第6章 仮説
6.2 仮説の導出
先行研究によれば、自己の能力や特性形容詞においては、自己高揚傾向が人間に普 遍的に備わる基本的な性質でありながら、欧米人とは対照的に、日本人には自己卑下 傾向が観察される。また、欧米人がさまざまな領域で自己が平均以上であると肯定的 に捉えることとは対照的に、日本人では特定の領域に限られる。
このことを踏まえれば、課題の難易度の違いにおいては、欧米人が課題の難易度の
違いによって自己高揚(自信過剰・過大評価)と平均以上(高位配置)が負の相関を 示すのに対して、日本人では自己卑下(自信不足・過小評価)が課題の難易度に関わ らず現出し、平均以上(高位配置)は課題の難易度が低いとき、平均以下(低位配 置)は課題の難易度が高いときに現出すると予想される。
そこで、課題の難易度を適切に設定した上で、欧米の大学生を対象としたMoore and Small (2007)やMoore and Healy (2008)の研究成果を参考にして、日本人を対象 に実証実験を行う。実験にあたり、以下の仮説1及び仮説2を設定する。
【仮説1】
日本人の大学生を対象とした実験では、課題の難易度に関わらず自己卑下効果が現 出する。
【仮説2】
日本人の大学生を対象とした実験では、難易度が低い課題で平均以上効果が現出す る。難易度が高い課題では平均以下効果が現出する。
次に、課題の難易度を適切に設定した上で、比較相手が親友・親密な他者のケース と比較相手が平均的他者のケースを設ける。このとき、自己評価と他者評価に差が生 じ、課題の難易度が高いときには自己評価が他者評価を下回り、課題の難易度が低い ときには、自己評価が他者評価を上回る10 。その上で、集団成員性が抽象的で曖昧な 平均的他者との比較よりも、親友・親密な他者との比較の方が自己評価と他者評価に 差が小さくなると予想される。
そこで、課題の難易度と比較相手の違いにより、自己評価と他者評価に差に違いが 現出するかを検証する。実験にあたり、以下の仮説3及び仮説4を設定する。
【仮説3】
課題の難易度が高いとき、得点評価の大きさを降順に並べると「平均的他者の評価
> 親友・親密な他者の評価 > 自己評価」となる。
10 比較相手が平均的他者のケースでは、自己評価が他者評価を上回るときの差が平均以 上効果であり、自己評価が他者評価を下回るときの差を平均以下効果である 。しかし、
比較相手が親友・親密な他者のケースでは、社会的な平均値との比較ではなく、自己評 価と他者評価に差を平均以上効果や平均以下効果と称するのは適切ではない。よって 本研究ではこれらを厳密に区別して表記・記述している。
【仮説4】
課題の難易度が低いとき、得点評価の大きさを降順に並べると「自己評価 > 親 友・親密な他者の評価 > 平均的他者の評価」となる。
先行研究によれば、自己にとっての重要性が高い領域においては平均以上効果が現 出する上に、領域の重要性を高める操作を行うだけで、自己は他者よりも優れている と評価する傾向が大きくなる。この傾向は仮想的で人工的な実験環境下に限ったこと ではなく、実験参加者の現実的な関心事においても、重要性が高い領域(関心事)で 平均以上効果が現出し、重要性を操作して重要度認知が上昇すれば平均以上効果が大 きくなり、重要度認知が低下すれば平均以上効果が小さくなると予想される。
そこで、実験参加者の現実的な関心事を踏まえた重要性操作の実証実験(萌芽的研 究)にあたり、以下の仮説5及び仮説6を設定する。
【仮説5】
自己にとって重要性が高い領域で重要度認知が上昇すれば、平均以上効果が 大きく なる。
【仮説6】
自己にとって重要性が高い領域で重要度認知が低下すれば、平均以上効果が 小さく なる。