博士(薬学)山田弘美 学位論文題名
アレーンク口ムトリカルボニル錯体の 特 性 を 利 用 し た 新 反 応 の 開発
学位論文内容の要旨
1.はじめに
我 々の研究室では既に、naphthalene‑Cr(CO)3 [NP.Cr(CO)3]錯体を 触 媒として 用いた部 分共役ト リエンの異性化反応が、U字型ーワ ―ペ ン タジェニ ルヒドリ ドクロム 錆体を経 て、位置 及び立体特 異的に進行 し共役トリエンを与える事を見い出している。
本 異性化反 応の機構 は、U字型 に完全に固定されたヮ −クロム錯体 の 生成が鍵 となり(32)−1,3−ペン タジェン 誘導体の5位の水素が1位 に 移動する ことによ り異性化 が位置及 び立体特 異的に進行 する。本異 性 化反応は 平衡反応 であるの で、この 平衡を生 成物側に偏 らせる必要 が ある。先 述の部分 共役トリ エンの場 合は孤立 した炭素ー 炭素二重結 合がその役割を果していた訳である。
そ こで著者は本異性化反応の新展開として、(32)ー1,3ーペンタジェ ン 誘 導 体の5位 に 置換 基 として 酸素ある いは窒素 を有する シリルオキ シ 基 、N− カー バ メイ ト 基を持 つ基質に ついて検 討を行っ た。又、置 換 基がアセ トキシ基 の場合に はアセト キシ基が 酸化的付加 したヮ 一 ク ロム錯体を生成するという事実を見い出し、このヮ゜−ク口ム錯体の 反応性についても検討を加えた。
2. arene‑Cr(C0)3を用いる触媒的異性化反応
i) シ リ ル ジ ェ ノ ― ル エ ー テ ル の 立 体 特 異 的 合 成 法 の 確 立 シ リルジェ ノールエ ーテルはDiels―Alder反応な どの原料 として有 機 合成に於 いて広範 に使用さ れている 。しかし ながら一般 にその立体 化学を制御した合成は困難であり、中でも(1E,32)ー1ーシリルオキシ―l 3― ペンタジ ェンの様 なタイプ のシリルジェノールエーテルの合成は特 に 困難を極 めていた 。そこでNP‑Cr(CO)3錯体によ る異性化 反応の知見
に基づき、容易に原料の合成が可能な(2z,4E)一1―シリルオキシ―2,4― ベンタジェン誘導体からく1E,32)―1−シリルオキシ―1,3一ペンタジェン 誘導 体を 立体 特異 的に合 成出 来る ので はな いか と考え検討を行った。
実際(2z,4E)―1ーシリルオキシ―2,4―ベンタジェンに対し20mol%のNP. Cr(CO)3錆 体 を 用 い 、 ア セ ト ン 中 、 室 温に て4時間 撹拌 した とこ ろ97
%という高収率で目的とする(1E,32)−1―シリルオキシ−1,3一ペンタジ エ ン を そ のオ レフ アン の立 体化 学をE、互 に完 全に 制御 して 得る こと が出来た。基質となる(2z,4E)−1―シリルオキシ−2,4―ペンタジェン誘 導 体 は シ リル オ キ シ ア セ ト ア ル デ ヒ ド と 種々 のホ スホ ニウ ム塩 との Wittig反 応に よっ ても得 る事 が出 来る 。こ の場 合少量の2E体を含む事 が予 想さ れる が、 本異性 化反 応は2z体 のみ が反 応し2E体は全く反応し な い と 考 えら れる ため 、E、 墨を 分離 する 事な く反 応を 試み た。 いず れの 場合 も反 応は 速やか に進 行し 、生 成し たシ リルジェノールエーテ ルと 原料 の2E体は 極性が 大き く異 なる ため シリ カゲルカラムクロマト グラ フィ ーに より 容易に 分離 する 事が 可能 であ った。それ故目的とす るシ リル ジェ ノ― ル工― テル を高 収率 で得 るこ とが出来、原料の2E体 を回 収す る事 が出 来た。又NP.Cr(CO)3錯体で異性化反応が進行しない ときは、熱安定性のより高いmethyl benzoate.Cr(CO)3 [MBZ・Cr(CO)3] 錆 体 を 用 い 、 ヘ キ サ ン‑THFの 混 合 溶 媒 を 用 い る 事 に よ り 良 い 結 果 が得られた。
本反応における生成物はDielsーAlder反応におけるジ.エンとして用 い る こ と が出 来る 。実 際にN−フ ェニ ルマ レイ ミド と触 媒量 の炭 酸カ リ ウ ム 存 在下 反応 を行 った とこ ろ目 的とす るエ ンド 付加 したDiels― Alder反応 体を70% の収率で得ることが出来た。又分子内Diels一Alder 反応 では 、79%の 収率で シス ―ヒ ドリ ンダ ン誘 導体を合成することが 出来た。
五)ジェナミン類の立体特異的合成法の確立
ジ ェナ ミン はDiels−Alder反応 の原 料と して 、特にアルカ口イド合 成に 於い て重 要な 合成原 料と なり 得る 。そ の合 成法は数多く報告され てい るが 、立 体化 学を完 全に 制御 した 合成 法は 殆ど知られていない。
そこ で演 者はNP・Cr(CO)3錯体による異性化反応を機軸とし、tert―ブ チルN―(く1E,32)―1,3―ペンタジェニル)カ―パメートの様なジェナミ ン類を立体特異的に合成出来るのではないかと考え種々検討を加えた。
種々のt劉ユ―ブチルN―く(2z,4E)―2‑4―ベンタジェニル冫カーバメート を20mol% のNP・Cr(C0)3錯体と 共に、ア セトン中 、室温で 撹拌した と ころ いずれの場 合も目的 とする立 体化学を 有するジ ェナミン 類を高収 率で合成することが出来た。
次 に 異 性 化 反 応 に よ っ て 合 成 し た ジ ェ ナ ミ ン 類 を 用 い た分 子 内 Diels―Alder反 応について 検討を行 ったとこ ろ、目的 とするシ ス→オ ク タ ヒ ド 口 キ ノ リ ン 誘 導 体 を79% の 収 率 で 得 る 事 が 出 来 た 。 3 ‑ arene.Cr(CO)3錯 体 を 用 い る 炭 素 ― 炭 素 結 合 生 成 反 応 (2z,4E)ー1―アセトキシ―2,4―ペンタジェン誘導体の異性化反応を検 討すべ くアセトン 中NP・Cr(CO)3と共 に加熱したところ少量のアセトン との カップリン グ体が得 られた。 本結果は ジェンア セテート とNP・Cr (CO)ユから求核的なU字型一ワ°―ベンタジェニルアセトキシク口ム錯体 が生 成し、カッ プリング 体を与え たものと 思われる 。この様 な事実は 現在 までに全〈 報告され ておらず 、著者は このヮ ークロム 錯体の反 応性に興味を持ち検討を行った。
まず 求核剤とし てアルデ ヒドとの 反応を試 みた。反 応はより 高温で ある方 が収率がよ く、その ため錯体 としてはMBZ.Cr(CO)3を用い、生 成物 の分解を防 ぐため炭 酸カリウ ム存在下 反応を行 い63%の収 率で目 的物を得る事が出来た。
又 本 カッ プ リ ング 系 中にZnCl2を添加 する事に より、位 置選択性 が 変 化す る 事を 見 い 出し た 。こ れ は恐らくZnCI2を添加し た場合ジ ェニ ル亜 鉛錯体を経 由してい るものと 思われる 。更に本 反応を分 子内反応 に 適 用 し た と こ ろ 、 双 環 性 化 合 物 が 収 率 良 く 得 ら れ た 。 4.まとめ
Ar.Cr(CO)3を触 媒とした異 性化反応 を用いる事により従来法では合 成が 困難とされ ていたク イプのシ リルジェ ノールエ ーテル、 及びジェ ナミ ン誘導体の 立体特異 的合成法 を開発す ることに 成功した 。更にこ れら の化合物合 成的有用 性を示す べくDiels−Alder反 応を行っ た。又 Ar.Cr(CO)3とジェンアセテートから求核的なヮ5ークロム錆体が生成 する 事を見い出 し、本錯 体を用い た新しい 炭素ー炭 素結合形 成反応を 開発 した。塩化 亜鉛が本 反応の反 応性に影 響を及ぼ すことも 見い出し た 。更 に 分子 内 反 応に 適 用す る 事 によ り 双環 性 化 合物 を 合 成した。
学位 論文審査の要 旨 主査
副査 副査 副査
教 授 林 民 生 教 授 柴 崎 正 勝 助教授 森 美和子 助教 授 小 澤文 幸
学 位 論 文 題 名
ア レ ー ン ク ロ ム ト リ カ ル ポ ニ ル 錯 体 の
特 性 を 利 用 し た 新 反 応 の 開 発
1. は じ め に
我 々 の 研 究 室 で は 既 に 、naphthalene‑Cr(CO)3 [NP.Cr(CO)3] 錯 体 を 触 媒 と し て 用 い た 部 分 共 役 ト リ エ ン の 異 性 化 反 応 が 、U字 型 ー ワ ― ベ ン タ ジ ェ ニ ル ヒ ド リ ド ク ロ ム 錯 体 を 経 て 、 位 置 及 び 立 体 特 異 的 に 進 行 し 共 役 ト リ エ ン を 与 え る 事 を 見 い 出 し て い る 。
本 異 性 化 反 応 の 機 構 は 、U字 型 に 完 全 に 固 定 さ れ た ヮ − ク 口 ム 錯 体 の 生 成 が 鍵 と な り(32)―1,3− ベ ン タ ジ ェ ン 誘 導 体 の5位 の 水 素 が1位 に 移 動 す る こ と に よ り 異 性 化 が 位 置 及 び 立 体 特 異 的 に 進 行 す る 。 本 異 性 化 反 応 は 平 衡 反 応 で あ る の で 、 こ の 平 衡 を 生 成 物 側 に 偏 ら せ る 必 要 が あ る 。 先 述 の 部 分 共 役 ト リ エ ン の 場 合 は 孤 立 し た 炭 素 一 炭 素 二 重 結 合 が そ の 役 割 を 果 し て い た 訳 で あ る 。
そ こ で 著 者 は 本 異 性 化 反 応 の 新 展 開 と し て 、(32)−1,3− ベ ン タ ジ ェ ン 誘 導 体 の 5位 に 置 換 基 と し て 酸 素 あ る い は 窒 素 を 有 す る シ リ ル オ キ シ 基 、N− カ ー バ メ イ ト 基 を 持 つ 基 質 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。 又 、 置 換 基 が ア セ ト キ シ 基 の 場 合 に は ア セ ト キ シ 基 が 酸 化 的 付 加 し た ヮ − ク ロ ム 錆 体 を 生 成 す る と い う 事 実 を 見 い 出 し 、 こ の ヮ − ク ロ ム 錆 体 の 反 応 性 に つ い て も 検 討 を 加 え た 。
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2 ‑ arene‑Cr(C0)3を用いる触媒的異性化反応
i)シ リ ル ジ ェ ノ ー ル エ ー テ ル の 立 体 特 異 的 合 成 法 の 確 立 シ リル ジェ ノー ル工 一テ ルはDiels−Alder反応などの原料として有 機合 成に 於い て広 範に 使用 され ている。しかしながら一般にその立体 化学を制御した合成は困難であり、中でも(1E,32)一1−シリルオキシ−1, 3一 ベンクジェンの様なタイプのシリルジエ丿ールエーテルの合成は特 に困 難を 極め てい た。 そこ でNP‑Cr(CO)3錯体による異性化反応の知見 に基づき、容易に原料の合成が可能な(2z,4E)−1一シリルオキシ‑2.4― ベンタジェン誘導体からく1E,32)−1−シリルオキシ−1,3―ベンタジェン 誘導 体を 立体 特異 的に 合成 出来 るのではないかと考え検討を行った。
実際(2z,4E)―1一シリルオキシ−2,4−ベンタジェンに対し20mol%のNP. Cr(CO)3錆 体 を 用 い 、 ア セ トン 中、 室温 にて4時間 撹拌 した とこ ろ97
%という高収率で目的とする(1E,32)−1ーシリルオキシ―1,3−ベンタジ エン をそ のオ レフ アン の立 体化 学をE、互 に完 全に 制御 して 得ること が出来た。基質となる(22,4E)−1―シリルオキシ‑2,4−ベンタジェン誘 導 体 は シ リ ル オ キ シ ア セ トアル デヒ ドと 種々 のホ スホ ニウ ム塩 との Wittig反 応に よっ ても 得る 事が 出来る。この場合少量の2E体を含む事 が予 想さ れる が、 本異 性化 反応 は2z体のみが反応し2E体は全く反応し な い と 考 え ら れ る た め 、E、Zを 分離 する 事な く反 応を 試み た。 いず れの 場合 も反 応は 速や かに 進行 し、生成したシリルジェ丿一ルエーテ ルと 原料 の2E体は 極性 が大 きく 異なるためシリカゲルカラムクロマト グラ フイ ーに より 容易 に分 離す る事が可能であった。それ故目的とす るシ リル ジェ ノー ル工 一テ ルを 高収率で得ることが出来、原料の2E体 を回 収する事が出来た。又NP ‑Cr(CO)3錯体で異性化反応が進行しない ときは、熱安定性のより高いmethyl benzoate‑Cr(CO)3 [MBZ ‑Cr(CO)3] 錯 体 を 用 い 、 ヘ キ サ ン ―THFの 混 合 溶 媒 を 用 い る 事 に より 良い 結果 が得られた。
本 反応 にお ける 生成 物はDiels一Alder反応におけるジエンとして用 いる こと が出 来る 。実 際にNーフ ェニ ルマ レイ ミド と触 媒量 の炭酸カ リウ ム存 在下 反応 を行 った とこ ろ目 的と する エン ド付加 したDiels一 Alder反応体を70%の収率で得ることが出来た。又分子内Diels一Alder 反応 では 、79%の 収率 でシ スー ヒドリンダン誘導体を合成することが 出来た。
五)ジェナミン類の立体特異的合成法の確立
ジ ェ ナミ ン はDiels一Alder反応の原 料として 、特にア ルカロイ ド合 成に 於 い て重 要 な合成原 料となり 得る。そ の合成法 は数多く 報告され てい る が 、立 体 化学を完 全に制御 した合成 法は殆ど 知られて いない。
そこ で 演 者はNP‑Cr(CO)3錯体による 異性化反 応を機軸 とし、tertー プ チルNーく(1E,32)−1,3―ベンタジェニル)カーバメートの様なジェナミ ン類を立 体特異的 に合成出 来るのではないかと考え種々検討を加えた。
種々のtertーブチルNーくく2z,4E)一2.4−ベンクジエニル)カーバメート を20mol%のNP ‑Cr(CO)3錯体と 共に、アセ トン中、 室温で撹 拌したと ころ い ず れの 場 合も目的 とする立 体化学を 有するジ ェナミン 類を高収 率で合成することが出来た。
次 に 異 性 化 反 応 に よ っ て 合 成 し た ジ ェ ナ ミ ン 類 を 用 い た 分 子 内 Diels―Alder反 応につい て検討を行 ったとこ ろ、目的 とするシ スーオ ク タ ヒ ド ロ キ ノ リ ン 誘 導 体 を79% の 収 率 で 得 る 事 が 出 来 た 。 3 ‑ arene. Cr(CO)3錆 体 を 用 い る 炭 素 ― 炭 素 結 合 生 成 反 応 (2z,4E)−1−アセトキシ−2,4ーベンタジエン誘導体の異性化反応を検 討す べ く アセ ト ン中NP‑Cr(CO)3と共 に加熱し たところ 少量のア セトン との カ ッ プリ ン グ体が得 られた。 本結果は ジェンア セテート とNP.Cr (CO)3から求核 的なU字型 ―ワ ーベンタジェニルアセトキシク口ム錆体 が生 成 し 、カ ッ プリング 体を与え たものと 思われる 。この様 な事実は 現在 ま で に全 く 報告され ておらず 、著者は このヮ ークロム 錯体の反 応性に興味を持ち検討を行った。
ま ず 求核 剤 と してアルデ ヒドとの 反応を試 みた。反 応はより 高温で ある 方 が 収率 が よく 、 そ のた め 錯 体と し てはMBZ‑Cr(CO)3を用 い、生 成物 の 分 解を 防 ぐため炭 酸カリウ ム存在下 反応を行 い63%の収 率で目 的物を得る事が出来た。
又 本 カッ プ リ ング 系 中にZnClzを 添 加す る 事に より、位 置選択性 が 変化 す る 事を 見 い出 し た 。こ れ は 恐ら くZnClzを添加し た場合ジ ェニ ル亜 鉛 錯 体を 経 由してい るものと 思われる 。更に本 反応を分 子内反応 に 適 用 し た と こ ろ 、 双 環 性 化 合 物 が 収 率 良 〈 得 ら れ た 4.まとめ
Ar ‑Cr(CO)3を触媒と した異性 化反応を 用いる事 により従来法では合 成が 困 難 とさ れ ていたク イプのシ リルジェ ノ―ル工 ―テル、 及びジェ
ナミン誘導体の立体特異的合成法を開発することに成功した。更にこ れらの化合物合成的有用性を示すべくDiels 一Alder 反応を行った。又
Ar ‑Cr(CO)3とジェンアセテートから求核的なヮ5 ークロ厶錆体が生成 する事を見い出し、本錯体を用いた新しい炭素一炭素結合形成反応を 開発した。塩化亜鉛が本反応の反応性に影響を及ぼすことも見い出し た。更に分子内反応に適用する事により双環性化合物を合成した。
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