1
修士学位論文
題
名
「消費者の心的要因が及ぼす
ブランド・リレーションシップの形成過 程」
頁 1~ 52
指導教員 水越 康介 教授
2020年 1月 9日提出
首都大学東京大学院
経営学研究科(博士前期課程)経営学専攻
学修番号 18836323
ふりがな
氏 名
はまの
浜 野
たかゆき
隆 行
2
第1章 序論
1.1問題意識
1.2
ブランド・リレーションシップの概要
1.3本研究の目的と本論文の構成
第2章 ブランド・リレーションシップ研究
2.1
ブランド・リレーションシップの定義と研究課題の整理
2.2ブランド・リレーションシッップの構成要素
2.3
ブランド・リレーションシップの効果
2.4ブランド・リレーションシップの形成要因
2.5ブランドと消費者の結びつき方
2.6 2
つの関係構築プロセス
2.7 2
つの関係構築プロセスの相違点と補完性
第3章 仮説
3.1
先行研究とリサーチクエスチョン
3.2社会的自己評価とブランドの役割
3.3不安感情・孤独感情とブランドの役割
3.4仮説モデル
第4章 調査とモデルの検証
4.1調査設計と概要
4.2使用尺度
4.3仮説検証
4.4追加検証
第5章 考察
5.1
結果のまとめ
5.2
本研究のインプリケーションと限界と課題
5.3今後の展望
謝辞
付録
参考文献
3
第
1章 序論
1.1
研究の背景
Philip Kotler
は自身の著書『マーケティング
4.0スマートフォン時代の究極法則』の中
で、消費行動を
5段階(Aware、Appeal、Ask、Act、Advocate)で表し、マーケターは消費 者が次のフェーズに行く後押しをする必要があることを説いた。マーケティング
3.0ま
では、顧客の購買行動をいかに引き出すかが重要な課題であったが、デジタル時代のマー ケティング
4.0では購買行動だけではなく顧客の推奨行動を引き出すことがマーケティン グの重要課題となった。
実務における顧客との関係構築においてはカスタマー・リレーションシップ・マネジメン ト(Customer Relationship Management :以下
CRM)が主流である。CRMは購買データや 自社が得られる顧客データを使った顧客管理の手法であり、自社の収益性向上が至上目標 となる。そのため顧客生涯顧客価値(Life Time Value: LTV)の最大化を目的とした様々な アプローチが行われる(南 2015) 。このように
CRMは企業視点が強く、顧客の経済的価値 に着目した点が特徴的である。久保田(2003)は、顧客との関係構築のアプローチを経済的 アプローチと社会的アプローチに大別した。顧客の経済的価値に着目した経済的アプロー チは契約、取引費用理論を基盤としており、企業のコミットメントを引き出すアプローチで ある。一方、社会的アプローチは顧客の精神充足感である「社会的紐帯感」を基盤とし、顧 客のコミットメントを引き出すものである。Mark S.G. (1973)によると、社会的な紐帯とは 人間関係の社会的資本を表す際に使われ、頻繁に時間を共有し親しみを感じる親友や家族 が強い紐帯を形成する。そもそも紐帯という概念は主観的なものであるが故、実務では
CRMのように数値化され客観的な短期的効果が得られやすい経済的アプローチが優先さ れてきた。しかし、推奨を得るとは顧客の企業へのコミットを高めることと他ならない。
実際、Twitter や
Instagram、Facebookなどの
SNSを通して、企業は社会的アプローチ
を試みている。しかし、企業公式アカウントは、紐帯を築くよりも「バズ」を起こすことが
KPI化されているため、全体的にお得なキャンペーン情報や奇をてらった単発の投稿が多
い。稀に顧客との絆を形成しようとするような企業アカウントもあるが、運用課題として属
人的となること、また収益性が見えづらいことから常に存続意義の危機に直面している。要
するに、顧客との関係構築を行う上で、社会アプローチの理論化が重要となっている。これ
まで関係性マーケティングは企業視点で語られることが多かったが、消費者視点において
関係構築を望む心的要因やその動機を解明していくことが必要である。以上が本研究の問
題意識である。
4
1.2
リレーションシップ研究の変遷
ブランド・リレーションシップ研究において、アメリカマーケティング協会が定めるマー ケティングの定義に
2004年から
customer relationshipsという言葉が使われるようになっ た。つまり、
20世紀前後に顧客との関係性が重視されるようになったことを意味している。
菅野(2011)によると、ブランドと顧客の関係性の研究は
1942年に
Churchillによるブラ ンド・ロイヤルティ測定から始まったとされている。初期の研究はブランド・ロイヤルティ の定義とモデル化であった。1991 年に発表した
Aakerのブランド・エクイティの概念によ りブランド論はマーケティングの本流に仲間入りした。
Aakerのブランド・アイデンティテ ィやブランド・パーソナリティは、現在のブランド・リレーションシップの礎となった。さ
らに
Fournier(1994,1998)によりブランド・リレーションシップの概念が提唱された。Fournier
は「ブランド・ロイヤルティは消費者が継続購買しているかどうかを明らかにす
るものであるだけで、消費者がなぜ継続購買しているか、どのようにしてブランド・ロイヤ ルティが築かれてきたかが明確にされてこなかった。」(Fournier 1998 p.343)と批判してい る。このように顧客との関係の重要性は
1990年代初頭から認識されてきたが、消費者側か ら見た関係構築の研究は
Fournierの
1998年の論文が契機となった。
1.3
本研究の目的と本論文の構成
Furnier(1998)の提起以降、ブランド・リレーションシップ研究はこの20
年間マーケティ
ングの主要な議論に位置付けられている。消費者とブランドの関係は絆、ブランド愛着、あ るいは同一化といった表現がなされてきたが、包括的な概念としてブランド・リレーション シップと呼ばれている。これまでブランド・リレーションシップ研究では、定義から始まり、
消費者側、ブランド側それぞれの視点における、効果、分類、形成過程が研究されてきた。
久保田(2017)は、消費者がブランドに対して自己表現の役割を期待しながら関係を形成し ていく過程と、消費者がブランドをパートナーのような役割を期待しながら関係を形成し ていく過程を整理したうえで、排他的ではなく相互補完的であることを指摘した。
Furnier(1998)が提起した「消費者がなぜブランドと関係性を築いていくのか」という問題
を解明していくには、消費者側のブランドとの関係を構築する理由が明確ではない。消費者
はどのような感情を抱きながら、ブランドに何を期待しながら関係を構築していくのだろ
うか。言い換えれば、消費者のどのような心的要因がブランドとの関係の形成過程に影響を
与えているのだろうか。消費者の心的要因が及ぼすブランドとの関係形成過程を明らかに
することが本研究の目的である。
5
本研究では、まずブランド・リレーションシップ研究を概観し、ブランドと関係を持つ消 費者の心的要因を
2つの形成過程ごとに仮説を構築した。次に、心的要因がブランドとの 関係形成過程にどのように影響を及ぼしているかを確認するためにアパレル・ブランドを 例に消費者にアンケート調査を行った。その結果の記述と考察を述べ、最後に本研究から導 きだされる本研究の課題と今後の展開を説明する。
第
2章 ブランド・リレーションシップ研究
2.1
ブランド・リレーションシップの定義と研究課題の整理
菅野(2011)によると、
Fournier(1994,1998)の論文では
consumer-brand relationshipと表現したが、様々な研究者がこのテーマを取り上げていく中で、 「ブランド・リレーショ ンシップ」という用語が、次第に用いられるようになったと説明している。実際、ブランド・
リレーションシップは曖昧な定義であり、近接概念として久保田(2019)は、ブランド・愛 着、ブランド・ラブ、Brand connectedness、ブランド・コミットメント、ブランド・エバ ンジェリズム、ブランド・パッションを挙げている。ブランド・リレーションシップの定義 は研究者の共通見解を抜き出すことで「自己とブランドの肯定的で持続的な心理的結びつ き」 (久保田 2017 p. 18)と説明されている。久保田(2017)は、ブランドに対する否定的 な感情での繋がりや、刹那的にブランドに抱く情緒的な繋がりは研究対象としていない。つ まりブランド・リレーションシップで扱う関係性は、温かみのある、長期的なである。
Macinnis, Park and Priester
が
2009年に上梓した『Handbook of Brand Relationships』
は、初のブランド・リレーションシップの論文集である。この本の
Introductionにおいて、
Fournier (1998)以降の10
年間におけるブランド・リレーションシップを俯瞰した研究課
題を示した。 (図表
1参照)に示した。
1つ目の研究テーマはブランド・リレーションシッ プの構成要素である。自己概念とブランドの結びつきとは一体どのようなものなのが議論 されている。
2つ目の研究課題は、ブランド・リレーションシッップによる効果である。関 係性が深化していくとリピート購買だけでなく、支援行動や他社への推奨行動が取られる ことが分かっている。
3つ目の研究課題は、消費者とブランドの結びつきである。
Macinnis,Park and Priester(2009)が挙げた課題はここまでの3
つの課題であるが、筆者が
2009年
以降のブランド・リレーションシップ研究のトレンドを反映し、
3つ目の消費者とブランド
の結びつきの課題を
2つに分け最終的に
4つの課題にした。
3つ目の課題は、消費者とブラ
ンドの結びつきの類型が議論されている。Fournier(2009)が示した
15の類型が代表的な
研究である。さらに、
4つ目の議論として、結びつきの促進要素、形成要因を挙げる。ブラ
ンド・コミュニティが消費者とブランドの関係性促進していく研究(AM Muniz, TC O'guinn
6
2001)は、SNS
の流行とともに盛んに議論されている。このような促進要素、形成要素の
研究課題の
4つ目とした。
本研究は研究
3と研究
4に対応するものである。つまり、消費者とブランドの形成要 因が結びつき方にどのような影響を与えるかを実証研究により明らかにしていく。次項か らこの
4つの研究課題を順に先行研究のレビューを行っていく。
図表
1ブランド・リレーションシッップの研究課題
Macinnis, Park and Priester
(2009 p.10)一部筆者修正
2.2
ブランド・リレーションシッップの構成要素
これまでブランド・リレーションシップの構成要素は多次元的であることが指摘し、 「関 係性とは、多様な側面を持つ心理的要素から捉えられる現象であり、それらの心理的要素が 融合することで、関係性はより強化されていくと捉えられている。」 (菅野 2011 p.95)と説 明している。
顧客とブランドの関係性を構成する心理的な要素は研究者によって微妙に異なっている。
最も多次元的な側面が強調された
Fournier(2000,2009)では
6つの心理的な構成要素を挙 げている。具体的には、 「相互依存」 、 「愛・コミットメント」 、 「パートナーの質」、 「自己と の結びつき」 、 「消費者からブランドに対する親密性」、 「ブランドから消費者に対する親密性」
である。 (図表
2を参照)
7
図表
2ブランド・リレーションシップ・クオリティ
出所:Fournier(2009 .p.10) 菅野(2011 p.182)を参考に筆者作成
8
また、久保田の一連の研究(2010a,2010b,2010c,2011,2013,2014,2017,2018,2019)は、同 一化概念を使ってブランド・リレーションシップの構成要素を導き出している。久保田
(2018)は、ブランド・リレーションシップの既存研究を概念的側面からパートナー、愛着
(attachment)と同一化(identification)の
3つに整理し、共通している部分として「自分 自身をあるブランドと結びついたものとして定義すること」 (久保田
2010a p. 38)を挙げ、自己概念とブランドが一体化した状態である同一化概念が根底にあることを指摘している。
同一化概念は、自己の延長のような感覚であり、同一化の段階が進むとの「私」と「対象」
の区別が弱くなり、 「私たち」になっていく(久保田 2018) 。
久保田(2018)は、同一化を構成する要素として「認知」 「情緒」 「評価」を挙げている。 (図 表
3参照)
図表
3同一化尺度
出所:久保田 (2010c p.51)を筆者一部改変
久保田(2018)の説明では、認知的要素は、自己との重なりの自己の認識度合いであり、情 緒的要素は、ブランドとの結びつきが生み出す肯定的感情である。評価的要素は、 「誰かが その対象を評価していると嬉しくなったり、自分がその対象に属していることを人に言い たくなったりする。さらには、それらと一体化している自分自身ついても、好ましく感じる、
能力に自信を感じる、他者より理解力があると感じる、他者から敬意や賞賛を受けていると 感じるようになる。これらが同一化における評価的要素である」 (久保田 2018 p.10)であ る。
これら
3つの構成概念の中でも認知的要素が同一化の基盤であり、同一化形成には時間
と経験の必要性を指摘している(久保田 2018) 。つまり、意味のある出来事をブランドと何
度も経験することで、ブランド知識が自己に蓄えられ、ブランドとの繋がりを認識していく
のだ
9
同一化の尺度は、久保田(2010b,2010c)により開発された。図表
3が示すように
9項目 からなる尺度であり、前述した
3つの構成要素から成り立っている。久保田の同一化の尺 度を利用するため調査手法に関して少し補足する。
久保田の調査では回答者に自分の好きなブランドを自由に定めてもらい、選んだブラン ドに対する気持ちを回答してもらっている。久保田(2010c)は、特定のブランドを指定し たうえで、そのブランドに対する回答を得る別の方法も挙げ、ブランドの相対的ポジショニ ングを知る目的には合致するが、サンプル数によっては幅広いカテゴリー間比較の難しさ と関係性の偏りの懸念を指摘している(2010c p.50)。つまり、目的が競合ブランドと比較 したブランドポジショニングの分析であれば、特定ブランド(自社と競合)に関して絞った 調査によりポジショニングマップが作成できるが、特定ブランド、カテゴリーの制約をしな いことで消費者の本来の関係性の多面性を幅広いカテゴリーで観察できる。
2.3
ブランド・リレーションシップの効果
ブランド・リレーションシップの研究課題の
2つ目は、関係の構築によりどのような効用、
効果があるのだろうか。これまで数多くの研究においてブランド視点で効果がされている。
久保田(2018)効果を顧客としての役割内行動と役割外行動に分けて整理した。
図表
4ブランド・リレーションシップの効果 分類 効果
役割内行 動
再購買意向 価格許容性 購買頻度と購買量 製品の積極利用
他ブランドへのスイッチング行動の抑制 より多くの支払意向
ロゴやマークのような象徴的要素の収集
役割外行 動
肯定的な口コミ 知人や友人への推奨 否定的な情報への抵抗
営業・マーケティング活動に対する協力や支援
出所:久保田(2018 p.13)の内容を基に筆者作成
10
久保田(2013)では、顧客の推奨行動と支援行動を自己確証動機と自己拡張モデルによる ものと説明している。自己確証動機とは、環境に適切に適応するためには安定的な知識をも つことが望ましいので、既存の自己に関する知識を確証しようとする動機(沼崎、工藤 1995)
である。つまり、より良いものを他者に知らせたい動機により推奨が行われる。自己拡張モ デルとは、顧客とブランドが一体化した状態においては、一体化した相手の特損も自分のも のと感じられるようになる。この自己拡張モデルによりブランドへの支援が促進されてい く。
久保田(2013)では、 「絶対的差別化」が最も重要なブランド・リレーションシップの特 徴的な効果と位置付けている。ブランド・リレーションップにより顧客の中でブランドは絶 対的なポジションを獲得し、他のブランドと比較すら拒むことになることで長期的な競争 優位を生むことを意味している。
2.4
ブランド・リレーションシップの形成要因
ブランド・リレーションシップの
3つ目の研究課題は形成要因である。
久保田(2012)は、先行研究を整理したうえで消費者の動機付け的要因として、自己高揚 動機、自己一貫性動機を挙げた。その
2つの動機から久保田は、形成要因として「自己との 類似性」 「当該ブランドと他ブランドの相違性」 「ブランドとの好ましい思い出結合」 「ブラ ンドの顕現性」の
4つを挙げている。(図
5参考)
図表
5動機と形成要因
出所:久保田(2012 p.4)筆者一部改変
自己概念を作り出す過程には、自己高揚動機と自己一貫性動機への動機付けが重要とな
ってくる、 (遠藤 2005 p. 53)自己高揚動機は、 「自己や自尊感情にとって肯定的になるよう
11
に現象を解釈し、またそうなるような情報を収集したいとする動機のことで、人にとっての 最大の関心は自己や自尊感情をポジティブな状態に保つこと」(小林 2006 p.35)であり、
自己一貫性動機は、自分の選択を一貫させるような動機である(久保田 2012)。久保田(2012)
はそれぞれの動機に対してブランドとの関係性が形成される要因を挙げている。さらに、ブ ランド・リレーションシップ自体が自己とブランドの知識ネットワークであることを説明 し、この知識体系自体も要因となることを挙げている。久保田(2012)は全ての要因がブラ ンド・リレーションシップに対して、正の影響を与えていたことから、消費者は複数の動機 を持ちながら関係性を構築していることを考察で述べている。
2.5
ブランドと消費者の結びつき方
ブランド・リレーションシップの研究課題の
4つ目として顧客とブランドの結びつき方
がある。
Fournierが主張するブランド・リレーションシップの基本的なスタンスは、関係の
多様性である。人間同士の関係性を考えた場合も様々な関係が存在する。親子、兄弟をはじ めとする血縁関係や、土地を介した地縁の繋がりもある。また、男女間の関係を見ても夫婦、
恋人、片思いなど親密度の差によっても関係性は異なってくる。顧客とブランドも同様に多 種多様な関係性が存在するため、全ての関係性を類型化すること自体に無理がある。
Fournier(1998)は、多様な関係性を15
類型にまとめている。15 類型は、お見合い結婚、
カジ ュアルな友人、都合のいい結婚、忠実なパートナーシップ、親友、限定された 友情、
親類、回避された関係、幼年時代の仲間、求婚関係、依存関係、気まま な関係、対立関係、
秘密の関係、奴隷関係 を導き出している。Fournier の調査は現象学的方法であり、3 人の
女性に人生の物語を被験者に語らせながら理論構築をした。例えば、 「お見合い結婚」の具
体事例として、 「Karen は、前夫の好みによって日用品のブランドを選択していた」 (Fournier
1998 p.362)のようにインタビューから全て類型を組み立てている。12
図表
6 Fournierの関係性の類型
類型 説明
1
お見合い結婚
第三者の選好によって押し付けられた非自 発的なつながり。長期 的、排他的なコミッ トメントの関係を目的とするが、情緒的な 愛 着の程度は低い。
2
カジュアルな友人 愛情と親密さの程度が低い友情関係。繋がり散発的であり、相互作 用と見返りへ の期待は低い。
3
都合のいい結婚 環境の影響によって促進された、長期の関 係。満足によって規定さ れる。
4
忠実なパートナー シップ
愛情や親しみ、信頼、コミットメントによって支えられた、長期で 自発的なつながり
5
親友
真の自己、誠実さ、親密さの提示によって 保証される、相互作用の ある自発的な繋がり。パートナーのイメージとの一致、も しくは個 人的関心と一致した関係。
6
限定された友情 専門的、状況特定的で、永続的な友情関係。 他の友情関係に比べて 親密さの程度は低い が、社会感情的な見返り、相互依存性は高い。
7
親類 家族から継承された非自発的なつながり
8回避された関係 他のブランドから逃れるためのつながり
9
幼年時代の仲間 過去が偲ばれる関係。過去の自己を思い出 すことで、ほっとした り、安心したりする。
10
求婚関係 忠実なパートナーシップの前段階の関係
11
依存関係 唯一のパートナーであるという強迫観念を 持ち、感情的に依存し た関係。関係を喪失 することに対して不安に思う。
12
気ままな関係 時間に縛られた短期の関係。感情的見返り への要求は高いが、コミ ットメントと相互 作用への要求は低い。
13
対立関係 ネガティブな感情を伴う情熱的な関係
14
秘密の関係 他者に知られることを恐れる、感情的で個 人的な関係
15
奴隷関係
リレーションシップ・パートナーの要求に よってのみ規定される 非自発的な繋がり。
ネガティブな感情を伴うが、持続せざるを得ない事情がある。
出所:Fournier(1998 p.362)、菅野(2011 p.98-99)を参考に筆者作成
13 2.6 2
つの関係構築プロセス
Fournier
の分類は、ブランドの果たす役割により消費者とブランドの関係性が多様にな
っている。しかし、
Fournierが前提としていることは、消費者はブランドをまるで人間のよ うな相手としてみなしていることだ。しかし、人間のようなブランドと見なさずとも関係が 構築されていく。Escalas らの研究 (Escalas and Bettman 2003, 2005,2009, 2015a, 2015b)
は、ブランドの自己表現性が消費者とブランドが同一化していく要素であると主張してい る。ブランドを人間のように感じながら関係が構築されていくことも、ブランドを自己表現 のために使われていく中で関係が構築されていくことも、どちらも消費者とブランドの同 一化していく過程であることは変わりない。久保田(2017,2019)は、消費者がみなすブラ ンドの役割、ブランドが持っているどの要素と結びつくかで関係構築の過程が
2つあるこ とを指摘した。ひとつが、前章でも説明した
Fournierが主張する消費者がブランドをパー トナーのようにみなしていくことで関係が構築されていく過程である。もうひとつは、
Escalas
らの主張する、消費者がブランドを自己表現の道具としてみなすことで関係が構築
されていく過程である。久保田(2017)は前者の構築過程をパートナー・アプローチと呼 び、後者の構築過程をプロパティー・アプローチと呼んで区別した。
ブランドの自己表現性
Escalas
ら(2009)は、生活を「舞台」と表現し、役者は役づくりのために「小道具(props) 」
を使う。同じように消費者はブランドを自分の自己表現の小道具として使うことがある
(Escalas ら
2009 p. 110-111)。このようにブランドが道具の役割を果たすことで、消費者 と関係を構築していく過程を久保田(2017)はプロパティー・アプローチと呼んでいる。プ ロパティー・アプローチの中で、消費者がブランドに対してみなす価値を「ブランドの自己 表現性」と表記する。
まず
Escalas and Bettman(2003,2005,2009,2015a,2015b,2017)の一連の研究を簡単にレビューする。Escalas らの主張は、McCracken(1986)の広告によるブランド連想の移転を 発展させている。ブランドユーザー(reference groups, brand-user associations)によるブ ランド連想の移転の実験を行った。 (Escalas and Bettman 2005)自己イメージもしくは望ま しい自己イメージと一致度が高いとブランドの象徴する意味を自己概念に取り込む(Self-
Brand Connection:以下SBC)ためにブランドを利用(消費)していく、もしくは自己に
合わないブランドの意味を回避していく。ブランドの意味の束をセレブリティのエンドー サーは伝えることができる(Miller & Allen 2012)について着目して、セレブリティエンドー サーによる自己概念の構築(SBC)していく消費者を実験によって示した。(Escalas and
Bettman2015b)このように Escalas
らはエンドーサーを介してブランドと消費者の同一化
(SBC)を形成していく過程を研究しているためエンドーサーの観点が色濃く論文に表れ
14
ている。つまり、Escalas らの関心はどのようなエンドーサーや参照グループが消費者に対 して同一化(SBC)を促進するか、消費者はどのなぜエンドーサーやグループを介してブラ ンドを自己概念の一部にしていくのか(SBC)が中心の問いとなっている。
本研究は、
Escalasらのエンドーサー、リファレンスグループ研究は、ブランドと消費者 の繋がりのひとつであるとする久保田(2018,2019)のスタンスに則る。
Escalasらが主張す る
SBCは顧客とブランドの同一化という観点では
Fournierのブランド・リレーションシッ プと同義である。実際
Escalasら(2015a)も
Fournierの「The self-brand connection の考 えは
BRQ(Brand Relationship Quality)とかなり似ている」(Escalas and Bettman 2009 p33- 34)と認めている。ブランド・リレーションシップが消費者とブランドの心理的な繋がりと捉えると、SBC もそのひとつである。Escalas らは、同一化をエンドーサーの利用により促 進できることを研究しているが、ブランドのコミュニケーション活動の一部と解釈でき、こ れらブランドの活動によって生み出された「ブランド知識体系」が道具のように使われてい くことで消費者と同一化を形成していく。
Escalas
らの他にも
Swaminnathan and Dommer(2012)の「自己定義(self-definition)と自己表現(self-expression)のためにブランドはあるべきという主張はプロパティー・アプ ローチの考えに含まれる。
久保田(2019)は
Escalasらのブランドを自己表現の道具として消費者がブランドと同一化 していく様子を自己確証動機や自己高揚動機の関わり合いを指摘している。
また、ブランド・パーソナリティ研究との関連も見いだせる。ブランド・パーソナリティ 研究の適合性理論とは、ブランドのイメージと自己概念が一致するほどブランドが選好さ れる(Sirgy 1982 p.289-290 ; 1985 p.196-198)という理論である。
さらに適合性は、現実の自己概念とブランド・イメージの適合性である「自己適合性」 (self-
congruity)と、理想の自己概念とブランド・イメージの適合性である「理想適合性」
(ideal-
congruity)に分けら、それぞれ購買行動に影響する(図表7
参照)。具体的には、ブランド・
イメージが自己適合性と理想適合性が共に高ければ、自己一貫性動機、自己高揚動機、購買 への動機付けに対して「接近」の影響を与える。しかし、自己適合性が低く、理想適合性が 高い状態であると、自己一貫性動機は「回避」され、自己高揚動機は「接近」し、購買への 動機付けは「コンフリクト」を起こす。逆に、自己適合性が高く、理想適合性が低ければ、
自己一貫性動機は「接近」するのに対して、自己高揚動機は「回避」し、購買への動機付け は「コンフリクト」を起こす。自己適合性も理想適合性も低ければ、全てに回避の影響を与 える。しかし、適合性理論が問題にしているのは「購買」であり即時的であり持続性は問わ れていない(久保田
2010)。第
1章で述べたように、ブランド・リレーションシップは、持 続性が前提であるため、適合性理論そのものはブランド・リレーションシップに含まれない が、Escalas らの一連の研究は、ブランド・イメージが消費者とブランドの関係にどのよう に影響をするか適合性理論を用いているものであることが分かる。
15
図表
7適合性の状態と購買への動機づけ
出所: Sirgy(1985 p.197)を筆者修正.
ブランドのパートナー性
パートナー・アプローチに対し
Fournier(1998,2009)は、消費者とブランドの関係性はブランド・アイデンティティに依存する主張に疑問を投げかけている。 「可視性が高いカテ ゴリーや関与度の高いカテゴリーといった、アイデンティティのリスクがあてはまる領域 においてのみ
Escalasらの主張は成り立つ」(Fournier 2009 p. 5-6)と指摘している。
Fournier
はブランドがまるで人間のパートナーのように話しかけてくるような関係性を
主張している。ブランドを消費者のパートナーの役割を果たしことで関係が構築されてい く過程を久保田(2017)は、パートナーシップ・アプローチとう呼んでいる。パートナーシ ップ・アプローチの中で消費者がブランドに対してみなす価値を本研究では「ブランドのパ ートナー性」と表記する。
久保田(2019)では、Fournier の関係性の特長を
4つにまとめている。①パートナー間 における互恵的交換、②意味とベネフィットの供給、③関係の多様性、④時間的な広がりな いしは動態的な関係である。ブランド・リレーションップを人間同士のパートナーのように 捉える関係を「消費者はいとも簡単に、無生物のブランドにパーソナリティーを与えたり、
まるで人間的なキャラクターであるように考えたり、あるいはブランドの視点を仮定して、
自分たちの関係を眺めることがある」 (Fournier 1998 p. 344-345)と、これまでのブランド・
パーソナリティで展開されてきた議論の延長であると説明している。
Fournier(1998)はパートナーを発展度合で3
段階に分けて説明している(図表
8参
照) 。第
1段階から第
3段階に進むにつれて、より自律的な人間らしくなっていく。第
1段
階は、ブランドを介して他者との繋がりを形成していくが、第
2段階になると消費者が直
接ブランドと繋がりを持ち人に用いるような表現を用いるようになる。さらに第
3段階に
なると、自律的に話しかけてくる本物の人間のような存在になる。しかし、それぞれの段階
16
においては、企業の広告活動が密接に関わっていることは
Fournier自身も指摘する。 「マー ケティング・ミックスの日々の遂行が、ブランドに代わって、一連の振る舞いや行動をかた ちづくる」 (Fournier 1998, p. 345)例えば、第
1段階ではエンドーサーを使った広告、第
2段階では「車のフロントを人の顔になぞらえた広告や、ジュースを椅子に立てかけて、リラ ックスする人になぞらえた広告」 (久保田 2019 p.8)、第
3段階では
SNSなど双方向のコミ ュニケーションツールによるマーケティング活動により促進や阻害を受ける。
図表
8 Fournierのブランドの知覚段階
段階 消費者のブランドの感じ方 促進する広告手法 第
1段
階
ブランドが他者のスピリットを持っているよう
に感じる。 エンドーサー
第
2段 階
ブランドを感情、思考、意志などをもつ存在と
して、擬人化して感じる。 擬人法表現 第
3段
階
ブランドを自ら積極的に行動する本物の人(あ るいは生き物)のように感じる。
双方向のコミュニケーショ ン
出所:Fournier(1998)を基に筆者作成
Fournier
の
3段階の関係性はブランドを生き物として捉えたアニミズムを根底にしてい
る。ブランドに命が宿り、それが自律した人間の姿に変わっていくことがブランドと顧客の 関係性の発展であるという論理である。また、Fournier の考えるパートナーは能動的に語 りかけてくることを強く感じる点に関して、久保田(2019)は修正的な考えを示している。
パートナーという言葉が持っている根源的な意味からブランドを「自らの経験や感情を分 かち合ってくれる仲間」 (2019 p.11)とし、 「自ら消費者に語りかけてくるような活動的で 積極的なブランドだけでなく、いつも側にいて物静かに見守ってくれるブランドや、それを 見ることで心を奮い立たせてくれるブランドなども含めることが可能」(2019
p.11)と解釈を行っている。また、Fournier(2009 p. 5)はブランド・リレーションシ
ップが育まれる理由として「強いブランド・リレーションシップは、ブランドに熱中するこ とから生まれるものではなく、それぞれの暮らしを生きている人々をサポートすることか ら生まれる」と述べている。この点からは久保田(2019 p.10)パートナーシップ・アプロ ーチがもたらす消費者への効果として「安心感と支援」であることを指摘している。さらに 久保田(2019)は安心感と支援を「友人関係機能」との共通性を見出している。
2.7 2
つの関係構築プロセスの相違点と補完性
17
2
つのアプローチの違いは、ブランドに期待する役割と機能の違いと、関係性が発展する 過程が異なる。ブランドが果たす役割においては、プロパティー・アプローチがブランドを 自己定義の道具と見なしているのに対して(Escalas ら
2009, 2015a, 2015b)、パートナーシ ップ・アプローチではブランドを主体的なパートナーと見なしている(Fournier 1998)。ブ ランドが持つ機能においては、プロパティー・アプローチが自己定義機能を持つのに対して、
パートナーシップ・アプローチでは安心機能や支援機能を持っている。
また、発展段階における相違点は、プロパティー・アプローチが顧客のブランドが持って いる意味を「取り込む」ことで発展していく一方、パートナーシップ・アプローチでは、ブ ランドの意味は当初からは存在せず、ブランドとの様々な経験を経て、顧客が「つくり出す」
ことで関係が発展していく。この意味を「取り込む」と「つくり出す」の違いは、顧客にと ってブランドが最初から意味を持っているか否かが根源となっている。
図表
9プロパティー・アプローチとパートナーシップ・アプローチの相違点 構築過程 プロパティー・アプローチ パートナーシップ・アプローチ ブランドの役割 自己表現の道具 友人、仲間
ブランドの価値 自己表現性 パートナー性
発展過程 消費者がブランドの象徴す る意味を取り込む
消費者がブランドの象徴する意味 を創造する
関係促進要素 適合性 相互作用
出所:久保田(2019)を基に筆者作成
本研究は久保田(2017, 2019)の研究を基礎として、2 つのアプローチは排他的ではなく 補完的という立場を取る。本項では
2つの補完性を述べる。
代表的論者である
Escalas and Bettmanと
Fournierも自分の主張する関係性以外の存在 も認めている。 「私たちはどちらのアプローチも、学術的にも実務的にも価値があり有益だ と考えている」 (Escalas and Bettman(2009 p. 111)、「ブランド・リレーションシップは、
高次のアイデンティティ目標を満たしたり、根の深い弁証法的なアイデンティティ・テーマ について語ったり、人生の中心となるプロジェクトやタスクを実現したりすることがある」
(Fournier 2009 p. 6)実際、顧客とブランドの関係性はこの2つの関係性が絡み合ってい るように思える。久保田(2019 p.14)は、 「消費者とブランドの結びつき(ないしはブランド・
リレーションシップ)について、自己の印象をマネジメントするといった、社会的に動機づ
けられたニーズと、ブランドがもたらす情緒的な安全性の感覚の希求といった、より個人的
なニーズを満たすために形成されると指摘している。そして消費者とブランドの結びつき
は、これら
2つのニーズを同時に満たすことができると述べている。すなわち消費者とブ
18
ランドの結びつきが提供する
2つの機能を、代替的ではなく補完的な関係」と説明してい る。
久保田(2017)はこの2つのアプローチを組み合わせたプロパティー・パートナーアプロ ーチを構築し先行要因の実証研究を行った。 (図
9参照)この研究では、プロパティー・ア プローチをブランドの「自己表現性」と表し、Park et al.(2006)および
Park, Eisingerich,& Park(2013)による「enrich」概念の測定尺度を若干修正した4
項目を使用している。
一方、パートナー・アプローチは「並ぶ関係」と表現されている。久保田(2017)は
Fournierの主張するパートナーの本質を「①同所性(同じ場所にいる) 、②並列性(並んで同じ方向 を向いている) 、③共同行為(いっしょに同じことをする)、④関心の共通化(同じものに関 心を抱く) 、⑤経験の共通化(同じ経験をする) 、⑥共感的理解(共感にもとづくコミュニケ ーションが展開される)、⑦同等性・対等性(相手を同等であり対等な存在と感じる)
(久保田 2017 p.21)」の
7要素に分解したうえで、一言で「並ぶ関係」と表現している。
久保田(2017)では、プロパティー・アプローチの先行要因として「エキサイティングな経 験」 、 「ブランドの顕現性」 「自己とブランドの類似性」を、パートナー・アプローチの先行 要因として「自己とブランド類似性」 「内面性の共有」 「ブランドとともにあった経験」を挙 げ、アンケート調査を実施した。(図
9参照)
図
9プロパティー・パートナー・モデル(久保田 2017)
出所:久保田(2017)p.20 を筆者一部改変
19
久保田(2017)の結果をベースに本研究を進めるため、結果を詳しく記載していく。
ブランド・リレーションップスコアの強弱を久保田は「関係の進展」に読み替え、スコアを
4段階に分け、それぞれを「開始期」「発展期」「成熟期」「衰退期」と定義付けたうえで、
形成要因とアプローチとの結びつきを分析している。結果は図表
10にまとめた。
図表
10発展段階による促進要因と結びつきかたの強度
出所:久保田(2017)を基に筆者作成
第
3章 仮説
3.1
先行研究とリサーチクエスチョン
これまでのブランド・リレーションシップの先行研究を振り返る中で、消費者とブランド の関係性は同一化を基盤としていることが分かった。また、ブランド・リレーションシップ の効果や構成要素も多くの研究が存在している。また、Fournier らの主張するブランドの パートナー性に対して結びついていく関係と、Escalas らの主張するブランドの自己表現性 に対して結びついていく関係があることが分かっている。そして久保田(2017,2019)は、
この
2つの結びつき方は相互補完的であり消費者の置かれた状況によって繋がりも変化し
ていくことを指摘した。しかし
Furnier(1998)が提起した「消費者がなぜブランドと関係性を築いていくのか」を解明していくには、未だ消費者側面におけるブランドと関係を構築す
る理由が不足している。消費者の心的要因に着目した消費者とブランドの結びつき方の違
いは研究されていない。これまでの先行研究においても、自己一貫性動機や自己高揚動機と
いった自己動機が関連していることは考察されてきたが、どの心的要因がブランドの自己
20
表現性とブランドのパートナー性に働きかけているのかは実証されてきていない。本研究 のリサーチクエスチョンは、消費者のどのような心的要因がブランドとの関係の形成過程 にどのように影響を与えるかである。図
11は先行研究と本研究の関係をまとめた。久保田
(2017)を基にしながら、消費者起因の形成要因を明らかにしていきたい。
図表
11既存研究と本研究の関係
出所:筆者作成
3.2
社会的自己評価とブランドの役割
ブランドの自己表現性と繋がりを形成している消費者は自己高揚動機と自己一貫性動機 に関連していることは前述したが、しかし動機付けられている消費者の心理状態はこれま で断片的にしか語られてきていない。
Escalas and Bettman
(2015)の
webで行われた実験では、最初に被験者の愛国心の度合
いと提示した
7人のセレブリティを評価してもらう。次に愛国心を傷つけられる記事を読 んでもらった後、腕時計の広告を見せ評価してもらう。その腕時計の広告には
7人のセレ ブリティのうち自分が
2番目に高評価したセレブリティ、もしくは
2番目に低評価したセ レブリティを登場させている。結果は愛国心が高い人ほど自尊心が脅かされたことで、自尊 心が脅かされていない人よりも自分が好むセレブリティが登場した腕時計の広告を評価す る傾向があった。これらの結果を自己高揚動機の作用によってもたらされたとし、 「自尊心 が脅かされた消費者は憧れのセレブリティが勧めるブランドとの繋がりを形成する。一方、
憧れがないセレブリティが勧めるブランドは回避する。」 (Escalas ら
2015 p.47)と結論つけた。 (図表
11参照)
図
11自尊心の脅威と
2種類のセレブリティの結びつき度合い.
21
出所:Escalas and Bettman(2015 p.41)を筆者一部改訂
Escalas
ら(2017)においては、帰属欲求(Need To Belong:以下
NTB)という概念を使いながら、NTB が高い消費者ほどエンドーサーとの繋がりを求めることを実証した。自 尊心は社会との繋がりと交流の受容もしくは拒否を反映したものであり、NTB はその自尊 心を測定するものである(Escalas ら
2017)。高NTBの状態とは社会的受容と社会的帰属 に強く動機付けられている状態だと説明している。
Escalasら(2004)では、ブランドのシ ンボリック性やブランド連想が消費者の自己概念とブランドの繋がりを促進させる要素で ことを述べている。その後、
Escalasらは前述したエンドーサーを通じたブランド連想の伝 達の研究を行っている。このように
Escalasら一連の研究は、ブランドが既に持っているブ ランド連想をいかに消費者に伝達するかを研究である。ブランドの意味の伝達にはエンド ーサーの利用や、Narratives Processing(Escalas ら
2004)と言った伝達のための広告手法と、消費者の自尊心が密接に関連している。自尊心を高める、もしくは回復、維持するため 何らかの自己動機により自己とブランドの結びつきがより強くなり、効果的に伝えるため に様々な広告手法が
Escalasらの研究を通して分かる。
自尊心に関してもう少し深く掘り下げる。遠藤(1999)によると自尊感情とは周りや社会
と比較して「価値ある私」 (p.162)へと時代とともに意味合いが変化していると説明してい
る。また自尊感情を自己肯定感と同義とみなし、基本的自己肯定感を社会的肯定感と自己肯
定感に分けている研究もある。佐野・高田・近藤(2007)によると、基本的自己肯定感情と
は、自分の中での基準に照らし合わせたいわば絶対的な自己肯定感情であり、社会的肯定感
情とは、他者と比較した際の自己肯定感情である。また自尊感情は自己愛といったナルシス
トに近い概念とも研究されている(小塩 1998) 。自尊感情は自己愛の因子である「自己主張
性」に正の影響があり、特定の条件下においては「優越感・有能感」 、 「注目・賞賛欲求」に
も正の影響が出ることも研究されてきた。 (森尾・山口 2007)また、充実しているほど承認
22
欲求が高まることも研究されている。(毛内・山崎・佐々木 2018)以上のことをまとめる と、社会的肯定感情が高い消費者は、理想やお気に入りのブランドをまるでツールのように 消費していくことで他者に対して自分をアピールしたい、認めてもらいたい欲求が高まる。
この過程においてブランドと消費者の同一化が形成されていくと仮説が立てられる。
H1:社会的肯定感情は、ブランドの自己表現性に対して正の影響を与える
3.3
不安感情・孤立感情とブランドのパートナー性
前述した
Fournier(1998)のアニミズム理論は、ブランドが人間に近づく度合により3
段階に分けている。
Fournier(1998)は、これら
3つを比較する基準は不足しており、 「消 費者の心の中で知覚されている集合体にすぎない」 (p.135)と述べている。この点から類推 できる消費者の心理状態は、ブランドとの関係を人に話したい、見せたいという欲求より、
消費者個人の心の中で完結するブランドとのやり取りであると考えられる。久保田(2017)
では、 「ブランドと共にあった思い出」を先行要素として挙げている。つまり、ブランドの パートナー性が強まるためには、消費者とブランドと一緒に何かを経験することが前提と しており、それは
2者だけにしか理解されないストーリーであっても関係性は深まってい く。久保田(2019)のブランドのパートナー性との結びついた例を「ペヤングソース焼きそ ば」の例を使って説明している。この事例では、幼少期から青年期までの間、「ペヤング」
が「自分自身のライフ・ヒストリーに組み込まれた存在であり、さまざまな経験や感情を共 にしてきたパートナーである」 (久保田 2019 p.34)と表現されており、ブランドのパート ナー性は消費者のそばにいながら一緒に何かを経験することが必要である。
Fournier
(1998)も、ブランドが消費者の生活の中で役割を果たしていくことを強調して
いる。
Fournier(1998)は、消費者の中で重要な出来事(project)を達成するために関係性
が築かれていくことを説明している。 (例えば「何かひとつの役割(role-related)のために 関係を構築するのではなく、生活に意味を与える目標(goal-related)の繋がりのひとつと して関係を構築していく。つまり消費者はブランドを選択するのではなく、よりよい
lifeを 選択していく。 (p.366-367)」 「消費者とブランドの関係は、製品関与やと自己とブランドの イメージの一致よりも、消費者が抱える人生の重要な目標に対する適合性である。 (p.366) 」
がある。 )この
Fournierの主張は、ブランドの意味は消費者が抱える問題ごと異なるため、
いかに消費者の問題に対して寄り添えるかかが重要であることを示唆している。
Escalas
らと
Fournierの研究を比較すると、どちらも消費者がブランドと同一化すること
で、自己に起きている課題を解決していることが分かる。前者は、他者から自分がどう見え
るかという課題に対して、ブランドを自己表現の道具のように社会に呈示しながら解決し
ていく。一方後者は、ブランドが消費者の生活に入り込み、私的な人生の目標や課題に対し
23
て、ブランドと消費者の相互作用を経ながら解決していく。これらの違いから推論できるこ とは、ブランドの自己表現性は社会的な自己に対して作用するものであり、ブランドのパー トナー性は私的な自己に対して作用するものである。桜井(1993)によると自意識には、2 つの側面があり感情や気分など自己の内面的な側面に注意を向ける私的自意識と、服 装や 言動など他者から見られる外面的な側面に注意を向ける公的自意識がある。前項でブラン ドの自己表現性に関する仮説で使用した、社会的自己肯定感情は公的自意識に問題である。
ブランドのパートナー性が強まるときは、私的意識に関わる問題であると類推する。
再度、ブランドのパートナー性が解決する課題を掘り下げてみる。久保田(2019)は、ブ ランドのパートナー性を友人関係と置き換えたうえで、安心、支援が効能として得られると 説明している。友人関係が作用する状態を久米(2001)は不安や自閉、ストレスといった不 安定な自分の内面を抱えている状況を挙げ、これらに対して友人を象徴的な存在とみなし 内在化しながら自己の安定化を図ると説明している。これはブランドのパートナー性が想 定する課題解決方法と類似性を確認できる。さらに、 「孤独感により、友人を強く希求する」
(石本・久川・齊藤・上長・則定・日潟・森口
2009 p.125)とも説明される。不安、孤立と言った感情が友人関係を欲する心的要因であることが推測される。他にも、笠原・島谷(2012)
は、不安孤立感情が、友人と内面性を共有するような「深い関わり」を求めることを実証し ている。つまり、不安感情や孤立感情はブランドのパートナー性との繋がりを促進し、ブラ ンドと関係を構築していく仮説を導き出すことができる。
H2:不安定感情は、ブランドのパートナー性に対して、正の影響を与える。
H3:孤立感情は、ブランドのパートナー性に対して、正の影響を与える。
一方、社会的自己肯定感情はブランドのパートナー性に対してどのような影響を与えるだ ろうか。ブランドのパートナー性は私的自意識に対して作用することを想定すると、社会的 自己肯定感情は、ブランドのパートナー性に対して特に促進も阻害も作用しないよう仮説 が立てられる。
H4:社会的自己肯定感情は、ブランドの自己表現性に対して、影響を与えない。
また、不安感情、孤立感情はブランドの自己表現性に対してどのような影響を与えるだろ うか。不安感情は内面的な不安から対人不安など公的自意識、私的自意識どちらの問題も考 えられる。そのため不安感情は、ブランドの自己表現性に対しても正の影響を与えることが 考えられる。
H5:不安感情は、ブランドの自己表現性に対して。正の影響を与える。
24
孤立感情は、他者との関わりにおいて孤立している感情を抱く場合も想定すると、ブランド の自己表現性に対しても正の影響を与えることが考えられる。
H6:孤立感情は、ブランドの自己表現性に対して、正の影響を与える。
3.4
仮説モデル
2
つのブランドの役割に対して
3つの心的要因の影響値を測る仮説をパス図で作成した。
(図表
12参照)
H1~H6
のパスは前項で立てた仮説と対応している。一方、7~10 のパスは先行研究に
より既に明らかになっているものであるため、本研究においては仮説の中には入れていな いが、全体像を掴むうえで重要なパスとなるため図表に入れた。補足すると、7のパスは「孤 立感情」から「不安感情」への正のパスである。孤立と不安は相関以上に因果の関係もなり 立つことが指摘されている。 (C Hommerich、
Heinz Bude、Ernst-Dieter Lantermann 2012)つまり、孤立だから不安になるためパスを孤独→不安とした。また、
8は「ブランドの表現 性」から「ブランドのパートナー性」に対する正のパスである。久保田(2017)では、 「関 係の構築段階(開始期から発展期)では自己の形成,表象,呈示のための小道具とみなされ ることが重要であり,関係の確立段階(成熟期から衰退期)においては安心感や支援をもた らすパートナーと認識されることが重要であることが明らかになった。」 (p.30)と説明され ており、ブランドの自己表現性に結びついた関係性が、ブランドのパートナー性に変化して いく過程を指摘している。そのため「ブランドの自己表現性」→「ブランドのパートナー性」
にパスを引くことを今回行った。さらに9と
10のおパスは、2 つのブランドの結びつき方 は、ともにブランド・リレーションシップの発展に繋がることを久保田(2017)で実証して いることから仮説に組み込まなかったが、どちらのパスも正として図に描きいれた。
25
図表
12 3つの心的要因とブランド・リレーションシップ形成過程
出所:筆者作成
26
第
4章 調査とモデルの検証
4.1