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博 士 ( 水 産 科 学 ) 豊 島 琴 恵

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 豊 島 琴 恵

     学位論文題名

すり身排液を有効活用したイワシ油の酸化安定性      および機能性に関する研究

学位論文内容の要旨

  本 格 的 な 高齢 化社 会を 迎え 「食 」に 対す る人 々の 関心 は多 様化 しつっ あり 、こ れ までの「おいしさ」に加えて、健康の維持増進が求められている。こうしたことから、生 活 習 慣 病 の 予防 など が期 待さ れる 「機 能性 食品 」に 対す る関 心は 高い。 そん な中 、 水 産 物 中 に 特 に 多 く 含 ま れ るDHAやEPAな ど の 多 価 不 飽 和 脂 肪 酸 は 、 制 ガ ン 作 用 、 抗 動 脈 硬 化 作 用 、 抗 血 圧 作 用 、 脳 機 能 維 持 作 用 等 の 特 徴 的 な 生 理 作 用 を 有 す る こ と が 報告 され てお り、 各分 野ー のこ れら 機能 性脂 肪酸 の利 用が積 極的 に図 ら れ て い る 。 した が っ て 、 水 産 物 か ら のDHAやEPAを 多 く 含 む 油 脂 の よ り効 率 的か つ 経済的な分離・回収システムの開発が常に望まれている。

  DHAやEPAの主 たる 供給 源は 、イ ワシ 、カ ツオ 、マ グロ など の魚 油であ り、 これ ら の 魚 油 は 一 般的 に魚 体を 蒸し 煮す るい わゆ る「 煮取 り法 」と 呼ば れる工 程を 経て 工 業 的 に 製 造 され てい る。 しか し、 多く の場 合、 水産 食品 製造 時に 排出さ れる 残滓 は DHAやEPAな どの 油 脂 を 多 量 に 含 ん で い る に も か か わ ら ず ほ と ん ど 利 用さ れ るこ と は な い 。 油 脂含 有廃 棄物 は水 質汚 濁の 原因 とも なり 、こ れら 廃棄 物から の油 脂の 効 率的 回収 法の 確立 が求 められ る。 排出 物のゼロを目指す「ゼロエミッション」の観点 から も、 エネ ルギ ーの 使用を でき るだ け抑えて自然に近い状態で有効活用することが 重要である。

  と こ ろ で 、魚 体を 高温 で蒸 し煮 する 煮取 り法 で得 られ た魚 油は そのま ま食 用油 脂 として用いることはできず、その後さらなる、脱色・脱臭といった精製処理を行う必要 が あ る 。 し か し 、 魚 油 に 多 く 含 ま れ るDHAやEPAは 分 子 中 に 多 数 の 二 重 結 合 を 有 す る た め 非 常に 不 安 定 で あ り 、 高 温 で 処 理 を す る 煮 取 り 方 法 の 工 程 では 、DHAやE PAは 容 易 に 酸化 され 、得 られ た魚 油の 品質 が低 下す る恐 れが ある 。また 、煮 取り 法 に よ っ て 得 られ た粗 油の 精製 も高 温で 行わ れる ため 、こ うし た工 程では 反応 性の 高

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いDHAやEPAは異 性化 や重 合な ど様々な反応を起こし、その栄養価が損なわれる 恐れが十分考えられる。こうした課題からも加熱工程を伴わない天然に含まれる魚 油そのものの効率的な回収方法が求められる。

  一 方 、 わが 国 に は伝 統的に 水産 加工 業と して、 すり 身製 造が 挙げら れる 。   このすり身加工残滓に対する検討も、環境課題の改善といった観点から極めて重 要で ある 。すり 身排 液に はDHAやEPAといった脂溶性有効成分が多く含まれてい るため、これらの効率的な回収と、これによる排液の浄化は、環境保護を進める点で 積極的な検討が期待されている。

  そこで、本研究ではすり身排液中に含まれる有用資源として多量に含まれる「魚 油」に注目し、その効率的な回収法の開発を行った。

  すり身排液からの魚油の回収法として遠心法を用いた。この方法ではそもそも冷 凍魚を用いるため、すべての工程が10℃程度の低温で行われ、よって魚油の酸化と トコフェロールなどの抗酸化物質の消失が最小限に抑えられている可能性が高い。

したがって、このような方法で得られた油脂は、従来の煮取り法により回収された魚 油な どと 比べて 酸化 安定 性が 高く、また、DHAやEPAなどの機能性の脂肪酸も比 較的多く含まれている可能性が考えられる。

  そのことから本研究では、すり身排液から分離・回収した魚油の酸化安定性およ び栄養機能性について検討を行った。

  結果、酸化安定性については、すり身排液からの回収油が有意に高い安定性を 示した。このことは強い抗酸化カを持つa―トコフェロールが、煮取り油に比べて数 倍も多く含まれていたからだけではなく、油脂よりTGのみを取り除いた酸化実験にお いても、高い安定性を示したことから、油脂に含まれる微量成分による影響も推測さ れる 。TG中に含 まれ る微 量成 分について、さらなる詳細な検討が必要である。

  また、高温処理を行う煮取り油中には、トランス酸やDHAおよびEPA由来の共役 不 飽 和 脂 肪酸 の 存 在が 示唆さ れて いる 。共 役型のDHAある いはEPAは脂 質の 酸 化を促進することがこれまでの検討により明らかにされており、煮取り油の酸化安定 性の低さはこうした成分に起因するとも考えられている。

  次に、ラットおよびマウスを使った動物実験による栄養性の検討では、体重および 肝臓重量等の低下が、すり身排液より低温回収した魚油を飼料として投与した群に おいて確認されたことから、この低温油には内臓脂肪を低下させる作用があるものと 推測できる。さらにこの油脂は、コレステロール、中性脂質、総脂質といった血漿脂 質船よぴ血糖レベルにおいても、顕著な減少効果が確認されたことから、血漿脂質     ―191―

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改善作用、抗血糖作用も期待できる。

  これら確認された栄養性にっいては、魚油中に多く含まれるEPAやDHAといった 多価不飽和脂肪酸の持つ機能性と重複している。しかしながら、投与した飼料のす り身排液低、温油と煮取り油との間には脂肪酸組成に大きな差が見られなかったこと か ら 、 機 能効 果 を っ か さ ど る 要 因 は また 別 の と こ ろ に あ る と 推 察 でき る 。   その原因としては、一っに栄養性を妨げるトランス酸が生成されていないことが栄 養効果を高めている可能性にっながったことが考えられる。またすり身排液抽出油は 熱をかけないで製造するため、本来魚油が持つ機能性の成分の損失が最小限で済 んだこと。さらに、魚油本来に存在する水溶性の微量栄養機能性成分が熱を加えな いことで消失せずに機能性を発揮したこと。など以上の点が可能性として考えられ る。

  これまで水産加工残滓の有効利用とこれによるゼロエミッションの達成が求められ ながらも、100%の原料利用には達してこなかった。今回出来る限り100%の原料利 用に近づけることで、無駄なエネルギーを使わず、自然に近い状態で資源を有効活 用することができ、食品そのものの栄養性が阻止されることなく、利点のみを最大限 発揮されていると考えてよい。

  さらに本事業で開発した魚油回収法は、すり身製造以外の各種の水産加工現場 あるいは魚油製造現場にも大いに活用できるものである。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    宮下 和夫 副 査    教 授    板橋    豊 副査   助教授   細川雅史

学 位 論 文 題 名

すり身排液を有効活用したイワシ油の酸化安定性      および機能性に関する研究

  水 産 物 中 に 特 に 多 く 含 ま れ るDHAEPAな ど の 多 価 不 飽 和 脂 肪 酸 は 、 制 ガ ン 作 用 、 抗 動 脈 硬 化 作 用 、 抗 血 圧 作 用 、 脳 機 能 維 持 作 用 等 の 特 徴 的 な 生 理 作 用 を 有 す る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 各 分 野 へ の こ れ ら 機 能 性 脂 肪 酸 の 利 用 が 積 極 的 に 図 ら れ て い る 。 し た が っ て 、 水 産 物 か ら のDHAEPAを 多 く 含 む 油 脂 の 、 効 率 的 か つ 経 済 的 な 分 離 ・ 回 収 シ ス テ ム の 開 発 が 常 に 望 ま れ て い る 。DHAEPAの 主 た る 供 給 源 は 、 イ ワ シ 、 カ ツ オ 、 マ グ ロ な ど の 魚 油 で あ り 、 こ れ ら の 魚 油 は 一 般 的 に 魚 体 を 蒸 し 煮 す る い わ ゆ る 「 煮 取 り 法 」 と 呼 ぱ れ る 工 程 を 経 て 工 業 的 に 製 造 さ れ て い る 。 と こ ろ で 、 煮 取 り 法 で 得 ら れ た 魚 油 は そ の ま ま 食 用 油 脂 と し て 用 い る こ と は で き ず 、 そ の 後 さ ら な る 、 脱 色 ・ 脱 臭 と い っ た 高 温 を 伴 っ た 精 製 処 理 を 行 う 必 要 が あ る 。 し か し 、 こ う し た 工 程 で は 反 応 性 の 高 いDHAEPAは 異 性 化 や 重 合 な ど 様 カ な 反 応 を 起 こ し 、 そ の 栄 養 価 が 損 な わ れ る 恐 れ が あ る 。 し た が っ て 、 加 熱 工 程 を 伴 わ な い 天 然 に 含 ま れ る 魚 油 そ の も の の 効 率 的 な 回 収 方 法 が 求 め ら れ る 。   そ こ で 、 本 研 究 で は 、 わ が 国 の 伝 統 的 な 水 産 加 工 業 で あ る 、 す り 身 製 造 に 着 目 し 、 イ ワ シ す り 身 排 液 中 に 含 ま れ る 魚 油 の 、 低 温 下 で の 効 率 的 な 回 収 法 に っ い て 検 討 し た 。 本 研 究 で 得 ら れ た 新 知 見 は 以 下 の 通 り で あ る 。 1. イ ワ シ す り 身 排 液 か ら の 魚 油 の 回 収 法 と し て デ ラ バ ル 型 遠 心 機 と 高 速 遠 心 機 を 併 用 さ せ る 技 術 を 開 発 し た 。 こ の 方 法 で は 排 液 温 度 を10℃ 前 後 に 保 ち 、 流 量 を 一 定 に 制 御 し 、 ま た 、 空 気 と の 接 触 を 排 除 し た 密 封 系 の 配 管 シ ス テ ム を と っ た 。 こ れ に よ り 、 乳 化 の 防 止 、 酸 化 の 防 止 及 び 油 脂 の 固 化 の 防 止 を 行 う こ と が で き た 。

2.本 研 究 で 開 発 し た イ ワ シ す り 身 排 液 か ら の 魚 油 の 回 収 法 に よ り 、 イ ワ シ す り 身 排 液 中 の 油 脂 の 約70% 以 上 が 回 収 で き る こ と が 分 か っ た 。 こ れ に 伴 い 、 排 液 のBODCODも 低 下 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 し た が っ て 、 本 回 収 シ ス テ ム に よ り す り 身 排 液 に よ る 環 境 へ の 負 荷 を か な り 軽 減 で き

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ることも示された。また、得られた油脂の脂肪酸組成を検討したところ、い ずれの排液も原料となるイワシから得られる魚油の脂肪酸組成を反映した値 を示していた。イワシすり身製造過程で生ずる排液から得られた油脂(低温 油)は薄い黄色をしており、味も通常の市販魚油と変わらず苦み等もなかっ た。したがって、これらの油脂はこれ以上の精製(脱色・脱臭)をせずに食 用油脂として利用できることがわかった。

3.イワシすり身排液から得られたイワシ油(低温抽出イワシ油)は煮取り 法により得られたイワシ油(市販イワシ油)よりも高い酸化安定性を示し た。これは、市販油中には重合物や共役脂肪酸などの酸化促進物質が精製工 程で生ずるのに対し、低温油ではこうした不純物がふくまれないためと考え られた。

4.低温抽 出イ ワシ 油に っいて 、ラ ット及ぴマウス(肥満病態マウス;

KKAy)の肥満・脂肪代謝に与える影響について市販のイワシ油と比較検討 したところ、いずれのイワシ油も脂肪組織重量を低下させた。しかし、その 傾向は低温抽出油の方が顕著であった。また、総コレステロール含量や中性 脂肪含量も両イワシ投与でコントロールに比べて減少したが、この場合も低 温抽出イワシ油においてその効果はより顕著であった。その他、マウスにお いては低温抽出イワシ油においてより強い抗糖尿病効果が、また、ラットに おいては低温抽出イワシ油群でのみ肝臓脂質重量の有意な低下が見られた。

5.こうした低温抽出イワシ油の栄養効果の高さは以下の2つの原因に由来 するものと考えられた。1)低温抽出イワシ油では、市販のイワシ油のよう な高温処理や化学的処理をしなぃため、栄養効果の低下をもたらすトランス 酸などの不純物が市販のイワシ油に比べて少ないこと。2)イワシ油に本来 含 まれるEPAやDHA以外 の微量 の活 性成分が、市販油ではその精製工程 で 消 失 す る の に 対 し 、 低 温 抽 出 イ ワ シ 油 で は 失 わ れ な い こ と 。   本研究で明らかとなったイワシすり身排液からの魚油の大量調製法の確立 とその高い肥満・脂肪代謝制御作用は、新たな高機能魚油を創出する上で画 期的な技術と考えられる。また、この方法は機能性の高い魚油を大量に調製 できるだけでなく、環境保護、未利用資源の有効利用、高付加価値水産素材 の創出といった観点からも極めて有用であると思われる。今後、本研究で得 られた油脂回収法の様々な水産加工分野での応用が期待される。よって審査 員一同は本論文が博士(水産科学)の学位を授与される資格のあるものと判 定した。

参照

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