Kenta S
AKURAI*, Satoshi K
AWAMATA**, Shigeaki O
HTA*** and Taiichi T
OGASHI****
(Received November 30, 2009)
はじめに
登山は現在最も親しまれているスポーツの
1
つである。自然と触れあいながら,マイペースで行 える適度な有酸素運動であり,メタボリック症候群解消の効果も期待できることから近年の健康志 向への高まりも相まって特に中高年者登山者の増加が目立っている。しかし,中高年登山者の増加 に伴い疲労,膝の痛みからくる「転倒」「転落」「滑落」といった事故もまた増加しているといった問題 点もある。山本ら1)は中高年を対象にトレーニング状況などの体力的要素と登山時のトラブルの関 連について調査し,中高年者登山者の約7
割において登山中に何らかのトラブルが起きると報告し ている。また過去も現在も変わらず遭難原因の割合を高く占める滑落・転落・転倒は,近年の特徴 として中高年登山者に起きる事が多く,主な原因は体力の低下,あるいは自分の体力の過大評価に よる油断や不注意であるとも言われている 2)3)。登山における大きな筋力負担に脚力が耐えられな いこと,加齢によるバランス能力の低下が転倒などにつながり事故が多発していると考えられる。このような問題の対策の1つとして,多くの登山者がストック(トレッキングポール)を使用し ている。ストックとは登山の際,体への負担を少なくし,バランスをとる為に使用する杖のことを 指す。日本語ではグリップが
I
字型のものをストック,T字型のものをステッキと呼ぶことが多い が本研究ではまとめてストックと表記する。また前者は1
本ないし2
本で使用し,後者は1
本で使 用する。現在の登山では中高年者はもちろん全ての年代の人がストックを使用する姿が見受けられ る。加齢によりバランスが悪くなる中高年者にとって,ストックは3
本目,4本目の脚といった体 の一部になり,転倒の防止にもつながっていると考えられる。バランスや疲労の減少といった効果 以外にもストックを持つことによって心にゆとりが生まれるのだろう。しかしながらこれほどスト*茨城大学非常勤講師(〒310-8512 水戸市文京 2-1-1;
Docent of Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan
)磯浜小学校(〒311-1301 東茨城郡大洗町磯浜町 5316-1;
Isohama Primary school, Oarai 311-1301 Japan)
茨城大学名誉教授(〒310-8512 水戸市文京 2-1-1;
Ibaraki University professors emeritus, Mito 310-8512 Japan)
茨城大学教育学部(〒310-8512 水戸市文京 2-1-1;
Faculty of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512
Japan)
ック使用が一般的になったにも関わらず,登山時のストック使用の効果については報告が少なく,
下肢への負担がどれほど軽減されるかは明らかになっていない。ストックに関連する研究としては,
中川ら4)がストック歩行では上肢筋群の活動量が高まることから,全身運動として効率よく酸素摂 取量が増加するという報告をしている。酸素摂取量以外にもストック歩行は登り坂での主観的な疲 労感が少なく,下肢筋群の負担を減らすとしている。しかし,登り坂のみが対象であり,下り坂に ついては行われていない。山本ら1)は斜面での登りと下りを大腿四頭筋の筋活動を対象に比べてみ ると,登りよりも下りのほうが大きな負担がかかっているとしている。また段差
30
㎝の階段で登り と下りの床反力を測定し,登りでは体重とほぼ同じくらいの力が緩やかにかかるだけだが,下りで の床反力は体重の2
倍もの力が,着地の瞬間に一気に加わっていたと報告している5)。これらの報 告からも登山においては登りよりも下りの際に下肢への負担が大きくなると考えられるため,スト ックの効果について登りと下りの両面から調査する必要がある。登山に関連したストック使用の効 果については,山本6)が著書の中で段差30
㎝の階段を下る際にストックを2
本使用して着地する と普通に階段を下る場合に比べ衝撃力が減少するという結果を示しているが被験者は山本自身のみ であり,また具体的な数値までは示されていない。つまりストックの効果については報告が少なく 調査する意義があると考えられる。またストックの長さについては明確な規定はなく,まちまちで ある。村石7)は山岳装備大全の中で登りの際に短く,下りの際に長く持ったほうが登り下りしやす いとしている。一方,伊藤8)はストックの長さは同じにして,登り下り,地形の様々に対応させる 方が適応域が広く,標準はグリップが肘の高さでいいと述べている。ストックの長さ設定の観点は 数多くあると考えられるが,下肢への負担を軽減するという一部の側面からでも最も効果のある長 さを明らかにすることは意義があると考える。そこで本研究では山本ら5)6)の研究を一部参考に,自作の床反力計と登山を模した階段を用いた 実験を行い,登山中のストック使用が下肢への負担にどれほど影響しているかを床反力から検討し た。更にその際に歩行速度,段差の変化による影響についても検討した。また登り下りにおける効 果的なストックの長さについて下肢への負担軽減という観点から検討した。
研究方法
1
被験者本研究では実験試技回数の設定が多くなったため,利便性と実験中の安全面を考慮し,登山者に 多い中高年ではなく,
I
大学の体育系学科所属学生10
名(男性5
名,女子5
名)を対象とした。被 験者の特徴について表-1に示す。2
実験器具(
1
)ストック今回は両手でストックを持つダブルストックを採用した。ダブルストックはシングルストックと は違い,両手でストックを持つことから,支持点が
4
カ所に増え下肢にかかる負担の減少につなが ると考えたからである。加えてシングルストックは使い方により被験者の動作に大きな差が出る可 能性があったためである。またストックの長さの影響を調査するため可変式のストックを使用した。なお,アンチショック機能はついていない。
(2)床反力計
鉄板(縦
300
㎜×
横400
㎜×
厚さ4
㎜)の角4
カ所にゴム足(高さ30
㎜)をつけ,鉄板の裏側の 中心を起点にストレンゲージを4
カ所取り付けた自作の床反力計を2
つ使用した。ストレンゲージ を使用し,鉄板のひずみから床半力を測定する。ストレンゲージは,ひずみアンプ(KYOWA 製PCD300A
)に接続し,出力をデータレコーダーに記録した。事前にストレンゲージの較正値を導くために,鉄板を
36
分割するように線を引き,その交点(25 点)の内9
点(鉄板中心から角に向かっての1/4)に 10
㎏の重りを乗せ較正値を算出した(図-1)。 その結果,数値の誤差が小さい中心から左右1マス,上下2
マスを踏む範囲とし,数値の平均を取 り較正値を0.67
とした。図-2は踏む範囲をテープで示した床反力計の写真である。階段の下から1
段目に設置した床反力計を板A
,2
段目に設置した床反力計を板B
とした。下りの際には1
段目(1
歩目)は板B
を踏むことになるが,今回は混乱を避けるため登り,下りを通じて板A
が1
段目,板B
が2
段目と表記する。(
3
)実験用階段山本ら5)は階段と芝生の斜面での登り下りを行い,脚の様々な筋の筋放電量を調査し,被験者が 少ないながらも,登りも下りも一部の筋を除きほぼ同等の活動量であったと報告している。このこ とから階段の登り下りは登山の動作に類似していると考えられる。そこで今回は登山を模した階段 で床反力を測定することにした。20㎝と
30
㎝の段差(床反力計設置時に20
㎝または30
㎝)の階 段を作成した。階段一段の縦幅は300
㎜,横幅は800
㎜である。この階段を斜度に換算すると,段 差20
㎝は33.7
度となり,段差30
㎝は45
度となる。いずれも登山道で考えるとかなり急な傾斜に なる。山本6)によると一般的な駅の階段は約25
度である。3
測定方法(1)実験試技
被験者には動きやすい服装で靴を履いて階段の登り下りを行わせた。その際に床反力計のテープ の部分を踏むように注意した。それぞれの被験者の歩く速度の差が出ないようにメトロノームの一 定のテンポに合わせるよう指示をした。テンポは
40
歩/分,50歩/分,60歩/分の3
種類である。ス トック歩行の際は着地する脚と対角の手でストックを使うことと床反力計以外の部分にストックを 突くように指示し「ストックはバランスの保持に使ってください」とだけ説明した。ストック歩行 についてはストックの長さを身長の0.7
倍を基準に,登りは-3%
,-6%
,下りは+3%
,+6%
と調節し て計測を行った。ストックを持たない状態(以後空身)で段差20
㎝と30
㎝,テンポ40
,50
,60
を登り下りで試技は12
回行った。またストックを使用しての歩行は長さを3
段階調節するため試技 は36
回行った。被験者1人について48
回の試技を行った。(2)記録方法
データレコーダーの収録データ数を
1000,サンプリング周波数 200Hz
に設定した。被験者にはメ トロノームに合わせてテンポを練習後,自分のタイミングでスタートしてもらいマニュアル操作で 記録した。(
3
)分析方法データレコーダーの出力を
PCD-30A
を介して,パソコンに取り込みMicrosoft Excel
にてデータ処 理を行った。事前に行った較正値を基に電圧から力(㎏)への換算を行った。換算したデータをすべてグラフにし,全体の傾向が視覚的に判断できるようにした。本研究での 分析対象は,データに表れる床反力の中から床反力計に接地後,前半の最大値とした。つまり階段 を下りた瞬間,上った瞬間の着地脚にかかる床反力(踏切にかかる床反力でない)とした。
1
段目 と2
段目の平均を取り,分析する下肢にかかる力とした。(図-3 参照)空身とストック使用時での 床反力,テンポの差における床反力及び段差による床反力,またストックの長さの違いによる床反 力の関係を反復測定による1
元配置の分散分析,対応のあるt検定を行い検討した。統計処理にはSPSS
を使用し有意水準は5%とした。また 10%未満についても有意な傾向ありとして考察した。
結果と考察
記録されたデータ
480
件中12
件の欠損値が存在した。欠損値があった場合はデータを除いて分析 をおこなった。表-2から表-9に各条件による試技結果を示した。床反力(㎏)は被験者の体重に影 響されるため,[ ]
内に被験者の体重に対する割合を示した。数字が1
未満であれば体重よりも軽 い床反力であり,1
を超える場合は体重以上の床反力となる。以後,体重に対する割合の数値を中 心に考察していく。(
1
)結果の概要表-2から表-5まで登り時の床反力を見ると,最小値は被験者
A
の空身・段差20
㎝・テンポ40
と被験者H
のストック70%
・段差20
㎝・テンポ40
における0.9
倍であった。最大値は被験者H
の 空身・段差30
㎝・テンポ60
における1.6
倍であった。なお被験者H
は空身・段差30
㎝・テンポ40,50
においても1.5
倍という他の被験者よりも高い数値となっている。しかし全体的に被験者間に大きなばらつきは見られず,登り時の床反力はいずれの条件でも平均は
1.1
倍から1.2
倍となった。また空身においての平均は
1.1
倍から1.2
倍となっており,山本5)の「30㎝の階段登りの床反力に おいて体重とほぼ同じくらいの力が緩やかにかかる」という先行研究結果とほぼ同様である。登り 時・空身の例として空身・段差30
㎝・テンポ40
における1
段目の床反力のグラフを図-4
に示す。全員のグラフが多少の凹凸が見られるものの,着地から踏切までの床反力は緩やかにかかっている。
グラフが下降する直前に突出するのは踏切の際の床反力と考えられる。他の条件でも登り時におけ る空身の床反力のグラフは,1段目
2
段目共に段差,テンポに関わらずほぼ同様の形を示した。表-6から表-9まで下り時の床反力を見ると,最小値は被験者
A
の空身・段差20
㎝・テンポ50
と被験者H
のストック70%
・段差20
㎝・テンポ40
における1.0
倍であった。最大値は被験者C
の 空身・段差30
㎝・テンポ60
における2.9
倍であった。なお被験者C
は下り時において全体的に高 い数値となっている。平均は各条件の中で1.3
倍から1.8
倍と登り時に比べるとばらつきが大きい。特に下り時は被験者による数値のばらつきが登り時に比べて大きい。例えば被験者
C
は各条件で1.8
倍から2.9
倍という数値だが,被験者B
は1.1
倍から1.5
倍,被験者J
は1.1
倍から1.6
倍となって いる。被験者C
は男性で,体重が70.4
㎏と被験者の中では重いが,最も体重のある被験者E
が1.3
倍から2.3
倍という数値であること,更に数値の低かった被験者B
とJ
の間には10
㎏の体重差があ るため体重の影響とは考えにくい。原因としては個人の動きの違いによる影響が考えられる。飛び 降りるように着地すれば床反力は大きくなるだろうし,下る際に支持脚を曲げ柔らかく着地すれば 比較的床反力が小さかったとも考えられる。今回は動作を記録していないため,被験者間の動き方 について推測はできない。今後の実験においては動作をVTR
撮影するなどして床反力の数値との 関係を検討する必要があるだろう。空身時の平均は
1.3
倍から1.8
倍となっており,山本5)の「下りでの床反力は体重の2
倍もの力 が,着地の瞬間に一気に加わっていた」という先行研究に数値はやや下回ったが,個人では体重の3
倍近い床反力が加わった者もおり,個人差はあるが登りよりも大きい力が加わる結果となり,先 行研究を支持する結果と考えられる。また下り時・空身の例として空身・段差30
㎝・テンポ50
に おける1
段目の床反力のグラフを図-5
に示したが,被験者G
を除く被験者が着地の際に瞬間的な突 出を記録しており,先行研究と同様の結果を示した。このことから登山の下りにおいて着地時には 瞬間的に力が下肢に加わり,その力は個人差があるものの自身の体重以上であり,大きい者は3
倍 程度に及ぶと推測される。今後は各条件の計測回数を増やし,信頼性を高めると共に被験者の年齢 層を変え,一般化を試みる必要があるだろう。(2)テンポによる床反力の差
各条件においてテンポ
40
・50
・60
の3
つのテンポによる床反力に差があるかどうか一元配置分散 分析で検討したところ,下り時・空身・20
㎝のケースにおいて5%
水準で有意な主効果がみられた(F(2,18)=4.532,MSe=88.20,P<.05)。多重比較(Bonferroni の方法)の結果,有意確率.087 でテ ンポ
40
<テンポ60
の傾向がみられたが他の条件ではテンポによる床反力には差はみられなかった。表-10 に分析の結果をまとめて示した。このことからテンポの違いが床反力に及ぼす影響は少ない と考えられる。松野ら9)は階段昇降時のピッチを実験的に規定させた場合に床反力に変化があるか について検討し,ピッチの違いが床反力計へ与える影響は少ないとしているが,ストックを使用し た本研究の結果も同様となった。今後の実験においてはテンポの条件は特に設定する必要はないと 言える。しかしながら,筆者の経験上,実際の登山において道や体力,人数,荷物などの条件によ っては本研究で設定したテンポよりもゆっくり登り下りすることは珍しくない。今回設定したテン ポよりも更に遅い動きであれば床反力への影響が出てくる可能性もある。またテンポで動きを制限 すると動作がぎこちなくなってしまうこともあるため,今後は「出来る限りゆっくり(速く)登っ て(下って)ください」などの指示をして被験者自身が実際に歩くテンポでの実験を行うことも検 討していきたい。
(3)段差による床反力の差
各条件において段差
20
㎝と30
㎝で床反力に差があるかt
検定を実施した結果,登りについては 全ての条件で有意な差はみられなかった。下りについては空身・テンポ50
を除く全ての条件におい て5%
水準で有意な差がみられた。表-11
に分析の結果をまとめて示した。このことから登りにおけ る段差(斜度)は床反力に影響を及ぼさないことが推測される。今後の実験において登りの段差の 設定は1
種類にして測定項目を減らすことが可能になると考える。また下りにおいては段差30
㎝の 方が20
㎝に比べ有意に床反力を受けるのでストック使用の効果について測定しやすいと考えられ る。今後の実験において段差は30
㎝のみに設定し1
つの測定項目の試技回数を増やし信頼性を高め ていくことが必要であろう。70% 70% 76% -12
て示した。登りにおいては有意な傾向を示したケースがあったものの,空身とストック使用時の床反力 に差があるとは言えなかった。また,ストックの長さによって床反力に差があるとも言えなか った。先述したように登りの際の床反力は自体重程度の力が緩やかにかかる。また段差が高く ても低くても床反力に差はないことをも踏まえると,登りの際はどのような条件でも床反力は 自体重程度であると推測される。ストック使用の効果は下肢への負担を軽減ではなく,バラン スの補助やストックウォーキングにみられる前方への推進力を生むものなのではないだろうか。
今後実験方法を変えて考察する必要がある。
下りにおいては段差
30
㎝・テンポ40
のケースにおいて有意な主効果がみられた。ストック70%
で下った場合に空身,
76%
と比べ床反力が軽減される傾向にあった。また有意な差はみられてい ないが,いずれのケースにおいてもS70%での床反力は 73%,76%に比べて低い数値を記録して
いる。空身と比べると段差20
㎝・テンポ40
のケース以外では低い床反力を記録した。有意な主 効果がみられたのは1
つのケースだけなので空身とストック使用の床反力に差があるとは言い 切れない。しかしながら,今後の実験において試技回数を増やしていくことで差が認められる 可能性はあると考えられる。更にストックの長さについては身長の70%
での使用が他の長さに 比べ有意ではないが低い数値を記録したことから,下りの際は長さの設定も床反力に影響を及 ぼす可能性があると考えられる。また段差30
㎝のケースにおいては有意な差はないが空身に比 べてストック76%の方が大きな床反力を記録している。これはストックがある長さを越えると
床反力を小さくするのではなく,バランスを崩し,飛び降りるような動きになり,逆に下肢へ の負担を増加させる可能性を示していると考えられる。今後の実験において明らかにする必要 がある。まとめ
本研究では以下のことが明らかになった。
①登り時の床反力はいずれの条件でも平均は
1.1
倍から1.2
倍となった。空身においての平均は1.1
倍から1.2
倍で,着地から踏切までの床反力は緩やかにかかり,先行研究結果とほぼ同様であっ た。②下り時の床反力は各条件の中で平均は
1.3
倍から1.8
倍と登り時に比べ,ばらつきがある。個人の 動きの違いによる影響が考えられる。空身時の平均は1.3
倍から1.8
倍となり,体重の3
倍近い床 反力が加わった者もあった。着地の際に瞬間的な突出を記録しており,先行研究と同様の結果を 示した。③テンポの違いが床反力に及ぼす影響は少なく,今後の実験ではテンポの条件は設定する必要はな いと言える。しかしながら,今回設定したテンポよりも更に遅い動きであれば床反力への影響す る可能性もある。
④登りにおける段差(斜度)は床反力に影響を及ぼさない。下りにおいては段差
30
㎝の方が20
㎝ に比べ有意に大きい床反力を受ける。⑤登りにおいて空身とストック使用時の床反力に差があるとは言えなかった。また,ストック の長さによって床反力に差があるとも言えなかった。登りの際はどのような条件でも床反力
また今回の実験においてのいくつかの課題がみつかった。まずは
1
人当たりの試技項目が多 く,各試技が1
度しか行えなかった点である。これについては今回の実験結果により,テンポ の設定や段差の設定は少なくできるため,今後は各試技回数を増やし,信頼性の高いデータを 取る必要がある。続いて下り時の個人の動きの違いが激しく床反力にばらつきが生じたことで ある。これについては動作をVTR
撮影して比較するなどして解決する必要がある。更に今回の 被験者は日常的に運動を行っている大学生であり,普段ストックを使用した登山は行っていな い。そのため登り下りの動作もストックに頼らずに行えてしまった可能性もある。今後は被験 者を普段から登山でストックを使用している中高年者に設定して実験する必要がある。今回の実験ではストック使用の有用性について,下肢への負担を軽減すると言い切れる結果は得 られなかった。しかしながら,下肢への負担を軽減する効果を示唆する結果も残したため今後も上 記の課題を踏まえて実験を継続して行う必要があるだろう。
引用文献
1) 山本正嘉;山崎利夫「全国規模での中高年登山者の実態調査」,『体力科学』52,2003,pp543-554.
2) 羽根田治;清水正雄;中丸公之「なぜ増えた山の事故」,『山と渓谷』NO803,2002,pp156-163.
3) 羽根田治;高橋玉樹;松原尚之「夏山安全登山学」,『山と渓谷』NO817,2003,pp187-205.
4) 中川善直;服部正明;浅沼義英「ストックウォーキングの生理学的研究」,『臨床スポーツ医学』19,
No.6,2002,pp689-693.
5) 山本正嘉;前川亮子;中原玲緒奈「登山のバイオメカニクス」,『バイオメカニクス研究』10(1),2006,
pp74-85.
6) 山本正嘉『登山の運動生理学百科』(東京新聞出版局,2000),pp21-80.
7) 村石太郎「山岳装備大全」,『山と渓谷』NO878,2008,pp159-165.
8) 伊藤幸司『ゼロからの山歩き~もっとゆっくり登りたい~』,(学習研究社,2003),pp38-43.
9) 松野義晴,大道等(1998)「階段昇降のバイオメカニクス-昇降ピッチの違いが地面反力に及ぼす影響 -」『国武大紀要』14,1998,pp47-51.