問題と目的
我々は,何か問題を抱えたり悩んだりしたときに,まずは身近な人に相談するだろう。少し落ち 込んだり,いらいらしたり,という時に専門的な援助を受けようと思う人は少ないのではないだろ うか。しかし,小さな悩みやストレスだと思っていても,そのことが解決されずに積み重なれば,
深刻な問題になることも多い。こういう時に,日常的な相談・援助は,問題が深刻になるのを防い だり,その人の支えになったりするだろう。専門的な治療を受けた人にとっても,その後の生活に おける身近な人とのかかわりは大変重要なものであろう。
また,何か事件が起こってからプロの援助を求めるよりも,問題が起こらないように普段から仲 間同士で援助し合うことの方が効果的ではないか,学生同士・職場の者同士・家族同士の普段の交 流が問題の発生を予防し,さらには生活の充実感・幸福感をますのではないか,という考えから生 まれた,ピア・カウンセリングというものがある(國分,2001)。高村・渡辺(2002)によると,ピ ア・カウンセリングという方法は,思春期の子どもの主体的な行動変容を支えるために有効である と,
WHO
をはじめ多くの国際社会が高く評価しているという。他にも,いじめ対策の一つとして成 果をあげているという報告もある(コウイー&シャープ,1997)。しかしながらこれまで,一般の人々による日常的な相談・援助については,ほとんど研究されて こなかった(原田,2003)。日常的な相談・援助は,問題が深刻になるのを防いだり,その人の支え になったりする。ということは,一般の人々が悩みの相談や問題解決の援助に大きく関わっている ということだろう。それならば,日常的な相談・援助の実態を知ることは,専門的な治療を行う際 にも必要なことであると言えるだろう。そこで,本研究では一般の人同士による相談活動について 研究したいと考える。
日常的な相談場面における「共感されること」の効果
半澤 歩
*・渡部 玲二郎 **
(
2007
年11
月30
日受理)Effects of “Being Empathized” in Counseling in Daily Lives
Ayumi H ANZAWA * and Reijirou W ATANABE **
(Received November 30, 2007)
土浦児童相談所(〒
300
‐0815
土浦市中高津2
‐10
‐50 ; Tsuchiura Child Guidance Office,Tsuchiura 300‐0815 Japan)
茨城大学教育学部人間環境教育教室(〒
310
‐8512
水戸市文京2
‐1
‐1 ; Laboratory of Human Environmental Education, College of Education,Ibaraki University,Mito 310‐8512 Japan)
*
**
一般の人々による日常的な相談・援助に関する研究は,数は少ないがいくつか存在する。例えば 原田(2003)は,一般の人々による日常的な相談・援助に関して,実験的に相談・援助場面を設定 し,臨床心理学を学んだことのない大学生を被験者(カウンセラー役)にして,相談をされる側の 発言データを分析し,その発言データをカテゴリーにまとめるという研究を行った。他にも,日常 的な相談活動を「素人カウンセラー」の活動と名づけ,質問紙によってその行動構造を測定しよう とした篠崎(1997)の研究や,「小学生は友人の悩みの相談に対して,どのような応答をするのであ ろうか」ということを明らかにするために,悩みの相談文に対する応答を自由記述させた西田
(2000)の研究などがある。
これらの先行研究によると,内容に多少の差異はあるものの,相手の発言内容・立場や行為を肯 定的に受けとめたり,自分なりに相手の気持ちを理解し解釈したり,問題解決のための新たな視点 やとるべき行動を提案したり,といったことは専門家でなくても多くの人が行っていると推測でき る。
このように,先行研究の数自体は少ないものの,日常的な場面での,相談を受けた人の行動や発 言を研究したものは存在している。しかしながら,一般の人々による日常的な相談・援助活動がど のような効果をもたらしているのか,という疑問に関しては,研究がなされておらず,明らかに なっていない。そこで,本研究では,一般の人同士の相談活動が,実際にどのような効果を与えて いるのかということを明らかにしたいと考える。そうすることで,一般の人達の持つ力が明らかに なり,例えば学校現場で,問題を持つ生徒の友人とスクールカウンセラーが協力するといった形で,
心理援助の専門家と一般の人との協力の可能性が考えられたり,ピア・カウンセリングをさらに広 めていくことができたりするのではないだろうか。
さらに,本研究では,一般の人同士による相談活動の中でも「共感する」ということが重要であ ると考える。その理由としては以下のようなものがある。まず,第一著者の経験から,他者に相談 をしたときには,相手が問題の解決策を提示してくれたり,違う視点を示してくれたりすること以 上に,自分の気持ちを理解してくれたり,気持ちを共有してくれたりすることを嬉しく思い,満足 できることが多い。つまり,自分が相談をしたときの満足感は,相手からどれだけアドバイスをも らえたか,よりも相手がどれだけ自分の気持ちを理解してくれたか,どれだけ自分の気持ちに共感 してくれたか,に関わっているように思う。自分が相談される側になった時を考えてみても,いろ いろアドバイスをしたり,意見を言ったりしても納得してもらえないときもあるが,逆にうまいア ドバイスができなくても,相手の気持ちを一生懸命理解しようとしながら話を聞いているだけで,
相手がすっきりしたと言ってくれるときもある。まずこういった自らの体験が理由として挙げられ る。
また,心理療法の中でも,共感は重要なものであると考えられており,例えばバーガー(1999)
は,ほとんどの形態の心理療法は,患者に共感することを治療者の主要な機能としていると述べて いる。また,角田(1992)も,共感は治療場面において,最も基本的で重要なセラピストの機能で あるとしている。ソーシャル・サポートの観点からも,道具的サポートは専門家から与えられるの が効果的であるが,情緒的サポートは家族成員や友人など親密な他者から供給されるのが望ましい
(浦,1999)と言われている。さらに,ピア・カウンセリングにおいては,正しい情報の提供をす ることもピア・カウンセラーの主要な役割の一つではあるが,共感はピア・カウンセリングの基礎
をつくるもの(高村・渡辺,2002)であるという。悩みや気持ちの共有ができる,年齢,社会的地 位,抱えている問題において立場が同様である人々が相談活動を行うことこそピア・カウンセリン グの目的であるようである。
そこで,本研究では一般の人が相談にのるときにする行動の中でも,共感するという行動に注目 したい。そしてさらに,共感を示すという行動が,相談を持ちかけた側に,どのような効果を与え ているのかということを明らかにしたいと考える。
ここで,カウンセリングや心理療法で用いられている共感,共感的理解についてまとめる。共感,
共感的理解の定義はいくつかあるが,どの定義を見ても共通する点がいくつかある。それは,解釈 や批判や指示といった外側からの働きかけとは対立する概念として提示されるとともに,治療者自 身の感情や体験や先入見にとらわれない理解(投影の排除),自他の区別が維持されつつ行われる理 解(同一視の排除),自分の理解が患者の感じているものと真に合致しているか否かを絶えず確認し ていこうとする努力,などに重点が置かれている(近藤,1981)という点である。
投影や同一視といったものは防衛機制であり,無意識に行われている。つまり,訓練を受けたこ とのない一般の人は,相談を受けたときに意識せずにこういったことを行っている可能性がある。
事実,鳴沢(1975)は,専門的な聴き方,聴く態度ができあがるまでには事の外の努力と訓練とを 要する,と述べている。こういったことから,実際に全ての一般の人々が,日常的に効果的な共感 をしているとは考えづらい。
しかし,相川(2000)は,日常生活の中での一般の人々の社会的なスキルとして,「人の話を聴く スキル」をいくつか挙げている。聴くスキルの中核というのは,受容的な構えで聴くこと,相手の 話に関心を示していること・相手の話を理解したことを相手に伝えること,であると述べている。
相川によると,聴くスキルの中には「反射させて聴く」というものがある。これは,人が誰かに向 かって話をするのは,話し手が自分の感情体験を聞き手と共有したいという欲求に基づいているた め,聞き手が話し手の感情を捉えることがポイントであるとしている。また,「受容的な構えにな る」というスキルも挙げており,相手は自分とは異なる思考,感情,行動傾向をもつ存在だと認め るようにしなければならないと述べている。これらはどれも臨床場面で言われている共感的理解に 通じるものではないだろうか。ということは,一般の人々も相談の受け方・話の聞き方をソーシャ ル・スキルとして身につけている可能性も考えられる。
また,悩みを相談する側に立った際,相手が投影や同一化をしている,と考えることはないであ ろうが,相手が本当に自分の気持ちを理解しているのか,相手自身の気持ちに関心を持っているの ではないか,ということは分かるのではないだろうか。例えば,相手が自分の経験ばかりを持ち出 している,自分の気持ちに沿った反応をしてくれていないといったことから気付くこともあるだろ う。そして,そういったことに違和感,不快感を持ったら,自分はそうしないようにしようと思う だろう。相談される側に立ったときにも,自分の聞き方ではうまく相談にのれていないと感じた ら,試行錯誤したり,相談にのるのがうまい人を真似たりして,効果的な共感というものを自分な りに工夫するのではないかと考えられる。
こういったことから,訓練を受けていない一般の人が行う共感の効果も,臨床場面で言われてい る共感の効果と,種類や内容としては同様である可能性が考えられるのではないだろうか。このこ とを明らかにするために,先行研究で言われている専門家の行う共感の効果と,本研究で明らかに
する一般の人から共感されることの効果とを比較することにする。
もちろん,相談活動を専門的に行っている人は,スーパービジョンを受けることもあり,日々訓 練する機会をもち,技術を磨くことを欠かしていないだろう。一方,一般の人がいつでも誰にでも 共感できるわけではないと思われる。また,共感する感情の深さや,感覚の鋭さ,集中して共感し つづけること,タイミングの上手さといったことについては心理治療の専門家とは異なる部分があ るだろう。例えば河合(1970)は,共感の深さに関して,「カウンセリングをする人は,自分の経験 を深めることを考えなければなりません。同じひとつのことをしても深く体験した人は,それを共 通の因子として多くのことが共感できるようになります」と述べている。また,真木・小西(2005)
によると,心理の治療者・援助者には,クライエントの深い悩みを共感的に聞くことで,身体的・
情緒的に疲弊した状態になる,共感疲労といった問題が起こることもあるといわれており,そのた めにスーパービジョンを受けながら治療を続けていく。そのような問題が起こるほど深く共感し続 ける,といったことも一般の人には難しいであろう。
それでは,心理治療の専門家が行っている共感の効果というのはどのようなものなのだろうか。
本研究では,先行研究をふまえ,共感された時に得られると考えられる効果を,大きく分けて4つ にまとめた。それは,「安心感を得る」「自分自身に目が行くようになる」「自己理解が深まる」「自分 を受け入れられるようになる」の
4
つである。まず一つ目の「安心感を得る」というのは,共感されることにより,相手から支えられている・
受けとめられていると感じ,相手とのつながりを感じることにより,安心感を得るということであ る。ロジャーズ(1984)によると,共感的雰囲気のもたらすものとして,疎外感を解き放つという こと,受け手が価値,思いやり,存在を認められた感じを持つということがあるという。ロジャー ズは,疎外感を解き放つという体験は次のようであると述べている。「(略)私の話すことを誰かがわ かるのなら,ともかく私は極端に変で,孤独でひとりぼっちではないといえる。私は他の人と通じ るのだ。ともかく私は人と触れ合えるのだ。私はもうひとりぼっちじゃない」。また,価値,思いや り,存在を認められた感じを持つということに関しては,次のように述べている。「他者の認知する 世界を正確に感じ取ることは,あなたがその個人の価値を認め,彼の世界を認めるのでなければ,
即ちその個人を大切に思うのでなければ不可能であります。それによって,次のようなメッセージ が受け手に伝わっていくのです。『この人は私を信用している。私が価値あるものだと思っている。
多分私は何らかの価値が あ る のだろう。私は自分を認めてよいのだろう。自分を大切に思ってよい
・ ・
のだろう』」。
このことは,角田(1992)も述べている。角田によると,クライエントにとって,共感的に理解 されるという経験は対人的な安心感を増すことになり,治療促進的な場を作り上げることになる。
そして,あるクライエントの置かれている内的状態を適切に感じ取り,それを返すことが出来たな ら,そのことはクライエントに安心感を与えることになるという。また,平木・袰岩(2001)も,
共感技法は関係性の発展という機能があると述べており,クライエントは,共感されることにより 自分がわかってもらっているということを確認し,一人で問題に取り組んでいるのではないという 実感を得るという。
二つ目の「自分自身に目が行くようになる」というのは,自分の悩みに目を向けられるようになっ たり,自分自身のことをもっと考えるようになったりするということである。角田(1999)は,共
感された場合に,分かってもらえたという気持ちになり,それによって今までの重荷を少し距離を 置いて眺めることができるようになるという。トゥルアックスとカーカフ(1973)によると,セラ ピストの正確な共感のレベルと患者の自己探索の深さが有意に相関するということ,つまり共感の 高いレベルは自己探索のより深いレベルを引き出すという。Gladstein(1983)も,他人の心の状態,
身体の調子,準拠枠などを理解する能力である,役割による共感は,クライエントが問題を見極め て自分自身がおかれている問題状況を探るのを援助する上で有効であるという。
三つ目の「自己理解が深まる」というのは,わけがわからなかったり漠然としていたりする気持 ちが,これまでよりはっきりとする。自分の気持ちや悩みが明確になる,自分の気持ちや悩みを理 解するということである。バーガー(1999)によると,治療者は,共感を洞察へ至るための踏み石 とみなしており,ここでの癒しの要因は自己理解が豊かになることと考えられている,という。ま た,平木・袰岩(2001)は,カウンセラーが,どのようにクライエントの固有な体験を理解したか を,普遍性を持つ枠組みから捉え直して述べる時,カウンセラーからのフィードバックによって,
クライエントは自分の体験を新たな視点とともに,客観的に見直すという経験をもつという。角田
(1999)も,共感されたと感じると,わけがわからなかったり漠然としていたりする気持ちが,こ れまでよりはっきりとすると述べている。
四つ目の「自分を受け入れられるようになる」というのは,悩んでいる気持ちや悩みを持ってい ること自体を肯定できるようになったり,受け入れられるようになったりするということである。
ロジャーズ(1984)は,評価的あるいは診断的特質から切り放たれた真の共感は,受け手に「私と いうものが批判されないということは,自分が思っていたほど悪くも異常でもないのかも知れな い。自分をそれほど厳しく批判する必要はないのかもしれない」といった驚きを与える。そして,
それによって自己受容の可能性が徐々に大きくなる,という。澤田(1992)も,ロジャーズの言う 共感過程は,来談者が以前に受容できずに避けた経験を自分自身の一部として気付き,受容するよ うになるのを助ける際に重要な役割を演じると述べている。
以上のことをふまえ,最後に本研究の目的をまとめる。本研究の目的は,一般の人々による日常 的な相談場面に注目し,「共感されること」というのはどのような効果があるのか,ということを明 らかにすることである。そのために,訓練を受けていない一般の人が行う共感の効果と,臨床場面 で言われている共感の効果とを比較していく。さらに,共感された経験の頻度と共感された効果の 程度との関連についても検討する。例えば,学校現場でスクールカウンセラーが問題を持つ生徒の 友人と協力する時やピア・カウンセリングをさらに広めていくといった時に,一般の人から共感さ れることの効果が具体的にどういったものなのか,という知見は役立つのではないかと考えられ る。
方法
1.質問紙の作成
まず,前述した先行研究(平木・袰岩,2001;角田,1992;ロジャーズ,1984など)でいわれて いる,臨床場面における,共感されることの効果を参考にしながら,共感された時に得られると考
えられる効果をまとめた。この効果について,心理学を専攻している
3
・4
年次の学生7
名とともに 第二著者の指導の下で検討した。次に,臨床経験のある大学の先生がた
2
名に,その効果が,臨床場面における,共感されること の効果として妥当なものであるか否か,といったことについて検討していただいた。その後,いた だいた意見を参考にしながら修正を加え,最終的に共感されたときの効果を「安心感を得る」「自分 自身に目が行くようになる」「自己理解が深まる」「自分を受け入れられるようになる」の4
つにまと めた。そして,その
4
つの効果を参考にして,22
項目からなる尺度を作成した。項目の内容に関しては,まとめた効果の内容をきちんと表しているか,わかりにくい表現はないか,といったことについて,
前述した
7
名とともに第二著者の指導の下で協議し,修正を加えた。したがって,内容的妥当性に ついてはある程度保証されたと考えられる。2.質問紙調査の実施
(1) 被調査者 茨城県内の国立法人
A・B
大学の学生228
名(男性96
名,女性132
名)。平均年齢 は19.92
歳(SD=3. 50)
。(2) 調査実施時期 2004年
12
月(3) 質問紙
a.共感された経験の頻度について
臨床経験のある先生からいただいた意見の中に,「変化をもたらすような共感の体験というのは深 いものであり,『共感されたとき』というのは全ての被験者には理解できないのではないか」という ものがあった。
そこで,質問紙のはじめに「問題が深刻だったり,悩みや不安が大きかったりしたとき」という 条件をつけ,「『共感された』というのは,あなたが『相談した相手が,相手自身の気持ちや体験に とらわれずに,私自身の気持ちを感じてくれているなぁ』と思うことです。」という説明を加えた。
そのうえで,「身近な人に相談をしたとき,また辛い気持ちや不安な気持ちなどを話したときに,相 手から共感された,理解された,分かってもらえたと感じたことはありますか」と尋ね,「1.全く ない」から「6.よくある」までの
6
件法で回答を求めた。そしてここで「2.ほとんどない」から「6.よくある」と答えた被調査者にだけ共感されることの効果に関する質問に答えてもらうことに した。
これは一般の人同士による相談活動の中で,共感された経験を持つ人の割合を明らかにし,その 経験がどの程度普遍的なものであるかを明らかにすると同時に,共感されたことが全くないという 人を分析から除くというねらいも持っている。本研究は共感されることの効果を明らかにするのが 目的であるため,共感されたことが全くないという人は被調査者として適切ではないと考えたから である。「1.全くない」と回答した被調査者には,「相手から共感された,理解された,分かっても らえたら,どのように感じると思いますか」という質問を設定し,自由記述を求めた。
b.共感されることの効果について
「相手から共感された,理解された,わかってもらえた時にどのように感じたか・どのような変 化があったか」について,前述の
22
項目がどのくらいあてはまるかを「1.あてはまらない」から「5.あてはまる」までの
5
件法で回答を求めた。各項目について,「あてはまらない」を1
点から「あてはまる」を
5
点とし,それぞれの評定の段階に応じて得点化した。(4) 手続き 被調査者に質問紙を配布した後,共感ということに関して,「これは,『こうしたらいい んじゃないか』といった指示をすることではありません。また,相談相手が自分の体験ばかりを話 して『その気持ちわかるよ』と言うことではなくて,あなた自身が『自分の気持ちが伝わったなぁ』
とか『自分の立場にたって理解してくれているなぁ』と思うことです。そういった体験を思い出し てみてください」という説明を口頭で行った。
結果と考察
1.共感された経験の頻度について
「相手から共感された,理解された,分かってもらえたと感じたことはありますか」という質問 に対する,回答ごとの人数とその割合を
T ABLE 1
に示す。これによると,「よくある」「ときどきある」「たまにある」のいずれかに回答した被調査者は,全 被調査者の
77.2%におよび,
「あまりない」「ほとんどない」と回答した者も20.2%おり,
「全くない」と回答した被調査者は
2.6%に過ぎなかった。ここから頻度に差はあるものの,ほとんどの人が身
近な人に相談を持ちかけたときに,相手から共感された経験を持っているということが分かる。一般の人々による日常的な相談・援助に関して,実験的に相談・援助場面を設定し,相談をされ る側の発言データをカテゴリーにまとめた原田(2003)の研究によると,臨床場面で共感を示すた めに用いられる発言を含んだ発言カテゴリーは,18名の被験者全てに見られた。このことからも,
ほとんどの人が共感されたという経験を持っている,という本研究の結果は妥当であるといえるだ ろう。
2.共感されることの効果の因子分析と先行研究との比較
共感された経験の頻度について,「2.ほとんどない」から「6.よくある」と答えた被調査者(全 被調査者の
97.4%)を対象に,共感されることの効果の因子分析を行った。
主因子法・プロマックス回転により因子分析を行い,固有値の減衰状況と,因子の解釈のしやす さを考慮し,検討した結果,
4
因子構造が妥当であると判断した。因子負荷量が0. 4
以下となる項目T ABLE 1 共感された経験の頻度の人数とその割合
割合(%)
人数 回答
2.6
7.5
12.7
25.0
34.2
18.0
6
17 29 57 78 41
1.全くない2.ほとんどない 3.あまりない 4.たまにある 5.ときどきある 6.よくある
100.0
228
合計
と,複数の因子に同程度負荷している項目を除外し,再度因子分析を行い,
T ABLE 2
のような結果が 得られた。第
1
因子は「自分のいやな所も見つめようと思った」,「自分についてじっくり考えてみようと 思った」といった内容で,目を背けがちだったり,否定しがちであったりする自分自身のことに,関心を持ったり目が向くようになったりするという意味を持つ。したがって「自分に目を向けるよ うになるという効果」の因子とした。
第
2
因子は「相手に認められたと感じた」,「相手から支持されたと思った」といった内容で,共 感してくれた相手からの承認や支持,そしてそれに伴う安心などを感じるという意味を持つ。した がって「相手からの支えを感じるという効果」の因子とした。T ABLE 2
共感されることの効果の項目3
共通性3
2
項目内容1
.552 .436 .461 .387 .511 .276 .026
–.083 –.018 .147 .198 –.003 –.159
–.115 .064 –.031 .191 .140 .015
.052 –.053 .091 –.117 .010 .801
.751 .668 .501 .479 .432
<1 自分に目を向けるようになる> α=
.807 17
.自分のいやな所も見つめようと思った20.自分についてじっくり考えてみようと思った 22.目をそらしていたことを振り返ってみようと思った
2
.自分を受け入れようと思った14
.悩んでいることをきちんと見つめようと思った
5.自分の気持ちを受け止められるようになった
.525 .466 .542 .399 .448 .365 .002
–.138 –.026 –.072 .179 .006 –.058
.027 .002 –.006 .139 .054 .761
.694 .649 .613 .599 .570 –.054
.019 .214 .112 –.223 .018
<2 相手からの支えを感じる> α=
.822
3
.相手に認められたと感じた19.相手から支持されたと思った 18.自分は一人ではないと思った 16
.相手との関係が近くなったと感じた12
.安心感を得た
6.この人なら自分のことを分かってくれると思った
.581 .310 .274 .509 .265 –.148
.092 .014 –.024 .057 .787
.560 .497 .488 .404 –.048
.077 .153 –.014 –.020 .104
–.179 –.134 .337 .128
<3 悩んでいる自分を受け入れるようになる> α=
.723 21
.自分の気持ちが明確になった
9.漠然としていた感じがなくなった
15.混乱していた気持ちがなくなった 10
.自分の本当の気持ちがわかった4
.何を悩んでいるかがはっきりした.669 .527 .597 .786
.757 .563 –.131
.049 .089 .041
–.131 .093 .121
–.045 .169
<4 悩んでいる自分を受け入れるようになる> α=
.793
8
.悩んでいる自分も自分自身であると思った
7
.悩んでいる気持ちをそれでもよいと思えた13.悩んでいる自分を認めることができた
.494 .441
.284 .319
.565 .633
因子相関行列 12 3 4
第
3
因子は「自分の気持ちが明確になった」,「漠然としていた感じがなくなった」といった内容 で,自分の気持ちや悩みが明確になる,はっきりするという意味を持つ。したがって「自分の気持 ち・悩みが明確になるという効果」の因子とした。第
4
因子は「悩んでいる自分も自分自身であると思った」,「悩んでいる気持ちをそれでもよいと 思えた」といった内容で,悩んでいる気持ちや悩みを持っていること自体を肯定できるようになっ たり,受け入れられるようになったりするという意味を持つ。したがって「悩んでいる自分を受け 入れるようになるという効果」の因子とした。各因子に負荷量の高い項目群の信頼性係数(Cronbachのα)については因子分析の結果に付記し た。α係数の値から,おおむね信頼性が保証されたと考えられる。
次に,質問紙調査の前にまとめておいた先行研究や文献で言われている,臨床場面における共感 されることの効果の記述と,本研究で抽出された因子の内容とを比較し考察していく。
a.自分に目を向けるようになる:まず,第 1
因子の「自分に目を向けるようになるという効果」についてである。これは,抱えている悩みや問題を相手に相談していく中で,自分の気持ちを受け とめられたり,理解されたりすることで,自分自身が否定的であった部分を見ずに済ませてしまい たいという気持ちが少なくなり,目をそらしていたことを振り返ってみよう,自分のいやな所も見 つめてみようと思う,ということだろう。また,相手から共感されることで,さらに相手にもっと 分かってもらいたいという気持ちが湧いてきて,自分についてじっくり考えてみたり,悩んでいる ことをきちんと見つめてみたりするようになるのだろう。
これは,自分自身の問題を見つめ,自分の問題を探るようになるという点で,前述した専門家に よる共感の効果である,「自分自身に目が行くようになる」という効果に対応していると思われる。
b.相手からの支えを感じる:次に,第 2
因子の「相手からの支えを感じるという効果」について述べる。これは,相手が共感しているということは,自分の言っていることが伝わっている,分 かってもらえている,ということであり,それにより自分は一人ではない,この人なら自分のこと を分かってくれる,と感じたり,相手から支えられている・受けとめられていると感じたりするの であろう。これは,相手からの思いやりを感じ,相手とのつながりを感じるという点で,前述した,
「安心感を得る」という効果に対応していると思われる。
c.自分の気持ち・悩みが明確になる:その次に,第 3
因子の「自分の気持ち・悩みが明確になるという効果」について述べる。これは,混乱していたり,漠然とした気持ちだったりした自分の気 持ちを,相手に分かりやすく伝えようとしたり,相手の口から自分の気持ちを聞いたり,というこ とを繰り返してゆくことで,それまでよりも自分の気持ちをはっきりと分かることができる,さら に抱えている問題自体もはっきりしていく,ということであろう。これは,自分の体験を客観的に 見直し,漠然としていた気持ちがはっきりするという点で,前述した「自己理解が深まる」という 効果に対応していると思われる。
d.悩んでいる自分を受け入れるようになる:最後に,第 4
因子の「悩んでいる自分を受け入れるようになるという効果」について述べる。抱えている悩みや問題を相手が共感してくれるというこ とは,自分が受け入れられずにいた,悩んでいる気持ちを,相手が受けとめてくれている,受け入 れてくれている,と感じることであろう。それにより,悩んでいたり,それを気にしていたりする 自分そのままを,それでもいいのだと受け入れられるようになるのではないだろうか。これは,悩
んでいること自体を肯定できるようになったり,受け入れられるようになったりするという点で,
前述した「自分を受け入れられるようになる」という効果に対応していると思われる。
以上のことから,抽出された
4
つの因子はみな,それぞれ専門的な治療の中で得られる,共感さ れることの効果と対応し,内容的にも同様のものが得られたと考えられる。もちろん,本研究で明らかになったのは,共感されることの効果の種類や内容が同じである,と いうことだけである。共感する感情の深さや,感覚の鋭さ,集中して共感しつづけること,といっ たことに関しては,専門的な訓練を受けた人とは異なるかもしれない。そのため,そこから生じる,
長期的な効果というのも,違ってくるかもしれない。しかしながら,本研究によって,専門的な訓 練を受けた人と同じではないにしても,多くの人達が身近な人同士で相談しあい,助け合うという ことも,見逃すことのできない重要な支えとなる,ということを示唆することができたのではない だろうか。
3.共感された効果の各下位尺度得点における性差および共感された経験の頻度差について 次に,性と共感された経験の頻度(「2.ほとんどない」「3.あまりない」:低群,「4.たまにある」
「5.ときどきある」:中群,「6.よくある」:高群)を独立変数とし,共感されたことの効果の下位 尺度得点を従属変数とした二要因の分散分析を行った。その結果,全ての下位尺度得点において経 験の頻度の主効果が見られた。Tukeyの
HSD
法を用いた多重比較の結果,全ての下位尺度得点にお いて,共感された経験の頻度が高い人のほうが,共感された時に感じる効果の程度が大きいという ことが示された(TABLE 3)
。その理由として以下のことが考えられる。共感された経験の多い人は,深刻な問題を抱えた時 に,幸運にも身近にその悩みや不安に対し共感をしてくれる人がいるなどし,彼らへの相談を通し て,本研究で示された共感されることの効果を実際に体験することが多いのではないだろうか。ま た,それを通して実際に悩みや不安が軽減したり,解決したりした経験を多くもつのではないかと 推測される。
T ABLE 3 性別,共感された経験の頻度別の共感された効果得点の平均値(SD)と二要因分散分析結果
多重比較(Tukey)
二要因分散分析 女性
男性
経験の頻度(F値)
高群 中群 低群 高群 中群 低群
低・中<高
* F(2,216)
=10.78**
N
=28 23.39
(
4.01
)N
=84
20.45
(
4.25
)N
=20
19.40
(
4.27
)N
=13
23.31
(
2.72
)N
=51
19.96
(
5.56
)N
=26
18.23
(
3.80
) 自分に目を向ける ようになる低<中
*
<高* F(2,215)
=30.59**
N
=28 26.46
(3.01)
N
=84 23.08
(3.97)
N
=19 18.05
(4.26)
N
=13 24.77
(3.30)
N
=51 21.61
(4.70)
N
=26 18.88
(4.44)
相手からの支えを 感じる
低・中<高
* F(2,215)
=9.24**
N
=28 18.57
(
3.94
)N
=84
16.75
(
3.55
)N
=19
16.26
(
3.62
)N
=13
19.38
(
2.96
)N
=51
16.75
(
3.42
)N
=26
14.77
(
4.01
) 自分の気持ち・悩 みが明確になる低・中<高
* F(2,215)
=4.97**
N
=27 11.41
(2.90)
N
=84 10.04
(2.86)
N
=20 9.65
(2.54)
N
=13 11.69
(2.25)
N
=51 10.08
(3.10)
N
=26 9.46
(3.28)
悩んでいる自分を 受け入れるように なる
*P<.05 , **P<.01
まとめと今後の課題
1.まとめ
本研究は,一般の人々による日常的な相談場面に注目し,「共感されること」というのはどのよう な効果があるのか,ということを明らかにするために行われた。
そのために,まず共感されたときに感じたことに関する質問紙調査を行い,因子分析を行った。
その結果,一般の人から共感されることの効果として,「自分に目を向けるようになるという効果」
「相手からの支えを感じるという効果」「自分の気持ち・悩みが明確になるという効果」「悩んでいる 自分を受け入れるようになるという効果」の4つの因子が抽出された。さらに,この結果を,先行 研究や文献から質問紙調査の前にまとめておいた,専門的な治療の中で得られる,共感されること の効果と対応させ,比較した。
比較・検討の結果,抽出された
4
つの因子はみな,それぞれ専門的な治療の中で得られる,共感 されることの効果と対応し,内容的にも同様のものが得られたと考えられる。もちろん,共感する 感情の深さや,感覚の鋭さ,集中して共感しつづけること,といったことに関しては,専門的な訓 練を受けた人とは異なるかもしれない。しかしながら,身近な人同士で相談しあい,助け合うとい うことも,重要な支えとなる,ということを示唆することができたのではないだろうか。それにより,相談にのることに自信がなかったり,どういったことを話したらいいかわからな かったり,的確なアドバイスをしなければならないと身構えている人に,上手いアドバイスが言え なくても,相手の感情について,自分自身の感情や体験と混同することなく,相手の立場に立って 相手の気持ちを理解しようとしたり,共有しようとしたりすることで,十分相手の役に立てるのだ ということを示すことができる。これは,相談を持ちかけた相手の悩みや問題の解決の助けになる だろうし,相談の受け手にとっても,その後相談されることへの負担感が軽くなったり,相手の相 談に上手くのれたと感じることで,自分に自信がついたりするだろう。
また,学校現場でスクールカウンセラーが問題を持つ生徒の友人と協力する時や,ピア・カウン セリングをさらに広めていくといった時に,具体的に一般の人から共感されることの効果がどのよ うなものであるのか,という知見が得られたことは,意味があると思われる。さらに,ピア・カウ ンセリングの有効性を実証的に示すことも出来たのではないだろうか。
2.本研究の限界と今後の課題
最後に,本研究の限界と今後の課題について述べる。本研究で比較のために用いている専門家に よる共感の効果は,これまでの文献をまとめたものであり,実際に専門家に相談した人を対象にし て取ったデータと比較しているわけではない。「一般の人による共感」と「専門家による共感」が同 様の効果が得られていると結論づけるためには,本来ならば,専門家からのカウンセリングを受け た群との比較が必要であり,本研究はこの点に関し,限界をはらんでいる。
しかしながら,専門家にカウンセリングを受けた者に本研究で用いたものと同様の質問をすると しても,心理的問題の深刻さの統制が困難である,同じ精神医学的診断を受けた者や同じ年数だけ 引きこもったり不登校だったりしたケースでも,他の要因を全て統制できる可能性は少ないなど,
専門家に相談した群と一般の人に相談した群との比較のためには,課題が多い。したがって実際に
は,両者の条件を統制し,比較検討することは大変困難である。とはいえ,この点は大変重要であ るので,今後さらに方法論的検討をしていく必要があるだろう。
また,本研究では相談相手によって(例えば友人の場合と両親の場合などで)共感されたことの 効果に違いがあるか,という点については検討しなかった。それは,相手によって相談内容を変え る,相手によって求めるコメントが違う,ということはあるとしても,相手から共感された,理解 された,分かってもらえたと思ったときに感じることとしては,相談相手が誰であっても同じ効果 が存在するであろうと考えたためである。しかしながら,どんな人を思い浮かべるかによって結果 が変わる,という可能性も否定はできない。そのため,この点についての検討も今後必要であると 思われる。
さらに,今回の調査方法では,相談相手の限定は「身近な人」という以外行わなかった。そのた め,被調査者の想定した相談相手が,性別や年齢,相談を持ちかけた人との関係といったことにお いて偏っている可能性はある。また,被調査者の多くが,「相談にのるのが上手い人」を思い浮かべ ているとも考えられる。そのため,訓練を受けなくても,一般の人全てが効果のある共感ができ る,と結論づけることはできない。今後その点も考慮し,研究方法を工夫していくことが必要とな るだろう。
また,本研究では,共感された経験が「全くない」という人は,共感されることというものにど のようなイメージを持っているのだろうか,ということを知るために,「1.全くない」と回答した 被調査者へ「相手から共感された,理解された,分かってもらえたら,どのように感じると思うか」
という質問をし,自由記述で回答してもらった。その結果6名中5名が回答してくれたものの,被 調査者数が少なく,また得られた回答も一文のみのものが多いため,ここからなんらかの結論を導 き出すのは無理があると考えた。そのため「結果と考察」での記述は避けたが,「ほっとすると思う」
「感謝すると思う」といった肯定的な感じを持っている被調査者と,「悩みを相談して相手に共感さ れるということを望んでいない」被調査者がおり,全く方向の違う回答が得られた。この点に関し ては興味深く,今後検討していく必要があると考えられる。
最後に,一般の人達にも心理的な援助に協力してもらうためには,専門家との違いなどについて も今後研究していかなければならないだろう。
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