身体運動を通した学級づくりに関する研究
大沼美穂*・日下裕弘*
(2012 年 11 月 16 日受理)
A Study on the Class Formation Through Physical Movement
Miho OHNUMA *・Yuko KUSAKA *
(Received November 16, 2012)
1.はじめに
小学校教育は「学級」という集団を単位にして,小さな社会の一員としての活動・生活や子ども たち相互の関わり合いなどを通して,生きる力(人格,社会性,学業等)を統合的に育成していく ところに特徴がある。したがって,学級の教師や友人の存在と学習環境である学級集団の状態が,
その成果に決定的な影響力を持つ。
本研究は,主として「Q-U」などの様々な学級づくりの方法を参考にして,一人ひとりの子ど もが成長できる学級に必要な要素を検討し,特に身体運動を通した学級づくりに関する理論的仮説 を提示することを目的としている。
2.分析枠組み
(1)身体運動
1)生きる力と身体
人間は間主観的,間世界的,間環境的存在である。「間」にあることによって,中心化→脱 中心化→再中心化のプロセスが可能になる。とりわけ,人間の「身体」は,現象(図)を支え,
方向づける,目に見えない,意識下の潜在的可能性(地)の地平においてきわめて多様な外界 との相互作用を営んでいる。意識していなくても,身体は多数の情報に向かい,そのままを受 け入れる。(市川浩 1992)
茨城大学教育学部体育社会学研究室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1 ; Laboratory of Sociology of Physical Education, Ibaraki University, Mito, Ibaraki, Japan 310-8512)
*
図1は文部科学省の規定する「生きる力」と「間」にある人間の「身体」の多様なはたらきを構 造的に示したものである。図と地は結びついている。人間の精神(こころ)と身体(からだ)は一 体として現象する。
図1 「生きる力」と「身体」
2)身体運動~主として,瀧澤文雄の「身体の論理」に準拠して~
ア〔からだ〕・肉体・身体
瀧澤(1995)に準拠し,一般的な用語法としての「こころ」に対するものとして,〔からだ〕と いう表記をする。さらに,その〔からだ〕を二つの側面に分け,「肉体」と「身体」という表記をする。
「肉体」とは,客体としての〔からだ〕である。すなわち,肉体は自然科学の対象として見る場合 に生じる〔からだ〕の側面であり,数量的把握が可能である。この肉体に制約されながらも,それ 以上のものとして,主体としての〔からだ〕が生じている。それを身体と呼ぶことにする。身体と は,動くことによってのみ生ずる〔からだ〕の働きである。この場合,働きという用語は,機能と いう科学的用語とは区別して用いる。要するに,身体とは,物として手に取ることも数量化するこ ともできない,主体としての〔からだ〕である。
イ 運動・動き・動作・身体運動・【動作】・下位【動作】
「運動」という用語は総称として用いる。特に,動きの連続を客体の動きとして視察する場合に 用いる。「動き」とは,動作を構成する単純な運動である。この用語も,客体として見た場合に用 いる。「動作」とは,ある意図のもとに,まとまりを持った比較的単純な動きである。また,それ は他の動きから区別できるような一つのパターンを持った動きでもある。たとえば,引っ張る,蹴る,
支えるなどの動きは動作である。この動作を,主体から見た場合には【動作】という表記を用いる。
運動主体にとって,【動作】とは知覚内容(感じ)としてあり,運動主体はみずからの知覚内容によっ て動作を生じさせることができる。その【動作】を構成しているのが,「下位【動作】」である。ま た,それらが習慣化されたものを〔運動図式〕と呼ぶ。
ウ 体験・習得・了解・知・言語化・概念化
「体験」とは,〔からだ〕を使って実践することが主である場合に使用する。それは,ことばで整 理する以前の,様々な外界とのやり取りを含んでいる。「習得」とは,実践することによって習い 覚えることである。それは,実践できるようになることである。言語的な理解が助けになることは あっても,言語的理解が必ずしも必要というわけではない。「了解」とは,言語で説明できなくとも,
分かってしまうことである。たとえば,物の操作を説明できなくとも,その物を扱うことができる 場合である。つまり,言語による文節以上の事柄を一挙に知ることである。「知」とは,ある事柄 を分かるために必要なものである。しかし,その事象をことばで説明できる必要はない。言い換え れば,その知は,ある事象を知識として取り出す以前に知っている事象であり,言語的である必要 はない。たとえば,箸を思い通りに使えるためには,使えるだけの身体的な知が必要である。その 知を保持している証拠は,説明できなくとも使用できるという実践である。この場合,保持とは,
ことばで説明する必要はないが,すでに・いつでもその知を持ち続けていることである。知を保持 しているという状態は,使用法を了解している状態である。身体知を言語で説明できることを「言 語化」又は「概念化」と表記する。
エ 動作を作り出す下位【動作】
身体は【動作】という知覚内容のゲシュタルトを,図としての動作が可能になるように構造化し ている。言い換えれば,【動作】を「いま・私は動ける」という状態へと構造化したものが身体であり,
身体運動の習得とは,ある状態の中で「いま・私は動ける」という身体を,下位【動作】を手がか りに再構造化することである。したがって,身体の構造が運動実践や運動習得を左右するのである。
オ 身体的思考
身体運動を実践しなければ〔からだ〕の働きは豊かにならない。したがって,指導者は,学習者 に欠けている下位【動作】を育てなければならない。しかも,その下位【動作】を学習者が同定で きるように,さらに,その下位【動作】をどのように修正し発展させるかを,指導しなければなら ない。つまり,指導者は学習者に,身体運動に不可欠な〔身体的思考〕を導き,支援する必要があ る。そのためには,指導者は学習者の下位【動作】を見抜く視点をも持たなくてはならない。
カ 身体の構造化
身体は,肉体的な構造とは異質な,下位【動作】の統合体としての構造を保持している。動き続 けるために,すなわち今,ここで,私が状況を判断し,何を行うかを決断するために,その構造が 必要になる。身体の構造は下位【動作】を修正することによって再構造化される。すなわち,「再 構造化」の課程として身体が常にある。したがって,身体を構造化するための順序性が生ずる。原 初的な下位【動作】を始まりとして,日常生活に必要な下位【動作】が身体を構造化し,さらに,
用具や仲間やルールが構造化を進展させる。この進展に際しては,下位【動作】に影響する肉体の 成長と衰退も構造化を左右する要因となる。身体運動をする主体のこころとからだは,互いに影響 し合い,働き合っている。また,課題の難易度と構造化のレベルが一致したフロー時の身体のここ ろとからだは融合している。以上を概念化したのが図2である。
図2 身体運動の構造
(2) 学級づくり~主として河村(2002)の「Q-U」理論の考え方から~
河村は学級づくりに関する様々な考え方を検討し,それを「Q-U」というアンケートに総括し た。本研究では,河村の「Q-U」アンケートを構成する概念を整理し,分析の枠組みとする。
1)「Q-U」(Questionnaire-Utilities)とは
学級内での不登校やいじめの早期発見や予防をし,よりよい学級集団をつくるために「Q-U」
という調査法がある。「Q-U」を活用することにより,学級集団の状態を的確に把握し,それ に基づきよりよい学級づくりを展開できる。教師がこの調査から得たデータを活用するために は,①児童個々の特性・心情面,②学級集団の実態,③教師の指導の3点に関する把握が必要 である。「Q-U」の概念は,意欲(友人関係・学習意欲・学級の雰囲気),満足度(承認・被 侵害),ソーシャルスキル(配慮・かかわり)の3つから構成されている。
すなわち「Q-U」は,学校生活における児童個々の意欲や満足感,および学級集団の状態 を質問紙によって測定するアンケートであり,「やる気のあるクラスをつくるためのアンケート」
と「いごこちのよいクラスにするためのアンケート」から構成され,15分程度の短時間で実 施することができる。また「Q-U」を構成する2つの尺度に,新しく「ソーシャルワークス キル尺度」が加わっているものを「hyper-QU」という。このアンケートは,以下のような利 点をもつ。
・児童個々の学級生活における「満足感」や,学校生活での「意欲」の状態を把握することが できる。
・学級集団の「雰囲気」や成熟状態を,児童の満足感や意欲の分布状況によって確認できる。
・学級や学校生活における満足感や意欲に関しての,児童の学級内での相対的位置がわかる。
・「ソーシャルワークスキル尺度」が加わったことにより,集団形成に必要な「対人関係」を 営むためのスキルが,児童にどの程度身についているかという視点を含めた,より多面的な 情報を得ることができる。すなわち,次のようなものである。
ア「Q-U」・hyper-QUの内容と構成~アンケートを構成する尺度~
・学校生活意欲尺度(やる気のあるクラスをつくるためのアンケート)
①「友達関係」②「学習意欲」③「学級の雰囲気」
・学級満足度尺度(いごこちのよいクラスにするためのアンケート)
①「承認」(友達や教師から認められているか)
②「被侵害」(不適応感,いじめ・冷やかしなどを受けているか)
・ソーシャルスキル尺度(ふだんの行動をふりかえるアンケート)
①「配慮」(対人関係の「基本的なマナーやルールが守られているか」)
②「かかわり」(人とかかわるきっかけや関係の維持ができているか)
イ「Q-U」・hyper-QUの活用方法
・不登校になる可能性の高い児童の早期発見に活用することができる。
・いじめの発生・深刻化の予防や,いじめ被害にあっている児童の発見に活用できる。
・学級崩壊の予防や,よりよい学級集団づくりに活用することができる。
・教育実践の前と後に実施することで,指導効果の評価・検討に利用することができる。
ウ「Q-U」の理論的背景
河村によれば,「Q-U」を開発する基礎的な理論となったのがマズローの「欲求階層説」で ある。マズローは人間の欲求を低次から高次の順序で分類した。階層の第1層には「基本的欲 求(衣食住)・生理的欲求」があり,次に「安全への欲求」,「愛情と所属の欲求」,「承認の欲求」
を経て最後に「自己実現の欲求」に至る。欲求は下の階層の欲求がある程度充足されてはじめて,
上の階層の欲求が出現する。中でも「愛情と所属の欲求」は子どもたちの場合,特に重要なも のと考える。子どもたちは,反抗期で親を否定する。しかし,一人ではまだ不安なので仲間を 必要とする。だから,クラスで無視されるようなことは非常につらい。また「承認の欲求」も 強い。クラスの中で自分は認められている,必要とされているという思いを求めている。内戦 状態にある国には,自殺が少ない。なぜか? その基本的欲求を満たすだけで精一杯だからで ある。日本のように恵まれた国は,基本的欲求や安全欲求が満たされ,愛情と所属,承認欲求 が生じる。この段階の欲求が充足されず,自殺に向かうケースが多いという現状なのである。
以上の「Q-U」を用いた学級づくりの構成概念を,土台となる基礎的なものからより高次 なものへ階層的に表示したのが図3である。
図3 学級づくりの階層構造
2)「構成的グループエンカウンター」(Structured Group Encounter) ア「構成的グループエンカウンター」(S.G.E.)とは
「構成的グループエンカウンター」とは,リーダーを中心に展開する集団学習体験(作業,討議,
学習シートなど)を通して自他についての理解を深め,温かな人間関係を築くことにより,行動の 変容と人間的な自己成長をねらうものである。
エンカウンターとは「心と心の触れ合い」あるいは「本音と本音の出会い」を意味する。また,「構 成的グループエンカウンター」は,「エクササイズ」と「シェアリング」で構成される。
エクササイズとは,心理面の発達を促す課題で,主たる内容は思考・行動・感情の共有を誘発す ることである。これがふれあう人間関係をつくる。
シェアリングとは,「わかちあい」の意味で,エクササイズを通して気づいたり感じたりした,
自分のことや他者のことなどを本音で伝え合い,共有し合うことである。
「構成的」とは「方法」のことで,時間・人数・場所・活動の内容・ルールなど,行為の枠が決 められている。
枠を決めることのメリットには,
① 参加者が自分の気持ちをありのままに話すことを促進する。
② 話し合いの中で傷つけられることが少ない。
③ 指導者にとって実施しやすい,などがある。
「グループ」とは「対象が集団」ということであり,集団の教育力を活用する。
イ「構成的グループエンカウンター」のねらいには,
① 子どもの人間関係の力を育てる…「ふれあい」。
② 自己肯定感を育てる(自分を好きと言える子どもを育てる)…「自己発見」,などがある。
ウ「構成的グループエンカウンター」で期待できることには,
① 子どもたちの居場所づくりとなる。
② 集団の凝縮性(まとまり)が高まる。
③ 集団内の規範意識が高まる。
④ あたたかな人間関係ができる。
⑤ 豊かな心が育まれる。
⑥ 教師を育て,教師を援助する,などがある。
以上の「構成的グループエンカウンター」の考え方と図3をまとめたものが図4である。
図4 河村およびS. G. E. による学級づくりの理論的方法
3.実践事例の考察
(1)チームパシュートの実践事例
「チームパシュート」は冬季オリンピックの競技の1つで,スケートの団体追い抜き走のことで ある。一般にはスピードスケートや自転車のトラックレースで行われている。この「チームパシュー ト」をしっぽとり方式のゲームに変質させ,全員しっぽをつけて走り,子どもたちが楽しく活動で きるようにアレンジして,体育の教材とし,長距離走の授業を行った。1チーム4~5人で,計4 チームを構成した。グループでまとまって決められた距離を走り,チームの先頭走者から最終走者 までが5m以上離れてはならない。ランニング中,他チームの走者のしっぽをとったら勝負が決ま る。もし走っている間にどのチームもしっぽをとることができなかったら,最終走者がゴールした 時のタイムが速かったチームの勝利となる。
トラックは1周約110mである。4チームが,それぞれA~Dのスタート地点に着き,AはB,
BはC,CはD,DはAというようにしっぽを追いかける。チーム内のメンバーには,長距離走の 得意な子どももいれば苦手な子どももいる。得意な子はチームのリーダーとしてリーダーシップを 発揮して,励ましの言葉かけをしながらみんなとペースを合わせて走る。苦手な子は,チームのみ んなと一緒にペースを合わせて,周りの子たちについていこうと一生懸命頑張る。「チームパシュー ト」の醍醐味は,チームのみんなと協力し,ペースを合わせながら走る「思いやり」と,チームで 走ることによりみんなが頑張っているから自分も頑張ろうと思えること。つまり,自分が今もって いる以上に力を発揮できる「がんばり」が見られることである。実際に筆者もこの「チームパシュー ト」に参加し,走ってみた。走っているうちにだんだんと疲れてくるが,子どもたちと一緒に走る ことで,私も頑張って走ろうという気持ちが沸いてきた。子どもたちの頑張る姿を見て,頑張るこ とができた。ただ走っているだけでなく,時々周りをみて声をかけ合いながら走った。声をかける と子どもたちは反応を示し,一生懸命ペースを合わせて走ろうとしていた。また,チーム内で作戦 を立てる時間がある。作戦によって毎時間勝利するチームが変わるところがおもしろかった。
学習指導要領では,チームパシュートのような身体運動(からだ・運動)とこころ・知性は,「影 響を与え合う」もの,あるいは「働き合う」ものとしてとらえられている。とすればチームパシュー トで体験した「思いやり」と「がんばり」は,学級づくりにも転移し,役立つ可能性が十分にある ものと考える。すなわち,「チームパシュート」の実践によって,学級の中の仲間に対する「思い やり」が芽生える。この「思いやり」をベースにして学級の雰囲気が「安心・安全」になり,「承認・
配慮」の条件も満たされる。チームパシュートで勝つためには仲間との協力が不可欠である。走る という同じ動作をしながら,「みんなで勝つぞ」という気持ちが子どもたちを1つにして,チーム のために頑張ろうという気持ちを生む。同じ距離をみんなで走っていくため,みんなで苦しさを味 わい,声をかけ合っていくなかで「心と心のふれあい」が徐々に深まっていく。もちろん「チーム パシュート」だけで「友達関係」が築けるわけではなく,「本音と本音の交流」ができるようにな るわけでもない。良い「友達関係」を築き,「本音と本音の交流」ができるようになるための1つ の手がかりとして「チームパシュート」を位置づけることができる。チームで勝つために作戦を立 てる時間があるので,その中でかかわり(自己表現力)が生まれる。おそらくまた,「チームパシュー ト」だけで他の授業の「学習意欲」を高めることも難しい。しかし,最高次の「自己成長」と「自
己発見」の中に「チームパシュート」での「がんばり」が子どもたちの成長過程の1つの土台とし て形成され得ることはまちがいないだろう。(図5)
図5 「チームパシュート」による学級づくり
(2)金森俊朗の実践事例
最近の教育改革は,子ども集団をばらばらにして,競争させ,自己肯定感を奪い,一緒に生きよ うという共同の思想をつぶすものだと金森(2004)はいう。こんな時代だからこそ,自分のいの ちを大切にして仲間と一緒になって「ハッピー」を創れるか,仲間を大切にできるか,一緒に生き ようぜという空間や関係が創れるかが,われわれに問われているという。金森は「仲間とつながり ハッピーになる」という考え方を大切にしてきた。どんなに時代が変わっても,子どもたちが何よ りも求めているものは,「学ぶことの喜び」,「友と学び合う楽しさ」,「学ぶことの意義を実感する こと」であり,これらを金森は「生きる希望」と呼んでいる。学校は,生きる希望や夢を,学ぶこ と,学び合うことによって子どもをはぐくむ場である。学級の中で「生きる希望」を子どもたちと ともにはぐくむにはどうすればよいだろうか。
金森は「いのちの輝き」というテーマをより実践的,体感的なものにしていく過程で,「友,山,
川,土,水,どしゃぶりなど」と「からだ(とからだ)」が触れあう「ボディ・コミュニケーション」
をこれまで以上に経験する場を作り,大切にしてきた。ボディ・コミュニケーションの喜びを味わ う遊びの一つに,「エスケン」がある。二手に分かれて陣地を取り合う。ケンケンをしながら,押 したり引っ張ったり,ねじふせ,つっこみ,取っ組み合う遊びである。もう一つは「どろんこサッ カー」である。まず,全身を解放・開放させて,雨と風に身をゆだね,自分の身を雨風にさらすと いう快感を十分味わってから,水たまりへ集合し,友達同士泥水をかけ合ったり,水たまりにつっ こんだりもする。
遊びには不思議な力がある。自分で意識しなくても,自然と心を開くことができる。遊びの中で ボディ・コミュニケーションをすることで,意識をしなくても心が自然と開き,子どもたち一人ひ とりが素の自分を出すことができる。特に「どろんこサッカー」などのような雨や風などの自然に じかにふれることのできる遊びでは,日ごろの勉強や習い事などの疲れを忘れて,心を開いて仲間 と戯れることができる。そして,その遊びにおける間一環境的・世界的・主観的な自分たちの存在 を共有できる。また,同じ動作・下位動作を共有し合い,お互い泥だらけになりながら雨の冷たさ や気持ちよさを共感し合うことで,仲間とのつながりを意識下の身体で実感できる。(図6)
図6に示したように,金森が実践してきたボディ・コミュニケーションは「心と心のふれあい」
「友達関係」(そして,時には「本音と本音の交流」)を深めるために有効な方法であると考える。「心 と心のふれあい」とは,「エスケン」で押したり引っ張ったり,「どろんこサッカー」でお互いに泥 だらけになり,同じ動作を共有することにより,子どもたちが意識していなくても,自然との一体 感や肉体の運動を通して,ゼロから出発した新しいあたたかな人間関係を築けることである。子ど もたちはたくさんのボディ・コミュニケーションの遊びに思い切り没頭することで,そのエネルギー を学ぶ力へと転換し,結果として教師の展開する授業への意欲が沸いてくるのである。
「友達関係」も同様で,子どもたちはボディ・コミュニケーションの場を設定すると,特に意識 をしなくても,関係性が生成する。子どもたちは言葉で表さなくても,仲間と心から楽しむことの 幸福感を味わっている。ボディ・コミュニケーションにはそういった様々な意識下の交流がある。「本 音と本音の交流」は,ボディ・コミュニケーションによる本当の姿の開示,お互いがお互いの身体 と身体運動を交流させることを土台として現出する。そのため,友達とのかかわりの中で自己主張 が生まれて,時には言い争いになったりする時もある。言い争ったり自分の意見をぶつけ合ったり
図6 ボディ・コミュニケーションによる金森の学級づくり
する中で,仲間との関係性を深めていくことができる。
金森はボディ・コミュニケーションにより「仲間とつながりハッピーになる」ことを大切にして きた。学級づくりにおいて,「仲間とつながりハッピーになる」には自分一人では決してできない。
学級の仲間と一緒でなければならない。ボディ・コミュニケーション遊びは,すっぱだかな「仲間 との一体感」による意識下の存在承認(被侵略,配慮,承認)を通じて,「楽しい学級の雰囲気作り」
の土台となっている。「仲間との一体感」を実感することで,学級が子どもたちにとってのびのび とした,安心できる居場所になるのである。ボディ・コミュニケーションの遊びにおける子どもの 笑顔が,お互いの「うれしい存在承認」(被侵略,配慮,承認)を如実に表現している。
金森の著作からは,学級づくりにおける「自己発見」「自己成長」や「本音と本音の交流」の部 分について,これ以上の詳細な内容をうかがい知ることはできない。したがって本論文では,それ らの土台としての身体運動の有効性についての考察にとどめる。
(3)PA(プロジェクト・アドベンチャー)の実践事例 1)PA(プロジェクト・アドベンチャー)
PA(プロジェクト・アドベンチャー)は,限られた時間で,効果的なプログラムを展開するこ とによって,子どもたち同士の信頼関係をしっかり構築し,学びの環境をつくることをねらいとし ている。すなわち,PA(プロジェクト・アドベンチャー)とは,「自己概念」「心の安全」「信頼」
「アドベンチャー」「チャレンジ」の要素を含む,豊かな心を育て,学びの環境をつくるために,ア メリカで開発された新しい教育手法である。(プロジェクトアドベンチャージャパン,2011) PA(プロジェクト・アドベンチャー)の効果には次の4つがあげられる。
①豊かなこころを育む。
信頼関係をしっかり築き,仲間のサポートを得てアドベンチャー体験を重ねていくことで,や さしさ,思いやり,こころの強さなどが育まれる。こうして気持ちに余裕ができると,自分とは 異なる意見も受け入れることができるようになる。
②肯定的な自己概念を形成。
成功体験を重ね,みんなでがんばって達成感を味わうことで生きている意味を感じることがで きる。また信頼関係をしっかり築き,自分を見つめることで自己概念が肯定的に変化することが 報告されている。
③自らチャレンジすることによる成長。
居心地の良い場所から一歩出ることもアドベンチャーである。やったことがない,どうなるか わからない,未知への不安,それを乗り越えて新しい世界に踏み出すことで,人は大きく成長す ることができる。
④使える知識の獲得。
アドベンチャーを活用して安心できる環境を作る。そこで行われる協働学習では脳が活発に活 動し,今までの体験や知識とのさまざまな関連付けが行われる。この関連付けが知識を実際に使 えるものにできるかどうかのポイントとなる。
すなわちPAの手法は,冒険教育をベースにして,体験学習の手法を取り入れたものである。そ れぞれの長所を活かし,冒険教育で学習者の心を開き,体験学習法でこころを育てる。人間の心の
成長と学習効果を高めるという両方に効果があり,今日の学校にとっても大変重要な教育手法であ ると考える。なぜアドベンチャーで心を育てることができるのだろうか。身に迫ってくる状況があ れば,きっと人はお互いに協力し合える。アドベンチャー活動はそんな状況をつくりだす。身の危 険を感じると「お互いが協力する」という人の本性が動き出す。アドベンチャーでこの本性を揺り 動かすのである。その間,信頼関係を深めるためのコミュニケーションが重要になる。「信頼関係」
は人が成長するために最も大切な土台である。「信頼関係」をベースに人は新しい自分を発見する。
アドベンチャー活動はこの「信頼関係」作りの「きっかけ」になる。
この「信頼関係」を築くためには「安心感」が必要である。この安心感をベースにさまざまな学 習の可能性が広がる。そのためには,少なくとも次の2つの原則が必要になる。
① フル・バリュー・コントラクト
フル・バリュー・コントラクト(Full Value Contract)は,プログラムを始める前にしてもら う約束で,「お互いの人格を最大限に尊重する」という約束である。フルバリューコントラクト がねらいとしているのは「お互いが安心していられる環境をみんなでつくりましょう」というこ とである。お互いが居やすい場所づくりのため,全員参加型で付き合い方の約束をつくる。グルー プの中で自分がどんなことを言っても正しく受け止めてくれるという安心感をその集団の中につ くり出し,お互いが率直に自分の考えを出し合う。具体的な体験を通して,お互いに他の人の自 己防衛の壁を下げていく。クラスの中でこの関係ができているクラスを「フルバリュー学級」と いう。具体的には①今ここに存在する,②安全を心掛ける,③目標をもつ,④正直な気持ちを表 現する,⑤否定的なことにこだわらすに前に進む,⑥自分に,そして人に対しての心遣い,気遣 い,である。
② チャレンジ・バイ・チョイス
もう一つの方法は,チャレンジ・バイ・チョイス(Challenge by Choice)である。これはプロ グラム中,「人からは何も強制されない」ということである。自分の意志で選択をする。選択の 自由を保証するという方法である。冒険活動は身体的にも精神的にも負荷がかかる。この負荷に 対する強さは人によって大きく異なる。とくに内面の傷つきやすさはその時の状態によっても大 きく変わってくる。そこで自分ではこれ以上無理だと感じたら,いつでも中止して構わないこと になっている。それが個人を尊重するということである。ただし,他の子どもに影響してしまう ので,気持ちは参加していてくださいとお願いしておく。個人の選択の意志をお互いが最大限に 尊重するということで「心の安全」を築こうというものである。また自由意志を尊重するという ことは,そこで得た体験が自信につながるという側面もある。誰にも頼らずに自分の意思で挑戦 することは,自尊感情を高めるのに有効である。
さらに,プロジェクト・アドベンチャーでは「ビーイング(Being)」という方法を用いて子ども たちの規範意識を成長させる。「ビーイング」はなるべく大きな模造紙に人間のかたちや,樹のか たちなど何か象徴的なかたちの輪郭をみんなで描く。そしてその輪郭の内側に「自分たちが安心で きる学級にするために,自分ができること,友達にして欲しいこと」を書き出す。たとえば「人の 話をよく聞く」,「困っているときは助けてほしいとハッキリ言う」,「すぐに怒らない」など何でも 構わない。書き出すときは自由に書いてもらう。不都合なものがあったら,後でみんなで話し合っ て表現を変えたり,削除すればよい。これができたら今度は輪郭の外側に「自分たちが安心できる
グループにするために,自分がされるといやだなと思うこと」を書き出す。「人の意見を途中で遮 る」,「悪口を言う」,「無視する」などである。これを書いた紙を活動の現場に貼っておき,活動の 振り返りのときなどを利用して,みんなが約束を守れたかどうかを話し合う。そんな中で,もし新 しく「ビーイング」に書き込んだ方がよいと思われるものが出てきたらすぐに書き足す。こうして
「ビーイング」はどんどん変わっていく。
「ビーイング」は人から決められた目標ではなく自分たちが決めた目標である。そしてこれはい つでも変えて良いことになっている。あくまでも目標なのですぐにこの通りに実行できるとは限ら ないが,目標から外れた行動が見られたらチャンスである。なぜ,そのようなことが起こったのか みんなで話し合う。起こした人を避難するのではなく,これから起きないようにするために自分た ちに何ができるかを一人ひとりが考えて話し合う。このような振り返りを繰り返すことで,少しず つこれらの規範が身体にしみついてくる。自然に規範ができあがるのである。
こうした実践の理論的背景には,D.A.コルブ(1984)の「経験学習理論」がある。これは,「具 体的経験」→「ふりかえり」→「概念化」を経て,その具体的経験を「新しい経験」に転移させて いこうとする考え方である。この考え方は,身体的・体験的理解と知的理解とを隔合させてはじめ てほんとうの理解(学習)がなされることを強調している。それは,現在の学習指導要領において,
重視されている体験学習や言語活動の充実といった考え方に通じている。身体運動による深い体験 は,それを一段上のレベルへ抽象化した概念と結びつけてはじめて,現実の生きた学力となるわけ である。身体運動を含めた様々な体験を用いたPAやビーイングの試みは,こうした学級づくりの 新しい実践に生かされていく。
2)M.A.P. <Miyagi Adventure Program>「みやぎアドベンチャープログラム」(以下「M AP」と記す。)
宮城県教育委員会では,児童生徒が安心して生活できる学習環境を整え,児童生徒同士及び教職 員と児童生徒との豊かな人間関係を構築することをねらいとして,平成12年度から「みやぎアド ベンチャープログラム」(MAP)事業に取り組んできた。MAPは,PAの考え方や手法を学校 教育の諸活動に取り入れた,宮城県が全国に発信している新しい学習法である。
MAP事業は,教科教育や学級活動など,学校教育のあらゆる場面にPAの考え方や手法を取 り入れ,「心の成長」と「生きる力」をはぐくむプログラムである。児童生徒同士,教師と児童生 徒など相互の信頼関係を築き,豊かな人間関係のもとで充実した学校生活,社会生活が送れるよ う,その推進を図るものである。この事業の展開によって児童生徒の心に「心の安全」「心の広が り」「心の高まり」をつくり出すことを目指している。「みやぎアドベンチャープログラム(Miyagi Adventure Program)」事業のねらいは,次の点にある。
①児童生徒同士,児童生徒と教師等の,相互の信頼関係を深め,他人を排除したり,傷つけたり する心の働きを乗り越えて,他人への思いやりの心を育てること。
②児童生徒一人一人の向上心を育て,生涯を通して「学び」を続ける意欲や態度を身に付けさせ ること。
③児童生徒一人一人が課題解決能力と自己決定能力を身に付けることで「生きる力」を培うこと。
④安全かつ楽しい学びの場を築くことで,不登校,引きこもり,非行,中途退学といったさまざ
まな学校不適応を引き起こす要因の解消につなげること。
MAPでは,教師は学びの支援者という役割が強調される。このことは,これまでの教師による「教 え」の教育から生徒自身の主体的な「学び」を支援する教育への転換を意味する。これは,まさに PAの体験学習サイクルそのものであり,学校不適応の解決のためだけでなく,教育の手法や質そ のものの転換を促す。このように,MAPは教師の意識改革や学校教育の転換につながる可能性を 秘めている。図7にMAPの事業の流れを示す。
MAPを実践しても,始めからうまくできるとは限らない。失敗してもそのエラーから学ぶ,そ して,またトライするという考え方が重要である,エラーとトライの繰り返しの中で,学習者がい かに自らの学びにできるかが大切になる。学びの活動は学習者が主体となり,学習者がいかに学ん だかに焦点が当てられる。体験的な学びは,その場限りではなく,次へと生かされていくというP Aの体験学習のサイクルに従って進む。MAPの実践の流れを具体的に説明していく。
①PAの原則
「フル・バリュー・コントラクト」「チャレンジ・バイ・チョイス」について指導者及び学習者 がそれぞれ理解,確認をしなければならない。
②指導者の役割の変化
MAPでは指導者(教師等)の役割変化が見られる。これまでの「教える」という役割から,
図 7 MAP事業の流れ
生徒自身の主体的な学びを促進する「学習の動機付け,観察・質問・フィードバック,必要な情 報の提供」など,支援的な役割へと変質することになる。
③目標設定
活動の目標は,個人・グループの目標として,具体的で実現可能なものを設定する。目標を設 定することより,参加意識が高まり積極的な行動を促す。
④活動の実践
例えば,40~50分の授業の中で実践できるアクティビティは,せいぜい2~3つぐらいが適当 であるとされている。どのアクティビティを行うかはグループの発達段階や目標によって異なる。
⑤活動と振り返り
指導者は,参加者が活動前・中・後において何を感じて,どのような態度・行動にあったのか を観察し,指導者が必要と感じたらプログラムを中断して振り返りを行う。活動・振り返りの繰 り返しによってグループの人間関係を観察する。グループの発達段階に応じて,次の段階に進む のか,あるいはその前のステージに戻すのか,指導者の適切な判断が求められる。
⑥抽象概念の形成と一般化
振り返りにおいて,個人やグループがどのようなことを感じたのかなど,さまざまな情報を集 め,集めた情報を整理統合して,その中から自己への「気付き」につながる法則性を導き出す(一 般化)。この一般化によって得た法則性を自分のものとして,実生活への適用を試みる(概念の 展開)。こうした体験学習サイクルは,繰り返されることによりのみ一般化することができる。
MAPの実践に当たり,学級担任制を基本とする小学校の教師は,毎日継続的に行われる学級づ くりと,1時間1時間の授業づくりという2つの視点が必要である。それぞれのポイントを示した ものが図8である。
図 8 学級づくりと授業における学習サイクル
日々の学級づくりにMAPを生かすために,心を開き合った状態,互いの存在や考え方を尊重し 合う雰囲気のある状態をつくることが重視されている。クラスをこうした状態にもっていくことが MAPを学級づくりに取り入れる大前提である。そのための手法として,学級活動等でMAPの「仲 間をつくるアクティビティ」に取り組ませることはきわめて有効である。ただし,しっかりとした 目的をもたないと,場合によってはさらに環境を悪くしてしまう可能性もあるので,行うねらいや,
実施上注意しなければならない点などをしっかりと考慮した上で実践しなければならない。
子どもたちは一人一人違った現実を抱えながら生活している。学校生活で直面する様々な課題に 対して,それぞれ『ここまでなら自分はがんばれるけど,そこからもう一歩踏み出すのはちょっと 不安だ』という“安心できる範囲”を無意識に感じながら生活している。『全員が学級内で自分の 意見を言い合えること』が学習環境には大切であるが,『どのように意見を言うか』には個人差があっ てよい。また,『友だちにどの程度自分の本音をさらけ出せるか』もその時々の子どもたちのコン ディションによって変わってくる。安心できる範囲から一歩踏み出すということは自分に対する冒 険(アドベンチャー)である。冒険した体験をもつことができれば,安心できる範囲がちょっと広 がり,以前なら無理だった新たな課題にチャレンジすることが次のアドベンチャーになる。こうし たチャレンジの繰り返しこそ,子どもたち一人ひとりの自己の成長につながるのではないだろうか。
どんな課題に臨むことがその子どもにとってのチャレンジになるかは,一人一人違う。精神的なチャ レンジレベルの違いを教師が意識し,何にチャレンジすることが今のこの子にとって最適なアドベ ンチャーなのかを見極めてやること,さらには自分が何にチャレンジすべきかを常に自分で考えら れる子どもを育てようとする視点が大切である。
PAやMAPでの「アドベンチャー」や「アクティビティ」には身体運動の要素が含まれている。
身体運動(体感)は,どんな教科や活動においても含めることができる。その中で,お互いの約束 事(ルールやきまり)を決めたり,友だちとのかかわり合いを強く取り入れる。お互いの約束事は,
子どもたち自身で決める。子どもたちが話し合いをし,お互いの約束事を主体的に決めていかなけ ればならない。教師は,子どもたちが「楽しく」「安全」に活動できるように,日ごろから学級の 雰囲気づくりに努めていくことが大切である。「楽しく」「安全」な雰囲気にするためには,自分も 相手も互いに「尊重し合う」ことが大切である。相手のいいところも悪いところも受け入れ,認め 合うことでお互いを「尊重し合う」土台ができる。また,相手だけでなく自分を尊重することも忘 れてはならない。自分の本来の姿でいるためには,一人ひとりが自分自身を尊重していなければな らない。自分自身を尊重する(自尊心を高める)ことで,自分と同じ存在としての相手の喜びや悲 しみなどがわかり,相手の気持ちを理解し,尊重することができるのである。こうしていくうちに,
子どもたちの「信頼関係」が築かれていく。「信頼関係」はすぐに築けるものではない。日々の積 み重ねによってのみつくりあげていくことができるものである。この「信頼関係」は,前述のよう に「楽しく」「安全」な学級の雰囲気づくりによって作られるものであるが,同時にまたそれらを さらに強めていくものでもある。(図9)
図 9 PAおよびMAPによる学級づくり
図9(PAおよびMAPによる学級づくり)は,本研究の枠組みとして提示した要素のほとんど を含み,さらに「信頼関係」の重要性を示していた。また,PAやMAPのような実践は,すべて の要素をさらに深めるために有効な方法である。「フル・バリュー・コントラクト」の「お互いの 人格を尊重する」という考えや,「チャレンジ・バイ・チョイス」の「人から強要されない」とい う考えは,学級において自分や他者を大切にするということである。つまり「心と心のふれあい」
や「友達関係」,そしてやがては「本音と本音の交流」につながっていくものである。「本音と本音 の交流」は子どもたちのかかわり合いが深まった段階ではじめて可能になる。PAやMAPは,「本 音と本音の交流」ができるようになるための土台づくりの一つである。身体運動以外の様々な活動 を含めて,学級という集団で1年間かけて「本音と本音の交流」が可能になるのである。それは,
子どもたちと教師が時間をかけて,日々積み重ねて築いていくものである。PAやMAPはそのた めの1つの方法であり,それによって「お互いが安心していられる学級」を作ることができる。そ れは,本研究の枠組みにおける「被侵略」(安全・安心),「配慮」「承認」の条件を満たしている。
また,「お互いの人格を尊重する」ということは,自分を尊重することが含まれている。自分の 意見を言ったり,自分の意思を選択したりすることをとおして,自己表現力が高められ,最終的に 自分自身の成長につながっていく。PAやMAPによる実践は,「自己成長」「自己発見」のための 土台づくりの1つなのである。子どもたちは自分で気づかない間に日々成長し,新たな自分自身を 発見することになる。
授業の中にPAやMAPの要素を取り入れることで,子どもたちは,集中し,メリハリをつけて 授業に取り組むことができる。それは,学習意欲の向上に役立つはずである。PAやMAPは,授 業づくりにも学級づくりにも両方に役立てることができる。ただし,どんなアクティビティを行う にしても,必ず目標を設定し,活動の後に振り返り(概念化)を繰り返し行うことが重要である。
そして,子どもたち自身で活動をとおして何を学んだのかを「振り返り」「気付く」ということを日々 積み重ねて行うことで,はじめて「人としての成長」につなげていくことができるのである。した がって,教師は例えば「学習カード」という子どもたちの言語による概念化作業をいかに「人とし ての成長」という最終的な抽象概念へとうまく導いていくかを熟慮し,一人ひとりの子どものあり 様に合った言語化・概念化を模索していかなければならない。
4.今後の課題
本研究で提示した理論的仮説を,実践を通してさらに確証し,発展させていくことが今後の課題 である。
文献
1)新しい診断尺度QUを用いた学級経営
http://www.pat.hi-ho.ne.jp/soyama/skillup/siryou/17-kawamura.htm
2)だれでもわかるプロジェクト・アドベンチャー入門(2011),Project Adventure Japan,Pp.21 3)市川浩(1992),精神としての身体,講談社学術文庫,Pp.338
3)金森俊朗(2004),いのちの教科書,角川書店,Pp.237 4)河村茂雄(2002),学級集団アセスメント「Q-U」
5)構成的グループエンカウンターとQ-U http://www.vis-ta.com/sge/
6)Kolb David, A.(1984),Experiential Learning,Prentice-Hall,Inc.,pp.41-45
7)みやぎアドベンチャープログラム(MAP)指導事例集「教えから学びへ~MAPを生かした学習支援の 実際~」(2004),Pp.113
8)小学校学習指導要領解説 総則編,Pp.121
9)瀧澤文雄(1995),身体の論理,不昧堂出版,Pp.307