幼児服の選択に影響する環境要因
三浦 友里*・吉田 紘子**
(2008 年 11 月 30 日受理)
The Environmental Factor which influences a Clothing Choice by Infant
Yuri MIURA* and Hiroko YOSHIDA**
(Received November 30, 2008)
1 はじめに
人間は,生まれた直後から被服で身体を覆うことによって,生理的にも社会的にも保護してきた。
被服は生理的側面・社会的側面の両方において,人間が社会生活を送る上で欠かせないものであり,
人間と被服との関わりは人生の最も早い時期から始まっている。
乳幼児期は,心身ともに発達の著しい時期である。生まれたばかりの新生児は,身長が約 50 ㎝,
体重が約3㎏と小さく,体を大きく動かすことはできないが,1年の間に,身長は約 1.5 倍,体重 は約3倍となり,運動機能面においても,首が座る・おすわりをする・自分で立って歩くなど,急 速な発達を遂げる。精神面の発達としては,種々の感覚器官を敏感に働かせ,外界からの刺激を受 け止めるとともに,それらに対して自ら働きかける力を身に付けていく。年齢が上がるにつれて,
対人関係能力や,思考能力も高まっていく。このような乳幼児期の子供には,乳幼児の身体的特徴 や生理的特徴に配慮し,その発達を促すような被服を与えることが望ましい。子供服を選択する際 には,特に被服の生理的機能が重視されてきた。しかし,乳幼児期の精神的な面の発達における被 服の影響も大きいので,被服の心理的・社会的機能についても配慮すべきである。乳幼児期の被服 については,数多くの研究1)2)3)が行われてきたが,その多くは子供服の生理的機能に関するもの が多く,精神的・社会的機能に関する子供服の研究は,いまだ進んでいないのが現状である。
子供は幼児期に入ると,意欲的に被服の着脱に取り組んだり,被服に関する意思表示をしたりす るようになる。つまり幼児期は,子供が被服に対して自ら関わり始める時期であり,人間と被服と の関わりにおける大きな転換期といえる。一方で,幼児期は環境との相互作用の中で人格を形成し
野田市立二ツ塚小学校(〒278-0022 野田市二ツ塚485-2);Hutatuka Primary School,Noda 278-0022)
茨城大学教育学部家政教育講座被服学研究室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1;Seminar of Textile and Clothing, Course of Home economics, College of Education, Ibaraki University, Mito, Ibaraki 310-8512 Japan)
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ていく重要な時期でもあり,そのような人格形成と被服との間にどのような関連があるかというこ とは,発達心理学上の重要な課題である。成人を対象とした被服心理学の研究では,外向的な性格 の人は個性的で新しい感覚の被服を好んで着用するが,内向的な性格の人はそのような被服を好ま ず,周囲の人に追随して被服を着用する傾向がある。しかし,このような傾向が幼児にも当てはま るかどうかは明らかにされておらず,個々の子供の行動特性やパーソナリティ特性と被服の関連を 明らかにしていくことが,今後の課題である。
また,幼児と被服との関わりに,どのような環境要因が影響を与えているかについても検討する 必要がある。幼児期は子供が自ら被服と関わり始める時期であるが,人格形成の途上にあり,環境 から受ける影響が大きい。したがって,幼児期の衣生活は様々な環境要因の影響を受けながら形成 されていく。主な環境要因としては,保護者の意識,家庭状況,子供の性別や年齢,養育環境,社 会状況などがあげられる。今まで幼児期の被服は,保護者によって「着用させられるもの」という イメージが強く,様々な環境要因の中でも,保護者の意識が子供の衣生活に与える影響は特に強い と考えられてきた。しかし実際には,子供自身が被服に対する意見を言うなど,自分の着用する被 服の選択・着用に何らかの形で関与している場合も多い4)。したがって,幼児が保護者によって被 服を「着用させられている」とは一概に言えず,保護者の意識以外の環境要因も,子供の衣生活に 少なからず影響を及ぼしている5)。
特に近年,幼児の衣生活に大きな影響を与えている要因として,「子供服のファッション化」が あげられる。百貨店などでは,ブランド物の子供服が数多く販売されている。最近では,成人服の 流行に合わせた,大人と同じようなデザインの子供服が多くなっている。このようにおしゃれな子 供服が増えてきている中で,子供の被服費を惜しむことなく,高価な子供服を購入する親も少なく ない6)。また,子供ファッション雑誌も多く出版されており,その内容は服のコーディネート,ア クセサリーなどの小物使い,ヘアアレンジなど多岐にわたっている。このように「子供服のファッ ション化」という社会状況の変化も考慮に入れると,子供の衣生活と環境要因との関連を検討する ことには,大きな意義があるといえるだろう。
本研究では,幼児の被服選択と環境要因との間にどのような関連があるかを調べるため,幼児の 保護者に対する質問紙調査と,幼稚園におけるフィールド調査を行った。
2 調査方法
2.1 調査方法及び調査時期 1)質問紙調査
水戸市内の公立 Y 幼稚園と K 幼稚園,私立 K 幼稚 園にアンケートの配布を依頼し,園児の保護者から回 答を得た。各幼稚園の配布数・回収数・回収率は,表 1に示す通りである。3つの幼稚園を合わせた配布数 は 177 部,回収数は 127 部,回収率は 72%であった。
調査時期は,平成 19 年 11 月下旬から 12 月中旬である。
表1 各幼稚園の配布数・回収数・回収率
2)フィールド調査
水戸市内の公立 Y 幼稚園において,園児の観察を行った。1人で多くの園児を観察するのは難し いため,当研究室の学生2人に協力してもらい,合わせて3人で観察を行った。観察は2回行い,
1回目は園児一人一人の服装と遊び行動を観察し,2回目は特徴的な服装をしている園児を抽出し て,服装と遊び行動を詳しく観察した。園児の自発的な遊び行動を観察するため,自由遊びの時間 に調査を行った。調査時期は,平成 19 年 11 月下旬から 12 月上旬である。
2.2 調査内容 1)質問紙調査
保護者の子供服選択時の意識,子供の被服に対する関心,養育環境,子供の行動特性・パーソナ リティ特性について調査した。
なお,子供服に対する保護者と子供の好みを調べるために 8 つの衣服スタイルを写真で示し,そ の中から最も好きなものを選んでもらった。8つの衣服スタイルは,①フード付きベストとカーゴ パンツ,② Y シャツとネクタイ,③ T シャツと半ズボン,④襟付きシャツと長ズボン,⑤ジャンパー スカート,⑥ブラウスとプリーツスカート,⑦フリル付きカットソーとスカート,⑧フリル付きド レスである。これらの衣服は,「男の子らしい」「女の子らしい」といったジェンダーの観点と,「フォー マル」「カジュアル」といった観点から選択した。図 1 の中で,左に近いほど「男の子らしい」衣 服であり,右に近いほど「女の子らしい」衣服である。また,図の上段に示した衣服は「カジュアル」
な衣服であり,下段に示した衣服は「フォーマル」な衣服である。
2)フィールド調査
園児が着用している上衣・下衣の種類と色,園児の活動量,遊びの種類について調査した。
なお,園児の活動量については,「全身を使って絶えず動き回っている状態」を4,「体の一部分 だけを動かしているか,ほとんど静止している状態」を1とし,4段階で評価した。活動量の数値 化にあたっては,観察者同士で子供の様子を見たうえで評価基準を決め,観察者によって評価に偏 りが出ないよう配慮した。
図 1 8 つの衣服スタイル
2.3 調査対象者の属性 1)質問紙調査
回答者は,全員が子供の母親であった。回答者の年齢は,3幼稚園の平均で30代が72%と最も多く,
次いで 40 代が 21%,20 代が 8%であった。各幼稚園で回答者の年齢に有意差は認められなかった。
家族の世代構成は,3幼稚園の平均で2世代世帯が 68%と最も多く,次いで3世代世帯が 23%であっ た。しかし,公立 K 幼稚園では3世代世帯が 53%,2世代世帯が 37%と,他の幼稚園と比較して 有意に3世代世帯の方が多くなっている。
子供の性別は,男児が 72 人(57%),女児が 54 人(43%)である。年齢の内訳は,3歳が6人(5%),
4歳が 24 人(19%),5歳が 59 人(47%),6歳が 37 人(29%)であり,5歳と6歳が多くなっ ている(表2)。子供のきょうだい数は,2人が3幼稚園の平均で 58%と最も多く,次いで3人が 29%,1人が 13%であった。また子供の出生順位は,第1子が3幼稚園の平均で 47%と最も多く,
次いで第2子が 40%,第3子が 12%であった。各幼稚園で,子供のきょうだい数,出生順位に有 意差は認められなかった。
表2 質問紙調査における子供の属性
2)フィールド調査
調査を行った公立 Y 幼稚園の園児数は,年少児が 34 人,年長児が 35 人の計 69 人である。1回目 の観察では 45 人の服装を観察し,2回目は 60 人の服装を観察した後,その中から 24 人を抽出して 自由遊びの時間における行動を観察した。1回目の観察では,男児が 22 人(49%),女児が 23 人(51%)
であり,年少児が 28 人(62%),年長児が 17 人(38%)であった。2回目の観察で服装を観察したのは,
男児が 29 人(48%),女児が 31 人(52%)であり,年少児が 27 人(45%),年長児が 33 人(55%)であっ た(表3)。また,その中から抽出して行動を観察したのは,男児 10 人,女児 14 人である。
この幼稚園では,園児は私服で登園した後,上衣の上に汚れ防止のためのスモックを着用し,下衣 は幼稚園指定の半ズボンに履き替えることになっている。ただし,この着替えは園児全員に強制され ているわけではなく,衣服に対するこだわりの強い子供や,体調が悪く薄着のできない子供に対して
表3 フィールド調査(2 回目)における子供の属性
は柔軟な対応がなされている。1回目に観察を行った際は,すでに園児たちが着替えを終えた後だっ たため,多くの子供が園で決められた服装をしており,一人一人の服装に大きな違いがみられなかっ た。そこで再度日を改めて,園児が登園時に着用していた被服を観察することにした。なお,2回目 の観察を行った日は年長児の写真撮影があったため,園児の服装は普段よりもフォーマルなものが多 くなっていた。
3 幼児の被服選択に関する調査
3.1 子供服選択時の保護者の意識 1)子供服選択時に重視する項目
図2は子供服選択に関わる 13 項目について,どの程度重視するかを尋ねた結果である。「非常に 重視する」を4点,「やや重視する」を3点,「あまり重視しない」を2点,「全く重視しない」を 1点とし,各項目の平均点を男女別に示した。子供服選択時に特に重視されていたのは「価格」と
「サイズ」であり,保護者は経済性を考慮して子供服を選択していることが推察された。また,「動 きやすさ」や「着脱のしやすさ」などの機能性に関わる項目も重視されていた。これは,保護者が 子供の身体的・生理的特徴を理解して,幼児に適した衣服を選択しているためと考えられる。ファッ ション性にかかわる項目では,「色」「デザイン」は重視されていたが,「流行」「ブランド」はあま り重視されていなかった(図2)。この結果からは,流行やブランドにとらわれずに子供におしゃ れをさせたい,という保護者の意識がうかがえる。先行研究においても同様の傾向がみられること から,今回の調査結果はそれを裏付けるものであるといえる7)。
なお,子供服選択時に重視する項目について,子供の性別による有意差は認められなかった。一方,
保護者の年齢による有意差は,13 項目のうち「丈夫さ」について 1%水準で認められた。具体的に
図2 子供服選択時に重視する項目(有意差なし)
は,30 代の平均点が 3.3 点,40 代が 3.2 点であるのに対し,20 代は 2.8 点と低くなっていた。この 理由として,若い世代の保護者は子供服を消耗品ととらえ,傷んで着られなくなった服は買い換え ればよいと思っている可能性が考えられる。一方,年齢の高い保護者は,できるだけ長い期間の着 用に耐える丈夫な子供服を求めているものと考えられる。その他の項目では,保護者の年齢による 有意差は認められなかった。
2)子供服選択時における「子供の意見」の取り入れ方
子供服選択時に子供の意見を重視する程度については,「やや重視する」という回答が男児で 47%,女児で 66%と最も多くなっていた。「非常に重視する」「やや重視する」と回答した保護者は,
合わせて 80%に達しており,大部分の保護者が子供の意見を重視して被服を選択していた(図3)。
なお,性別による有意差は認められなかった。
また,子供の意見を重視する程度と,家庭でのしつけの厳しさについては,双方に有意な関連は 認められなかった(図4)。
3)子供に着せたい衣服
図3 子供の性別と子供の意見を重視する程度
(有意差なし) 図4 子供の意見を重視する程度としつけの (有意差なし)
写真で示した8つのスタイルから,自分の子供に着せたい衣服を選んでもらったところ,子供の 性別による有意差が認められ,男児の保護者はパンツスタイルを選び,女児の保護者はスカートス タイルを選ぶ場合がほとんどであった。男児では「フードつきベストとカーゴパンツ」を選択した 人が 46%と最も多く,次いで「襟付きシャツと長ズボン」が 24%,「T シャツと半ズボン」が 23%
となっている。「Yシャツとネクタイ」は4%と少数であった。一方,女児では「フリルつきカットソー」
が 31%,「ブラウスとプリーツスカート」が 29%,「ジャンパースカート」が 24%となっており,
3つのスタイルに好みが分かれている。「フリルつきドレス」は 8%とあまり好まれていない。また,
8%が「T シャツと半ズボン」を選択している(図5)。この結果からは,子供の性別に応じて「男 の子らしい服」「女の子らしい服」を子供に着せたいという親の思いがうかがえた。子供に男らしく,
または女らしく育ってほしいか,という問いに対しても,「非常にそう思う」「ややそう思う」と回
答した親は合わせて約 7 割に達しており,親の子育てにおけるジェンダー観は強いことが明らかに なった(図6)。
また,男児の親については,ジェンダー観と子供に着せたい衣服との間に関連が認められ,「フー ド付きベストとカーゴパンツ」「Y シャツとネクタイ」「襟付きシャツと半ズボン」を子供に着せた いと思う親は,ジェンダー観が強い傾向がみられた(図7)。この理由として,「フード付きベスト とカーゴパンツ」と「Y シャツとネクタイ」は,図1に示すように「男の子らしい」衣服であるた め,ジェンダー観の強い親がより「男の子らしさ」の強調された衣服を選択したものと考えられる。
一方,女児の親については,ジェンダー観と子供に着せたい衣服との間に関連は認められなかった
(図8)。このように,子供の性別によって異なる結果が得られたことから,男児の場合,親のジェ ンダー観は子供に着せたい衣服にそのまま表れるが,女児の場合,親のジェンダー観は必ずしも子 供に着せたい衣服と結びつかないと推測できる。
なお子供服選択時の保護者の意識について,子供の通う幼稚園との間に関連は認められなかった。
図 5 保護者が子供に着せたい衣服(p < 0.001) 図6 子供の性別と保護者のジェンダー観 (有意差なし)
図7 男児に着せたい衣服と保護者のジェンダー観 (有意差あり)
図8 女児に着せたい衣服と保護者のジェンダー観 (有意差なし)
3.2 子供の被服に対する関心 1)衣服の好き嫌い
子供の衣服の好き嫌いについては,男児で 62%,女児で 92%が「衣服の好き嫌いがある」と回 答した(図9)。衣服の好き嫌いは3歳から4歳頃にかけて出現しており,この時期に被服に対す る関心が強まることを裏付ける結果となった。性別による有意差が認められ,男児よりも女児の方 が衣服に対して強い関心をもっていた。先行研究においても,女児の方がより衣服に対して強いこ だわりをもつことが明らかになっており,今回の結果はそれを裏付けるものといえる8)。
2)被服選択
具体的に子供がどのような衣服を好むかについては,男児は全員がパンツスタイルを,女児は ほとんどがスカートスタイルを好んでおり,性別による有意差がはっきりと認められた。男児で は「Y シャツとネクタイ」を好む子供が 41%と最も多く,次いで「フード付きベストとカーゴ パンツ」が 29%であった。一方,女児では「フリル付きドレス」を好む子供が 53%と最も多く,
次いで「フリル付きカットソーとスカート」 が 22%であった(図 10)。多くの男児が好んだ 「Y シャツとネクタイ」と「フード付きベストとカーゴパンツ」は,図1に示したように,最も「男 の子らしい」衣服である。また,多くの女児が好んだ「フリル付きドレス」と「フリル付きカッ トソーとスカート」は,最も「女の子らしい」衣服である。したがってこの結果から,男児は男 の子らしいデザインの衣服を好み,女児は女の子らしいデザインの衣服を好む傾向が認められ,
子供が環境要因の影響を受けて,幼児期から衣服に対するジェンダー観を形成していることが推 察された。カイザーの先行研究においても,多くの女児が,最も女らしいスタイルの「フリル付 きドレス」を好んでいた3)。このことからも,幼児は衣服に対して強いジェンダー・ステレオタ イプをもっているといえる。また,フィールド調査で実際に子供が着用している衣服を観察した 際も,上衣については性別による有意差が認められなかったものの,下衣については,男児はズ ボン,女児はスカートを着用する傾向がみられた。このように,子供は普段から「男の子らしい
図9 子供の性別と衣服の好き嫌いの有無
(p < 0.001)
図 10 子供の性別と子供が好む衣服(p < 0.001)
服」「女の子らしい服」を着用することで,被服に対するジェンダー観を自然と形成していく可 能性が考えられる。
保護者が子供に着せたい衣服と子供が好む衣服を比較すると,男児の場合はパンツスタイルを 好み,女児の場合はスカートスタイルを好むという点では親子ともに共通している。しかし,子供 が最も好む服は,男児で「Y シャツとネクタイ」,女児で「フリル付きドレス」であったのに対し,
保護者が最も着せたい衣服は,男児で「フード付きベストとカーゴパンツ」,女児で「フリル付きカッ トソーとスカート」であり,「Y シャツとネクタイ」「フリル付きドレス」を子供に着せたいと思う 保護者は少数であった。男児の保護者が好む「フード付きベストとカーゴパンツ」と,女児の保護 者が好む「フリル付きカットソーとスカート」は,図1に示すようにどちらもカジュアルな衣服で ある。一方,男児が好む「Y シャツとネクタイ」と,女児が好む「フリル付きドレス」は,どちら もフォーマルな衣服である。親子間で衣服に対する好みが分かれたのは,子供はより男らしさ・女 らしさが強調された,フォーマルな衣服を好んだのに対し,保護者は男らしさ・女らしさを重視し ながらも,子供らしく日常的に着られる衣服を選択したためと考えられる。また,保護者のジェン ダー観と子供が好む衣服との間に,直接的な関連は認められなかった。
3)色の好き嫌い
色の好き嫌いについては,男児で 69%,女児で 85%が「好き嫌いあり」と回答し,子供の色に 対するこだわりの強さがうかがえた。性別による有意差が認められ,衣服に対する好き嫌いと同様 に,男児より女児の方が色に対して強いこだわりをもつことが明らかになった(図 11)。具体的に 子供が好む色としては,赤が男女ともに好まれる一方,男児には青,緑,黒が,女児にはピンクと 水色が特に好まれており,性別によって大きな差がみられた(図 12)。しかし,フィールド調査で 子供が着用している衣服の色を観察した際には,性別による有意差は認められなかった。したがっ て,実際の着用衣服の色と子供が好む色との間には差があるものと思われる。
図 11 子供の性別と色の好き嫌いの有無 (p < 0.1)
図 12 子供の性別と子供が好む色(p < 0.001)
4)衣服に対する意思表示
衣服に対する意思表示については,男児で 67%,女児で 94%が「自分が着用する衣服について 意見を言う」と回答した。性別による有意差が認められ,男児よりも女児の方が,意見を言う割合 が高い(図 13)。この結果には,女児の方が衣服や色に対するこだわりが強いことが反映されてい ると考えられる。
図 13 子供の性別と衣服に対する意見の有無(p < 0.001)
3.3 子供の行動特性・パーソナリティ特性 1)行動特性
子供の行動特性については,好きな遊びが男児と女児で大きく異なっていた。男児は「鬼ごっこ」
「ボール遊び」「ヒーローごっこ」などを好むのに対して,女児は「ままごと」「お絵かき」「人形遊 び」などを好んでおり,子供が自分の性別に応じて「男の子らしい遊び」「女の子らしい遊び」を していることが明らかになった(図 14)。子供の好きな遊びと,子供の好む衣服や色との間に関連 は認められなかった。フィールド調査においても,子供の着用衣服と,遊びや活動量との間にはっ きりとした関連は認められなかった。
図 14 子供の性別と子供が好む遊び(p < 0.001)
2)パーソナリティ特性
子供のパーソナリティ特性については,全体的に明るく素直で活発な子供が多く,男児は男の子 らしく,女児は女の子らしいという傾向が認められた。その一方で,「リーダーとしてふるまう」「人 と競争しようとする」といった特性は,顕著にみられなかった。図 15 は,パーソナリティ特性と 子供の好む色との関係を示したものである。パーソナリティ特性に関する 14 項目について,「非常 にあてはまる」を4点,「ややあてはまる」を3点,「あまりあてはまらない」を2点,「全くあて はまらない」を1点として,項目ごとの平均点を求めた。
14 項目のパーソナリティ特性のうち,子供の好む色との間に有意な関連が認められたのは,「素 直である」「ものを大切にする」「女の子らしい」「男の子らしい」の 4 項目であった。「素直である」
子供は緑と白を好み,「ものを大切にする」子供は白を好む傾向がみられた。「女の子らしい」子供 は,ピンク・水色・白を好み,青・黒・緑はあまり好んでいない。逆に「男の子らしい」子供は, 青・
緑を好み,ピンク・白・水色はあまり好んでいなかった(図 15)。
図 15 子供の好む色とパーソナリティ特性
子供が好む色との関連が認められた4項目のうち,「女の子らしい」と「男の子らしい」については,
実際の子供の性別による影響が大きいものと思われる。すなわち,男児は「男の子らしい」パーソ ナリティ特性をもち,青や緑といった色を好む一方,女児は「女の子らしい」パーソナリティ特性 を持ち,ピンクや水色といった色を好むというように,子供の性別によってパーソナリティ特性と 好きな色が規定されたと考えられる。
図 16 は,子供の好む衣服とパーソナリティ特性との関連を示したものである。それぞれの項目 について,「非常にあてはまる」を4点,「ややあてはまる」を3点,「あまりあてはまらない」を 2点,「全くあてはまらない」を1点として,子供の好む色ごとに平均点を求めた。
図 16 子供の好む衣服とパーソナリティ特性
14 項目のパーソナリティ特性のうち,子供の好む衣服との間に有意な関連が認められたのは,「内 気である」「運動が得意である」「ものを大切にする」「女の子らしい」「男の子らしい」「無邪気で ある」の6項目であった。「内気である」子供は,「ブラウスとプリーツスカート」を好み,「Y シャ ツとネクタイ」と「フリル付きドレス」についてはあまり好んでいなかった。「運動が得意である」
子供は,「Tシャツと半ズボン」と「フード付きベストとカーゴパンツ」を好み,「Y シャツとネク タイ」はあまり好んでいなかった。「ものを大切にする」子供は,「ジャンパースカート」を好み,
「ブラウスとプリーツスカート」は好んでいなかった。「女の子らしい」子供はスカートスタイルを 好むのに対し,「男の子らしい」子供はパンツスタイルを好んでいた。「無邪気である」子供は,「ジャ ンパースカート」「フリル付きドレス」「Y シャツとネクタイ」「フード付きベストとカーゴパンツ」
「フリル付きカットソーとスカート」を好み,「ブラウスとプリーツスカート」は好んでいなかった
(図 16)。これらの6項目のうち,「女の子らしい」と「男の子らしい」については,色とパーソナ リティ特性との関連と同様に,実際の子供の性別による影響が大きいと考えられる。
4 まとめ
子供服の選択の際に,保護者は子供服についての情報を店頭や雑誌で入手し,主に子供服専門店 や量販店で購入していた。子供服選択時に特に重視していたのは「価格」と「サイズ」であり,親 は経済性を考慮して子供服を選択していた。また,「動きやすさ」や「着脱のしやすさ」などの機 能性に関わる項目も重視していた。ファッション性にかかわる項目では,「色」「デザイン」は重視 していたが,「流行」「ブランド」はあまり重視しておらず,流行やブランドにとらわれていない。
また,子供服の選択時に子供の意見を「非常に重視する」「やや重視する」と回答した親が合わ せて8割に達しており,大部分の親が子供の意見を重視していた。この子供の意見を重視する程度 と,家庭でのしつけの厳しさとの間に関連は認められなかった。
衣服の好き嫌いは3歳から4歳頃にかけて出現しており,この時期に被服に対する関心が強まっ ていた。衣服に対する意思表示については,男児は 67%,女児は 94%が「自分が着用する衣服に ついて意見を言う」と男児よりも女児の方が,意見を言う割合が高く,性別による有意差が認めら れた。これは男児よりも女児の方が衣服に対して強い関心をもっているためと推測できる。また,
男児は全員がパンツスタイルを,女児はほとんどがスカートスタイルを好んでおり,性別による有 意差が認められた。男児では男らしい服である「Y シャツとネクタイ」を好む子供が 41%と最も 多く,次いで「フード付きベストとカーゴパンツ」が 29%であった。一方,女児では女らしい服 である「フリル付きドレス」を好む子供が 53%と最も多く,次いで「フリル付きカットソーとス カート」が 22%であった。また,フィールド調査で実際に子供が着用している衣服を観察した際も,
上衣については性別による有意差が認められなかったものの,下衣については,男児はズボン,女 児はスカートを着用する傾向がみられた。このように,子供は普段から「男の子らしい服」「女の 子らしい服」を着用することで,被服に対するジェンダー観を自然と形成していく可能性が考えら れる。
親が子供に着せたい衣服と子供が好む衣服を比較すると,男児の場合はパンツスタイルを好み,
女児の場合はスカートスタイルを好むという点では親子ともに共通している。しかし,子供が最も 好む服は,男児で「Y シャツとネクタイ」,女児で「フリル付きドレス」とフォーマルな衣服であ るのに対し,親が最も着せたい衣服は,男児で「フード付きベストとカーゴパンツ」,女児で「フ リル付きカットソーとスカート」とカジュアルな衣服であった。子供はより男らしさ・女らしさが 強調された,フォーマルな衣服を好んだのに対し,親は男らしさ・女らしさを重視しながらも,子 供らしく日常的に着られる衣服を選択した。また,親のジェンダー観と子供が好む衣服との間には,
直接的な関連は認められなかった。
子供が好む色としては,赤が男女ともに好まれる一方,男児には青,緑,黒が,女児にはピンク と水色が特に好まれており,性別によって大きな差がみられた。しかし,フィールド調査で子供が 着用している衣服の色を観察した際には,性別による有意差は認められなかった。
14 項目のパーソナリティ特性のうち,子供の好む色との間に有意な関連が認められたのは,「素 直である」「ものを大切にする」「女の子らしい」「男の子らしい」の 4 項目であった。「素直である」
子供は緑と白を好み,「ものを大切にする」子供は白を好む傾向がみられた。「女の子らしい」子供 は,ピンク・水色・白を好み,「男の子らしい」子供は,青・緑を好んでいた。
14 項目のパーソナリティ特性のうち,子供の好む衣服との間に有意な関連が認められたのは,「内 気である」「運動が得意である」「ものを大切にする」「女の子らしい」「男の子らしい」「無邪気である」
の6項目であった。「内気である」子供は,「ブラウスとプリーツスカート」とカジュアルな服を好 み,「運動が得意である」子供は,「T シャツと半ズボン」と「フード付きベストとカーゴパンツ」
を好んでいた。「ものを大切にする」子供は,「ジャンパースカート」を好んでいた。「女の子らしい」
子供はスカートスタイルを好むのに対し,「男の子らしい」子供はパンツスタイルを好んでいた。「無 邪気である」子供は,「ジャンパースカート」「フリル付きドレス」「Y シャツとネクタイ」「フード 付きベストとカーゴパンツ」「フリル付きカットソーとスカート」を好みの幅が広い。
今回の調査により,幼児の被服選択は親の意識と関連しており,特に親のジェンダー観が子供の
「男の子らしい服」「女の子らしい服」に対する好みを形成する可能性が示唆された。また,子供は 性別に応じて「男の子らしい服」「女の子らしい服」を普段から着用しており,子供自身もそのよ うな被服を好むという実態が明らかになった。さらに,子供の衣服や色に対する好みは,パーソナ リティ特性とも関連していることが明らかになった。したがって,望ましい幼児期の衣生活につい て考える際,従来のように生理学的機能面から考えるだけにとどまらず,精神的・社会的機能面か ら考えることも必要であろう。
「被服を着る」ということには,単に物理的な意味で「身体を覆う」だけではなく,自分の好み や TPO に合わせて,「どのような被服をどのように着るか」ということも含まれる。今回の調査で,
子供は幼児期から被服に対して高い関心をもつことが明らかになったが,子供が被服に対して自ら 関わり始めるこの時期をとらえて,社会的意味での「被服の着方」を教えていくことが必要ではな いだろうか。日常生活の中で,どのような被服をどのように着るかということは,人間が生きてい くうえで不可欠なものである。したがって,養育者が適切な衣生活環境をととのえ,子供が自分で 着用被服を選んだり,自分で着方を考えたりするような機会を与えることが重要であろう。そうす ることで,子供が生涯にわたって豊かな衣生活を送るための,基礎を築くことができると考える。
引用文献
1) Susan B. Kaiser, “Clothing and the Social Organization of Gender Perception :A Developmental Approach
“,Clothing and Textiles Research Journal, 7(1989), pp.52-53
2) 高橋尚子「幼児の被服における関心」『東京家政大学生活科学研究所報告』第9巻,pp.7-11,1986 年 3) 岡田宣子「幼児の着脱行動からみたしつけ服の設計」『日本家政学会誌』47 巻,
pp.702-703,1996 年
4) 光松佐和子「乳幼児の着衣調査;保育園における着衣状況」『日本衣服学会誌』43 巻,1999 年
5) 高野倉睦子「幼児の被服行動と自己概念の形成との関係(第2報)」『昭和学院短期大学紀要』,第 35 巻,
pp.43-44,1998 年
6) 布施谷節子「乳幼児の衣生活の現状(第1報)(第2報)」『日本家政学会誌』42 巻,pp.553-554,1991 年 7) 近藤トシエ「乳幼児の衣服選択に及ぼす母親の影響(第1報)」『日本衣服学会誌』46,pp.38,2003 年 8) 光松佐和子「乳幼児の衣服選択に及ぼす母親の影響(第 2 報)」『日本衣服学会誌』46,pp.48-50,2003