確に識 別できた。Flと両 親の比較から,suaveolens種の5Sと8Sの長腕端部には切断によって相互 転座を生じ,albaではこれが7Aおよび8Aに相 当することがわかった。また,付随体染色体 に転座を生じていることはFlの滅数分裂における転座染色体の仁付着からも明らかとなった。
(4)花弁の色調を紫外線写真により区別するならば,昆虫の眼による識別と一致しており,蜜を 求め て 訪花 する ガイ ド とな るこ とが 知ら れ てい る。このネ クターガイドがM. aZbaとM.
suaveolensで異な ることから両者の交雑のF2集団を用いて,ネクターガイド遺伝子(Ncg)を 分析し,それが転 座点と9.5土5.3%の組換価により連鎖することを見出した。また,Ngは sUOUe0ぬns由 来 の 付 随 体 染 色 体 の 長 腕 部 に 位 置 す る こ と が わ か っ た 。
(5)゛6種のアイソザイム遺伝子にっいて種間差を調べ,クラスター分析を行った結果,EM・ me臣Z0えus亜属の9種中でM.sH0∞0ぬns,M.w0をfcaおよびM.ぬUrfc0の3種を明らかに 識別できた。
(6)種子タンパ ク質にっいてSDS―PAGE電気泳動法により種間で比較を行った。総計54本の バンドが検出され,その内の共通バンドを除いた49種にっいてクラスタ―分析により種間差を検 討した。その結果 ,栽培種のーっのM.0260だけは種内でさらに3群に分けられ,そのうちの 1種は別の栽培種 のM.cゾncfn0臣sと近縁であ った6さらに,M.sMaUe0ぬnsだけは明確に1 っのクラス夕一を形成していた。このように栽培種の進化経路にっいての有用な知見を得た。
以上の研究成果は,Melilotus属の系統分化に対する従来からの疑問点の解消に役立ったばか りでなく,Eumelilotus亜属中の種間の細胞学的機構や近縁種からの有用遺伝子の導入のため の基礎となる遺伝的に有用な知見を提供している。
よって審査員一同は,最終試験の結果と合わせて,本論文の提出者の哈森は博士(農学)の 学位を受けるのに十分な資格があるものと認定した。
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