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博士(医学)富居一範 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(医学)富居一範 学位論文題名

HTLV‑I LTR‑env‑pX 遺伝子導入ラットにおける 臓器特異的自己免疫疾患の発症機序に関する検討

学位論文内容の要旨

  自己 免疫疾患は,免疫系を中心とする様々な遺伝的要因を背景に何らかの環境要因をき っか けとして免疫学的自己寛容状態の破綻をきたし発症すると考えられる.その破綻を誘 導す る環境要因としては,以前より種々の病原体の関与が想定されている.特にウイルス は, その感染症で様々な自己免疫現象や自己免疫疾患類似の病態を引き起こすことが知ら れ て お り 注 目 さ れ て い る . ヒ トT細 胞 自 血 病 ウ イ ル スI型 (HumanTlymphocytevirus typeI,以 下HTLV‑I) は, 成 人T細 胞 白血 病(ATL)の 原 因ウ イ ルス で ある の みな らず,

痙 性 脊髄 麻 痺を 主症状 とするHAM/TSPを はじめとし て,慢性関 節リウマチ 類似の関節 炎

(HAAP),シェー グレン症候 群類似の唾 液腺炎,HTLV‑Iぶどう膜炎,T細胞性肺胞炎(HAB) など ,HTLVーI関 連疾患と総 称される自 己免疫疾患に類似した様々な疾患を引き起こすこ と が 知ら れ てい る .当 教 室で は ,こ の よう なHTLV‑Iの多彩な 病原性につ いてinvivoで 解 析 する た め,HTLV―IのEnvおよ びp40‑Tax蛋白 をコードす るenv‑pX遺伝子をウ イルス 自 身 のLTRプ □ モー タ ーの 制 御下 にWKAHラッ ト 受精卵に 導入してHTLV‑I LTR−env−pX トラ ンスジ工二 ックラット (以下env‑pXラット )を作製し ,このラッ トに慢性関節リウ マチ 類似の関節 炎,壊死性 血管炎,皮 膚炎,心筋炎,筋炎など様々なcollagen vascular diseasesが発症することを報告してきた. 本研究では,env‑pXラットに認められる自己 免疫 疾患の発症 機序を明ら かにするた めに,正常 同系ラッ卜 との間で,脾細胞置換実験

(SCT)およ び 骨髄 細 胞置 換 実 験(BMT)を行 い ,レシ ピェントラ ットにおけ る疾患発症 の有 無について病理学的ならびに血清学的解析を行った.また,胸腺でのりンパ球分化過 程に おける導入遺伝子の役割を明らかにするために,胸腺を置換した上で骨髄細胞移入実 験(ATx+TT+BMT)を行い病理学的ならびに血清学的解析を行った.

  まずSCTで は,env‑pXラットの 脾細胞を正 常ラットに 移入した群 では皮膚炎 と血管炎 つ発 症が観察された.皮膚炎については,肉眼的に脱毛が認められ,病理組織学的には表 皮および真皮への単核球浸潤,表皮の潰瘍,錯角化などが観察された.この所見は,env‑pX ラッ トに認められる皮膚炎の所見と同様であった,また血管炎については,上縦隔あるい は腸 間膜,精巣血管網など脂肪織によって周囲を支持されている組織内の小動脈に,周囲 の線 維増生,単核球主体の炎症細胞浸潤,血管壁中膜のフィブリノイド壊死を伴う壊死性 動脈 炎像であっ た.一方, 正常脾細胞 をenv‑pXラットに移 入した群で は,ほぼすべての 疾 患 の発 症 が抑 制され た.次にBMTでは,env‑pXラッ ト骨髄細胞 を正常ラッ 卜に移入し た群 では,皮膚炎の発症が誘導されたが,その他の疾患の発症は認められなかった.皮膚

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炎について は,肉眼的 および病理 組織学的にSCTで認められたものと同様の所見であった 一方,env‑pXラッ卜に正常骨髄細胞を移入した群では,皮膚炎の発症は抑制されたが,関 節炎,血管炎,心筋炎,筋炎は抑制されなかった.関節炎については,env‑pXラットで認 められていた骨破壊像やバンヌスの形成は認められず,関節腫脹も示さなかったものの,

関節滑膜の|ining ce‖hyperplasiaや周囲問質への単核球等の炎症細胞浸潤が認められた,

ま たATx+TT+BMTで は , 正 常WKAHラ ッ ト に 放 射 線 照 射 後 胸 腺 を 摘 出 し ,env‑pXラ ッ トの胸腺フレームワークを移植し正常骨髄を移入した群において,病理組織学的に,精巣 血管網の部位を主体とし,血管の内腔,壁,および周囲への単核球主体の炎症細胞浸潤や,

周囲線維の肉芽腫様増生によって構成され,一部フィブリノイドの沈着を示す壊死性血管 炎の発症が認められた.血管炎以外の関節炎,心筋炎,筋炎,皮膚炎の発症は認められな かった.ま た血清学的 解析では,BMTレシピェントラットでは,関節炎を発症したラット の一 部 にり ウ マト イ ド因 子 (RF)の産 生 が認 めら れたが,SCTおよびATx十TT十BMTの群 では明らかなRFの産生は確認されなかった.

  以上の結果から,env‑pXラットに認められる自己免疫疾患には標的となる臓器により異 なる発症機 構が存在す ることが示 唆された. まず,皮膚 炎について は,SCT,BMTのいず れでも正常ラッ卜に疾患の移入が可能であった.したがって,env‑pXラットの皮膚炎は,

env‑pX遺 伝子を発現するりンパ球が自己抗原を標的として起こす自己免疫疾患であり,そ の自己免疫現象の成立には,胸腺は関与していないものと思われる.次に関節炎や心筋炎,

筋炎 に つい て は,BMTお よ びSCTの 結 果か ら ,標 的組織にお けるenv‑pX遺伝子 の存在が 疾患発症に は必要であ ると考えら れる.すな わち,標的 分子はenv‑pX遺伝子産物そのも の, あ るい はenv‑pX遺伝子に 関連した抗 原と考えら れるが,関 節炎局所の 浸潤T細 胞の T細胞レ セプター解 析の結果か らは,env‑pX遺伝子産物そのものといった単一の抗原が標 的となって いる可能性 は低く,む しろenv‑pX遺伝子に 関連した多 彩な抗原を標的とした 免疫反応が考えられている.一方,env‑pXラットの血液細胞を正常骨髄で置換することに よりこれらの疾患の程度は抑えられるので,env−pX遺伝子を発現するりンパ球は疾患の増 悪因子とし て働いてい ることも示 唆される.一方血管炎は,SCTで正常ラットに移入可能 であることより,正常の血管構成分子が標的となり発症する自己免疫疾患であるといえる.

しか し ,皮 膚 炎と異 なりBMTで は,正常ラ ッ卜に疾患 を移入でき なかった.env‑pXラ ッ トの脾細胞 と骨髄細胞 の違いは,env‑pX遺 伝子を発現 する胸腺を 通過しているかどうか の違いと考えられるので,env‑pXラッ卜の血管炎の発症には胸腺が深く関わっていると想 定さ れ る. そ こで 血 管炎 発 症に お ける 胸 腺 の関与 を明らかに するためにATx+TT+BMTを 行ったとこ ろ,胸腺の フレームワ ークにのみenv‑pX遺 伝子を発現 するように作製したラ ットに予想されたとおり血管炎の発症が観察された.したがって,env‑pXラッ卜の血管炎 は未熟なり ンバ球がenv−pX遺伝子 を発現する胸腺を通過することにより,正常の血管構 成分子に対する反応性を保つ自己反応性細胞として末梢に出現してしまうことにより発症 する自己免 疫疾患と推 定される.ATx+TT+BMTの 実験系では ,レシピェ ントの末梢血への 移植胸腺由来リンパ球の混入は不可避であるが,今回の検討ではその混入比率は極めて低 く,env−pXラットの移植胸腺由来のりンバ球が血管炎の発症に関与した可能性は考えにく い. 今 後マ イ ク口ダ イゼクショ ン法により 血管炎局所 の浸潤リン パ球から選 択的にDNA を 抽 出 し , env‑pX遺 伝 子 が 検 出 さ れ な い こ と を 確 認 す る 必 要 が あ る , 現在のところ,env‑pX遺伝子を発現する胸腺フレームワークがどのような分子機構で自己

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に対する免疫学的寛容の破綻を誘導しているのかは明らかではないが,env−pXラットの胸 腺非リ ンバ球系細 胞における 種々の遺伝子発現の変化について,DNAアレイなどを用いて 検討す る必要があ る.また,env‑pXラ ットおよびenv‑pXラッ卜胸腺に置換した正常ラッ トにおいて血管局所に浸潤するりンノヾ球のク□ーン解析や血管炎惹起性のりンバ球ク□ー ンの樹立などの検討も必要である.

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

HTLV‑I LTR‑env‑pX 遺伝 子導 入ラ ットにおける 臓器特異的自己免疫疾患の発症機序に関する検討

  ヒ トT細 胞 白 血 病 ウ イ ノ レ スI型 (HumanTlymphocytevirustypel、 以下HTLV‑I)は、 成人T細胞白血 病(ATL)の原因ウイルスであるのみならず、

HTLV‑|関連疾患と総称される自己免疫疾患に類似した様々な疾患を引き起こす ことが 知られている。当教室では、このようなHTLV‑Iの多彩な病原性について invivoで 解 析 す る た め 、HTLV‑Iのenv‑pX遺伝 子 をウ イル ス 自身 のLTRプ ロ モ ータ ーの制御下 にWKAHラット受精卵 に導入してHTLV‑|LTR‑env−pXトラン ス ジェ ニックラッ 卜(以下env‑pXラット) を作製し、こ のラッ卜に様 々な自 己免疫 疾患が発症することを報告してきた。本研究では、env‑pXラットに認め られる 疾患の発症機序を明らかにするために、正常同系ラットとの間で、脾細 胞 置換 実験(SCT)およ び骨髄細胞置 換実験(BMT)を行 い、レシピェ ン卜ラ ットにおける疾患発症の有無について病理学的ならびに血清学的解析を行った。

また、 胸腺でのりンパ球分化過程における導入遺伝子の役割を明らかにするた め に、 胸 腺を 置 換し た上 で 骨髄 細 胞移 入実 験(ATx+TT+BMT)を 行い病理学的 な らび に 血清 学 的解 析を 行 った 。BMTで は、env‑pXラット骨 髄細胞を正常 ラ ットに 移入した群では、皮膚炎の発症が誘導されたが、その他の疾患の発症は 認めら れなかった。一方、env‑pXラットに正常骨髄細胞を移入した群では、皮 膚炎の 発症は抑制され、関節炎、血管炎、心筋炎、筋炎は発症するものの病勢 の 減弱 が 認め ら れた 。SCTで は、env‑pXラッ トの脾細胞を正 常ラッ卜に移 入 し た群 では皮膚炎 と血管炎の発 症が観察された 。一方、正常 牌細胞をenv‑pX ラ ッ ト に 移 入 し た 群 で は 、 ほ ぼ す べ て の 疾 患 の 発 症 が 抑 制 さ れ た 。 また ATx+TT+BMTで は、 正 常ラ ッ トにenvーpXラ ツ卜の胸腺フ レームワーク を移植 し正常 骨髄を移入した群において、血管炎の発症が認められた。血管炎以外の 関節炎 、心筋炎、筋炎、皮膚炎の発症は認められなかった。また血清学的解析

敬夫 司       隆 孝 木池 村 吉小 西 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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では、BMTレ シピェン卜ラ ットでは、関節 炎を発症したラッ卜の一部にりウマ ト イド 因 子(RF) の 産生 が認 め られ た が、SCTおよびATx十TT十BMTの 群では 明 らかなRFの産生は確認 されなかった。 以上の結果か ら、env‑pXラットに認 められ る自己免疫疾患には標的となる臓器により異なる発症機構が存在するこ と が示唆 された。とく にenv‑pXラツ卜の血管炎 は未熟なりン パ球がenv‑pX遺 伝子を 発現する胸腺を通過することにより、正常の血管構成分子に対する反応 性を保 つ自己反応性細胞として末梢に出現してしまうことにより発症する自己 免疫疾患と推定された。

  口頭発表 において、西村孝司教授より血管炎発症時に、env‑pX遺伝子を発現 す る胸腺 フレームワー クにおいて自 己反応性T細胞のselection機構 にどのよ うな異 常があると考えられるのか、env‑pX遺伝子を発現する胸腺で正常血管内 皮細胞の抗原と交叉性をもつ抗原が存在するのか、疾患局所浸潤細胞はThl、Th2 のどち らが優位なのか 、正常ラット における抑制性T細胞の解析状況にっいて 質 問があ った。続いて 、小池隆夫教 授よりenv‑pXラッ卜にお ける血管炎は ヒ 卜にお いてどのような血管炎のモデルになるのか、また液性免疫の影響を除い た モデル の確立の必要 性、WKAHラットをバ ックグラウン ドとしないとこ れら の疾患 は発症しないのか、移植した胸腺内に残存しているりンパ球が血管炎発 症に関 与している可能性にっいて質問があった。また、古木敬教授よりenv‑pX ラット の胸腺フレームワーク内でどのような分子の異常があるのか、血管炎惹 起性T細胞 クローンの樹 立、血管局所 浸潤細胞の性格について質問があった。

以 上 の 質 問 に 対 し 申 請 者 は 概 ね 妥 当 と 思 わ れ る 回 答 を し た 。   この論文 は、血管炎の新しい発症機序を示すものとして高く評価され、今後 血 管炎 の 発症 機 構を 解明 す る動 物 モデ ル とし て更 な る解 析 が期 待 され る。

  審査員一 同はこれらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単 位など も併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するも のと判定した。

参照

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