第7章 第1実験
7.2 結果
7.2.3 仮説3の検証
図表7-6-2及び図表 7-8-2を概観すると、簡便的にも難易度が低い課題で平均以上 効果が現出していることが確認できる。また、図表7-7-2及び図表 7-9-2を概観する と、簡便的にも難易度が高い課題で平均以下効果が現出していることが確認できる。
仮説3の検証にあたり、Moore and Small (2007)やMoore and Healy (2008)など をベースとして、直接比較法による平均以上効果の測定を試みた Heine et al. (2001) も参考にし、平均的他者の評価から中央値である4を差し引いて得られる値
(discrepancy)を「DC」と定義する。DC の値が正ならば平均以上効果が現出し、
負ならば平均以下効果が現出していると推察できる。他方、親友・親密な他者の評価 から中央値である4を差し引いて得られる値(discrepancy)は「DC’」と厳密に区 別して定義する。
(1)分析
難易度が高い課題【総合テスト(B)】での実際の得点と各得点での平均以上効果 の現出結果は図表7-10-1、図表7-10-2、図表7-11-1、図表7-11-2に示すとおりであ る。
親友・親密な他者との比較のケ ースと平均的他者との比較のケース で、DC’とDCの差に有意差があ るかを統計的に検定する上で、まず それぞれのデータが正規分布に従う 母集団からの標本であるかを検定す るため、χ2検定により実際の得点 のデータの分布が正規分布とみなさ れるかどうかを検定する。
親友・親密な他者との比較のケ ース(n=88)において、帰無仮説
「総合テスト(B)の親友・親密な 他者との比較のケースで、DC’の データの分布は正規分布とみなさ れる」と対立仮説「総合テスト
(B)の親友・親密な他者との比較 のケースで、DC’のデータの分布 は正規分布とみなされない」を立
図表7-10-1 難易度が高い課題【総合テスト(B)】で
親友・親密な他者と比較したケースでの自己評価の得点
ごとのDC’の現出結果
図表7-10-2 難易度が高い課題【総合テスト(B)】で
親友・親密な他者と比較したケースでの自己評価の得点
ごとのDC’の現出結果
DC’
最大 最小 加重平均
10 0 0.0% - -
-9 0 0.0% - -
-8 0 0.0% - -
-7 1 1.1% 1 - 1.00
6 4 4.5% 1 1 1.00
5 19 21.6% 1 0 0.32
4 18 20.5% 0 0 0.00
3 28 31.8% 0 -2 -0.25
2 11 12.5% 0 -1 -0.82
1 5 5.7% -1 -1 -1.00
0 2 2.3% -2 -2 -2.00
- 88 100.0% - -
-自己評価 データ数 比率
てる。危険率5%での検定の結果、χ2値は 136.32で、危険率5%の上側境界値χ2
(0.95)=11.07に対して、136.32>11.07だから、χ2値は帰無仮説の棄却域に入 り、帰無仮説は棄却される。P値についても同順位補正P値(両側確率)=1.08×E-27 であるから、危険率1%でも帰無仮説は棄却される。よって、「総合テスト(B)の親 友・親密な他者との比較のケースで、DC’のデータの分布は正規分布とみなされな い」という対立仮説が採択される。
平均的他者との比較のケース(n
=84)において、帰無仮説「総合テ スト(B)の平均的他者との比較で、
DCのデータの分布は正規分布とみ なされる」と対立仮説「総合テスト
(B)の平均的他者との比較で、DC の デ ー タ の 分 布 は 正 規 分 布 と み な されない」を立てる。危険率5%での 検定の結果、χ2値は57.35で、危険率 5%の上側境界値χ2(0.95)=11.07 に対して、57.35>11.07だから、χ
2値は帰無仮説の棄却域に入り、帰無 仮説は棄却される。P値についても 同順位補正P値(両側確率)=4.28×
E-11であるから、危険率1%でも帰無 仮説は棄却される。よって、「総合テ スト(B)の平均的他者との比較で、
DCのデータの分布は正規分布とみな されない」という対立仮説が採択され る。
この結果、独立した2群(DC’とDC)のデータはともに正規分布に従わず、かつ データが離散的である。そこで、ノンパラメトリック検定の1つであるマン・ホイット ニー検定により、独立した2群(DC’とDC)から得られたデータに基づき、それぞれ の母集団の分布の中央値に差があるかを検定する。
図表7-11-1 難易度が高い課題【総合テスト(B)】で
平均的他者との比較のケース での自己評価の得点ごとの DCの現出結果
図表7-11-2 難易度が高い課題【総合テスト(B)】で
平均的他者との比較のケース での自己評価の得点ごとの DCの現出結果
DC
最大 最小 加重平均
10 0 0.0% - -
-9 0 0.0% - -
-8 1 1.2% 2 - 2.00
7 5 6.0% 2 1 1.20
6 4 4.8% 1 1 1.00
5 18 21.4% 1 0 0.17
4 16 19.0% 0 -1 -0.06
3 18 21.4% 0 -1 -0.67
2 9 10.7% 0 -3 -1.67
1 8 9.5% -2 -3 -2.25
0 5 6.0% -2 -3 -2.40
- 84 100.0% - -
-自己評価 データ数 比率
帰無仮説「総合テスト(B)におけるDC’と DCの現出傾向に違いがない」と対 立仮説「総合テスト(B)におけるDC’とDCの現出傾向に違いがある(有意差が ある)」を立てる。危険率5%での検定の結果、同順位補正Z値は1.92で、標準正規 分布の両側検定での危険率 5%の上側境界値Z(0.975)=1.95に対して、|1.92|
<1.95だから、同順位補正Z値は帰無仮説の棄却域に入らず、帰無仮説は棄却されな い。また、P値についても同順位補正 P値(両側確率)=0.05であるから、危険率
5%では帰無仮説は棄却されない。よって、「総合テスト(B)におけるDC’と DC
の現出傾向に違いがない」という帰無仮説が採択される。
(2)結果
図表7-10-2及び図表7-11-2を概観すると、難易度が高い課題【総合テスト(B)】
では、自己評価の得点が低い領域では DC’と DCは負で、自己評価は他者評価を下 回る。その上で、総合テスト(B)では自己評価と比べて親友・親密な他者の評価や 平均的他者の評価が小さくなる傾向は推察されたものの、統計的な有意差は観察され なかった。但し、図表 7-12-2及び図表7-13-2を概観すると、難易度が高い課題では
「平均的他者の評価 > 親友・親密な他者の評価 > 自己評価」となる傾向は確認で きる。
以上より、難易度が高い課題では、「平均的他者の評価 > 親友・親密な他者の評 価 > 自己評価」となる傾向があり、平均的他者という集団成員性が抽象的で曖昧な 相手と自己との比較では平均以下効果が現出し、親友・親密な他者という特定の個人 との比較でも自己を劣位に位置づける傾向が見られる。
なお、「5.2 親密な他者との社会的比較」において、具体的個人である親友・親密 な他者との比較による自己と親友の同化傾向について説明した。図表 7-12-2 及び図 表 7-13-2 を概観すると平均的他者との比較で得られるDCよりも親友・親密な他者 との比較で得られる DC’の方が DC’=0からのバラつきが小さい。このことか ら、親友・親密な他者との同化傾向が見られるとも思われるが、後述するとおり実験 環境が要因となって生じた事象であり、同化傾向ではないと推察している。