第4章 総括
第2節 好アルカリ性細菌の電位駆動型Naチャネル欠損 によって生じる走化性異常の分子機構の総括
第2節好アルカリ性細菌の電位駆動型Naチャネル欠損
A野性株(811M株)
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図4−2、好アルカリ性細菌の電位駆動型Naチャネル欠損によって生じる走化性異常のモデル
(A)野生株(811M株)ではMcpXとNavBPが極に共局在しており、その他のMCPも極に局在して
いると考えられる。
(B)NavBP欠損株(SC34株)では、 McpXの極での局在性は低下していた(他のMCPに関しては
不明)。大腸菌のMCPのうち、TsrとTarのC末端にはCheRの結合モチーフがあるが、TrgとTapはこのモチーフを欠いており、メチル化するためには他のMCPと極においてクラスター化している 必要があることが知られている[11]。もしMcpXがCheR非結合型であるとすると、脱局在化によりメ
チル化が起こらなくなり、過剰な脱メチル化が起こると考えられ、タンブリングバイアスとなることが予想された。大腸菌ではMCPのメチル化状態の異常により、CheAの活性化の条件が変わり、「反対
の走化性」が起こる場合があることが報告されている[12]。107
る可能性もある。
大腸菌においてCheAWはMCPと複合体を作ることが知られており、MCPの極で
の局在化、クラスター化に必要である[13−15]。OF4株におけるcheAレV遺伝子破壊株(811M−cheAW株)ではMcpXだけでなくNa.BPの局在性も低下した(図3−5、表3−5)。
ニフェジピン処理した細胞はキャピラリー試験において「反対の走化性」を示すことが 報告されているが[10]、ニフェジピン処理した細胞のNa\BPとMcpXの局在性は低下 していなかった(図3−5、図3−6)。っまりNay BPが極に局在していても機能していなけ れば走化性に異常をきたすと考えられ、これはNa、BPによる膜電位の変動などがB.
pseudofirmus O F4株のシグナル伝達に重要な役割を持つ可能性を示唆すると考えら れた。初期の研究でイオンチャネルの阻害剤が細菌の走化性、運動性を阻害すると いう報告があるが[16,17]、Na\BPのようなチャネルがターゲットとなっている可能性が
ある。
大腸菌の細胞の極ではCheAキナーゼやCheZホスファターゼがリン酸化/脱リン酸 化によってCheYを調製しているという報告がある[18]。 Na、 BPのC末端にはリン酸基 を受容する可能性のあるアスパラギン酸残基が存在し、多くの真核生物のイオンチャ ネルの開閉はC末端のリン酸化/脱リン酸化によって調節されていることから[19,20]、
Na、 BPも細胞の極においてCheAキナーゼやCheZホスファターゼによりリン酸化/脱リ ン酸化され調製されている可能性がある。
また、真核生物のCaチャネルやNaチャネルでは、チャネル孔を形成するαサブユ ニットのほかにも複数の補助サブユニットがチャネルの開閉や位置の調節していること が知られているが[21]、原核生物では補助サブユニットのホモログは発見されていな い。さらに電気生理学的な研究から、細菌細胞内でのNa,BPの駆動(開閉)には膜電
位以外にも他のタンパク質が関与して更なる引き金( additional trigger )になっている
のではないかという可能性が示唆されており[10]、McpX自体が更なる引き金となり、Na, BPと相互作用し、更なる引き金として開閉に関与している可能性も考えられる。も
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しもNavBPとMcpXが相互作用しているのならば、リガンド依存性チャネルに類似した 性質をもつこととなり、分子進化学的にも興味深い。今後、McpXの遺伝子が同定され、
Na、 BPとの相互作用の性質が明らかになることによって、走化性との関係が明らかに
なることが期待される。
微生物のチャネルは、急激な外環境の変化に迅速に応答する役割を持っており、
抗菌薬をターゲットとなるになり得ると考えられている[22]。また、細菌の電位駆動型イ オンチャネルは哺乳類のものと相同性が高く、結晶化しづらい哺乳類のものにかわっ て結晶化され構造学的研究が進んできた。しかし、微生物内でのチャネルのゲーティ ング条件が未知で、チャネルを必要に応じて開けることができず、パッチクランプ法で はその活性を測定できないものもあった[23]。今後の研究においてNa,BPと相互作用 するタンパク質やゲーティングに関与するタンパク質が見出されれば、イオンチャネル の研究が進展し、様々なチャネル病の治療法の開発にも応用できるのではないかと期
待される[21,23]。
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