博士(医学)滝沢昌彦 学位論文題名
Wegener 肉芽腫症における抗好中球細胞質抗体の 臨床的重要性および発症機序における接着分子の役割
学位論文内容の要旨
Wegener肉芽腫症(以下WGと略す)は原因不明の,上気道と肺の壊死性肉芽腫性炎,
全身の壊死性血管炎およぴ巣状壊死性糸球体腎炎をTriasとする疾患である.以前は臨床 症状および生検標本の病理組織において診断がなされてきたが,確定診断を得ることは症 状が進んだ典型例を除いては困難であった.1985年van der WoudeらはWGに特異的であ り,かつ疾患活動性の指標となる抗好中球細胞質抗体,Anti・neutrophil cytoplasmic antibody(以下ANCAと略す)を報告した.その後この抗体はWGの診断およぴ病態推移の 把握に非常に有用であるとの報告が多くなされている.当教室においても平成2年以降,
間接螢光抗体法,indirectimmunofluorescence assay(以下IIFと略す)にて,ANCAの測定 を行いその臨床的有用性を確認してきた.本研究ではANCAの臨床的重要性をまとめると と も に,ANCAのELISAで の 定量 化 を試 み た. ま たWGの血 管 炎 の発 症 機序 として , Tumor necrosis factor‑a(TNF‑a)等の炎症性サイトカインによる好中球の活性化,好中 球の血管内皮細胞への接着,および活性化された好中球からのセリンプロテアーゼ,活性 酸素等のケミカルメデイエーターの放出が考えられる.本研究ではこのうちの接着分子の 関与について検討を加えたので報告する.
ANCAはIIFの螢光パターンにより2種類に分類される.すなわち好中球細胞質全体が 顆粒状に染色されるものがcytoplasmic‑ANCA (C‑ANCA),好中球の核周辺が強く染色さ れるものがperinuclear‑ANCA(P‐ANCA)である.このうちC‐ANCAはWGにほぼ疾患特 異的である.一方P‐ANCAは多彩な疾患,すなわち結節性動脈周囲炎(PN),特発性半 月体形成性腎炎(ICmN),潰瘍性大腸炎等で高率に陽性となるとされている.これま で にC―ANCA陽 性 を 示 す 患 者 を23名 経験 し た. そ のう ち22名 がWGで あり ,1名 が GoodpastureSyn(lromeであった.この22名のうち生検で病理学的確定診断がついたのは,
わ ずかに7例のみであ った.またWG22例中10例が頭頸部限局型WGであったが,そのう ち8例はC‐ANCAの結果なしではWGの診断は不可能であった.
一方P‐ANCAを示す症例は43名認めた.その半数以上の28名がW・G以外の自己免疫疾患 であり,その内訳はsj6gren症候群12名,全身性エリテマトーデス(SLE)8名,混合性結 合 組 織病 (MCTD)2名 ,強 皮 症(PSS) ,皮 膚筋炎(DM) ,橋本病, 結節性紅斑 , Sweet症候群,Relapsingpolychon曲虹s各1名であった.腎疾患では急速進行性糸球体腎炎
(RPGN) で3名P一ANCA陽性だ った.また ,脳神経領 域では多発 性硬化症(MS)で6
名, 脳神 経麻 痺で3名(顔面神経麻痺,舌神経麻痺,動眼神経麻痺各1名),反復性脳神経 炎1名 , 硬 髄 膜 炎1名 でP‑ANCA陽 性 だ っ た . そ の 他難 治性 咽喉 頭潰 瘍の1症例 でP‐ANCA 陽性であった.
C‐ANCAの 抗原 はヒト好中球アズール顆粒内のproteinaseー3であることが確認されてい る. そこ でホ モゲ ナイズした好中球の上清よルショ糖密度勾配遠心法にてアズール顆粒の 含まれるa‐fractionを部分精製し,そのa‐触ctionを抗原としてELISAを行った。2次抗体 と し て ぺ ロ キ シ ダ ー ゼ 標 識抗 ヒ トIgG抗 体 を 使 用し た。 健常 人25名 のELISA値は すべ て 10units未満 であ った ため、 このELISAで は10units以上を陽性とした。活動期WG20名すぺ て 陽 性 で あ り 、 そ の う ち7名 は100units以 上 の 高値 を示 した 。寛解 期WG19名 中8名が 陽 性 だ っ た が 、 そ のう ち1名の みが 高値を 示し た。WG以 外の 膠原 病32名中14名 で陽 性だ っ た が 、 そ の う ち11名 はImでnANCA陽 性 で あ っ た 。P‐ANCAの 抗 原 の1っ で あ る ミ エロ ベ ロキシダーゼもa‐fractionに存在するため、Pq`NCAを示す血清の一部でもこのELISAで陽 性 に で た も の と おも われ る。 しか し、 同一 患者 にお いて はIm力価とELISA値 はよ く相 関 し、 疾患 活動 性を 反映していた。このELISAは定量性にもすぐれ、W(}の診断およぴ疾患 活動性の指標に有用であると思われた。
と ころ で、WGの 血管 炎発 症機 序は 好中 球の 血管 内皮細 胞へ の接 着が 重要 であると考え られ てい る。 本研 究では血管内皮細胞側の接着分子としてE―セレクチンのendomendcelト leukocyteadhesionmolecule‐1(ELAM‐1)およびIgスーパーファミリーのinter‐ceHular adhesionmolecule‐1(ICAM‐1)を,好中球側はsialylLewisX(SLe )およぴインテグリンファ ミリーのleucocytefunctionassociated‐1(LFA―1)を測定した.
ELAM‐1は 患者 血清中の可溶性ELAM‐1(sELAM‐1)をELISAで,ICAM_1は可溶性ICAM_ 1(sICAM‐1)をELISAで測 定し た.sICAM―1は寛 解期WG血清 に比 べ活 動期WG血清で有意 に 高 値 を 示 し た . 一 方sELAM―1は3群 間 で 差 は 無か った .TNFーaが1p如1以 上を 示す 血 清は わず かに3血 清の みであ った が, いず れも 活動期WGの血清で,sICAM.1の値も比較的 高値 の血 清で あっ た.また活動期から寛解期に移るにっれ,ほとんどの症例でsICAM.1の 測定 値が 低下 する ことより,sICAM‐1の値は疾患活動性と相関することが確認できた.な お 同 一 血 清 のANCA( ば ‐EuSA) とsICAM−1の 値 の 間 に は 相 関 を 認 め な か っ た . 好 中球 側の 接着 分子 とし て, 好中 球表 面のSLeIとLFA‐1陽 性細 胞を フロ ーサイトメト リ ー で 測 定 し た が, 未処 理の 好中 球で それ ぞれ の陽 性細 胞が すでに90% 以上 あり ,TNR aで のpdmingや ,CIANCAIgGの 刺 激 等 で は 特 に 陽 性率 に変 化を 認め なか った .LFA‐1の ようなインテグリンは一般に¨restingfbmヾと¨activeform¨があり,confomlationdchange によ ルリ ガン ドに 対するアフイニテイが変わるとされている.よってLFA−1に関しては,
さらにbindingassり等の検討が必要と考える・
WGの 診 断 に お け るANCAの 重 要 性 を 報 告 し た が , 病 因 と し て のANCAの 意義 が か な り 明 ら か に な っ て い る . 近 い 将 来WGとANCAの 全 容 が 明 か に さ れ る も の と 考 え る .
学位論 文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Wegener 肉 芽 腫 症 に お け る 抗 好 中 球 細胞 質抗 体の 臨 床的重要性および発症機序にお ける接着分子の役割
Wegener肉 芽 腫 症 ( 以 下WGと 略 す ) は 原 因 不 明 の 、 上 気 道 と 肺 の 壊 死 性 肉 芽 腫 性 炎 、 全 身 の 壊 死 性 血 管 炎 お よ び 巣 状 壊 死 性 糸 球 体 腎 炎 をTriasと す る 疾 患 で あ る 。 以 前 は 臨 床 症 状 お よ び 生 検 標 本 の 病 理 組 織 に お い て 診 断 が な さ れ て き た が 、 確 定 診 断 を 得 る こ と は 症 状 が 進 ん だ 典 型 例 を 除 い て は 困 難 で あ っ た 。1985年van der Woude ら はWGに 特 異 的 で あ り 、 か つ 疾 患 活 動 性 の 指 標 と な る 抗 好 中 球 細 胞 質 抗 体 、Anti‑
neutrophil cytoplasmic antibody( 以 下ANCAと 略 す ) を 報 告し た。 当 教室 にお いて も 平 成2年以 降、 間 接螢 光抗 体法 、indirect immunofluorescence assay( 以下IIFと 略す ) に て 、ANCAの 測 定 を 行 い そ の 臨 床 的 有 用 性 を 確 認 し て き た 。 本 研 究 で はANCAの 臨 床 的 重 要 性 を ま と め る と と も に 、ANCAのELISAで の 定 量 化 を 試 み た 。 ま たWGの 血 管 炎 の 発 症 機 序 と し て 、TNF‑a等 の 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン に よ る 好 中 球 の 活 性 化 、 好 中 球 の 血 管 内 皮 細 胞 へ の 接 着 、 お よ び 活 性 化 さ れ た 好 中 球 か ら の セ リ ン プ 口 テ ア ー ゼ 、 活 性 酸 素 等 の ケ ミ カ ル メ デ イ エ ー タ ー の 放 出 が 考 え ら れ る 。 本 研 究 で は こ の う ち の 接 着 分 子 の 関 与 に つ い て 検 討 を 加 え た 。
ANCAはnFの 螢 光 パ タ ー ン に よ り2種 類 に 分 類 さ れ る が 、WGに 特 徴 的 な 好 中 球 細 胞 質 全 体 が 顆 粒 状 に 染 色 さ れ るcytoplasmic‐ANCA (CーANCA)陽 性 を 示 す 患 者 を23 名 経 験 し た 。 こ の う ち 生 検 でWGの 病 理 学 的 確 定 診 断 が つ い た の は 、 わ ず か に7例 の み で あ っ た 。 ま た10例 が 頭 頚 部 限 局 型WGで あ っ た が 、 う ち8例 はC‑ANCAの 結 果 な し で はWGの 診 断 は 不 可 能 で あ っ た 。 以 上 よ りWく 輝 . 期 診 断 に お け るANCAの 重 要 性 が 示 唆 さ れ た 。
C‑ANCAの 抗 原 は ヒ ト 好 中 球 ア ズ ー 少 顆 粒 内 のproteinase‑3で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る 。 そ こ で ホ モ ゲ ナ イ ズ し た 好 中 球 の 上 清 よ ル シ ョ 糖 密 度 勾 配 遠 心 法 に て ア
夫敬 夫 征 隆 山木 池 犬吉 小 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
ズール顆粒の含まれるロ‑fractionを部分精製し、そのa‑fractionを抗原と してELISAを 行 った 。 活 動期WGはす ぺて陽性で あり、ほ とんどの 血清は高 値を示し た。同一 患者 に おい て はnF力 価とELIS」 ` 値は よ く相 関 し 、疾 患 活 動性 を 反映 し てい た。この ELISAは 定 量性 に もす ぐ れ 、WGの 診断 お よぴ疾 患活動性 の指標に 有用であ ると思わ れた。
と こ ろ で、WGの血管炎 発症機序は 好中球の 血管内皮 細胞への 接着が重 要である と 考 えら れ て いる 。 本研 究 で は血 管 内皮 細 胞 側の 接 着 分子 と してEL」`M‐1およ び ICAM−1を 、 好 中 球 側 はsimylLewisX(SLex) お よ びLFA.1を 測 定 し た 。 ELAM‐1は患 者血清中 の可溶性ELAM−1(sELAM.1)を、ICAM‐1は可溶性ICAM‐1( sICAM11)を そ れ ぞれELISAで 測 定し た 。sIC心u‐1は寛解 期WG血清に 比ベ活動 期WG 血清中 で有意に 高値を示 した。一 方sEL心岨‐1はでは差は無かった。また活動期から 寛 解期 に 移 るに っ れ, ほ と んど の 症例 でsICAM−1の 測 定値 が 低下 す るこ とより、
sICAM‐1の値は疾患活動性と相関することが確認できた。
好中球 側の接着分子として好中球表面のSLe とLFA−1陽性細胞をフローサイトメト リ ーで 測 定 したが、 未処理の好 中球でそ れぞれの 陽性細胞 がすでに90協以上あ り、
TNF―aで のpnmingや 、C―ANCAIgGの 刺 激 等 で は 特 に 陽性 率 に 変化 を 認め な か っ た。LFA‐1のようなインテグリンは一般に¨restingform¨と¨activefom1¨があり、
confomlationalchangeによル リガンド に対するアフイニテイが変わるとされている。
よ っ てLFA‐1に 関 し て は 、 さ ら にbindingassay等 の 検 討 が 必 要 と 考 え る 。 審 査 員 一同 は、これ らの成果を 高く評価 し、また 研究者と して誠実 かつ熱心 であ り 、大 学 院 課程にお ける研鑽や 取得単位 なども併 せ申請者 が博士( 医学)の 学位を 受けるのに充分な資格を有するものと判定した。