博 士 ( 医 学 ) 吉 村 治 彦
学 位 論 文 題 名
3T3 ・ Ll 脂 肪 細 胞 に お け る
ガ ン グ リ オ シ ド GIVI3 の イ ン ス リ ン 抵 抗 性 へ の 関 与
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
肥満・2型糖尿病患者の激増は近年世界的な問題となっており,その克服のため発生機 序の解明が急務である.インスリン抵抗性は,過食・運動不足に伴う肥満により誘発されイ ンスリン標的臓器でのインスリン感受性が低下した状態であり,2型糖尿病の誘因のーつで ある.インスリン抵抗性を伴う肥満者やインスリン抵抗性モデル動物では,脂肪組織でtumor necrosis factor (TNF)aの発現が増強している.さらに,著明なインスリン抵抗性をきたす Zucker(fa/fa)ratに可溶性TNFレセプ夕一IgGキメラ蛋白質を投与しn岬aを中和すると 骨格筋・脂肪細胞でのインスリンレセプ夕一及びinsulinreceptorsubstrate(IRS)−1のチ口 シンリン酸化が回復することが示されている.また,invitroでも3T3‐Ll脂肪細胞を長時間 TNFaで処理すると糖の取り込みの低下とIRSー1のチ口シンリン酸化の抑制が認められてい る.しかし,TNFaがインスリン抵抗性を起こす分子機構に関しては未だ不明な点が多い.
一 方,p55TNFレ セプ夕一 のノック アウト マウスの肺では,ガングリオシドGM3が減少 していることが示されている.ガングリオシドは,epidermalgrowthfactor(EGF)レセプ夕 一やplateletdedvedgrowthfactorレセプ夕一のシグナル伝達に関与しているが,インスリン レセプ夕一についてもりンパ様細胞においてGM3が自己リン酸化を抑制する報告がある,
すなわちガングリオシドはシグナル伝達のmodulatorとしての側面を持ち,インスリン感受 性 低下にも 関与する 可能性があるが,ガングリオシドと脂肪細胞でのTNFaによるインス リン抵抗性との関連性はこれまで全く検討されていない.そこで,本研究では,培養脂肪細 胞 で のTNFaによ るイ ンスリン 抵抗性 発症にGM3が関 与する可 能性に っいて検 討した.
方法としては,脂肪分化の性格をもつマウス線維芽細胞である3T3‐Llを用いた.0.lnM TNFaで処理したときの3T3‐Ll脂肪細胞に存在する主要なガングリオシドであるGM3の経時 的 変化を初 めに検討 した. 細胞表面 のGM3は抗GM3抗体であるM2592を用いたフ口一サイ ト メトリ一 ,細胞内GM3含量はLadishらの方法を用いて測定した.GM3合成酵素活性は,
[14C]で標識したシアル酸をGM3の前駆物質であるラクトシルセラミドに添加し合成され る 標識され たGM3の 量をGM3合成酵 素活性 として測定した.GM3合成酵素mRNAレベルは.
RT‐PCRにて検討した.また,3T3−L1脂肪細胞のインスリンレセプ夕一とIRS‐1のチ口シンリ ン酸化は,それぞれの抗体で免疫沈降後抗リン酸化チロシン抗体であるPY20抗体によるウ エスタンブ口ッティング法で評価した.脂肪細胞への糖の取り込みは,[3H]2‐deoxyglucose の取り込み量を測定した.インスリン結合実験は,インスリンレセプ夕一への[1251]プ夕・イ ンスリンの結合量で測定した.
3T3−L1脂肪 細胞に は,GM3とGDlaの2種類の ガングリオシドが存在するが,大部分は GM3であ る . フ口 一サイ トヌト リーでは ,TNFa処理 後3時 間より細 胞表面 のGM3の 増加 を 認 め96時 間 でも 増 加 して い た .同 様 に ,GM3含量とGM3合成 酵素活 性も平行 して増 加し96時間の時点においていずれも増加したままであった,また,RT―PCRで検討したGM3 合 成酵素mRNAレ ベルもTNFa処理によ り経時 的増加を 認め96時 間の時点 においても増加
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して いた. もうーつ のガングリオシドであるGDla含量は,TNFa処理では変化を認めなか った.
脂肪細胞では,長時間TNFaを作用させるとインスリンレセプ夕一とIRSー1のチ口シン リン 酸化が 抑制され ること が示され ている ,そこで,TNFaにより増加するGM3のインス リンシグナルへの作用を検討するために,3T3‑L1脂肪細胞に外因性のGM3を加え,インス リンシグナルヘの影響も検討した. 100 pLM GM3を8時間作用させた時,インスリン刺激に よるインスリンレセプ夕一とIRS―1のチ口シンリン酸化は著明に抑制された.また,100 yM GM3を96時 間作 用させ た時のイ ンスリ ン刺激に よる脂 肪細胞の 糖の取 り込みも0.lnM TNFaで96時間作用させた時と同様に低下を認めた.このことから,3T3‐L1脂肪細胞では 外因性のGM3はインスリンシグナルを抑制することが示された.
次に,グルコシルセラミド由来の内在性スフインゴ糖脂質を枯渇させることが可能であ るグ ルコシ ルセラミ ド生合成酵素阻害剤(D一PDMP)を用い内因性GM3のインスリンシグ ナル ヘの影 響を検討 した.3T3−L1脂 肪細胞 をTNFaで96時間処理するとインスリンレセ ブ夕一のチ口シンリン酸化は軽度に抑制され,IRS−1のチ口シンリン酸化は著明に抑制され た,しかし,TNFaとD−PDMPで同時に処理するとIRS‐゛1のチ口シンリン酸化の抑制は回 復し た.こ の時のGM3含量 は,TNFa処理 の有無 にかかわ らずDーPDMP処理群では減少し ていた.以上より内因性GM3の量的変化がインスリンシグナルに関与していると考えられ た.
さ らに,D‐PDMPが インスリ ンのレセ プ夕一 結合に影響を与えるか検討した.96時間 D‐PDMPで処理した3T3‐L1脂肪細胞は,対照の3T3・L1脂肪細胞と比較してインスリンの レセ プ夕一 結合は同 程度であルインスリンのレセプ夕一結合には影響を与えなかった.
本 研究によ って,3T3ーLl脂 肪細胞に おいて は,1)TNFa処理を行うとGM3が膜表面,
細胞 内でと もに増加 し,さらにGM3合成酵素活性とその転写レベルも亢進すること,2) 外因性のGM3が,3T3‐L1脂肪細胞におけるインスリンシグナルを抑制すること,3)長時 間のTNFa処理時 に内因 性のGM3合成を阻 害する と,n岬aによるIRS―1のチ口シンリン酸 化の抑制が回避されることが示された.
以上から,マウス脂肪細胞株である3T3‐Llにおいて長時間TNFa処理によるインスリン 抵抗性にガングリオシドGM3が関与していると考えられた.この結果から,肥満における イン スリン 抵抗性にGM3が関与していることが推測され,2型糖尿病に対する治療の標的 分子の候補として,GM3が注目される.
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 西 村 正 治 副 査 教 授 石 橋 輝 雄 副 査 教 授 小 池 隆 夫
学 位 論 文 題 名
3T3‑L1 脂肪細胞における
ガングリオシドGrvI3 のインスリン抵抗性への関与
2型 糖尿 病患 者の 激増 は 近年 世界 的な 問 題と なっている.インスリン 抵抗性は,過食・運動 不足に伴う 肥満により誘発されインス リン感受性が低下した状態で あり,2型糖尿病の誘因のー つ であ る. イ ンス リン 抵抗性を伴う肥満者や そのモデル動物では,脂肪 組織でtumor necrosis factor (TNF)aの 発 現 が 増 強 し て い る .3T3‑L1脂 肪 細 胞を 長時 間TNFaで処 理す ると 糖の 取 り 込 み の低 下とIRS‑1の チロ シン リ ン酸 化の 抑制 が認 め られ てい る. し かし .TNFaが イン ス リン抵抗性 を起こす分子機構に関して は未だ不明な点が多い.
ガン グリ オ シド は, レセプターの自己リン 酸化を抑制するとい報告が ある.ガングリオシド は シグ ナル 伝 達のmodulatorと して の側 面 を持 ち,インスリン感受性低 下にも関与する可能性 が ある が, ガ ング リオ シド と脂 肪 細胞 でのTNFaによ る イン スリ ン抵 抗 性との関連性はこれま で 全く 検討 さ れて いな い.本研究では,培養 脂肪細胞でのTNFaによるイ ンスリン抵抗性発症に GM3が関与 する可能性について検討した .
方 法 は, マウ ス由 来の3T3‑L1脂肪 細胞 を 用い た,O.l nM TNFaで処 理 した 時の3T3‑L1脂 肪 細 胞 でGM3の 経 時的 変化 を検 討し た .細 胞表 面のGM3はフ ロー サ イト メト リー ,細 胞 内GM3含 量はLadish法で測定した.GM3合成酵素 活性は,[1℃】で標識した シアル酸を用いて測定した.
GM3合 成酵 素mRNAレ ベル は ,RT‑PCRにて 検 討し た,インスリンレセプタ ー(IR)とIRS‑1のチロ シ ンリ ン酸 化 は, それ ぞれの抗体で免疫沈降 後抗リン酸化チロシン抗体 であるPY20抗体による ウェスタン ブロッティング法で評価、した,糖の取り込みは,[3Hl2̲deoxyglucoseの取り込み量を 測 定 し た . イ ン ス リ ン 結 合 実験 は ,IRへの 【125[ブ 夕 ・イ ンス リン の 結合 量で 測定 した . フ 口 ー サ イ ト ヌ ト リ ー とGM3含 量 ,GM3合 成 酵 素 活 性 ,GM3合 成 酵 素mRNAレ ベ ル は すぺてTNFa処理により経時的増加を認 めた.
100 vM GM3を12時 間 作 用 さ せ た 時 , イ ン ス リ ン 刺 激 によ るIRとIRS‑1の チロ シン リン 酸 化 は著 明に 抑 制さ れた , 100 rxMGM3を96時 間作用させた時のインスリ ン刺激による糖の取り 込みもTNFa処理時と同様に低下を認め た.
3T3‑L1脂 肪 細 胞 をTNFaで96時 間 処 理 す る とIRの チ 口 シ ン リ ン 酸 化 は 軽 度 に 抑制 され , IRS‑1のチ ロシ ンリ ン酸 化 は著 明に 抑制 さ れた ,しかし,TNFaとグルコ シルセラミド生合成酵 素 阻 害 剤で ある1― フェ ニル ー3イソ プチ ル キサ ンチ ン(D‑PDMP)で同 時に 処理 する とIRS‑1の チ ロ シ ン リ ン 酸 化 の 抑 制 は 回 復 し た . こ の 時 のGM3含 量は ,D‑PDMP処 理群 では 減少 して い た,
96時 間D‑PDMPで 処 理 し た3T3‑L1脂 肪 細 胞 は , 対 照 の3T3‑L1脂 肪 細 胞 と 比 較 し てIR結 合は同程度 でありIR結合には影響を与 えなかった,
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以上から,マウス脂肪細胞株である3T3‑L1においてTNFa処理によるインスリン抵抗性に ガングリオシドGM3が関与していると考えられた,この結果から,肥満におけるインスリン抵 抗性にGM3が関与していることが推測され,2型糖尿病に対する治療の標的分子の候補として,
GM3が注目される.
審査にあたり,副査小池教授より,1)他の脂肪細胞でのガングリオシドの発現について,2) D‑PDMPのIRS‑1以外のIRSファミリーへの影響について,3)GM3の作用部位について,4) TNFaで増加 するGM3に対す る治療への応用について、5)GM3のTNFレセプ夕一シグナルヘ 作用するかについて質問があり,副査石橋教授より1)GM3のセラミド部分の構造の違いによる 効果の差があるかについて,2)細胞内GM3について,3)D‑PDMPの作用で起こるGM3以外の 影響について,4) GM3添加実験が有効かにつし〕て、5)TNFa以外の物質の作用に対する影響に ついて質問があった,主査西村教授からは,1)内因性と外因性のGM3の作用の違いについて・
2)細胞表面と細胞内GM3の役割の違いについて,3)外因性GM3の細胞内動態についての質問 が あ っ た . 申 請 者 は こ れ ら の 質 問 に 対 し て 適 切 な 解 答 を お こ な っ た . 審査員一同は本研究を、脂肪細胞におけるGM3のインスリン抵抗性への関与について検討し た研究として高く評価し,博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有すると判定した.
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