第3章 ピア・サポートに関する先行研究
第3節 日本における取り組み
1.日本の教育現場への導入
インターネットのヤフー(Yahoo Japan)で,「ピアサポート」を検索すると 約900件,「ピアカウンセリング」を検索すると何と3000件近いホームページ が紹介されている(2001年12月現在)。とくにここ2年間における増加は著
しく,我が国においても,ピア・サポートへの関心が高まってきていることが うかがえる。中でも特徴的なのは,障害者の自立支援や,社会福祉,医療福祉 の分野での比重が多いことである。日本文化の中で外来語が普遍的になるまで に,さまざまな解釈が積み重ねられている。ピアという言葉も例外ではなく,
今までの解釈の主軸は,医療・福祉の領域の「同じ病気にかかっている,ある いは同じ身体障害をもっている同士」と規定し,そこにカウンセリングを導入 している活動が「ピア・カウンセリング」であった。『現代用語の基礎知識2000 年版』で「ピア・カウンセリング」を引くと,「自立生活を実現した,あるいは 実現しつつある障害者が,これから自立を考えようとしている身障者に,自分 たちの経験を通して行う援助活動」と説明されていることからも,医療・福祉 領域の専門用語というとらえ方が根強く残っていることがうかがえる。
学校教育の分野においても,児童会・生徒会の行事運営や簡単な悩み相談,
あるいは小学校の集団登下校など,広い意味での仲間支援の活動は,古くから 存在する。しかし,諸外国にみられるようなピア活動に関する研究や実践が広
く行われるようになったのは,ここ数年のことである。
森川(2001b)によると,日本の学校教育関係で,諸外国のピア活動に最初に注 目し実践に手をつけたのは,石川県教育センターの徳田健一であった。徳田は 1984年頃から,たまたまAET(英語助手)として来日したアメリカ人教師か ら,アメリカでのピアカウンセリングの事情を聞き,生徒同士が支え合う活動 の大切さに共鳴,日本での生かし方について研究し,1988年から教育センター の事業の一つに,登校拒否(当時)高校生の合宿を計画実施した。心に問題を 抱える生徒たちが心を開き合ってお互いに支え合う活動に大きな意義を感じ,
以後,石川県教育センターでは,この活動を継続している。この活動から1995 年頃,金沢大学付属中学校の養護教諭河田史宝の実践が生まれ,養護教諭を中 心にしたさまざまな実践(ピアの会)や金沢西高校生徒カウンセラー活動など が続いている。
性」を育てることを主目的にしており,仲間同士の連帯感・呼びかけが促進さ れるプログラムであった。
性教育の分野でも,自治医科大学看護短期大学の高村らが1992年「ヒュー マン・セクシュアリティ」をテーマとするセミナーを受講した看護学生を「ピ ア・カウンセラー」にして,地域の公民館で付近の男女高校生を集め,相談や教 育を行わせたことから始まり,1993年には,小山市で学校保健と地域保健との 連携による「仲間教育講座」が実施され,1994年には小山市の生涯学習センタ ーで,月1回悩みをもって訪れる中学生や高校生に「仲間カウンセラー」が相談
に応じたり,高校へ出掛けて仲間教育を行ったりなど,活動の輪を広げていっ た。最近では,高知県の保健部健康政策課が,県の主催でピア・カウンセリン グの講座を開講し反響を呼んでいる。
その後,1994年にイギリスのアクランド・バーリ一校での取り組みがテレビ で放映される等,さまざまな海外の取り組みが紹介されてくる中で,日本のピ ア・サポートに関する実践活動が,1995年横浜市立涼台中学校を皮切りに,
1997年前橋市立鎌倉中学校,1998年横浜市立本郷中学校,1999年千葉i県立津 田沼高校等,単発的ではあるが,展開されていった。
近年では,海外のピア・サポート活動を指導したり参加したりする者同士の 間での交流も盛んに行われ始めた。
1996年には,アクランド・バーリー校の生徒が来日,本郷中学校の生徒と交 流している。さらに同校では,1997年にカナダからトレーバー・コール博士を 招き,ワークショップを開催,これを契機に1998年,横浜では,国立教育研 究所の滝を顧問とする「横浜ピア・サポート研究会」が発足した。2000年の国 立教育研究所主催「生徒指導国際フォーラム2000」では,イギリスのヘレン・
コウイー博士を招き,「ピア・サポートの技法を活かした生徒指導の取り組み」
と銘打って,実践報告や活発な意見交換が行われた。
また,日本学校教育相談学会では,有志による海外研修が1997年忌ら始ま り,毎年カナダで直接コール博士のワークショップに参加し,指導を受けてい る。さらに,国内においても,コール博士とデビヅト・ブラウン先生を招いて,
2000年には講演会,2001年忌は「ファシリテーター養成のためのピア・サポ ートワークショヅプ」を開催し,指導者の輪を広げようとする試みがみられ,
国内でピア・サポート活動の専門家からの指導も受けられる体制が整いっっあ
る。
現在,試行的に始められているピア・サポートプログラムにおいては,日本 の学校現場に定着する内容となるよう,国内外の先行例から個々の現場に即し たプログラムを開発・実施する段階にあるようである。
2.日本における実践
現在,日本各地でピア・サポートに関するさまざまな研究や実践が,先進諸 外国の取り組みを参考にして進められているが,滝(2000)がいうように,これ ら諸外国の取り組みは,日本とは異なる学校制度・教育制度を前提として取り組 まれ,改良され,定着してきたものであって,この点をふまえないで「直輸入」
しそのままの形で日本で実施しようというのは無理な話である。また,制度だ けでなく対象とする子どもの性格や気質といったものも当然考慮に入れなけれ
ばならない。
田邊(1999)は,ピア・サポートをその関わり方により3段階に分けて整理し
ている(Table3−1)。
Table3−1ピア・サポートの3段階(武田 1998を基に田邊が作成)
段 階 内 容 指導者の関わり
PC1
・集団内の問題の所在に関する ・ピア・エジュケーシピア・コミュニケーシ 情報収集(ニーズ理解)。 ヨンが可能となる
ヨン ・ある問題に関しての正確な知 ような正確な知識,
(Peer 識,情報の提供(ピア・エジュ 情報のリーダーへ
Communication) ケーション)あるいは相互交
キ。
の教育援助。
PC2
・相互理解が深まり,相互の自己 ・ 日常生活における ピア・チャヅティング 開示が促進され,問題や悩みが 対人関係スキル,(Peer Chatting) 共有され,カタルシスが得られ コミュニケーショ
るようなおしゃべり。 ンスキルの教育援
普B
PC3
・受容,共感,真実性を中心とす ・カウンセラー養成ピア・カウンセリン る本格な相談援助活動。 のための教育援助。
グ ・自己洞察の促進から問題解決
(Peer Counseling) のための行動変容を促す相談
援助活動。
また,現時点での我が国での取り組みを次のように分類・整理している。
学校におけるピア・サポートの類型(田邊による分類,1999)
(1)ピア・カウンセラー養成型
ピア・カウンセラーを養成して,実際に児童生徒の相談活動を担わせる方 向性を持ったもの。諸外国の実践例にほぼ近い形。
①自治医大方式
自治医科大学看護短期大学の高村らによる実践。学生を性教育に関する ピア・カウンセラーとして養成し,「高校生の思春期講座」や「ピア・ハ ウス」の実践を試みる。
②内部養成方式
文教大学の森川による実践など。前橋市立鎌倉中学校でスクールカウン セラーとして取り組む。学校内部の生徒をピア・カウンセラーとして養 成し相談活動を行なう。
(2)コミュニティ育成型
特定のピア・カウンセラーに相談活動を担わせるのではなく,学校コミュ ニティ全体にPC2レヴェルの雰囲気を醸し出していこうという方向性を
持ったもの。
①旧来方式
クラスや部活動の友人を活用した試み。
②委員会方式
北海道網走南ヶ丘高等学校の瀬戸による実践など。保健委員会を学校体 質改善の場へと変えていった実践。
1997年にスタートし,現在5期生(110名)のピア・サポーターが活動する 前橋市立鎌倉中学校では,個別の相談活動に加えて,定期的な「ピア・サポー
ト新聞」の発行や,全校を対象にした「ワイド相談」の実施等,さまざまな先 進的取り組みがなされ,「ピア・カウンセラー養成型」の代表的な実践例といえ
よう。
これに対し,「コミュニティ育成型」の例としては,横浜市立本郷中学校のピ ア・サポート委員会の活動がある。委員に期待されるのは個別の相談活動では なく,それぞれ自分のクラスやクラブで「草の根」的に子どもたちの間の雰囲 気や関係を良くする核となることである。これらの実践を含む「横浜ピア・サ ポート研究会」の実践において,滝(2000)は,彼のいう「日本のピア・サポー