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第2章 好アルカリ性細菌Baci7/us

第2節 実験材料と方法

第1項使用菌株

 好アルカリ性細菌8∂ci77usρsθudofirmus OF4−811M株(メチオニン要求性。以下 811M株)を野生株として用いた[5]。また、811M株から得られた運動性向上株である 811M−M株を用いた[4]。この運動性向上株は軟寒天培地においてコロニーの端を何 度も植え継ぐことで得られた株で、軟寒天培地において野生株よりも高い運動性を持 つ、安定した変異株である。同様の方法で得られた枯草菌の変異株と異なり[6]、この 運動性向上株のmotps遺伝子の上流に変異はなく、変異箇所は同定されていない。

第2項使用培地

 OF4株の培養や運動性の計測にはアルカリ複合培地と[7]、そのNa+濃度、 pHを調 製した派生型の複合培地を用いた。基本的なアルカリ複合培地はpH 10、Na+濃度 230mMである(表2−1.)。Na2CO3を減らしてK2CO3を加えることによって、 pHを変え ずに、5mMから230 mMまで培地のNa+濃度を変えた。230mM以上のNa+濃度の培地 はNaClを加えることによって調製した。また、 Na2CO3を減らしてNaClを加えることによ って、Na+濃度を変えずに、 pHを7.0からpH10までpHを変えた。 pH7.0未満または

pH10より高い培地はHCIまたはKOH水溶液によって調製した。すべての培地のpH

は少量のKOHまたはHCIで正確に調製した。 Na濃度は炎光光度計(AMA−175,東 京光電社)で測定し、実測値で示した。

 Na 駆動型べん毛モーターの阻害剤EIPA(5−(N−ethy1−N −isopropyl)−amiloride)また

はPVP(polyvinylpyrrolidone)添加による培地の粘性の影響を測定するために用いた 培地は、アルカリ複合培地(pH7、pH8、pH10、Na+濃度230 mM)に最終濃度5〜

400μMのEIPAまたは1〜5%(w/v)のPVPを加えて作製した。

 軟寒天培地での運動性試験に用いた軟寒天培地は、様々なNa濃度、 pH7.5また

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表2−1.アルカリ複合培地の組成(pH 10、Na濃度230 mM)

① K,,HPO、

  KH,・PO.,

  MgSO1・7H20

  クエン酸   ペプトン

  イーストエキス

15.59

4.59

0.059

0.349

 59

 29

② グルコース

59

③ Na2CO3 10.6g /1000ml

①、②、③を別々にオートクレープ滅菌(121℃、20分間)し、空冷後、混合した。

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はpH10に調製した上記の複合培地に、最終濃度0.3%のノーブル寒天(Agar Noble)

(Difco社)を加えて作製した。

第3項べん毛染色

べん毛染色は、青野らの方法をOF4株用に改変して行った[3]。811M株および

811M−M株を50m1のアルカリ複合培地(pH 10、 Na+濃度230 mM)に植菌し、37℃、一晩、

好気的に培養し、前培養とした。前培養液12mlをpH7.5、8、9、10、10.3の複合培地

(Na濃度はすべて230mM)1200mlに植菌し、37℃、ジャーファーメンター(PMJ−PI、エイ ブル社)で6時間培養した。pHはpHコントローラーを用いて一定を保った。活発な運動 性を示す培養開始6時間後(後期対数増殖期)の培養液を極少量、スライドガラス上に

のせ、乾燥させたあとドライヤーで熱した。2:1:0.1:0.15水溶液(10%(w/v)タンニン酸 水溶液:飽和カリウムみょうばん(potassium alum)水溶液:飽和アニリン水溶液:5%(w/v)

塩化鉄水溶液=2:1:0.1:0.15(体積比)で混合した水溶液)で30分染色した後、アンモ

ニア性硝酸銀水溶液(2%硝酸銀水溶液に極少量のアンモニア水を加えた水溶液)で2 分染色した。明視野顕微鏡(Leica DMLB100明視野顕微鏡(1,000倍)、 Leica DC300F カメラ、Leica・IM50・version 1.20ソフトウェア(Leica Microsystems社))を使用し、顕微鏡

観察し撮影した。それぞれ50細胞のべん毛の本数と長さを測定した。

第4項フラジェリンのウエスタンブロット解析

 べん毛繊維タンパク質であるフラジェリン発現量を調べるため、811M株および 811M−M株を前述のようにpH7.5、8、9、10、10.3の各pHの複合培地(Na+濃度はすべ て230mM)で培養した。培地のNa+濃度のフラジェリン発現量に対する影響を調べる実 験では、Na+濃度55、230、560mMの複合培地(pH7.5または10)を用いた。培養液500ml を集菌し、TSEバッファー(50mM Tris−HCI pH8.0、10%スクu一ス、1mM EDTA)で洗っ

た。TSEバッファー−50mlにけん濁し、 Protease inhibitor cocktail(SIGMA社)を加えた後、

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超音波破砕を行った。未破砕の細胞を遠心で取り除き(9,100g、15分、4℃)、上清を全 画分クルード溶液とした。BSAを基準としてn一リー法で蛋白質濃度を測定した[8]。

2xSDSサンプルバッファーを等量加えて沸騰したお湯で3分間処理した。811M株全画 分クルード溶液はタンパク質10μg分を、811M−M株全画分クルード溶液はタンパク質 1.0μg分を、12%ポリアクリルアミドSDSゲルを用いてSDS−PAGEを行った[9]。次にゲ ルをニトロセルロースフィルター(Biorad)に25Vで一晩転写した。転写にはTGMバッ

ファー(25mM Tris−HC1(pH8.3)、192mMグリシン、20%(v/v)メタノール)を用いた。

 フィルターをTTBS(20mM Tris−HCI(pH7.5)、0.15M NaCl、0.05%Tween20)で洗浄

後、10%スキムミルクーTTBSで2時間ブロッキングを行い、再びTTBSで洗浄した。一次

抗体反応を1/5000ウサギ抗Baci7/us psudofirmus R、AB株フラジェリン抗体(3996)を含む

10%スキムミルクーTTBSで2時間行い、TTBSで洗浄し、二次抗体反応を1/3000ヤギ抗 ウサギ抗体一HRPコンジュゲートを含む5%スキムミルクーTTBSで1時間を行った。 TTBS、

TBS(20mM Tris−HCI(pH7.5)、 O.15M・1 aC1)で洗浄後、 ECL化学発光ウェスタンブロッ

ティング検出試薬(Amersham Biosciences社)を用いて検出し、イメージングシステム

(Fluor−S MAX、 Bio−Rad社)を用いて撮影、定量化を行った。定量化はそれぞれのバ ンドの化学発光量から行い、それぞれの株においてpHIOで培養したものを1.0としたと きの数値で表した。三回の独立した実験を行い、その平均を示した。

811M株および811M−M株の細胞外のフラジェリン量を比較するため、各株の細胞 からべん毛繊維を調製した。べん毛繊維の調製は青野らの方法をOF4株用に変更し て行った[3]。前述のように811M株および811M−M株をアルカリ複合培地(pH10、 Na+

濃度230mM)で培養し、集菌後、TSEバッファーでけん濁し、 OD6。。=3.5になるよう調節 した。100mlの細胞けん濁液をミキサー(ナショナルファイバーミキサーMX−XO2)に30 秒かけてべん毛を細胞から切り離iした。遠心し(9,100g、15分、4℃)、上清に含まれるタ ンパク質(主に切り離されたべん毛の細胞外フラジェリン)を最終濃度5%(w/v)のTCA によるTCA沈殿により回収し、1mlのTSEバッファーにけん濁した。これを細胞外画分

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とした。また、細胞内フラジェリンを含むべん毛を切り離された細胞をTSEバッファーに けん濁して、超音波破砕し、未破砕の細胞を遠心で取り除き(9,100g、15分、4℃)、細 胞内画分とした。前述と同様の方法でタンパク質濃度を測定し、細胞内画分はタンパ ク質10μg分を、細胞外画分はタンパク質0.1μg分を、12%ポリアクリルアミドSDSゲ ルを用いてSDS−PAGEを行った。ウエスタンブロソト、検出、定量化も前述と同様の方 法で行った。811M−M株の細胞内および細胞外フラジェリンの量をそれぞれの画分の 811M株のものを1.0としたときの数値で表した。三回の独立した実験を行い、その平

均を示した。

第5項遊泳速度の測定

 811M株および811M−M株において、液体培地中での運動性を測定した。811M株 および811M−M株を2m1のアルカリ複合培地(pH 10、 Na濃度230 mM)に植菌し、37℃、

一晩、好気的に培養し、前培養とした。前培養液200μ1をアルカリ複合培地(pH 10、

Na+濃度230 mM)200mlに植菌し、37℃で好気的に培養した。活発な運動性を示す培 養開始6時間後(後期対数増殖期)の細胞をO.45 pt m径のOMNIPORメンブレンフィ ルター(ミリポア社)で集菌し、様々なpH・Na+濃度、粘性条件の培地にけん濁して37℃、

10分間、振とう培養した。ハンギングドロップ法によって暗視野顕微鏡(Leica

DMLB100暗視野顕微鏡(400倍)、 Leica DC300Fカメラ、 Leica IM50 version 1.20ソフ

トウェア(Leica Microsystems社))を用いて顕微鏡観察し、「劇場版ディスプレーキャプ チャーあれ」(http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se221399.html)を用いて録画し

た。録画したビデオからそれぞれ20個の遊泳中の細胞の2秒間の移動距離を測定し、

遊泳速度(μm/sec)を求めた。三回の独立した実験を行い、その平均を示した。

第6項軟寒天における運動性分析

 811M株および811M−M株の軟寒天培地での運動性を0.3%ノーブル寒天(Agar

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Noble)(Difco社)で固めた複合培地(様々なNa+濃度、 pH7.5またはpH10)において測 定した。811M株および811M−M株を2mlのアルカリ複合培地(pH 10、Na+濃度230 mM)に植菌し、37℃、一晩、好気的に培養した。1μ1の培養液を軟寒天培地の中央に スポットし、37℃、16時間後広がったコロニーの直径を測定した。三回の独立した実験 を行い、その平均を示した。

第7項テザードセル分析

811M株および811M−M株の単独のべん毛モーターの性能にっいて調べるためテザ ードセル分析を行った[10]。811M株および811M−M株を2mlのアルカリ複合培地(pH 10、Na+濃度230 mM)に植菌し、37℃、一晩、好気的に培養した。スライドガラス

(MATSUNAMI S−2215、松浪ガラス工業)にカバーガラス(MATSUNAMI

NEO(24x32mm)、松浪ガラス工業)を両面テープで固定した。50μ1の培養液をスライド ガラスとカバーガラスの間に入れ、カバーガラス側を下にして15分間、37℃に置いた。

50μ1のアルカリ複合培地(pH 10、 Na+濃度230mM)を通路に導入し、反対側からろ紙 で吸い取ることでガラスに吸着していない細胞を洗い流した。この操作を3回繰り返し た。暗視野顕微鏡(Leica DMLB100暗視野顕微鏡(400倍)、 Leica DC300Fカメラ、

Leica IM50 version 1.20ソフトウェア(Leica Microsystems社))を用いて顕微鏡観察し、

「劇:場版ディスプレーキャプチャーあれ」(http://www。vector.co.jp/soft/win95/art/

se221399.html)を用いて回転しているテザードセルを録画した。各株10個の大きさが ほぼ同じテザードセルの回転速度(Hz)、および細胞の長さ(μm)をビデオから測定し

た。

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