大学法人化とモラル-コンテクストの変容- その4 法人化と政権交代
木村 競*
(2009 年 11 月 30 日 受理)
Corporation of National University and Moral (4)
Kiso K IMURA *
(Received November 30, 2009)
はじめに
「大学法人化とモラル-コンテクストの変容- その1 予備的考察」1)から「大学法人化」
に伴う状況の変化と大学の活動を論じる際のコンテクストの変容を論じてきた。本年二〇〇九年 八月の衆議院選挙の結果,政権が交代した。政権が交代すれば実行される政策も変化する可能性 が高い。「大学法人化」もその根幹である「中期目標・中期計画システム」も前政権下で実施さ れた政策である。民主党政権においてこの政策は見直されるのか。本稿を執筆している十一月の 段階では必ずしも自明ではないが,それがどのような状況の変化,コンテクストの変容を引き起 こしうる可能性があるのかを確認しておこう。
1 「民主党政策集INDEX2009」
民主党は総選挙直前の 2009 年7月 23 日付けで「民主党政策集INDEX2009」を発表してい る。いわゆるマニフェストが選挙用の宣伝パンフレットであるのに対して,こちらの方がより詳 細に政策を提示している(http://www.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/)。
その「文部科学」の章において高等教育に関して言及しているのは以下である。
日本国教育基本法案
民主党の教育政策の集大成である「日本国教育基本法案」の主な内容は以下のとおりです。
(1)何人にも「学ぶ権利」を保障(2)普通教育の最終的な責任が国にあることを明記(3)幼児期およ び高等教育において無償教育を漸進的に導入(4)地方の教育委員会を発展的に改組した「教育監査
* 茨城大学教育学部倫理学研究室(〒310-8512 水戸市文京 2-1-1;
Laboratory of Ethics, College of
Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan
)委員会」を創設し,教育行政の責任を首長に移管(5)教育予算の安定的確保のため,教育財政支出 について国内総生産(GDP)に対する比率を指標とする――などです
さらに,建学の自由と,私立学校の振興,障がいのある子どもへの特別な状況に応じた教育,情 報文化社会に関する教育,職業教育などの規定を設けるとともに,生命あるすべてのものを尊ぶ 態度や,宗教的感性の涵養および宗教に関する寛容の態度を養うことを教育上尊重する規定を設 けました。
教員の質(養成課程を 6 年制に)と数の充実
教員が職責を全うできるように,教員免許制度を抜本的に見直します。教員数を拡充するととも に,教員の養成課程は 6 年制(修士)とし,養成と研修の充実を図ります。教員が子どもと向き 合う時間を確保し,教育に集中できる環境をつくるため,経済協力開発機構(OECD)加盟の 先進国平均水準並みの教員配置(教員一人あたり生徒 16.2 人)を目指し,少人数学級を推進しま す。
高等教育の機会の保障
すべての人が,生まれた環境に関わりなく,意欲と能力に応じて大学などの高等教育を受けられ るようにします。現在,日本とマダガスカルのみが留保している国際人権A規約(締約国 160 カ 国)の 13 条における「高等教育無償化条項」の留保を撤回し,漸進的に高等教育の無償化を進め ます。
奨学金制度改革
学生・生徒に対する奨学金制度を大幅に改め,希望する人なら誰でもいつでも利用できるように し,学費のみならず最低限の生活費も貸与します。親の支援を受けなくても,いったん社会人と なった人でも,意欲があれば学ぶことができる仕組みをつくります。具体的には,所得 800 万円 以下の世帯の学生に対し,国公私立大学それぞれの授業料に見合う無利子奨学金の交付を可能に します。また,所得 400 万円以下の世帯の学生については,生活費相当額についても奨学金の対 象とします。
今後は,諸外国の例を参考に,給付型の奨学金についても検討を進めます。
大学改革と国の支援のあり方
「学生・研究者本位の大学」「創意ある不断の改革を現場から創発する大学」「社会に開かれ,
社会と連携・協働する大学」を目指し,「象牙の塔」から「時代が求める人づくり・知恵づくり の拠点」として大学改革を進めます。その際,世界的にも低い高等教育予算の水準見直しは不可 欠です。また,産業振興的な側面ばかりでなく,学問・教育的な価値にも十分に配慮を行います。
自公政権が削減し続けてきた国公立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直します。ま た,大幅に削減されてきた国立大学病院運営費交付金については,地域高度医療の最後の砦であ ることや,医療人材養成の拠点,研究機関としての機能を勘案し,速やかに国立大学法人化直後 の水準まで引き上げるとともに,今後十分な額を確保していきます。
なお,大学入試のあり方については,大学センター試験・大学入試そのものの抜本的な検討を進 めます。
医師養成数を1.5倍に増加
医師養成の質と数を拡充します。当面,経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の平均的な人 口当たりの医師数(人口1000人当たり医師3人)を目指します。
大学医学部定員を 1.5 倍にします。既存医学部の増員,看護学科等を持ち,かつ,病院を有する 大学の医学部設置等を行います。医師養成・協力機関等に十分な財政的支援を行うとともに,奨 学金を充実させます。
イノベーションを促す基礎研究成果の実用化環境の整備
2008 年の 169 回通常国会で超党派で成立させた研究開発力強化法の趣旨を踏まえ,今後とも科学 技術を一層発展させ,その成果をイノベーション(技術革新)につなげていきます。
産学官が協力し,新しい科学技術を社会・産業で活用できるよう,規制の見直しや社会インフラ 整備などを推進する「科学技術戦略本部(仮称)」を,現在の総合科学技術会議を改組して内閣 総理大臣のもとに設置します。同戦略本部では,科学技術政策の基本戦略並びに予算方針を策定 し,省庁横断的な研究プロジェクトや基礎研究と実用化の一体的な推進を図り,プロジェクトの 評価を国会に報告します。
また,素粒子物理学や再生医療等の巨額な予算を要する基礎科学研究分野において今後もトップ ランナーの地位を維持していくためにも,世界的な研究拠点となることを目指して,欧米やアジ ア諸国との連携強化に積極的に取り組んでいきます。
科学技術人材の育成強化
スーパーサイエンスハイスクール(科学技術・理数教育を重点的に行う学校)を拡充するととも に,科学の面白さを子どもたちに実感させるため,産業界の協力を得て,サイエンスキャンプ(研 究所などでの実験体験など)や研究者の小中学校への派遣などを行います。
研究者奨励金制度を創設するとともに,国内の優れた研究プロジェクトへの支援を強化します。
また,研究者ビザの拡充など優れた外国人研究者がわが国に集まる環境をつくります。
ここから見て取れるのは以下である。
第一に,資金面の手当てについては以前の政権よりも手厚く行うという方針である。「自公政 権が削減し続けてきた国公立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直します」をはじめ として,大学により多くの予算をつぎ込むとともに,学生に対しても漸進的な高等教育の無償化,
奨学金制度の拡充という形で経済的援助をすることを記している。
第二に,「「象牙の塔」から「時代が求める人づくり・知恵づくりの拠点」として大学改革を 進めます」という言い方に象徴されているように,大学の設置目的・理由である教育・研究活動 が「外部」の要請に対応したものであるべきだという考え方である。科学技術開発系の予算も含 め,それにあったものならば,お金を出すということである。医学部定員の 1.5倍化,教員養成 の6年化ということも,この考え方に沿ったものとして理解する必要がある。
2 大臣,副大臣の会見から
文部科学省に二人いる副大臣のうち,教育担当は鈴木寛(参議院議員)である。文部科学省の WEBでは大臣,副大臣の会見録を公表しているが,平成 21 年 10 月 22 日の鈴木副大臣の会見録 には以下のくだりがある(http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1286296.htm)。
記者)
一点確認したいんですけれども,現在の法律下での修士課程,今も教職大学院があるわけですけ れども,そこを卒業した人についてですね,将来的には修士の修了を免許を取る条件にするとい うことですが,今の法律上は関係ないんですか。要するに,今,教職大学院に行こうか行かない か迷っている人はいると思うんですけど,現在の法制下では,そこは要件にならないんですか。
副大臣)
来年の国会では今の法律を変えるわけではありませんから,来年度については要件にはなりませ ん。なりませんが,これは教職大学院の先生方に申し上げていこうと思っていますけれども,や はり,教職大学院が,あれだけの鳴り物入りで導入されたわけですから,明らかに教職大学院を 卒業した学生の皆様方は,それぞれの県が当面は実施し続ける採用試験において,圧倒的な的確 性というか能力を示すような学生を養成していただいているはずだし,あるいは当然学生は,よ り充実した教育が受けられると思ってそこに進学をされているんでしょうから,当然教員になり たいという方は,今でも本来,教職大学院に行かれて自分の力を磨かれた方が,公正,公平な,
かつ適正な採用試験の中で有利であるはずですね。
もしそうでないとすれば,教職大学院の入学試験選考に問題があるのか,あるいはそこで
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年間 やっておられる教育課程に問題があるのか,あるいはそれを担っておられる先生方に問題がある のか,いずれかですから,それはすべて現在の教職大学院の問題ですよね。私たちは,本当は15
日に教職大学院の方々とお会いする機会があったので,そこでバシッと申し上げようと思ったん ですけども,ちょっと概算要求で申し上げる機会を逸しましたが,なるべく近い将来お会いして,当然そうですよねという確認はさせていただきたいと思っています。
記者)
制度改革前の教職大学院に行くのをちょっと控えようかなというような意識が働かないかなとい う懸念なんですけど。
副大臣)
これもお会いしたときに申し上げようと思っているんですけれども,教職大学院は,もちろんそ れに限ると言うつもりはありません。ありませんけれども,今後の日本の教員の育成の中心的リ ーダー役を担っていただく機関であるということは間違いないと思うんですね,教職大学院とい うのは。
したがって,新しい制度下における,特に修士課程の教育のモデルとなるような教育人材育成を,
もう来年からでも速やかに行っていただきたいということは強く強くお願いしたいと思います し,そこでのグッドプラクティスというか,要するに優良事例を見ながら,どういうカリキュラ ムを標準としていったらいいのかというのは,正に来年の
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月から始まる教職大学院での教育と いうものが,未来というか,近い将来のものを,数年先取りをするというかっこうになりますか ら,数年先取りして受けておいていただいた方は,それはお得なんじゃないかなというふうに思 います。記者)
ただ現状では,かなり定員割れしていたり人気がないんですよね。実際にメリットがないという ところでですね,受験したところ,あんまり行きたがる人がいないという現状にあるわけで,そ れだからこそ改革しようかという話になっていたわけですが,この状況ではあんまり行きたがる 人もますます減るんじゃないかという気がしますけれども。
副大臣)
教職大学院全般についてというよりも,大学毎に学生の期待にこたえられていない大学も現にあ ると思います,個人的に,どことは申し上げませんけども。そういうところにはですね,やはり 相当今の現状を厳しく受け止めていただいて,その改革についての何か努力というか,姿勢とい うか,取組というのを,こういうことも一つの契機としてやっていただきたいというふうに思い ますし,今やらなかったらもうこのまま,ずるずると,その存在意義,あるいは学生に対する魅 力を低迷し続けるだけだというふうに思います。ですから,教職大学院にとっては,ある意味で 今年をチャンスにして欲しいなと思います。そうでないと,せっかく始まった教職大学院制度と いうものが,正直申し上げて,今のままでは非常に中途半端になっているのではないかと。
本来はですね,教職大学院を出れば,それはもう実力で圧倒的に採用率が高いという人材を輩出 していれば,地の利がどうであれ学生を引き付けるだけのものになるはずだと思いますので,例 は適切かどうか分かりませんが医学部はですね,全国から地方の大学でも,これはこれで地元に 残らないという問題を引き起こしてはいるけれども,大学レベルのクオリティということであれ ば,地の利にかかわらず集めているわけですから,もちろん移行期においてはいろいろな課題は あるけれども,これを機会に体制を整えて欲しいなと思います。
記者)
国立大学の施設整備なんですけど,昨日,概算要求で何を付けたのか発表になって,実際は耐震 と病院以外はもう落としてしまったという状況で,
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月末の半分以下に減っているんですけど,補正のときには確か,耐震,老朽,狭隘と,その
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つで基準を引いていたと思うんですが,概算 の場合はどのような基準でどういうふうに付けていかれるんですか。副大臣)
概算の記者会見のときにも申し上げましたけれども,8月
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日と比べても意味がない。それはや っている政権が違うということとともに,一番違うのは時期が違うということです。概算とは言 いつつも,大臣折衝を3
回も4
回もやるという,事実上かなり最終の予算編成と概算の五合目ぐ らいのことでありますから,五合目とゼロ合目を比較するということは意味がないというふうに 思います。それで,一点御理解をいただきたいのは,事項要求の中に医療が入っているわけですね。ここに おいては国立大学病院の,これも常に私たちはハコモノよりも設備,ファシリティ。ファシリテ ィよりも人と,こういう優先順位は付いていますけれども,その中で当然,国立大学病院の施設 整備については,かなり力を入れていきたいという事項要求をしておりまして,そこと併せて見 ていただくと病院の中で
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割程度は教育研究もしております。したがって,ライフサイエンス系 の研究教育と病院というところは,重点を入れていくということが御理解をいただけるのかなと いうふうには思います。いずれにしても,大変厳しい財政状況の中で,これはかなり議論しました。施設整備も大臣にも 見ていただいて,そもそも,通常予算が少なくて補正で取るという構造があるねと,これを抜本 的に解決したいねという思いはもちろんあります。
しかし一方で,国立大学の運営費交付金を削り続けてきたということも直さなきゃいかんという のは,民主党のマニフェストの中でも,あるいは総理指示の中でも相当強い決意で臨んでおりま す。そういう,どれも重要な課題の中で,結論から申し上げると,国立大学のファシリティの中 で特に重要なことはやっぱり老朽と狭隘と安全ということと,加えて医療と医療関連施設という ところを,まずきちんとやっていこうという結論になったということです。その一方で,運営費 交付金を増やすということ。それから,これも事項要求になっているので,やや分かりにくいか もしれませんが,大学の奨学金。ですからもうここは,従来から設備よりも人と,こういうこと を言っていましたから,そういうプライオリティの中で,こういうことになっているということ でございます。
記者)
事項要求が確定してくれば,それに対する運営費交付金というのは,前回の枠よりも更にかさが 上がるということなんですか。
副大臣)
国立大学に渡るお金は上がります。
記者)
運営費交付金の全体が上がると。
副大臣)
運営費交付金という形で,そこはかなり知恵を出しておりまして,実質的に大学に行くお金はで すね,上がります。その趣旨とか名目とかを,そこは知恵を出してます。知恵を出すことになる と思います。
記者)
運営費交付金じゃない名目でということですか。
副大臣)
もちろん運営費交付金もプラスになってます。それ以外の名目で,国公立,私立も入りますけど ね。だから,運営費交付金というと国立大学運営費交付金になってしまうから,国公私立大学病 院にお金が行くということになると,それは運営費交付金とは呼べないわけですよね。だけど,
その中でかなりの額が国公立の大学医学部に行くという仕組みで要求しようとしています。
すなわち,ここでも,先ほどの「民主党政策集INDEX2009」から見て取れた二つの方針・
考え方がはっきり現れている。教職大学院は,予算をつぎ込んで作ったのだから,社会的要請に 見合った成果を挙げてもらわねばならないのである。この点は,今後設置される教職大学院につ いても同じである。「国立大学に渡るお金は上がります」と言っているが,それは大学が「時代 が求める人づくり・知恵づくりの拠点」となるためなのである。
11 月 11 日よりいわゆる「事業仕分け」が行われている。そこで科学技術関連予算や国立大学 の運営費交付金の「見直し」が提言されたことで,これは民主党のマニフェストの方針に反する のではという声もあがっている。
科学技術関連予算に関して平成 21 年 11 月 20 日の川端文部科学大臣の会見で以下のようなやり 取りが行われている(http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1287260.htm)。
記者)
昨日,総合科学技術会議の有識者議員の方々がですね,科学技術関連予算の使い方,確保の仕方 について緊急提言をされました。他にも,学術経験者とか,学者の団体,学会とかからの意見が 出ているんですけれども,どのように受け止めていらっしゃいますか。
大臣)
事業仕分けの一段落を受けての,いろんな御発言だというふうに思います。いろんな場所で,委 員会の答弁でも申し上げているんですが,事業仕分けというのは,予算の編成過程を透明化して,
タックスペイヤーとしての理解と納得を得られるという予算編成をしたいという目的の中で,一 つの手法として行われました。そういう部分では,事業仕分けという手法,ああいうやり方でや ったら,そういう結論が出たという,一つの予算編成に向けての判断材料であることは間違いな いと思いますが,あれのとおりに決定するということではなくて,あれも踏まえながらというこ とです。それで,そういうことが出たときに,その判定・判断に対して,いろんな人がいろいろ 意見を申されるというのも,予算の編成の透明化,納得をより得られるというステップとしては,
必要なことだと思っております。一方で,また後でお問いがあるかもしれないんで先に言います が,ホームページ上で私たちは,文部科学省の項目に対して,事業仕分けだけではなくて,予算 編成についてのいろんな御意見を伺いたいということで,随分沢山の意見を伺っています。そう いう意味では,この事業仕分けという手法をきっかけに,予算の項目を立て,そして中身を決め,
額を決めるということが,国民の前にこれほどオープンになったことは今までかつてなかったと。
そして,事業仕分けというやり方をやったらこういう答えが出たと,その答えに対して,例えば 今言われたような人たち,あるいはネットを通じて言ってきた人たちの意見があると。そういう ものを,もろもろ全部を判断しながら,最終的には私ども内閣として予算を決めていくというこ とでありますので,透明化,それから合意形成ということの中では,いいことだというふうに思 います。
(中略)
記者)
次世代スパコンですけれども,事業仕分けで事実上の凍結という案が出されましたが,昨日,ス パコンを使う研究者らの団体,大学教授がメインなんですけれども,会見を行いまして,緊急提 言ということで,確かに予算は
1,200
億円ぐらい完成までに掛かる,非常に大きな予算計上が必 要なんですけれども,それを止めることによって,かなり国民生活にも大きな影響を及ぼすと。例えば,スパコンは気候変動予測とか,新薬の発見とか,いろんな最先端の技術はすべてスパコ ンでシミュレーションをして行っていると。それを一年でも止めることは絶対にやめてほしいと。
例えば,関連する学者たちの国際的な流出,アメリカなりに仕事を求めて行ってしまうとか,い ろんな影響を憂慮していますが,大臣はこの件に関してどのようにお考えでしょうか。
大臣)
先程から申し上げたように,この事業仕分け等々をやったというのは,要するに予算編成の透明 化と言いました。それは,
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千億円を超えるような税金をスパコンに使うというときに,今まで やってきたんですが,私はその背景と必然性は大変重いものだと思うから,当然概算要求をしま した。だから,その認識は,私も絶対要ると思っています。ただですね,二つありまして,一つ はやはり,この事業仕分けみたいなことをやらなかったら,世の中の人はスパコンというものに 対しての認識はほとんどない人が,大変多かったと思うんですね。そんなに素晴らしい,必要な ものだということを分かっている人も,あまりおられなかったんであろうし,これは,私は要る ものだと思うし,いいことだと思うんだけれども,要するに,大変な巨額のお金を,税金を使うということの重さということが,やはり軽んじられたということを,クリアするためには役に立 つというのが一つ。そして,事業仕分けで,こんな世界一が要るのという判断で,一度計画変更 もありましたから,一回止まったらという御意見をいただいていることも事実です。そういう意 見はあって,いやそうではなくてということで必要だという御意見も一杯出てきている中で,最 終的には政治の判断として結論が出たときには,ああそうなのかというのが,世の中の皆さんに 分かっていただくということが必要なわけです。そういう意味で,これからの手順ですと,断定 的なことは申し上げられませんが,私自身としてこのスパコンの,日本の科学技術立国の中で占 める位置付けが,極めて重いものであることは,人一倍認識しているつもりでございます。
ここでも,「必要な予算はつぎ込むが,それは社会的要請に合致している場合である」という 方針は一貫している。「私はその背景と必然性は大変重いものだと思うから,当然概算要求をし ました」という大臣側と「こんな世界一が要るのという判断で,一度計画変更もありましたから,
一回止まったら」という事業仕分け側は,上記方針ではまったく一致しているのであり,同じ土 俵の上での議論である。事業仕分けで省側の説明を行う官僚はこの土俵に乗らずに語ろうとする から,「仕分け人」に追求されて,時に滑稽な印象を与える。しかし,民主党政権にしてみれば,
自らが作った概算要求案がこのように批判されても全くかまわないので,この後にこの土俵で,
つまり「必要な予算はつぎ込むが,それは社会的要請に合致している場合である」というロジッ クに沿って「政治判断」をすればよいだけである。
3 想定される方向
先ほどの「民主党政策集INDEX2009」の「世界的にも低い高等教育予算の水準見直しは不 可欠です。また,産業振興的な側面ばかりでなく,学問・教育的な価値にも十分に配慮を行いま す。自公政権が削減し続けてきた国公立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直しま す。」という記述(およびそれに対応する選挙マニフェスト)に期待して,民主党政権は大学に 対して好意的ではないかという期待もあったが,この期待は,ある意味ではかなえられることに なるだろう。
というのは「国立大学に渡るお金は上がります」ということは実現するであろうから。そして,
若干の希望的観測を付け加えれば,文部科学省との折衝で,これまでのように何となく政策的方 向を示唆して「後は大学の判断ですよ」というように責任を取らないで済むような態度は減るか もしれない。
しかし,それは二重のハードルを越えた場合に限られる。第一のハードルは大学からの要求が
「社会的要請」に合致していることが説明できるかということ,第二のハードルはその説明での
「社会的要請」が民主党政権が想定している「社会的要請」と同じものであるかということ。前 政権下においても,このようなハードルはあった。しかし,それは引っかければすぐに倒れるハ ードルであり,飛び越える振りをすればよかった。だが,これからはそうはいかないであろう。
「社会的要請に応える」ことを目的ととらえるならば,このような方向は,中期目標・中期計 画システムが前提としている「目的合理性」に追求にそったものである。民主党政権はこのシス
テムを変えることはしないであろう。ただし,前政権下に比べて,より露骨に/明示的に「国立 大学がすべて目的とすべきこと」,つまりは民主党政権が「時代が求める人づくり・知恵づくり」
と考える内容が示されることになるだろう。
その意味で,民主党政権においても前々稿2)の議論が妥当する。したがって,この「大学法人 化とモラル-コンテクストの変容-」という考察のシリーズを続ける必要があることになる。
注
1)『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)』第 55 号,2006 年,63-67 頁.
2)『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)』第 56 号,2007 年,135-142 頁.