博士(農学)渡辺 学位論文題名
ウメの収量,品質の向上に関する栄養生理学的研究 学位論文内容の要旨
毅
ウ メは休 眠が 早期に 終わり ,展葉 に先立 って 開花・ 結実し ,収穫 期が 主要な 果樹の 中では最も 早 い 反 面 ,果 実収 穫後か ら落 葉まで は4か月以 上の長 期間を 要す るとい う特徴 をもっ ている が,
そ の栽培 技術体 系,特 に施 肥など 樹体の 栄養管 理法 が他の 果樹に 比べて 十分解 明さ れていない。
本 研究は ,ウ メの収 量,品 質の向 上に関 する 諸問題 にっい て栄養 生理 学的な 観点か ら検討した もので,次の諸点を明らかにした。
1.養 分吸収 の特徴 と年 間養分 吸収量 :ウメ 樹の無 機成 分吸収 の推移と樹体の解体調査の結果,
9月 以 降 の同 化 養 分 が 合成 ・ 蓄 積 さ れる 時 期 に は 窒 素含 有 率が ,また4,5月の 新梢 伸長期 と果 実 肥大期 にはカ リウ厶 含有 率が生 育と収 量に大 きな 影響を 及ばす ことが 明らか とな った。そして ウ メ の 栄 養診 断の ための 葉分 析を行 う時期 は6月上旬 または10月上 旬が適 当であ り, 診断基 準値 は他の樹種よりも全般に高く,6月上旬では,窒素3.6土O.1%,リンO.23土O. 01%,カリウ厶4. 4土O.2%,カルシウム1.7土0.1%,マグネシウムO.36土O. 05%が,また10月上旬では,窒素2.3 土0.1%,リンO.14土O.01%,カリウム3.3土0.4%,カルシウム2.1+―O.2%,マグネシウ厶O.31 土O. 06%が目安になるものと考えられた。
14年 生 の1樹 全体 の 主 要 無 機成 分 含有 量をみ ると, 窒素 が793.8gで最 も多く ,次 いでカ ルウ 厶 , カ ル シウ ム, リン, マグ ネシウ ムの順 であっ た。10a当 り30本植 栽し,1,350kgの収量 を上 げた成木の推定養分吸収量は,窒素14. 2kg,リン酸3.4kg,カル15. 4kg,石灰12.9kg,苦土2.8kg と な り , 窒素 ,カ リ,石 灰で 全体の92%を 占め, 特にウ メは カルシ ウムの 吸収が 多い ことを 明ら か にした 。この 養分吸 収量 を基礎 に10a当りの 三要素 の施 肥量を 試算す ると, 窒素19. Okg,リン 酸8. 5kg,カリ19. 3kg,となった。
2.土 壌 の 理化 学性と ウメ 樹の生 育: 200haのウメ 園を対 象に 細密な 土壌の 実態調 査を 行い,
土 壌の化 学性と ウメ樹 の生 育との 関係を 明らか にす るとと もに, ライシ メ一夕 ーを 用い,窒素,
カ リウム ,カル シウム を施 用した 時の土 壌中で の成 分の動 きと生 育への 影響を 測定 した。その結 果 ,約60% 以上 のウメ 園で置 換性カ リウム や有 効態リ ン酸が 基準値 以上 含まれ ている 反面,石灰
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不 足 の 地 域 が40% 分 布 し て い るた め, 全 般にpHは 低 く,ca/k比 も小 さく , 塩基 バラ ン スが 不 均衡 であ る こと が明 ら かと なっ た。そしてこの 傾向は生産カの低 い樹齢の進んだ園 や連作園で顕 著で あっ た 。土 壌中 の 置換 性塩 基含量と葉中含 有率との関係をみ ると,カルシウム とマグネシウ ム で は 正 の 相 関 が み ら れ た が , カ リ ウ ム で は 一 定 の 関 係 は み ら れ な か っ た 。 ラ イシ メ ー夕 一試 験 の結 果は , 土壌 のpHが7.0では 生 育が 旺盛 で あっ たのに対 し,pH4.5の 生育 量は 極 めて 劣っ て いた 。ま た,各養分の中 ではカルシウムの 溶脱が最も多く, カルシウムや マグネシウムは, 硝酸イオンとの関 係が強いため,窒素 の多用が塩基類の 溶脱を促した。さらに,
夏肥 は高 温 によ る硝 酸 化成 の促 進と降雨による 流亡のため肥効の 持続期間が短かっ た。したがっ て,9月上 中旬 に 貯蔵 養分 の 増大 と花 芽 の充 実を 目 的として,い わゆる「花芽肥」 ともいうべき 施肥を行うことが ,より高位安定生 産にっながるものと 考えられた。
3. 樹体 内貯 蔵 養分 の集 積 過程 :炭 水 化物 やタ ン パク質構成ア ミノ酸などの貯蔵 養分の集積過 程を 調査 し た結 果,9月以 降 の葉 や短 果 枝中 の全 ア ミノ酸含量と 果実収量との間に 高い正の相関 が認 めら れ ると とも に ,6,7月 の 収穫 期を 境 に葉 と短 果 枝の アス パ ラギ ン酸,プ 口リン,アル ギニ ン, ア ミノ 酸組 成 が大 きく 変化することか ら,これらのアミ ノ酸が移行,貯蔵 形態として窒 素代 謝の 重 要な 役割 を 演じ てい るものと考えら れた。また,多収 樹は低収樹に比べ ,貯蔵養分蓄 積期 間中 の 葉の アス パ ラギ ン酸 含量や短果枝の アルギニン含量が 高かったことから ,これらのア ミ ノ 酸 が 窒 素 の 栄 養 診 断 の ー っ の 指 標 物 質 に な り 得 る も の と 推 察 さ れ た 。 結 果枝 長 別の 全ア ミ ノ酸 及び 可溶性糖類,デ ンプン含量はいず れも短果枝が最も 高く,また短 果枝は,中,長果 枝に比べ全アミノ 酸の中ではアルギニ ンが著しく高く, 糖の種類別ではスク口一 スや ソル ビ ット の割 合 が高 かっ た。樹齢別の結 果枝の比較では, 全アミノ酸含量は ,老木が若木 や成 木に 比 べて やや 高 く, デン プンやスク口一 ス含量も樹齢が進 むにしたがい高く なった。側枝 の発 生年 代 別の 結果 枝 を比 較す る と, 全ア ミ ノ酸 は3,4年生 の側 枝 で高 く,可溶 性糖類やデン プン 含量 は5,6,7年 生の 古 い側 枝で 高 かっ た。 枝 の可溶性糖合 量と着果との関係 にっいては,
10月 のス ク 口一 ス含 量 や5月 のソ ルビ ッ ト含 量と 果 実肥大後半の 着果率との間には 高い関係がみ られ た。 さ らに 夏肥 重 点施 肥や 夏季せん定によ り,貯蔵養分蓄積 期間中における枝 の窒素や全炭 水化物含量が高ま ることも明らかに なった。
4. 成熟 に伴う果肉内成分 の変化:福井県の代 表品種である 紅 サシ を中心に調 査した結果,
果実の主要成分で ある果肉のクエン 酸は,果実の成熟に伴い上昇するのに対しりンゴ酸は低下した。
また ,ウ メ 干し 品質 と して 最適 とされたものは ,加工時のクエン 酸含量が3,OOOmg7100g FW前後 に達したものであ った。そこで,流 通期間中のクエン酸 含量の増加を考慮 すれば収穫開始時期の指
標は ,果 肉 のク エン 酸 含量 が2,OOOmg/lOOgFW以 上 に達 して い れは 問題 は ない と考 え られ た。
そ し て 開 花 盛 期 か ら , ク エ ン 酸2,OOOmg/lOOgFW到 達 目 ま で の 日 数 (Y) と2月1日を 起算 日 とし た時 の 開花 盛期 ま での 日数 (X) と の間 には , 過去4か年 の調 査 からYー112. 988−O.588X の回 帰式 が 得ら れた 。 また 実肥における窒素 の多量施用や収穫直 前の施用によって クエン酸の集 積が 遅延 す るの に対 し ,カ リウ ム の施 用は , クエ ン酸 の 集積 を早 め ることが明ら かとなった。
5. 総合 的栄 養 管理 法の 改 善: 以上 の 結果 を踏 まえて,ウメの 収量,品質の向上 を図るための 総 合 的 栄 養 管 理 法 と し て , 特 に 以 下 の 点 に 留 意 す る 必 要 の あ る こ と を 立 証 し た 。 (1)貯 蔵養分の増大を図 ることを目的とし た窒素の夏秋季にお ける重点施用と年 間を通じての 窒素 の肥 効 持続 。
(2) 果 実 発 育 期 の 果 実 肥 大 と 品 質 向 上 を 目 的 と し た 実 肥 に お け る カ り の 重 点 施 用 。 (3)好石 灰植 物 とし ての カ ルシ ウム 栄 養の 供給 と 土壌pH矯 正 を目 的と し た石 灰の 適 正施 用。
(4)安定 生産 の ため の枝 梢 管理 ,す な わち ,成 木 での4年生 側枝 を 中心とした側 枝の養成と,
老 木 で の 枝 の ageの 若 返 り を 図 る た め の2,3年 生 側 枝 を 中 心 と し た 側 枝 の 養 成 。
学位論文審査の要旨
本論 文は , 総ぺ ージ 数247, 和文 で記 さ れ, 内容 は6章 と 引用 文献 よ りな り, 他 に参 考論 文9 篇が付さ れている。
本研 究は , ウメ の収 量 ,品質の向上 に関する諸問題に っいて栄養生理学 的な観点から検討し た もので, 次の諸点を明らかに した。
1, 養 分吸 収の 特 徴と 年間 養 分吸 収量 : 無機 成分吸収 の推移と樹体の解 体調査の結果,同化 養 分 が合 成・ 蓄 積さ れる9月以 降 には 窒素 含 有率 が,4,5月 の新 梢 伸長 期と果実肥大 期にtまカ ル ウ ム含 有率 が 生育 と収 量 に大きな影響 を及ぼすことが明 らかとなった。ま た,栄養診断のため の 葉 分析 を行 う 時期 は6月 上旬 ま たは10月 上 旬が 適当であ り,診断基準値は 他の樹種よりも全般 に 高く,6月上旬のカ リウムは4.4土0.2%,またlO月上旬の窒素は2.3土O.1%が目安となるとした。
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さ らに ,主要 無機成 分含量から成木の推定養分吸収量を計算すると,窒素14.2kg,リン酸3.4kg, カ リ15. 4kg,石 灰12.9kg, 苦土2.8kgとな り,ウメは特にカルシウムの吸収が多いことを明らか に した 。この 養分吸 収量を 基礎 に10a当りの 三要素 の施肥 量を 試算す ると, 窒素19.Okg,リン酸 8.5kg,カ リ19. 3kgとな った 。
2. 土 壌の 理 化学性 とウメ 樹の生 育: 200haのウ メ園を 対象に 土壌 の化学 性とウ メ樹の 生育と の 関 係 を 調 査 した 結 果 , 全 般にpHは 低 く,ca/k比 も 小 さ く ,塩 基 バ ラ ン スが 不 均衡 である こ と が明 らかと なった 。また ,土 壌中の 置換性 塩基含 量と葉 中含 有率と の関係 をみる と,カルシウ ム とマ ク゛ネ シウム では正 の相 関がみ られた 。
ラ イ シ メー タ ー 試 験 の結 果 は , 土 壌 のpH4.5の 生 育 量 が極 めて劣 り,カ ルシ ウムの 溶脱が 最 も 多く ,窒素 の多用 が塩基 類の 溶脱を 促した 。さら に,夏 肥は 肥効の 持続期 間が短 かった。した が っ て ,9月上 中旬 に,施 肥(花 芽肥) を行 うこと が,よ り高位 安定生 産に っなが るもの と考え ら れた 。
3. 樹 体内 貯 蔵 養 分 の集 積 過 程 :9月以 降の葉 や短果 枝中 の全ア ミノ酸 含量と 果実 収量と の間 に 高 い 正 の 相 関が 認 め ら れ ると と もに ,6,7月の収 穫期を 境に 葉と短 果伎の アスパ ラギン 酸,
プ 口リ ン,ア ルギニ ン,ア ミノ 酸組成 が大き く変化 するこ とか ら,こ れらの アミノ 酸か移行,貯 蔵 形態 として 窒素代 謝の重 要な 役割を 演じて いるも のと考 えら れた。 また, これら のアミノ酸が 窒 素の 栄養診 断のー っの指 標物 質にな り得る ものと 推察さ れた 。さら に,10月 のス ク口一ス含量 や5月 の ソ ルビ ット 含量と 果実肥 大後半 の着 果率と の間に は高い 関係が みら れた。 また, 夏肥重 点 施肥 や夏季 せん定 により ,貯 蔵養分 蓄積期 間中に おける 枝の 窒素や 全炭水 化物含 量が高まるこ と も明 らかに なった 。
4. 成熟に 伴う果 肉内成 分の変 化: 果実の 主要成 分であ るク エン酸 は,果 実の成 熟にf半い上昇 す るの に対し りンゴ 酸は低 下し た。ま た,ウ メ干し 品質と して 最適と された ものは ,加工時のク エ ン 酸 含 量 が3,OOOmg/lOOgFW前 後に 達 し た も ので あ っ た 。そこ で,流 通期間 中の クエン 酸含 量 の 増 加 を 考慮 し,収 穫開始 時期 の指標 は,果 肉のク エン酸 含量 が2, OOOmg/lOOgF'W以上に 達 し た時 期と考 えられ た。ま た実 肥や収 穫直前 のカリ ウムの 施用 は,ク エン酸 の集積 を早めること が 明ら かとな った。
5. 総 合的 栄 養管理 法の改 善:以 上の 結果を 踏まえ て,ウ メの 収量, 品質の 向上を 図るた めの 総 合 的 栄 養 管 理 法 と し て , 特 に 以 下 の 点 に 留 意 す る 必 要 の あ る こ と を 立 証 し た 。 (1)貯蔵 養分の 増大を 図るこ とを 目的と した窒 素の夏 秋季 における重点施用と年間を通じての 窒 素の 肥効持 続。
(2)果実肥大と品質向上を目的としたカりの重点施用。
(3)カルシウム栄養の供給と土壌pH矯正を目的とした石灰施用。
(4)成木での4年生側枝を中心とした側枝の養成と,老木での枝のageの若返りを図るため の2,3年生側枝を中心とした側枝の養成。
以上述べたように本研究はこれまで不明とされていたウメの栄養生理学的な特性を明らかと し,施肥法,栽培法の改善による総合的栄養管理法を確立したもので,学術上重要な知見を加え た ば か り で な く , 応 用 面 で も 産 業 上 に 貢 献 す る と こ ろ 頗 る 大 き い と 評 価 さ れ る 。 よって審査員一同は,別に行った学力認定試験の結果と合わせて本論文の提出者渡辺毅は博 士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるものと認定した。
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