高等学校におけるピア・サポートシステムの開発的研究 : ピア・サポーター養成プログラムの実践を通して
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(2) ないという傾向があることも確認された。. 主に夏休みを利用したため,クラブ活動等で. また,カウンセリングに興味がある生徒が多. 出席できない生徒もいたが,参加した生徒は皆. く,機会があれば学びたいという姿勢も伺えた。. 積極的に取り組み,実施後の「ふりかえり」に. 4.2教職員に対する調査. おいても,肯定的な意見が多く見られた。. 実践校の教師51名を対象に無記名による質 問紙調査を実施した。. 5.2 実施後の評価 評価には,KiSS・18(Kikuchi’s Social Skill. これから,教師は,生徒が友人関係を中心と. Scale・18項目版)を用い,事前・事後・予後(3. する人間関係に悩んでいると捉え,そういった. か月後)の得点平均を比較した。また,予後の時. 悩みを友人同士で相談し合っていると考えてお. 点では対照群として,「ピア・サポート体験学習」. り,生徒の実態を的確に捉えていることがわか. の受講者のいないクラス(2年生39名)のデー. った。同時に,気になる生徒がいても,十分な. タも取って比較した。. 対応ができておらず,学校における生徒に対す. 分析の結果,実践の前後で,社会的スキルの. る相談体制も十分でないと感じている教師が多. 有意な上昇が認められ,本プログラムの有効性. いことも示された。「ピア・サポート」に対する. が検証された。そして注目すべきは,予後にお. 知名度は低く,多少の不安はあるものの,本研. ける得点の更なる上昇である。トレーニングを. 究への関心は高く,期待の大きさを感じた。. 受けたことによって身につけたスキルを,日常. 以上のようなことが,実践校における調査研. の生活の中で,実践するという経験を通して,. 究から明らかになった。これらの調査結果はい. 改めて確認し,自己評価を高めたのではないか. ずれも,学校において,相談のスキルを身につ. と考えられる。. けた生徒による,生徒のための支援組織の必要. 6.総合考察. 性と可能性を示唆するものであると捉えること. 今回の研究では,生徒の社会的スキルの獲得. ができる。. に「ピァ・サポーター養成プログラム」が有効で. 5.実践研究. あることが確認された。さらに,ここで身につ. 5.1 プログラムの実践. いたスキルは,継続したトレーニングと,日常. 実践は,希望者対象の「ピア・サポート体験. の生活場面での実践を通して,維持あるいは更. 学習」という形式を取り,1・2年生から受講. なる上昇を期待することができると考えられる。. 者を募集した。応募してきた25名(1年男子7. 今後は,実際の相談活動の実施に向けて,さ. 名,女子7名,2年は女子のみで11名)に対し,. らにプログラムの検討を重ね,より日本の高等. 90分のセッションを10セッション,7日間か. 学校の現場に適した「ピア・サポートシステム」. けて実施した。プログラムは人間関係スキルの. の導入方法について,研究を進めていきたい。. 向上を目標に,「構成的グループエンカウンタ ー」や「ストレスマネジメント」等のエクササ イズも取り入れて構成した。 指導に当たっては,生徒指導コースの院生の 協力を得て,チームティーチングの形をとった。. 主任指導教官. 上 地 安 二. 指導教官. 上 地 安 昭.
(3) 平成13年度 学位論文. 高等学校におけるピア・サポートシステムの開発的研究 一ピア・サポーター養成プログラムの実践を通して. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 学校教育専攻. 生徒指導コース. MOOO48H 稲 次 一 彦. 1(azuhiko INAJI.
(4) 目 次. 第1章 問題の所在と研究の目的および方法 第1節高校生を取り巻く今日的状況 1.青少年の現状 2.人間関係の希薄化. 第2節教育改革の推進と学校教育相談の新たな動き…… 1.「心の教育」の充実. 2.「治すカウンセリング」から「育てるカウンセリング」へ. 第3節 ピア・サポートシステムの導入 1.ピア・サポートとは 2.学校現場への導入とその意義. 第4節研究の目的および方法 1.目的 2.方法. 1 1 1. 2. 4 4 5. 7 7 7 9 9 9. 第2章 高校生の心理. 10. 第1節 思春期の葛藤. 10 10 10 11. 1.自己探索の始まり 2.複雑な進路選択 3.不安定さと生きがい. 第2節高校生の友人関係 1.高校生にとっての友人 2.高校生の友だち付き合い 3.悩みの相談相手. 第3節高校生の社会的スキル 第3章 ピア・サポートに関する先行研究 第1節 学校におけるピア・サポート 1.ピア・サポートの定義 2,学校におけるピア・サポートの特色. 第2節諸外国における取り組み 1.ピア・サポートの歴史 2.先進国の取り組み. 第3節 日本における取り組み 1.日本の教育現場への導入 2.日本における実践. 13 13 14 15 18. 20 20 20 23 26 26 28. 32 32 34.
(5) 第4章高校生の悩みと相談活動に関する調査研究 第1節 高校生に対する調査 …・…………・…・ 1.調査結果 2.考察. 第2節 教職員に対する調査 1.調査結果 2.考察. 第5章 ピア・サポーター養成プログラムの実践的研究. 一 37. 37 37 45 46 46 51 53. 第1節プログラムの開発 ……・・……・・・・・・… 1.プログラムの目標 2.プログラムの構成 3.エクササイズの選定. 53 53 53 55. 第2節プログラムの実践 ・…・…・…・…・・…一 1.実施までの経緯 2.実践経過 3.考察. 59 59 60 67. 第3節プログラム実施後の評価と考察. 69 69 72. 1.KiSS−18による評価 2.考察. 第6章 総合考察と今後の課題. 73. 第1節総合考察 ・……・・……・・・・・…………. 73. 第2節今後の課題. 76. 引用・参考文献. 77. Appendix. 80.
(6) 第1章 問題の所在と研究の目的および方法 第1節 高校生を取り巻く今日的状況 1.青少年の現状 21世紀を迎えた今日,教育界は依然として深刻な課題を抱え込んでいる。文 部科学省によると,平成12年度の不登校児童・生徒数は小学校で26,372人,. 中学校で107,910人であり,小・中合わせて13万人を超えている。高校進学 率が97%に達して,高校が準義務教育機関化している反面,高校生の中途退学. 率も上昇し,中途退学者は,全国で10万人を越え,平均中退率は40人に一人 の2.6%にも上っていることは憂慮すべき問題である。また高校中退の問題の 背後には,学校生活に不適応を示すいわば中退予備軍ともいえる生徒が多数存 在していることが指摘されている。. さらに最近では,17歳を中心とする高校生年齢の若者の凶悪犯罪が続発して いる。実際に犯罪統計をみると,現在,青少年犯罪は,すでに事件数で戦後第 4のピークに向かって増加の一途をたどっているだけでなく今まで類をみない 程,凶悪化の方向をたどっている。また,最近の少年非行等をみると,凶悪犯. で検挙された少年のうち過去に非行歴のない者が全体の約半数(平成11年の 場合45.5%)を占めるなど従来のものとは異なったパターンを示すものが現れ てきていることが特徴としてあげられる。とりわけ,万引きなどの初発型非行 や非行グループへの加入などの日常的に目立つ前兆を示さない,いわゆる,一 見おとなしく目立たない「普通の子」が内面に不満やストレス等を抱え,なん らかの要因によってそれが爆発して起こる「いきなり型」の非行といったもの が新たに生じてきている(内閣府,2001)。. これらの問題は,実は日本だけでなく,世界の先進国が共通に悩んでいるこ とでもある。七隈(1999)によると,先進諸国でこの1世紀の間に,子どもの身 体的成長が早くなったことを成長加速現象といい,この現象が思春期の困難さ の要因の一つとなっている。つまり,以前の子どもたちが10代前半を使って,. 十分な知的発達を遂げ,友人関係を育んで社会性を身につけながら,ある程度 親からの自立を成し遂げつつあるなかで第二次性徴を迎えたのに対して,今の 子どもたちはそのすべてが不十分なままその時期を迎えているという。. 社会の急激な変化は,思春期の子どもたちにさまざまな影響を与えた。楡木 (2000)は現在の教育危機の原因を次の3つの視点から整理している。. ①家庭環境の変化 親子共有時間が減少した結果,子どもは基本的生活様式や善悪を判断す. 1.
(7) る価値観そのものを受け取ることが減少したとする考え方がある。また,. 少子化に伴い,幼児期に友人間葛藤が減少し,人生の困難に立ち向かう耐 性の劣化をもたらした。. ②学校環境の変化 受験競争の激化。成績などによる単一次元で序列をつけた結果,成績が 十分取れなかった生徒は,自分の実在論的理由が怪しくなり,より下位者 と比較して,心理的に安定をはかろうとする。. ③社会環境の変化 子どもたちの世界へのテレビアニメやパソコンゲームソフトの普及は, 現実感を喪失させバーチャルリアリティの感覚世界に漂わせる基になった。. 児童後期の対人関係形成期に遊ばせる時間が無くなり,また,青年前期の 個人的同一性や性役割同一性の形成期に思索する時間の不足は,自己形成 を遅らせることになる。. こうしたさまざまな環境変化のもたらすストレスの中で,子どもたちはさま ざまな悩みを抱え,それをうまく処理できないまま自分の中で抱え込んでしま う者が増えてきているのではないだろうか。. 2.人間関係の希薄化 前述したような教育危機の原因といわれるものの中で,学校現場において特 に気になるのが「人間関係の希薄化」である。現在の高校生たちは人間関係づ くりに苦手意識をもっており,人間関係調整能力に欠けているとよく指摘され る。文部科学省も,犯罪や非行を犯す最近の少年に共通にみられる特徴として,. 「コミュニケーション能力や自己表現力が低く,対人関係がうまく結べない」 ことを挙げている。. 滝(2000)は,「人と人とのかかわりあいというものを,生の形で,つまり心の. 痛みや身体の痛み,心のぬくもりや身体のぬくもりを伴う形で経験する機会が 少なくなっている」ことを指摘している。情報化の進展に伴い,高校生の多く. が,パソコンや携帯電話を所有し,利用している。街中で歩きながら,あるい は電車の中で,Eメールのやり取りをしている高校生をみかけることは珍しく なくなった。こういつた交流を,すべて否定的にとらえることはできないが,. 直接相手と対面することなく,相手の声を聞くこともないような交流が主流と なることには疑問を感じる。. 学校における人間関係に目を転じてみると,多くの生徒は自分の考えを主張 したりせず,多くの人の意見にあわせてしまうという傾向がみられる。他人か ら変わった人だと思われたくないばかりに,気兼ねや遠慮,緊張,防衛がある 2.
(8) のではないかと思われる。そういった生徒たちは,他人の考えに反対もしない かわりに,自分の考えに反対されることを好まない,反対されると不快になる という傾向ももっている。. 片野(1999)は,「人間関係にはいくつものレベルがあって,親友のレベルばか. りではない。会えば挨拶をする程度といったレベルから,話しかけられれば社. 交会話はするといったあたりさわりのないレベル,仕事上のつきあいとか上 司・部下の関係,同僚関係といったものもある。生徒の人間関係にもこうした. レベルがあり,これからの生徒はレベルに合った応対ができなければならな い。」とし,「それなりの関係づくりや,関係を保つスキルをもっていないと,. 生きていくうえで困難を感じるようになる。このようなスキルは気をつけてい れば実際は自然に身につくものであるというのが,これまでの多くの教師や親 の認識であった。」と述べている。確かに,自分自身を振り返ってみても,特に. 親や先生からそうしたスキルを教えてもらったわけでもなく,いろんな友人や 大人との触れ合いの中で,自然に身につけていったものではないだろうか。し かし,今の子どもたちは,友だちと一緒に遊ぶといいながら,一つの部屋の中 で一方はパソコンゲームをし,他方は漫画の本を読んでいるというような,互 いに別々の遊びをすることが多いと聞く。他者との直接的な触れ合いを経験す ること事態が少なくなっているように思える。このように社会が変化したこと で,子どもが対人的な能力を自然に身につける機会が減っているとするなら, それを意識的・計画的に身につけられる機会を提供していくしかない(滝,2000)。 國分(1997)は,「何といっても今は人間関係が希薄な時代である。...(筆者中. 略)...こういう時代ゆえ,人とのふれあいとか連帯感を体験しないまま成長す. る。その結果,慢性の孤独感や人づき合いの未熟さゆえに,自分の内にこもる ようになる。私のみるところ不登校児は仲間との関わり方を身につけていない ことに由来しているように思われる。その証拠に阪神大震災のあと不登校児が 登校を開始した例が多いときく。あの苦境の中を生き延びるためには人々が連 帯せざるを得なかった。この体験が不登校児に人間関係をつくりそれを保持す るという感覚を学習させたと考えられる。人間関係が持てるようになるには,. 人間関係とは何かの授業を受けるより,人間関係とはこういうものなのだと体 験するほうが効果がある。」と述べている。. 3.
(9) 第2節 教育改革の推進と学校教育相談の新たな動き 1.「心の教育」の充実 21世紀に向けた,我が国の教育改革の基本的な課題の一つとして,「心の教 育」の充実が提唱されてきた。今回の学習指導要領の改訂は,21世紀に生きる 子どもたちに,変化や困難に打ち勝つ「生きる力」の育成が強調され,新たに 子どもたちが主体的に学ぶ「総合的な学習の時間」が設けられる等,興味,意 欲,態度といった子どもの感情や認知に目を向けた新しい学力観を提唱してい る。. 中でも「体験学習」が重視され,子どもたちが社会との関わりを自覚しつつ 自律性を発揮し,自己実現を図っていけるよう,さまざまな関係機関が連携し て青少年に多様な体験的な活動を提供する試みが全国各地で行われつつある。. 例えば,兵庫県では,県下の中学2年生全員が1週間,学校を離れて,職場体 験やボランティア,農作業などに携わる体験活動「地域に学ぶ『トライやる・ ウィーク』」を平成10年度から実施するなど,さまざまな実践が行われつつあ る。. 岡林(1997)は,「これまでの教育が受験的な知識,試験に合格するためのノー. ハウ(know hOW)に偏り,いろいろな弊害が出てくる中で,教育の本来のあ. り方,人間を育てるということに焦点付けようとするのが,心理教育 (Psychoeducatio11)である。」とし,「子どもたちが『思いやり・共感』の欠如に. よって,いじめなどの攻撃1生の問題が起こり,社会適応できなくなってきてい. るという考え方が一般的になってきた。そこで,そのような状況に対応するた めに考えられたのが,心の教育という意味での『心理教育』である。」としてい る。. 平成7年度よりスタートした文部省の「スクールカウンセラー活用調査研究 委託事業」は,教育界にかってない大きなインパクトを与える画期的な事業と して進められた。これは,この国の学校教育にはじめて外部から心理の専門家 を定期的に導入するという試みであった。ところが,学校に配属になった臨床 心理士にも,受け入れる学校側にも十分な理解と準備がないままのスタートで, 導入当初は,双方が戸惑いを隠せない状況であった。Yagi(1998)が,「日本の教. 育は縦割りで上意下達になっていて,教師が生徒の問題への対応に責任があり,. スクールカウンセラーは個人の特別な問題に対応するため学校に登場してい る」と指摘するように,同じ学校にいながら,スクールカウンセラーは独自の 活動を行っているような印象を与えた。森川(2001a)は,「この事業で明らかに なったことは,外部から導入された心理の専門家が,学校という独自の歴史と 4.
(10) 伝統をもつ組織で有効に働くためには,それぞれの学校の風土や課題に直結し,. 学校の教育目標の実現に向かって,教師と連携を図りながら,学校スタヅフと して,日々の仕事を進めることが不可欠の条件であることである。学校側も外. 部からの専門家を迎えるにあたって,学校が積極的,主体的に校内体制を整え ることの大切さを理解しつつあり,このことは今後の活動を推進する上でも, 第一に取り組まなければならない課題である。」とし,学校教育相談の新たな方 向性を示唆している。. 2.「治すカウンセリング」から「育てるカウンセリング」へ 学校教育現場へのカウンセリングの導入に際し,当初現場の教師には,「カウ ンセリングで問題行動が押さえられるのか」,「カウンセリングなんて生徒を甘 やかすだけではないか」,「忙しくて生徒の話をじっくり聞いてやれない」等,. さまざまな疑問から学校教育相談そのものに対する一種の抵抗感があった。こ れは,「カウンセリング=治療的カウンセリング」という誤解と思い込みから生. じたものと考えられるが,同時に,生徒指導に行き詰まった教師たちの「学校 現場で使えるカウンセリングテクニック」,「教師が使えるカウンセリングテク ニック」を切望する熱い想いであったとも考えられる。 そんな中で,注目されてきたのが「育てるカウンセリング」の考え方である。. 当時,児童生徒の人間関係のスキルや,総じて社会的スキルの発達の弱さが問 題として論議されていた時期でもあり,小林(2000)は,「『すべての児童生徒の. 一層望ましい発達を支援する方法としての開発的カウンセリング』や『児童生 徒のいずれもが経験する発達上の課題に,あらかじめ課題に対応できるスキル や方途を身につけるよう支援する予防的カウンセリング』は,当時の教育課題 としても重要だった」と述べ,森川(2001a)も,「学校教育相談の中心が『治療』. から,『開発・予防』に重点が移りつつある。『問題が起きてからどう対処する か』ももちろん大切なことであるが,『問題が起こらないようにするには何が必 要か』への転換である。」と述べている。. :Figure1−1からわかるように,國分ら(1998)は,学校教育現場において教師. にとって最も重要視されるべきカウンセリングとして開発的カウンセリング・ 予防的カウンセリングがあり,これらを総称して「育てるカウンセリング(國 分らによるネーミング)」としている。そして,育てるカウンセリングには,個. 人レベルと集団レベルがあり,集団レベルのカウンセリングをサイコエデュケ ーション(心理教育)と呼び,新しい教育課題である「心の教育」の具体的内 容はサイコエデュケーションであるとしている。. 5.
(11) 治すカウンセリンゲ li. 育てるカウンセりンゲ ll 開発的カウンセリング・予防的カウンセリング. /. 治療的カウンセリング. \. 集団レベル. 個別レベル. li. サイコエデュケーション ≒ 「心の教育」 学習形態 ・授業方式(訓話・情報提供・説明). ワークショップ方式(ロールプレイ,エンカウンター,スキル訓練) ・メディア方式(パンフレット,ビデオテープ). Figure1−1國分ら(1998)の概念構造の図式化(小林,2000). サイコエデュケーションを上位概念とする「育てるカウンセリング」の試み は,これまでも,人間関係の形成を主眼とした國分らの構成的グループエンカ ウンターやソーシャル・スキル・トレーニング,個の確立を主眼とした冨永ら のストレスマネージメント教育等,さまざまな形態で実践されてきた。そして, これらの主要なエッセンスを含み,最近特に注目されているのが,「ピア・サポ ート活動」である。. 6.
(12) 第3節 ピア・サポートシステムの導入 1.ピア・サポートとは 「ピア(peer)」とは,英語で「(能力・価値が)同等の人,仲間,同輩」といっ. た意味がある。したがって,「ピア・サポート」とは「仲間支援」という意味で,. 仲間が仲間の問題解決を援助するような活動をさす。つまり,高度な訓練を受 けた専門家によるカウンセリング・サービスではなく,世代や境遇,地位など が自分と同じか,または似通った立場の仲間に対して,手を差し伸べ,支援し,. 話に耳を傾けるという人間同士にみられるごく自然な傾向の延長線上にある諸 行為をさすものである。したがって,その範囲は広く,例えば,長年アルコー ル依存症に苦しむ仲間を助けるための同輩支援や,エイズ患者同士の仲間支援 等,さまざまな形で実施されてきている。 人は,困難に陥ったときや悩み事を持ったとき,最初に,仲間に相談したり,. 助けや理解を求めることが多い。また,人間には困っている人をみると支援し たり,あるいは,仲間内でのもめごとがあるとそれを調停しようという意識が 本能的に備わっているという。これをピア・サポートのシステムとして機能さ せ,特に若者に強く備わっているといわれる,ごく自然な気持ちから生まれる 同輩同士相互による共感的な支援意識を育て,学校における教育相談活動に生 かそうという研究や試みが,イギリスやカナダ,アメリカを中心に行なわれて きている。. 近年,我が国でも注目され,研究が進められてきているが,滝(2000)がいう ように,これら諸外国の取り組みは,日本とは異なる学校制度・教育制度を前提. として取り組まれ,改良され,定着してきたものであって,この点をふまえな いで「直輸入」しそのままの形で日本で実施しようというのは無理な話である。. また,制度だけでなく対象とする子どもの性格や気質といったものも当然考慮 に入れなければならない。つまり,海外の取り組みをそのまま実施するのでは なく,日本の実情をふまえながら,また,今後の改革の方向を見据えながら, これからの日本の学校教育の枠組みで無理なく実施でき,十分な成果をあげう るプログラムを作ることが必要であると考える。. 2.学校現場への導入とその意義 各種統計からも明らかなように,子どもたちが,学校生活におけるさまざま な悩みを相談する相手として第一に選ぶのは,親や教師などの大人ではなく,. 自分たちと同世代の友人である。それは,多くの子どもたちが,同世代の友人 の方が大人よりも自分の気持ちをわかってくれるし,話しやすく相談しやすい 7.
(13) と考えているからであろう。また,人は友だちからサポートされていると感じ られる空間に居るとき,より効果的に援助を受け入れることができるともいわ れている。Cole(1999)は,「同年代の仲間というのは同じような態度をし,同じ. ような興味を持ち,同じような言語を話すというだけで,もうすでに大人のカ ウンセラーや教師たちと比べ有利な資質を備えている」と述べている。子供た. ちもまた学校の中では重要な人材であるということを我々は理解する必要があ る。. ピア・サポートを学校に導入する意義について,諸富(1999)をもとに整理す ると,次のようなことが考えられる。. ①相談する側 同じ環境・時間を直接的に共有しているなど,気軽な関係であり,詳細 を十分に共感できるため,親や教師に話せない事柄でも,心を開いて話す 可能性がある。. また,相談できる相手がいることで,心の安定や所属感を得ることがで き,自己確立の助けになるのではないかと考えられる。. ②援助する側 聞くことの難しさや言葉の大切さを,体験を通して理解し,より良い人 間関係を築くためのスキルや,問題解決能力を身につけることができる。. また,必要とされているという気持ちから,貢献感や存在感を得ること ができる。. ③全体への啓発 「うちの学校にも,そんなことをしている仲間の生徒がいるんだ。」とい う意識が全校生徒に芽生え,「自分たちの問題は自分たちで。」という自己 責任の感覚が育まれる。. 8.
(14) 第4節研究の目的および方法 1 目的 以上のような点をふまえ,本研究では次の3つを研究目的とする。. ①高等学校へのピア・サポートシステムの導入に先立ち,現在の高校生の実 態と学校現場の教師の意識を調査する。. ②調査結果と,先行研究に基づいて,我が国における高校生を対象とする総 合的なピア・サポーター養成プログラムを開発する。 ③ピア・サポーター養成プログラムの学校現場での試行により,その妥当性, 有効性,問題点を検討する。. 2、方法 ① 先行研究 日本の高校生の現状を他国や他校種との比較を通して検討する。さらに,. 諸外国や日本の先行的な取り組みを整理し,共通点や相違点を明らかにす る。. ②調査研究 実践校において,生徒,教職員を対象に,高校生の悩みや相談活動につ いての質問紙調査を実施し,検討する。 ③ 実践研究 福祉や心理,または教育や医療・看護系の進路を希望する生徒を募り,. 「ピア・サポート体験学習」を実践する。そして,事前・事後調査やふり かえり表から,生徒がどのように変容したかを調べ,より効果的な,日本 の土壌にあったピア・サポーター養成プログラムを検討する。. 9.
(15) 第2章 高校生の心理 第1節 思春期の葛藤 1.自己探索の始まり 高校時代は心身両面にわたる思春期的変化を受けて,自分の内面に対する関 心が強くなり,自己の再構成を求めて,自分自身のあり方や生き方の模索・探 求を始める時期である。落合(1999)によると,普通の高校生の80%が個別性に 気づくのは,高校2年生のころで,この年齢は,昔から早まっていないという。. 高校生年齢の発達課題として,自我同一性の獲得があげられる。高校生たち は,自分が何者で,何をなすべきかを自分自身に問いかけ,その解答をみつけ ていかなければならない。しかし,久世(1982)がいうように,価値の多様化,. 役割の分化などによって特徴づけられる社会の中で,現代の青年が自我同一性 を獲得することはきわめて困難なことになっている。. さらに,高校生という時期は,大人とも子どもともつかない中途半端な立場 で自己責任を求められる。そのうえで,両親や周囲への依存を減少させ,自立 へと向かう時期である(長沼,1999)。大人の都合で,「もう大人なんだから」,. 「まだ子どもなんだから」と使い分けられると訴える高校生も多い。 宮下(1999)は,「高校時代は多かれ少なかれ自己との対話が行われるようにな. る。もの思いに沈んだり,家の中で自分の部屋に閉じこもったりすることもあ るが,それらを通じて意識的・無意識的に自己との対話を行っているのである。. そして,そのことが後になって役に立つことも多いのである。」と述べている。. 高校時代は大人と子どもの狭間で揺れ動きながら,自分探しの旅に出発する時 期だといえよう。. 2.複雑な進路選択 現在ではほぼ100%に近い中学生が高校へと進学する。したがって,多くの 中学生にとって,高校に行くかどうかが改めて問題になることはない。確かに,. 高校の学科やコースなどの種類は多様化し,幅広い選択ができるようになって はきているが,たいていの場合,中学生にとっては,自宅から通える範囲で,. 自分の成績や学力で入れる高校はどれかが問題になる。友だちがみんなそこへ 行くからという理由で選ぶ者も少なくない。. しかし,高校生にとっての進路決定はずっと複雑である。まずは,就職か進 学かという大きな選択を迫られる。そして,進学では大学・短大・専修学校・ 10.
(16) 各種学校のそれぞれで専門領域が細分化されている。大学一つ取ってみても,. 大きくは国公立・私立,理系・文系の選択,さらには,各大学が用意した多種 多様な学部・学科・コースがあり,それによって,受験科目が異なり,勉強の 仕方も変わってくる。職業では数え切れないほどの職種があり,選択の幅がよ り大きくなるものの,高卒者への求人は年々厳しい状況でもある。. 多くの高校では,2年生から自分の進路を考えた選択科目を履修することに なる。そのため,入学して間もないころから,進路希望調査を実施し,早くか ら生徒の進路意識を高める進路指導がなされている。そして,短期間で自分の 興味や関心,能力や適1生などを見極めて,行き先を自分で決めなくてはならな い。. さらに,就職にしても進学にしても,自分が生まれ育ち慣れ親しんできた地 域だけが対象とは限らない。見知らぬ土地に行くという選択も可能となる。今 度はみんな一緒というわけにはいかない。一人ひとりが考えてそれぞれが自分 の選んだ行き先へ進まなければならなくなる。. これらは,自分の一生をある程度方向づけする選択であるといっても過言で はない。高校生たちは,これまでにない重圧を経験しているのである。. 3.不安定さと生きがい 長沼(1999)によると,高校生は,中学生,大学生と比べて,ポジティブな感 情(満足感,充実感,向上心,自立感等)を感じることが少なく,ネガティブな 感情(無気力感,自己嫌悪感,疲労感,焦り等)の方が多い。満ち足りた充実感. や穏やかで落ち着いた開放感,自分の人生に意味・意義を見出していこうとす る上昇志向的な感情が,中学生ではよくみられていたのにも関わらず,高校生 になるとあまりみられなくなる。そして,大学生になって再び感じるようにな るという。中学生の頃のような外に向かう反抗心や反発心がなくなるかわりに,. 人との接触を避け,自分の内へ「ひきこもる」生徒もいる。中にはうっ状態に. なり,自らの命を絶つ生徒も出てくる。内閣府の資料では,平成11年度にお ける高校生の自殺者数は217人である。しかし,同年の中学生(84人),大学 生(45人)と比べるとかなり多く,青少年のなかでは高校生が圧倒的に多いこ とが読みとれる。. それでは,高校生はどんなときに生きがいを感じるのか。総務庁青少年対策 本部(1996)の調査結果をFigure2−1に示す。. これによると,男子の場合には,「友人や仲間といるとき」と「スポーツや趣. 味に打ち込んでいるとき」に生きがいを感じる者が約三分の二と多い。女子で は「友人や仲間といるとき」が圧倒的に多く,全体の四分の三を占める。また,. 11.
(17) 「家族といるとき」が男子に比べて多いことからも,女子は親しい人との打ち 解けた関係の中に生きがいを感じることが多いようである。. 友人や仲間といるとき. ・73.3 63.1. スポーツや趣味に打ち込んでいるとき. 43.6 叡・1 毫. 親しい異性といるとき. 家族といるとき. 21.1. 他人にわずらわされず一人でいるとき. 鴇. 社会のために役立つことをしているとき. r鵠 ●男子. ,塁器. 勉強に打ち込んでいるとき. ?落q 51ゴ2.2. 仕事にキ]ち込んでいるとき. 0. 20. 40. 60. 80 (%). Rgure2−1高校生が生きがいを感じるとき(複数回答). 高校時代は,現在の自分や将来の自分,自分の人生などを本格的に見つめ始 める時期であり,多くの高校生たちは,ありのままの自分を受け入れることに 対する不安や,将来への不安から心が不安定になっている。それゆえ,自分と 同じ不安や悩みをもつ同類の友人や仲間が一番気楽にうちとけあえるのではな いだろうか。高校生にとって,友人や仲間の存在は非常に大きく,かつ重要な ものだと考えられる。. 12.
(18) 第2節 高校生の友人関係 1.高校生にとっての友人 Table2−1は,世界11か国の高校生年齢の若者に,「学校教育の意義」を尋 ねた結果である(総務庁青少年対策本部,1999)。これをみると日本の高校生の. 場合には,アメリカやイギリス,フランス,スウェーデンの高校生と比べて全 体的に,学校教育に意義を見出している者,すなわちここにあげた8つの項目 について「あてはまる」とした者の割合が少なくなっている。「一般的・基礎的. 知識の獲得」は日本国内では二番目に多いが,11か国の中では下から二番目で あり,「職業的技能の獲得」と「自分の才能の伸長」をあげた者の割合は,11 か国中最低である。逆に,他の国の高校生と比べて「あてはまる」とする者の 割合が多いのは,「友人との友情」,「自由な時間の享受」の二項目である。こう. した結果をみると,やはり日本の高校生にとって学校は,一般教養や,職業的. 技術を身につけるところではない。ましてや自分の才能をのばすところでもな い。「高校生活を楽しむ」,それも「友だちと一緒に楽しむ」ところになってい ると考えられる。 Tabie2−1学校教育の意義(国際比較) 項. 目. 一般的・基礎的知識の獲得 専門的知識の獲得 職業的技能の獲得 学歴・資格の取得 自分の才能の伸長 友人との友情 先生との個人的接触 自由な時間の享受. イギリス. ドイツ. スウェーデン. 日本 48.5. アメリカ. 82.0. 73」. 77.0. 68.3. 71.5. 39.0. 55.0. 45.0. 30.6. 45.3. 47.3. フランス. (%). フィリピン. タイ. ブラジル. 49.2. 60.4. 69.8. 59.7. 29.4. 48.7. 40.4. 24.2. 24.5. 45.1. 韓国. ロシア. 22.3. 57.0. 61.1. 32.5. 35.7. 47.8. 35.6. 54.2. 55.8. 362. 36.7. 40.2. 64.4. 64.2. 29.1. 38.8. 47.7. 59.3. 54.7. 25.0. 24.2. 42.3. 25.0. 36.3. 55.4. 45.5. 5α9. 7Z8. 43.2. 48.3. 32.6. 28.5. 27.6. 59.9. 43.7. 74.8. 35.7. 28.6. 63.7. 43.4. 30.6. 18.8. 34.6. 27.9. 15.0. 37.准. 30.2. 10.0. 18.8. 12.3. 19.0. 40.5. 17.0. 17.3. 6.2. 30.3. 30.2. 40.2. 20.2. 18.0. 13.7. 18.7. 11.3. 9.6. 3.9. 6.2. (注)太字は,各国上位3項目を表す. 日本の高校生にとって,学校生活の中心が友だちと楽しむことであることは,. 言い換えれば,友だちの有無が学校へ行くことの楽しみを引き出す大きな要因 の一つであると考えられる。Table2−2は,さまざまなタイプの友人の有無と 「学校へ行くのが楽しい(とても+ややそう)」と答えた割合との関係を調べた ものである(ベネッセ教育研究所,2000)。これをみても,友人の有無が学校に 行くことへの楽しみに大きく関わっていることがわかる。とくに,「休み時間や. 昼休みに話す友だち」の存在は楽しい学校生活を送るうえで大きなウエイトを 占めているといえよう。また,「一緒にいて,疲れない友だち」や「困ったとき に相談し合える友だち」の存在も大きく影響していると思われる。. 13.
(19) Table2』2学校へ行くのは楽しい(「とても+ややそう」の割合)×学校での友人. 勉強やスポーツでライバルの友だち 自分の悪いところを気づかせてくれる友だち 親友といえる友だち 困ったときに相談にのってくれる友だち 困ったときに相談にのってあげられる友だち 一緒にいて,疲れない友だち 人生や社会について語り合える友だち 休育着や外出着を貸し借りできる友だち 休み時間や昼休みに話す友だち うわべだけのつきあいの友だち. (%). 嵩交へ行くのは…しい > 53.1 いない 18.6 いる 71.7 >> 41.4 いない 27.7 いる 69.1 >> 39.9 いない 29.1 いる 69.0 いる. 68.5. いる. 68.1. >>> >>>. 31.2 いない 35.7 いない. 37.3 32.4. いる. 67.8. >>>> 25.9 いない. 41.9. いる. 67.8. >. 53.3 いない. 145. いる. 67,6. >. 51.3 いない. 16.3. いる. 66.6. いる. 66.2. >>〉>> 125 いない. 63.9 いない. 54.1. 23. >10%以上>>20%以上>>>3096以上>>>>4096以上>>>>>5096以上差があるもの. 2.高校生の友だち付き合い 実際,今の日本の高校生たちは,どのような友人と,どのような付き合い方 をしているのだろうか。国内の調査をもとに検討していきたい。. Table2−3は,高校生に「仲のよい友だちの数」を尋ねたものである(ベネヅ セ教育研究所,1997)。学年・性別を問わず,「5人以上いる」生徒の割合が圧. 倒的に高い。仲のよい友だちが「いない」生徒は男子に若干みられるが,女子 にはほとんどみられない。. Table2−3仲のよい友だちの数 1人いる 5人以上いる 2∼3人いる. (%). いない. 男. 77.6. 16.5. 0.8. 5.1. 女. 79.1. 19.7. 0.5. 0.7. 1年 2年 3年. 77.9. 18.1. 0.7. 3.3. 78.5. 18.3. 0.7. 2.5. 78.4. 17.9. 0.7. 3.0. また,高校生になると誰とでも友だち付き合いができるということは少なく なってくる。このことは友だちとの付き合い方の変化にも現れてくる。. Table2−4は,総務庁青少年対策本部(1991)をもとに,友だちとの付き合い. 方について中学生と比較したものである。男女どちらかで差が10ポイントを 越えたものをまとめた。. 14.
(20) Table2−4友だちとの付き合い方の中学生と高校生の違い 男. 子. 中学生 高校生. 女. 差. 誰とでも友だちになれる 56.9 41.3 −15.6 悩みを友だちにいうことは少ない 62.6 47.3 −15.3 友だちが悪いことをしたら注意する 48.7 6t7 13.0 気の合わない者との付き合いは避ける方 45.1 56.2 11」 友だち関係はわりとあっさりしている 59.5 67.7 8.2 友だちといるより一人でいるほうが気持ちが落ち着く. 21.0. 36.8. (%). 15.8. 子. 中学生 高校生. 差. 55.2. 39.4. −15.8. 35,8. 26.6. −9.2. 60.0. 78.3. 47.3. 56.7. 9.4. 60.0. 73.4. 13.4. 29.7. 31.0. 18.3. 1.3. これをみるとわかるように,高校生になると「誰とでも友だちになれる」と 答える者は減少し,「気の合わない者との付き合いは避ける方」と答える者が, 増加してくる。高校生は中学生時代に比べて,友人を選択するようになってく るという特徴を表していると考えられる。さらに,「悩みを友だちにいうことは 少ない」という回答は高校生で減少し,「友だちが悪いことをしたら注意する」. という者が増加していることから,高校生になると,ただ遊んだり,行動をと. もにするだけでなく,互いを信頼し,言いにくいことも指摘できるような,深 い友人関係に変化していくことが考えられる。反面,「友だち関係はわりとあっ さりしている」という高校生も多く,男子だけにみられる特徴ではあるが,「友. だちといるより一人でいるほうが気持ちが落ち着く」という回答も増加してい る。友人関係がより親密にはなるが,べったりした関係ではなく,互いの生活 や独自性を尊重し合えるような付き合い方を求めているのではないかと思われ る。. 3.悩みの相談相手 高校時代は,友人関係や恋愛関係などで充実した生活を送る一方,それらに 対する悩みや不安が非常に多くみられる。そんなときに,気持ちを十分にわか ってくれる,自分と同じ立場の友だちに相談することが多い。そして,そうい う友だちの存在が高校生を落ち着かせてくれる。. Table2−5は,前出の総務庁青少年対策本部(1999)による,世界11か国の青 年を対象にした「悩みの相談相手」に関する調査結果である。すべての国で, 「友だち」が「母親」とならんで高い割合を占めている。とくに,日本と韓国. では,悩みを「友だち」に相談するという者が,他に比して圧倒的に高い割合 となっている。. 15.
(21) Table2−5悩みの相談相手(国際比較). 項目. 日本. アメリカ. イギリス. ドイツ. フランス. スウェーデン. 韓国. (%). フィリピン. タイ. ブラジル. ロシア. 父親. 21.9. 32.9. 39.4. 38.9. 21.1. 34.8. 16.8. 47.9. 48.6. 33.0. 2t8. 母親. 45.9. 56.2. 64.3. 59.3. 53.0. 60.3. 38.4. 75.7. 66.3. 60.3. 55.6. きょうだい. 19.3. 30.2. 33.8. 21.4. 28.0. 34.3. 29.5. 39.6. 24.6. 20.8. 12.1. 恋人. 20.9. 32.6. 37.4. 25.1. 37.0. 31.7. 14.3. 12.3. 4.3. 14.7. 2L9. 友だち. 75.2. 54.7. 67.4. 56.7. 51.7. 71.9. 79」. 48.3. 37.2. 22」. 55.6. (注)「友だち」:「近所や学校の友だち」,「職場の同僚」,「団体・グループなどの仲間」のどれかを選択した者の割合. 太字は,各国上位3項目を表す. また,Table2−6は,ベネッセ教育研究所(2000)が,高校生の悩みの相談相 手と自己受容の関係を調べたものである。. Table2−6不安や悩みを誰に相談するか×今の自分が好きだ. (%) まったく好きでない. とても好き. 友だち. 親. 誰にも相 遷しない. 友だち. 親. 誰にも相 噛しない. 1.友だちとのトラブル. 77.8. 5.4. 13.2. 64.4. 2.4. 26.0. 2.友だちからいじめられたとき. 51.8. 15.1. 19.9. 38.6. 10.6. 425. 3.異性の友だちができない. 64.1. 0.6. 28.1. 50.2. tO. 44.9. 4.異性の体への興味・関心. 699. t2. 247. 51.2. tO. 415. 5.自分の髪型や服装が似合わない. 57.5. 8.4‘. 24.6. 54.6. 5.3. 29.5. 6.自分の容姿やスタイルやダイエット. 51.8. 13.9. 24.7. 44.7. 6.7. 39.4. 7.自分の一山や体のにおいが気になるとき. 26.1. 18.2. 44.8. 16.3. 16.8. 55.3. 8,やりがいのある打ち込めるものが欲しい. 55.7. 10.2. 23.4. 3&3. 5.8. 48.1. 9.生きる目的が見つからない. 41.6. 14.5. 32.5. 33.8. 8.6. 49.8. 10.成績が落ちた. 43.7. 2t6. 20.4. 32.7. 13.9. 428. 判,将来,何をしたらいいのか迷う. 32.9. 37.1. 16.2. 29.6. 23.8. 3t6. 12.親の希望と異なる進路選択を考えるとき. 39.2. 18.7. 18.7. 33.6. 18.6. 43.4. 16.
(22) これをみると,自己受容の高い者は,すべての項目で「友だち」に相談する 割合が高く,「親」や「誰にも相談しない」割合が低くなっていることがわかる。. 自己受容の低い者は,深刻な悩みや不安を一人で抱え込んでしまい,ますます. 深みにはまっていくのではないだろうか。悩みをより一層深刻にさせないため には,生徒たちの「友だち関係」が重要であると考えられる。. 人間関係が希薄で表面的なつきあいしかできないといわれる高校生にとって。. 友だちが悩みや不安の解消に大きな役割を担っていることに改めて驚く結果で もある。. 独自性が芽生え,一人歩きを始めた高校生は,気軽に大人の支えを頼ること は減ってくる。直接人に聞きにくいことや言い出しにくいこともある。そんな ときに,同じような状況にいる友だちがどう対処しているのかを知ることがで. きると,安心した気持ちになれる。自分だけではなく友だちもそうなんだと感 じることで自分を受け入れることができる。気持ちが揺れやすく,心理的に不. 安定な時期にある高校生にとって,信頼できる友だちは何にも代え難い存在で あるといえよう。. 17.
(23) 第3節高校生の社会的スキル 高校生は悩みや不安を友人や仲間に相談することが多いとわかったが,その 友人関係で悩みをもつ者も多い。また,相談された方がどのようにして相談に のってやればよいか悩んでしまい,それが重荷となって体調不良を訴え,保健 室を訪れる生徒がいると聞く。若者のコミュニケーションスキルをはじめとす る人間関係スキルの低下は,年々進み,人とどう関わったら良いのか分からな いという若者が増加しているという。 総:務庁青少年対策本部(1999)は,日本の青年における社会的スキルの特徴を. 他国との比較から明らかにしている。「人との接し方」についての質問に対する 回答として「いつでもできる」「何とかできる」「できない」「分からない・無回. 答」のうち,各スキルに関して「いつでもできる」と回答した割合を加算し, それを高い順に国ごとに並べてみたのが,:Figure2−2である。. イギリス. 85」. 72.9. アメリカ. 683. 67.7. フイリピン. 53. 53.9. フランス. 34.8. 49.3. スウェーデン. 59.4. 35.3. 50.3. 1. ブラジル. ∴64.1・. 84.3. ・一 5t1≡ヨ. 85.3、・:・. 49」. !:・59B:. 67.1. ’:47.3∴. 26.2圓1======68.9======正≡≡≡44.1≡≡≡ヨ. 1. 韓国. 0,8■【==47・’・’. R9.1. タイ. R3.9. 日本. 26.6 3.1. ドイツ. Q4. ロシア. Q2.8. R7.5. @33.8 .・:55.2・:・::. 囮なだめる. @ 24.5ヨ. 拷?b開始 。輪に参加 ?モる. Q7.2ヨ. R5■【:25.9王27.6ヨ. @. 0. ・’68.3∵. 32≡ヨ. レうまくやる. 1. 25.5■=32.3=至20.8ヨ. 50. 100. 150. 200. 250. 300. 350. 400. Figure2−2人との接し方「いつでもできる」. グラフの棒が長いほど,総合的な社会的スキルの程度が高いことを意味する. が,日本は11か国中9位である。社会的スキルの程度が低い,あるいは社会 的スキルの表現法が消極的であるといえよう。さらに細かくみると,日本の青 年は「何か失敗したときに,すぐに謝る」ことは「いつでもできる」(55.2%) が,「知らない人とでも,すぐに会話を始める」ことや(32.1%),「話し合いの. 18.
(24) 輪の中に,気軽に参加する」ことは(33.8%),「いつでもできる」とは限らな. いことがうかがえる。「相手が怒っているときに,うまくなだめる」ことや (26.6%),「自分とは違った考えをもっている人とうまくやっていく」こと (27.2%)になると,さらに「いつでもできる」割合が減ってしまう。日本の. 青年は,自分が何か失敗したときにはすぐに謝り,自分の方から他者との関係 を開始せず,対人的な問題に適切に対処するのは苦手という消極的な特徴が浮 かんでくる。. 各国の文化的背景や国民性によって,社会的スキルの程度や,その表出方法 が異なるが,一般に日本人は,自己の立場を守り通すのではなく,自己の非を 認め(あるいは認めたような態度を示し),詫びることで対人関係を円滑にしょ. うとする。それは,例えば,相手の感情を静めるためだけではなく,感謝の意 を表すときでさえ「すみません」という言葉を用いることにも現れている。こ. の調査結果は,このような日常の対人行動のスタイルを反映した結果だといえ よう。. 思春期の葛藤に揺れ動く高校生たちが,一番頼りにするのは,彼らの身近に いる,彼らと同じ立場の友人である。そして,彼ら自身も,友人にとって自分 がそういう存在でありたいと願っている。にもかかわらず,相手にどう話しか ければよいのかわからないといったスキルの未熟さによる自信の欠如から,友 人に十分な支援を与えることができず,そのことに対して不安や無力感を感じ ているとしたら,我々大人は考えなくてはならない。つまり,高校生たちに支 援のスキルを身につけさせ,その質について自信を深めることができるような 機会を与えてやることが必要なのではないだろうか。. 19.
(25) 第3章 ピア・サポートに関する先行研究 第1節 学校におけるピア・サポート 1.ピア・サポートの定義 第1章・第3節でも述べたように,「ピア(peer)」とは,「(年齢,地位,能力. などが)同等の者,仲間,同輩」と訳され,ラテン語で「等しい,似た」とい う意味の‘‘p蕊r”に由来する。例えば英語の“pair, par”もこの語源によると いう(西山,2001)。「サポート(SUPPQrt)」は,文字通り援助・支援。したがっ て,「ピア・サポート」は,「仲間支援」や「同輩支援」と訳されることが多く,. 仲間が仲間の問題解決を援助するような活動を指す。 国や研究者,あるいは扱う内容等によって,「ピア・カウンセリング」,「ピア・. ヘルビング」等いろいろな名称で呼ばれているが,代表的な定義を掲げておく。. (1)Peer ResouTces(カナダの世界的なピア活動の:NPO支援組織)がホーム ページの中で,紹介している「ピアヘルビング」の定義 「ピアヘルビングとは,簡単には,誰かが誰かを助けることです。人はフラ ストレーション(欲求不満),悩み,心配などがあると,誰かから援助,ア. ドバイス,支持を得ようとしますが,たいていの場合,その相手は,友人 であり,専門家ではありません。. 私たちの仕事は『友人として出来ること』を強化することであり,それ ・ によって,ひいては,その本人の満足のいく,解決策を自分でみつけられ. る力を促進していくことをねらっています。友人は,さらに,専門家に相 談ずる必要があるかの判断を援助したり,また,数多くのジレンマを解決 していく上で,共感,理解や実質的な援助もしていきます。. ピアヘルビングはどこでも出来ます。小・中・高校が最も盛んに行われ ていますが,大学,病院,クリニック,コミュニティーセンター,組合, 職場などでも行われています。. ピアヘルビングは,年齢にも制限がありません。小さい子から,ティー ンエイジ,青年や年輩(シニアシティズン)の方々にも利用されています。. ピアヘルプというのは,いろいろなプログラムの総称として,使われて います。」. 20.
(26) (2)ASCA(全米スクールカウンセリグ協会)がThe National Standerds for school counsehng programs(スクールカウンセリングプログラム国家基準). の基本用語解説の中で,説明する「ピア・ファシリテーション」の定義. 「子ども同士の援助活動。カウンセラーではなく子どもが,ヘルビングの スキルと概念を使って,他の子どもの学習や自己探求や紛争解決や意思決 定を援助すること」とし,. 「ピア・ファシリテーターは,ピア・ヘルパー,ピア・チューター,ピア・. カウンセラーなどとも呼ばれる。子どもはカウンセラーに匹敵するような 専門的活動をするわけではないので,ピア・カウンセラーよりもピア・フ. ァシリテーターのほうがよいとする意見が多い。ASCAも1978年文書で はピア・カウンセラーを使っていたが,1984年文書でピア・ファシリテー ターに改めた。『全米ピア・ヘルパー協会』(1984年創立)は,1990年にピ ア・ヘルパーの倫理綱領を定めた。」と説明を加えている。. (3)Cowie&Sharp(1996)による「ピア・カウンセリング」の定義. 「高度な訓練を受けた専門家のカウンセリング・サービスではなく,同じ か似かよった年齢グループに属する相手に対して,手を差しのべ,支援し,. 話に耳を傾けるというごく自然な傾向(これは,ほぼすべての社会グルー プにみられる傾向である)の延長線上にある諸行為を指す」. (4)Cole(1999)による「ピア・サポート」の定義. 「ピア・サポートは,生徒たちが困ったことや心配ごとや悩みがあると き友だちに相談することが最も多いという事実に基づいたものである」と し,カナダのピア・プログラムの第一人者であるCarr(1981)の次の文章を 引用している。. 「基本的には,ピア・サポートとは生徒たちに他の人を思いやることを学 ばせ,その思いやりを実践させる方法のひとつです。そのため自己探求と 意思決定を可能にさせるだけのコミュニケーションスキルがかなめになつ てきます。ピア・ヘルパーはプロのカウンセラーやセラピストではありま せん。彼らは,彼ら自身も生徒でありつつ,仲間の生徒が問題を結論まで じっくり考えたり現在抱えている悩みを見つめたいというときに,きちん としたスーパービジョンの下で援助していく斜なのです。」. 21.
(27) (5)森川(2001b)による「ピア・サポート」の定義 「ピア(Peer)とは,同年代の仲間,同輩を指す言葉で,サポート(Support). は,支える,支援することを意味し,不安や悩みや問題を抱える人に対し て,支援するための援助法を学んだ専門家ではない仲間が,困っている仲 間を助ける仲間同士の支え合いの活動のことである。」 (6)滝(2000)による「ピア・サポート」の定義. 「ピア・サポート・プログラムは,ゲームやロールプレイングを活用した 体験的なトレーニングを通して子どもたちの基礎的な社会的スキルを段階 的に育て,それによって子ども同士が互いに支えあえるような関係をつく りだそうとする取り組みです。」 (7)高村(1999)による「ピアカウンセリング」の定義. 「ピアカウンセリングのピアとは友人・仲間のこと,ピアカウンセリング とは仲間相談活動のことである。この方法は,思春期の子供たちが何より. 信頼する者は,親でもなく,教師でもなく,生きる価値観を共有・共感す る友人・仲間であるということに理論的根拠を置いている。」 (8)鬼塚(1999)による「ピアカウンセリング」の定義. 「ピアカウンセリングとは,人間の成長と心の健康に関する知識とともに,. アクティブ・リスニング(積極的傾聴)と問題解決スキルを用いることに よって,ピア(仲間)の意識をもって行なう相談活動である。」. Cowie&Sharp(1996)によれば,同輩i支援の形には,知られているだけでも, 30を超えるバリエーションがある。ピア・アンバセダー(同輩大使),ピア・フ ァシリテ一続ー(同輩ファシリテーター),ピア・ヘルパー(同輩ヘルパー)といっ. たものであるが,カナダ・ナショナル・ピア・ネットワークでは,メンバープ ログラムの38%が,「ピア・ヘルパー(同輩ヘルパー)」という名前を使い,35% が,「ピア・カウンセラー(ピア・カウンセラー)」という語を使用し,12%が「ピ. ア・サポート・ワーカー(同輩支援ワーカー)」という語を用い,2%が「ピア・ ファシリテーター(同輩ファシリテーター)」という語を使い,残りの13%が「ピ ア・チューター(同輩個別指導員)」,「ピア・アシスタント(同輩アシスタント)」,. 「ピア・エデュケーター(同輩教育者)」といった言葉を使用している。. 学校現場での具体的な仲間支援においても,ピア・サポートをはじめ,ピア・ 22.
(28) カウンセリング,ピア・ヘルビングなど,さまざまなバリエーションがあるが,. 専門的な知識や技能をもった者が行なう,いわゆる“Professional Counsehng”. との混同を回避しようとする動きから,最近,アメリカでは主に“Peer Helping”,カナダやヨーロッパ,オーストラリアでは主に“Peer Support”と する傾向がみられる。Cole(1999)もその著書の中で,「ここでは,プログラムの 名称を『ピアカウンセリング』ではなく,『ピアサポート』と呼ぶことにします。. カウンセリングは専門家の領域で,カウンセラーになるには長年にわたるトレ. ーニングが必要です。ですからカウンセリングという言葉を使うことで,生徒 や保護者,あるいは教育専門家らを混乱させたり,カウンセラーとしてのスキ ルを身につけるよう子どもたちに期待してしまうことを避けたいと思います。」 とし,「現在ではピアプログラムを『ピアサポート』,プログラムのトレーニン. グを受けた生徒を『ピアサポーター』または『ピアヘルパー』と呼ぶことにし ました。」と述べている。. 日本においても,カウンセリングやカウンセラーというカタカナは,専門性 が強いイメージがあり,学校現場の教師からの抵抗が強く,実施に踏み切れな い傾向もみられるため,「ピア・サポート」と名称を統一した方が良いという考 えが主流になってきている。. 本論文では,特別な場合を除いて,「ピア・サポート」の名称を用い,とくに 学校におけるピア・サポートを, 「コミュニン こ_こ援念巳:=訓練を受けた子どもたちが,悩み事や心配事や. さまざまな問題を抱えた子どもたちの話を聞いたり,相談にのったり,友だ ちになったりして支援する活動の総称」 と定義する。. 2.学校におけるピア・サポートの特色 学校におけるピア・サポート活動は生徒のもつ力を信頼し,日頃子どもたち が考える思いやりの心や,支え合いの気持ちを,学校生活のなかで実際に発揮 させ,人間関係の大切さを身につけ,学校生活を豊かにする活動である(森川,. 2001a)。また,支援の活動の内容も生徒の創意工夫で色々な活動に発展させる ことが可能である。実際,カナダの場合3,500種類のプログラムが展開されて いるという。西山(2001)は,学校における実践活動をその内容や方法により,. 7類型に分類し,Figure3−1のようにまとめている。. 23.
(29) 相談活動. ピアカウンセリング中心。 傾聴活動,よりカウンセラー的。. コンフリクトレゾリューション,. ピア・ミディエーション中心。. 仲間感で問題を解決する。. 仲間づくり. ピアサポ ート活動. アシスタント. 学習支援. 指導・助言. グループリーダー. バディ活動(Be Fhending)中心。. 仲間でいることに専念。. ピアアシスタント。学校業務補助。. ピアチューター中心。. 教科の得意な生徒が仲間に教える。. ピアメンター中心。喫煙・飲酒の 撲滅運動の一環など。. 小集団のグループ活動のリーダー。 グループカウンセリングなど。. 目gure3−1 ピアサポートの概念的整理(西山,2001). Coleは,東京での講演(2001.11.3)で,ピア・サポートの意義を次の ように述べている。. ①ピア・サポートとは,子どもたちは悩みを抱えたり,困ったとき,自分の 友だちに相談することが最も多いという事実に基づいている。. ②ピア・サポートとは,生徒たちが他の人を思いやることを学ぶための一つ の方法である。. ③ピア・サポートを行うには,コミュニケーションスキルに拠るところが非 常に大きい。. ④ピア・サポートとは,子どもたちが他の生徒を助ける人的資源となれるよ うに支援することである。彼らを支援することで,仲間をケアすることの模. 範を他の子に示すことにもなり,やがては,思いやりにあふれる学校環境を 作りだすことにもつながる。. 24.
(30) また,森川(2001a)は,学校でのピア・サポート活動の特色を,次のようにま とめている。. ①学校教育目標を達成する教育活動である。 ②教育課程に位置づけられた活動である。 ③教師の指導(外部専門家との協力を含む)・援助のもとに行われる組織的な 教育活動で,最終的に学校長が責任を負う。. ④生徒の自発性,自主性を尊重し,校内に思いやりの心,助け合いの風土を 形成する。. ⑤指導のための恒常的な教員組織(ピア・サポート係または委員会等)を設 け,トレーニングをはじめピア・サポート活動の運営に参与する。. ⑥教師の支援のもと,活動のためのチームを形成し(既存の生徒会・委員会 の活用事例もある。また希望者を募ってチームを結成する事例もある),支 援に必要な考えや技法を継続的なトレーニングによって学ぶ。. ⑦学校の風土にあった,生徒のできるさまざまな多様な援助活動(プログラ ム)を展開する。 ⑧ ガイダンスの機能を生かした,一般生徒を対象にした諸活動(例えば学級 における構成的グループエンカウンターの実践,ソーシャル・スキル・トレ ーニング等)は,ピア・サポート活動を支える基盤的な活動と位置づける。. 25.
(31) 第2節 諸外国における取り組み 1.ピア・サポートの歴史 仲間同士支援し合うという活動が,人間が本来もっている能力を使い,自然 に行われてきたものならば,その起源をたどるのは難しい。ここでは,教育現 場において,子ども同士が支援し合うというピア・サポートの考え方が導入さ れてきた経緯を,森川(2000,2001b),高村(1999)を参考にまとめてみる。. 学校におけるピア・サポート活動の発祥はカナダで,今から25年ほど前に さかのぼる。1970年代の後半,カナダでスクールカウンセラーが各学校に配置 され活動を始めたが,なかなか生徒の中に浸透しなかった。当時ブリティッシ ュ・コロンビア大学の教授レイ・カー博士(D正Rey Carr現Peer Resources President)が,現場のスクールカウンセラーと協力し,中学生・高校生を対象. にした大がかりな意識調査を実施,その結果,生徒は学校生活を通じ勉強・進 学・友人関係・職業の選択等さまざまな悩みや問題を抱えているが,大人に相 談することは少なく,生徒の約80%は仲間同士で相談し合い問題を解決してい るという実態が明らかになった。. この点に注目したカー博士らは現場のカウンセラーや教師と相談し,スクー ルカウンセラーの活動の中心に,①自助を基本とする(セルフヘルプ)②生徒 がお互いに助け合える指導をする(ピアヘルビング)の考えが導き出され,ス クールカウンセリングを展開する新たな方向が打ち出された。当時「セルフヘ ルプ・ムーブメント」,「ピアチュータリング」と呼ばれ,1979年バンクーバー. を中心に生徒のトレーニングが始まり,短期間のうちにカナダ全土に広がって いった。現在では,いじめ問題,個別の生徒の悩み相談,特殊教育,キャリア. に関する啓発,新入生のオリエンテーション等,約3500のピア・サポート・ プログラムがカナダの初・中・高等学校で実施されている。. イギリスにおいては,いじめへの介入プログラムとしてピア・サポートが取. り入れられた。1990年から1993年にかけて,イギリスのシェフィールドで, 教育省の助成を受けた「いじめ介入プロジェクト」が実施された。それは,全校 的『反いじめ指針・対策』を生徒,教職員,理事会,親が1年をかけてつくり あげ,指針の具体的な手だてとなるようないじめ介入策をさまざまに展開した 大掛かりなプロジェクトであったが,ピア・サポートはその時の介入策の一つ である。いじめ対策としてのピア・サポートは,その後アクランド・バーリー 校でも採用された。そのときの様子を映し出したドキュメンタリー・フィルム. (ウィンドブオール・フィルムズによって制作され,1994年4月にBBCテレ 26.
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