第8章 第2実験
8.2 結果
8.2.1 仮説5の検証
(1)基礎統計
仮説5の検証にあたり、Moore and Small (2007)やMoore and Healy (2008)などを ベースとして、直接比較法による平均以上効果の測定を試みた Heine et al. (2001)も 参 考 に し 、 平 均 的 他 者 の 評 価 か ら 中 央 値 で あ る 4 を 差 し 引 い て 得 ら れ る 値
(discrepancy)を「DC」と定義する。その上で、重要度操作実施前の DCを「前 DC」、
重要度操作実施後のDCを「後DC」と呼ぶ。前 DCと後 DCの値が正ならば平均以上 効果が現出し、負ならば平均以下効果が現出していると推察できる。
12 Heine et al. (2001) では、直接比較法を採用することにより、中央値を差し引いて得 られる値が正ならば平均以上効果が、負ならば平均以下効果が現出していると判定して いる。一般に、テストを実施すると、成績に正規分布が見られ、受験者の半数が平均以 上で残り半数が平均以下となる。よって、本研究の質問紙Part3-①及びPart3-②で は、実験参加者の 50%以上が尺度の5~7に回答していた場合には、簡便的に平均以上
実験参加者全体での社会性の重要度認知、前 DCと後 DC は図表8-1 のとおりであ る。
図8-1 実験参加者の社会性の重要度認知、前DCと後DC(n=86)
以下では、「(仮説5)自己にとって重要性が高い領域で重要度認知が上昇すれ ば、平均以上効果が大きくなる。」について検証を行う。
(2)分析
社会性に関して重要度操作を実施する前と後の重要度認知、前DC と後DCの現出 結果は図表8-2-1、図表8-2-2、図表
8-3-1、図表 8-3-2に示すとおりであ る。
社会性に関する重要度操作の実施 前と実施後で、前DC と後DCのデ ータの差に有意差があるかを統計的 に検定する上で、まずそれぞれのデ ータが正規分布に従う母集団から の標本であるかを検定するため、
χ2検定により実際の得点のデータ の分布が正規分布とみなされるか どうかを検定する。
重要度操作実施前(n=86)にお いて、帰無仮説「社会性に関する 前DCのデータの分布は正規分布と みなされる」と対立仮説「社会性 に関する前DCのデータの分布は 正規分布とみなされない」を立て
図表8-2-1 重要度操作を実施する前の社会性の重要度認知と
前DCの現出結果
図表8-2-2 重要度操作を実施する前の社会性の重要度認知と
前DCの現出結果
平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差 社会性 86 6.00 0.89 0.21 0.53 1.15 0.56
領域 データ数 重要度認知 前DC 後DC
前DC
最大 最小 加重平均
7 27 31.4% 1 0 0.37
6 39 45.3% 1 0 0.33
5 13 15.1% 0 -1 -0.15
4 7 8.1% 0 -1 -0.43
3 0 0.0% - -
-2 0 0.0% - -
-1 0 0.0% - -
-- 86 100.0% - -
-重要度認知 データ数 比率
る。危険率5%での検定の結果、χ2値は173.09で、危険率5%の上側境界値χ2
(0.95)=14.06に対して、173.09>14.06だから、χ2値は帰無仮説の棄却域に入 り、帰無仮説は棄却される。P値についても同順位補正P値(両側確率)=7.57×E-10 であるから、危険率1%でも帰無仮説は棄却される。よって、「社会性に関する前DC のデータの分布は正規分布とみなされない」という対立仮説が採択される。
重要度操作実施後(n=86)におい て、帰無仮説「社会性に関する後DCの デ ー タ の 分 布 は 正 規 分 布 と み な さ れ る」と対立仮説「社会性に関する後DC のデータの分布は正規分布とみなされ ない」を立てる。危険率5%での検定の 結果、χ2値は166.85で、危険率5%
の上側境界値χ2(0.95)=14.06に 対して、166.85>14.06だから、χ2 値は帰無仮説の棄却域に入り、帰無 仮説は棄却される。P値についても同 順位補正P値(両側確率)=1.93×E
-73であるから、危険率1%でも帰無仮 説は棄却される。よって、「社会性に 関 す る 後DCの デ ー タ の 分 布 は 正 規 分布とみなされない」という対立仮 説が採択される。
この結果、独立した2群(前DCと
後DC)のデータはともに正規分布に従わず、かつデータが離散的である。ノンパラメ トリック検定の1つであるマン・ホイットニー検定により、独立した2群(前DCと後 DC)から得られたデータに基づき、それぞれの母集団の分布の中央値に差があるか を 検定する。
帰無仮説「社会性に関する前DCと後DCの現出傾向に違いがない」と対立仮説「社 会性に関する前DCと後DCの現出傾向に違いがある(有意差がある)」を立てる。危険 率5%での検定の結果、同順位補正Z値は8.77で、標準正規分布の両側検定での危険率
図表8-3-1重要度操作を実施した後の社会性の重要度認知と
後DCの現出結果
図表8-3-2重要度操作を実施した後の社会性の重要度認知と
後DCの現出結果
後DC
最大 最小 加重平均
7 27 31.4% 2 1 1.37
6 39 45.3% 2 1 1.28
5 13 15.1% 1 0 0.77
4 7 8.1% 1 0 0.29
3 0 0.0% - -
-2 0 0.0% - -
-1 0 0.0% - -
-- 86 100.0% - -
-重要度認知 データ数 比率
5%の上側境界値Z(0.975)=1.95に対して、|8.77|>1.95だから、同順位補正Z値 は帰無仮説の棄却域に入り、帰無仮説は棄却される。また、P値についても同順位補正
P値(両側確率)=0であるから、危険率1%でも帰無仮説は棄却される。よって、「社
会性に関する前DCと後DCの現出傾向に違いがある(有意差がある)」という対立仮説 が採択される。
(3)結果
社会性に関して前 DCと後DC の現出傾向に統計的に有意な差があり、仮説は支持 された。
よって、学生にとって重要性が高く、かつ自己の能力は既に高いと考え ている社会 性の領域において、学生の実際の社会性が低いことを指摘して自尊感情に脅威を与 え、重要度認知を上昇させたことで、平均以上効果が促進され上昇した。
図表8-2-2及び図表 8-3-2を概観すると、社会性に関して重要度操作を実施する前
と後で前DCと後 DCはともに正で平均以上効果が現出している。かつ、簡便的にも 社会性に関して重要度操作により平均以上効果が上昇したされたことが確認できる。
8.2.2 仮説6の検証
(1)基礎統計
仮説6の検証にあたり、Moore and Small (2007)やMoore and Healy (2008)などを ベースとして、直接比較法による平均以上効果の測定を試みた Heine et al. (2001)も 参 考 に し 、 平 均 的 他 者 の 評 価 か ら 中 央 値 で あ る 4 を 差 し 引 い て 得 ら れ る 値
(discrepancy)を「DC」と定義する。その上で、重要度操作実施前の DCを「前 DC」、
重要度操作実施後のDCを「後DC」と呼ぶ。前 DCと後 DCの値が正ならば平均以上 効果が現出し、負ならば平均以下効果が現出していると推察できる。
実験参加者全体での専門性の重要度認知、前 DCと後 DCは図表8-4 のとおりであ る。
図8-4 実験参加者の専門性の重要度認知、前DCと後DC(n=86)
以下では、「(仮説6)自己にとって重要性が高い領域で重要度認知が低下すれば、
平均以上効果が小さくなる。」について検証を行う。
(2)分析
専門性に関して重要度操作を実施する前と後の重要度認知、前DC と後DCの現出 結果は図表8-5-1、図表8-5-2、図表8-6-1、図表8-6-2に示すとおりである。
図表8-5-1、図表8-5-2よ り、専門性に関する重要度操作 を実施する前に重要度認知が高 いにも関わらず前DC が負とな り、平均以下効果が現出してい ることが分かる。
また、専門性に関する重要 度操作を実施すると、後DCが 正となり平均以上効果が現出し ていることが分かる。
実験参加者(学生)にとっ て専門性は重要性が高い領域で あることから、仮説6は重要度 操作を実施する前に平均以上効 果が現出することを前提として いたが、平均以下効果が現出し
図表8-5-1重要度操作を実施する前の専門性の重要度認知と
前DCの現出結果
図表8-5-2重要度操作を実施する前の専門性の重要度認知と
前DCの現出結果
平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差 専門性 86 6.09 0.64 3.53 0.58 4.19 0.47
領域 データ数 重要度認知 前DC 後DC
前DC
最大 最小 加重平均
7 22 25.6% 0 -1 -0.79
6 50 58.1% 0 -1 -0.50
5 14 16.3% 0 -1 -0.18
4 0 0.0% - -
-3 0 0.0% - -
-2 0 0.0% - -
-1 0 0.0% - -
-- 86 100.0% - -
-重要度認知 データ数 比率
た。また、重要度操作を実施す ることで重要度認知は低下する ことなく平均以上効果が上昇し ている。
(3)結果
専門性に関して重要度操作を 実施する前と後で、前 DCと後 DCの現出傾向については、統 計的検定を実施するまでもな く、仮説は支持されない。
学生にとって重要性が高い ものの、自己の能力は低いと 考えられている専門性の領域 において、学生の専門性は想 像以上に評価されていること を指摘して自尊感情に緩和を 与え、重要度認知を低下させた ことで、平均以上効果が低下す
るという仮説そのものが見当違いであったといえる。