博士(薬学)平田勇樹 学位論文題名
スクアレン合成酵素阻害物質ザラゴジン酸類の全合成と その誘導体合成に関する研究
学位論文内容の要旨
ザ ラ ゴ ジ ン 酸 類 は1992年 に ヌ ル ク 社 及 び グ ラク ソ社 、1993年 に東 京農 工 大 /三 菱化成の研究グループから単離、構造決定された化合物群である。これ ら の化 合物はスクアレン合成酵素に対し極めて強い阻害活性を示すため、高脂 血 症治 療薬 開発 のた めの りー ド化 合物 とし て注目 され 、こ れま でに国内外の 30を超 える グル ープ から 合成 研究 が報 告さ れてい る。 当研 究室 でもザラゴジ ン 酸Cの 全 合 成 を 達成 した が、鍵 段階 であ るア ルド ―ル 反応 の立 体選 択性 に 問題を残した。そこで、各種類縁体の合成を可能にする柔軟な合成法を目指し、
カ ルポ ニルイリドの1,3―双極付加環化反応を機軸とする新ルートの開発に着 手 した 。著 者が 研究 を開 始し た時 点では、カルポニルイリド前駆体としてa− ジアゾェステルを用い、Rh2(OAc)4存在下、3―プチン―2―オンを求双極子剤と し て用 いると付加環化生成物が完璧な立体選択性で得られることや、コア構造 へ の変 換が可能であることが分かっていた。そこで著者はカルポニルイリド前 駆 体の 合成 法の 改良 とCl位ア ルキ ル側 鎖の 伸長法 など につ いて 検討し、ザラ ゴ ジ ン 酸 類 の 全 合 成 と 誘 導 体 合 成 へ の 展 開 を 目 的 と し た 。 1.ザラゴジン酸Cの全合成
まず、カルボニルイリド前駆体であるQ―ジアゾェステルの合成に着手した。
酸 化― 還元の工程を最小限に抑えるべく、酒石酸誘導体の位置選択的な還元を 試 みた とこ ろ、LiBH4を用 い段 階的 に反応を行うと1,3―ジオールが位置選択 的 に得 られ るこ とを 見出 した 。保 護基の着脱を経てa−ケトェステルヘと導い た 。Q―ケトェステルに対するジアゾ酢酸tert‑ブチルの付加では、この種の反 応 で は ほ と ん ど 用 い ら れ る こ と の な いCH2Cl2‑THF混合 溶媒 中で 反応 を行 う と8:1の立 体選 択性で 望み の異 性体 が得られることを見出した。異性体を分離 後、水酸基を1、MS化して環化前駆体を得た。これに対してRh2(OAc)4存在下、
求 双極 子剤として3−ブチンー2一オンを用いて反応を行うと収率72%で環化生 成 物が 得ら れた 。環 化生 成物 を立 体選 択的 にジヒ ドロ キシ ル化 した後、C6位 の 位置 選択 的な べン ジル 化、 不要 なア セチ ル基の 除去 を経 てケ トンを得た。
C7位カ ルボ ニル 基の 還元 は、 塩化 ヌチ レン 中、塩 化亜 鉛存 在下 にDIBAIー−H
を用いると46:1の立体選択性で望みの異性体が得られることを見出した。生 じた水 酸基をBoc基で保護し、シリル基の除去、C3位水酸基の酸化、エステ ル化を 経て完全に官能基化されたザラゴジン酸コア構造へと変換した。MOM 基 の 除 去 、 水 酸 基 をDess− Martin酸 化 し て ア ル デ ヒ ド と し た 。 Cl位の側鎖伸長については、コア部分の立体障害のためにJuliaカップリ ングは進行しなかったが、Wittig反応によルアルケンヘと変換後、第二世代 Grubbs触媒を用いて側鎖部とクロスメタセシスを行ったところ、収率67%で カップリング生成物が得られることが分かった。本反応をBlechert触媒存在 下で行 った場合には、2当量の側鎖部と20 mol%の触媒を必要とするが収率 は90%に向上した。二重結合の水素化、ベンジル基の除去、C6位アシル側鎖 の 導 入 と 保 護 基 の 除 去 を 行 っ て ザ ラ ゴ ジ ン 酸Cの 全 合 成 を 完了 し た。
2.ザラゴジン酸Aの全合成
ザラゴジン酸Cの合成中間体からザラゴジン酸Aに変換するには、アルキル 側鎖部のC3 位にメチレンを導入する必要がある。まず、側鎖部のアセチル基 を除去し、ブロモメチルジメチルシリル基を導入した。これに対しAIBN存在 下、Bu3SnHと反応させたところ環状シ口キサンが単一異性体として生成した。
シ口キサンを玉尾酸化、ベンジル基の除去を経てテトラオールヘと導いた後、
第一級水酸基をO‑=トロフェニルセレニドヘと変換した。第二級水酸基のジア セチル化し、セレニドを脱離させた後C6位アセチル基を選択的に除去した。
C6位アシル 側鎖の導入と保護基の除去を行ってザラゴジン酸Aの合成を達成 した。これらの全合成はコア構造構築に分子内ケタール化を用いない初の合成 例となった。
3.ザラゴジン酸Cの炭素類縁体の合成
本合成法を用いれば、カルボニルイリドの代わりにアゾメチンイリドやチ オカルポニルイリドを用いると、天然物からの変換が困難なために活性につい ての報 告がないコア部修飾類縁体の合成も可能と考えられる。そこでまず2 位の酸素原子をメチレンで置換し、活性発現には重要ではないとされるC3位 カ ル ボ キ シ ル 基 を 除 去 し た ザ ラ ゴ ジ ン 酸 誘 導 体 の 合 成 に 着 手 し た 。 はじめに、環化反応の基質となるジアゾ化合物の合成を行った。文献既知の ニトリルを出発原料とし、アクリル酸tert−ブチルとのク口スメタセシスや還 元的ヒ ド口キシル 化などを経 て、目的と するa− ジアゾェス テルを得た 。 付加環化反応に関しては、Rh2(OAc)4を用いると副反応のため低収率に終わ ったが、Rh2(NHAc)4を用いると収率86%でピシクロ化合物が得られることを 見出した。後はラセミ体の光学分割を除いてはザラゴジン酸Cの全合成ルート に従ってクロスメタセシスによるアルキル側鎖の伸長などを行って、ザラゴジ ン酸炭素類縁体の合成を達成した。また、同様のルートにより鏡像異性体の合 成も行った。これまでコア部を修飾した類縁体合成は皆無であり、1,3―双極付 加 環 化 反 応 の 骨 格 形 成 に お け る 柔 軟 性 を 示 す こ と が 出 来 た 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 橋 教 授 松 助 教 授 南 助 教 授 中
本 俊 一 田 彰 川 典 昭 村 精 一
学 位 論 文 題 名
スク アレン 合成酵素阻害物質ザラゴジン酸類の全合成と その誘 導体合成 に関す る研究
本 論文はザ ラゴジン 酸類の全 合成と誘導 体の合成に関するものである。標的 化 合物であ るザラゴ ジン酸類 は1992年にメル ク社とグラクソ社により単離、構 造 決定され た化合物 群である 。これらは コレステ ロール生合成過程のスクアレ ン 合成酵素 に対し、 極めて強 い阻害活性 を示す天 然物であり、新たな高脂血症 治 療薬開発 のための りード化 合物として 注目され ている。一方、これらは高度 に酸素官能基化された2,8―ジオキサピシク口[3.2.1]オクタン環を共通骨格と し 、C1,C6位か ら疎水性 の側鎖が 伸びる特異 な構造様式を持つことから興味を 集 め 、 これ ま でに 多 く の合 成 研究が 報告され ている。1994年にCarreiraらに よ っ て ザ ラ ゴ ジ ン 酸Cの 初 全 合 成 が 達 成 さ れ て 以 来 、Nicolaou、Evans、 Heathcock、友岡 ・中井ら が全合成 を報告した 。著者の 所属する 研究室も1997 年 にザ ラゴジン 酸Cの全合 成を報告し ている。 しかし、 この合成 法では鍵 段階 で あるアル ドール反 応の立体 選択性に改 善の余地 を残しただけでなく、コア部 を 修飾した 誘導体を 合成する 場合には適 したもの ではなかった。そこで、カル ポ ニルイリ ドの1,3― 双極付加 環化反応に よるコア構造構築を鍵段階とする第 二 世代合成 に着手す ることに なった。今 回著者は これまで行われてきた付加環 化 反応など の結果を 受け、カ ルポニルイ リド前駆 体の合成法の改良、コア構造 の 官 能 基化 、Cl位 ア ルキ ル 側 鎖伸 長 法に つ い て検 討 し、 ザ ラゴ ジン酸A及 び Cの 全 合 成 を 達 成 し た 。 ま た 、 コ ア 部 を 修 飾 し た誘 導 体 の合 成 も行 っ た 。 まず著 者はカル ポニルイ リド前駆体 であるa― ジアゾェ ステルの 合成に関 し て、.従来の合成ルートで問題となっていた酸化還元の工程数を最小限に抑える べ く、 酒石酸誘 導体の位 置選択的な 還元につ いて検討 した。そ の結果、LiBH4 を 用いて段 階的に反 応を行う と1,3―ジオ ールが位置選択的に得られることを 見 出 し た。C4位 不 斉 中心 はa− ケトエス テルに対 するジア ゾ酢酸tert‑プ チル
の 立体選択 的な付加により構築した。この際、塩化メチレン‑I、HF混合溶媒中、
塩 基 と し てNaHMDSを 用 い ー93℃ で 反 応を 行 う と、 収 率73% 、8:1の立 体 選 択 性で望み の異性体 が得られ ることを 明らかに した。異性 体を分離 後、水酸基 をTMS化して環化前駆体であるaージアゾエステルを得た。
本 合成の鍵 段階であ る1,3一双 極付加環化反応に関しては、Q―ジアゾェステ ルに対し、Rh2(o Ac冫4存在下求双極子剤として3―ブチン―2―オンを用いると、
収 率72%で環 化生成物 を単一異 性体とし て与える ことが分か った。得られた環 化 生 成 物に 対 す るC6,C7位 への 水 酸 基導 入 は立 体選 択的なジ ヒド口キ シル化 と 、C7位 カ ル ボニ ル 基の 還 元 によ り 行っ た 。 著者 はC7位の還 元につい て検討 を 行い 、 塩 化メ チ レン 中 、 塩化 亜 鉛存 在 下 にDIBAI′Hを用 い ると46:1の立 体 選 択 性で 望 み の異 性体が得 られるこ とを見出 した。C3位 の絶n―ブ チルエス テ ルヘ の 変 換を 含 む7工程 を 経 てコ ア 部を 完 全 に官 能 基化 し 、C1位 側 鎖部 と の カ ッ プ リ ン グ 前 駆 体 と し て 設 定 し た ア ル デ ヒ ド ヘ と 導 い た 。 こ れに 対 し 、修 飾Junaカッ プ リ ング に よる 側 鎖伸長 を試みた が反応部 位近 傍 の嵩高さ のため原 料回収に 終わった 。そこで 、戦略を切 り替えてWittig反応 に よルアル デヒドを オレフイ ンヘと変 換し、ク 口スメタセ シスによ る側鎖伸長 を 試 み た。 そ の 結果 、 第二 世 代Grubbs触 媒を 用 いた場 合に収率67%で目的 物 が 得る こ と がで き た。 本 反 応にB1echert触 媒を 用 い た場 合 、20mol%の 触 媒 と2当 量 の 側鎖 部 を要 するが収 率90%で目 的物を与 えた。ク ロスメタ セシス生 成 物 か ら 4工 程 の 変 換 を 行 い 、 ザ ラ ゴ ジ ン 酸Cの 全 合 成 を 達 成 し た 。 本 合成法を 用いれば 、C1位アル キル側鎖 のC3 位に メチレンを 持っザラゴジ ン 酸Aの全 合 成 も可 能 であ る 。 種々 検 討の 結 果 、ク ロ スメ タ セ シス 生 成 物の C4 位をプ口 モメチル ジメチル シ1」ル化し、続くラジカル環化反応と玉尾酸化 に よりC3 位 にヒド口 キシメチ ル基を導 入するこ とに成功し た。その後の第一 級 水 酸 基の 脱 離 やC6位ア シ ル 側鎖 の 導入 、 脱 保護 などは収 率良く進 行し、ザ ラゴジン酸Aの全合成を達成することができた。
著 者が完了 させたザ ラゴジン 酸類の全 合成ルー トに従えば 、コア部を修飾し た 誘導体合 成にも展 開可能で ある。そ の一例として.、2位酸素原子をメチレン で 置 換 し、 活 性 発現 に は重 要 で ない と され るC3位 カルポキ シル基を 除去した 炭 素誘導体 の合成を 行った。 鍵段階で ある1,3一 双極付加環 化反応については Rh2(NHAc)4を触媒 として用 いると収 率86%で付 加環化生 成物を与えることが 分 かった。 その後、 ラセミ体 の光学分 割以外は 全合成ルー トに従っ て官能基変 換 を行い、 炭素類縁 体の両鏡 像異性体 を合成し た。合成し た誘導体 のスクアレ ン 合成酵素 阻害活性 はザラゴ ジン酸Cの 約20分の1(IC50 88土20nM)であり、
鏡像異性体は阻害活性を示さないことが明らかとなった。
以 上、著者 はザラゴ ジン酸類 の全合成 を達成し 誘導体合成 にも展開した。こ れ らは1,3― 双極付加 環化反応 の骨格構 築におけ る有用性を 示すものである。
従 って、審査委員会は平田勇樹氏の論文が博士(薬学)の学位を受けるのに十 分値すIると認めた。
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