博 士 ( 理 学 ) 伊 藤 学 位 論 文 題 名
透
Nuclear Basic Proteins in Sperm of An Anuran Amphibian, Rana catesbeiana:Their Structure and Role in Condensed State of Chromatin
(無尾両生類Rana catesbeianaの精子核塩基性タンパク質の構造及びクロマチン凝縮における役割)
学位論文内容の要旨
通常 、 動物 の精子核が体細胞 核に比べて強く凝縮してい るのは、精子核ク口マチンを 構成 す る塩 基 性夕 ンパ ク質 が体 細 胞核 のそ れと は 異な るた めで ある と考えられている。す なわ ち 、一 般 に体 細胞核のクロマチ ンが生物種を越えて普遍的 なヒストン群から構成される のと は 対 照 的 に 、 精 子 核 塩 基 性 夕 ン バ ク 質(sperm nuclear basic protem,SNBP) は 単 に ヒ ス卜 ン と異 なる のみ なら ず 、動 物種 ごと に さま ざま なタ イプ が存在するという特徴 を持 つ 。し た がっ て、 多種 多様 なSNBPの性 質を 明 らか にす るこ とは 、精子核凝縮の機構と 生物 学 的 意 味 を 知 る う え で 重 要 で あ る 。 無 尾 両 生 類 の う ち 、 ニ ホ ン ヒ キ ガ ェ ル (Bu′ 〇 Jap〇nJcuみ のSNBPは ア ル ギ ニ ン を40% 以 上 含 む典 型 的な プロ タミ ン、 ア フリ カツ メガ エ ル(Xen〇pusぬeWs)の それ はア ル ギニ ンを 比較 的多 く 含ん だヒ スト ン とプ ロタ ミン の 中 間型 の タン バク 質で ある こ とが 分か って い る。 しか し、 他の 無尾両生類、例えばRana属 で は、 電 気泳 動的解析や組織化 学的観察からプロタミンと は著しく異なる「精巣特異的 」な タ ンバ ク 質が 存在することが示 唆されてはきたが、このタ ンパク質の詳細は不明であっ た。
本 研究 で は、 ウシ ガェ ル(RaJlacaCes6ejana)及 びDjc( )び 〇ssuspjcCusの 成熟 精子 に 含 まれ る 塩基 性夕ンバク質を分 離、同定するとともに、ウ シガェル精子核クロマチンの 特性 を 明ら か にし 、ま た卵 細胞 質 によ る体 細胞 型 ク口 マチ ンへ のり モデリングの誘導を通 じて SNBPの 精 子核 凝縮 にお ける 役 割の 解明 を試 み た。
I.無 尾両 生類 の 精子 核塩 基性 夕ン パ ク質 とク ロマ チン 構 造
ウ シ ガ ェ ル 及 びDロcCUsの 成 熟 精 子 核 か ら 塩 基 性 夕 ン バ ク 質 を 酸 抽 出 し 、 酸/尿 素 /′rntonx‐100ポ リア クリ ル アミ ドゲ ル電 気 泳動 によ り体 細胞 の核夕ンパク質と比較 した と ころ 、 前者 では体細胞核のコ アヒストン群と同じ移動度 のタンパク質及び体細胞型の ヒス ト ンH1よ り も や や 移 動 度の 大き い 分子 から なり 、後 者 はヒ スト ンを 含め て これ までSNBP と して 報 告さ れて いる どの タ ンパ ク買 とも 移 動度 を異 にす る7つの 成分 か らな るこ とが 分 か った 。 した がっ て、 これ ら のSNBPは ヒキ ガ ェル 、ア フリ カツ メガエルのいずれとも 異な る ユニ ー クな もの であ ると 言 える 。ウ シガ ェ ルのSNBPを逆 相ク ロマトグラフイーで分 画後 各 分画 に つい てア ミノ 酸組 成 を調 べた 結果、体細胞と同一 の4種のコアヒストン(ヒス トン H2A、H2B、H3、H4) が 確 認 さ れ 、 そ の ほ か に ヒ ス ト ンHlと ア ミ ノ 酸 組 成 は類 似す るが り ジン を25% 以上 含む より 強 塩基 性の 特殊 な タン バク 質が 見出 された。後者をトリプ シン で 消 化 し た と こ ろ 、 ト ルプ シン 耐 性部 位を 持ち 、か つ その 耐性 部位 はヒ ス トンH1フ ァミ リ ーに 特 徴的 なア ミノ 酸配 列 を示 した 。以 上 から 、ウ シガ ェル のSNBPは体細胞型コア ヒス ト ン と 、 リ ジ ン に 奮 む 精 子 特 異 的 な ヒ ス ト ンH1か らな ると 結 諭し た。 一方 、DpjcCUsの
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SNBPについても同様にアミノ酸組成を調べたところ、非常に多くのヒスチジンを含む大量 のタンバク質とそれより比較的量が少なく塩基性アミノ酸の含量も低い6種類のタンバク質 からなることが分かった。これらはどれも既知のタンバク質とは異なっており、さらに詳し い研究が必要であろう。さらに、ウシガェルの精子核についてはコアヒストンが存在するこ とから、通常精子核には無いとされるヌクレオソーム構造を持つことが推測された。そこで 精 子 核ク ロ マ チン を ミクロコ ッカスヌ クレア ーゼ(micrococcal nuclease、MNase) で消化し核から遊離するDNA断片を電気泳動したところ、ヒキガエルやアフリカツヌガェ ルの精子核クロマチンはMNaseに耐性であるのに対し、約180塩基対の大きさの断片が得 られたが、体細胞核クロマチンを消化した際現れる梯子状のバ夕一ンは見られなかった。ま た透過型電子顕微鏡によルクロマチンを観察すると、ウシガェル精子核ク口マチンはヌクレ オソームを持っが、体細胞核クロマチンとは異なルヌクレオソームが不規則に並んだ構造を していた。これらのことは、ウシガェルの精子核クロマチンは体細胞のそれに近bゝが、リン カ ー ヒ ス ト ン の 特 性 が 特 異 な 核 凝 縮 を も た ら し て い る こ と を 示 唆 し て い る 。 n.ヌクレオプラズミンによる精子核クロマチンのりモデリング
受精すると、凝縮した精子核クロマチンは卵内で脱凝縮し、ヌクレオソームが等間隔に並 ぶ体細胞型クロマチンにりモデリングされる。最近このりモデリングの過程には、アフリカ ツメガェルやヒキガェルの卵内に大量に存在する熱耐性の酸性夕ンパク質、ヌクレオブラズ ミン(NP)が関わ ることが報告された。NPによって核クロマチンから除去されることが SNBPの 特 性 で あ る と 予 想 さ れ た の で 、NPに よ るSNBPの 除 去 の 有 無 を 調 ぺ た 。 ヒトの精子核を還元剤処理した後にアフリカツメガェルの卵内に注入すると、精子核は脱 凝縮して前核を形成することが知られている。その際ヒトの精子核に含まれるプロタミンが どの ような 振る舞い をする のかを知 るために 、アフリカツメガェルの卵細胞質(egg‑
extract)中で還元剤処理したヒト精子核をインキュベートしたところ、ヒトプロタミンは 核から完全に除去され、代わりに核にコアヒストンと卵割期特異的ヒストンHl (Hl.X)が 結合した。精製したアフリカツメガェルのNP中でインキュベートすると、核から除去され てNPと複合体を形成したプロタミンが確認された。この条件にさらにコアヒストンを加え てインキュベートした後核をMNaseで消化すると、梯子状パターンが現れ、ヌクレオソー ムを含む体細胞型クロマチンが再構築されたことが分かった。同様に、ウシガェル精子核を ヒキガェルのegg‑extract中でインキュベートしたところ、精子核は脱凝縮しHl.Xが結合 したが、精子特異的Hlは完全には除去されなかった。このクロマチンをMNaseで消化して 遊離レたDNA断片を電気泳動したところ、成熟精子核とは異なり約180塩基対を基本単位 とした梯子状パターンを示し、精子特異的Hlを部分的に持ったままクロマチンが体細胞型 へと再構築されたことが確かめられた。また、ウシガェルの精子核を高濃度の精製NP中で インキュペートすると、核の脱凝縮とともに精子特異的Hlが選択的に除去されたが、この Hlの除 去は完 全には起 こらなかった。NPとSNBPの結合はNPのポリグルタミン酸領域を 介すると考えられており、カェルNPにより生物種の違いを越えてヒトプロタミンが完全に 除去されたのに対し、ウシガェル精子特異的Hlの除去が不完全であったのは、後者の塩基 性が比較的弱く前者に比べてNPに対する結合カが小さいためであると思われる。しかし、
Hlが部分的に除去されてはじめて精子核クロマチンの脱凝縮とりモデリングが誘導された ことは、精子核の凝縮した状態を保つためにはSNBPが不可欠であることを示しており、ま たSNBPが少なくとも胚の初期発生において部分的にりンカーヒストンとしての役割を持つ 可能性があることを示唆している。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 片 桐 干 明 副 査 教 授 鈴 木 範 男 副 査 教 授 高 橋 孝 行
学 位 論 文 題 名
Nuclear Basic Proteins in Sperm of An Anuran Amphibian, RaTza catesbeiana:Their Structure and Role in Condensed State of Chromatin
(無尾両生類Rana catesbeianaの精子核塩基性タンパク質の構造及びクロマチン凝縮における役割)