博士(医学)桑原広昌 学位論文題名
マウス皮膚欠損創における細胞増殖因子の経時的変化に ついてのHorizontal section による免疫組織化学的研究
学位論文内容の要旨
細 胞 増 殖 因 子 は 創 傷 治 癒 に 大 き く 関 与 し て い る と 言 わ れ て い る 。 個 々 の 増 殖 因 子 の 創 傷 治 癒 に お け る 役 割 を 知 る た め に , 治 癒 過 程 に あ る 創 傷 訶 粒 で の , そ れ ら の タ ン パ ク やmRNAの 測 定 な ど , 多 く の 研 究 が な さ れ て き た 。 し か し な が ら 創 傷 に お け る 細 胞 増 殖 因 子 の 経 時 的 変 化 あ る い は 発 現 部 位 の 違 い に つ い て は , い ま だ 明 ら か と は 言 え なkヽ 。 創 傷 治 癒 過 程 で は 線 維 芽 細 胞 は 肉 芽 組 織 形 成 に 関 与 し , 一 部 は 筋 線 維 芽 細 胞 と な る 。 筋 線 維 芽 細 胞 は 形 成tj9J期 の 肉 芽 組 織 で は ほ と ん ど 認 め ら れ な い が , 創 収 縮 の 時 期 に な る と 多 数 見 ら れ る よ う に な る こ と か ら , 筋 線 維 芽 細 胞 は 倉lw5z縮 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ て い る 。 ま た 創 が 治 癒 す る と 筋 線 維 芽 細 胞 は 休 止 期 に 入 る か ア ポ ト ー シ ス を お こ し 減 少 す る 。 本 研 究 で は , 創 傷 部 位 の 線 維 芽 細 胞 と 筋 線 維 芽 細 胞 に お け る 種 女 の 細 胞 増 殖 因 子 の 経 時 的 変 化 に つ い て , マ ウ ス 背 部 に 作 成 し た 皮 膚 切 除 創 モ デ ル を 用 い て 調 べ た 。 測 定 し た 増 殖 因 子 はplatelet‑derived growth factorA (PDGFA),basic fibmblast growth factor (bFGF),FGF receptor‑l (FGF‑RJ),FGF receptor‑2 (FGF‑R2),epidennal growth frctor (EGF),keratinocyte growth factor (KGF),、 transforming growth factor pi (TG即1) お よ び む 郷fo n噛 恥 仙 触 珂p2mF翻 で , 免 疫 繃 謝 匕 学 染 色 の 手 法 を 用 い た 繃 哉 切 片 の 作 喊 に は1洲Zonbl闘 面onmgを 行 う こ と で , 線 維 芽 細脆 ぼ 頭 葡 線 維 芽 細 胞の 酉 そ 列 が 創 収 縮に 及 ぼ ・ す ・ 影 響 に つ い て 組 織 学 的 に 観 察 す る こ と を 可 能 に し た 。 丗SMAお よ び8種 の 増 殖 因 子 を 免 安 染 色 し た h洲Z0nぬlse面0nの 標 本 を 観 察 し , 肉 芽 組 織 内 の 少 な く と も150個 の 線 維 芽 細 胞 を 含 む5視 野 の 強 拡 像 で , 総 細 胞 数 お よ て 嗣 生 荊 胞 数 を 計 測 し そ れ ぞ 加 の 視 野 の 陽 性 細 胞 率 を 算 出 し た 。 実 験 モ デ ル 作 成 後 14日 目 以 降 の 標 本 は , 創 が 完 全 に 治 癒 し て い た の で 瘢 哀 細 織 内 の 細 胞 数 で 計 測 し た 。 さ ら に , 創 傷 治 癒 モ デ ル で 筋 線 維 芽 細 胞 内 に 発 現 す る こ と が 確 認 さ れ て い る 螂m0( 曲muScle繃n( 瞞MA) を 測 定 し , 肉 芽繊中 の筋 線維芽 細胞 数の経 時的 変化と 酉そ 列の変 化を 調べた 。
皮 膚 欠 損 削 モ デ ル 作 成 後5,7,10,14お よ び20日 目 に 採 取 し た 組 織 を , ヘ マ ト キ シ リ ン ・ エ オ ジ ン 染 色 し て 観 察 し た 結 果H而Z0|1t出 鷺 面onに お い て は ,5日 目 か ら10日 目 に フ ィ ブ リ ン 塊 を 取 り 囲 む よ う に 肉 芽 組 織 が 創 辺 縁 か ら 増 殖 し , 肉 芽 組 織 中 の 線 維 芽 細 胞 が 同 心 円 状 に 配 列 し て い た 。14日 目 か ら20日 目 の 瘢 嚠 蛆 織 中 の 線 維 芽 細 胞 も 同 心 円 状 に 配 列 し て い た 。 特 に 創 収 縮 を 起 こ し て い る 部 分 で は ,線維 芽細 胞は創 縁に 平行に 連続 した層 状に 配列し てい た。
各 抗 体 で の 免 疫 組 織 化 学 染 色 に お け る 陽 性 細 胞 率 を 測 定 し , 経 時 的 変 化 を 記 録 し た 結 果 , 皮 膚 欠 損 創 の 線 維 芽 細 胞 の ( 魑MA陽 性 細 胞 率 の 経 時 的 変 化 は ,7日 目 か ら10日 目 に か け て80% 以 上 に 増 加 し そ の 後 減 少 し た 。 各 増 殖 因 子 の 陽 性 細 胞 率 の 経 時 的 変 化 は ,5日 目 に は80% 以 上 の 線 維 芽 細 胞 がbFGF とPDGFA陽 性 で , そ の 後 徐 々 に 減 少 し 也FGFlR1, FGFlR2お よ びEGF陽 陸 細 月 包 数 は , 初 め 増 加 し 10日 目 で ピ ー ク に 達 し そ の 後 減 少 し た が ,FGF・R2の 変 化 はF・GF・ −R.1に く ら べ 緩徐 な 変 化 を 示 し た。
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TGF‑pi,TGFI胆 お よ びKGFは5日 日 か ら20日 目 ま で 増 加 し 続 け た が , 特 に1℃F弔1は10日 目 か ら 急速 に増加 した。
H0湎n凵 鉛襾onは 皮 膚の 創 傷 治 癒 過程 を 観 察 す る新 し い 方 法 で ある 。 本 皮膚 欠損創 モデル の肉芽 組 織 中 の線 維 芽 細 胞 は同 心 円 状 に 配 列し て お り ,aSMA染 色に よ り そ れ らの 細 胞 の80% 以 上 が 筋 線維 芽 細 胞 であ る こ と が わか っ た こ の 線 維芽 細 胞 と 筋 線維 芽 細 胞 が 同心 円 状 に 配 列す る こ と で 創 を収 縮 し てい ると考 えられ る。
本 実 験 の 免 疫 組 織 染 色 の 結 果 で は , 創 傷 治 癒 過 程 の 早 期 に は 舳 % 以 上 の 線維 芽 細 胞 がPDGFAと bF.GF陽 性 であ り , そ の 後 徐々 に 減 少 し たPDGFは結 合 細 織 中 の細 胞 増 殖 , っ まり 線 維 芽 細 胞, 平 滑 筋 細 胞, あ る い は 好中 球 や マ クロ ファー ジの増 殖を促 進す ること が加vカめ の実験 で明ら かにな って い る 。 ま たbF・GFは 創 傷 治 癒 に 関 与す る 単 球 や マク ロ フ ァ ー ジな ど の 炎 症 細胞 ,Tリ ン パ球 にD4お よ びCD8) , 血 管 内皮 細 胞 , お よび 波 膚 線 維 芽細 胞 な ど , 多種 の 細 胞 で 産 生さ れてい る。PDGFとbF・GF
|ま 創傷治 癒過程 の初 期段借 におい て重要 な殻割を持っていると推察される。本実験でFGF一R1,F.GFIR2 お よ びEGFの 陽 性 細 胞 率 は10日 目 に ピ ー ク に 達 し , そ の 後 漸 減 し た こ れら の 増 殖 因 子は 創 傷 治 癒 過 程 の中 期に 多く発 現して 肉芽組 織や筋 線維 芽細胞 の増殖 や台帖 嚇に 関与す ると考 えられ る。T、GF弔1 とTbFI胆 の 剛 蝋 明 包 率 は ,20日 目 ま で 漸 増 し っ づ け た一 搬 にTG即は , 単 球 , リン 丿 ヽ は , 好 中球 およ び瀬雛 芽細胞 に対 して強 カに増 殖促進 作用を示す功ミ,本実験の結果.,では1℃F弔1および1℃F‐陀 は 創 傷治 癒 過 程 の 後期 に 最 も 多 く 発現 し て お り ,瘢 痕組 織や角 化細 胞の形 成や成 熟に関 与して いる と 考え られる 。
本研 究 の 結 果 から , 皮 膚 全 層欠 損 創 に お ける 細 胞 増 殖 因 子の 経 時 的 変 化は ,3つ の段 階があ ると考 え ら れ る 。 っ ま り , 第1段 階 で はPDGFとbFGFが 重 要 な役 割 を も ち ,肉 芽 形 成 な どの 自 囎 蔚 台 癒 初期 の 過 程を 惹 起 す る 。第2劇 砦 で はF.GF‐Rl,F・GFIl也 およびEGFが 多く 産生さ れ,肉 芽組織 の増 殖に 重 要 な役 割 を も っ 。( 心MA陽 性細 胞 数 が 最 大に な る のも, この 時期で あり, 筋線維 芽細 胞が創 収縮に 関 わ って い る 。 第3段 借 で は ,1bF.‐pl,1℃Fl陀 およびKGF陽 忖潮 馳がピ ークに 達チナ る。1℃F弔1と 1、GFI胆|ま 癒館孫 且織を 成熟さ せ,KGFは 肉芽組 織表面 での角 イ幽 馳の分 裂増殖 を促進 し表皮を廊熱さ せる 。
今後 の 研 究 で は, こ れ ら 各 段階 で の 増 殖 因子 の 生 化学的 メカ ニズム が解明 される 必要 がある 。また 疾 病 治療 の 点 か ら は, 病 態 生 理学 的に関i懿 ヒのあ るりガ ンド‐ レセ プター の組み 合わせ が同定 され , こ れ ら の 増 殖 因 子 の 作 用 を 変 化 さ せ る 薬 剤 が 開 発 さ 加 脇 床 応 用 さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
マウス皮膚欠損創における細胞増殖因子の経時的変化に ついての Horizontal section による免疫組織化学的研究
本 研究 は, 皮膚 創傷 部 位の 線維 芽細 胞 と筋 線維 芽細 胞に お ける 種々 の細胞増殖因子の経 時的変化に ついて,免疫組織化学的に解析を行ったものである。
個 々 の 増 殖 因 子 の 創傷 治癒 にお ける 役 割を 知る ため に ,そ れら のタ ンパ ク やmRNAの 測定 など 多 く の 研 究が なさ れて きた が ,そ れら の経 時 的変 化あ るい は発 現 部位 の違 いについては,いま だ明らかと は 言 えな い。 本研 究で は ,創 傷部 位の 線 維芽 細胞 と筋 線維 芽 細胞 にお ける種々の細胞増殖 因子の経時 的 変 化 に っ い て , マ ウ ス 背 部 に 作 成 し た 皮 膚 切 除 創 モ デ ル を 用 い て 調べ た 。測 定し た増 殖因 子 は pktekt.d嚠ved卿wthfhctarA¢DG脚 ,ba8ic蝕 川ast剛w血factぱ 卿GF) ,FGF職eptor.1
〈FGF.R1),FGFrecept0で‐2(FGF‐R2),epidermalg聞wth龜Lctor(EGF),kerat泣ocytegra驅rthfa曲0r
(KGF),tran8fcぱm血g釘弸心血ctorB1(T(酒.B1)およびtr鉞L8f{)rm血ggm帆h伍ctorB2(T(押.B2)で,
免 疫 組織 化学 染色 の手 法 を用 いた 。組 織 切片 の作 成に はhor江ontalsecぬ 斌ngを行 うこ と で, 線維芽 細 胞 や筋 線維 芽細 胞の 配 列が 創収 縮に 及 ぼす 影響 につ いて 組 織学 的に 観察することを可能 にした。実 験 モ デ ル 作 成 後5,7,10,14お よ び20日 日 に 採 取 し た 組 織 を , ヘ マ トキ シ リン ・エ オジ ン染 色 し て 観 察 し た 結 果 ,hor江ontal艶ctioaにお いて は ,5日 目 から10日 目に フィ プ リン 塊を 取り 囲む よ う に 肉 芽組 織が 創辺 縁か ら 増殖 し, 肉芽 組 織中 の線 維芽 細胞 が 同心 円状 に配列していた。14日日から20 日 日 、の 瘢痕 組織 中の 線維芽細胞も 同心円状に配列していた。各 抗体での免疫組織化学染色 における陽 性 細 胞率 を測 定し ,経 時 的変 化を 記録 し た結 果,皮膚欠損創の 線維芽細胞のn.Sh圧A陽性細 胞率は,7 日 目 か らlO日 日 に か けて80% 以上 に増 加 しそ の後 減少 し た。 各増 殖因 子の 陽 性細 胞率 の経 時的 変 化 は ,5日 日 に は80% 以 上 の 線 維 芽 細 胞 が 師 丶GFとPDGEA陽 性で ,そ の 後徐 々に 減少 し た。FGF.Rl, F(担 .R2お よびE(拑 陽 性細 胞数 は, 初 め増 加し10日日でピー クに達しその後減少した。T(押.Bl, T(押‐62およぴK(押は5日目から20日目まで増加し続けた。
H・oriめnta18ecti伽は皮膚 の創傷治癒過程を観察する新 しい方法である。本皮膚欠 損創モデルの肉芽 組 織 中の 線維 芽細 胞は 同 心円 状に 配列 し てお り,80% 以上 が 筋線 維芽 細胞であることがわ かった。こ の 線 維芽 細胞 と筋 線維 芽 細胞 が同 心円 状 に配 列す るこ とで 創 を収 縮し ていると考えられる 。本研究の 結 果 から ,皮 膚全 層欠 損 創に おけ る細 胞 増殖 因子 の経 時的 変 化は ,3つの 段階 があ ると 考 えら れた。
っ ま り , 第1段 階 で はPDGFとbFGFが 重 要 な 役 割 を も ち , 肉 芽 形 成 な ど の 創 傷 治 癒 初 期 の 過 程 を 惹 起 す る 。 第2段 階 で はFGF.R1,FGF・R2お よびE( 爾が 多 く産 生さ れ, 肉芽 組 織の 増殖 に重 要な 役 割
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授 授
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をも つゎ第3 段階では,TGF‑B1 とTGF‑B2 は瘢痕組織を成熟させ ,KGF は肉芽組織表面での角 化細 胞の分裂増殖を促進し表皮を成熟させる。
公開発表にあたり、副査近藤哲教授より,1 )創傷治癒過程のhorizontal section の各層での組織所 見の相違点,2 )各増殖因子の経時的変化の測定結果から考えられる,将来的な臨床応用の可能性に ついて,質問およびコメントがあった。次いで,副査清水宏教授より,1 )創傷部位に局在している 各増殖因子の量的差,2 )本実験系のDayO での各増殖因子の状態,3 )創周囲皮膚のstem cell の存在 部位とその免疫染色結果について,質問およびコメン卜があった。次に形成外科学分野山本有平助教 授より,潰瘍底カs 脂肪組織であった場合に予想される結果について質問があった。最後に主査杉原平 樹教授より,1 )実験モデルが皮膚切開創であった場合に予想される線維芽細胞の配列形態,2 )実 験方法に免疫組織化学染色を用いた理由について質問およぴコメン卜があった。いずれの質問に対し ても,申請者は学位論文の背景および本研究の経過と結果について詳細な説明を交え,最新の知見を 引用し,妥当な回答をした。
この論文は,皮膚創傷治癒における種々の細胞増殖因子の発現時期と創収縮について,horizontal section を用いて免疫組織化学的に明らかにした点で高く評価され,今後,創傷治癒遅延などの病態の 解明と診断治療にっながることが期待される。
審査員一同は,これらの成果を高く評価し,申請者が博士(医学)の学位に受けるのに充分な資格 を有するものと判定した。.
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