博 士 ( 農 学 ) 落 合 恵 子
学 位 論 文 題 名
新しい分類指標としてのりボソーム蛋白質に関する研究 学位論文内容の要旨
細 菌 化 学分 類 学 では 、 菌体 成 分 によ る 化学 分 類 学的 性 質に 加 え て、DNAやRNAあ る い は 蛋白 質 等 の情 報 高 分子 の 比較 研 究 が注 目 され て い る。 特 に、DNA相 同性は種 を識 別 する基準 としての有 意性が認 められて いるが、 種の関係 の判断が難しい場合があると さ れ てい る 。 また 、 リ ボソ ー ムRNAの 塩 基配 列 は、 系 統 進化 的 類縁関係 を反映す る指 標 として、 属以上の分 類階級を 識別する 基準とし ての有効 性が認められてきたが、リボ ソ ーム蛋白 質は、系統 進化的保 存性が示 唆されな がらも、 その分析方法の繁雑さと不安 定 性 から、分 類指標と しての有 効性は明 確ではな かった。 本研究では 、70Sリボソ ーム 蛋 白 質の、正 確かつ簡 便で安定 した2次元 電気泳動 法による 分析方法を 開発し、 リボソ ー ム蛋白質 の新たな分 類指標と しての有 効性を確 認した。 また、リボソーム蛋白質を指 標 と し て 、Arthrobacter属 細 菌 群 と グ ル タ ミ ン 酸 生 産 菌 の 分 類 位 置 を 整理 し た。
本 研究の結 果を要約す ると以下 のとおり である。
1. リボソー ム蛋白質の2次元電気 泳動法に よる分析 方法の開 発
70Sリ ボソーム蛋 白質を分 析する方 法として 、@分析 時間の短 縮、◎簡便 な操作性 、
◎ 安定した 再現性、@ 高い汎用 性、◎試 料の微量 化、◎類 似度の簡易分析に着目した改 良 型2次 元電 気 泳 動法 を 開発 し た 。約4時間 の泳動で 、細菌の りボソーム 蛋白質は 、約 50個 のコ ン パク ト な スポ ッ トと し て再現よ く分離し た。また 、本方法で は、一枚 のス ラ ブ ゲル 上 で 、3本の1次 元 目ゲ ル を 同時 に 泳動 で き るの で 、 両側に2種 の生物由 来の り ボ ソーム蛋 白質を、 中央には 両側の生 物の混合 試料をの せることに より、2種 の生物 由 来のりボ ソーム蛋白 質の相同 性を、移 動度の相 違による 類似度(相同値)として数値 的 に論議で きるように なり、リ ボソーム 蛋白質の 相同性を 分析する有効な方法であるこ と を見い出 した。
2. リボソー ム蛋白質の 分類指標 としての 有効性
リ ボソーム 蛋白質は、 変異処理 による影 響は少な く、安定 して存在する信頼度の高い 分 子 種 で あ るこ と を確 認 し た。 本 方 法に よ り分 離 し たり ボ ソー ム 蛋 白質 の 相同 値 と DNA相 同 値 は 相関 関 係を 示 し た。 ま た 、分 子 量約20,000以 上の り ボ ソー ム 蛋 白質 の 相 同値から 、明確に種 の関係を 識別でき ることを 明らかに すると共に、リボソーム蛋白 質 の2次元電気 泳動パタ ーンが、 種のプロ フイール となりう ることを確 認した。 近縁な 関 係 に あ るCorynebacterium属 とRhodococcus属 細 菌種 の り ボソ ー ム蛋 白 質 の比 較 か ら 、 分子量25,000以上と20,000〜14,000の蛋 白質の中 に属レベ ルで保存 性の高い分 子 種が存在 し、それら の蛋白種 による泳 動バター ンは、属 のプロフイールとなりうるこ と を示した 。
3.グ´レタミン酸生産菌の分類
Micrococcus、く、´or ynebacterium、Brevibacterium、Ar Lhrobacter等の様々な学名で扱 わ れて き た グル タ ミン 酸 生 産菌 は 、c.餌utamicumの 基準株に 対し、70% 以上の高 い DNA相同 値 を 示し 同 種の 関 係 にあ った 。1Jボソー ム蛋白質 の各分子 量領域の 相同値も ま た高 い 値 を示 し 、同 種 の 関係 で ある こ と を支 持 した 。16S rRNA塩基 配列の解 析か ら、C. glutamicumと系統的に近縁な関係にあるとされたC.callunaeやC.ammoniagnes のりボ ソーム蛋 白質の泳 動パター ンはclガu亡amjcumと 明瞭に異なり、リボソーム蛋白 質 の 2次 元 電 気 泳 動 パ タ ー ン は 種 特 異 性 が 高 い こ と を 明 ら か に し た 。 4.C〇r朋e6aC亡erjum餌u亡amfCumの表層構造
c・du亡a用 たumの表層 構造とし て、超薄 切片像で3層 の密度の濃い層(最外層、中間 層 、内 層 ) とそ の 間の 薄 い2層 を、 凍結割断 像では高 頻度に露 呈する最 外層の内 側と 中 間層 の 外 側の 構 造を 観 察 した 。 最外層は 隔壁形成 には関与 せずSDS処理 や物理的 衝 撃 によ り剥離さ れやすい 層で、中間 層は、リ ゾチーム の影響を 受け、隔 壁形成時 に関 与 する ことを認 めた。ピ オチン制限 培養によ り、糖脂 質、結合 性ベプチ ド等の細 胞壁 成 分 が 変 化 し、 単 分 子膜 の ブレ ブ 様 構造 体 の突 出 等 微細 構 造 変化 を 観察 し た 。c・ 餌uCamjc mの りゾチー ム耐性要 因のーっ として、ペ プチドグ リカン結合性の高級脂肪 酸 関 連 物 質 が 保 護 的 役 割 を 担 い 、 溶 菌 作 用 を 防 御 す る 機 構 を 明 ら か に し た 。 5.リボソーム蛋白質の分子種
改良型2次元電気 泳動法に より分離 されるEscherjcわjac〇nのりボソーム蛋白質のう ち、分子量約20,000以上の蛋白種(L1,L2,L3,L4,L5,L6,S1,S2,S3,S4)のスポッ ト位置 を決定した。Ar曲r〇6acとer属細菌種を用いて、属レベJレで保存性の高い分子種 として 、Ll,L2,L3,S2,S4蛋白種 を決定し た。L2蛋白種 のN末端アミノ酸配列は、属 以 上の 分類階級 で保存性 が高く、グ ラム陽性 細菌群の 高GC含量グ ループと 低GC含量グ ループ を明瞭に 区別した 。C.餌uぬmた‖mにおいて種レベルで保存性が高く、特異的な 移 動 度 を 示 す 蛋 白 種 と し て 、5SrRNAの 結 合に 関 与す るL5蛋 白 種 を明 ら かに し た 。 6.Ar舶r06ac亡er属細菌の分類
化学分 類的性質 によりA3 とA4 グル ープからな るAr曲r〇bac旭r属細菌の分類群の 均 一性 について 、リボソ ーム蛋白質 を指標と して検討 した。承 認種15種の 基準株の り ボ ソー ム 蛋 白質 の2次 元電 気 泳 動パ ターンを 解析し、 泳動パタ ーンは種 固有であ り、
15種 が 独 立 し た 種 であ る こと を 確 認し た 。 属全 体 とし て 、 分子 量 約25,000以 上 と 14,000〜20,000の 分 子 種の 泳 動 パタ ー ンの 類 似 性が 高 く、A3aとA4a・のグル ープ に大差 はなく、Ar曲r〇bac亡er属 は均一な分類群であることを明らかにした。分類位置 が不明 であったA.p0ケcカrom0. 飴nesは、リボソーム蛋白質の相同性とDNA相同性から A. 〇りdansと同種で あると結 論した。化 学分類的 性質の不 明なA.m卩0rensは、A4 のA. ロた 〇 ぬnaeと 類 似し た 泳 動パタ ーンを示 し、リボ ソーム蛋 白質の相 同値は、A njc〇Cねnaeと 同種の関 係にある ことを示した。以上の結果より、リボソーム蛋白質の2 次 元電 気泳動パ ターンに よる検索と 解析は、 迅速な同 定方法と して有効 であるこ とを 確認した。
7.レバン分解能を有する細菌の分類同定と新種提案
レ バン 分解能を 有するMS12・12株の分類位 置につい て検討し た。本菌 株は、グ ラム
陽性 の不 定形桿 状細 菌で 、胞子は形成せず、運動性はなく、 DNA の GC 含量は 65.5
friol% であった。ベプチドグリカンのジアミノ酸はりジンであり、架橋ベプチドとし
て、セリン、スレオニン、アラニンを有し、主要キノン型はメナキノン9 ‑(H2) で、主 要脂肪酸としてアンテイソ分岐鎖脂肪酸 C15:0 を有した。16S rRNA 塩基配列のホモ ロジー検索から、Arthrobacter 属細菌に系統的近縁性が認められた。リボソーム蛋白 質の相同性と DNA 相同性から種レベルの同定を行ない、MS12 ‑12 株は新種に該当する ことを明らかにし、Arthrobacter 属に属する新種Arthrobacterlevanovorans sp. nov.
基準株MS12 ‑12 として提唱した。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
新しい分類指標としてのりボソーム蛋白質に関する研究
本論 文 は、 和 文174頁 、 図71、 表33、 引用 文 献62、4編 、10章 から な り、 ほ か に参 考論文13編が付されている。
最近 の 細菌 分 類 学で は 、従 来 の 形態 、 生理 的 性 質、 あ る いは 化 学的 性 質 に加 え 、 DNAやRNA等 の 情 報 高 分 子 が 分 類 指標 と し て用 い られ て い る。 特 に、 リ ボ ソー ムRNA の塩 基配列は、 系統進化 的類縁関 係を反映 する指標 として、属以上の分類階級を識別す る基 準として応 用されて いるが、 リボソー ム蛋白質 は、系統進化的保存性が示唆されな がら も、その分 析方法の 繁雑さと 不安定性 から、分 類指標としての有効性は明確ではな かっ た。本研究 では、リ ボソーム 蛋白質の 正確かつ 簡便で安 定した2次元 電気泳動法に よる 分析方法を 開発し、 リボソー ム蛋白質 の新たな 分類指標としての有効性を明らかに する ことを目的 としてい る。確立 した本方 法により 、リボソーム蛋白質を指標として、
Arthrobacter属 細 菌 群 と グ ル タ ミ ン 酸 生 産 菌 の 分 類 位 置 を 整 理 し た 。 70Sリ ボ ソー ム 蛋 白質 の分析 方法とし て、1次元 目は、キ ャピラリ ーカラム を使用し た 非 平 衡 等 電 点 に よ るUREA‑PAGE法 で 、2次 元 目 は 、14% SDS‑PAGE法 で 電 気 泳 動 する ことにより 、従来法 と比較し 、操作が 簡便で高 い再現性と汎用性があり、かつ分析 時 間の 短 縮 した 改 良 型2次 元電気泳 動法を開 発した。 さらに本 方法では 、1枚の同一 ス ラブ ゲル上で、 移動度の 相違によ る類似度 (相同値 )として2種の生物由 来のりボソー ム蛋 白質の相同 性を数値 的に論議 できるこ とを見い 出した。 改良型2次元 電気泳動法に おい て分離され るEscherichia coli由来の りボソー ム蛋白質のうち、分子量約20,000以 上の蛋白種(Ll,L2,L3,L4,L5,L6,Sl,S2,S3,S4)のスポット位置を決定した。分子 量 約20,000〜25,000の りボソーム 蛋白質は 、種特異 的な移動 度を有す る分子種 であ るこ とを明らか にし、分 子量約20,000以上のり ボソーム 蛋白質の 相同値によ り、明確 に 種の 関 係 を識 別 で きる ことを確 認した。 さらに、 リボソー ム蛋白質 の泳動パタ ーン は、 種のフイン ガープリ ントとし て、迅速 な分類同 定に有効なッールとなりうることを 示し た。また、 分子量25,000以上と20,000〜14,000の蛋 白種の中 に属レベ ルで保存 性の 高い分子種 が存在し 、それら の蛋自種 による泳 動パターンは、属のプロフイールと
男 哉
守
房 誠
田 葉
間
冨 千
本
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
なりう ることを 示した。 これらの 結果より、 リボソー ム蛋白質 は、本改 良型2次元電気 泳動法 で分析す ることに より、種 及び属レベ ルの新しい分類指標として有効であること を明らかにした。
確立し た本方法 により、 様々な学 名で扱われてきたグルタミン酸生産菌の分類位置に つ いて 検 討 し、 いず れの菌株 もCorynebacterium glutamicumと同種 の関係に あること を 明ら か に した 。 また 、16S rRNA塩基 配 列 の解 析で、c.glutamicumと系統 的に近縁 な関係にあるとされていたc. callunaeやC.am.m〇口jageロesのりボソーム蛋白質の泳動 パ ター ン は 明瞭 に異 なり、リ ボソーム 蛋白質の 泳動パタ ーンは種特 異性が高 いことを 確認した。
化学分 類学的性 質により2つのグループ(A3 ,A4 )から構成されるAr曲r〇6ac亡er 属 細菌 の 全 承認 種に ついて、1Jボソーム 蛋白質を 指標とし て検討し、 属全体と して、
分 子量25,000以 上と20,000〜14,000の蛋 白 種を中 心に泳動 パターン の類似性が 高 く 、大 差 の ない 均 一な 分 類 群で あ るこ と を 明ら か にし た 。 また 、 分 類位 置 が不明で あった 、A.p0ケC由romp齶neSとA.myS〇renSについて 、リボソー ム蛋白質の泳動パタ ーンから種を絞り込み、A.poJyCカr〇m.〇g.eneSはA.〇XydanSと、A.myS〇renSはA. ロた0Cねnaeと同種の 関係にあ ることを 明らかにし、リボソ‐ム蛋白質の2次元電気泳動 パ ター ン に よる 検索 と解析は 、迅速な 分類同定 方法とし て有効であ ることを 示した。
さ らに 、 レ バン 分解 能を有す る細菌と して新た に分離さ れたMS12・12株の 分類位置 に つ い て 検 討 し 、Ar曲robacCer属 に 属 す る 新 種 の 細 菌 で あ る と 同 定 し 、 本 菌 株 を Arめr〇6aC亡erJeyan〇y〇ranSSp.n〇y.として提唱したo
以 上 のよ う に 、リ ボ ソー ム 蛋 白質 を2次元電 気泳動法 で分析する ことによ り、リボ ソ ーム蛋 白質を新 しい分類 指標とし て有効で あること を明らかに するとと もに、本 方 法を適 用してこれ まで混乱 のあったグルタミン酸生産菌、Arthrobacter属細菌分類位置 を 整理 し た。 ま た 新た に 分離 さ れ たレ バ ン資 化 菌 の迅 速 分 類を 試み、新 種と同定 し た 。 こ れ ら は 学 術 的 に も 応 用 的 に も 寄 与 す る と こ ろ が 大 き な 成 果 で あ る 。 よっ て、審査 員一同は 別に行っ た学力確 認試験の 結果と合わ せて、本 論文の提 出者 落 合 恵 子 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る のに 充 分 な資 格 があ る も のと 認 定し た 。