2年 1年
第3節 プログラム実施後の評価と考察
1.KiSS−18による評価
KiSS−18(Kikuchi s Social Ski皿Scale・18項目版)は,1988年に菊地章夫 によって開発された,社会的スキルを身につけている程度を測定する尺度であ る。「他人をうまく助けることができる」,「周りの人とのトラブルをうまく処理 できる」等,対人関係に直接関わる質問項目が多く,本実践の目的とも合致す ると判断し,本尺度を採用した。
実施時期は,「ピア・サポート体験学習」の実施前後および予後(3か月後)
である。なお,3か月後の調査の際には,同時に対照群として,一人も体験学 習の受講者のいなかった2年生のクラスの生徒39名(男子12名,女子27名)
を対象に実施した。
実験群の体験学習前の得点平均は3。23,学習後の平均は3.44,予後の平均は 3.59であった。また,対照群の得点平均は3.16であった。
実験群の中でも,出席率の高かった者,低かった者があったため,時期(体 験:学習の前後)と出席回数(4回以下を低群,5回以上を高群)を2要因とし
た分散分析を行った。
Table5−4出席回数別KiSS−18得点の平均値と標準偏差(1)
出席低群(N=10) 出席高群(N=15)
体験学習前 体験学習後
3.24(0.49)
3.29(0.39)
3.22(0.49)
3.54(0.43)
※():S.D.
その結果,時期の要因に有意な主効果がみられ(:F(1/23)=5.98,p<.05),時
期の要因と出席回数の要因との間の交互作用に傾向差がみられた
(:F(1/23)=3.20,p<.09)。出席回数の要因には有意な主効果はみられなかった
(F(1/23)=0.43,n.s.)o
有意な水準ではないが交互作用がみられたことから,出席回数によって,体 験学習が社会的スキルの向上に与える影響に違いがあると考えられる。
次に,時期(体験学習前と予後)と出席回数(低群と高群)を2要因とした 分散分析を行った。
Table5−5出席回数別KiSS−18得点の平均値と標準偏差(2)
出席低群(N=9) 出席高群(Nニ15)
体験学習前
予後
3.20(0.50)
3.56(0.44)
3.22(0.49)
3.61(0.35)
※()=S.D.
その結果,時期の要因に有意な主効果がみられ(F(1/22)=18.97,pく.001),
出席回数には有意な主効果はみられなかった(:F(1/22)=0.04,n.s.)。また,時
期の要因と出席回数の要因との問に有意な交互作用もみられなかった
(F(1/22)=0.04,n.s.)。
時期の主効果がみられたことから,体験前に比べて,予後の方が社会的スキ ルが高まったと考えられる。
:Figure5−1は, Table5−4,5をもとにグラフ化したものである。ただし,
出席低群の中で,一人予後のデータが取れなかったため,出席低群については 9人のデータで処理を行った。
(社会的スキル指標)
3.7
3.6
3.5
3.4
3.3
3.2
0
一〇一低群
+高群
体験前 体験後 予後
ところで,これらの結果は,体験学習を受けた者の中での出席回数による比 較であって,この体験学習を受けたことによる効果を測定したものではない。
本来ならば,体験学習前において統制群のデータを取っておくべきであった が,日程の都合で取れなかった。そこで,予後(11月)の時点での,対照群の得 点と,出席回数によって分けた2群の得点の3つについて,1要因3水準の分
散分析を行った。
(社会的スキル指標)
3,7
3.6
3.5
3.4
3.3
3.2
3.1
0
対照群 出席低温 出席高群
Figure5−2 KiSS−18得点の群別平均値(予後)
その結果,3群の間に有意な差がみられた(:F(2/60)=5.93,p<.01)。さらに,
多重比較の結果,対照群と出席低群の間,および対照群と出席高群の間に有意
な差がみられた(pく.05)。
:Figure5−2は,予後における3群のK:iSS−18得点の平均点を比較したもの
である。
この結果から,予後(11月)の時点では,体験学習を受講した生徒(出席島 島,高群共に)は,受講していない生徒に比べて,社会的スキルが高いことが
わかる。
2.考察
本実践の目的は,「対象とする生徒の『人間関係スキル』を高め,彼らを同世 代の仲間の相談援助ができる人材に育てること」であった。
KiSS・18による評価では,体験学習の実施前後,あるいは実施前と予後(3か 月後)という時期の要因において,有意な上昇がみられた。このことから,今回 の「ピア・サポート体験学習」が,人間関係を中心とする社会的スキルを高め
るのに効果があったと考えられる。
また,全10回のセッションのうち出席回数が5回以上の出席高群と,4回 以下の出席低群とに分けた分析において,体験学習前後の得点平均の比較から,
体験学習を受けた者の中でも,出席回数の多かった者の方が,あまり出席でき なかった者に比べ,社会的スキルの向上がより顕著であったと考えられる。
ところが,体験学習前と予後(3か月後)を時期の要因とする分析においては,
出席回数に関係なく,体験学習受講者の社会的スキルの向上が認められた。
:Figure5−1からもわかる通り,予後における得点平均には,出席回数による差 はほとんどみられない。
体験学習終了後3か月という時期は,学校においては,文化祭や野外実習と いう大きな行事があり,クラブ活動においても新人戦や定期発表会等が行われ る時期であった。つまりクラスやグループの仲間と協力する機会が多く,こう いつたさまざまな経験が,生徒たちの社会的スキルの向上に影響を与えた可能 性も考えられる。しかし,予後調査と同時期に取った対照群の得点平均は,実 験群のそれと比べて低く,体験学習前の実験群の得点平均とほとんど変わらな い点数であった。対照群の体験学習前の調査をしていないため,明確な判断は できないが,このことから,文化祭等の行事の影響だけではないように考えら れる。つまり,体験学習を受けたことによって身につけたスキルを,文化祭等 の行事を通して,クラスやクラブの中で,実践するという経験を通じて,改め て確認し,自己評価を高めたのではないかと考える。そういう意味では,出席 回数が少なかった者でも,体験学習を受けたことが,人間関係を考えるきっか けとなり,実践につなげていくことができたのではないかと考える。前節の考 察で取り上げた予後調査の回答も,そのことを裏付けているように思われる。