臨床神経生理学 46巻 号
特集 「F波って何だ?」
F 波とは:生理学的機序と脊髄興奮性
原 元 彦
要旨 F波は末梢運動神経の最大上電気刺激によるインパルスが求心性に脊髄前角細胞に 伝わり再び遠心性に筋まで伝導して誘発される。その経路はいずれもアルファ運動ニュー ロンであり,下位運動ニューロンのみならず上位運動ニューロンの興奮性も反映する。F 波発生の原理とF波の記録,F波の計測に必要な事項およびF波と区別を要する他の遅延 電位の概略,臨床応用についてまとめた。日常診療ではF波は末梢神経,特に末梢神経近 位部の検査に用いられることが多いが,F波は脊髄前角細胞の興奮性の指標としても用い ることが可能であり,筋の随意収縮や運動想起,反射の増強(reflex reinforcement)の手技 が脊髄前角細胞興奮性に及ぼす影響についてもF波を用いて検討することができる。
1.はじめに
F
波(F-wave)はH
波とならび遅発電位(late response)に分類される1〜6)
。F
波は最初に1950
年のMegladery
と
McDougal
の論文で足筋からの記録により報告され,F波の
F
はFoot
に由来している2,5)。
その後,F波 は下肢のみならず全身の神経から記録されることがわ かり,臨床的にも広く用いられている。F波は通常の 日常診療では末梢神経,特に末梢神経近位部の検査に 用いられることが多いが,F波は脊髄前角細胞の興奮 性にかかわる指標としても用いることができる5)。
2.F波発生の原理
F
波は末梢運動神経の最大上電気刺激によるインパ ルスが求心性に脊髄前角細胞に伝わり,再び遠心性に 筋まで伝導して誘発される複合筋活動電位(CMAP;compound muscle action potential)である
2,5)。その経
路はいずれもアルファ運動ニューロンであり,下位運 動ニューロンのみならず上位運動ニューロンの興奮性 を反映する2,4,5)。F
波は運動神経が刺激されて生じた 逆行性インパルスにより脊髄前角細胞が逆行性にbackfiring
して再興奮したことで生じる順行性インパルスに誘発される小さな筋電位である1,2,5)
。F
波の発生機序については生理学的背景がやや複雑であり,す べてが解明されている状態ではない。
F
波は運動神経が最大上刺激で刺激されれば必ず発 生するものではない3)。F
波が得られるためには,ま ず,運動神経に逆行性に生じたインパルスが脊髄前角 細胞を興奮させなければならない。末梢神経に強い電 気刺激が与えられて生じたインパルスは中枢側と末梢 側の双方向に伝搬する。通常では電気刺激による細胞 内への逆行性インパルスはインピーダンス不適合のた めブロックされて細胞内に流入せず前角細胞は興奮し ない。しかし,一部の場合,これに打ち勝って細胞内 に流入したインパルスがsoma-dendritic spike(SD spike)を発生させる
2〜5)。逆行性に細胞内に流入した
インパルスは同時に運動ニューロンの軸索小丘(axonhillock)に約 1 ms
の期間を持つ不応期をもたらす。こ のため,逆行性に脊髄前角細胞内のSD spike
で生じ たインパルスが不応期に相当する1 ms
以内に生じた 場合は,不応期のため運動ニューロンを順行性に戻る ことができない1〜5)。
また,前角細胞の興奮に抑制性に 働くRenshaw
抑制が生じるのに約2 ms
を要する。従って,逆行性に運動ニューロンを伝搬したインパル スによって発生した前角細胞の
recurrent discharge
が今度は順行性に運動ニューロンを下降することがで埼玉医科大学医学部リハビリテーション科 原 元彦
きる
time window
は「逆行性インパルスが前角細胞の 細胞膜を通過して生じた不応期の期間が終わった1 ms
以降でRenshaw
抑制がかかる2 ms
より前の間だけ」ということになる1〜5)
。なお,脊髄前角細胞で F
波が 反転するのに要する時間は1 ms
とされている5)。
この ことは後述するF
率やF
波伝導速度の計算式の理解に も関わる。図1にF
波の発生に関わる様式を示した。最大上刺激で得られる
M
波には被験筋の全ての運 動単位の活動電位で構成されているが,M
波と同様に 最大上刺激で得られるF
波は数個の運動単位から構 成されている2,4,5)。また,全ての運動ニューロンで再
興奮が生じるわけではなく,再興奮するニューロンが 毎回再興奮するのではない。単線維筋電図法(singlefiber electromyography)を用いて記録された F
波の出 現頻度は0.8%程度とされている
7)。このため,F
波は 各施行毎に波形の潜時と形態が異なる。F波の振幅はM
波の振幅の1-5%に相当し,振幅は前角細胞の興奮
性により変化する2,6)。
一方,複数のF
波を記録した中 で最も短いF
波潜時であるF
波最小潜時は刺激した 運動神経の中で最も速度の速い伝導性を持つ神経線経 の機能を反映していると考えることができる4)。この
ような
F
波の特性があるので,F波の計測にあたって は必ず一定の数以上のF
波を記録して検討する必要 がある2)。
3.F波の記録と計測
F
波の記録と計測に必要なパラメーターについて述 べる。(1)F波の記録
F
波は経路する距離が長く,その潜時は身長・肢長 の影響と皮膚温の影響を受ける。F波の記録には四肢 の遠位筋が用いられ,刺激部位は手首や足首など四肢 遠位部で行うことが多い。F波が伝搬する距離が長い 方がM
波とF
波を分離して記録しやすい。近位部の刺 激ではF
波の潜時は短縮しM
波の潜時は延長する1〜6)。
刺激部位を過度に体幹に近づけるとF
波の電位はM
波の電位より低電位であるのでM
波の中にF
波の電 位が埋没してしまい,M波とF
波を分離できなくな る。F波は長い距離を経て記録することで末梢神経障 害を鋭敏に反映することができるので通常は遠位部で の刺激で記録する。なお,F波の記録にあたっては,①
F
波は刺激すれば必ず出現するわけではなく刺激 図1 F波のCircuity,F波の発生にかかわる様式Xは上肢では刺激(陰極)から第7頸椎棘突起まで,下肢では第12胸椎棘突起までの距離に相当する(X=D)。 Zは刺激(陰極)からG1(記録電極)までの距離に相当する。Yは脊髄前角細胞でF波が反転するのに要する時 間(1 ms)に相当する。MはM波の潜時,FはF波の潜時である。
FWCV:F波伝導速度,F-ratio:F率
臨床神経生理学 46巻 号
毎に形態や潜時が変化すること,②上肢と下肢の検査 では
F
波の潜時は肢長に依存するため大きく異なる ことに留意する。i)F波の記録方法
基本的には運動神経伝導検査と同じであるが,記録 時間を上肢の場合は
50 ms,下肢の場合は 100 ms
に,F
波の記録感度は200
から500
𝜇V
にする2)。記録周波
数帯は通常の運動神経伝導検査と同じ(20 Hz-5 kHz)でよい2)
。
電気刺激はM
波と同じで,通常は0.2 ms
の 持続時間の矩形波とする。刺激頻度は1
ないし2 Hz
と する2)。0.5 Hz
以下の頻度で刺激することは避ける6)。
記録電極は標準的には遠位の刺激を陰極(cathode dis-tal)とする。これは理論的には陽極直下で生じうる anodal block
を避けるためである1〜6)。
刺激には必ず最 大上刺激を用いる。最大上刺激についてはM
波が最 大振幅となる刺激強度の20%増しの強度とする。
記録 電極はM
波の記録と同様にberry-tendon
法を用い,陰極(G1:記録電極)を筋腹,陽極(G2:基準電極)
を腱または腱が付着する骨の上に置く。基本的には
F
波は被験筋の筋収縮のない安静の状態で,最大上刺激 で記録する2)。これには筋電計の superimpose
波形でM
波の形状が同一であることを確認するとよい。M 波の形態から筋の収縮の状態と最大上刺激が維持され ていることを確認することができる。前述したようにF
波の潜時と波形は施行毎に変化するので,少なくと も10
個以上,日常検査では10-32
個程度のF
波の記 録がF
波の計測に必要である2)。
F
波をうまく記録できないときは,刺激強度や部位 が適切であるか確認する必要がある。また,F波が出 にくいときは患者に検査の前に少し被験筋を収縮して もらうことが有用なことがある5)。
臨床検査では,正中神経(手関節部刺激,短拇指外 転筋で記録)
,
尺骨神経(手関節部刺激,小指外転筋ま たは第1
背側骨間筋で記録),脛骨神経(内顆部刺激,
短拇趾屈筋で記録)がよく用いられる。
ii)F波の評価,パラメーター
F
波の評価で用いられるパラメーターについて概説 する。① 潜時
F
波の潜時は通常は立ち上がり潜時(onset latency)を用いる。身長の影響を受けるので必ず,身長を記録
しておく。計測した
F
波潜時のうち最小のものをF
波 最小潜時(F-wave minimal latency),最大のものを F
波最大潜時(F-wave maximal latency)という。最小潜 時は最も伝導時間の速い運動線維を,最大潜時は最も 伝導時間の遅い運動線維の機能を反映していると考え られる。末梢運動神経の機能を考える上では最小潜時 が重要な目安となる。身長・肢長,皮膚温に影響され ることを念頭に置いておく必要はあるが,F波最小潜 時の正常値は上肢では32 ms
以内,下肢では56 ms
以 内とされる6)。F
波平均潜時を用いることもある8)。
②F chronodispersion
図2に示したように,F波最小潜時と最大潜時の差 である
chronodispersion
を求めることができる9)。
③ 振幅
振幅は基線から最初の陰性頂点までをとる基線-頂 点間振幅(baseline to peak amplitude)
,または,最大
と最小の頂点間振幅(peak to peak amplitude)を計測 する4)。波形の複雑性を表す因子として,持続時間
(duration:振幅の立ち上がりから最終的に基線に戻 るまでの時間)
,陰性頂点数を記録することがある。 F
波振幅は脊髄興奮性を示す指標である5,10)。
図2 F波の潜時
16回のF波記録のラスター表示を示す。*は出現したF波 を示す。それぞれのF波の潜時が異なり波形も異なっている。
chronodispersionは最大潜時と最小潜時の差である。
④ 出現率(F-wave persistence)
刺激回数に対して
F
波が出現した割合(%)であ る。健常者で覚醒時は脛骨神経のF
波出現率はほぼ100%であり
2〜5),上肢(正中神経,尺骨神経)では概
ね
50%以上とされており,
腓骨神経では誘発されないことがある6)
。出現率は脊髄興奮性の指標としても用
いられる5)。
⑤ F率とF波伝導速度,F/M比
F
率(F-ratio):F
波潜時(F)からM
波潜時(M)を引いたもの,F-Mは刺激部位から脊髄までの運動 線維インパルスの往復時間に相当する。刺激部から脊 髄までの中枢側潜時は前角細胞の反転時間を
1 ms
と すれば(F-M-1)/2
となる2)(図1) 。
刺激部から筋ま での伝導時間はM
波の潜時に相当するので両者の比 を求めればF
率(F-ratio)2)が得られる(F率={
(F-M-1)
/2}
÷M)。図 1
に計算式を示した。F
波伝導速度:刺激部から脊髄までの距離をD
と すれば中枢側の伝導速度はその距離を伝導時間で除す ると求められる2)(F波伝導速度:F wave conductionvelocity: FWCV
(m/s)=D÷{
(F-M-1)/2}
)。 D
に相 当する距離は,上肢では刺激点から第7
頸椎棘突起ま で,下肢では第12
胸椎棘突起までの距離を計測す る4)。FWCV
は近位より遠位で伝導速度がより低下す る2〜4)。図 1
に計算式を示した。F/M
比:最大上刺激で得られたM
波振幅と最大上 刺激で得られたF
波振幅の比を用いて評価すること がある4)。脊髄興奮性の指標として用いられることが
ある。
4.F波と区別を要する遅発電位,特殊なF波
(1)H波
H
波(H-reflex)はF
波と潜時が類似しているので 鑑別を要する場合がある。F波と同様に遅発電位であ り,本来,H波は安静時の健常成人では一部の筋(ヒ ラメ筋,橈側手根屈筋など)でしか記録できない。正 常人ではヒラメ筋からは100%誘発可能だが,橈側手
根屈筋などでは誘発されない場合が多い2,4)。ただし,
痙縮などの病的状態および随意的な筋収縮を行うこと で上下肢の生理的伸筋から
H
波を誘発することがで きる2,4)。F
波の記録に関連するH
波の重要な特徴は,①刺激強度を徐々に上げた場合に
F
波より弱い電気 刺激でH
波は出現し,M波が大きくなるに従ってH
波は小さくなる2,4)。一方,F
波は最大上刺激で最も明 らかになる。②同一の強度で刺激した場合,F波と異 なり,H波の波形と潜時はほぼ一定である2,4)。 H
波に ついては,求心性感覚神経であるIa
線維を刺激し,こ れが脊髄でシナプスを介して脊髄運動ニューロンを興 奮させることで得られる電位である。脊髄興奮性の指 標としてH
波を用いる場合は,F
波と異なりシナプス を介するので慣れ(habituation)が起きやすい2)ので,低頻度で刺激することや筋収縮の度合いを一定に保つ ことなどに注意する必要がある。表1に
F
波の特徴と 対比して示した6)。
表1 F波とH波の特徴
F波 H波
求心路 運動 感覚
遠心路 運動 感覚
シナプス 介さない 介する
刺激強度 最大上 最大下
M波が出現するより低い強度で出現 M波の振幅が最大になるにつれて小さくなる
刺激持続時間 0.2 ms 1 ms
波形の形状 刺激毎に変化 刺激強度が同じなら同一波形
振幅 通常は多相性 三相性
主な評価項目
最小潜時(基準値) 上肢 ≦32 ms* ≦34 ms*
下肢 ≦56 ms*
振幅 M波の1-5%(F/M比) M波の30-70%(最大振幅のH/最大振幅のM比)
遅発電位であり,潜時が比較的近い位置にあるF波とH波の特徴を対比した。
*:文献6
臨床神経生理学 46巻 号
(2)A波
A
波は軸索反射(axon reflex)と呼ばれ,通常は ニューロパチーなどの病的状態でみられることが多 い2,4)。A
波の出現する位置はM
波とF
波の間にみら れることが多いのでF
波の直前やF
波と重なってみ られることがあり鑑別の対象になる。A波の特徴をF
波と対比するとA
波の出現位置(A波の潜時)がF
波 に比べて一定の位置であること,時に反復電位の形を とることを挙げることができる。A波は機序的に,軸 索の分岐により生じるもの(collateral innervation),
脱 髄による接触伝導によるもの(ephaptic activation),
脱 髄により同じ軸索上で異所性に興奮が生じるもの(ectopic discharge)
,の 3
つに起因するものがある5)。
(3)反復F波
脊髄前角細胞の脱落・変性を来す疾患(球脊髄性筋 萎縮症や筋萎縮性側索硬化症など)のように著しく運 動単位が減少するような病態では,ほぼ同様の形態の
F
波が複数反復して記録されることがあり,これを反 復F
波(repeater F waves)と呼ぶ2,4,5,10)。
反復F
波が 顕著であることは運動単位が減少しているか,一部の 特定の運動ニューロンの興奮性が増大している所見と 考えることができる10,11)。
5.臨床応用
F
波は末梢神経,特に髄鞘に障害を来すような疾患 である急性炎症性脱髄性多発神経炎(AIDP),慢性炎
症性脱髄性多発神経炎(CIDP)などの炎症性脱髄疾 患,Charcot-Marie-Tooth
病などの遺伝性脱髄疾患,糖 尿病などの疾患で生じるpolyneuropathy
の診断で有 用である1〜6)。また,F
波を利用した運動単位数推定(motor unit number estimate: MUNE)についても応用 されている。いずれについても本特集の別項を参照し ていただきたい。
6.F波と脊髄興奮性;運動想起と反射の増強(re- flex reinforcement)との関連
持続的筋安静1,2)
,薬物(麻酔薬など) ,睡眠(deep sleep)により F
波出現率や振幅が減少すること5,6),
カ フェイン摂取が脊髄興奮性に及ぼす影響が報告されている2,4,5)
。アイオワ大学のグループは,成人の健常者
で持続的筋安静により惹起される脊髄前角細胞の興奮 性の低下が運動想起(motor imagery: MI)や軽度の随 意収縮で回復ないし興奮性が維持されることを報告し
た12,13)
。今回,紹介する実験は,いずれの実験でも右
尺骨神経を手関節部において
1 Hz
で最大上刺激し右 図3 咬筋の運動想起と随意収縮がFDIのF波に及ぼす影響咬筋の運動想起(MI)と随意収縮(10%MVC)がFDIのF波に及ぼす影響を検討した。対象は健常成人6例。
F波出現率(Persistence)とTrial average of F-amplitude,最小潜時(Minimal latency)を検討した。安静時(Rest)
と比べてMIと10%MVCでPersistenceとTrial average of F-amplitudeは有意に増加した。最小潜時は安静時
(Rest)と比べてMIと10%MVCで差がなかった。(*:p<0.05,ANOVA)
第
1
背側骨間筋(FDI)から導出したF
波の潜時,振 幅を検討した13)。また,いずれの実験でも F
波の計測 開始前に20
分間の安静をとり,実験中の各施行の間 には3
分間の休息を置いた13)。
被験筋と同じ筋の
MI,3%MVC
でF
波の出現率,振幅が安静時と比較して有意に増加した13)
。
次に
F
波を導出するFDI
とは異なる筋のMI
と随 意収縮を行った場合の脊髄前角細胞の興奮性に及ぼす 影響を検討した。咬筋のMI
と咬筋が作用する随意収 縮である,歯を噛みしめる動作(teeth clinching)がFDI
のF
波に及ぼす影響を検討した。咬筋のMI
と軽 度の随意収縮によりFDI
のF
波の出現率と振幅が安 静時に比べて有意に増加した(図3)。teeth clinching
はJendrassik
手技と同様に反射の増強(reflex rein-forcement)を呈することが知られており,reflex rein- forcement
の手技によりF
波の出現率・振幅が増加す る可能性がある6).teeth clenching
がFDI
のF
波に及 ぼす影響について検討した報告では,咬筋収縮直後か ら50 ms
以降でF
波振幅はbaseline
より増加するこ と14),F
波が促通された報告がある15)。経頭蓋直流電
気刺激(tDCS)の前後で咬筋のMI
と随意収縮を行っ た場合に脊髄前角細胞の興奮性に及ぼす影響についても検討した。対側半球である左側半球の
CP3
に1 mA,
20
分のAnodal tDCS
を実施した前後で比較した場合 に,咬筋の安静,MI,10%MVCの各状態の間で,右FDI
のF
波の出現率・振幅・最小潜時に明らかな差 をtDCS
の前後で認めなかった(図4)。
安静が余儀なくされる場合であっても異なる部位の 筋の
MI
やごく軽度の随意的な筋収縮により脊髄前角 細胞の興奮性が保たれる可能性があり,神経診断学の 基礎研究,リハビリテーション医学への応用が可能で あると考えている。7.まとめ
F
波について概略をまとめた。F
波潜時は末梢神経,脊髄運動神経の全長にわたる機能を反映しており,臨 床検査上,他の末梢神経伝導検査と一連で実施するこ とで有用性が増す。また,脊髄興奮性の指標として用 いることが可能であり,神経生理学的研究に応用され ている。
謝辞
前職の埼玉県立大学で行った実験の共同研究者に深 謝する(所属は在学中のもの)
:保健医療福祉学部・口
図4 tDCSの前後で咬筋のMIと随意収縮がFDIのF波に及ぼす影響tDCSの前後で咬筋の運動想起(MI)と随意収縮(10%MVC)がFDIのF波に及ぼす影響を検討した。対象は 健常成人6例。F波出現率(Persistence)とTrial average of F-amplitude,最小潜時(Minimal latency)を検討し た。tDCSの前後では有意な差を認めなかった。
臨床神経生理学 46巻 号
腔衛生・検査専攻:川俣美来,小林みずき,吉田梨奈,
井口祐里奈,大港 玲,滝田麻衣,加藤道子,石川桃 子,小船有美,佐野麻依子,高屋敷香予,龍 真優子,
阿曽由佳,沖 栞里,佐藤夏澄,大石江美,川上沙織。
今回の研究の一部は以下の助成を受けた。
科学研究費助成事業,基盤研究
C(一般) ,#.17K 01461(2017-2019
年)。
文献
1)木村 淳:誘発電位と筋電図―理論と応用.医学書院,東 京,pp 156-184, 1990.
2)木村 淳,幸原伸夫:神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のた めに.第2版,医学書院,東京,pp 90-107, 2010.
3)小森哲夫:5.F波.園生雅弘,馬場正之 (編).神経筋電 気診断の実際.星和書店,東京,pp 33-40, 2004.
4)阿部達哉,小森哲夫:F波と他の後期成分.日本臨床神経 生理学会 (編).モノグラフ神経筋電気診断を基礎から学 ぶ人のために.pp 35-50, 2013.
5) Kimura J: Electrodiagnosis in Diseases of Nerve and Muscle, Principles and Practice. Fourth Edition, Oxford University Press, New York, pp 149-179, 2013.
6) Preston DC, Shapiro BE: Electromyography and Neuromus- cular Disorders. Third Edition, Elsevier, London, pp 37-46, 2013.
7) Shiller HH, Stalberg E: F responses studied with single
fibre EMG in normal subjects and spastic patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry 41: 45, 1978.
8) Fisher MA: F-wave latency determination. Muscle Nerve 5:
730-734, 1982.
9) Panayiotopoulos CP, Chroni E: F-waves in clinical neuro- physiology: a review, methodological issues and overall value in peripheral neuropathies. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 101: 365-374, 1996.
10) Mesrati F, Vecchierini MF: F-waves: neurophysiology and clinical value. Neurophysiol Clin 34(5): 217-243, 2004.
11) Kimura J, Yanagisawa H, Yamada T, et al: Is the F wave elicited in a select group of motoneurones? Muscle Nerve 7:
392-399, 1984.
12) Taniguchi S, Kimura J, Yamada T, et al: Effect of motion imagery to counter rest-induced suppression of F-wave as a measure of anterior horn cell excitability. Clin Neurophysiol 119: 1346-1352, 2008.
13) Hara M, Kimura J, Walker DD, et al: Effect of motor imagery and voluntary muscle contraction on the F wave. Muscle Nerve 42(2): 208-212, 2010.
14) Furubayashi T, Sugawara K, Kasai T, et al: Remote effects of self-paced teeth clenching on the excitability of hand motor area. Exp Brain Res 148(2): 261-265, 2003.
15) Boroojerdi B, Battaglia F, Muellbacher W, et al: Voluntary teeth clenching facilitates human motor system excitability.
Clin Neurophysiol 111(6): 988-993, 2000.
F-wave; principles and spinal excitability MOTOHIKO HARA, M.D.
Saitama Medical University Faculty of Medicine,
Department of Rehabilitation Medicine, Saitama Medical University Hospital Key Words:F-wave, spinal excitability