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理科1 分野(エネルギー・粒子)の内容と指導のポイントについて: 茨城大学機関リポジトリ

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理科

1

分野(エネルギー・粒子)の内容と指導のポイントについて

松川 覚*

(2017 年 8 月 31 日受理)

About a Point of Contents and Instruction of Junior High School Physics

and Chemistry Teaching

Satoru Matsukawa*

(Accepted August 31, 2017)

はじめに

 義務教育段階の理科教員養成を行う際の留意点の一つに「分野」がある。理科には物理学・化学・ 生物学・地学の4つの分野があるが,ほとんどの学生はその中に得意分野と不得意分野がある。そ の為,得意な分野を教える際には自信を持って教えることはできても,不得意な分野について知識 があいまいになり,その結果十分な教科指導を行う自信がないということがしばしば起こる。この 問題を解決する為には,内容と指導のポイントを示し,各分野で最低限教えなくてはならない事柄 を明確にし,学生が大学時代に学習しなくてはならないことを示すことが必要であると考えた。そ こで,理科1分野(エネルギー・粒子)分野に着目し,その内容と指導のポイントについて,学生 の学びの道標となるような解説を作成することにした。

理科第1分野の内容と指導のポイントについて

 理科1分野では「物体」と 「物質」 について学ぶ。「物体」については,物体に力を加えるとど うなるか?物体はどのように運動するのか?物体に熱や電場・磁場を加えたらどうなるか?という 学びを行い,「物質」では,物質は何から出来ているのか,物質どうしを混ぜ合わせるとどのよう に変化するのか?物質に熱や電気を与えるとどのように変化するか?という学びを行ことになる。 本論文では中学校理科1分野に絞り,「物体」と「物質」の学びと指導のポイントについて,中学 校学習指導要領解説:理科編と大日本図書「新版理科の世界」内容を基に,小学校ならびに高等学 校の学習のつながりも踏まえながら解説を作成した概要について以下に述べていく。

       

(3)

1.身の回りの物質:ア物質のすがたについて

 ここではまず,物質の基本について学ぶ。物質とは何かから,物質の性質を学び,これからの学 びの始まりとする。具体的には以下のことを学ぶ。

・身の回りにある物体は,様々な物質からなっている。 ・物質は,適切な方法で区別することが出来る。

・物質のうち加熱すると炭になったり,燃えて二酸化炭素を発生したりする物質を有機物といい, それ以外の物質を無機物という。

・プラスチックは,石油から人工的に作られる有機物の仲間である。 ・密度は一定の体積辺りの質量のことである。

・金属は金属光沢,展性・延性,電気や熱が流れやすいという性質を持つ。 ・適切な方法で気体を発生させることが出来る。

・気体には空気より軽いもの重いもの,水に溶けるもの溶けないものがある。 ・酸素は物を燃やす働きがあり,水素はそれ自身が燃える性質を持つ。

 まず,「物質」というものについて学ぶが,ここで「物質」と「物体」の違いについてしっかり学び, 物質について理解することが重要と思われる。例えばコップという「物体」には,ガラス,プラス チック,金属,陶器,紙など様々な「物質」から出来ていることに気づかせながら身の回りにある 物体は,様々な物質からなっていることを理解させるのがここでのポイントである。物体と物質の 違いについては高等学校の化学においてまず学ぶ事項であり,学びのつながりからもしっかりと押 えておくことが望ましい。

 次に,物質を区別する方法について,性質の違いで区別する方法について学ぶ。区別の手段には いろいろあるが,なめて判断するということはその物質が毒であったりする可能性もあるので原則 行わないということにも触れておく必要がある。ふざけて口に入れるといった行為をする生徒がい ないよう,安全面でもしっかりとした指導が必要である。同様に,においをかぐという行為にも注 意が必要である。硫化鉄の実験などで事故がしばしば報じられるように,安全教育という点からも, においをかぐ際の注意は徹底すべきである。においを直接かがないという当たり前のことだけでは なく,手であおいでかいでも危険な場合もある事をしっかりと理解しておくべきである。

 物質の区別として有機物・無機物を取り扱う。この学びでは小学校6年次の燃焼の仕組みで取り

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扱ったろうそくや木や紙などは有機物である事を関連付けて学ばせるとよい。また小学校算数で学 ぶベン図を用いて物質のうち有機物でないものが無機物である事や,ろうそくや木が有機物である 事を表現するとより理解が進むと考えられる。

 次に,身の回りの物質の例としてプラスチックや金属について学ぶ。プラスチックについてはポ リエチレン,ポリエチレンテレフタレートなど代表的なプラスチックの性質に触れ,燃やしたり水 に入れたりしてその様子を見る。教科書等で取り扱われるプラスチックは熱可塑性樹脂がほとんど であり,一方で火に燃えにくい性質がある熱硬化性樹脂については触れられていないが,高等学校 以降の化学の学びや実生活との関わりを踏まえると,食器や,絶縁性部品や接着剤などに用いられ る熱硬化性樹脂についても触れることがより望ましい。金属については,小学校の学びを踏まえつ つも,金属以外にも電気を通すものがあることや,金属の性質として磁石につくことを挙げる誤認 識がしばしば見られることを留意しながら教えることが必要である。

 また,密度については同じ体積でも物の重さが違うことを理解させ,更に計算をさせることにな る。プラスチックの性質を学ぶ際に,水に入れて浮かぶか沈むかを学ぶが,その結果と密度を関連 付けて学ぶことも有効である。さらに「身近な物理現象」で取り扱う浮力とも関連付けて学ばせ, どのような場合水に浮かぶのかを密度と浮力から考えさせることが出来れば,高等学校の物理と連 続した学びが可能になる。

 最後に気体の発生と性質について学ぶ。小学校の学びにおいて,酸素・窒素・二酸化炭素などの 気体について学んでいる。ここではそれらに加え,更に水素やアンモニアなどの気体の発生法や性 質について学ぶ。窒素の発生の実験は通常行わないが,肥料や爆薬の原料として用いられる硝酸ア ンモニウムを加熱することによって得られることには言及した方が良い。また水素の発生の実験は 事故の例が時に観られる。ひびなどの入っていない小さめの試験管で集めるようにし,事故を起こ さないよう注意しながら実験を行うようにする。また,アンモニアの噴水の実験は,インパクトが 大きく,生徒の中でも記憶に残りやすい実験であるので最低でも演示実験では行った方がよい。気

物質

有機物 無機物

植物体

図2 においをかぐときには注意が必要

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体の性質については,様々な気体を水に溶ける気体・溶けない(溶けにくい)気体ならびに空気よ りも軽い気体・重い気体に区別できることは最低限学ばせたい。また酸素がものを燃やす働きと, 水素の爆発(燃える)する性質の違いについても「助燃性」「可燃性」という言葉を用いて学ばせ, 高等学校との学びのつながりを持たせるとよい。

2.身の回りの物質:イ 水溶液について

 水溶液については小学校5年次で,溶けるという現象,さらに溶ける量が物質や温度によって異 なることなどを学び,さらに溶けたものを蒸発と再結晶によって取り出すことも学ぶ。ここではこ れらの学びをもう一度学びながら,水溶液について深く学んでいく。

・ 溶液に溶けている物質を溶質,溶質を溶かしている液体を溶媒と呼ぶ。 ・ 水に溶けるとは溶質が水に均一に分散している状態である。

・ 一定の水に溶ける物質の最大の量をその物質の溶解度という。

・ 再結晶や溶媒の蒸発などで,溶けている物質を取り出すことが出来る。

 まず,溶けるとは溶質が水に均一に分散していることを粒子のモデルを用いながら,2種類の粒 が均一に混ざり合っていることを学ぶ,これにより溶ける=粒の混ざり合いである事をイメージさ せ,溶ける前後で重さが変わらないことを再度確認させることも重要である。再結晶の実験を行う 際には溶解度について,溶解度曲線だけではなく実際の溶解度の数値を用いながら飽和量や再結晶 で出てくる量などを計算させると良い。また,蒸発皿に水溶液を入れて加熱することでも溶質を取 り出すことが出来るが,砂糖水などの有機物は焦げてしまう為に不適である事も有機物・無機物の 学びと関連つけながら生徒に考えさせながら学べると良い。

3.身の回りの物質:ウ状態変化について

 小学校4年次の学びで,身の回りの水が蒸発したり結露する変化や凍ったり融けたりする変化を 学び,そこで固体・液体・気体という言葉も学ぶ。さらに物が温まってゆく様子についても学び,

図6 アンモニアの噴水は是非実施したい実験の一つ

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ろうが融ける様子や水や空気の温まり方について学んでいる。この章では,その学びを発展させて 固体・液体・気体とその状態変化について学ぶ。

・ 温度や圧力によって物質が 固体⇔液体⇔気体と変化することを状態変化と呼ぶ ・ 蒸発は液体の表面で起こり,沸騰は液体全体で起こり,内部からも気体に変化する。 ・ 熱を加えると粒子の運動が大きくなる

・ 蒸留という操作によって混ざった物質を分けてとることができる。

 まず,一般に液体を冷やして固体にすると体積が小さくなることを学ぶ。ここで水はそれと異な る挙動をするがそれは物質の中でも例外であることをしっかりと教えることが重要である。その理 由についてこの段階で教えることは難しいが,水の結晶の分子模型を用いて説明することが出来れ ば理想的である。

 また,熱を加えると粒子の運動が大きくなるということをしっかりと教えることが重要である。 物質を構成している粒子が熱によって運動することで体積が大きくなり,さらには液体,気体へと 変化する。逆に冷やすと粒子の運動が小さくなり液体固体へと変化し,その際に温度が下がるほど 体積も小さくなるということを学ばせる。ここは小学校4年生次において学んだ金属・水・空気が 温めると体積が膨張し,冷やすと収縮するという事項と関連つけながら行うと良い。

 また,水が沸騰する際に出来る泡は空気ではなく水が状態変化した水蒸気である事もしっかり学 ばせ,蒸発と沸騰の違いを粒子の図で表現させたい。また,液体が気体に変化する際は体積が大き く変化することも実験を通じて理解させたい。

4.身近な物理現象:ア 光と音について

 この章では身近に起こっている物理現象のうち光と音に焦点を当てている。小学校3年次で,光 が直進すること,鏡などに当たって反射すること,虫眼鏡などを用いると光を集めることが出来る ことを学んでいる,ここではそれらの学びを踏まえて光の性質について身近な現象と結びつけ学ぶ。 ・ 光は直進し,物体に当たると跳ね返る。反射する際に入射角と反射角は等しい

・ 光は空気とガラス,空気と水のように異なる物質の境界面で折れ曲がる。これを屈折という。 ・ 凸レンズが光を集めるのは光の屈折によるものである。

・ 物体と凸レンズの距離と焦点距離の関係によって像の見え方は異なる。 ・ 音は物体が振動して発生している

・ 振幅が大きいと音は大きく振動数が大きいと音が高い。

固体

液体

気体

図8 2つの粒子のつながりから

三態を理解するのも有効 図

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 まず,物が見えるのは光がいろんなものに跳ね返ってその光が目に入ることだということを理解 し,光の役目を実感することは重要である。また,光の反射について入射角と反射角が等しく,こ れは鏡だけでなくデコボコした物体においても同じである事もしっかりと学ばせたい。

 光に屈折については空気,水,ガラスでは,光が進む速度が異なることから起こる現象である事 を教える。屈折角についてはしっかりと作図をさせることで入射角と屈折角の関係について学ばせ たい。その延長として屈折が起こらずに全反射する場合がある事に気づかせられるとよい。  次に凸レンズについて学ぶが,凸レンズが光を集めるのは光の屈折によるものである事をまずは 気づかせ,レンズの形(厚さ)が違うと屈折角が異なることから光の集まる焦点距離も異なるとい う学びへとつなげたい。また凸レンズによる像のでき方についてレンズとの距離と像のでき方つい て規則的に学ぶこともこの単元での大きな目的の一つである。光源・凸レンズ・スクリーンを用い た実験を用いてそれらを学んでいく。学習指導要領には作図は補助的な手段と示されているものの, 実験条件と同じ条件のものを作図することでより理解が深まると考えられる。また凸レンズを用い た実像を見る利用例としてカメラ,虚像を見る例としてルーペを挙げ,作図をしてそれらの原理に ついて学ぶのも実生活とのつながりから重要である。

 次に音について学ぶ。音は物体が振動によって生じることを学ぶ。さらに,弦楽器を用いる実験 を通じて音の大小や高低と弦の動きから,振幅と音の大小,や振動数と音の高低について視覚的に 理解させる。このときモノコードを用いる際には,太い弦と細い弦の2種類を用い,張力を変化さ せて実験するとより理解しやすく,実際のバイオリンやギターの弦の仕組みも理解可能になる。そ して,この実験を通じて音を波で表すことができることを学び,大きな音,小さな音,高い音,低 い音を波で表現できるようにしたい。弦を用いた振動数の学びは,5年次の振り子の一往復する時 間は弦の長さによって決まることを思い出させながら行うとより効果的である。最後に,光と音に 関しての重要な注意点として,光や音は波のように進むと間違って理解しがちである。光も音も光 源・音源から,目・耳には直進して届き,直進するときに強さが変化している様子を波で表してい るということもしっかりと学ばせたい。

図11 ルーペは虚像を利用している 図12 ギターの弦の太さと音の関係から振動数を学ぶ

図13 弦の固有振動数の式と実験結 果の関係,高校での学びとのつながり

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5.身近な物理現象:イ 力と圧力について

 力に関する内容は,小学校3年次にゴムの働きで力が働くこと,物と重さで物に重さがある事, 小学校6年次にてこの規則性で力の働く位置(支点力点作用点)やつりあいについて学ぶ。 ・ 物体に力を加えると変形する

・ 力には物を動かしたり持ち上げたり変形させたりする働きがある ・ 力には,大きさと向きによって表すことができ,矢印で表現する。 ・ ばねに重りをつるすとき,ばねの伸びは重りの重さと比例関係にある。 ・ 圧力は面に対して垂直に働く力を面の面積で割ったものである。 ・ 水圧はあらゆる向きから働く,水圧は深いほど大きくなる

・ 水中の物体に対して上方向に働く力を浮力といい,大きさは水中の体積に比例する。 ・ 空気中にも大気圧という空気による圧力が存在している。

 この章ではまず身近に存在するいくつかの力について学ぶ。具体的には,摩擦力・磁力・電気の 力・重力などであるが,これらはこの後学ぶ物理現象の前段階の知識として重要である。なお,電 気の力と電力を混同しないことも重要である。

 次に,重りの重さとばねの伸びの関係を調べる実験を行う。ここでは力を加えると物体が伸びる ということを学ぶ。また,グラフを作り比例関係を導き出す。このとき実験データを折れ線にしな いで近似直線を描かせることに留意する。理科において,グラフを書くのはこの実験が最初である。 今後いくつかの実験で同じような比例関係のグラフを作ることになるので,グラフの書き方はしっ かりこの機会に学ばせるようにする。重さとばねの伸びの実験は,比較的分かりやすいデータが出 やすい実験である。

 また,力には向きと大きさがある事を学び,それを矢印で現すことも学ぶ。これも直感的に理解 しにくいかもしれないが,小6で学んだてこのはたらきやつりあいの図に対して,力を矢印で書か せる事で,すでに学んだ事柄と結びつけることで理解を容易にすることが出来る。

 次に圧力について学ぶ。尖ったものが手に当たると痛いが平らなものだと痛くないと言った手軽 に感じ取れるものをきっかけにし,そこから圧力は力の大きさを面積で割った値である事をイメー ジさせると良い。

 さらに水圧や大気圧についても学ぶ。水圧では水の圧力は一つの向きからではなくあらゆる向き から働くことや,水が深いところほど圧力が大きくなることを学ぶ。図のような粒子のモデルを用 いることで,それらの現象について理解させることも出来る。また大気圧では例えば,ペットボト ルの中の空気を抜くとペットボトルがへこむといったことから空気の圧力も実感させる。この場合 にも空気を粒子で現すことで理解することも出来,さらに空気には重さがある事も学ぶことが出来

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る。4年次の空気と水の学習と関連付けながら,粒で現すと,大気圧と水の圧力では水の圧力の方 が大きいことも理解できる。

 最後に浮力について学ぶ。浮力という力の存在は直感的に理解しやすいが,浮力の働き方につい ては理解が難しい。浮力は体積に比例する事をばねばかりを用いて実験し,重さが異なる物体でも 体積が同じであれば浮力は同じであることを実感させたい。また,浮かんでいる物体の場合は水に 沈んでいる体積分にのみ浮力が働いていることも同様にばねばかりを用いた実験と計算から理解さ せる。力と圧力は,目に見えるが実感しにくい現象を理解させることが必要になるため,実験事実 をただ見るだけではなく,計算を含んだ数量的な扱いを行い,計算しやすい条件での実験を設計し て実感させることも重要である。

 

6.化学変化と原子・分子:ア 物質の成り立ちについて

 身の回りの物質で物質について学び,この章では物質を化学変化させて変化から物質の成り立ち について学ぶ。ここで学ぶ内容は以下のとおりである。

・ 物質は熱や電気を用いて分解することができる

・ 物質は原子からできている。原子はそれ以上分けられない,原子には種類がある,原子は他の 種類の原子にはならない

・ 原子がいくつか結びついて出来た小さな粒子を分子といい。結びつき方によって性質が異なる。 ・ 原子・分子は記号で表すことができる。

 物質の分解のポイントとしては,「酸化銀は熱で銀と酸素に分解される」から,「酸化銀は銀と酸 素から出来ている」,「水は電気で水素と酸素が2:1に分解される」から「水は水素と酸素が2:1 で出来たもの」と考えて,分解された物質からもとの物質の成分を考えるようにすることである。

図16 圧力の差で物体が押し縮められる様子を粒子を用いて表現できる

図18 分解された物質からもとの物質を考える際にも粒子モデルからイメージできる 図17 浮力は水に沈んでいる体積に対して働く。意外と誤解されやすい

+ +

酸化銀 銀 酸素 酸素

水素

水素 水 水素

水素酸素 銀

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 物質が分解する学びを通じて,次に物質はこれまで考えた粒子のモデルよりも更に細かく,それ 以上分けられない粒子である原子から出来ていることを学ぶ。ここで学びのポイントとして,「原 子の大きさは約1億分の1センチである」「原子には種類がある」という基礎を教える。さらに,「原 子の種類を記号で表したものを「元素記号」と呼ぶ」というふうに,「元素記号」という言葉を発 展的ではあるが用いた方が理解させやすい。原子の大きさを実感させる手段として,空気(酸素ま はた窒素分子)を一億倍した大きさのイメージとして鈴カステラやプチシュークリームを用いて親 しませるのも有効である。元素記号が苦手であったり理解しにくいという生徒も多い。原子を区別 するための手段として記号を用いている,種類が多いと粒で表すとむしろ区別にくいから記号にし たということを教え,記号の必要性を説明するのも重要である。

7.化学変化と原子・分子:イ 化学変化について

 この章では化学変化について取り扱う。基本的な変化として化合・酸化・還元を行う。また化学 反応式を学ぶ。ここで学ぶ内容は以下のとおりである。

・ 2種類以上の物質が結びついて別の物質に変化することを化合という。 ・ 化学変化の様子は化学反応式を用いて表すことが出来る。

・ 酸化は酸素と化合する変化,還元は酸素が奪われる変化である。 ・ 燃焼は酸化反応のひとつである。

 硫化鉄の化合の実験は,激しい化学反応は目で見て取れること,反応前とは異なる物質が生成す ることを実感する為に有効な実験であるが,反面多くの事故例がある。鉄が硫化鉄になり磁石につ かなくなることから性質が変わった別な物質になったことのみを取り扱うと良い。塩酸を加えて硫 化水素を発生させる実験も知られているが,これを行わなくても学びには影響がなく,あえて有害 な気体を発生させることも無いため,行わない方が良い。さらに,小学校6年でアルミニウムが塩 酸に溶けてアルミニウムとは違う別の物質になることを学んだことを思い出させ,その反応も化合 であったことに気づかせることも重要である。

 化学反応式については,やはり生徒が苦手意識を持ちやすい部分であるので,粒を用いた式を必 ず併用しながら学ばせるようにし,できればまず粒で表してから次に式で書くような手順で徐々に

図20 硫化鉄に塩酸を加える実験は推奨しない 図21 アルミニウムと塩酸の反応も化合 図19 元素を粒で区別すると,種類が多くなったときに区別困難なので記号で区別する

H

O

C

N

Fe

Cl

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化学反応式に親しませるような工夫も必要である。酸化と還元において,実験だけではなく,変化 について粒子のモデルと化学式を用いてしっかりと学ばせることが必要である。また,いずれの場 合も反応後の物質が反応前と異なった性質を持つことを確認することもポイントである。さらに, 酸化の一例として燃焼を取り扱うが,その際に酸化=燃焼のこととならないよう気をつけたい。

 次に,化学変化には熱の出入りが伴うことを学ぶ。小学校での塩酸とアルミニウムの反応や,こ の章で学ぶ硫化鉄の反応などで化学変化する際に熱を発生することは経験から生徒は理解している が,その一方で熱を吸収する化学変化がある事はあまり想像がつかないと思われる。塩化アンモニ ウムと水酸化バリウムの反応や,クエン酸と重曹の反応などを実験しながら温度計の変化を観るだ けでなく,実際に手で触れて冷たくなっていく様子を実感させることが重要である。

 さらに,化学変化と質量について学ぶ,最初に化学変化の前後で質量が変化しないことを実験か ら学ぶ。このとき,水に物を溶かした前後で重さが変わらなかったという以前の学びと混同しない ようにしたい。物が溶ける現象は化学変化ではないということを教えて区別することは必要である。  次に銅粉の加熱を例に,質量変化の規則性について学ぶが,この実験では,誤差が極めて大きく 理想的なデータが出にくいことが良く知られている。その原因はいくつかあるが,一番は加熱に用 いるステンレス皿である。ステンレス皿に水分が残っていると,加熱を繰り返すたびに水分が蒸発 してしまい重さにマイナスの誤差を生むのである。ステンレス皿を何ものせない状態で10分程度 加熱してから用いると,比較的誤差の少ない実験結果が得られる。ここで,比例関係のグラフを作 るが,重りとばねの伸びの実験を思いださせながら,実験データを折れ線にしないで近似直線を描 かせることに留意する。

8.電流とその利用:ア 電流について

 まずは回路と電流・電圧について学ぶ。小学校の学びで電池のつなぎ方と明るさの関係,電気の 流れる向きなどについて学んでいる。小学校では乾電池を直列並列につなぎ,豆電球の明るさの変 化について学んだ。また,電池の向きを逆にするとモーターの回転が逆になるということは小学校 4年で学ぶ。このことを踏まえて回路と電流・電圧の関係について学ぶ。

図22 化学式が理解しにくい場合には粒の式も併用していく(メタンの燃焼の例)

図23 吸熱反応は触って実感するのも大事 図24 ステンレス皿をあらかじめ加熱する

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・ 電流は電源(電池)の+から-に流れる

・ 電流が流れる道筋を回路といい,回路には直列回路と並列回路がある

・ 電流は回路の途中で増減しない,並列回路の場合は電流が分かれるがその前後の電流は等しい ・ 直列回路では,抵抗にかかる電圧の和と電源の電圧が等しい。

・ 電気回路の2点間の電位差は,そこに流れる電流に比例する。V=RIが成り立つ ・ 電流とは電子のような電荷を持った粒子が流れることである。

・ 一秒当たりに消費する電気エネルギーの量を電力といいP[W]=V×Iである。 ・ 電力に時間をかけた値を電力量といい,消費した電気エネルギーの量をあらわす。

 まず,基本であるが,電流は電源(電池)の+から-に流れることをしっかりと教える。これは, 電気分解や化学電池を学ぶ際にも重要である。(一方で,電子の流れは電源の-から+である。)  回路の電流の変化や電圧変化について学ぶが,電球などの抵抗の前後で電流や電圧が減ってしま うような直感的な誤解が良くされるが,水の流れを電子の流れ=電流とみなしたとイメージ図を用 いるとその誤解もなくなる。また,並列回路は電流が別れる,直列回路は電圧が別れる,いずれも 回路の両端で電流は変化しないことも水の流れの図からイメージさせるとよい。

 これらの学びの延長として,電流計,電圧計の正しいつなぎ方も考えさせながら学ぶと良い。電 流計も電圧計も電球と同じ性質なので,電流計を並列につなぐと電流が分かれてしまうので,電流 計は直列につなぐ,電圧計は直列につなぐと電圧が分かれてしまうので並列につなぐ,ということ も回路に流れる電流電圧の特徴を理解すれば容易に考えられる。

 次に,抵抗を用いて抵抗に加える電圧を変えた場合の電流の大きさを調べ,電流と電圧が比例関 係にある事を実験から学ぶ。実験から比例関係を導き出す学びは3度目となるので,ここでこれま で学んだ比例関係の例について振り返りをしてもよい。オームの法則を学ぶ際に,抵抗値の異なる 複数の電熱線を用いて抵抗が大きいと電流が流れにくいことにも着目させたい。また2つの抵抗を 直列や並列につないだときの合成抵抗については,直列回路は電流が分かれない,並列回路は電流 が別れるが電圧は同じという法則を思い出しながら考えていくと,難しいながらも理解が出来る。 さらに,電気エネルギーの量として電力P[W],電力量W[J]を学ぶ。このとき電熱線を例にし,電 流によって熱も発生することが出来ることも学び,そのときの熱量も電力量に等しいことも学ぶ。  なお,電力PはP=IVであるが,オームの法則V=RIを用いることでP=I2R=V2/Rと表すことも 出来,電力量WはW=IVtで表すが,同様にW=I2Rt=V2/R×tと変形できる。これは発展的内容 で難しいが,物理基礎とのつながりや日常生活や技術科での学びと関連を踏まえると,電力量や電 力について抵抗を用いて計算することは重要である。

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9.電流とその利用:イ 電流と磁界について

 小学校では磁石の性質について学びN極S極を学ぶ。また,電磁石を用いた学びを行い,電流の 大きさやコイルの巻き数によって電磁石の強さが変化すること,電池の向きによって電磁石の極が 変わることも学ぶ。これらの学びを元に電流と磁界について学んでいく。

・ 磁力の働いている空間を磁界という

・ 磁界の様子は磁力線で現し,向きはN極からS極である。磁界が強いと磁力線の間隔は狭い。 ・ 導線やコイルに電流を流すと磁界が発生する。磁界の向きは右ねじの法則に従う。

・ 磁界の中の電流は磁界から力を受ける。受ける力は電流と垂直の力である。 ・ コイルの中の磁界が変化するとコイルに電流が流れ電圧が生じる。

・ 電気には直流と交流がある。

 まずは,磁石が作る磁界について砂鉄や方位磁針を使って視覚的に見る。このとき方位磁針のN 極が指す向きを見ながら,磁力がN極からでてS極に入る磁力線を書く。電流が+から-に向かっ て流れることと結びつければ磁力線の向きも直感的に理解させられる。同じく電磁石で行い,電流 を強くすることで磁界が強くなったり,電流の向きを逆にすると方位磁針の向きが逆になることを 見る。次にコイルを用いて電流が作る磁界について学ぶ。ここではまずは1本の導線が作る磁界の 向きを方位磁針の向きから観察して右ねじの法則(アンペールの法則)を見出すことが重要である。 ソレノイド(コイル)の周りの磁界はこれの応用になる。

 さらに磁界の中を流れる電流は磁界から力を受けることを,電気ブランコの実験から学ぶ。ここ で,電流・磁力の向きと力を向ける向きの関係から法則性を導き出してフレミングの左手の法則を 学べるようにする。ここで,電流や磁力の大小と力(ブランコの動き)の関係にも気づかせたい。

 さらに,コイルの中の磁界を変化させると電流が流れるという電磁誘導という現象をコイルと棒 磁石を用いて行う。このとき,コイルには磁石を近づけるとその磁力を打ち消すように磁界が変化 し,磁石を遠ざけると減っていく磁力を補うように磁界が変化することから電流が生じる。これを, 図27の右ねじのコイルと磁界の関係を利用して誘導電流の仕組みやその向きを考えさせると良い。

図26 電力,電力量の関係を図示することで分かりやすくなる 電流

電圧

電流 電圧

電流 電圧

時間

電力 (V x I) 電力量 (V x I x t)

図27 右ねじの法則と,その応用であるコイルに流れる電流と磁界 の関係は重要

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 また,強い磁石を用いたり,磁石を速く動かすと,コイルの中の磁界から受ける力が大きくなり, 電流が大きくなることにも電気ブランコの実験と関連付けながら学ばせたい。さらに,発電(火力) はこの電磁誘導を応用したものである事にも言及するとよい。

 最後に,電気には直流と交流がある事を学び,オシロスコープを用いて直流交流の電気の流れ方 の違いについて理解する。さらに身の回りの電気との関連として家庭用電気は交流,火力発電は交 流,乾電池,充電池,太陽光電池,手回し発電機は直流である事も学ばせたい。

 

10.運動とエネルギー:ア 運動の規則性について

 小学校では振り子を用いた実験で,振り子の周期は重りの重さにはよらず,糸の長さで決まるこ とを学んでいる。また,てこに重りを吊り下げる実験では,てこのつりあいについても学んでいる。 さらに,中1では力には大きさと向きがある事を学んでいる。これらを踏まえて力のつりあい,運 動の速さと向き,力と運動について学んでゆく。

 まずは,力のつり合いとして,力の合成や分解について学ぶ。具体的には以下のことを学ぶ。 ・ 物体にかかる2つの力は合成される,その時同じ向きの場合は足し算,逆向きの場合は引き算,

一直線上に無い場合は平行四辺形の作図で求める。

・ 物体にかかる力は逆に分解される,その際は一直線上に無い場合の力の合成と同様に平行四辺 形の作図で求めることができる。一方斜面にかかる力は斜面に垂直な力と斜面に平行な力に分け られる。

 ここでのポイントとしては,2つの力が一直線上に無い場合の合力の値が,平行四辺形の作図か ら求まる値と同じである事を,ばねはかりを用いた実験などで,数値的に実感させながら学ぶこと である。ただ機械的に計算したりするだけに留めないようにしたい。また,斜面にかかる力につい ては斜面の角度が小さいと斜面に平行な力は小さく角度が大きいと力も大きくなることを実際の例 を見せたり,斜面にかかる力の違いを体験させながら学ばせると良い。

 次に,運動の速さと向きでは,運動も力と同様に向きと大きさがあり,大きさは速さで表現する ことを学ぶ。具体的には以下のことを学ぶ。

・ 物体の速さは移動した距離を時間で割る。m/s,km/hなどの単位がある。 ・ 物体の運動には直線,回転,放物線など様々な向きがある

・ 記録タイマーを用いると速さを測定することが出来る。

 いずれも身の回りの現象として存在するものである。したがって適切なものを例示してイメージ するようにしたい。速さについては具体的に音の速さ,車の速さ,100M走の選手の速さなどを計 算で求め,速さに対して数値的な理解をさせると良い。また,直線,回転,放物線など様々な向き の運動についても,走る,ボール投げ,スケートなど実際の例を生徒たちに考えさせながら運動に 向きがある事を理解させる。

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 さらに,力と運動で物体に力が働く運動と力が働かない運動について学ぶ。

・ 物体が斜面を下る運動では,物体に斜面に平行な力がかかる。このとき物体の速度は速くなっ ていく。このとき速さの変化の割合は一定である。

・ 斜面でなく,真下に物体が運動(落下)する場合は速さの変わり方が一番大きくなる。 ・ 逆に力が全く働かない場合は速さが変化しない運動をする。

・ 物体に力が加わらない場合はそれまでの運動をする。静止しているものは静止し続け,運動し ているものは速さが変化しない運動をする。

・ 2つの物体が力を及ぼしあう場合には作用と反作用という力が働きこの2つの力は大きさが等 しく向きは一直線上に反対にある。

 斜面を物体が転がると速度がどんどん速くなっていくこと,斜面が急なほど転がる速度は大きく なることは直感的に理解できる。ここではその速さの変化の割合は一定であるという法則を記録タ イマーを用いて実感することが重要である。また,斜面を物体が転がると速度がどんどん速くなっ ていくのは「物体に力が加わっているから」である事もしっかりと理解させる。力の分解の学びを 思い出しながら斜面が急になれば物体にかかる力が大きくなるから斜面が緩い場合よりも速くなる こと,自由落下の場合は力が分解されないので一番大きな力になるから速さの変化の割合が一番大 きくなることも理解させる。また,「速さの変化の割合」と呼ぶと分かりにくい場合は「加速度」 という言葉を用いてよい。

 物体の運動に関しては,運動する様子を目で見れば変化の様子が直感的にイメージが出来る。物 体の運動する様子を目で見てから記録タイマーを用いる実験などでその運動の規則性を学ばせるこ とで,生徒に分かりやすく理解させることが出来る。その一方で,運動する物体にかかる力につい ては誤解されやすい。速度が増す運動では物体にかかる力も増えて行くという誤解は,よく見られ る。物体の運動速度と物体にかかる力が混同しないように注意したい。

 速度が増えても物体にかかる力は変化しない、等速直線運動では物体に力は働かない

図31 いろいろなものをm/sで表して速度を実感させることは有効である

♪♪~

走る人

10m / s

100Km/hで 走る車

28m / s

空気中を音が 伝わる早さ

340m / s

図32 斜面が急になるほど加速度は大きくなる。自由落下はその延長である

図33 物体の速さの変化と物体にかかる力を混同しないようにしたい

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11.運動とエネルギー:イ 力学的エネルギーについて

 ここでは物体の運動とエネルギーについて学び,仕事,位置エネルギー,運動エネルギー,更に はエネルギーの変換について学ぶ。まず仕事と仕事率について,以下のことを学ぶ。

・ 力を加えて物体を動かしたときの作業量を仕事と呼ぶ

・ 仕事Wは単位J(ジュール)で表され,W=力の大きさ×動かした距離で表せる。 ・ てこや動滑車を用いると力は少なくてすむが動かす距離は大きくなる。

・ 1秒当たりにした仕事を仕事率と呼び単位はW(ワット)である。

 物を持ってそのまま静止している場合や動かない壁を押した場合,人は力を使っているが仕事は ゼロである。このように力を使う=仕事ではないことにも留意する。次に滑車やてこを用いて物を 持ち上げても,使わずに持ち上げても仕事は同じである事も理解させる。力が小さくてすむ場合は 動かす距離が大きくなることを自転車のギアの軽い重いとペダルの回転や走る距離との関係から実 感させるとよい。また,中学2年次でならった電力量・電力と仕事・仕事率がそれぞれ同じ単位で あることから,「電力量は電気がする仕事」「電力は電気が1秒当たりにする仕事の割合」と考える ことが出来ることにも気づかせるようにするよい。

 次にエネルギーについて以下のことを学ぶ。

・ 高いところにある物体は位置エネルギーを持ち,その値は高さが高いほど,質量が大きいほど 大きくなる

・ 運動している物体は運動エネルギーを持ち,その値は速さが大きいほど,質量が大きいほど大 きくなる

・ 運動エネルギーと位置エネルギーの和を力学的エネルギーと呼び,その値は一定である。 ・ 運動エネルギー・位置エネルギーのほかにも,弾性エネルギー・電気エネルギー・熱エネルギー・

化学エネルギー・光エネルギー・音エネルギーなど,いろいろな種類のエネルギーがあり,それ らは互いに変換させることが出来る。

・ 実際に実生活でエネルギーを変換する際には,熱や音などの目的外のエネルギーに変わり全て が変換されるわけではない。

 エネルギーは目に見えないために,直感的に理解しにくい。そこで,具体例を挙げたり適切な実 験をしたりしながら理解させることが必要である。例えば運動エネルギーが物体の質量が大きいほ ど大きいことは,例えば大相撲での巨漢力士と小兵力士のぶつかり合いを例にすると分かりやすい。 また,位置エネルギーに関しては,滑り台や流れる川や滝の水などからイメージすることが出来, 水力発電はダムに貯めた水の位置エネルギーを利用したものであることにも触れたい。

 また,高等学校物理の熱力学との学びのつながりを意識し,熱エネルギーとは粒子の運動エネル ギーのことである事を,状態変化のことを思いだしながら学ぶことも行いたい。さらに、エネルギー の変換しているについて,身近な例を挙げながら実感させることも重要である。

図34 仕事と電力量,仕事率と電力は同じである事に気がつかせる

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 力学的エネルギーの保存を学ばせるには,斜面の高いところから球を転がした場合と低いところ から転がした場合の球の速さを比較することで,位置エネルギーが大きいほど運動エネルギーが大 きい,位置エネルギーが小さいほど運動エネルギーが小さいという法則性を見出すことで,エネル ギーが移り変わることと,運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定である事を学ぶ。数量的に エネルギーが保存されていることは学べないため,相対的なイメージからエネルギーが保存されて いることを学ぶことになるので図を使いながら理解を深める工夫が必要である。

12.化学変化とイオン:ア 水溶液とイオンについて

 小学校5年次と中学校1年で物が溶ける様子,再結晶について学び,小学校6年次で水溶液に は酸性・アルカリ性が存在することを学んでいる。さらに中学校2年で原子や元素記号,簡単な化 学式について学んでいる。ここではそれらを踏まえて水溶液中のイオンの存在について学ぶ。まず, 水溶液の電気伝導性について以下のことを学ぶ。

・ 水溶液には電気が流れるものと流れないものがある。

・ 溶かしたとき,その水溶液が電気が流れる物質を電解質,流れない物質を非電解質という。 ・ 電解質の水溶液を電気分解することができ,電極に気体や固体が生成する。

・ 電解質は,+の電荷を帯びた粒子である陽イオンと-の電荷を帯びた陰イオンに電離して溶け ている。非電解質は電離しないで分子のまま水と混ざり合っている。

 固体の場合も電気が流れる物質とそうでない物質があるのと同様に,水溶液にも電気が流れるも のと流れないものがある事を学ぶ。中1で行った水の電気分解と関連付けると分かりやすくなる。 水の電気分解のときに用いた水酸化ナトリウムも電解質である事にも気づかせると良い。

 塩酸や塩化銅を電気分解する際には陽極に塩素が発生する。塩素は毒性を持つ気体なので注意が 必要である。特に,塩化銅の電気分解で陰極に十分な量の銅を析出させようと長い時間電気分解を 行うと塩素が多く発生するので,部屋の換気は十分行うようにしないと事故につながるので注意が 必要である。また,中2での電気の学びを思い出し,電気回路は電子が電池の-極から出て+極に 流れるので,電気分解では-極では電子を受け取る変化,+極では電子を出す変化が起きているこ とを理解させれば次のイオンの学びと関連付けられる。

図35 運動エネルギーは速度が同じ時,質量に比例するのでぶつかると重い物体の運動の方向に

図36 電離を粒子モデルであらわした図 +と-の電荷をもった粒子を表現

図37 塩化銅の電気分解は塩素の発生に注意

+

+

+

+

+

+

(18)

 次に,原子の成り立ちとイオンについて学ぶ。具体的には以下のことを学ぶ。

・ 原子の構造は中心に+の電気を持った原子核とその周りにある-の電気を持った電子から成る。 ・ 原子核は+の電気を持った陽子と電気を持たない中性子から出来ている。

・ 原子の種類は陽子の数によってきまる。

・ 原子が電子を放出すると陽イオンになり,原子が電子を受け取ると陰イオンになる。

 イオンを学ぶ前段階として,原子の構造について学ぶ。原子は分けられない最小の単位なので原 子を電子と陽子と中性子に分けることは出来ないことも説明すると良い。原子の種類は陽子の数で 決まり,鉄原子と金原子の違いは原子の中の陽子の数の違いであるということも触れたい。また, 中学2年で学んだ周期表は原子を陽子の数の順番に並べたものである事も学ぶ。これらの内容は高 等学校化学基礎でも一番初めに触れる部分であるのでなるべく理解させたい。

 イオンという言葉は日常でも良く用いられている一方,生徒にとってイオンの存在は受け入れや すいとは言い難い。イオンというものが電荷を持った粒子であることを粒子のモデルを使って理解 させるのは有効である。そして「陽イオンは原子よりも電子が少ない状態」「陰イオンは原子より も電子が多い状態」であることに気付かせたい。そしてそのイオンの状態を,元素記号の右肩に電 子が原子の状態に比べいくつ多いかいくつ少ないかを-,+で表現するイオン式であらわしている ことも理解させたい。すなわち,Cu2+とは銅原子に比べて電子が2個少ない状態の陽イオン,Cl- とは塩素原子に比べて電子が1個多い状態の陽イオンである。

 次に化学変化と電池について学ぶここでは以下のことを学ぶ。 ・ 電解質に2種類の金属を入れると電池を作ることが出来る。

・ 化学変化のエネルギーを電気エネルギーに変える仕組みを化学電池という。 ・ +極では電子を受け取る化学変化がおき,-極では電子を出す化学変化が起きる

・ 身の回りには乾電池,鉛蓄電池,リチウムイオン電池など様々な電池が使われているがいずれ も化学変化から電気エネルギーを取り出している。

図37 イオンの生成を粒子モデルで表した様子。還元と酸化とも表現できる

図38 電気分解では陽極で電子を出す変化,陰極で電子を受け取る変化 化学電池では+極で電子を受け取る変化,-極で電子を出す変化をする

+電源- 電子

+極 -極

陽極 陰極

電子 電子

+ -

(19)

 中2の学びで,化学変化から熱エネルギーを取り出すことが出来ることを学んだが,今度は化学 変化から直接電気エネルギーを取り出すことが出来ることを学ぶ。電池の電極で起こる反応につい ては,中2での電気の学びを思い出し,電気回路は電子が電池の-極から出て+極に流れるので, 化学電池では+極では電子を受け取る化学変化,-極では電子を出す化学変化が起きていると考え れば混同しやすい+極と-極の化学変化を間違えない。また,いろいろな化学電池があるが,化学 電池で得られる電気はいずれも直流電流である事にも触れたい。

13.化学変化とイオン:イ 酸・アルカリとイオンについて

 小学校6年次で水溶液には酸性・アルカリ性が存在することを学んでいる。ここではイオンの学 習を元に酸・アルカリとイオンの関係,中和反応について学ぶ。具体的には以下のことを学ぶ。 ・ 酸性・アルカリ性の水溶液はいずれも電解質である。

・ 酸とは水に溶けて水素イオンを生じる物質のことである。 ・ アルカリとは水に溶けて水酸化物イオンを生じる物質である。

・ 酸性・アルカリ性の強さはpHで表せる。pHは,水溶液中に含まれる水素イオンの濃度である。 ・ 酸とアルカリが等しい量で反応すると互いの性質を打ち消しあい中性になり水と塩を生じる。  酸性・アルカリ性の水溶液はいずれも電気を通し,電解質であることから,酸・アルカリの性質 にはイオンが関係していることを学ばせる。また,中性の水溶液は電解質のものと非電解質のもの 両方があることも触れる。

 もし小学校で,酸性の水溶液には酸性を示す粒子が溶けている,アルカリ性の水溶液にはアルカ リ性を示す粒子が溶けていることを学んでいたのであれば,酸性を示す粒子=水素イオン,アルカ リ性を示す粒子=水酸化物イオンとスムーズに置き換えて考える事が出来る。

 なお,この段階で学ぶ酸・アルカリはアレニウスの酸・塩基の定義に従っている。アレニウスの 定義の塩基とアルカリは同じものを指す。ブレンステッドの塩基の定義とアルカリは異なることか ら,ここでは混同を防ぐ為にアルカリを塩基とは呼ばないようにした方が良い。

 pHを教える際にはその値にも注目し,水素イオンの濃度が高いとpHの値は小さく酸性がより強 くなり,濃度が低いとpHは大きくアルカリ性が強くなることも触れたい。

 また,水溶液中に水素イオンと水酸化物イオンが等しい量反応したときに中和するということも 触れたい。例えば,ある塩酸に対して倍の濃度の水酸化ナトリウムで中和する際に,必要な水酸化 ナトリウム水溶液の体積は半分である,ということも,濃度と体積の計算から考えさせると,高校 化学基礎の学びへつながる。

図39 水溶液の酸性・アルカリ性を粒で表した図。赤=水素イオン,青=水酸化物イオンである。 酸の強弱が,水素イオンの濃度である事もこの図から理解することが出来る

(20)

まとめ

 今回,理科1分野(エネルギー・粒子)分野の内容と指導のポイントについて,学生の学びの道 標となるように解説したものを作成した。理科1分野は,実際に身近の物質や身近で起きている現 象について学んでいるが,それが実感しにくかったり目に見えないものである事から,学びを難し いと考えたり,苦手意識を持つ児童生徒も多い。したがって,教える際には実験をすることで実感 させることは当然ながら重要である。また本論文でも言及したように模型や図を用いてイメージ作 りを行うこともまた重要である。ページ数の都合で内容を全て触れられていないが,今回作成した 内容と指導のポイントを本学で開講している専門科目「理科教育法I(中等理科内容研究)」の資料 や教員研修の資料として用い,今後有効な指導を行い,さらに改訂した学びのポイントを作成して いきたい。

引用文献

有馬他.2015.「新版理科の世界1」(大日本図書). 有馬他.2015.「新版理科の世界2」(大日本図書). 有馬他.2015.「新版理科の世界3」(大日本図書). 有馬他.2014.「新版たのしい理科3」(大日本図書). 有馬他.2014.「新版たのしい理科4」(大日本図書). 有馬他.2014.「新版たのしい理科5」(大日本図書). 有馬他.2014.「新版たのしい理科6」(大日本図書).

文部科学省.2008.「中学校学習指導要領解説 理科編」(大日本図書). 文部科学省.2008.「小学校学習指導要領解説 理科編」(大日本図書).

図40 中和は打ち消しあいでるイメージ

参照

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