博士(医学)首藤 学位論文題名
L −ar glnlne ―nitrlc oxldepathWay の 心循環系における役割に関する研究
: nltrIcoxide 合成酸素阻害薬の長期投与による 新たな高血圧ラットモデルを用いた検討
学位論文内容の要旨
寛
目的
nitric oxide (NO)は,さ まざま な組織 で産生 されてお り,特 に血管 内皮細 胞で産 生され る endothelium‑derived relaxing factor (EDRF)/NOは多くの研究者によってその作用機序が解明されつつ ある ,NOは ア ル ギ ニン を 基 質 とし てNO合成 酵 素(NOS)に より合 成され るが,NOSの阻害 により : 昇圧作 用が生 じること が知ら れてい る.ま た,NOは 血管内 皮細胞 のみな らず交 感神経 系の制御 を介して 循環調 節に影 響を及 ぽすこ とが報 告され ている .しかし 血管内皮細胞以外でのNOの役害1 についてはいまだに明確にされていないことが多い.
NOS阻害薬 の慢性 投与に よる高 血圧モ デルを 作製す る試みは ,主にNOS阻害 薬経口投 与によっ て行われ てきた .しか し従来 の方法 では, 消化管 吸収率 や摂取量 の変化 により 投与量 が一定しな いことがあり,安定した結果が得られるとは限らない.
本研究 では長 期間に わたり 一定量の 薬物を 持続的 に投与 するこ とが可能である osmotic pump を用い.ラットにNOS阻害薬であるL‑N甜‑nitro‑arginine methyl ester (NAME)を慢性投与して安定し た高血圧 モデル を確立 し,NOの 交感神 経系を 含めた 心循環 系にお ける役 割を明ら かにす ることを 目的とした,
方 法
Wiatar系 ラ ット の 腹 腔 内に 生 理 食 塩水 ( コ ン トロ ー ル 群 :n=8),0.2M NAME(低NAME群 : n=13),1M NAME( 高NAME群 :n=12)を そ れ ぞ れ 充 填 し たosmotic pumpを 埋 め 込 み , さ ら に 脳 卒 中 易 発 症高 血 圧 自 然発 症 ラ ッ ト(SHRSP群 :n=9)を 対照 群 と し て加 え た4群 に つ いて ,4週 間 の 血 圧・ 心 拍 数 の推 移を 尾動脈 カフ法に より測 定した .また ,一部 のラッ トでは ,telemetr) systemを 用い る こ と によ り,無麻 酔・無 拘束下 での観 察を行 った4週 間の観 察期間 終了後 ,ラツ ト大 腿動脈 にカニ ューレ を挿入 し,こ れを圧 トラン スデュー サーに 接続し て大動 脈圧お よび心拍 数 を 記 録し た . 続 いて カニ ューレ より採血 し,血 漿中活 性レニ ン濃度 (RIA法) .血清 中カテ コ ール アミン 濃度(HPLC法) を測定し た,さ らに血中Llアルギニン濃度およびL一ニトロアルギニン1 濃度 をアミ ノ酸分 析器を 用いて 測定し た, |
脱 血後, 胸部下 行大動 脈およぴ 心臓を 摘出し ,ホル マリン 固定後 ,輪状標本を作製した,コ3 ンピ ュー夕 画像解 析装置(Kontron Cardi0 500)を 用いて 大動脈 壁の面 積と内腔面積との比(wall| lumen area ratio)およぴ 左心室 壁厚を 算出し た.
結果 ! !
尾 動脈カ フ法に より測 定した 収縮期 血圧は 低NAME群およぴ高NAME群でそれぞれ113.9土3.1! か ら144.0士4.4 mmHg (mean土S.E.), および114.1土7.3から181.4土9.0 mmHgと上昇した.コン ト ロ ー ル群 とSHRSP群 で は そ れぞ れ116.8土5.5か ら120.6土1.9 mmHg,200.3士5.1から213.8土 7.4 mmHgと, 血 圧 に 有意 な 変 化 が認 め ら れ なか っ た . また ,NAME投 与 群の 収 縮 期血圧 はL‐ニ 1ト ロ ア ル ギ ニ ン お よ ぴ し ニ ト ロ ア ル ギ ニ ン/L‑ア ル ギ ニ ン 比 と 正 の 相 関 を 示 し た .
; 心拍 数 は コ ント ロ ー ル 群( 約420 bpm)とSHRSP群( 約450 bpm)で は心拍数 に有意 な変化 カミ 腿 め ら れな か っ た .低NAME群 お よ ぴ 高NAME群の 心 拍 数 はosmotic pump埋め 込 み 後数日 で410か ら340 bpm前後 まで急激 に低下 したの ち,徐 々に前 値に戻 った.Telemetry systemにより測定した 血 圧 の推 移は尾動 脈カフ 法によ る測定 値と同 様の結 果だっ た.ま た,osmotic pump除去後 の血圧 はNAME投 与 群 では 徐 々 に 回復 す る 傾 向を 示 し た ,心 拍 数は尾 動脈カ フ法で 見られ たNAME投与 群 に お け る 一 過 性 の 心 拍 数 低 下 は 認 め ら れ ず , ほ ぽ 一 定 の 心 拍 数 ( 約400 bpm)を 保 っ た . 高NAME群で はコン トロール 群(0.13土0.02 ng/ml)に 比ペノ ルアド レナリ ン濃度の有意な上昇
(O.21土O.03)が認められたが,低NAME群゜SHRSP群では変化を認めなかった(0.14士0.02,O.15士 0.03) . ア ド レ ナ リ ン ・ ド ー パ ミ ン ・ 活 性 レ ニ ン 濃 度 は4群 間 で 差 を 認 め な か っ た , 高NAME群 で は ,SHRSPに 比 ベ高 血 圧 の 程度 が 低 く その 持 続 期 間が 短 い に もか かわら ず,大 動 脈壁/ 内腔面 積比は0.39土O.06と,SHRSP群(0.39士O.03)と同程度に増大が認められた,低 NAME群 (O.33士O.02) で は コ ン ト ロ ー ル 群 (0.25士O.05) と 有意 差 を 認 めな か っ た , 左 心 室 壁 厚 は , コ ン ト ロ ー ル 群 , 低NAME群 , 高NAME群 ,SHRSP群 で そ れ ぞ れO.25土 0.05,0.33士0.02,O.39士0.06,O.38士0.03と,高NAME群で最も高値を示した,高NAME群.・
SHRSP群 は コ ン ト ロ ール 群 と 比 べ有 意 な 肥 厚を 示 し た が, 高NAME群 で はSHRSP群 に 比し , 血 圧 上昇の程度が小さいにもかかわらず肥厚が著しい傾向が認められた.
考察 、 ! I
本 研究 で作成 したNOS阻 害薬投 与によ る慢性 高血圧 モデルは ,従来 の経口 投与に よる高 血圧t とほぽ 同程度 の昇圧を 示した .osmotic pumpを用い たNOS阻害薬慢性投与1とょり,血圧上昇の程!
度が調 節可能 で,ラッ トの飲 水量や 腸管の 吸収率 に影響 を受け ない安 定した高 血圧モデルを作成I する こ と が可能 となっ た,Telemetry systemを用 いて観 察した 血圧はosmotic pump除去 後,投 与 前の レ ベ ルに戻 る傾向 を示し た.し かし血 圧の正 常化が 組織変化 の正常 化を伴 うもの である か否 かは今 後の検 討が必要 である ,
NAME投 与 群 にお い て ,NOS阻害 薬 経ロま たは静 脈内投 与によ る他の報 告にも 多く見 られる よう に, 一 過 性の心 拍数低 下が観 察され た.静 脈内投 与によ る急性実 験では 圧受容 器反射 がこの 原因 である との報 告がある が,telemetry systemによ る観察 ではこれが見られなかったことや,血圧上 昇が 明 ら かにな る前か ら心拍 数の低 下が生 じてく ること から,慢 性投与 におけ る心拍 数の低 下は NOS阻 害 に よ る圧 受 容 器 反射 の 反 応性 の変化 や, 測 定時の ストレ スに対 する反 応性の 変化など によ る も のと考 えられ る.ま た,後 期の心 拍数の 回復に は,下記 に示し たよう に,交 感神経 活性 の亢 進 が 関 与し て い る 可能 性 が あ る.NOS阻 害薬の 静脈内 投与に よる実 験では交 感神経 活性が 上 昇す る こ とが報 告され ている が,本 実験で の高NAME群 におけ る血中 ノルア ドレナ リンの 有意な上 昇と ド ー バ ミン の 低 下 傾向 は , 交 感神経 終末で のノルア ドレナ リンの 放出増 加を示 唆し,NOS阻 害 薬 慢 性 投 与 に お い て も 心 循 環 系 に 対 す る 交 感 神 経 系 が 関 与 し て い る と 思 わ れ た . ま た . 高NAME群 で はSHRSP群 に 比 べ高 血 圧 の 程度 が 軽 度 で, し か も その 持 続 時 間が 短かっ た にも 関 わ ら ず,SHRSPと同 等 ま た はそれ 以上に 著しい 大動脈 や心筋 の肥厚 が見ら れた, 高血圧に よる 細 胞 増殖や 肥大に 加えて ,NOによ る細胞 増殖抑 制作用 の減弱 ,交感 神経系の 亢進な どが高 度 の組織 肥厚を 生じたも のと考 えられ た.
ー282ー
結語
1)NOS合成酵素阻害薬NAMEをosmoti・cpumpを用いて慢性投与することにより血圧上昇の程 度 が 調 節 可 能 な 安 定 し た 慢 性 高 血 圧 ラ ‐ ッ ト の 作 製 が 可 能 と な っ た , 2)NOS阻害薬慢性投与による循環動態およぴ組織変化の機序として,交感神経系亢進やNOに よる細胞増殖抑制作用の減弱が関与する可能性が示唆された.
学位論文審査の要旨 主 査 ′教 授 北 畠 顕 副 査 教授 菅 野盛 夫 副 査 教授 安 田慶 秀
学 位 論 文 題 名
L − arglnlne − nltrlCOXidepathWay の 心循環系における役割に関する研究
:nItrlcoxide合 成 酸素 阻 害薬の長 期投与に よる 新 た な高 血 圧 ラッ ト モデ ル を 用い た 検討
目的
nitric oxide (NO)は,特に血管 内皮細胞由来のendothelium‑derived relaxina factor (EDRF)/NOとして多 く の 研 究 者 に よ っ て そ の 作 用 機 序 が 解 明 され つ っあ る.NOはア ルギ ニ ンを 基質 と してNO合 成 酵素(NOS) に よ り 合 成 さ れ ,NOSの 阻 害 に よ り 昇 圧 作 用 が 生 じ る こ と が 知 られ て いる ,ま た ,急 性実 験 ではN'Oは 交 感 神 経 系 の 制 御 を 介 し て 循 環 調 節 に 影 響を 及 ぽす こと が 報告 され て いる .NOS阻害 薬 によ る慢 性 高血 圧 モ デ ル 作 製 の試 み は, 従来 主 に経 口投 与 によ る報 告 があ るが , 消化 管吸 収 卒や 摂取 量 の変 化に よ り必 ずしも効 果が一定していない ,
本 研究 で は長 期間 に わた り一 定 量の 薬物 を 持続 的に 投 与す るこ と が可 能であるosmotlc pumpを用い,
ラッ トにNOS阻 害薬L‑Nり‑nitro‑arginine methyl ester (NAME)を慢性 投与して安定した 高血圧モデルを確 立 し , こ の モ デル を 用い てNOの 交感 神経 系 を含 めた 心 循環 系に お ける 役割 を 明ら かに す るこ とを 目 的と した.
方法
Wiatar系ラ ット の 腹腔 内に 生 理食 塩水 ( コン トロ ー ル群 :n=8),0.2M NAME( 低NAME詳 :n=13)、
1M NAME( 高NAME群 :n=12)を そ れ ぞ れ 充 填 し たosmotic pumpを 埋 め 込 み , さ ら に 脳 卒 中 易 発 症 高 血 圧 自 然 発 症 ラ ッ ト(SHRSP群 :n=9)を 対 照 群 と し て 加 え た4詳 に つ い て ,4週 間 の 血 圧 ・ 心 拍 数 の 推 移を尾動脈カフ法 および一部telemetry systemにより測 定した.
4週 間 の 観 察 期 間 終 了 後 , 採 血 を 行 い , 血 漿 中 活 性 レ ニ ン 濃 度(RIA法 ) . 血 清 中 カテ コ ール アミ ン 濃 度 (HPLC法 ) を 測定 し た. さら に 血中L‐ア ルギ ニ ン濃 度お よ びL‑=トロ アル ギ ニン 濃度 を アミ ノ酸 分析器を用いて測 定した,
さ ら に 胸 部 下 行 大 動 脈 お よ び 心 臓 を 摘 出 し , 輪 状 標 本 を 作 製 し た , コ ン ビ ュ ー 夕 画 像 解 析 装 避 (Kontron Cardi0 500)を用いて大動脈 壁の面積と内腔面 積との比(wall/lumen area ratio)お よび左心室壁厚 を算出した,
ー284ー
結果
尾動 脈カフ法により測定した収 縮期血圧は低NAME群および高NAME群でそれぞれ113.9土3.1から 144.0土4.4 mmHg (mean士S.E.),および114.1土7.3から181.4土9.0 mmHgと上昇した,また,NAME投 与群の収縮期血圧はL.ニトロアルギニンおよびL.ニトロアルギニン/Lーアルギニン比と正の相関を示した 同じく 心拍数はosmotic pump埋め 込み後数日で410から340 bpm前後まで急激に低下したのち,徐々 に前値に戻った.
Telemetry systemにより測定した血圧の推移は尾動脈カフ法による測定値と同様の結果だった.また osmotic pump除去後の血圧はNAME投与群では徐々に元に戻る傾向を示した.心拍数はほぼー定(約400 bpm)を保った.
高NAME群では他の3群に比ベノルアドレナリン濃度の有意な上昇が認められたが,アドレナリン・
ドーバミン・活性レニン濃度は4群間で差を認めなかった.
高NAME群では,SHRSPに比べ高血 圧の程度が低くその持続期 間が短いにもかかわらず,大動脈壁
/ 内 腔 面 積 比 は0.39土0.06と ,SHRSP群(0.39士0.03)と 同 程 度 に 大 動 脈 肥 厚 が 認 めら れた . 左心 室壁厚は,コントロール群 ,低NAME群,高NAME群,SHRSP群でそれぞれ0.25土O,05,0.33 土0.02, 0.39士O.06,0.38土0.03と ,高NAME群で最も高値を示した,高NAME群ではSHRSP詳に比し,
有意に著しい肥大が認められた,
考察
本研究では,osmotic pumpを用いたNOS阻害薬漫性投与により,血圧上昇の程度が調節可能で,ラッ トの飲水量や腸管の吸収 率に影響を受けない安定した高血圧モデルを作成することが可能となった,
Telemetry systemを用いて観察した血圧はosmotic pump除去後,投与前のレベルに戻る傾向を示した.
NOS阻害薬の静脈内投 与による急性実験では交感神経活性が上昇することが報告されているが.本 実験での高NAME群におけ る血中ノルアドレナリンの有意な上昇は,交感神経終末でのノルアドレナル ンの放出増加を示唆し,NOS阻害葉慢性投与においても心循環系に対する交感神経系が関与していると 思われた.
また,高NAME群ではSHRSP群に比べ高血圧の程度 が軽度で,短期間だったにも 関わらず,SHRSP と同等またはそれ以上に著しい大動脈や心筋の肥厚が見られた,高血圧による細胞増殖や肥大に加えて,
NOによる細胞増殖抑制作用の減弱,交感神経系の亢進などが高度の組織肥厚を生じたものと考えられた
口頭発表の審査会において,菅野教授により血圧および組織変化の可逆性,他組織の血管の変化,
NO作動性神経 の関与,臨床応用などにつ いて質問がなされた,また,安田敦授により血管の種類によ るぁ己厚の相違,動脈硬化との関連,血圧の上昇率と心肥大の関連について質問がなされた.さらに本間 敦授によりNO合成阻害薬の中枢作用の有無,および本モデルでの成長ホルモンの関与の有艇について質 問がなされた.これらに対し申請者は概ね妥当な回答を行った,その後行われた菅野・安剛両審査教授 との試問においても,概ね妥当な回答がなされた.
本研究は、 NO合成酵素阻害葉を用いた新しい慢性高血圧ラットモデルを作製し,さらにこれを′H いて, NOが交感神経系に関与し,心筋血管肥厚にも影響を及ぽしていることを明らかにしたものであり、
有意義な研究と考えられ,学f立授与に値する.