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博士(医学)古川洋志 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(医学)古川洋志 学位論文題名

悪性黒色腫におけるゲルソリン短縮体の発現と      腫瘍浸潤度との関連

学位論文内容の要旨

  ゲルソリンはアクチンの重合・脱重合をコントロールする代表的なアクチン調節蛋白 質で、細胞質に存在し、アクチン線維を切断して断端に結合することでアクチンフんイ バーの伸長を阻害する一方で、アクチン重合開始の核となる。ゲルソリンは、細胞の形 態や運動のみならず、分化や癌化にも関与しており、ヒトの胃癌、膀胱癌、乳癌、肺非 小細胞癌の細胞株や手術摘出腫瘍の半数から全例でゲルソリンの発現が低下ないし消失 が見られ、正常ゲルソリン遺伝子にはヒトの癌の増殖を抑制する作用があることも示さ れている。悪性黒色腫は、色素産生細胞(メラノサイ卜)由来の悪性腫瘍で、Clarkによ り提唱された真皮内への腫瘍浸潤度(レベル)及びBreslowにより提唱された腫瘍の厚 さにより分類される原発腫瘍の進行度(pT)は5年生存率と明らかに相関している。悪 性黒色腫については、すでにいくっかの癌抑制遺伝子の異常にっいて報告されているが、

ヒト悪性黒色腫におけるゲルソルンの発現に関する報告はない。今回ヒト皮膚悪性黒色 腫の原発組織ならびに転移組織38検体におけるゲルソリンの発現をウェスタン法で調べ た。

  正常皮膚組織と比べ、悪性黒色腫検体における90KDaの野生体ゲルソリンの発現の低 下や消失は認めなかった。しかし90KDaの野生体ゲルソリンのバンドの他に、約5KDa 軽いバンドが、悪性黒色腫検体38例中30例で野生体ゲルソリンのバンドと同程度の強 度で発現しており、このゲルソリン交差蛋白質を本文では以下p85という記号で呼ぶ。

一方、有棘細胞癌では野生体ゲルソリンの発現の低下や、悪性黒色腫で認められるp85 の出現を見なかった。病理診断にて悪性化が認められなかった色素性母斑におけるゲル ソリンの発現をウエスタンプ□ットで調べたところ、色素性母斑7例中2例にp85が発 現していた。

  悪性黒色腫検体のうち原発巣の陽性率は75.8%(25/33)で、原発巣に関する臨床事 項(腫瘍切除時の年令差・性差・腫瘍浸潤度・腫瘍の厚さ・病期分類(pT))とp85の発 現の有無に有意差が有るかどうかを調べた。原発性悪性黒色腫におけるp85の陽性群と 陰性群とでは年齢差を認めず、p85の陽性例は女性に多い結果であった。p85の陰性群は 表皮内黒色腫が殆どであったため、表皮内黒色腫を含む腫瘍浸潤度と原発巣の病期分類 (pT)ではp85の陽性群と陰性群とで有意差を認めたが、表皮内黒色腫を含まない腫瘍 の厚さの分類では、p85の陽性群と陰性群とで有意差を認めなかった。さらに腫瘍浸潤度 がレベルIとレベルIエ以上のグループ間でFisherの直接法による検定を行うと、p85

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の陽性率に有意差を認め(pく0.001)、レベルII以上の厚さではp85の陽性率が有意に 上昇することが判明した。水平増殖期の一部が垂直増殖期に移行し、色素斑の中に腫瘤 が存在 する原発巣 (腫瘍浸潤 度レベルIV、 腫瘍の厚さ4.Omm、病期 分類pT4)では、

水平増殖期の部位から採取された検体に比ベ、垂直増殖期の部位から採取された検体で のp85の発現が強く見られた。再発・転移巣のp85の陽性率は100%(5/5)であった。

  p85の一次構造を正常のゲルソリンの一次構造と比較するため、抗原認識部位の異なる 4つの抗ヒト・ゲルソリン抗体でp85が検出されるかどうかを調べた。4つの抗体のうち、

ゲ ルソ リ ンのN末 端を認識す るN―18と 内部を認識 するGS―2C4がp85を認 識し、C末 端 を認 識 するClone2とC―20がp85を認 識しなかっ た。このこ とからp85は、正常の ゲルソ リンのC末端が欠 失した蛋白 質と考えられた。実際にp85のアミノ酸の配列をN 末 端 、C末 端 で 調 べ た 。p85のN末 端 ア ミ ノ 酸 配 列VVEHPEFLKAGKEPGLQは 野 生 体ゲル ソリンのN末端の18番目までの アミノ酸配列に一致した。p85のC末端配列YIET は、リ シン(K)工ンドペプチダーゼにより分解されたp85の、C末端フラグメントのN 末端か ら解読された。この配列は野生体ゲルソリンのアミノ酸配列の679番目から682 番目に 一致した。 従ってp85のC末 端は、野生体ゲルソリンのアミノ酸配列の682番目 のトレ オニン(T)から696番目のバリンN)のいずれかで終了するC末端の欠失した短 縮体であることが判明した。

  野生体ゲルソリンのC末端には、Ca2゛結合部位があり、この部位によルゲルソリンの アクチン線維の切断作用はCa2゛により調節されている。p85の一次構造が野生体ゲルソ リンのC末端の欠失した短縮体であったことからp85の働きを類推すると、Ca2゛の制御 を逸脱してアクチン線維を切断する分子である可能性が高い。垂直増殖期の黒色腫細胞 が容易に浸潤・転移する性質に、ゲルソリンのC末端の短縮体による細胞骨格の無秩序 な切断作用が関係していると推測する。またp85の発生機序は,その一次構造が野生体 ゲルソリンのC末端の欠失した短縮体であったことから、1)悪性黒色腫組織内で活性が 高まっている酵素により、野生体ゲルソリンがC末端で特異的に切断、消化されて生じ たフラ グヌントで ある、2)悪性化 したヌラノサイトでゲルソリンのmRNAの異常なス プライシングが生じている、というニつの可能性がある。1)の可能性に関しては、本研 究 にお い て解 明 されたp85のC末端配列METが、野 生体ゲルソ リンの配列 に一個所存 在するCaSpase8の切断部位の配列:IビI丶D/Xに重なっていることから、p85はCaSpaSe 8によって野生体ゲルソリンが切断されて生じた可能性がある。今回、悪性黒色腫検体に おけるCaspase3とCaspase8の発現をウ ェスタンブ ロットによ り調べたところ、活性 化型Caspase3の バンドがみ られない一 方で、Caspase8の中間 型フラグヌントのバン ドを種々の程度で認め、このバンドの発現の強さがp85のバンドの発現の強さと平行す るデーターを得ており、今後この可能性をさらに追求する必要が有る。一方2)に関して も、ヒ トの癌でゲルソリン遺伝子の変異やmRNAの異常なスプライシングはまだみっか ってい ないが、p85の発生 機序に関し てゲルソリンのmRNAの異常なスプライシングが 生じている可能性は否定できない。

  本研究の臨床的意義は、ゲルソリン短縮体p85の発現が皮膚原発悪性黒色腫の腫瘍の 浸潤度(レベル)ならびに原発腫瘍の進行度(pT)との間で相関がみられた点にある。

原発腫瘍の進行度(pT)は、予防的リンバ節廓清や術後化学療法施行の是非を決定する うえで最も重要な要素である。検体からの蛋白抽出・ウエスタンブ口ットによるp85の

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検出は、通常の病理組織診断と比較して時間と熟練を要さないことから、このp85ゲル ソ リン 短縮 体の 検出が 、病 理組 織学 的評価 の補 助と して有 用で ある と思われる。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    杉 原平樹 副査   教授   細川眞澄男 副査    教授    加 藤紘之

学 位 論 文 題 名

悪性黒色腫におけるゲルソリン短縮体の発現と      腫瘍浸潤度との関連

本研究は、ヒト皮膚悪性黒色腫の原発組織ならびに転移組織38検体におけるゲルソ リンの発現をウエスタン法で調べたものである。当初予想された悪性黒色腫検体におけ 90KDaの野生 体ゲルソ リンの発 現の低下 や消失は認めなかった。しかし90KDa 野生体ゲルソリンのバンドの他に、約5KDa軽いパンドが、恩陸黒色腫検体38例中30 例で野生体ゲルソリンのバンドと同程度の強度で発現しており、このゲルソリン交差蛋 白質p85がヒト皮膚悪性黒色腫組織においてどのような意義を持つ分子であるかを研 究の目的に据えたものである。

  最初に抗原認識部位の異なる4種類の抗体を用いてウェスタン法を行ったところ、4 つの捗。体のうち、ゲンレソリンのN末端を認識するNー18と内部を認識ずるGS―2C4 p85を 認 識 し、C末 端 を認 識 す るaone2C20p85を認識 しなかっ た。このこ とからp85は、正常のゲルソリンのC末端が欠失した蛋白質と考えられた。実際にp85 の一次構造について調べたところ、p85のN末端アミノ酸配列

VVEHPEHKAG鬮 巳PGLQが 野 生 体 ゲ ル ソ リ ン のN末 端 の17番 目 ま で の ア ミ ノ 酸 配列に一 致した。p85C末端配列METは、リシン(吋エンドペプチダーゼにより分 解されたp85の、C末端フラグヌントのN末端から解読された。この配列t揖生イ基ゲ ルソリンのアミノ酸配列の679番目から682番目に一致した。従ってp85のC末端は、

野生体ゲ ルソリン のアミノ 酸配列の682番目のトレ オニンmか ら696番目のパリン ヅ ) の い ず れ か で 終 了 す るC末 端 の 欠失 し た 短縮 体 であ る こ とが 判 明し た 。   悪性黒色腫38検体のうち原発巣の陽I生率は75.8%(25/33)で、再発・転移巣のp85 の陽性率は100%(55)であった。原発巣に関する臨床事項個鶉切除時の年令差・

性差・腫 瘍浸潤度・腫瘍の厚さ・病期分類QT))とp85の発現の有無に有意差が有 るかどうかを調べた。表皮内黒色腫を含む腫瘍浸潤度と原発巣の病期分類鹸r)では p85の陽性群と陰1生群とで有意差を認めた。さらに腫瘍浸潤度がレベルIとレベルu 以上のグループ間で検定を行うと、p85の矧生率に有意差を認め、レベルu以上の厚

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さではp85の陽性率カ£肓意に上昇することが判明した。水平増殖期の一部が垂直増殖 期に移行し、色素斑の中に腫瘤カ靖在する原発巣(腫瘍浸潤度レベルIV、膕嘉の厚さ 4.Omm、病期分類p1、4)では、水平増殖期の部位から採取された検体に比ぺ、垂直増 殖 期 の 部 位 か ら 採 取 さ れ た 検 体 で の p85の 発 現 が 強 く 見 ら れ た 。   本研究の公開発表にあたって、副査の加藤教授より、検出手技に関する質問とゲル ソリン短縮体p85を用いた予後予測の試みについての質問があった。これに対し、申 請者はゲルソリン短縮体p85の検出手技をより詳細かつ明確に解説し、ゲルソリン短 縮体p85が悪性黒色腫症例の予後の判定因子や選択的リンパ節廓清施行の判断材料と して用いられうる旨を解答した。次いで副査の細川教授よルゲルソリン短縮体p85 発生機序についての質問があった。これに対し、申請者は、近年明らかになりつつ有る 悪性黒色腫のアポトーシス抵抗性の機序にふれ、ゲルソリン短縮体p85が、Q珂〕aSe8 によって野生体ゲルソリンが切断されて生じた可能陸が高いと解答し、その具体的な根 拠として、野生体ゲルソリンの配列に一個所存在するCaSDaSe8の切断部位の配列:

I研D/Xと ゲルソ リン 短縮体p85のC末端配列が重なっている事実を挙げた。さらに 主査の杉原教授よルゲルソリン短縮体p85の働きについての質問があった。これに対 し、申請者は、ゲルソリン短縮体p85はCa2゛の制御を逸脱してアクチン線維を切断す る分子である可能性が高いと答え、その根拠として野生体ゲルソリンのC末端にはCa2 結合部位があり、この部位が欠失するとゲルソリンのアクチン線維の切断作用がCa2 非依存性となる事実を挙げた。いずれの質問に対しても、申請者は学位論文の背景に関 する詳細な説明と最新の知見を交えて概ね適切に解答した。

  この論文は、ゲルソリン短縮体を発見したことにより審査員一同に高く評価された。

ゲルソリン短縮体p85は、皮膚原発悪陸黒色腫の病理細織学的評価の補助として有用 であるだけでなく、病因の解明にも重要な研究であり、今後ゲルソリン短縮体の発生機 序解明カ湖待される。

  審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位な ども併わせ、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定 した。

参照

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