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好アルカリ性細菌の運動特性と電位駆動型Naチャネル欠損によって生じる走化性異常の分子機構の解明 利用統計を見る

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(1)

好アルカリ性細菌の運動特性と電位駆動型Naチャネ

ル欠損によって生じる走化性異常の分子機構の解明

著者

藤浪 俊

学位授与大学

東洋大学

取得学位

博士

学位の分野

生命科学

報告番号

甲第199号

学位授与年月日

2008-03-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003962/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)
(3)

平成19年度学位論文

   好アルカリ性細菌の運動特性と

電位駆動型Naチャネル欠損によって生じる

   走化性異常の分子機構の解明

東洋大学大学院生命科学研究科生命科学専攻博士後期課程

4910040001

藤浪俊

(4)

目次

第1章序論

 第1節細菌の運動性、走化性とイオンチャネル

  第1項細菌の運動性と走化性

  第2項細菌のイオンチャネル

 第2節好アルカリ性細菌の運動性、走化性とイオンチャネル

  第1項好アルカリ性細菌の運動性と走化性

  第2項好アルカリ性細菌の電位駆動型Naチャネル

 第3節本研究の目的と研究アプローチ

 第4節引用文献

頁444

5 8 9 0 ∩∠ 41 

1⊥ −  リム リム リム 第2章好アルカリ性細菌Ba cWus psθudofirmus O F4株の運動特性とべん毛 32

   形成

第1節緒言

第2節実験材料と方法

 第1項使用菌株

 第2項使用培地

 第3項べん毛染色

 第4項フラジェリンのウエスタンブロット解析

 第5項遊泳速度の測定

 第6項軟寒天における運動性分析

 第7項テザードセル分析

第3節結果

 第1項BaCi7/us psθudofirn7us O F4株のpH非依存的べん毛形成 1

(5)

第2項Ba・ci!/usρ5θ山o伽η∬OF4株の遊泳速度のNa+濃度230mM、 43

    PVP1%までの増加と、低pHやEIPAによる阻害

第3項B∂Ci7fus 20seudofirn?us OF4株運動性向上株のアルカリ性軟寒天培 47

    地における運動性の上昇

第4項BaCi7/us pseudofirmus OF4株野生株と運動性向上株のテザードセ 50

    ル分析

第4節考察      51

第5節引用文献       54

第3章好アルカリ性細菌Ba ci!/us pseudofirm us O F4株の電位駆動型Naチャ    ネル欠損によって生じる走化性異常の分子機構の解明

 第1節緒言

 第2節実験材料と方法

  第1項使用菌株、使用プラスミド   第2項B∂Ci7/us pseudofirmus OF4株のc力θA W遺伝子の破壊   第3項Na\BP−CFP融合タンパク質またはCFP発現プラスミドの構築と形

     質転換

  第4項ウエスタンブロット解析

  第5項免疫蛍光顕微鏡観察

  第6項Na、BP−CFP融合タンパク質またはCFPの細胞内局在の観察

  第7項ミグレーション分析

  第8項タンブリング頻度の分析

 第3節結果

  第1項McpXとNa\BPの細胞の極での共局在と、 Na\BP欠損株における

     McpXの脱局在化

57

7りムリ白ワ]0

5ρOでOρ07

ワ一45ρOρ077

777’77977

2

(6)

 第2項c力θAル欠損株におけるMcpXとNa,BPの極での局在性の低下 第3項Na\BP欠損株においてプラスミド上から発現させたNa\BP−CFPの     極での局在  第4項BaCi7/us psθudofirmus OF4各株のミグレーション分析とタンブリン     グバイアス

第4節考察

第5節引用文献

第4章総括

第1節好アルカリ性細菌Ba cWus psθudofirni us O F4株の運動性とべん毛形

    成の総括

 第2節好アルカリ性細菌の電位駆動型Naチャネル欠損によって生じる走

    化性異常の分子機構の総括

 第3節引用文献

本研究における成果 謝辞

4︹0

88

85

3C︶

Q∨Q﹂ 101 101 106 110 113 117 3

(7)

第1章序論

第1節細菌の運動性、走化性とイオンチャネル

 報告されている多くの細菌は運動性を持つことが知られており、細菌の運動性と走 化性には様々な要素が関わっている。本研究では好アルカリ性細菌の運動性、走化 性とNaチャネルの関係にっいて論じるため、細菌の運動性、走化性とイオンチャネル についてこれまでの知見をまとめた。

第1項細菌の運動性と走化性

 1676年、オランダの博物学者レーウェンフック(Antony van Leeuwenhoek)は単レン ズ顕微鏡によって動いている小動物を発見した。細菌の発見である[1]。このように細 菌はその発見時から運動性を持つことが観察されており、運動性を持っていたがため に生物であると考えられたであろうことは想像に難くない。1840年代にはエーレンバー グ(Christian Ehrenberg)により運動・器官であるべん毛が観察され、1880年代になると エンゲルマン(Theodor Engelmann)らによって、細菌が化学物質に対して向かって行っ たり逃げたりする行動が観察された。このような性質は走化性と名づけられた[2,3]。走 化性を現代生物学の眼で捉えなおしたのはアドラー(Julius Adler)である。1969年、ア ドラーは走化性が物質の代謝とは独立した感覚現象であることを示した[4]。細菌の走 化性は細胞の行動を分子レベルで理解するためのモデルであると考えられており、今 日ではその分子機構や構造にっいて詳細な研究が行われている[5−12]。また、近年 では細菌の運動性や走化性を生み出すナノスケールのモーターやセンサーは、ナノ テクノロジーの分野からも注目を集めている。細菌の運動性、走化性に関してこれまで の知見を以下にまとめた。 4

(8)

 現在知られている多くの細菌は運動性を持ち、運動性を持つ全ての細菌は外環:境 の刺激を受容し応答することができる[13]。例えば大腸菌ではセリンやグルコースなど に向かって近づき、ニッケルイオンやインドール、フェノールなどからは遠ざかる性質を 持つ。このような性質を走化性という。走化性は感覚受容応答系のなかで最も詳しく研 究されているもののひとっである。細菌を引き寄せる物質を誘引物質、遠ざける物質 を忌避物質をと呼ぶ。また、化学物質だけでなく温度やpH、酸素濃度の変化も誘引 (または忌避)の刺激になり得る[11]。何を誘引物質(または忌避物質)として認識するか は細菌によって異なっているが、これらのシグナル伝達システムは高度に保存されて いる[13]。ここでは、走化性の研究が最も進んでいる大腸菌(Eschθri(’Ziia eoli)、および その次に研究されている枯草菌(B∂ci7/iノざ Slノわt/711s’)を例に走化性のシグナル伝達システ ムにっいて説明する。  大腸菌や枯草菌は数本の螺旋状の周毛性べん毛を持ち、直線的な泳ぎ(スムーズ・ スイミング、またはラン)とランダムな方向転換(タンブリング)という二種類の泳ぎを繰り返 しながら移動する[14]。真核生物の鞭毛は波打ち運動するが、細菌のべん毛は回転 運動によって駆動される生物界唯一の回転運動器官である[15]。べん毛が反時計周 り(CCW)するとべん毛が束ねられてスクリュー状になりスムーズ・スイミングを行い、その うちいくつかが時計周り(CW)するとほどけてタンブリングを行う[16]。大腸菌は周囲の 誘引物質濃度の上昇(または忌避物質濃度の低下)を感知するとタンブリングの頻度が 減少し、逆に誘引物質濃度の減少(または忌避物質濃度の上昇)を感知するとタンブリ ングの頻度が増加する。Bac!/us属細菌では誘引物質濃度の上昇(または忌避物質濃 度の減少)を感知するとスムーズ・スイミングの頻度が増加し、逆に誘引物質濃度の減 少(または忌避物質濃度の上昇)を感知するとスムーズ・スイミングの頻度が減少する [10]。どちらの細菌でもタンブリング後に泳ぐ方向はランダムであるが、タンブリングま たはスムーズ・スイミングの頻度が変わることにより偏りのあるランダムウォークとなり、よ り好ましい環境へたどり着く可能性は飛躍的に高くなる(図1−1)。これらの機能を作り 5

(9)

出すために、大腸菌では約50個の遺伝子が関与しており、約半分の遺伝子がべん毛 形成に、残りの半分は行動の制御に関与する。大腸菌では全ての構成タンパク質が 同定され、立体構造もほぼ分かっているが[12]、枯草菌はより多くの構成タンパク質を 持ち、まだ機能が充分にわかっていないものもある[10]。  行動の制御には刺激を受容する受容体(メチル基受容走化性タンパク質(MCP)また は走化性レセプターと呼ばれる)、各種の走化性タンパク質(Cheタンパク質)が関わっ ている。外環境の情報は走化性レセプターで認識され、自己リン酸化型ヒスチジンキ ナーゼCheAから応答調節因子(レスポンス・レギュレーター)CheYへのHis−Aspリン 酸リレー系を介してべん毛モーターの回転方向を制御するスイッチタンパク質FliMへ と伝わる(図1−2)。これは二成分制御系(two−component regulatory systems)とも呼ば れ、細菌だけではなく古細菌、真菌、高等植物などの応答系にも用いられている (7,17−18)。  走化性レセプターは二回膜貫通型サブユニットが二つ会合したホモダイマーであり、 細胞外側のリガンド結合領域、膜貫通領域(TM)、細胞質側のメチル化領域(MH)お よびシグナル領域から構成される(図1−3)。大腸菌は、Tsr、 Tap、 Trg、 Tapの4つの走 化性レセプターと酸素センサーAerを持っている[11](表1−1)。 TsrとTarはTrg、 Tap よりも存在量が20倍以上も多い[20]。枯草菌ゲノムからはより多くの走化性レセプター が見出されているが(表1−2)、約半分のレセプターがまだ何を感知するか分かってい ない[10]。走化性レセプターだけでなく他の走化性タンパク質に関しても大腸菌は単 純化されており、枯草菌などの土壌細菌や海洋性細菌ではより多くの種類の走化性 構成タンパク質を持っている[21]。 6

(10)

誘引物質なし

鋤 di

誘引物質あり

。.べん毛が反時計回り(CCW)に回転して  直進(スムーズ・スイミング)  べん毛が時計周り(CW)に回転して  ランダムな方向転換(タンブリング) 図1−1.細菌の運動パターン    左:誘引物質、忌避物質がないとき、右:誘引物質があるときの細菌の運動を示す。  大腸菌や枯草菌などの周べん毛性の細菌ではべん毛が反時計周り(ccW)するとべん毛が束ね られてスクリュー状になり直進(スムーズ・スイミング。矢印で示した。)を行い、そのうちいくつかが時 計周り(CW)するとほどけてランダムな方向転換(タンブリング。丸で示した。)を行う。細菌の運動は 誘引物質、忌避物質がないとき完全なランダムウォークである。しかし、誘引物質の濃度勾配があ る場合にはその時間的な変化を感知して、誘引物質が増えていれば、大腸菌ではタンブリングの 頻度を減らし、枯草菌ではスムーズ・スイミングの頻度を増やす。これにより偏りのあるランダムウォ ークとなり、この結果、誘引物質濃度のより高いところへ移動できる確率が飛躍的に増加する。忌 避物質が存在する場合には逆のことが起きる。 7

(11)

      ・ヂ㌧

      ㌦…管化

       i 戸>C)−CKew Mcpi

       {c㌫一ノ1(ぷ㌶質、

       ㍉   脱メチル化 ノ

       ;・≒ i4−“E.=.。.S,      恥、一、」、≡、?,』t.r’⇒’己       図1−2.細菌の走化性シグナル伝達経路  大腸菌、枯草菌の走化性シグナル伝達経路の共通部分を示した。走化性レセプター(MCP)と CheA、 CheWは複合体を形成し、極においてクラスター化している。誘引物質(または忌避物資)が 走化性レセプターにより感知されるとその情報はCheWを介してCheAに伝わる。自己リン酸化した ヒスチジンキナーゼCheA(CheA−P)はCheYをリン酸化する。リン酸化されたレスポンスレギュレー ターCheY(CheY−P)はべん毛モーターのスイッチタンパク質FliMに結合して回転方向を制御する。 大腸菌のべん毛モーターは通常、反時計回り(CCW)に回転している(スムーズ・スイミング)が、リン 酸化型CheY(CheY−P)が結合すると時計回り(CW)に回転する(タンブリング)。よって、どこかでシグ ナル伝達が遮断されるとスムーズ・スイミングのみを行うようになる。これに対しB∂Ci7/us属細菌のべ ん毛モーターは通常、時計回り(CW)に回転しており、リン酸化型CheY(CheY−P)が結合すると反時 計回り(CCW)に回転する。そのためどこかでシグナル伝達が遮断されるとタンブリングのみを行うよ うになる。CheA−Pは脱メチル化酵素CheBもリン酸化して活性化する。リン酸化型CheB(CheB−P) が走化性レセプターのメチル化部位を脱メチル化することにより適応がおこる。メチル化部位はメ チル化酵素CheRによってメチル化される。この図で示したこれらの走化性タンパク質は大腸菌・枯 草菌を含む走化性をもつ細菌のほぼすべてが持っている共通の構成要素である。その他の走化 性タンパク質は細菌によって異なる。例えば枯草菌はCheY−Pの脱リン酸化酵素であるCheZを持 っていない。しかし枯草菌はCheVやCheC、CheDなど大腸菌にはない走化性タンパク質を持っ ており、これらのタンパク質は適応に関与すると考えられている[19]。 8

(12)

細胞外 細胞膜 リガンド結合領域  膜貫通領域       {、,)1)  シグナル領域 図1−3.走化性レセプターの構造の模式図  走化性レセプター(メチル基受容走化性タンパク質(MCP))は二回膜貫通型サブユニットが二つ 会合したホモダイマーであり、細胞外側のリガンド結合領域、膜貫通領域(TM)、細胞質側のメチ ル化領域(MH)およびシグナル領域から構成される。リガンド結合領域とシグナル領域の間には HAMPドメイン(histidine kinases, adenylyl cyclases, methyl−binding proteins and phosphatasesに広 範に保存されたドメイン)がある。リガンド結合領域は様々な誘引物質(または忌避物質)を認識する ため非常に多様性に富んでいるが、シグナル領域は非常に高い保存性を持つ。メチル化領域に は大腸菌の走化性レセプターでは4っ、枯草菌の走化性レセプターでは3つのメチル化部位が存 在する[10,12−13]。 9

(13)

表1−1、大腸菌の走化性レセプター  走化性レセプター    誘引刺激 忌避刺激 細胞当たりの発現量 Tsr セリン 細胞内外pH上昇   温度上昇   ロイシン  フェノール   グリセリン 細胞内外pH下降   温度下降 多い Tar アスパラギン酸  マルトース  フェノール 細胞内外pH下降   温度上昇    CoL’+    NiL)+   グリセリン 細胞内外pH上昇   温度下降 多い Trg リボース ガラクトース 温度上昇 フェノール グリセリン 温度下降 少ない Tap ジペプチド 温度下降 フェノール グリセリン 温度上昇 少ない 大腸菌はこのほかに酸化還元反応を受容する間接的な走気性センサー−Aerも持っている。 10

(14)

表1−2.枯草菌の走化性レセプター  走化性レセプター 誘引刺激

McpA

McpB

McpC

TIpA TIpB YvaQ TIpC グルコース アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン アスパラギン以外のアミノ酸、糖類 不明 不明 不明 不明  枯草菌はこのほかに大腸菌のAer様のYoaH、酸素を直接受容する細胞内走気性センサー HemAT、同じく細胞内タンパク質のyhnsを持っている。 11

(15)

 誘引物質には栄養物質が多いが、必ずしも細菌が代謝しうるものではない。また、 ほとんどの走化性レセプターは複数の刺激を受容することができる。大腸菌のTarは アスパラギン酸レセプターとして発見されたが、それ以外にも温度、pHを受容すること が知られており、さらにマルトースもその結合タンパク質を介して受容することができる [11,22]。このような多刺激受容性は哺乳類の受容体チャネルにも見られる[23]。  誘引物質(または忌避物質)が走化性レセプターのリガンド結合領域に結合するとダ イマー内の構造変化がおき[24]、シグナル領域がCheAの活性を調節する[25]。細菌 は誘引物質(または忌避物質)の絶対的濃度ではなく濃度変化に応答する。その際、 細菌はあまりにも小さいので空間的な濃度変化を感知するのではなく、時間的な濃度 変化を感知している。例えば大腸菌では過去1秒間に感じた濃度とその3秒前の濃度 とを比較してその差に応答している[26]。もし誘引物質濃度が高くなっていたら(正の 刺激)、タンブリング頻度は減り、スムーズ・スイミングが増える。正の刺激によるタンブリ ング頻度の変化(興奮)はしばらく持続するがやがてもとの頻度に戻る。これを適応とい う。忌避物質による刺激(負の刺激)でも適応は起こる。適応は走化性レセプターのメチ ル化により達成される。メチル化を受けるのは細胞質のメチル化領域にあるグルタミン 酸残基で、大腸菌では4個、枯草菌では3個存在する[10,13]。走化性レセプターがメ チル化しても、リガンド親和性やキナーゼ活性は数倍しか変化しないことから、メチル 化はシグナル増幅率(ゲイン)を制御し、これによって適応は起こると考えられている [27,28]。現在の誘引物質(または忌避物質)の濃度は走化性レセプターのリガンド結合 部位の占有状態から、以前の濃度は走化性レセプターのメチル化レベルによって判 断されるので、これは一種の記憶と言っても良く、メチル化部位は誘引物質(または忌 避物質)の過去の濃度の記憶装置の役割も果たしている。メチル化はメチル基転移酵 素CheRによって、脱メチル化は脱メチル化酵素CheBによって行われている。大腸菌 のCheRはTsr、 TarのNWETF配列と相互作用し、S一アデノシルメチオニン(SAM)か らメチル化部位のグルタミン酸残基へのメチル基転移反応を触媒する[29]。Trg、 Tap 12

(16)

にはNWETF配列が存在しないためCheRの作用を直接受けることは無い。しかし、 TrgまたはTapはTsrまたはTarとともにクラスターを形成しているときには近傍のTsr またはTarのNWETF配列に結合したCheRによって脱メチル化されることができる[30]。 CheBはCheYと同様にCheAによってリン酸化されるレスポンスレギュレーターであり、 CheAのP2ドメインと相互作用して、メチル化部位の脱メチル化反応を触媒する。 CheRはリン酸化による制御を受けないので、適応はおもにCheBのリン酸化レベルに より制御されている。  細菌は非常にわずかな誘引物質に対しても走化性応答を示すことができる。例えば 大腸菌は3x10−8 Mのアスパラギン酸に対して応答することができ、これは走化性レセ プターのリガンド占有率1%にしか相当しない[31]。それにもかかわらず大腸菌が応答 できるのは主に走化性レセプターにおいてシグナルの増幅が起きていると考えられて いる[32]。走化性レセプター(MCP)はCheAやアダプタータンパク質CheWと複合体を 形成し、菌体の極において局在し巨大なクラスターを形成しており[33,34,40]、クラスタ ー内で走化性レセプターダイマー間の相互作用によりシグナル増幅が起こるというモ デルが提唱されている[35]。大腸菌だけでなく、枯草菌を含む多くの桿菌において走 化性レセプター複合体は極に局在し、クラスター化していることが分かっている[75−77]。 さらに近年Tsrダイマーが細胞質側で相互作用して“trimer of dimers”の六量体構造 をとっているというモデルも提唱されている[36−38]。このモデルは走化性レセプターの メチル化はクラスターの解離集合状態を変化させるのではなく、クラスター内の走化性 レセプターダイマー同士の配向を変化させ、シグナルの増幅(ゲイン)を調節する可能 性を示唆している。  走化性レセプター複合体の大部分は細胞の極に局在化し[33,34,40]、クラスター化 しており、それはシグナル伝達に重要な役割を持っている。さらに大腸菌では、CheB やCheY、 CheZはCheAに依存して局在し[39,40]、CheAはCheWに、 CheWやCheR はMCPに依存して局在している。つまり走化性レセプター(MCP)以外の走化性タン 13

(17)

バク質の極局在性は走化性レセプターに依存している。走化性レセプター自体の局 在性は、ある程度CheA・CheWに依存しているものの基本的に走化性レセプターは走 化性レセプターだけでも極に局在できる[41]。しかし走化性レセプターがどのようにし て細胞の極に局在するのかという根本的な問題はまだ不明な点が多い。発現された 走化性レセプターは直接細胞の極に挿入されるのではなく、まず側面の膜に挿入され ることが分かっており、これは螺旋状のタンパク質膜挿入装置であるSec複合体によっ て輸送されると考えられている[41]。その後、数回の分裂を経て走化性レセプターがあ る部分が後に極になっている(後に極になる部分に走化性レセプターが挿入されてい る)というモデルが提唱されている[42]。もし走化性レセプターが細胞の片方の極にの み存在すると、細胞分裂直後には二っの細胞のうちどちらかは、走化性レセプターを 持たないことになり走化性を維持できなくなってしまうと考えられる。そこで走化性レセ プターが細胞の極だけでなく、側面の将来の極になる部分にも少なからず存在するこ とは重要だと考えられる。  べん毛は菌体外に突出した螺旋状の線維、細胞表層に埋め込まれた基部体、それ らをつなぐフックから成る[43]。線維はフラジェリンという単一の構成タンパク質が重合 してできた筒状の構造であり、線維とフックは力を発生せず受動的に回転する。回転 力は細胞表層に埋め込まれたべん毛モーターによって生み出される。べん毛モータ ーはイオンチャネルである固定子タンパク質と、回転子タンパク質からなる。このモー ターは細胞の外から内へのイオンの流れと共役して回転力を生み出すナノモーター である[44]。大腸菌は固定子タンパク質MotABを持ち、H+を共役イオンとして用いる。 多くの好中性細菌ではH+を共役イオンとして用いているが、好アルカリ性B∂ci!/us属 細菌や海洋性細菌などではNa+を共役イオンとして用いることもある。好アルカリ性 Baci//us属細菌の運動性に関するこれまでの知見については後述する。大腸菌も枯 草菌もべん毛の基本的な構造に変わりはないが、枯草菌のべん毛にはPLリングに相 14

(18)

当するものがない[10]。 大腸菌のべん毛モーターは通常、反時計回り(CCW)に回転している(スムーズ・スイミ ング)が、リン酸化型CheY(CheY−P)が結合すると時計回り(CW)に回転する(タンブリン グ)。よってどこかでシグナル伝達が遮断されるとスムーズ・スイミングのみを行うように なる。これに対しB∂Ci77us属細菌のべん毛モーターは通常、時計回り(CW)に回転して おり、リン酸化型CheY(CheY−P)が結合すると反時計回り(CCW)に回転する。そこでど こかでシグナル伝達が遮断されるとタンブリングのみを行うようになる。軟寒天培地上 でのコロニーの大きさを比較してみると(ミグレーション(遊走)テストまたはスワーミングテ スト)、スムーズ・スイミングしかできない株は非常に小さいコロニーしか形成できない。 タンブリングしかできない株は、野生株よりは小さいものの、スイミングしかできない株よ りも大きなコロニーを形成できる。っまりタンブリングしかできないほうが生存に有利で あると考えられる。8aCi7/us属はもしどこかでシグナル伝達が遮断されてもタンブリング を行うことができ、エネルギーを使用してシグナル伝達を行わなくともタンブリングを行 うことができる。これは土壌細菌であるBaCi7/us属細菌がさまざまな環境に生育すること ができるひとつの要因となっている[10,13]。

第2項細菌のイオンチャネル

 細菌のもつイオンチャネルとしてはべん毛モーターの固定子がある。べん毛モータ ー固定子はH+又はNa+と共役してべん毛を回転させる[45,46]。好アルカリ性細菌の運 動性は電位依存性Na’チャネルの阻害剤であるテトロドトキシンでは全く阻害を受けな いが、上皮細胞のNa’チャネル阻害剤であるアミロライドとその誘導体によってそのべ ん毛モーターの回転に阻害を受けることが知られている[47]。以前は細菌には哺乳類 の電位駆動型チャネルに相同性のあるイオンチャネルはないのではないかと考えられ ていたが、これは微生物の細胞が小さいため近年までパッチクランプ法で微生物のイ オンチャネルの活性を測定することができなったためである。近年の多数の微生物の 15

(19)

ゲノム配列の解読やパッチクランプ法の発展により、多くの微生物においてべん毛モ ーター固定子以外のイオンチャネル、つまり哺乳類のイオンチャネルに相同性のある イオンチャネルが存在することがわかってきた[48]。微生物は容易に大量培養できるた め、結晶化が困難な哺乳類のイオンチャネルの代わりに結晶構造解析され神経科学 に大きな恩恵をもたらしている。これらのチャネルは微生物においてどのような生理学 的役割を果たしているかは分かっていなかったが、徐々に明らかになりつつある。  例えば大腸菌では浸透圧調節に関わっている機械刺激駆動型チャネルMscL・ MscSや[49,50]、酸耐性に関わっているEriK[51]、また機能は未知であるものの電位駆 動型Kチャネルのホモログが報告されている[52]。また、Synθcfrocystf’sではリガンド駆 動型グルタミン酸レセプター/チャネルGluROが報告されている[53]。 電位駆動型イオンチャネルもまた報告されている。2003年度のノーベル化学賞を受 賞した研究の対象であったStreptomyces !ivfdansのKcsAや[54−55]、好アルカリ性細 菌Baei7/us h∂ノo duransのNaChBacである[56]。さらに好アルカリ性細菌BaCi7/us ρseudoffrn?us OF4株において電位駆動型NaチャネルNav BPが同定され、 pHホメオスタ シス、運動性、走化性に関わっていることが分かってきている[57]。このような微生物の 6回膜貫通電位駆動型Naチャネル(NachBac)は、好アルカリ性細菌や海洋性細菌など が持っている。これについては詳しく後述する。 好アルカリ性細菌Baci77us psθudofirmus OF4株の電位駆動型NaチャネルNa, BPは哺 乳類の電位駆動型Caチャネル阻害剤ニフェジピンの阻害を受けるが、他にも動物細 胞の研究で用いられる様々なイオンチャネルブロッカーが、細菌の運動性や走化性を 阻害することが以前から報告されており、べん毛モーター以外のイオンチャネルがそ のターゲットになっている可能性が示唆されている。例えばCa2+アンタゴニストであるコ ノトキシンやNa+アンタゴニストであるサキシトキシン、K+アンタゴニストである4一アミノピリ ジンなどは大腸菌の運動性や走化性を阻害することが報告されている[58]。大腸菌の 走化性において細胞内の遊離Ca2濃度レベルが忌避物質によって上昇し、誘引物質 16

(20)

によって下降することが分かっており[59]、Ca2+の輸送体が関わっている可能性が示唆 されているが[60]、これらのチャネルブロッカーがどこに作用しているかは明らかになっ てはいない。また、細菌の走化性レセプターにおいて動物のCaチャネルのシグナルド メインCacheと相同性のあるドメインがあることが報告されているが、その機能やイオン チャネルとの関係などはまだ詳しくは分かっていない[61]。 17

(21)

第2節好アルカリ性細菌の運動性、走化性とイオンチャ

ネル

 好アルカリ性Ba Ci7/us属細菌の運動性、走化性とイオンチャネルについて、これまで の知見をまとめた。

第1項好アルカリ性細菌の運動性と走化性

 細菌のべん毛モーターは大腸菌のなどのH+駆動型と、好アルカリ性細菌などのNa+ 駆動型が知られている。これらはイオンチャネルであり、そのイオン選択性は非常に高 いが、電子顕微鏡での観察から構造にはほとんど差はなく、基本的な構造やメカニズ ムは同じであると考えられる[62]。  Na+駆動型モーターよりも、大腸菌などのH+駆動型モーターの研究の方がより進ん でいるが、H+は水の中であまりにも一般的に存在するため、イオン共役に伴うエネルギ ー変換の解析は難しい。これに対し好アルカリ性細菌や海洋性ビブリオなどがもつ Na駆動型モーターはその点の困難さはなく、H+駆動型モーターにはない特異的阻害 剤(アミロライドやその誘導体であるフェナミル、EIPAなど)を用いることができるため機 能解析にはよい材料である[63]。しかし、好アルカリ性細菌や海洋性ビブリオの遺伝子 解析系の確立されていなかったため分子レベルでの研究はあまり進んでいなかった。 ところが近年これらの細菌でも遺伝学的手法が確立されてきたため、さまざまなアプロ ーチでの研究が進んできた。  大腸菌のようにH+駆動型モーターをもつ細菌の多くは中性付近でH+駆動力が最大 になり、遊泳速度も最大になる。しかし、高アルカリ性環境下で生育する好アルカリ性 細菌の場合には生育の最適な条件である高アルカリ性環境下で遊泳速度が最大に 達し、中性pH環境下では運動性が低下する。外環境が高アルカリ性であっても好ア ルカリ性細菌の細胞内pHは中性から弱アルカリ性に保たれるため、好アルカリ性細 18

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菌のH+駆動力はアルカリ性になるにっれ小さくなり、べん毛の回転のエネルギー源と してH+駆動力を使うことは困難である。そこで好アルカリ性BaCf7/us属細菌のモーター が何をエネルギー源として用いているか調べられた。その結果、好アルカリ性Baci7/us 属細菌の運動性はNa+依存性であることが報告された[64]。ある一定の濃度までは培 地のNa+濃度の対数的増加に伴い遊泳速度が直線的に増加すること、細胞内のNa+ 濃度および膜電位が培地のNa濃度と関係なく一定であること、膜電位を減少させて も遊泳速度は直線的に減少したが菌体内のNa+濃度は一定であることが示された。ま た、膜内外のNa+濃度勾配と膜電位の両方がモーター回転のエネルギー源として等 価に使われていることが明らかになり、好アルカリ性B∂ei17us属細菌のべん毛モーター のエネルギー源はNa↓駆動力であることが示された[65]。さらに好アルカリ性細菌 B∂ci7/us psθudofirn7us OF4株からNa+駆動型べん毛モーター固定子MotPSが同定さ れている[66]。  また、1992年には、好アルカリ性細菌Ba Ci71us ha/odurans C−125株のべん毛の形成 及びフラジェリンの発現は培養pHに依存しており、中性pHで培養した細胞はほとん どべん毛を形成せず、運動しないことが報告されている[67]。 好アルカリ性8∂cW5属細菌の走化性にっいての報告はほとんどないが、全ゲノム 配列が明らかにされている好アルカリ性細菌Baci7/us ha/odu/Tans C−125株の解析から [68]、好アルカリ性Baei77us属の走化性タンパク質の構成は同じBaCi71us属の好中性 細菌である枯草菌と基本的に同様であると考えられる。また好アルカリ性細菌BaCi7/us ρ5θμ∂oノ励μ30F4株において電位駆動型NaチャネルNavBPが運動性、走化性に関 わっていることが分かっている[69]。これについては次の項で詳しく述べる。

第2項好アルカリ性細菌の電位駆動型Naチャネル

 好アルカリ性細菌は、pH10の高アルカリ性環境下で活発に増殖し、一般に生育に Na+を要求する[70]。多くの微生物は生命活動を行うためにH+駆動力から必要なエネ 19

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ルギーを得ているが、高アルカリ性環境下ではH濃度が低いため、微生物が生育す るためにト1+のみを共役イオンとして使用することは困難である。そこで好アルカリ性細 菌は、H+の代わりにNa+を共役イオンとして用いて栄養素の輸送やべん毛の回転運動 を行っている。また、好アルカリ性細菌の細胞内は高アルカリ性環境下においても中 性から弱アルカリ性に保たれている。これは主に細胞膜に存在する電位駆動型Naチ ャネルNav BPやMrpなどのNa+/H+アンチポーターの働きによるものと考えられている。 このように好アルカリ性細菌においてNa+サイクルは非常に重要であり、Naチャネル Na\BPはその再取り込み系として働くと推察されている[71]。っまり、好アルカリ性菌か らは2っのNa+チャネルが報告されており、一っは前述したべん毛の回転力を生み出 すNa+駆動型べん毛モーター固定子MotPSで、もう一っはNa+の再取り込み経路とし て働き、細胞内pHホメオスタシス、運動性、走化性に関与する電位駆動型Naチャネ ルNa\BPである[72]。  2001年に真核生物の電位駆動型Naチャネルの相同タンパク質NaChBacが始めて 原核生物である好アルカリ性細菌BaCi7/us ha/odurans C−125株から報告された[56]。 その後、多くの微生物ゲノム解析が進むにっれて電位駆動型Naチャネルは好アルカ リ性細菌や海洋性細菌といった高ナトリウム環:境を好む一部の細菌のみが持っている ことがわかった[69]。細菌の持っ電位駆動型Naチャネル(NachBac)の特徴としては、 一次配列はCaチャネルに似ているが実際にはNa←の選択性をもつこと、6っの膜貫通 部位をもつサブユニットが4量体を形成していること、膜電位依存性Caチャネル拮抗 阻害剤であるニフェジピンにより阻害を受けることがあげられる。  2004年に好アルカリ性細菌Baci77us psθudofirn?us OF4株(以下OF4株と省略)の 電位駆動型NaチャネルNa, BPがクローニングされ、その欠損株の構築、生理的機能 が調べられた[69]。その結果、Na、BP欠損株は高アルカリ性環境での細胞内pH調節 能が低下することが示された。さらに驚くべきことにNa,BP欠損株はそれ以外にも、タ ンブリングの頻度が上昇し、誘引物質や忌避物質に対して野生株と反対の走化性を 20

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示すことが明らかになった。OF4株の野生株では1mMアスパラギン酸(pH8.5)、1mM グルコース(pH8.5)、1mMリンゴ酸(pHIO.5)などを誘引物質、 pH10.5を忌避物質として 認識しているが、Na\BP欠損株では1mMアスパラギン酸(pH8.5)、1mMグルコース (pH8.5)、1mMリンゴ酸(pH10.5)などを忌避物質、pH10.5を誘引物質として認識して いた。しかし、この運動1生や走化性の異常の分子機構はまだわかっていない。 21

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第3節本研究の目的と研究アプローチ

 本研究では好アルカリ性細菌B∂oW3ρ5θ掘o㎜μ50F4株(以下OF4株)の電位駆 動型NaチャネルNa\BP欠損株で生じる運動性、走化性の異常の分子機構を明らか にすることを目的とした。  しかし、OF4株の運動特性やべん毛形成にっいて詳しく研究されていなかったため、 まずOF4株の運動特性やべん毛形成の解析を行った。 pHやNa+濃度、培地粘性が べん毛形成や運動性に与える影響にっいて調べることにした。これまでに好アルカリ 性細菌のアルカリ性pHで培養した細胞を用いた中性からアルカリ性の幅広い範囲で の運動性解析は行われていなかったので、これによって今まで明らかでなかった好ア ルカリ性細菌の運動性が中性pHでは低くなる原因がわかってきた。また、これと同時 に以前に取得していた軟寒天培地での運動性向上株(811M一株)と[66]、野生株 (811M株)との比較も行うことで、べん毛の特性と運動}生の新たな関係性も明らかにな ってきた。  次にこれらの結果を踏まえて電位駆動型NaチャネルNa\BP欠損株で生じる運動性、 走化性の異常の分子機構の解明を行った。Na,BPが走化性に関与するタンパク質の どれかと相互作用することが考えられたため、走化性タンパク質のうち走化性レセプタ ー(または走化性レセプター複合体)が細胞の極においてNav BPと相互作用するので はないかと仮説を立て、両者の細胞内局在を比較した。局在を観察する方法として、 固定した細胞の免疫抗体染色(IFM)と、生細胞でのNa、 BPと蛍光タンパク質の融合タ ンパク質を発現させて観察を行った。  本論文では第2章に好アルカリ性細菌B∂oW5ρ3θα∂o」㎞α50F4株の運動特性や べん毛形成の解析、第3章に好アルカリ性細菌BaCi’1/us psθudofirmus O F4株の電位 駆動型Naチャネル欠損によって生じる走化性異常の分子機構の解明の研究成果を まとめた。また、研究から明らかになったことを総括として第4章にまとめた。 22

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 微生物のイオンチャネルの研究はその応用面からも期待されている。微生物のチャ ネルは、急激な外環境の変化に迅速に応答する役割を持っていることから、抗菌薬を ターゲットとなるになり得ると考えられている[48]。細菌の電位駆動型イオンチャネルは 哺乳類のものと相同性が高く、結晶化しづらい哺乳類のものにかわって結晶化され構 造学的研究が進んできた。しかし、微生物内でのチャネルのゲーティング条件が未知 で、チャネルを必要に応じて開けることができず、パッチクランプ法ではその活卜生を測 定できないものもあった[73]。細菌のイオンチャネルの研究が進むことは、イオンチャ ネル自体の研究が進むことであり、イオンチャネルは人体において神経の興奮、筋肉 の収縮、ホルモンの分泌に関与し、さまざまな薬がイオンチャネルの機能を修飾する。 このことから細菌のイオンチャネルの研究は様々な病気の治療法の開発にも応用が 期待されている[48]。さらに、好アルカリ性細菌は工業的にも幅広く利用されており [74]、この研究を通して好アルカリ性細菌のNaチャネルの生理的意義とそのアルカリ 性環境適応機構に関わる走化性機構の理解が飛躍的に高まることにより、さまざまな 応用展開が期待されている。 23

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(35)

第2章

好アルカリ性細菌Baci7/us

ρseudofirmus OF4株の運動特性とべん毛

形成

第1節緒言

 この章では好アルカリ性細菌B∂ci!lus pseudofirmus OF4株(以下OF4株)の運動特 性やべん毛形成についての研究成果をまとめた。  1980年代にはすでに好アルカリ性Ba Ci7/us属細菌の運動性はNa+依存性であること が報告されていた[1]。ある一定の濃度までは培地のNa+濃度の対数的増加に伴い遊 泳速度が直線的に増加すること、細胞内のNa+濃度および膜電位が培地のNa+濃度と 関係なく一定であること、膜電位を減少させても遊泳速度は直線的に減少したが菌体 内のNa+濃度は一定であること、膜内外のNa+濃度勾配と膜電位の両方がモーター回 転のエネルギー源として等価に使われていることが明らかになり、好アルカリ性 BaCi77us属細菌のべん毛モーターのエネルギー源はNa+駆動力であることが示されて いた[2]。  また、1992年には、好アルカリ性細菌Ba Ci77us ha/odurans C−125株のべん毛の形成 及びフラジェリンの発現は培as pHに依存しており、中性pHで培養した細胞はほとん どフラジェリンを発現しておらずべん毛も形成しないため、運動性もないことが報告さ れている[3]。  好アルカリ性細菌のNa+駆動型べん毛モーター固定子の遺伝子は近年まで同定さ れていなかったが、2004年に本研究の対象となっている好アルカリ性細菌B∂ei7/us 32

(36)

psθudofirmus OF4株において同定され、 Na駆動型べん毛モーター固定子はMotPS と名づけられた[4]。  しかし、OF4株の運動特性やべん毛形成の詳細な解析は行われておらず、運動性、 走化性と電位駆動型チャネルの関係を研究する前にそれらを明らかにする必要があ った。そこで本研究ではOF4株のpHやNa+濃度、培地粘性がべん毛形成や運動性 に与える影響について調べることにした。これまでに好アルカリ性細菌のアルカリ性 pHで培養した細胞を用いた中性からアルカリ性の幅広い範囲での運動性解析は行 われていなかったので、これによって今まで明らかでなかった好アルカリ性細菌の運 動性が中性pHでは低くなる原因についても明らかになるのではないかと考えられた。 また、これと同時に以前に取得されていた軟寒天培地での運動性向上株(811M−M 株)と[3]、野生株(811M株)との比較も行った。 33

(37)

第2節実験材料と方法

第1項使用菌株

 好アルカリ性細菌8∂ci77usρsθudofirmus OF4−811M株(メチオニン要求性。以下 811M株)を野生株として用いた[5]。また、811M株から得られた運動性向上株である 811M−M株を用いた[4]。この運動性向上株は軟寒天培地においてコロニーの端を何 度も植え継ぐことで得られた株で、軟寒天培地において野生株よりも高い運動性を持 つ、安定した変異株である。同様の方法で得られた枯草菌の変異株と異なり[6]、この 運動性向上株のmotps遺伝子の上流に変異はなく、変異箇所は同定されていない。

第2項使用培地

 OF4株の培養や運動性の計測にはアルカリ複合培地と[7]、そのNa+濃度、 pHを調 製した派生型の複合培地を用いた。基本的なアルカリ複合培地はpH 10、Na+濃度 230mMである(表2−1.)。Na2CO3を減らしてK2CO3を加えることによって、 pHを変え ずに、5mMから230 mMまで培地のNa+濃度を変えた。230mM以上のNa+濃度の培地 はNaClを加えることによって調製した。また、 Na2CO3を減らしてNaClを加えることによ って、Na+濃度を変えずに、 pHを7.0からpH10までpHを変えた。 pH7.0未満または

pH10より高い培地はHCIまたはKOH水溶液によって調製した。すべての培地のpH

は少量のKOHまたはHCIで正確に調製した。 Na濃度は炎光光度計(AMA−175,東 京光電社)で測定し、実測値で示した。  Na’駆動型べん毛モーターの阻害剤EIPA(5−(N−ethy1−N −isopropyl)−amiloride)また はPVP(polyvinylpyrrolidone)添加による培地の粘性の影響を測定するために用いた 培地は、アルカリ複合培地(pH7、pH8、pH10、Na+濃度230 mM)に最終濃度5∼ 400μMのEIPAまたは1∼5%(w/v)のPVPを加えて作製した。  軟寒天培地での運動性試験に用いた軟寒天培地は、様々なNa濃度、 pH7.5また 34

(38)

表2−1.アルカリ複合培地の組成(pH 10、Na濃度230 mM) ① K,,HPO、   KH,・PO.,   MgSO1・7H20   クエン酸   ペプトン   イーストエキス 15.59 4.59 0.059 0.349  59  29 ② グルコース 59 ③ Na2CO3 10.6g /1000ml ①、②、③を別々にオートクレープ滅菌(121℃、20分間)し、空冷後、混合した。 35

(39)

はpH10に調製した上記の複合培地に、最終濃度0.3%のノーブル寒天(Agar Noble) (Difco社)を加えて作製した。

第3項べん毛染色

べん毛染色は、青野らの方法をOF4株用に改変して行った[3]。811M株および 811M−M株を50m1のアルカリ複合培地(pH 10、 Na+濃度230 mM)に植菌し、37℃、一晩、 好気的に培養し、前培養とした。前培養液12mlをpH7.5、8、9、10、10.3の複合培地 (Na濃度はすべて230mM)1200mlに植菌し、37℃、ジャーファーメンター(PMJ−PI、エイ ブル社)で6時間培養した。pHはpHコントローラーを用いて一定を保った。活発な運動 性を示す培養開始6時間後(後期対数増殖期)の培養液を極少量、スライドガラス上に のせ、乾燥させたあとドライヤーで熱した。2:1:0.1:0.15水溶液(10%(w/v)タンニン酸 水溶液:飽和カリウムみょうばん(potassium alum)水溶液:飽和アニリン水溶液:5%(w/v) 塩化鉄水溶液=2:1:0.1:0.15(体積比)で混合した水溶液)で30分染色した後、アンモ ニア性硝酸銀水溶液(2%硝酸銀水溶液に極少量のアンモニア水を加えた水溶液)で2 分染色した。明視野顕微鏡(Leica DMLB100明視野顕微鏡(1,000倍)、 Leica DC300F カメラ、Leica・IM50・version 1.20ソフトウェア(Leica Microsystems社))を使用し、顕微鏡 観察し撮影した。それぞれ50細胞のべん毛の本数と長さを測定した。 第4項フラジェリンのウエスタンブロット解析  べん毛繊維タンパク質であるフラジェリン発現量を調べるため、811M株および 811M−M株を前述のようにpH7.5、8、9、10、10.3の各pHの複合培地(Na+濃度はすべ て230mM)で培養した。培地のNa+濃度のフラジェリン発現量に対する影響を調べる実 験では、Na+濃度55、230、560mMの複合培地(pH7.5または10)を用いた。培養液500ml を集菌し、TSEバッファー(50mM Tris−HCI pH8.0、10%スクu一ス、1mM EDTA)で洗っ た。TSEバッファー−50mlにけん濁し、 Protease inhibitor cocktail(SIGMA社)を加えた後、 36

(40)

超音波破砕を行った。未破砕の細胞を遠心で取り除き(9,100g、15分、4℃)、上清を全 画分クルード溶液とした。BSAを基準としてn一リー法で蛋白質濃度を測定した[8]。 2xSDSサンプルバッファーを等量加えて沸騰したお湯で3分間処理した。811M株全画 分クルード溶液はタンパク質10μg分を、811M−M株全画分クルード溶液はタンパク質 1.0μg分を、12%ポリアクリルアミドSDSゲルを用いてSDS−PAGEを行った[9]。次にゲ ルをニトロセルロースフィルター(Biorad)に25Vで一晩転写した。転写にはTGMバッ ファー(25mM Tris−HC1(pH8.3)、192mMグリシン、20%(v/v)メタノール)を用いた。  フィルターをTTBS(20mM Tris−HCI(pH7.5)、0.15M NaCl、0.05%Tween20)で洗浄 後、10%スキムミルクーTTBSで2時間ブロッキングを行い、再びTTBSで洗浄した。一次 抗体反応を1/5000ウサギ抗Baci7/us psudofirmus R、AB株フラジェリン抗体(3996)を含む 10%スキムミルクーTTBSで2時間行い、TTBSで洗浄し、二次抗体反応を1/3000ヤギ抗 ウサギ抗体一HRPコンジュゲートを含む5%スキムミルクーTTBSで1時間を行った。 TTBS、 TBS(20mM Tris−HCI(pH7.5)、 O.15M・1 aC1)で洗浄後、 ECL化学発光ウェスタンブロッ ティング検出試薬(Amersham Biosciences社)を用いて検出し、イメージングシステム (Fluor−S MAX、 Bio−Rad社)を用いて撮影、定量化を行った。定量化はそれぞれのバ ンドの化学発光量から行い、それぞれの株においてpHIOで培養したものを1.0としたと きの数値で表した。三回の独立した実験を行い、その平均を示した。 811M株および811M−M株の細胞外のフラジェリン量を比較するため、各株の細胞 からべん毛繊維を調製した。べん毛繊維の調製は青野らの方法をOF4株用に変更し て行った[3]。前述のように811M株および811M−M株をアルカリ複合培地(pH10、 Na+ 濃度230mM)で培養し、集菌後、TSEバッファーでけん濁し、 OD6。。=3.5になるよう調節 した。100mlの細胞けん濁液をミキサー(ナショナルファイバーミキサーMX−XO2)に30 秒かけてべん毛を細胞から切り離iした。遠心し(9,100g、15分、4℃)、上清に含まれるタ ンパク質(主に切り離されたべん毛の細胞外フラジェリン)を最終濃度5%(w/v)のTCA によるTCA沈殿により回収し、1mlのTSEバッファーにけん濁した。これを細胞外画分 37

(41)

とした。また、細胞内フラジェリンを含むべん毛を切り離された細胞をTSEバッファーに けん濁して、超音波破砕し、未破砕の細胞を遠心で取り除き(9,100g、15分、4℃)、細 胞内画分とした。前述と同様の方法でタンパク質濃度を測定し、細胞内画分はタンパ ク質10μg分を、細胞外画分はタンパク質0.1μg分を、12%ポリアクリルアミドSDSゲ ルを用いてSDS−PAGEを行った。ウエスタンブロソト、検出、定量化も前述と同様の方 法で行った。811M−M株の細胞内および細胞外フラジェリンの量をそれぞれの画分の 811M株のものを1.0としたときの数値で表した。三回の独立した実験を行い、その平 均を示した。

第5項遊泳速度の測定

 811M株および811M−M株において、液体培地中での運動性を測定した。811M株 および811M−M株を2m1のアルカリ複合培地(pH 10、 Na濃度230 mM)に植菌し、37℃、 一晩、好気的に培養し、前培養とした。前培養液200μ1をアルカリ複合培地(pH 10、 Na+濃度230 mM)200mlに植菌し、37℃で好気的に培養した。活発な運動性を示す培 養開始6時間後(後期対数増殖期)の細胞をO.45 pt m径のOMNIPORメンブレンフィ ルター(ミリポア社)で集菌し、様々なpH・Na+濃度、粘性条件の培地にけん濁して37℃、 10分間、振とう培養した。ハンギングドロップ法によって暗視野顕微鏡(Leica DMLB100暗視野顕微鏡(400倍)、 Leica DC300Fカメラ、 Leica IM50 version 1.20ソフ トウェア(Leica Microsystems社))を用いて顕微鏡観察し、「劇場版ディスプレーキャプ チャーあれ」(http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se221399.html)を用いて録画し た。録画したビデオからそれぞれ20個の遊泳中の細胞の2秒間の移動距離を測定し、 遊泳速度(μm/sec)を求めた。三回の独立した実験を行い、その平均を示した。

第6項軟寒天における運動性分析

 811M株および811M−M株の軟寒天培地での運動性を0.3%ノーブル寒天(Agar 38

参照

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