第5章 ピア・サポーター養成プログラムの実践的研究
第1節 プログラムの開発
る。
「ウォーミング・アップ」は,そのステップの主活動に入る前の準備,身体や 心の準備のために行う。参加者がリラックスでき,互いに親しみを感じられる
ようにというねらいである。単純で,特別な技能を必要とすることのない,古 典的なゲームを用意するのが普通であるが,本実践では,高校生を対象とする
ことから,単純なゲームは避け,リラクゼーションなどを取り入れることにし
た。
「主活動」は,そのステップの目的を達成する中心の活動である。ゲームや ロールプレイングなどの体験的なもので構成される。指導者が口で説明して理 解させるというのではなく,あくまでも体験を通して生徒自身に気づかせてい
くわけではあるが,必要に応じて「教示」や「モデリング」も取り入れた。
「ふりかえり」は,意見をいわせたり,書かせたりすることによって,生徒 自身の言葉で生徒なりにまとめさせ,定着を図ろうとするものである。ピア・
サポートは,指導者がどのような意図のもとに,どのような活動を行い,どの ようなものを身につけてもらうつもりであったのかだけではなく,その活動の 中で,生徒が何を感じ,何を大切と気づいたのかということも重要である。
また,個人のふりかえりだけではなく,グループまたは全体での「シェアリ ング(sharing)」も大切であると考える。プログラムには,さまざまな体験活動 が含まれる。体験は人によってさまざまである。同一のエクササイズをやった としても,十人いれば十人の体験がそこにある。体験の広さ,深さ,質には個 人差がある。ゆえに体験とはその人固有のものなのである。伊東(1983)は,そ のユニークな自分の体験や感じを伝え合うことによって,それぞれ他人を共感 的に理解することができるばかりでなく,他の人の感じ方やその表現のしかた を聞いて,自分の感じている感じを,もっと明確にすることができることもあ るとし,「シェアリング」は,感性や感受性を敏感にするために,きわめて重要 な方法になると述べている。
(3)全体の構成
本プログラムの大きな目標は,生徒の「人間関係スキル」を向上させることに ある。したがって,中心はコミュニケーションスキルトレーニングとなる。
そこで,7日間のうち,前半は,自己理解(受容),他者理解(受容),協調性,
情報伝達能力の育成を,後半は,傾聴スキル,問題解決スキルをはじめとする
3.エクササイズの選定
片野(1999)は,エクササイズは体験を促す誘発剤であると述べている。エク ササイズがうまくできたかできなかったかが問題ではなく,それを通して生徒 が何を体験したかが大切だというのである。そのことを考慮に入れてエクササ イズの選定を進めていった。
ピア・サポーター養成プログラムで使われるエクササイズは,とくに固定さ れたものではなく,その目的や生徒の実態に合わせて,指導者が独自に,さま ざまな分野(構成的グループエンカウンター,ソーシャルスキルトレーニング,
ニューカウンセリング等)のエクササイズを組み合わせて実施することが多い。
ここでは,Cole(1999),滝(2001),小川ら(2001),池本(2001)によるピア・
サポートの先行研究を中心に,大友(1998),柴崎(1999),大森・吉田・大串・
渡辺(1999),岡田(2001),宮崎(2001)の構成的グループエンカウンター,伊東
(1983)のニューカウンセリング,津村・星野(1996),塩谷(1998)のグループワ ーク,山中・冨永(2000)のストレスマネジメント等を参考に,ピア・サポータ ー養成プログラムに適したエクササイズを整理してみる。
(1) 自己理解,他者理解,協調性,情報伝達能力を高めるエクササイズ ①自己理解(受容)
対人関係において,他者を知る前に,まず自分を知ることが大切ではな いかと考える。自己探索は,高校生の発達課題でもあり,高校生を悩ませ る大きな要因の一つでもある。限られた時間でできることではないが,こ こでは,自己理解を助ける簡単なエクササイズを用い,少しでも今の自分 を理解し,そのことが,ありのままの自分を受け入れることに繋がってい くことを期待する。
『自己紹介』,『エゴグラム』,『WAI(Who am I technique)』などがよ く用いられるが,自己理解のエクササイズとしては,構成的グループエン カウンターのエクササイズの中にも,多くの種類がある。(『現在の私』,『私 の自尊心』,『私の自立心』,『私の社会的スキル』,『私のセールスポイント』,
『日常行動を通して得意分野を知ろう』,『IamOK.』等)
本実践では,初日に『エゴグラム』による自己理解と,交流パターンに ついてのエクササイズを取り入れた。エゴグラムは,TEG(東大式エゴグラ ム)第2版を使用し,横山・杉田(1986),芦原(1992),東京大学医学部診療 内科(1995)を参考に,資料を作成した。
さらに,自己コントロールという意味で,ウォーミングアップにおいて,
山中・冨永(2000)のストレスマネジメントの考え方を参考に,自分のスト
レスと向き合い対処する方法を考えさせ,簡単なリラクゼーションの技法 を練習させた。
②他者理解(受容)
参加者相互のリレーションを高め,ラポールを形成するためのエクササ イズとして,『10勝ジャンケン』や『フルーヅバスケヅト』のような単純 なゲーム,『ブラインド・ウォーク』,r円形棒倒し(円の中心に一人が立ち 前後左右に倒れ身を任す)』,『フローティング(グループで一人を持ち上げ る)』等の信頼関係を高めるもの,他者理解のための『ネームゲーム』や『他 己紹介』,『バースデーチェーン(無言で誕生日の順に並ぶ)』,『総当りイン タビュー』,『だんまり共同絵画(無言のままグループで模造紙に1枚の絵 を描き,それをもとに物語を創造する)』等,ウォーミングアップの場面で 使えるエクササイズが多い。また,後のグループワークや傾聴訓練など,
他者理解(受容)については,全体を通して培われていく要素が多いと考え
る。
③協調性,情報伝達能力
正確な情報伝達が要求されるゲームとして,『人間コピー』,『同音異義語 伝達ゲーム』,『サイコロ説明ゲーム(サイコロを使った図形を言語だけで 伝達しようとするもの)』等があげられる。また,これに加えてグループ全 体で協力し合って一つの課題を達成することを体験させるエクササイズは,
グループワークエクササイズの中で数多く紹介されている。津村・星野 (1996)が紹介する『ルラホ・ワールド』,『的あて』,『課題別チーム実習』,
『アイドルを探せ』,『バスは待ってくれない』,『10kgの液体』等がこれ に当たる。本実践では,国士舘大学の塩谷(1998)の作による『民宿・塩屋 を探そう』を取り上げてみることにした。
さらに,自分の意見も,他人の意見も大切にすることの実践として,
『NASAゲーム』を用いて,コンセンサスの体験をさせた。
(2) 傾聴スキル,問題解決スキルをはじめとする実践的な相談スキル
①傾聴訓練
コミュニケーションスキルの基本であるアクティブリスニング(積極的 傾聴)の習得を目標に,聞く態度や伝達位置によって話しやすさの違いを体 験させるエクササイズを中心に構成した。
体験をもって理解することを期待する。
②応答訓練
効果的な質問の仕方として,閉ざされた質問,開かれた質問の違いを体 験させる。さらに,要約・くり返しの技法を基礎的な練習から習得できる ように構成した。
③問題解決訓練
適切な事例を提供し,Cole(1999)のいう『問題を解決する5つのステッ プ』のうち4段階目までをロールプレイを中心に実践する。さらに,複数 のサポーター役と一人の相談事序による『ピア・チャッティング』のロー ルプレイを試みる。
また,『守秘義務とその限界』について徹底すると共に,その扱いについ て考えさせる機会をもつ必要があると考える。
本実践における最終的なプログラムの構成と,採用したエクササイズの概要 を以下に示す(Table5−1,2)。
Table5−1プログラムの構成
# 実施日 テー マ 内 容
1 6/28 自分を知る 自己紹介,ネームゲーム,.エゴグラム
2 7/13 協力する① グループワーク(人間コピー,NASAゲーム)
3 7/16 協力する② 自己紹介・他己紹介,グループワーク(民宿・塩屋を探そ
、)
4 7/28 聞く・伝える① リラクゼーション(呼吸法),伝達する時の位置関係 5 7/28 聞く・伝える② 聞くときの態度(かかわり合う聞き方)
6 8/2 聞く・伝える③ リラクゼーション(肩の上下運動),閉ざされた質問,開かれ
ス質問
7 8/2 聞く・伝える④ 要約・くり返し(紙上応答訓練,オウム返し)
8 8/10 解決する① 問題を解決する5つのステップ(紙上訓練,応答訓練)
9 8/10 解決する② ピア・チャッティング
10 8/30 秘密を守る 守秘義務,限界設定,まとめと反省
丁able5−2エクササイズの概要
エクササイズ ね ら い 内 容
ネームゲーム 仲間づくり, 最初の人が一言の自己PRを添えて自己紹介。(〜部の00で 他者理解 す。〜な性格の○○です。等)次の人からは,前の人のセリ フを復唱してから自己紹介をしていく。最後の人は全員の名 前をいうことになる。
エゴグラム 自己理解 エゴグラム・チェックリストに回答し,自分のエゴグラムと 理想のエゴグラムをつくり,対比する。
人間コピー 協力, 班員が一人ずつ廊下に貼ってある絵を見に行き,ロ頭で描き 情報伝達 役に伝え,同じ絵を完成させる。
月からの脱出 仲間づくり, 月で遭難したと仮定し,母船までたどり着くため,宇宙船に
(NASAゲー コンセンサス 残された15品目を必要度に応じて順序づけする。最初は個人
ム) で。次にグループ毎に合意に基づいた集団の意思決定を行う。
自己紹介・他己 仲間づくり, 2人組を作り,互いに自己紹介する。次に全員の前で,互い
紹介 他者理解 にペアの相手の紹介をする。
民宿・塩屋を探 協力, 各人が自分の持った情報を口頭で出し合い,民宿・塩屋まで
そう 情報伝達 の道順を示す地図をグループで作成する。
伝達するとき 傾聴態度, 2人組を作り,図形や数式を,最初は背中合わせに,次に向 の位置関係(一 情報伝達 かい合って口頭で伝達する。背中合わせのときは質問も禁止 方通行と双方向 する。伝え役と描き役は交互に体験する。背中合わせのとき のコミュニケー と向かい合わせのときの,間違いの個数を比較する。
ション)
聞くときの態 傾聴態度 2人組を作り,話し手と聞き手を決める。聞き手は,関わり 度(かかわり合 合いの少ない無関心な態度で聞く。次に役割を交代し,聞き
う聞き方) 手はえらそうな態度で聞く。それぞれ話し手には聞き手がど
ういう指示を受けているかわからないようにする。モデリン グの後,かかわり合う聞き方を体験する。
開かれた質 傾聴スキル 3人組を作り,聞き手,話し手,観察者の役割を決める。
問・閉じた質問 観察者に会話が10秒途切れたら,会話を終わらせるように指 示。聞き手は話し手から多くを引き出すことを目的にして,
会話を進める。5WlHを使った質問について学ぶ。
要約・くり返し 傾聴スキル オウム返しの練習を行う。最初は紙上応答訓練。次に,指導 者の話したことを紙上でくり返す練習。最後に2人組で応答 訓練をする。
問題を解決す 問題解決スキ 一つの相談事例に対してグループでいくつかの解決策を挙 る5つのステ ル げ,その一つ一つについて利点と欠点を確認し,実行のため ップ の計画を立てる。次に,12人組を作り,5段階を意識した相
談を体験する。
ピア・チャツテ 相談スキル 4人組を作り,一人が相談重役,他の3人がサポーター役と
イング なり,実際に相談活動を行う。これまでに学んだスキルを使 うが,あまり構えず,友だち同士の気軽なおしゃべりという 感覚で行う。
守秘義務とそ 相談スキル 守秘義務について学んだ後,自分たちだけで解決できない問 の限界 題にはどんなものがあるか,.そのような問題について相談を