博 士 ( 医 学 ) 伊 藤 昭 英
学 位 論 文 題 名
サ ル コ イ ド ー シ ス 肺 の 炎 症 細 胞 に お け る GM ・ CSFmRNA の 発 現
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
1. 目的
肺サ ルコイ ドーシ ス(サ 症) は主tこ単球/マク□フアージ系の細胞から成る類上皮細胞肉芽腫 の形成 を特 徴とす る疾患 である 。こ の系統 の細胞 が肺に集積する機序として、肺胞隔壁に浸潤す るTリンバ 球なら びに 肺胞マ クロフ ア―ジ から 放出さ れる種 々のサ イトカ インが重要と考えられ て いる 。 本 研 究 では コ 口 ニ一刺 激因 子(CSF)が 単球/ マク口 フア ージ系 細胞に 対して 分化 や 増 殖を 誘 導 す る など の 作 用を持 つこ とに注 目し、CSFが サ症に おけ る肉芽 腫形成 に関与 する と の 仮説 を 立 て た 。こ れ を 検証す るた め、サ 症患者 から気 管支 肺胞洗 浄(BAL)で 得た細 胞に よ るCSFのmRNA発 現 を 検 討 し 、 健 常 人 お よ ぴ 農 夫 肺 症 患 者 と の 比 較 を 試 み た 。 2.対象 と方法
対 象 は サ 症 患者20名 、農 夫肺症 患者5名、 正常対 照者5名と した 。サ症 患者に ついて は胸部X 線 所見 、 肺 外 病 変の 有 無 、臨床 経過 、血清 アンギ オテン シン 変換酵 素(ACE)値 など臨 床デ ー タ を収 集 し た 。 臨床 経 過 はBALの 前1年 間の 胸 部X線 所見 ま た は 理 学所 見の 変化に 基づ ぃて増 悪 ・不変 ・軽快 の3段階に 分けた 。
BALは 常 法 に よ っ て 行 い 、 集 め た 細 胞 か らRNAを 抽 出 し た 。BAL細 胞 か ら 得 ら れ るRN Aの 量 は 少 な い の で 、mRNAの 検 出 に は 逆 転 写 一 ボ リ メ ラ ー ゼ チ ェ イ ン リ ア クシ ョ ン (RT‑
PCR) 法 を 用 い た 。 即 ち 、total RN Al Aigか ら 逆 転 写 酵 素 に よ っ てcDNAを合 成 し 、 次 に 目 的 のmRNAの ― 部の 塩 基 配 列 に 対応 す る オ リ ゴヌ ク レ オ チ ドを プ ラ イ マー とした ボリメ ラ―
ゼ チ ェ イ ン リ ア ク シ ョ ン (PCR) に よ り 目 的 のcDNAを 増 幅 し た 。PCRは1サ イ ク ル を94
℃1分 、55℃2分、72℃1.5分と し30サイ クル行 った 。
RT―PCRの 最 終 産 物の ー 部 を ア ガ□ ― ス ゲ ル で電 気 泳 動 し 、ナ イ 口 ン 膜 に ブ口 ッ ト し た 。 こ れに30pでラ ペ ル し た そ れぞ れ のcDNAブ □ ー ブで ハ イ ブ リ ダイ ゼ ― シ ヨ ン を行 い 、 洗 浄 後 に オ ー ト ラジ オ グ ラ フ イー を 行 っ た 。 用い たDNAプ 口 ― ブ は 米国Genetics Institute Inc.か ら 供与を 受けた 。
3.結 果
1)BALサ 症 患 者 で はり ン バ 球 比 率が 平 均35.3%と 増 加し て お り 、 リ ンバ 球 性 胞 隔 炎を 示 し て い た 。 リ ン バ 球 のCD4十 /CD8十 比 は 平 均4.0で 、 ヘ ル バ‑T細 胞 優 位で あ っ た 。 農夫 肺 患 者 はい ず れ も 抗 原か ら 隔 離 さ れた 時 期 にBALを 行 っ た が、 リ ン バ 球 比率 ( 平 均64.8%) 、CD4 十//CD8十 比(平 均9.8)とも サ症例 より 高値で あった 。
2)CSFmRNAの 検出
A.MーCSFRT−PCR産 物 の サ ザ ン ブ □ ッ ト の 結 果 、 す ぺ て の 被 験 者 が 目 的 の 塩 基 配 列 に 一 致し たサイ ズ(245bp) のパン ドを示 し、mRNAが発現 され ている ことが わかっ た。パ ンド の 濃 さ に は 幅 が あ っ た が 、 疾 患 、BAL所 見 な ど に よ る 特 定 の 傾 向 は 認 め な か っ た 。 B.GM―CSFサ 症 患 者20名 中15名 がmRNA発 現 を 示 す パ ン ド (268bp) を 呈 し た 。 陽 性 コ ン ト ロール として 、健常人の末梢血単核球を0.1Xのphytohemagglutlnlnと5n9/m1のphorb01my「1s―
−tateacetateで24時 間 刺 激 し て か らRNAを 抽 出 し 、 こ れ のRT−PCR産 物 を10倍 に 希 釈 し た も のを 用 い た が 、こ の シ グ ナ ルに 比 ぺ て も 患 者の シ グ ナ ル は明 ら か に 弱 く、 患 者RNA中 のGM
−CSFmRNAは 比 較 的 少 な い こ と が 推 察 さ れ た 。 農 夫 肺 患 者 、健 常 人 で は 発 現は 見 ら れ な か っ た。
C.IL−3陽 性 コ ン ト 口 ー ル (GM−CSFの 場 合 と 同 じ 、 但 し 希 釈 は せ ず に 用 い た ) で は 予 測 さ れ た サ イ ズ の パ ン ド を呈 し た が 、BAL細 胞 のRNAで は ー例 も パ ン ド が 認め ら れ な か っ た 。
183
3)BAL細胞がGM−CSFmRNAを発現していたサ症症例の臨床的検討
BAL細 胞 で のGMーCSF発 現 の 臨 床 的 意 義 を 明 ら か に す る た め 、 サ症 患者 でGM―CSF
(十)の群と(一 )の群を比較検討した。GM−CSF(―)群の5人はいずれも肺外病変がな く、臨床経過上、1年前と比較して改善していたが、(十)群では15人のうち11人に肺外病変が あり、14人は臨床経過上不変または増悪と判断された。これらの臨床像の差異は統計学的に有意 であった。(p=0.016及び0.0008、Fishe「の直接確率法)。
さらに、サ症の 活動性を評価する指標とし て従来用いられてきた血清ACE値およびBAL所 見に つ いて 検討 した 。 血清ACE値は、GM−CSF(十)群が(―)群 より有意に高値であっ た(21.4+2.1 vs.12. 5+2.0、p<0.05)。BAL所見を比較すると、(十)群は(―)群に比して 有意 に りン バ球 比率 お よび りン バ球 のCD4十 /CD8十比が高かった (リンバ球比率44.3+
6.2% vs. 8.2+2.弼 、CD4十 /CD8十 比5.0+0.6 vs. 1.5+0.4、 い ず れ もp<0.01) 。 4.考察
MーCSFmRNAがヒ ト のBAL細 胞で 発現 され てい る こと は既 に報 告 され てお り、 本研 究 で は 肉 芽 腫 性 肺 疾 患 で 検 討 し た が 健 常 人 と 特 に 差 は 見 い だ せ な か っ た 。 ヒ ト 肺に おけ るGM−CSFmRNA発 現 は従 来知 られ ていなかったが 、本研究では高感度な RT―PCR法を 用 いて 、サ 症患者のBAL細 胞における発現を検出し得 た。この方法でも健常 者では発現を認めなかった点は従来の報告を裏付けていた。
GM−CSFmRNAが サ 症 患 者 のBAL細 胞 のみ で発 現 され てお り、 臨 床的 重症 度と ある 程 度の相関が得られ たことは、サ症の病変形成機序の一部にGM−CSFが関与している可能性を 示 唆 す る 。 ま た 、GM−CSFmRNAを 発 現 し て い る サ 症 患 者 は 血 清ACE値 やBAL液 中 の りンパ球比率、リ ンバ球のCD4十/CD8十比な ど従来用いられてきたサ症の活動性の指標も より高値であったこともこの可能性を支持している。
GM―CSFは単球/マク□フアージ系細 胞に対して増殖、分化、抗 原提示、H202産生、サ イトカイン分泌などを亢進させることが知られており、これらの作用を通してサ症の病変形成に 関与する可能性がある。サ症患者の肺胞マク□フア―ジは活性酸棄、IL−1の産生や抗原提示 能 が 亢 進 し て いる な ど、GM−CSFの関 与を うか が わせ る知 見も 既 に報 告さ れて いる 。 サ 症 と病 理学 的に 類 似した肺病変を 形成する農夫肺症患者のBAL細胞ではGM―CSFの発 現が認められなかった。サ症で活動性の指標とされているBAL液中のりンバ球比率、リンバ球 のCD4十/CD8十比 は今回対象とした患者では むしろ農夫肺症でより高値であった。従って サ症 患 者で のGM一CSF発 現は 単に り ンパ 球な いしCD4十Tリンパ球 の数的増加を反映して い る の で は な く 、 サ 症 に お け る 胞 隔 炎 の ひ と つ の 特 徴 と 考 え ら れ る 。 GM―CSFを含め たサイトカインの疾患への関与については未知の点が多いが、生体内での サイトカイン産生動態の研究によってサ症の病態の解明や合理的な治療法の選択に結び付くこと が期待される。
5.まとめ
BAL細 胞 中 のGM−CSFmRNA検 出 をRT―PCR法 に て 試 み た 。 サ 症 患 者20名 中15名 で発現を認めたが、農夫肺症患者および健常人では認めなかった。発現を認めたサ症患者はそう でないサ症患者に 比ぺてより活動性の病変を有していた。これらの結果から、GM−CSFはサ ル コ イ ド 病 変 の 形 成 ま た は 維 持 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ た 。
‑184−
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 川 上 義 和 副 査 教 授 葛 巻 暹 副査 教授 大河原 章
目 的 : サ ル コ イ ド ー シ ス 肺 に , 単 球 / マク ロ フ ァ ー ジ系 細 胞 が 集 積す る 機 序 を みる こ と 。 対 象 : サ ル コ イ ド ー シ ス ( 以 下 サ 症 ) 患 者20名 , 農 夫 肺 症 患 者5名 , 健 常 人5名 。 方 法 : 被 験者 の 肺 胞 洗 浄液 ( 以 下BALF) 中 細 胞か ら 逆 転 写 ポリ メ ラ ー ゼ チュ インリ アクシ ョ ン に よ りmRNAを 増 幅 , 最 終 産 物 の一 部 を ア ガ ロー ス ゲ ル で 電気 泳 動 ナ イ 口ン 膜 に ブ 口 ッ ト し た 。 そ れぞ れ のcDNAプ ロ ー ブでハ イブリ ダイ ゼーシ ョンし ,オー トラ ジオグ フティ ーを行 つ た 。
結 果 : サ 症 患 者 で はBALF中 リ ン パ 球 比 率 が 平 均35.3% と 増 加 し て お り ,CD4 /CD8は 平 均 4で あ っ た 。 農 夫 肺 症 で は り ン パ 球 比 率64.8% ,CD4 /CD89.8と よ り 高 値 で あ っ た 。 サ 症20名 中15名 がmRNA発 現 を 示 す バ ン ド(268bp)を 呈 し た が , 農 夫肺 症 , 健 常 人で は 発 現 はみら れなか った。 サ症 のうち 発現群は肺外病変があり,経過上不変または増悪と判断された。
ま た , 血 清ACEが よ り 高 く ,CD4 /CD8が よ り 高 い の が 発 現 群 で あ っ た 。 以 上 の 結果 は ,GM―CSFは サ症 の 肺 病 変 の形 成 ま た は 維 持に 重 要 な 働 きを し て い る こと を 示 してい る。
口 頭 発表 に 際 し , 葛巻 教 授 か ら 発現 細 胞 の 種 類,Growth factorの測定 ,receptor異常の 有 無 に っ き , 大 河 原 教 授 か ら 皮 膚 サ ル コ イド ー シ ス と の対 比 に っ き ,長 嶋 教 授 か らM―CSF, GーCSFの 検 討 , 他の 肺 疾 患 に お ける 検 討 に っ き, ま た 皆 川 教授 か ら 細 胞 培養 などの 応用,IL
― 1活 性 と の 相 関 に っ き 質 問 が あ っ た が , 申 請 者 は ほ ぼ 妥 当 に 答 え た 。 ま た ,箇 別 に 葛 巻 ,大 河 原 , 両 教授 か ら 試 問 を受 け , 合 格 と の御 返 事 をい ただ いてい る。
以 上 , 本 研 究 は サ ル コ イ ド ー シ ス の 肺 肉 芽 腫 形 成 にGM一CSFmRNA発 現 が 役 割 を も っ て い ること を明ら かにし たも ので, 博士に 相当す るも のと認 めた。
‑185