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(1)

修士学位論文

題 名

社会的比較における平均以上効果と 自己高揚効果に関する実験研究

頁 1~ 118

指導教員 長瀬 勝彦 教授

2020(令和 2)年 1 月 10 日提出

首都大学東京大学院

社会科学研究科(博士前期課程)経営学専攻

学修番号 1387723

氏 名

鶴本

つるもと

貴生

た か お

(2)

目次

はじめに ... 6

第Ⅰ部 先行研究レビュー(研究の系譜と背景) ... 9

第1章 社会的比較(social comparison)... 9

1.1 社会的比較の日常性 ... 9

1.2 社会的比較過程理論 ... 11

1.3 社会的比較過程理論の展開 ... 14

1.4 類似性仮説(比較相手としての類似した他者)... 14

1.5 上方比較・下方比較 ... 15

1.6 自己評価維持モデル ... 16

第2章 自信過剰(overconfidence) ... 18

2.1 自信過剰に関連する認知的バイアス ... 18

2.2 自信過剰の定義 ... 19

2.3 次章以降の表記や記述の注意点 ... 20

第3章 平均以上効果(better-than-average effect ... 22

3.1 平均以上効果の制御変数(自己の領域に着眼した研究) ... 23

3.2 平均以上効果の現出理由(促進要因に着眼した研究) ... 24

3.2.1 コントロールの可能性(コンピタンスとメタ認知スキル) ... 24

3.2.2 課題の難易度 ... 25

(3)

3.2.3 重要性 ... 27

3.2.4 曖昧性や不確実性 ... 27

3.2.5 直接比較法と間接比較法 ... 28

3.2.6 注意の焦点 ... 29

3.3 理論研究史の概観 ... 30

3.3.1 動機論と情報処理論 ... 30

3.3.2 Moore and Small (2007)の統合的なモデル ... 31

3.3.3 Moore and Small (2007)の図解 ... 32

第4章 自己高揚効果(self-enhancement) ... 35

4.1 自己認識に関わる動機 ... 35

4.2 肯定的幻想 ... 37

4.3 自己中心性 ... 39

4.4 文化的自己観(cultural construal of the self) ... 40

4.5 主観的ウェル・ビーイング ... 42

第5章 自己と対人関係 ... 44

5.1 関係性の成立 ... 45

5.2 親密な他者との社会的比較 ... 45

5.3 帰属意識と競争意識 ... 47

第6章 仮説... 52

6.1 先行研究の課題 ... 52

(4)

6.1.1 課題の難易度の違いによる日本人の自己高揚効果と平均以上効果 ... 52

6.1.2 課題の難易度を考慮した親友・親密な他者との比較... 53

6.1.3 実験参加者の現実的な関心事を踏まえた重要性操作(萌芽的研究) ... 54

6.2 仮説の導出 ... 54

第Ⅱ部 実験研究 ... 57

第7章 第1実験 ... 57

7.1 実験方法 ... 57

7.1.1 調査概要 ... 57

7.1.2 質問紙の構成 ... 58

7.1.3 調査内容 ... 58

7.2 結果 ... 60

7.2.1 仮説1の検証 ... 60

7.2.2 仮説2の検証 ... 65

7.2.3 仮説3の検証 ... 69

7.2.4 仮説4の検証 ... 73

7.3 第1実験のまとめ ... 77

第8章 第2実験 ... 80

8.1 実験方法 ... 80

8.1.1 調査概要 ... 80

8.1.2 質問紙の構成 ... 80

(5)

8.1.3 調査内容 ... 81

8.2 結果 ... 82

8.2.1 仮説5の検証 ... 82

8.2.2 仮説6の検証 ... 85

8.3 第2実験のまとめ ... 87

第Ⅲ部 総合的考察 ... 89

第9章 総合的考察 ... 89

9.1 本研究の貢献 ... 89

9.2 学術的・実務的含意 ... 90

9.3 残された課題 ... 91

第Ⅳ部 参考文献 ... 93

資料 ... 101

謝辞 ... 118

(6)

社会的比較における平均以上効果と自己高揚効果に関する実験研究

鶴本 貴生

Keywords:

社会的比較、平均以上効果、自己高揚効果、課題の難易度、自己にとっての重要性

はじめに

1990 年代初期より、企業では長引く業績不振の克服に向けた経営改革が次々と行わ れ、人材マネジメントに関していえば、ベースアップの凍結、定期昇給の廃止、賃金カ ット、新卒採用の停止、非正規雇用者の増加、人員整理などが講じられた。その流れの 中、さらなる積極的な対応策として、成果主義的賃金が導入され、多数の企業が採用し てきた。成果主義的賃金といっても、その詳細な内容は導入する企業によって異なる が、従業員個人の成果に応じて賃金を乖離させ格差が広がるような賃金体系を構築す ることが、モチベーションの向上に資すると考えられてきた(奥西, 2001)。しかし、

年功賃金制の存廃を巡って競争的な賃金制度が検討されてきたが、先駆的な事例に照 らしても、従業員のモラルハザードが軽減され、望ましい行動が引き出されたとは言 い難い(太田, 2008; 高橋, 2004)。

こうした議論では、賃金などの外発的動機づけにより従業員の望ましい努力水準を 引き出すことを基礎としている。努力の対価として賃金や報酬があるとすれば、努力 相応に報われているかどうかはモチベーションにおいて非常に重要な要因であり、努 力相応であるか否かは、公平な処遇を受けているかどうかと重なる。しかし、それは個 人によってさまざまに解釈されるので、それだけでは不公平だと言っても単なる不平 不満になってしまう(Adams, 1965)。このことを他者との比較、すなわち社会的比較

(social comparison)によって捉えれば、従業員の効用水準や努力水準は報酬の絶対 的な大きさだけでなく、自己が組織に投入した努力や貢献の成果が公正に評価され、

その見返りに相応しい対価が支払われ、他者と比較しても公平であると認識できるこ

(7)

とも重要である(高橋, 2004)。すなわち、従業員は社会的比較によって公平感を捉え ようとし、他者と比較して自己が公平に処遇されているようであれば働く意欲を高め、

不公平に感じるほど意欲をなくすのである(e.g., Adams, 1965; 田尾, 1999)。このよ うに、個人の感情や行為は自己を取り巻く環 境から強い影響を受け、環境の中で最も 目立つものが他者であることも考慮すれば、社会的比較は人間の考え方や行動、自己 評価、自己が得た報酬に対する満足感などに大きな影響を及ぼす(田尾, 2001)。よっ て、人間の行動を解明する上では、対人関係を通じた社会環境への適応的な行動を考 慮する必要がある(田尾, 2012)。

人間が社会的比較を行う理由や機能については、自分自身の位置や立場を知るため

(自己評価)、他人よりも優れていたいため(自己高揚)、周囲との調和を保つため

(関係への配慮)などが挙げられている。また、他者との比較を行った結果、自己の生 き方や考え方を再認識できる(自己概念の形成)、自信を喪失して落ち込む(劣等感)、

自分を向上させようとする(自己向上努力)など、認知・感情・行動に渡る多くの側面 で影響が見られることが社会心理学による研究で明らかにされてきた(高田, 2011)。

中でも、自己高揚とは、自己評価のための客観的基準が存在し、正確な自己評価をもた らさないことが明らかであっても社会的比較に関心を示す傾向で、他者に対する自己 の優越性を確かめ、自尊心を強固にしようとする傾向である。とりわけ、平均との比較 は客観的基準よりも影響力が強く、「平均以上」という社会的比較情報から多数の他者 よりも漠然と優れていると肯定的かつ楽観的に感じることは、自己や世の中、未来に 対する自尊感情を高め、精神的な健康(メンタルヘルス)に必要不可欠である(Taylor

& Brown, 1988)。しかし、その結果、自己高揚感による自信過剰や過大評価を招くこ とにもなり、意思決定論者にとっては自信過剰ほど有力で破壊的な判断や意思決定の 問題はなく、自信過剰によって戦争やストライキ、訴訟、企業の失敗、株式市場でのバ ブルなども説明できる(Moore & Healy , 2008)。

社会的比較が自己と自己の所属集団を同一化し、自分自身を集団の一部として自覚 して行動する社会的アイデンティティーの一側面であることを考えれば(e.g., Moore

& Kim, 2003)、自己高揚による過大評価や自信過剰ほど、人々の間に広くはびこり重 大な結果を招く可能性があるものはない。社会的比較によって何かを推測するときに 悪影響を及ぼしかねない傾向や現象を理解しておくことは、 ビジネスやマネジメント の領域で優れた意思決定を行う上で得策かつ賢明である。

(8)

以上のような関心に従い、本研究の構成は以下のとおりである。大分類として、「第

Ⅰ部 先行研究レビュー(研究の系譜と背景)」、「第Ⅱ部 実験研究」、「第Ⅲ部 総合的 考察」の3部から構成される。また、中分類として「第1章 社会的比較」、「第2章 信過剰」、「第3章 平均以上効果」、「第4章 自己高揚効果」、「第5章 自己と対人関係」、

「第6章 仮説」、「第7章 第1実験」、「第8章 第2実験」、「第9章 総合的考察」を擁 する形となっている。各章の内容は以下のとおりである。第Ⅰ部(第1章~第6章)で は、本研究の中心論点となる先行研究の成果を概観しつつ、質問紙実験を通じて検証 する仮説を導出する。第Ⅱ部(第7章~第8章)では、仮説の検証実験を行い、統計的 分析を行う。第Ⅲ部(第9章)では、本研究を総括するとともに、学術的・実務的含意 及び残された課題を提示する。

(9)

第Ⅰ部 先行研究レビュー(研究の系譜と背景)

第1章 社会的比較(social comparison)

自己概念や自己評価を形成するとき、人はさまざまな手がかりを用いようとする。

他者と比較することもその手がかりの1つであり、他人と比較することによって、自 己が何者であるか、自分に何ができるかなどを知ることができる。優れた人物と比較 して自分は劣った人間であると認識したり、失敗した人物を見て自分はこの人よりも 上手くできると感じることも他者との比較の結果である。また、比較はいくつかの要 素に分割することもできる。たとえば、同僚よりも給料が安くて憤慨するという事象 であれば、同僚が比較他者、安いが比較結果、憤慨が感情的反応といえる。

他者と比べることは、人種・民族、性別、年齢、宗教・信仰などの生得的属性や、

学歴、職業、社会的・経済的地位、価値観・行動・信念などの獲得された属性を超え て普遍的に確認される現象であり、人間の社会的行動を理解する上で他者との比較は 重要な心的機能である(Suls & Wheeler, 2000)。実証研究を重視する社会心理学の 分野においては、Festinger (1954)が社会的比較過程理論を提唱して以来、豊富な数 の研究知見が蓄積されてきた(Blanton & Stapel, 2008)。

1.1 社会的比較の日常性

人が日常生活で自分自身を評価するときには、どのような基準を用い ているのだろ うか。身長や体重のような物理的基準を持って判断できるならよいが、能力や性質な ど物理的基準がない資質はどのようにして判断しているのだろうか。また、物理的基 準で測定できたとしても、その高低や良し悪しなどはどのように判断しているのだろ うか。

人間がどのように自己に関する知識を獲得するのかという問題は古くから議論され てきた。このとき、どのような状況で自分の行動や感情が生じたのかを自分自身で振 り返る自己観察と並び重要な手がかりとなるのが自己を取り巻くさまざまな他者の存 在である。自己を他者と比較する行為は普遍的な現象であり、他者と比較することに

(10)

より自己の相対的位置が分かり、どんな他 者と比較するかによって評価の結果も異な る点で、人間は他者という基準を頻繁に用 いて自己を客観視しようとする。

Wheeler and Miyake (1992)によれば、

アメリカ人の大学生を対象に2週間に渡っ て毎日、他者と比較をした実績を記録した ところ、図表1-1に示されるようにさまざま な側面で他者との比較が行われていること が明らかとなった。また、高田 (1994)によ れば、日本人の大学生と成人を対象に日常 的な比較の実態を調査したところ、図表1-2 及び図表1-3のとおり、さまざまな年代の人 が比較を行っており、年齢や世代の違いに よって比較の内容も変わることが明らかと なった。

内容 頻度(%

 意見・態度 77.2

 行動 42.9

 才能・能力 41.4

 性格 38.4

 生き方 37.8

 生活状況 21.3

 容姿・外見 17.1

 その他 0.6

図表1-1 日常生活での比較の様態

Wheeler and Miyake (1992)を筆者が翻訳

図表1-2 日本人大学生の比較の様態

高田(1994)より筆者が作成

図表1-3 日本人成人の比較の様態

高田(1994)より筆者が作成

内容 頻度(% 比 較 相 手 の 性 別

  同性 69.41

  異性 23.39

  同性と異性 5.55

  不明 1.65

比 較 対 象

  学業 26.31

  性格 14.37

  身体的特徴 14.14   運動能力 13.03   ライフスタイル 12.19   社会的技能 6.78

  金銭 4.14

  意見 2.56

  その他 6.42

比 較 相 手

  親友 31.40

  友人 26.29

  知り合い 18.99   見知らぬ人 14.91

  家族 2.66

  架空の人 2.41

  恋人 1.29

  その他 1.08

比 較 方 向

  下方比較 43.20   上方比較 30.37   同等比較 26.43

内容 頻度(%)

 容姿・外見 23.6

 能力 17.7

 態度・意見 16.0

 性格 16.0

 行動 10.1

 成果 6.3

 生き方・態度 4.2

 将来・目指す方向 2.1

 その他 3.8

(11)

1.2 社会的比較過程理論

自己が他者と比較することによってさまざまな評価や判断を行うプロセスを最初に 本格的に論じたのがFestinger (1954)であり、人間が自己と他者とを何らかの観点で 比較し、両者の間の類似点と非類似点を明らかにしようとするプロセスを社会的比較 過程理論(social comparison process theory)と呼ぶ。Festinger (1954)によれば、

人間は誰でも自己の意見の正しさや能力の低度を評価しようとする誘因を持ち、それ を何らかの客観的または物理的手段によって確認することが困難なときは、自己の意 見や能力を他者のそれらと比較することによって評価しようとすると述べている 1

Festinger (1954)による問題提起は、発表後しばらくは無視されていたが、1960年 代に入り実験研究が行われ、Latané (1966)が発表されたことが契機となり社会的比 較研究が加速した(Blanton & Stapel, 2008)。また、社会心理学の1領域にすぎな かった古典的な社会的比較の概念は、近年では政治学や経済学、倫理学などの分野 で、誰と比較するのか、何を比較するのか、なぜ比較をするのか、どのように比較を して自己にどのような影響を及ぼすのかなど、理論の応用や拡張的な研究がなされて きた(Suls & Wheeler, 2000)。

社会的比較研究の嚆矢であるFestinger (1954)では、社会的比較過程理論は9つの 仮説と8つの系、8つの展開及び補足から構成されている。Festinger (1954)によれ ば、誤った意見や不正確な能力評価を回避するため、人は正確な評価をする誘因 があ ることを指摘した。ここから、自己の意見や能力を正確に評価する誘因が存在し、仮 説1が導かれた。仮説2では客観的で非社会的な手がかりを用いて自己評価ができな い場合に、他者との比較が用いられることが導かれた。類似性仮説と称される仮説3 では、自己と他者を比較する傾向がその他者との意見や能力の差が増えるほど減少す ることが導かれた。以上が3大仮説で、以下、能力における向上性の圧力(仮説 4)、能力変化の非社会的な制約の存在(仮説5)、比較の停止に伴う敵意と侮蔑

(仮説6)、集団の重要性と斉一性(仮説7)、属性の違いによる比較範囲の縮小

(仮説8)、集団内の立場による斉一性の相違(仮説9 )と続く(c.f.,図表1-4)。

1 Wheeler and Miyake (1992)及び高田 (1994)には具体的な比較内容があるのに対し、

Festinger (1954)では意見と能力の2つで説明され、両者の違いは客観的な手がかりに よる評価の可能性で区別される。たとえば、ある人の絵画が優れているかどうかの評価 は、客観的な手がかりで決めることが不可能で、評価は社会的手がかりに依存せざるを 得ない。このような評価は意見に分類される。他方、100メートル走のように、評価の 際に客観的な手がかりが存在する場合、このような評価は能力に分類される。

(12)

仮説1

人間には自己の意見や能力を評価しようとする誘因が存在する。

仮説2

客観的手段や非社会的手段が利用できないとき、人間は自己の意見や能力を他者と比較する ことによって自己評価をしようとする。

2A

物理的比較と社会的比較の両方が不可能であるとき、意見や能力の主観的評価は不安定 になる。

2B

自己の意見や能力に関する客観的基準や非社会基準を容易に利用できるとき、人は他者 との比較によって自己の意見や能力を評価しようとはしない。

仮説3

ある特定の他者と自己との間の意見や能力の差が増加するほど、その他者と自己を比較する 傾向は弱まる。

3A

所与の比較可能な人物から、自己の能力や意見との差が小さい他者が比較のために選ば れる。

3B

自己の能力や意見から乖離した他者との比較しかできない場合には、人は自己の意見や 能力の正確な主観的評価ができない。

展開A

(仮説1・2.3より)自己の意見や能力の主観的評価は、自己の意見や能力との差が 小さいと判断された他者との比較が可能なときに安定する。

展開B

(仮説1・2.3より)自己の意見や能力と幾分か乖離する他者との比較は、意見や能 力の自己評価を変える傾向がある。

展開C

(仮説1・系3Bより)能力と意見の両方で、人は他者と自己で差が小さい状況よりも、

他者が大きく乖離する方が惹きつけられない。

展開D

(仮説1・2.3より)意見や能力で、集団内での不一致の存在はその集団の成員の一 部による不一致を低減するような行動を導く。

仮説4

能力に関しては上昇方向の誘因がある。意見に関してはこの誘因は大きくは存在しない。

仮説5

能力に関しては自己が変えるのを困難にする、または不可能にさえする非社会的な制約が存 在する。意見に関しては、非社会的な制約は一般には存在しない。

(13)

展開D1

意見や能力で不一致が存在するとき、自己の立場を集団内の他者との差が小さくなるよ うに変えようとする。

展開D2

意見や能力で不一致が存在するとき、集団内の他者を自己との差が小さくなるように変 えようとする。

展開D3

意見や能力で不一致が存在するとき、集団内において自己と乖離した他者との比較を中 止しようとする。

仮説6

他者との比較の中止は敵意を伴う。または、他者との比較を続ける範囲の逸脱は不愉快な結 果をもたらす。

6A

意見の場合には他者との比較の中止は敵意を伴う。能力の場合には一般的ではない。

展開E

(仮説1・2.3より)ある特定の能力や意見を評価する誘因の強さが増加するような どのような要因でも、能力や意見に関する斉一性の圧力が高まる。

仮説7

ある特定の意見や能力に関して、比較するための集団の重要性が増加するようなどのような 要因でも、集団内部での能力や意見に対する斉一性の圧力は高まる。

系展開E

意見や能力の重要性の高まり、または当面の行動との関連性の高まりは、意見や能力の 不一致を低減させる圧力を高める。

7A

集団に対する魅力が増大するにつれて、集団内の能力や意見に関する斉一性の圧力は高 まる。

7B

意見や能力と集団との関連が強くなるほど、能力や意見に関する斉一性の圧力は高ま る。

仮説8

自己の意見や能力よりも多様な意見や能力を持つ人が、その多様性と一致する属性で自己と は違うと知覚される場合には、比較可能な範囲を狭める傾向が強まる。

仮説9

集団において意見や能力の範囲がある場合には、斉一性の圧力は関連性の強度によって異な る。集団の慣習から近いか遠いかで異なる。集団の慣習から近い人はそうでない人よりも他 者の立場を変える傾向が強く、相対的な比較の範囲を狭め、自己の立場を変える傾向が弱 い。

図表1-4 社会的比較過程理論の仮説、系、展開 Festinger (1954)より筆者が翻訳(原文を直訳)

(14)

1.3 社会的比較過程理論の展開

図表 1-4 で示したとおり、Festinger (1954)の社会的比較過程理論の仮説などには、

提唱された当初から曖昧な点や不十分な点が多数存在した。たとえば、社会的比較の 動機づけに関わる仮説1では、正確な自己評価を目的とする比較以外に自己高揚や自 己改善を目的とした比較もありうる。また、類似性に関わる仮説3では、他者と自己の 類似性の意味が不明確であることが指摘され、さまざまな修正が加えられてきた(Suls

& Wheeler, 2000)。

仮説1に関しては、Latané (1966)は正確な自己評価を目的としない社会的比較が存 在する例として、自己の特性や立場を自己にとって望ましい状態とするために社会的 比較を行うことがあることを論じた。自己にとって望ましい情報の収集や解釈、自己 呈示は自己高揚と呼び、たとえ現実と不一致があったとしても、自己に望ましい状態 を希求する点に特徴がある。以後、社会的比較の動機づけ機能は、多くの論者によりさ まざまな提案がなされてきたが、近年の社会心理学では、自己評価、自己高揚、自己向 上の3つに分類され、自己に関わる一般的な動機づけとして広く認められている (澁 谷, 2013)。

また、仮説3及び系3Aが述べる比較相手に選択する自己と類似した他者について、

Goethals and Darley (1977)は自己と他者の間での意見表明・成績や得点の一致(狭義 の類似性)と、特定の意見表明・成績や得点の背景にある意見や能力に関連した特性の 類似性(広義の類似性)の2つの観点から整合的に類似性の意味を説明した。

1.4 類似性仮説(比較相手としての類似した他者)

前節でも言及したとおり、Festinger (1954)の社会的比較過程理論の中心論点は、人 が社会的比較を行うために自己と類似した他者を選択するということであり、この主 張は類似性仮説と称される。この仮説で述べられる類似した他者とはどのような相手 なのかについて、さまざまな議論がなされてきた(Suls & Wheeler, 2000)。

Goethals and Darley (1977)では、Festinger (1954)の社会的比較過程理論の仮説3 の「ある特定の他者と自己との間の意見や能力の差が増加するほど、その他者と自己 を比較する傾向は弱まる」という不可解な表現を、「ある特定の他者と自己との間の意 見や能力の差が減少ほど、その他者と自己を比較する傾向は強まる」と 記述を逆転さ

(15)

せた肯定的な表現にして考察を加えた。単に比較するだけであれば、必ずしも類似し た他者でなくてもよく、極端に意見や能力が乖離する他者と自己との比較も可能であ る。たとえば、将棋の初心者はプロ棋士と比較することによって自己の技能が劣るこ とを知ることができ、大学生は小学生と比較することで自己の知能水準が十分に高い ことを確認することはできる。しかし、Festinger (1954)が説くところでは、人間が誰 でも持つ傾向として、自己と類似した他者を選択する傾向があるということであり、

系3A及び3Bで述べられたとおり、自己の能力や意見から乖離した他者との比較 し かできない場合には、人は自己の意見や能力の正確な主観的評価ができない。

この理由は、高田 (2011)を準用すれば、例えば将棋の初心者は自己が将棋の初心者 としてどの程度の技能を有するのかを確認したい誘因を持つのであり、そのためには プロ棋士は適切な比較対象には該当しないと考えられ、この場合の適切な比較対象は、

Festinger (1954)が述べるように自己と近い他者となる。このように、比較にあたって 自己と近い他者を求めることに関して、Goethals and Darley (1977)では単に意見や能 力が近い何者かを求めるのではなく、意見や能力に関連する何らかの属性において類 似性を有するために、自己と近い意見や能力を持つはずであろう他者(下線は筆者に よる)を比較相手に求めるとする関連属性の類似性を指摘した 2

なお、Goethals and Darley (1977)が述べた自己と近い意見や能力を持つはずであろ

う他者(下線は筆者による)として、自己の意見や能力を評価するために有益な情報を もたらす人物が示唆されている。このことは、意見や能力に関連する何らかの属性に おいて自己と近い他者を選ぶ傾向があり、比較対象としての類似した他者とは、たと えば将棋の技能水準で考えれば、年齢や将棋の経験年数という属性であろうと想像す るに難くない。

1.5 上方比較・下方比較

一般に、人間は自己よりも優れた他者を見ると劣等感を感じ、自己よりも劣った他 者を見ると優越感を感じる傾向があることは、誰でも経験的に想像できる。社会的比 較研究においては、自己より優れた他者と自己との比較を上方比較、自己より劣った

2 関連属性とは、ある遂行から能力を推論する上で有用な属性と定義される。たとえば、

ある大学生のテストの得点90点で、自己の能力を知ろうとして隣人の得点を見たら 20点だったとする。このとき、比較相手が同じ学歴の大学生であれば、自己の能力の高 さを推論しやすい。しかし、比較相手が小学生であった場合には、能力の差か学歴の差 かを判別できない。よって、能力の推論には、関連属性の類似性が重要な概念となる。

(16)

他者と自己との比較を下方比較という。これらの概念を用いて一般的傾向を換言すれ ば、上方比較によって自尊感情や自己評価を低下させ、下方比較によりそれらを上昇 させる傾向がある。しかし、このような傾向とは逆に、優れた他者との情報比較を通じ て向上性の圧力が機能し、自尊感情や自己評価が上昇する場合があることが指摘され ている(Wheeler, 1966)。また、下方比較においても、他者を襲った不幸が自分にと っても他人事ではないと考えるときには、自尊感情や自己評価が低下する場合もある ことが指摘されている(Wills, 1981)。

このように、上方比較または下方比較という比較の方向と結果としての自尊感情や 自己評価の変化、あるいは自己高揚といった比較の効果との間の関係は動的にと堪え る こ と が で き る ( Suls &

Wheeler, 2000)。この動的関 係を規定する要因の1つが、そ れらの比較他者と自己との間の 同化と対比である。社会的比較 研究における同化とは、比較他 者の評価と同じ方向に自尊感情 や自己評価が変化することを意 味し、比較他者の評価と逆の方 向に自尊感情や自己評価が変化 することを対比という(c.f.,図表1- 5)。

1.6 自己評価維持モデル

前節で概観したとおり、他者と比較して自尊感情を高めたり防衛したりする方法に は、上方比較と下方比較の2つがあり、優れた他者との同化が自尊感情や自己評価を 高め、対比は低下させること、逆に劣った他者との同化が自尊感情や自己評価を低下 させ、対比が高めることが分かった。Tesser (1984)は、自尊感情や自己評価の低下が 避けられない状況であれば損失が最小限となる行動をとり、自尊感情や自己評価が高 揚する状況であれば機会を利用すればよいとの結論に従い、自己評価維持モデル(SEM)

を構築した。このモデルは、自尊感情や自己評価を維持しようとする人間の動機を中 自己

優れた他者

劣った他者 上方比較

下方比較

同化 ⇒自尊感情や自己評価が上昇

対比 ⇒自尊感情や自己評価が低下

対比 ⇒自尊感情や自己評価が上昇

同化 ⇒自尊感情や自己評価が低下

図表1-5 対比と同化

(17)

心に据え、他者と自己の心理的距離、課題や活動が自己定義に関連している度合いの 自己関連性及び他者の遂行レベルの3つの要素で構成される。心理的に自己に近い 他 者、課題が自分にとって重要なものは、他者の優れた遂行はそうでない場合よりも、自 尊感情や自己評価に大きな影響を与えることになる。

(18)

第2章 自信過剰(overconfidence)

「株価は永遠に高値が続く高原状態に達した」

1929年世界恐慌の直前に、Yale大学経済学者、アービング・フィッシャー

「何が起きようと、我が軍は不意を突かれることはない」

1941124日、真珠湾が奇襲される3日前に、アメリカ海軍長官

「彼らのサウンドが気に入らない、ギター音楽はもう終わりだ」

1962年、ビートルズをオーディション不採用にした理由で、ディック・ロウ

「家庭でコンピュータを使いたがる人がいるとは思えない」

1977年、ディジタルイクイップメント創業者、ケン・オルソン

人は想像以上に自信過剰になる。その分野の専門家でも、実際以上に自分はよく知 っていると思うことが多い。Russo and Schoemaker (1990)によれば、10問の数値を 答えさせる雑学テストにおいて、この範囲内なら正解が含まれると 90%確信できる最 大値と最小値を回答させる実験を 1,000 人以上に実施したところ、9問以上正しく推 測できた人は実験参加者の1%にも満たなかった。実験参加者のほとんど が4~7問 を間違えており、同じ実験をアメリカ人、ヨーロッパ人、アジア人に実施しても、同様 の結果が得られた。この実験の目的は、知識を問う質問で自己が正解する確率を判断 させており、実際には知らないことを知っていると申告する点で、どれほど自信過剰 であるかを示すことが狙いであった。すなわち、ほとんどの人が自信過剰 なのだとの 結論に至った。

2.1 自信過剰に関連する認知的バイアス

自信過剰または自信過剰バイアス(overconfidence bias)は、Tversky and Kahneman (1974)が提唱した利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)やアンカ ーリング(anchoring)のなどの認知的バイアスと関係がある。

利用可能性ヒューリスティックとは、事象の頻度を評価する場合に、想起が容易な 事象は発生頻度が高く、想起が困難な事象は頻度が低いと評価するような、事象の思 い出しやすさから発生頻度を評価する傾向である。たとえば、火事を新聞で読んで 知 るよりも火事の現場を見た方が火事の印象が強くなり、火事の頻度が高いと評価する。

(19)

また、心臓発作のリスクは自分の知人に該当者がいるか否かを思い出して評価する。

同様に、ベンチャー企業がビジネスに失敗するかも、同様なビジネスを思い出して評 価しようとする(Tversky & Kahneman, 1974)。想起しやすい事象は発生確率が高い ことが多い点で、利用可能性ヒューリスティックは確率の評価では有効である。しか し、鮮明で新しい事象ほど想起しやすいなど利用可能性ヒューリスティックは頻度や 確率以外の要素の影響を受け、確率判断のバイアスとなる。

アンカーリングとは、事象を予測しようとするとき、既知のある初期値を起点とし、

最終的な結論を導出するのに初期値から調整をする傾向である。しかし、多くの場合、

この調整が不十分であり、異なる初期値が与えられると初期値の影響を受けて最終的 な予測結果が異なる。

ビジネスやマネジメントの文脈でさまざまな意思決定を検討するとき、自信過剰ま たは自信過剰バイアスは、普遍的に見られる頑健的な現象である(Bazerman & Moore, 2012)。Plous (1993)がチェルノブイリ原発事故やスペースシャトルチャレンジャー号 爆発事故の原因として自信過剰を指摘したことをはじめとして、戦争やストライキ、

訴訟、企業の失敗、株式市場でのバブルなどがいずれも自信過剰によって説明できる 。 このことから、自信過剰ほど有力で破滅的な判断や意思決定の問題はないともいわれ ている(Moore & Healy , 2008)。

2.2 自信過剰の定義

従来の意思決定研究においては、自信過剰は自己の意見や能力に対する過信や自惚 れの表出と捉え、あらゆる事象を同一視してきた(広義の自信過剰)。これに対して、

Moore and Healy (2008)は、自信過剰の概念は厳密には3つの異なる定義から構成さ れながらも、多くの研究論文で混同して論じられていることを 批判した。Moore and Healy (2008)によれば、自信過剰は、他者の成果と比べた高位配置(overplacement)、

実際の成果の過大評価(overestimation)、自己の信念に基づいた正しいだろうとの思 い込み(overprecision)という異なる3つの概念に再定義される(狭義の自信過剰)。

第一の定義である他者の成果と比べた高位配置とは、特定の課題において自分は他 者よりも良くできると自己を高く順位づけする現象である。これは自己が他者よりも 優れていると考えるときに生じるものであり、自分自身が多数の人々の中央値よりも 優れていると評価する意味で平均以上効果(better-than-average effect)というより

(20)

明確な用語で代替することが多い。

第二の定義である実際の成果の過大評価とは、人が自己の成果、成功の可能性、状 況の掌握度を過大に評価する現象である。これは自己の実際の能力や成果、コントロ ールの水準あるいは成功の機会を過大に評価する自信過剰(overconfidence)や自己に 関 わ る 評 価 に お い て 自 己 の 評 価 を よ り 高 め た い 欲 求 で あ る 自 己 高 揚 (self- enhancement)と同義である。

第三の定義は自己の信念に基づいた正しいだろうとの思い込みで、自己が信じる正 確さに関する過剰な確信である。

図表2-1 自信過剰の定義 Moore and Healy (2008)を筆者が翻訳

なお、自信過剰の第一の定義に関する研究おいては、Kruger (1999)は平均以上効果に関 わる要因として課題の難易度の違いによる平均以上効果の現出の違いを検討した。その結 果、課題の困難度と平均以上効果には有意な相関が認められ、難易度が低ければ平均以上 効果が、難易度が高ければ平均以下効果が見られた。この結果が Moore and Small (2007) で提唱された情報格差理論の論拠となっている(c.f., 3.3.2 Moore and Small (2007)の統 合的なモデル)。

2.3 次章以降の表記や記述の注意点

次章以降では、前節で述べた自信過剰を他者の成果と比べた高位配置と実際の成果 の過大評価に関する先行研究レビューを展開していく。

より具体的には、第3章では平均以上効果に関して、第4章では自己高揚効果に関 して議論するが、両方の分野を横断的かつ整合的に論じた先駆的な先行研究成果とし て、Moore and Healy (2008)とMoore and Small (2007)がある。

定義 内容 先行研究の割合

他者の成果と比べた高位配置

(overplacement)

人間が他者よりも優れていると考えるときに生じるもので、大抵の

人々が自己を中央値よりも優れていると評価する傾向 5%

実際の成果の過大評価

(overestimation)

自分の実際の能力、成果、コントロールの水準あるいは成功の機会を

過大評価する傾向 64%

自己の信念に基づいた正しいだろう

との思い込み(overprecision) 自己が信じる正確さに関する過剰な確信 31%

(21)

Moore and Healy (2008)では、自己高揚を過大評価と高位配置の2つのタイプに 分類して論じている。過大評価とは人間が自己の成果や成功の可能性、状況の掌握度 を過大に評価する現象と定義するのに対して、高位配置とは特定の課題にお いて自己 は他者よりも良くできると高い順位づけをする現象と定義している。

Moore and Small (2007)においては、Moore and Healy (2008)と同一の概念をモデ

ルと数式展開により分析する点に特徴がある。その結果、Moore and Small (2007) 理論的帰結はMoore and Healy (2008)と概ね同様であるが、2つの論文で同一の概 念が異なる表記や記述で説明されている。

そこで、あらかじめ両論文での表記の対応関係を示し、次章以降で結果や得られた 知見を整理する。

図表2-2 Moore and Healy (2008)とMoore and Small (2007)の表記・記述の対応関係 筆者が作成

Moore& Healy(2008)の表記・記述 Moore& Small(2007)の表記・記述

平均以上効果 高位配置(overplacement 平均以上(better-than-average 平均以下効果 低位配置(underplacement) 平均以下(worse-than-average)

過大評価(overestimation 自信過剰(overconfidence)

過小評価(underestimation)

自信不足(underconfidence)

自己高揚効果 自己高揚(self-enhancement)

自己卑下効果 自己卑下(self-effacement)

(22)

第3章 平均以上効果(better-than-average effect) 3

一般に、人は自分自身と自己の業績に関して、現実とは乖離した肯定的で楽観的な 見方や考え方をする。特に、人は自己評価を行うときに自信過剰になりやすい。社会的 比較において自己評価の機能だけでなく自己高揚の機能の存在も指摘され ており(高 田, 1994)、自己を肯定的に認知することによって自尊感情を維持・高揚させようとい う自己高揚傾向の存在が確認されている(安藤, 1987)。

このような自己高揚傾向の1つとして平均以上効果(better-than-average effect)

がある。Weinstein (1980)によれば、ほとんどの人は自己を平均よりも賢くて論理的で、

お も し ろ い と 信 じ て い る こ と が 明 ら か と な っ て い る 。Gilovich (1991)及 び Alicke, Klotz, Breitenbecher, Yurak, and Vrendengurg (1995)によれば、人間には他者と比較 して自己を肯定的に捉え、さまざまな特性や行動において平均よりも上であると考え る現象が見られる。たとえば、Gilovich (1991)によれば、アメリカの高校生100万人 を対象にして各自のリーダーシップ能力を評価させたとところ、70%以上が自分の能 力を平均以上だと答え、平均以下と答えた者は2%にしかすぎなかったという。また、

他者とうまくやっていく能力では、ほぼすべてが平均以上であると答え、60%が上位 10%以内で、25%が上位1%以内に入ると回答した。さらには、大学教授を対象とした調 査 で は 、94% が 自 分 は 同 僚 よ り も 有 能 で あ る と 回 答 し た と の 報 告 も あ る

(Gilovich,1991)。伊藤 (1999)においては、日本人の大学生を対象に優しさという特 性形容詞について、一般的な大学生と比較して自己にどの程度あてはまるかを判断さ せたところ、平均以上と答えた人は全体の 78.8%を占めた。

理論的に考えると、平均以上にあたる分布は全体の約半分であるから、50%をはる かに超える人数が平均よりも優れているということは現実にはあり得ない。よって、

このような回答分布となる結果は、実験参加者が全体として肯定的で楽観的な方向に 偏った自己評価をしたことを意味している。世代や属性に関わらず、人は日常生活で 自己の能力や性格を顧みると同時に、正確に比較することなく漠然と自分は周囲より

3 平均以上効果(better-than-average effect)には、人並み以上効果(above average effect)やダニング・クルーガー効果(Dunning-Kruger effect)などの表記もあるが、

本研究では平均以上効果で統一する。同様に、平均以上効果と逆の傾向である平均以下 効果(worse-than-average effect)にも人並み以下効果(below average effect)など

(23)

も優れていると考えている。

3.1 平均以上効果の制御変数(自己の領域に着眼した研究)

平均以上効果に関する実証研究では、平均以上効果を自己が他者よりも優秀であり たいと願う動機によるバイアス(motivated bias)の現れと捉え、社会的比較にさま ざまなバリエーションを持たせる形で展開された。

Alicke (1985)では、実験参加者(大学生)は40語の特性形容詞について自己と平均

的な大学生のあてはまりを比較し、「平均よりもずっと劣っている」から「平均より もかなり優れている」までのリッカートタイプの尺度(9件法)に回答した。その結 果、平均的な大学生と比較した条件では、40項目の比較領域のうち38項目において平 均以上効果が確認され、人は自己評価をする際に、長所の数は平均的他者よりも多 く、短所の数は平均的他者よりも少ないと考えることが確認された。また、Brown (1986)では比較相手に親友や身内などのバリエーションを設けて実施した。自己が他 者よりも優れているとみなす傾向は見られたものの、評価する他者が親友や身内であ る場合には幾分か弱まり、親友は平均的他者よりも優れているとみなすことが示され た。さらに、Tajfel and Turner (1986)では、同様の実験を所属集団に拡張して実施 し、特性形容詞がどの程度あてはまるかを回答させたところ、自己が所属する集団は 他の集団よりも優れているとみなす傾向が現出した 4

Alicke (1985)の研究が自己にとっての多くの比較領域で平均以上効果が現出する という1つの証拠として取り上げられたことを受け、伊藤 (1999)は日本人の大学生 を対象に同じ実験を実施した。伊藤 (1999)では、自己に関する10領域(社交、スポ ーツ、知性、優しさ、容貌、生き方、経済力、趣味特技、真面目 さ、学校での評判)

を比較領域に設定し、「自己にどれほどあてはまるか(自己評価)」と「平均的な大 学生にどれほどあてはまるか(平均他者評価)」を別々の尺度で回答させ、その差を 平均以上効果の指標とした。その結果、平均以上効果は優しさと真面目さにおいての み見られ、その他の領域では平均と同じ、あるいは平均以上効果とは逆の傾向である 平均以下効果が現出した。その結果、欧米人とは異なり、日本人では平均以上効果が

4 Alicke et al. (1995)及びBrown (2012)の実験結果によれば、次の特性形容詞において

自己を有能で独創的と捉える傾向が顕著であった。

[例] 高潔(virtuous)、尊敬(honorable)、道徳心の高さ(moral)、有能(capable)、

強さ(competent)、才能の豊かさ(talented)、思いやり(compassionate)、

理解の深さ(understanding)、同情的(sympathetic)

(24)

自己の多くの比較領域において現出するのではなく、特定の領域に限られることが確 認された(c.f.,3.22 課題の困難度)。

さらに、欧米人を実験参加者にして行った研究でも比較領域によって平均以上効果 の現出の傾向に差が見られるという研究結果が得られた。Allison, Messick, and Goethals (1989)によれば、自己の行動に関する文章を記述させるという形で検証を 行い、大学生の実験参加者をモラルに関する行動を記述する群(good-bad条件)と知 的能力に関する行動を記述する群(intelligent-unintelligent条件)に分け、実験参加 者へそれぞれの条件に適合的と考える行動を記述するよう求めた。 また、good-bad条 件群では、実験参加者がgoodだと思う行動を記述させ、その際に該当の行動が他者よ りも自己が高頻度で行うであろうと想像する場合には「I」から始まる文章を記述さ せ、逆に自己よりも他者が高頻度に行うと思われる行動であれば「They」から始ま る文章を記述するよう指示した。その結果、両方の条件において、自己にとって望ま しい肯定的な側面(goodかつintelligent)に関しては、「I」から始まる文章が

「They」から始まる文章よりも有意に多く、その傾向はgood-bad条件の方が顕著で あった。このことは、自己のモラルに関する比較領域の方が知的能力における比較領 域よりも自己を肯定的に捉えようとしていると解釈することができる。

以上のことから、Alicke (1985)に始まる自己の領域に注目した平均以上効果の制 御変数を確かめる実験研究結果から、平均以上効果は自己の領域の違いによって現出 の傾向が異なると考えることができる。

3.2 平均以上効果の現出理由(促進要因に着眼した研究)

平均以上効果に関する次なる実証研究は、人間が計画に必要とされる主要な要素の 構造を描写し、現状に対して変化を促進するモチベーションモデルの観点から、既存 の実験研究に新たに条件を付加する形で平均以上効果の促進要因が解明された。

3.2.1 コントロールの可能性(コンピタンスとメタ認知スキル)

Kruger (1999)では、特定の領域で能力を発揮するスキルとは、その領域の能力を 評価するのに必要なスキルと同じであり、無知な個人には認知心理学におけるメタ認 知、メタ記憶、メタ理解、または自己監視スキルなどが欠けることに着眼した。その 上で、無知な個人は自己のメタ認知スキルに焦点を合わせるために自分自身や自己の

(25)

能力を評価するのが不完全となり、この傾向によって平均以上効果 が現出するとの仮 説を設け、ユーモア、文法、論理的推論のテストを行い、テストの成績と実験参加者 の能力の関係を分析した。その結果、成績下位25%以内の人でも上位40%程度にいる と自己を過大評価し、逆に上位25%以内の人が上位30%程度にいると過小評価した。

約7割の人が自己を過大評価した結果から、Kruger (1999)では能力の低い人ほど自 己を過大評価する傾向があると結論づけた。さらに、能力の低い人は能力が低さゆえ に自己のレベルを正しく評価できないのに加えて、他者の能力も正しく評価できない ため、能力が低い人ほど楽観的に自己を過大評価することを指摘した。

なお、Kruger (1999)では、能力が低い人でもトレーニングを積むことを通じて 能

力不足に気づき自省できること、すなわち能力が低いのは決して無能ではなく、単に 未熟なだけであると述べている。

3.2.2 課題の難易度

Kruger (1999)が特定の日常行動に着目して自己と他者の能力を比較させたとこ ろ、自動車の運転やコンピュータのマウス操作のような一般の人なら誰でもできるよ うな領域では自己は平均以上だと考え、ジャグリングやコンピュータプログラミング のような難しい領域では自己は平均以下だと考える傾向を指摘した。

Moore and Kim (2003)では、近視眼的な予測のロジックに立ち、人は難易度の高 い課題よりも難易度の低い課題で得点が良いと正しく予想できても、他者の得点は正 しく予想できるとは限らないことに着眼した。その上で、それぞれの課題での自己と 他者の得点の勝敗予想が正しいか検証するため、2(ハードル:自己の得点が誰か1 人に勝つか、自己の得点が5人全員に勝つか)×2(難易度:高い、低い)の実験を 6人の実験参加者で行った。その際に、課題の難易度は勝敗予想に影響を与えるが、

ハードルは影響を与えないとの仮説を設けた。その結果、難易度操作は実験参加者の 勝利確率は同じで勝敗予想に影響を与えないにも関わらず、実験参加者が勝敗を予想 する上で極めて強い影響を与えた。他方、ハードル操作は勝利確率が変化するにも関 わらず、勝敗の予想にほとんど影響を及ぼさなかった。この実験から、実験参加者は 絶対的な自己観察に焦点化し、相対的な対人観察には焦点化していないと結論づけら れた。また、難易度が低い課題では自己の得点が他者の得点を上回ると予想し、課題 の難易度が低ければ他者よりも自己が優れていると考える傾向があったのに対し、難

(26)

易度が高い課題では、自己と他者の得点は同程度と予想していた。

Moore and Kim (2003)における難易度が低い課題では他者よりも優れると予想す るとの結論を受け、Moore and Cain (2007)では、7人の実験参加者に難易度の高い 課題と低い課題を一斉に実施した上で、それぞれの課題で自己の得点と自分以外の6 人の平均得点に加え、自己の順位(自分よりも得点が低い人は何人いるか)を予想さ せた。その結果、自己の順位で自分よりも得点が低い人は難易度が低い課題では5.0 人、難易度が高い課題では2.94人で、課題の難易度が低ければ平均以上効果が現出 し、課題の難易度が高ければ平均以下効果が現出することが確認された。また、実験 参加者に課題の正解をフィードバックしたところ、自己の得点の予想は難易度が低い 課題では自己の実際の得点より有意に低く(過小評価)、難易度が高い課題では自己 の実際の得点よりも有意に高かった(過大評価)。

これらの結果を踏まえ、Moore and Healy (2008)は、課題の難易度が異なるとき、

難易度が高い課題では、人間は自己の成果を過大評価するだけにとどまらず、誤って 他者よりも劣ると考えと、難易度が低い課題では、自己の成果を過小評価するだけに とどまらず、誤って他者よりも優れていると考える傾向があると結論づけた。

図表3-1 Moore and Healy (2008)による課題の難易度と現出する効果の対応関係

筆者が作成 ( )は Moore and Small (2007)での表記・記述

国内においても、Moore and Small (2007)やMoore and Healy (2008)が欧米の大学 生を実験参加者として平均以上効果と自己高揚効果を統合的かつ体系的に説明したこ とを受け、福留・馬場園 (2013)が日本人にも応用できるかの検証を行った。日本人 大学生を対象に課題の難易度が高い課題と低い課題を設定して平均以上効果と自己卑 下効果が連続的に現出するかの実験を試みたが、課題の難易度を適切に設定できず明 確な結論は得られなかった。福留・馬場園 (2013)以降、伊藤 (1999)のように日本人 では特定の領域に限って平均以上効果が現出することを論じた先行研究は散見される

他者の成果と比べた高位配置 実際の成果の過大評価 低い 高位配置(平均以上) 過小評価(自己卑下)

高い 低位配置(平均以下) 過大評価(自己高揚)

現出する効果 課題の難易度

(27)

が、課題の難易度に踏み込んだ研究成果は見当たらない(c.f.,3.1 平均以上効果の制御変 数)。

3.2.3 重要性

Brown (2012)によれば、自己にとっての重要性が高く他者よりも優位であることを 望む比較領域においては、モチベーションバイアス(自己が他者よりも優秀でありた いという動機によるバイアス)により平均以上効果が現出するとの仮説を設定した。

実験では、10語の特性形容詞について自己とその他大勢の他者それぞれにどの程度あ てはまるかを記述させるとともに、10の特性形容詞が自己にとってどれだけ重要かの 回答を求めた。その結果、10語中 9語で平均以上効果が現出して自己が他者よりも優 れると肯定的で楽観的な評価を行った。さらに、重要性が高いと考える特性形容詞で は自己が他者よりも優れていると評価する傾向が顕著に現出した。

さらに、Brown (2012)では、先の実験で重要性が下位だった特性形容詞 5語を抽出 し、重要性の操作を行い平均以上効果の現出の変化を検証した。具体的には、半数の実 験参加者は、「以下は重要かつ望ましい性格の特徴である」という文章を読み、残りの 実験参加者は、「以下はありふれた一般的な性格の特徴である」という文章を読む。そ の結果、重要性が低い(ありふれた一般的)から重要性が高い(重要かつ望ましい)に 変更しただけで、実験参加者はその他大勢と比較して自己は優れていると評価した。

このことは、自己にとって重要性が高く、自己がより良くありたいと思う比較領域に おいては、自己は他者よりも優れていると考え、平均以上効果が現出することを示唆 している。

3.2.4 曖昧性や不確実性

Dunning, Meyerowitz, and Holzberg (1989)では、比較領域の曖昧さが平均以上効果 を促進すると指摘している。その中で、比較領域が曖昧であるということは、自己にと って有利な定義づけや基準を持つことが可能となることを意味し、曖昧な比較領域で は自己を平均よりも有利にみなすことが容易となることから、相対的に平均以上効果 が現出しやすいと考察している。

「3.1 平均以上効果の制御変数」で挙げた伊藤 (1999)やAllison et al. (1989)で も、平均以上効果が現出する理由として自己の価値観や能力、性質などにおける評価

図表 1-2  日本人大学生の比較の様態  高田(1994)より筆者が作成  図表 1-3  日本人成人の比較の様態高田(1994)より筆者が作成内容 頻度( % )比 較 相 手 の 性 別  同性69.41  異性23.39  同性と異性5.55  不明1.65比 較 対 象  学業26.31  性格14.37  身体的特徴14.14  運動能力13.03  ライフスタイル12.19  社会的技能6.78  金銭4.14  意見2.56  その他6.42比 較 相 手  親友31.40  友人26.29
図表 2-1  自信過剰の定義  Moore and Healy (2008)を筆者が翻訳
図表 2-2    Moore and Healy (2008)と Moore and Small (2007)の表記・記述の対応関係  筆者が作成
図表 3-1  Moore and Healy (2008)による課題の難易度と現出する効果の対応関係
+4

参照

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