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胞子形成菌の生化学的活性の不安定性について

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(1)

胞子形成菌の生化学的活性の不安定性について

皿.生化学的活性の不安定性の起因について

  金沢大学医学部微生物学教室(主任:谷友次教授)

       田  上  三  雄

  一一一     (昭和31年3月24日目附)

(本論文の要旨は第9回日本細菌学会北陸地方支部集会で発表した・)

Studies on the Instability of Biochemical Activities        of Spore−forrning Bacilli

皿. On the Cause of Instab{Ility of:Biochemical Actlvities

         Mitsuo Tagarni

    エ)6アα河鵬8カ日ゾM伽0ゐε0 0偬,&乃00どげ皿6耽ぜ%6,

         K轍蜘αしア 渤θγ8吻        (エ)か6660r=Pr4エ70徽びゼ望マαπの

       緒 胞子形成菌の各種酵素系が他の細菌にとって 比較的安定な+40Cに蒸溜水浮游液の形で保存 される時,2乃至3日で急激にその活性を失う ことを箭報1)において報告した.

 今回はこれら活性の不安定性の起因について 細菌の死滅によるものか,H:ardwick 2)等の行っ

 言

た実験条件の場合と同様にsporulation乃至はそ の前段階のforesporeの形成によるものか,或い は他の原因による灸のかを知るため,菌液を種:

々条件を変えて保存した場合の酵素活性を調 べ,叉菌液上清に遊離する各種菌体成分につい て検討するため実験を行った.

使用菌株::B.subtilis      :B.mesentericus      :B.megatherium      E.coli

1)ワールブルグ検圧法  用量は第1報3)に従った.

2)遊離燐定量法  GomOri法4)に従った.

3)核酸の定量法

実験材料及び実験方法

NRRL株

教室1株

C1 株 学生株

DNA一燐:ヂフェニルァミン反応5)

RNA一燐:オルシン塩酸反応6)

4)総窒素の定量法

Fujita u・:Kasaharaの方法7>

5)遊離アミノ酸の検出法

 2次元ペーパー・クロマトグラフ{一による.

第1溶媒:0.5%アンモニア水:フLノール        =23:77

第2溶媒:n一:Butano1:Ethano1:水==60=ユ5:25 上昇法,呈色剤:0・2%Ninhydrin一:Butano1 6)蛋白質量の測定

【43】

(2)

 :B・subtilis NRRL株の1mgN/mlの1菌液を3000回,

30分遠心し,その上清3m1に同量:の10%1・リクロール 酷酸を加え,光電管比色計で測定する.対照として蒸 溜水の透光度を100%とする.(使用フィルターB)

 7)菌液透光度の測定

 光電管比色計による.・対照として蒸溜水の透光度を 100%とする.(使用フィルターB)

実験 成績

 1)生菌数の計算

 胞子形成菌であるB.mesentericus及び13.

megatherium C1株の10時間肉エキスブイヨン

申で振盛培養した菌の1mgN/mlの蒸溜水浮游

液の10倍稀釈系列より毎日1白金耳をとり,塞 天平板に接種しその生菌数を調べた.生菌数は

第1表一1及び2に示す如く,日をへるにつれ て減少する.しかし第1表一3に示す如く対照

   第1表 各種胞子形成菌及び大腸

   菌の1mgN/m】蒸溜水浮游液で

   +4。Cに保存した場合の生菌数          (1)

(3)

菌  株

\稀釈倍数

編遍\

E.coli学生株

10−4

即司∵

第1 日

第2 日

読  数  〃 〃

無  数  〃 〃

保存  日数

稀釈倍数

即  日

第1日

10−5

:ll/531

111/89

11い4

B.1nesentericus

敢 室 1株

10−2

無 数  〃  〃 無 数  多

才2日

無 数  〃  〃

10−3

11159

571

11134

10−4

0

0

馨123

0

(2)

喉轡一

号  日

第1日 第2日

:B。megatherium

 C置 株 101

無 数

無 数:

 〃  〃 無 数  〃  〃

10・・2

549

1%1366 3711

10−3

78

11、

0〜

曇慧孝書254{§そ0

として同様に計算した大腸菌の生菌数の減少と 比較するとむしろ少ない位で,決して生菌数の 減少がこれらの菌において特に著明であるとは いえない.

 2)各種溶液中に保存した場合の酸化酵素活

  性

 pH 7.2のS6rensen燐酸緩衝液及び0.85%

の生理食塩水を使用した場合,アスパラギン酸 ソーダに対する酸化酵素活性は第1図に示す如 く,第1日目迄はあまり低下は認められないが,

第2日目には蒸溜水を用いた対照と二二に活性

の急激な落下が認められた.

 0.3%グルコース水溶液中に保存した場合は 第2図に示す如く,(1)0・3%グルコース水溶 液中に保存し,保存液そのま まを用い新に基質 としてグルコースを追加しないもの.(2)0.3

%グルコース水溶液中に保存し,基質としてグ ルコースを加えたもの.(3)蒸溜水中に保存

して基質としてグルコースを加えたもの.

 以上(1)(2>(3)の何;れのものも第3日目 には殆んど活性は零に落下する.

(3)

 3)保存温度による影響

 :B.Subtilisの12時間振盗培養の菌液を4。C,

10C,25。C,37。Cに保存した場合, i號珀酸ソ ーダに対する酸化酵素活性を比較した.第3図

に示す如く4。C及び10。Cに保存した場合は3

時聞後の測定時には殆んど活性の低下は認めら れないが,25。C,37。Cに保存したものでは著 明な低下が認められる.24時間後では10。C,4。

Cでは略ミ活性は即時の活性の牛分に落下す

る.25。C,37。Cでは殆んど零となる.遠心沈 澄のままの形で4。Cに保存して置けば,即時の Qo2176μ1のものが第4日目で152! 1となり殆 んどもとの活性を保持している.第4日目に初

めて菌液を作成して4。Cに保存すると,第5

日,第6日で活性は殆んど零に迄落下する.

  第1図 各種溶液中に保存した場合の

     酸イヒ酵素〜舌・ll生  (:B.subtilis)

  基賑終灘昔アスパラギン酸・一ダ

   Qo230mi /mgN

  ㎜

μ〜

400

300

200

100

      (1)pH7.2燐駿緩衝液

.ヨー=:一}、

      (2)0,85% 生理食塩水   、 r(1}

      13)蒸 溜 水〔21      、、

  (・} 婆、

     \、

      ・こ、

       出

 4)培養時聞による影響

 肉エキ・スブイヨン中5,7,12,16,20の各時 間振盈培養の:B.Subtllisを菌液:として4。Cに 保存した場合の基質のアスパラギン酸ソーダ及

びグルコースに対するQo2を調べた.第4図及

び第5図に示す如く何れの培養時間の細菌も一・

様に1乃至2日で著明な酵素活性の落下が認め

られた.

 5)37。C蒸溜水中で振盈した場合

 第6図に示す如く基質のアスパラギン酸ソー

ダ及びグルコースに対して1時間目迄は夫々

Qo2347μ1及び324μ1で殆んど活性は変らない がその後徐々に酵素活性は低下し,4時間目で

は317μi及び270μ1となる.然るに内呼吸は

2時間から4時聞迄は殆んど低下を認めない.

  第2図0.3%グルコース水溶液中に

    保存した場合の酸化酵素活性

Qo230min/mg翼 303

μ 200

100

【3)

ω

即   1・  2

第3図

   200    μ

(2)

       即   1   2   3   4  日

      (1)0,3%グルコース保存液申の菌を基質を加えず       に用いた.

      (2)0.3%グルコース保存液中の菌に更に基質とし       てグルコースを追加して用いた.

3 4 日        (3)蒸溜水中に保存したものにグルコースを基質       として加えた.

 酸化酵素活性の保存温度による影響 (B・s・btilis)

     Qo230πnin/mgN

100

、 罐羅て

 \

  \  4。C

  \/

 25。C\

 ∠  \    〜、

    、、、、

・…  、㌍〜\

        、、

         \

基質記田酸ソーダ

即時3時間123456日

【45】

(4)

第4図 酸化酵素活性の培養時闇

  による影i密 (:B.$ubtilis)

基質最羅度蓄アスパラギン酸・ヴ

Qo230min/mgN・

800 μ 700

500

400

300

200

100

〔3)

(1)

ω

(5)

第5図酸化酵素活性の培養時間

  による影響 (B.subtilis)

  顯最羅度蓄グルコース

  Qo230min/侃gN 200

μ

100

{3)

ω

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

即   1   2

5時聞振盤培養

7 〃 12 〃 16 〃 20 〃

第6図

3   4  日 ・倒

PH   菌量 7.4  6.06mgN 7.4 15.8mgN 7.9  31.2mgN 8.0 39.2mgN 8.2 58.1mgN 37。C蒸溜水申で振盟した 場合の酵素活性

Qo330min/mgN 400

μ

200

100

     アスパラギン酸ソーダ

グルコース

      内 呼 吸      即   1  2   3  4 時間

(註)第6図に示す基質呼吸値は内呼吸値を  差引いてない.

 6)上清液の各種菌体成分の検索

 a)遊離燐

 第7図に示される如く:B.subtilisの上清液で は即日6γ/2mlのものが第;3日目に8γ/2mlへ B.megatheriumでは即日1.2γノ2mlのものが3 日目に8γ/2m1へと増加の傾向を認めるが, E.

collでは殆んど不変である.

 b)核酸

即   1   2   3

(1) 8時間振盟培養i

(2)12〃 〃

(3)16〃 〃

(4)20〃 〃

pH

7.8 7.8 7.8 8.0

42.5mgN

菌量

62.4mgN

80.Omg:N

70.9mgN

 第8図に示す如くB.subtilisではRNA, D NA共に第3,第4日目で上清液への著明な増 加が認められ,叉B.megatheriumではRNA,

DNA共に僅かの増加を認めた.然るにE.coli ではRNA, DNA共に上清への増力nは認めら

れない.

 c)上清液の遊離アミノ酸

 :B.subtilisの上清液10m1をとり,除蛋白操 作を行い,これを水浴上で蒸発乾固し,1mlの

蒸溜水にとかし,その0.005mlを2次元ペー

パークロマトグラフィーで定性分析した.第2 表に示す如く第1日目では4種の著明なスポ。

ト(グルタミン酸,グリシン,アラニン,未知

のスポット)を認めたが第4日目には9種の著

明なスポ。ト(アラニン,アスパラギン酸,グ ルタミン酸,グリシン,未知のスポット,アル ギニン,バリン,ロイシン,フエニールアラニ ン)に増加し,叉何れのアミノ酸も量的の増加 の傾向をも示した.然るにE・coliでは第;1,第

(5)

4日目共にこの方法ではスポヅトを検出するこ とが出来なかった.

 d)上清の総窒素量

 :B.subtilisの上清液の総窒素量は第9図に示 す如く,即日は0.119mgN/m1,第:4日は0・36

1mgN/mlで,第;4日目には即日の約3倍に増

加したがE.coliでは殆んど増加は認められな

かった.

 e)上清の蛋白質量

 第3表に示す如く即日において透光度92%の ものが第3日目に87%の値を示した.

 7)光電管比色計による菌液透光度の測定  :第4表に示す如く,:B.subtilisでは即日にお いて透光度26%のものが第2日目より徐々に増 加し,第4日目には38%を示した・然るにE・coli では即日から第4日目迄は変化を示さなかった.

 8)グラム染色性と光学顕微鏡写眞

 B.subtilis:NRRI・株のグラム染色性は十4。C 蒸溜水中に浮出した菌液で観察した結果,第10 図に見られる如く,第1日目の菌では大部分の

菌がグラム陽性菌であるが,第2,第3日目に

なると次第に陰性化し,第4日目で殆んど大部 分が陰性菌となる.面体のghost cell化するも のや,菌体の幾分膨隆する像を認めるものもあ るが,大部分の菌は光学顕微鏡的セこは著変を認 めない.

 9)電子顕微鏡所見

 a):B.subtilis肉エキスブイヨン中12時間振 盤培養した菌の電子顕微鏡像は第14図に示す如 く菌体一様にdellseの像を示し,内部像を知り 得ない.叉cell waUも殆んど認められない.

 b)+4。Cで蒸溜水中に24時聞保存した菌体

は,第15図に示す如く,やはり一様にdenseの 像を示すが,cell wa】1は梢ζ著明に認められる

ようになる.

 c)+4。Cで蒸溜水申に48時間保存した菌で

は第16図に示す如く仏体のdeDsityが前者に比 べて減弱し,憎体が梢ヒ膨化した像を示す.更に cell wallは極めて著明に認められるようになる.

 d)+4。Cで蒸溜水中に96時間保存した菌で

は,第17図に示す如く為体のdensityが更に減 弱し,核様の内部像が認められるものもある.

菌体の膨化は著明となる.

 e)E.coliを肉エキスブイヨン中で12時間

振盧培養した場合,その直後の菌の電子顕微鏡 像は第18図に示す如く,大部分の菌は菌体一檬 にdenseの像を示し, ce】l wsa11も殆んど認め

られない.

 f)第19図は同上のE.soliを+4。Cで蒸溜

水中に96時聞保存した場合で,菌体のdellsity は幾分低下するが,菌体の膨化は著明でなく,

ceU wallも殆んど認められない.

 10)Nicotillamide, FAD及びチトクロム。添

  加実験

 R.subtllisの蒸溜水浮游液に予め:Nicotill amide◎を1m9/0.5mgN 菌液の割合に加えて

置き,これを+40Cに保存したものに更にFA

D米を1γ/0.5mgN菌液及びチトクロム。※を 0.201×」0}8M/0.5mgN菌1夜の割合で添加した

ものについて酸化酵素活性を検討したが活性の 落下を防ぐことは出来なかった.

 (註)◎ ナイアマイド(ゾンネボード製薬)

    来 Chocola:BB(日本衛材株式会肚)

    ※:Keilin and Hartreeの方法8)に従って自       製した.

第7図 1mgN/ml菌液上清の遊離燐(2m1申)

鷹0 γ

5

B. 8口bt査lis

B.megatherium

E。coli

且回123456日

目47 ]

(6)

200 γ

100

第8図 菌液1mg:N/m1上清の核酸

B.6ub. RNA

B.8ub. DNA

      B.meg. RNA

      /

E.c・1i DNA /       B.meg, DNA

@騨一ロー一●9需一 一一一一一■o●

E. coli 駐NA

第9図 菌液lmg:N!ml上清の無二素量

0.4

mgN

03

02

0.1

B.8脇btilis

       のサ ユだユ

即   1   2   3   4  日

第3表 上清の蛋白質量の変化

艮p123456日

第2表 B.Subtilisの菌液ユmgN/ml     上清の遊離.アミノ酸

\_    保存日数

ア,ノ履 くくこ

未知のス1フ毛ノール0.22 ポツト

グ   リ ア   ラ ア  ル

メ  チ ロ   イ フ ェ

スパラギソ酸

ル タ ミ ソ 酸

  RF

  tブタノー・ル0.05

ギ  ニ

ニールアラニ

 1 1日2日  1

±

±

±

3日}4日

 1

±

一1士+

±

(註)E.coliでは第1日及び第4日共   にスポットを認めなかった.

第1 第2 第3

:B・subtilis hngN/m1

  の 上 清

92 92 91 87

第4表 菌液透光度の変化

菌  株

第1 第2 第3 第4

13. subtilis

26 26 28 31 38

E.coli

28 28 28 28 28

総括及び考按

胞子形成菌の酵素活性の不安定性に関係する と思われる種々の因子について検討した.

酵素系全般の落下している点から,まず考え られることは生菌数の減少であるが,十4。C蒸

溜水中で比較的その酵素活性の安定なE.coli を対照として:B.meselltericus, B・1negathe「iuln の生菌数の計算を行ったが,これら胞子形成菌 において特に著明な生菌数の減少は認められな

(7)

かつた.このことより酵素活性の低下は直接に は生菌数の減少によるものとは考えられない.

 次に菌浮游液のpH及び滲透圧の影響を調べ たが,至適pH及び生理食塩水中に保存した場 合,即日から第1日目の活性の低下を防ぐ結 果を得たが,第2,3日目でやはり活性の急激

な落下を認めた.更にHardwick&Foster 2)が

0.3%グルコースを含む蒸溜水中で370Cで振

盤する場合は酵素活性の低下が少なく,これは グルコースによってSporulatio11が妨げられる ためだと述べているが,著者は0.3%グルコー

スを含む蒸溜水中で十4。Cに増殖形を心置し

た場合の酵素活性を検討し,活性の著明な落下 を認めた.

 保存温度の影響として37。C及び25。Cに静

置したときには短時聞でその活性が著しく落下 することの原因として考えられるのはautolysis とsporulationとである.しかしNorman9)等に よるとsporulationにはaera†b11が必要:とされ ているから静置の1沃態にある場合には振盤培養 に比べて酸素の供給は少なく,従ってSporula−

tionによる活性の落下は少ないものと考えられ る.Rlchard A. Greenberg lo)はl sporefbrming baciUiのautolytic substanceの存在を示してい るが,この場合保存温度が菌体成分に働く種々

の融解酵素の至適温度に近い点より,菌体の

Iysisによる低下が主因と思われる.遠心沈渣の 形で+4。Cに保存される時,活性が比較的安定 に保たれる.従ってforesporeの形成と共に酵

素量の減少があるというHardwickの実験から

遠心沈渣の形で+4。Cに保存されるときは,

長)resporeの形成が行われ難いものと推定ざれ

る.

 1953年Powe1111)がlysisを起し易い成熟し

た細菌が蒸溜溜水中で振盤されるとき,spore を形成し易いだろうと予想し,1954年中田12)が 幼弱な細菌(5時間紙誌培養以前の細菌)は蒸 溜水申で振漏してもspoτeを形成しないことを 報告したが,著:者は,5,7,12,16,20時聞の三 振盗培養の細菌について,細菌の培養時間と酵

素活性の不安定性の蘭係を検討した所,振盤5

時闇の幼弱菌を十4QC蒸溜水申に保存した場

合でも酵素活性は速かに落下する.このことは 胞子形成菌が必ずしもforespore乃至sporeを 形成しない場合でも酵素活性の急激な落下が起

り得ることを示している.かくの如く細菌の ageと酵素活性の不安定性との聞には殆んど関 係は認められなかった.しかし若い菌ではアミ ノ酸に対するQo2が高く,培養時間の延長と共 に即ち成熟菌になるにつれて,グルコールに対

するQo2が増加する傾向のあることを観察し

た.これは胞子形成菌のみに見られる特異性か 或いは細菌一般に共通の現象かは更に検討しな ければならないが,菌のageと酵素系との間に 密接な関係のあることが予想される.

 次に1952年Hardwickが行った条件下で即ち

37。C蒸溜水中で増殖形細胞を広島した場合,4 時間迄しか観察しなかったが,1時聞応は活性

,は殆んど不変で,その後次第に低下の傾向を示 す.然るに内呼吸は2時聞から4時間迄は殆ん

ど低下を認めなかった.

 以上の実験成績より遠心沈渣のままのもの即 ち比較的水分の少ない形で保存した菌は酵素活 性の低下が4日目でも殆んど認められぬ程度で

あり,叉生理食塩水や至適pHの液に保存した

ときには幾分活性の低下を逞延させ得る点から 酵素活性の落下と菌体成分の細胞外への流出と の聞に密接な関係のあることが予想される.そ こで菌液上清の菌体成分の検索を行った所,蔵 subtilisにおいては,遊離i燐の増加,核酸(RN

A,DNA)の増加,遊離アミノ酸の増加,総窒

素量の増加,蛋白質量の幾分の増加が認められ た.Henry&Stancey 13、はグラム陽性物質がR

NAのマグネシウム塩に関係していると述べて いるが,著者の実験では上清へのRNAの増加

は同時に行った菌休のグラム染色性の陰性化の

成績と一致した.叉菌液の透光度の測定の結

果,B. subtilisにおいては第2日目より透光度 の増加を認めた.とれには細胞原形質自体の 1ysisによる透光度の変化とcell wa11の屈折率

【49】

(8)

の変化による場合の2通が考えられる.

 この:B・subtilisにおける各種菌体成分の上清 への増加で考えられることは,この菌を取囲む 細胞被膜の透過性の増加と菌体成分特に蛋白質 の変化とである.

 前者については,グラム陽性物質が細胞被膜 に含まれているとされている14)現在,B. subtilis におけるグラム染色性の低下の認められること は,この菌の細胞被膜に何らかの変化が起って いることを示すものと考えられる.更にこの変 化は電子顕微鏡像においても引回の著明な膨化 とcell wa11において認められた.なお電子顕微 鏡所見で注目すべき点は日をへるにつれて菌体 のdensltyが減弱し,やがて岩体の内部像即ち

DNAの所在を示すと思われる像を得たことで

ある.これは最:初electron dellseの物質即ちR

NAで覆われていた二二がその流出により細胞

内部像を示すようになった竜のと思われる.換

言すれば細胞被膜のRNAのみならず原形質内 のRNAの流出も存在すると考えられる.然る

にE・co】iにおいては菌体のdensitソの幾分の 低下はあったが,菌体の膨化は殆んど認められ ず叉cell wallが著明になることもなかった.

 i蛋白質の変化セこついてはGoebe1&AverアL5)

が肺炎球菌のautolyslsにはアミノ窒素及び非 凝固性窒素の増加を件うproteolysisが存在して いることを報告したが,著者の実験における遊 離アミノ酸の質的及び量的の増加は細胞被膜の 透過性の問題の他に蛋白質の低分子化を考えな ければならない.しかし+4。Cに保存した場合 融解酵素の作用の至適温度でないこと及び,生 菌数の顕著な減少がないこと,更に上清への蛋 白質の増加がそれ程著明でない等の諸点より全 般的な構成i蛋白質:の1ysisはまだ起きていない ものと考えてよい.而も酵素系の全面的な落下 の認められることよりまず第1に各々の酵素に

結  胞子形成菌の生化学的活性の不安定性の起因 について対照のE.coliと比較検討した.

共通する助酵素類の細胞外への流出を考えねば ならない.

 H『alldler&KIein 16)は組織がhomogenateさ

れるときまずDPNが破壌されるといい,Mann

&Quaste117)はこのDP:Nの破壌はNicotinamide の添加によって阻止されると報告している.叉 同様にしてジァホラーゼよりの:FADの解離iに

よる活性の低下はFADの添加によってその活

性が保たれるものと考えられている18).胞子形 成菌の酸化酵素活性の落下で考えられるのは,

DPN及びジアホラーゼの破壊とチトクローム

の遊出である.これらを防ぐために予めNicotin−

amideを加えて置いた菌液に:FAD及びcyto・

chrome Cを加えて酸化酵素活性を測定したが,

活性の低下を防ぐことは出来なかった。そこで 更に根本的な所が侵されているとすれば,これ らの助酵素の結合している酵素蛋白質自体の変 化が考えられる.現在すべての酵素の主成分は 蛋白質からなる19)とされ:叉核酸と酵素の聞に蛋 白合成19)20)という面で密接な関係があることが 示されているが,胞子形成菌の場合,生菌数の 特に著明な減少がなくして,而も上清への僅か

の蛋白質の増加やかなりの遊離アミノ酸の増 加,更に電子顕微鏡所見より,菌体原形質の

deDsityの著明な低下や上清への核酸の増加の 諸点より,菌体構成蛋白質よりも変化し易いと 考えられる酵素蛋白質自体の変化を推定するこ

とが出来る,

 以上の考察より胞子形成菌の細胞被膜が他の 酵素活性の安定な菌に比べて透過性の増加し易 い性質をもち,このために助酵素類の流出更に は酵素蛋白質自体の変化乃至は細胞外への流出 が起り総合的酵素系の機能に変調を来し,その 結果酵素活性の不安定性が起るものと考えられ

る.

 (1)活性の急激な落下は輩なる生菌数の減

少のみによるものではない.

(9)

第  10 図 第  13 図

8・subtHis NRRL株の蒸溜水浮游液として4。C に保存した場合.24時後,グラム染色,×2500

同,96時間後,×2500

第  11 図

撫、

 蓼

同,48時間後,x2500

第  14 図

B・subtilis 12時聞培養 即Elの菌,×6000

第  12 図

同,72時間後,x2500

第  15 図

 鰻無戴=誌ン嘱ビ ゴ じ・

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同,蒸溜水浮游液として+4。Cに保存,24時間後

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(10)

第 16 図 第  18 図

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第  17 図

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第  19 図

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同,96時間後 ×6000 同,蒸溜水浮游液として十4。Cに保存,

96時間イ麦   x6000

(11)

 (2)spore及びその前段階であるforespore

の形成される場合は勿論酵素活性は落下する

が,これらの形成の行われない条件下でも活性 は落下する.         

 (3)菌浮游液の歌態で十4。C保存されると きは,遠心沈渣の形(比較的水分の少ない歌態)

で+4。C保存されるときより活性の落下が著し い.これは胞子形成菌の如き生化学的活性の不 安定な菌を酵素化学的実験に供する場合に注意

しなければならない点である,

 (4)菌液上清の菌体成分の検索により菌体 成分の細胞外への流出及び蛋白質の低分子化が 認められた.

 (5) 電子顕微鏡所見より細胞被膜の変化及

び菌体のdensitアの著明な減弱の像を得た.

 (6)Nicotinamide, FAD及びcytochrome

Cの添加実験によって活性の低下を防ぐことは 出来なかった.

 (7)以上の結果より胞子形成菌の細胞被膜 の透過性が変化し易いことに起因すると考えら れる助酵素類の流出更には,これらの助酵素の 結合している酵素蛋白自体の低分子化乃至は細 胞外流出のたあに総合的酵素系の機能に変調を 来し酵素活性の落下が起るものと思われる.

稿を終るに当り,御指導と御二二を賜った恩師谷教 授に深く感謝の意を表します.叉実験の御指導を戴い た西田助三三に感謝致します.

文 1)田上三雄3十全医学会雑誌,発表予定.

2)宜ardwick, W. A., and Foster,」. W.:

J・:BacterioL,65♪355(1953)・   3)田上三 雄:十全医学会雑誌,発表予定.   4)江 上不二夫等ゴ標準生化学実験,初版,134頁,

(1953)文光堂.    5)江上不=夫:核酸 及び核蛋白質,上鮎,140頁,(1951)共立出版株 式会砒.   6),江上不二夫:核酸及び核蛋 白質,上巻,142頁:,(1951)共立出版株式会肚.

7)藤田秋治:医学生物学研究領域に於ける検 圧法と其応用,第2刷,395頁,(昭和24),岩波 書店.     8)W.W。 Umbreit et al:

Mar且ometric techniques and tissue metabolism,

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hing Co.     9)Norman G. Roth and etc.: J. Bacterio1・,69,455(1955)・

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:Folkes: Nature,173,1223(1954).

【51】

参照

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