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第3章  ピア・サポートに関する先行研究

第2節  諸外国における取り組み

1.ピア・サポートの歴史

 仲間同士支援し合うという活動が,人間が本来もっている能力を使い,自然 に行われてきたものならば,その起源をたどるのは難しい。ここでは,教育現 場において,子ども同士が支援し合うというピア・サポートの考え方が導入さ れてきた経緯を,森川(2000,2001b),高村(1999)を参考にまとめてみる。

 学校におけるピア・サポート活動の発祥はカナダで,今から25年ほど前に さかのぼる。1970年代の後半,カナダでスクールカウンセラーが各学校に配置 され活動を始めたが,なかなか生徒の中に浸透しなかった。当時ブリティッシ ュ・コロンビア大学の教授レイ・カー博士(D正Rey Carr現Peer Resources President)が,現場のスクールカウンセラーと協力し,中学生・高校生を対象

にした大がかりな意識調査を実施,その結果,生徒は学校生活を通じ勉強・進 学・友人関係・職業の選択等さまざまな悩みや問題を抱えているが,大人に相 談することは少なく,生徒の約80%は仲間同士で相談し合い問題を解決してい

るという実態が明らかになった。

 この点に注目したカー博士らは現場のカウンセラーや教師と相談し,スクー ルカウンセラーの活動の中心に,①自助を基本とする(セルフヘルプ)②生徒 がお互いに助け合える指導をする(ピアヘルビング)の考えが導き出され,ス クールカウンセリングを展開する新たな方向が打ち出された。当時「セルフヘ ルプ・ムーブメント」,「ピアチュータリング」と呼ばれ,1979年バンクーバー

を中心に生徒のトレーニングが始まり,短期間のうちにカナダ全土に広がって いった。現在では,いじめ問題,個別の生徒の悩み相談,特殊教育,キャリア に関する啓発,新入生のオリエンテーション等,約3500のピア・サポート・

プログラムがカナダの初・中・高等学校で実施されている。

 イギリスにおいては,いじめへの介入プログラムとしてピア・サポートが取 り入れられた。1990年から1993年にかけて,イギリスのシェフィールドで,

教育省の助成を受けた「いじめ介入プロジェクト」が実施された。それは,全校 的『反いじめ指針・対策』を生徒,教職員,理事会,親が1年をかけてつくり あげ,指針の具体的な手だてとなるようないじめ介入策をさまざまに展開した 大掛かりなプロジェクトであったが,ピア・サポートはその時の介入策の一つ

ビによって放映された)は,このプロジェクトの原理・手法についての関心を,

国内外で大きく高めることとなった。我が国でも,英国での放映のニヵ月後,

1994年6月にN:HK:で『いじめ追放の試み一イギリス,ある中学校からのリポ ート』として放映された。

 一方,性教育の分野でも時期を同じくして,ピア・サポートの機能を活かそ うとする試みがなされている。

 英国家族計画協会が1972年に設立した教育部門が始めたグレープパイン(ぶ どうの木)活動という仲間教育は,まさにピア・サポートの考え方が基本にな

っている。

 これは,地域で正しい性情報や助言を若者に伝えるためのセンターを設置し,

ここに二人の専門職(教師の資格をもつ20代後半から30代初めの人)を置き,

そこで17〜25歳くらいの若いボランティアを募り,正しい性情報を伝えるこ とができるように教育して,彼らを学校,クラブ,パブなどに派遣し,仲間に 情報を与えさせるのである。また,このセンターでは,ボランティアによる電 話相談も行っていた。この費用は家族計画協会とロンドンの教育委員会が負担

し,相談料は無料である。年間数千人位がこのサービスを利用していた。

 アメリカでは1976年からミルウォーキーの家族計画協会で仲間教育が実施 され,その効果が高く評価されて全米各地やカナダの家族計画協会などで行わ

れている。

 また,ブラジルのサンパウロ大学の産婦人科では,既に1972年から思春期 外来を設け,そこで「前回教育」の試みを始めたということで,当時はこのよう な活動を批判的な目でみるものが多かったのにもかかわらず,その後23年間 にわたり人材が蓄積され,ここから育っていった多くのピアエデュケーターた ちが,1995年現在各地で活躍していると報告されている。そして中南米の多く の国々では,深刻な「10代の望まない妊娠」対策のために多くの手段が用いら れているが,その中で「ピアカウンセラー」の育成が最も重要と考えられている。

 このように,性に関する仲間教育・仲間支援は,世界各地に広まっており,

ヨーロッパ家族計画協会や国連の中でも,その効果が高く評価されている。

 そして,ピア・サポートの理念を基本とする活動は,世界的な規模に広がり つつあり,学校や教育現場だけでなく地域や高齢者や職場,障害者等さまざま な活動に発展し,今日を迎えている。

2.先進国の取り組み

 ここでは,ピア・サポートの先進諸外国における,現在の実践プログラムや 実際の活動について,Cole(1999), Yagi(1998),諸富(1999), Cowie&

Sharp(1996),廣田・飯田・石橋・右田(2000),滝(2000)をもとに整理する。

(1)カナダにおけるピア・サポート

  カナダの場合,初等学校では一般の教員が中心になって行うことが多いが,

 中等学校では常勤のスクールカウンセラーが取り組みの中心になることが多  い。生徒を対象としたピア・サポートの養成トレーニングは通常8週間にわ  たって行われる。1回のセッションは通常45分である。また,学校外の施設  を使った一日研修会も合わせて行われる場合もある。

  トレーニングの内容は,傾聴・質問等のコミュニケーションスキル,問題  解決と意思決定のスキル,対立解消のプロセスとスキル(ピア・ミディエー  ション),守秘義務とその限界,個人プランニング等である。

  これらのトレーニングを受けたピア・サポーターは,学習の手助け(チュ  ーター),教室内のヘルパー,下級生の「お兄さん」「お姉さん」役を果たす  ほか,遊び場のゲームをスーパーバイズしたり,対立をマネージする人とし  ての役割を果たし,さらに教育的に有意義な各種作業に関して教師の手助け  をしている。

(2) アメリカにおけるピア・ヘルビング

  アメリカの場合は,スクールカウンセラーが中心となって取り組む場合が

 多い。

  訓練のほとんどは授業外の時間に行われている。例えば,放課後,夕方,

 土曜日で,週末に静かなところへ出かけて合宿することもある。ピアヘルパ  ーカリキュラムに従ったピアヘルパーの授業のある学校もいくつかある。加  えて,実際のピアヘルビング,ピアヘルパーのスーパービジョン,ピアヘル  パーに対するサポートグループのために授業時間が利用されている。

  ピアヘルパートレーニングで主題となるのは,聴く技術,反応する技術,

 フィードバックを与えること,意義の説明,問題解決,意思決定,対立解決,

 自殺の防止,死と臨終,ストレスマネジメント,薬物乱用,学校と地域の資  源,紹介先の情報などである。秘密保持の原則とその例外,ピアヘルビング

環境に基づいてカリキュラムと教材を選びトレーニングプログラムが作成さ れる。あるピアヘルパープログラムでは,初級,中級,上級といった単位を 用いている。ピアヘルパーの訓練に幅広く選ぶことができるカリキュラムと

トレーニングのための教材が各種用意されている。

 高校のピアヘルパーは,しばしば中学校や小学校まで出向いている。教師 や学校管理者や親からのピアヘルビングの依頼を受けると,スクールカウン セラーはピアヘルパーを小学校や中学校に派遣する。ピアヘルパーは,小学 生にとっては兄や姉のような存在であり,中学校では思春期を経験した先輩 であることを通じて生徒を支援する。若者達がピアヘルパーに援助を求める 主な問題は,個人的な問題,対人関係のこと,仲間からの圧力,家族の問題,

アルコールとその他の物質乱用,そして性的な問題などである。その他の問 題としては,変化への対処,喪失と悲哀,学校への適応,学業成績,出席の 問題,そしていじめなどについてである。ピアヘルパーは,低学年の児童虐 待やネグレクト,10代前半の自殺の可能性,ドラヅグやアルコールの使用,

性行動,ギャングへの加入などの事例の発見に一役を買っている。

 また,ピア・ヘルパーとは別に,もう一つ似たプログラムとして,コンフ リクトマネージャーの養成プログラムもある。コンフリクトマネージャーは 生徒間の葛藤解決のためのトレーニングを受けた生徒で,専用のTシャツを 着たり,目印のバッジを付けており,生徒間でもよく知られ,敬意を払われ ているという。このコンフリクトマネージャーの存在によって,学校での暴 力行為が防止され,また,教師がこうしたもめ事の解決に使う時間を節約し て,本来の仕事である授業に割くことができるようになるというメリットが 指摘されている。

(3)イギリスにおけるピア・カウンセリング

  イギリスの場合も,スクールカウンセラーやカウンセラーの資格を持った  教師の指導のもとで活動が行われる。

  トレーニングの眼目は,普通,参加谷間のチーム・スピリヅトを高めるこ  と,支援関係の性格についてさらなる知識や理解を与えることである。具体  的にピア・カウンセラーが身につける技能としては,傾聴,双方向のコミュ  ニケーション,要約,くり返し,共感,質問,非言語コミュニケーション,

 葛藤解決,建設的な議論,怒りや悲しみの解消,守秘などである。さらに,

 身につける情報としては,妊娠,避妊,性病,覚醒剤,人間関係,家庭問題,

 いじめ対策などがあげられる。典型的な訓練プログラムはオリエンテーショ  ンに始まるが,これは1日ワークショップの形をとることもあれば,泊りが

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