博士(医学) 渡部 昌 学位論文題名
TRIIVI 夕ンパク質による細胞機能制御 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【背景と目的】
TRIM
ファ ミリータ ンパク 質はRING ドメ インを 有するユ ビキチ ンリガー ゼであり、転写制御 や細胞死、細胞増殖といった広範囲に渡る細胞機能に関わり、その変異は、発達障害、神経変性 疾 患 、 ウ イ ル ス 感 染 、 癌 な ど の 多 様 な 疾 患 と 関 連 し て い る 。
TRIMタ ン パク 質 の う ち、
Promyelocytic leukaemia (PMLITRIM19)
遺伝子座は、Retinoic acid receptor‑a (RARa) との転座 に より 、
PML‑RARoc融 合タンパ ク質を 産生し、 急性前 骨髄球性 白血病
(acute promyelocytic leukemia/APL)を 引き起こ す。あ る種の骨 髄異形 成症候群 において は、TRIM24 と
fibroblast growth factor receptorl (FGFRDとの転座 が認めら れる。 また、
TRIM19、TRIM24 、
TRIM25、
TRIM68は、
RARaを始め とした核 内受容体 の活性 を制御し 、白血 病や乳癌 および前立腺癌の進 行 を 制 御 し てい る 。 さら に 、
TRIM13、
TRIM19、TRIM24 、
TRIM28、
TRIM29は、 最 も 重要 な 癌抑制遺伝子の1 っであるp53 の安定性や転写活性を制御している。
この ようにTRIM タ ンパク質はさまざまな細胞機能や疾患原因に関わっていることが報告され ている が、未 だ十分な 解析がなされていない。本研究ではTRIM タンパク質のさまざまな生理学 的機能を解明していくことを目的とした。
まず 、癌の制 御に関わ る可能性のあるTRIM タンパク質としてTRIM31 に注目し、分子レベル、
細 胞 レ ベ ル に お け る 機 能 を 解 析 し た 。 次 に 、 核 内 受 容 体 の
1っ で あ る
Peroxisome proliferator‑activated receptory(PPARv)のシグナルを制御するTRIM タンパク質を検索し、リ ガ ンド 依 存 性PPARy シグナ ル活性 化因子と して
TRIM23を 同定し、 脂肪細 胞分化時 におけ る機 能を解析した。
【材料と方法】
く
1>酵母ツーハイブリッド法による
TRIM31相互作用分子の検索
TRIM31 cDNA
を
baitベ ク タ ー に 組 み 込 み、
NIH3T3細胞 由 来
cDNAラ イブ ラ リ ーと 共 に 酵 母株L40 を形質転換させ、相互作用分子を検索した。
く
2>軟寒天培地でのコロニー形成アッセイ
活 性 型
c‑Src(Y527F)、
TRIM31共 安 定発 現
NIH3T3細胞 を 樹 立し 、 軟寒天 培地中 で
2週 間培 養した後に、直径0.1 mm 以上となった細胞塊の数を計測した。
足場非依存性細胞増殖能を、ことにより評価した
く
3>デュ ア ル ル シフ ェ ラ ーゼ ア ッ セイ に よ るPPARy シ グ ナル 制 御
TRIMタンパク 質の検 索
HeLa細胞 にPPARy コ ンスト ラクト、
PPARyシ グナルの レポー ター、内 部標準 レポーターと共
―368 ―
にTRIMコ ン ス ト ラ ク 卜 を 導 入 し 、24時 間 後Troglitazoneま た はDMSOを 添 加 し 、 さ ら に24 時 間 培 養 し た 後 ル シ フ ェ ラ ー ゼ ア ッ セ イ を 行 い 、PPARyシ グ ナ ル を 制 御 す るTRIMタ ン パ ク 質 を 検 索 し た 。
く4> 3T3‑L1細 胞 の 分 化 誘 導
TRIM23を 安 定 発 現 す る3T3‑L1細 胞 、 ま た は ノ ッ ク ダ ウ ン し た3T3‑L1細 胞 を 樹 立 し 、IBMX.
Dexamethasone、Insulinに よ り 成 熟 分 化 を 誘 導 し 、Oil RedO染 色 、 卜 リ グ リ セ リ ド の 定 量 、 リ ア ル タ イ ムPCR法 に よ る 脂 肪 分 化 関 連 遺 伝 子 の 定 量 を 行 い 、TRIM23発 現 の 変 動 に よ る 分 化 へ の 影 響 を 評 価 し た 。
【 結 果 】
星 握 韮 筮 在 性 増 殖 童 制 御 主 る TRIM31堕 超 胞 機 能 鰹 蚯
抗TRIM31抗 体 を 作 製 し ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 解 析 お よ び 螢 光 免 疫 組 織 染 色 を 行 っ た 結 果 、 TRIM31は 消 化 管 、 特 に 小 腸 上 皮 細 胞 に 高 発 現 し て い た 。 ま た 、 酵 母 ツ ー ハ イ ブ リ ッ ド 法 に よ り 複 数 のTRIM31相 互 作 用 分 子 を 同 定 し た 。 特 にTRIM31は 哺 乳 類 細 胞 内 で もc‑Srcを 含 め た 細 胞 増 殖 シ グ ナ ル を 制 御 す る 分 子 、p52Shcと 結 合 し て い た 。 活 性 型c‑Src、TRIM31共 安 定 発 現NIH3T3 細 胞 は 通 常 の 増 殖 速 度 に 変 化 は な か っ た が 、 軟 寒 天 培 地 で の コ ロ ニ ー 形 成 能 が 抑 制 さ れ て い た 。 PPARyシ グ ナ ル 童 制 御 空 るTRIM23堕 麺 胞 機 饉 鰹 蚯
ル シ フ ェ ラ ー ゼ ア ッ セ イ に よ っ てPPARyの 活 性 を 制 御 す るTRIMタ ン パ ク 質 と し てTRIM23 を 同 定 し た 。TRIM23は り ガ ン ド 依 存 性 にPPARシ グ ナ ル を 増 強 し 、 哺 乳 類 細 胞 内 でPPARyと 結 合 し て い た 。TRIM23過 剰 発 現3T3‑L1細 胞 は 分 化 が 促 進 し 、TRIM23ノ ッ ク ダ ウ ン3T3‑L1 細 胞 は 分 化 が 抑 制 さ れ た 。
【 考 察 】
星 盪 韭 筮 在 世 増 殖 童 制 御 士 る TRIM31堕 錮 胞 機 能 鰹 蚯
本 研 究 に よ っ て 、TRIM31は 、 活 性 型c‑Src(Y527)に よ っ て 誘 導 さ れ た 足 場 非 依 存 性 増 殖 を 抑 制 す る 機 能 を 持 つ こ と が 明 ら か と な っ た 。 足 場 に 依 存 し て 増 殖 し て い る 状 態 か ら 足 場 を 必 要 と せ ず 増 殖 可 能 な 状 態 へ の 遷 移 は 、 正 常 細 胞 が 癌 細 胞 へ と そ の 形 質 を 転 換 す る 際 の 顕 著 な 特 徴 と し て 知 ら れ て い る 。TRIM31が 小 腸 上 皮 細 胞 を 中 心 と し た 腸 管 内 で 高 発 現 し て い る こ と は 、 少 な く と も Srcシ グ ナ ル の 活 性 化 が 関 与 し た 癌 化 を 抑 制 す る セ ー フ テ ィ ネ ッ 卜 の1っ と し て 働 い て い る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 消 化 管 由 来 の 癌 の 中 で 小 腸 癌 は 他 と 比 較 し て 発 生 率 が 低 い 理 由 の 一 端 に 、 TRIM31の 高 発 現 が あ る の か も し れ な ぃ 。
PPARarvZ j‑/i墾 制 御 士 歪TRIM23堕 麺 胞 機 能 鰹 擾
脂 肪 組 織 は 長 ら く 過 剰 な エ ネ ル ギ ー を 貯 蔵 す る 場 所 と し て 考 え ら れ て き た 。 し か し 近 年 の 知 見 に よ り 、 エ ネ ル ギ ー 代 謝 に 関 連 す る ホ ル モ ン や サ イ 卜 カ イ ン を 分 泌 す る 内 分 泌 組 織 と し て 位 置 づ け ら れ る よ う に な っ て き た 。 白 色 脂 肪 細 胞 の 分 化 異 常 や 機 能 異 常 は イ ン ス リ ン 抵 抗 性 上 昇 に よ る メ タ ボ リ ッ ク 症 候 群 へ と 発 展 す る 可 能 性 が あ る た め 、 脂 肪 細 胞 分 化 を 制 御 す る 遺 伝 子 の 同 定 は 重 要 で あ る 。TRIM23は こ れ ら 疾 患 の 治 療 標 的 と な る 可 能 性 が あ る 。
【 結 論 】
本 研 究 は 、 癌 細 胞 の 性 質 を 制 御 す るTRIMタ ン パ ク 質 、PPARyシ グ ナ ル 活 性 化 を 増 強 し 、 白 色 脂 肪 前 駆 細 胞 の 分 化 を 促 進 す る 新 た なTRIMタ ン パ ク 質 と い う 、TRIMタ ン パ ク 質 の 新 た な2つ の 機 能 を 明 ら か と し た 。 し
―369 ‑
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査 教 授 副 査 教 授 副 査 教 授 副 査 教 授
西 村 孝 司 岩 永 敏 彦 畠 山 鎮 次 高 田 賢 藏
学 位 論 文 題 名
TRIR/I 夕ンノヾク質による細胞機能制御
TRIM
フ ァミリー タンパ ク質はRING ドメインを有するユビキチンリガーゼであり、転写制御、
細胞死およぴ細胞増殖といった広範囲に渡る細胞機能に関わり、その変異は、発達障害、神経変 性疾患、ウイルス感染、癌などの多様な疾患と関連している。
TRIMタンパク質のうち、TRIM19 、
TRIM24、
TRIM25お よび
TRIM68は、
RARaを 始 めと し た 核内 受 容 体 の活 性 を 制御 し 、 自血 病 や 乳 癌お よ び 前立 腺 癌 の 進行 を 制 御し ている 。さら に、TRIM13 、TRIM19 、
TRIM24、
TRIM28およ びTRIM29 は、 最も重 要な癌抑 制遺伝子 の1 っである
p53の 安定性や 転写活性を制御してい る。 これま でに、TRIM31 は癌の制御に関わることが推測されていたが、未だ十分な解析がなさ れて いなか った。今 回の研究により、
TRIM31は消化管、特に小腸上皮細胞に高発現し、活性型
c‑Srcによっ て誘導さ れた足 場非依存 性増殖 能をTRIM31 が抑制することが明らかとなった。こ の機 能の分 子メカニ ズムとして、酵母ツーハイブリッド法により
TRIM31相互作用分子の同定を 試み 、c ―
Srcの活性 化分子p52Shc が同定された。このため、
TRIM31はp52Shc を介してc‑Src の 活 性 を 抑 制 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 核 内 受 容 体 の
1っ で あ る
Peroxisome proliferatorーactivated receptorY(PPARy) はユビキチン・プロテアソーム系による制御を受ける ことが知られていたが、その分子メカニズムは解明されていない。今回の研究では、PPAR‑/ のシ グナルを制御する
TRIMタンパク質の検索を行い、リガンド依存性
PP・ARY シグナル活性化因子と して
TRIM23が同定 された 。
PPARYは 白色脂 肪細胞分 化におけるマスター遺伝子であるため、分 化に おける
TRIM23の役割 を検討し たところ 、
TRIM23は白 色脂肪 細胞の適 切な分化に必要な分 化促進因子であることが明らかとなった。
審査 会 に おいて 、副査の 高田教 授より、 脂肪細胞 分化に おける
PPARYの役 割とTRIM23 の 関 わ り に関 し て質 問を受け 、PPARY は白色脂 肪細胞の 分化時 における マスタ ー遺伝子 であり 、
TRIM23はPPARY の 活 性 化促 進 因 子あ る 旨 を述 べ た 。ま た 、 内在 性 のTRIM31 と
p52shcの結合 実験の信頼性について質問を受け、バンドが薄いながらも陰性対照と比較して明確に共沈降を観
‑ 370 ‑
察 で き る と 述 べ た 。 さ ら に ユ ビ キ チ ン 化 の タ ン パ ク 質 分 解 以 外 の 機 能 に つ い て 質 問 を 受 け 、 分 解 に 関 与 し な い ユ ビ キ チ ン 化 の 機 能 に つ い て 、 近 年 の 知 見 を 述 べ た 。 主 査 の 西 村 教 授 よ り 、TRIM31 の 足 場 非 依 存 性 増 殖 抑 制 能 は 一 般 的 な も の で あ る か に つ い て 質 問 を 受 け 、 活 性 型Src以 外 に も 、 活 性 型RasやRaclな ど を 用 い て 検 証 す る 必 要 性 を 述 べ た 。 ま た 、TRIM31が 特 に 小 腸 で 発 現 が 高 い こ と の 意 義 に つ い て 質 問 を 受 け 、 癌 の 発 生 率 が 胃 や 大 腸 な ど と 比 べ 小 腸 に お い て 低 い こ と に TRIM31が 寄 与 し て い る 可 能 性 を 述 べ た 。 さ ら に 代 謝 異 常 に 起 因 す る 疾 患 な ど の 臨 床 デ ー タ と TRIM23の 相 関 に つ い て 質 問 を 受 け 、 現 状 で は 未 報 告 で あ る が 、 今 後 の 詳 細 な 解 析 の 重 要 性 を 述 べ た 。 副 査 の 岩 永 教 授 よ り 小 腸 上 皮 の 先 端 と 陰 窩 に お け るTRIM31免 疫 反 応 の 差 に つ い て 質 問 を 受 け 、 差 は 特 に 認 め ら れ な か っ た と 述 べ た 。 ま たTRIM23の 発 現 が 脂 肪 組 織 特 異 的 で あ る か に つ い て 質 問 を 受 け 、 脂 肪 組 織 に て 発 現 を 認 め る が 組 織 特 異 的 で は な く 、 他 の 組 織 に お い て も 発 現 を 認 め る こ と を 述 べ た 。 副 査 の 畠 山 教 授 よ り 、 今 回 の 研 究 を 受 け 、 今 後 の 展 開 に つ い て 質 問 を 受 け 、 ノ ッ ク ア ウ ト マ ウ ス な ど を 用 い た 個 体 レ ベ ル で の 検 証 と 臨 床 へ の 応 用 の 重 要 性 を 述 べ た 。 こ の 論 文 は 、 癌 細 胞 の 性 質 を 制 御 す るTRIM31、 及 びPPAR‑/シ グ ナ ル 活 性 化 を 増 強 し 白 色 脂 肪 前 駆 細 胞 の 分 化 を 促 進 す るTRIM23の 機 能 を 明 ら か に し て お り 、 今 後 は こ の 研 究 を も と に 臨 床 的 な 応 用 が 期 待 さ れ る 。
審 査 員 一 同 は 、 こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し 、 大 学 院 課 程 に お け る 研 鑽 や 取 得 単 位 な ど も 併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 取 得 す る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
―371一