博士(農学)濱田茂樹 学位論文題名
イ ヌ ゲ ン マ メ (Phaseolus vulgaris L.) 登熟種子Starch branching enzyme の酵素化学的特性と ア ミ ロ ベ ク チ ン 生 合 成 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
Starch branching enzyme (SBE)
は、Q −1 ,4 グルカン鎖に作用してa ー1 ,6 結 合の分岐構造を持つアミロペクチンの生合成に不可欠な酵素であり、澱粉の食味 や粘性などの質的要因を決める。一次構造から大きく2 つのアイソザイムに分類 され、それぞれのグルカン鎖に対する親和性や遺伝子の発現パターンの相違等が 指摘されてきた。これらのアイソザイムにはa ーアミラーゼファミリーに共通す る4 つの保存領域が存在するが、このファミリーに属する酵素の一次構造をアラ イメントすると、4 つの保存領域が存在する内部配列の長さは類似するが、それ 以外のN 末およびC 末の両末端領域では長さも配列も酵素によってかなり異なっ ている。したがって、SBE のアイソザイム間の酵素機能特性の相違には末端構 造が関わっていると推測される。
本研究では、インゲンマメ(Phaseolus vulragis L.) 登熟種子を材料とし、
SBE
アイソザイムの単離と一次構造の解析、酵素化学的特性の解析、キメラ酵 素を用いた反応速度論的解析などによりSBE アイソザイムの末端構造と酵素と しての機能の関係を明らかにすることを目的とした。
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)SBE アイソザイム(PvSBEl およびPvSBE2) の機能解析
インゲンマメより2 つのクラスに分類されるアイソザイムの遺伝子(pv sbel 、
pvsbe2)をクローニングした。大腸菌発現酵素の解析より、両者は特にアミ口ー スに対する親和性、クエン酸による活性化度が大きく異なることが分かった。
PvSBEl
は澱粉粒結合型、PvSBE2 はアミロプラスト可溶性型であり、これまで
他の植 物で報告 された結 果と異な るものだっ た。これ ら酵素の大きな特徴は、6 グルコ ース残基 を優位に 転移することである。インゲンマメ澱粉から抽出したア ミロペ クチンに おいても 、鎖長6の 割合はイネ やトウモ 口コシに比ぺて高いこと か ら 、 こ れ ら 酵 素 の 性 質 を 最 終 的 に 反 映 し た も の で あ る と 考 え ら れ た 。
2)N末端伸長型SBEの機能および遺伝子発現
PvSBE2ア イ ソ フ オ ー ム で あ るN末端 伸 長型 のLF一PvSBE2は、 そ の一 部 が 澱 粉粒 結 合 型と し て存 在するこ とを明ら かにした 。PvSBE2が可溶 性画分の みに局 在する性 質は、他 の植物に は見られ ない特異な性質であるとともに、インゲンマ メ よ り 精 製 さ れ たPvSBE2は 他 のSBEと 比 較 し 、 そ のN末 端 が 大 きく 欠 損 した 型で あ っ た。 本 研究 で は 、正 常 な 長さ を 持つPvSBE2 (N耒 に111ア ミ ノ 酸残 基 が付加された型:LI、゛−PvSBE2)が澱粉粒局在能を有すること明らかにした。大腸 菌発 現 酵 素の 解 析よ り 、 この111ア ミノ 酸 残基 が 作り出す 構造は、 内部と独立 したflex:ible domainであ り、その 存在によってアミ口ペクチンに対する親和性 を 高 め る こ と が 分 か っ た 。 さ ら に 、LF一PvSBE2とPvSBE2は 単 一 遺 伝子 の 、 選択的ス プライシ ングによ って生じ る可能性が示された。このような事実は、本 報告が初めてである。
3) キ メ ラ 酵 素 お よ び 変 異 酵 素 に よ る SBE末 端 領 域 の 機 能 解 析 アイ ソザイム間 で末端構 造を置換 したキメラ酵素およびその他の変異酵素を作 製 し解 析 し た。 作 製 した6種 のN末 キメ ラ 酵素 の う ち活性を 有したも のは1種で あ り、 最 終 比活 性 も6%に ま で 低下 し た 。111ア ミノ 酸残基か らなるfle}:ible domainを 除 い たPvSBE2は 、 そ れ 以 上 のN末 の 構 造 変 化 に は 不 安 定 で あ り 、 内部 との強い相 互作用に より構造 を維持す るものと 考えられ た。N末の構造変化 は、 基質アミロ ースに対 する親和 性を変え ることなく触媒能を低下させていた。
さ ら にPvSBE2のN末 か ら28残 基 目 の ア ル ギニ ン は、 同 様 に構 造 の安 定 化 に重 要 な役 割 を 果た し て いることが 明らかと なった。 一方、作 製した6種 類のC末キ メ ラ酵 素 の うち3種 が 活性を有し ており、N末領域に 比べて構 造変化に 比較的柔 軟で あった。C末 キメラ酵 素の解析 から、特 に末端側 がアミ口 ースに対する親和 性 およ び6グ ル コー ス 残基の転移 に関わる ことを明 らかにし た。C末領 域欠損変 異酵 素の解析か らもこの ことが明 らかにさ れた。
学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
松 井 博 和 冨 田 房 男 横 田 篤 伊 藤 浩 之
学 位 論 文 題 名
イ ヌ ゲ ン マ メ (Phaseolus vulgarisL . ) 登熟種子 Starch branching enzyme の酵素化学的特性と ア ミ ロ ベ ク チ ン 生 合 成 に 関 す る 研 究
本 論 文 は 図40、 表12、 引 用 文 献163を 含 み 、5章 か ら な る 総 頁147の 和 文 論 文 で あ る , 別 に 参 考 論 文4編 が 添 え ら れ て い る .
Starch branching enzyme (SBE)は 、Qー1,4グ ル カ ン 鎖 に 作 用 し てQ―1,6結 合 の 分 岐 構 造 を 持 つ ア ミ 口 ペ ク チ ン の 生 合 成 に 不 可 欠 な 酵 素 で あ り 、 澱 粉 の 食 味 や 粘 性 な ど の 質 的 要 因 を 決 め る 。 一 次 構 造 か ら 大 き く2つ の ア イ ソ ザ イ ム に 分 類 さ れ 、 そ れ ぞ れ の グ ル カ ン 鎖 に 対 す る 親 和 性 や 遺 伝 子 の 発 現 バ タ ー ン の 相 違 等 が 指 摘 さ れ て き た 。 こ れ ら の ア イ ソ ザ イ ム に はa― ア ミ ラ ー ゼ フ ァ ミ リ ー に 共 通 す る4つ の 保 存 領 域 が 存 在 す る が 、 こ の フ ァ ミ リ ー に 属 す る 酵 素 の 一 次 構 造 を ア ラ イ メ ン ト す る と 、4つ の 保 存 領 域 が 存 在 す る 内 部 配 列 の 長 さ は 類 似 す る が 、 そ れ 以 外 のN末 お よ びC末 の 両 末 端 領 域 で は 長 さ も 配 列 も 酵 素 に よ っ て か な り 異 な っ て い る 。 し た が っ て 、SBEの ア イ ソ ザ イ ム 間 の 酵 素 機 能 特 性 の 相 違 に は 末 端 構 造 が 関 わ っ て い る と 推 測 さ れ る 。
本 研 究 で は 、 イ ン ゲ ン マ ヌ(Phaseolus vulragis L.)登 熟 種 子 を 材 料 と し 、 SBEア イ ソ ザ イ ム の 単 離 と 一 次 構 造 の 解 析 、 酵 素 化 学 的 特 性 の 解 析 、 キ メ ラ 酵 素 を 用 い た 反 応 速 度 論 的 解 析 な ど に よ りSBEア イ ソ ザ イ ム の 末 端 構 造 と 酵 素 と し て の 機 能 の 関 係 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。
1)SBEア イ ソ ザ イ ム(PvSBElお よ びPvSBE2)の 機 能 解 析
イ ン ゲ ン マ ヌ よ り2つ の ク ラ ス に 分 類 さ れ る ア イ ソ ザ イ ム の 遺 伝 子(pv sbel、
pvsbe2)をク口ーニングした。大腸菌発現酵素の解析より、両者は特にアミロー スに対する親和性、クェン酸による活性化度が大きく異なることが分かった。
PvSBElは澱粉粒結合型、PvSBE2はアミ口プラスト可溶性型であり、これまで 他の植物で報告された結果と異なるものだった。これら酵素の大きな特徴は、6 グルコース残基を優位に転移することである。インゲンマメ澱粉から抽出したア ミ口ペクチンにおいても、鎖長6の割合はイネやトウモロコシに比べて高いこと から 、 これ ら 酵素 の 性質 を 最終 的 に反 映 した も の であ ると 考えられた 。
2)N末端伸長型SBEの機能および遺伝子発現
PvSBE2アイソフ オームであ るN末端 伸長型のLFーPvSBE2は、その一部が澱 粉粒結合型として存在することを明らかにした。PvSBE2が可溶性画分のみに局 在する性質は、他の植物には見られない特異な性質であるとともに、インゲンマ メより 精製されたPvSBE2は 他のSBEと 比較し、そ のN末 端が大きく 欠損した 型であ った。本研究では、正常な長さを持つPvSBE2 (N末に111アミノ酸残基 が付加された型:LF‑PvSBE2)が澱粉粒局在能を有すること明らかにした。大腸 菌発現酵素の解析より、この111アミノ酸残基が作り出す構造は、内部と独立 したflexible domainであり、その存在によってアミ口ペクチンに対する親和性 を高め ることが分 かった。さ らに、LF―PvSBE2とPvSBE2は単 一遺伝子の、
選択的スプライシングによって生じる可能性が示された。このような事実は、本 報告が初めてである。
3) キ ヌ ラ 酵 素 お よ び 変 異 酵 素 に よ る SBE末 端 領 域 の 機 能 解 析 アイソザイム間で末端構造を置換したキメラ酵素およびその他の変異酵素を作 製し解析した。作製した6種のN末キヌラ酵素のうち活性を有したものは1種で あり、最終比活性も6%にまで低下した。111アミノ酸残基からなるflexible domainを 除い たPvSBE2は 、それ以上 のN末の 構造変化に は不安定で あり、
内部との強い相互作用により構造を維持するものと考えられた。N末の構造変化 は、基質アミ口ースに対する親和性を変えることなく触媒能を低下させていた。
さらにPvSBE2のN末から28残 基目のアルギニンは、同様に構造の安定化に重 要な役割を果たしていることが明らかとなった。一方、作製した6種類のC末キ メラ酵素のうち3種が活性を有しており、N末領域に比べて構造変化に比較的柔 軟であった。C末キメラ酵素の解析から、特に末端側がアミ口ースに対する親和 性および6グルコース残基の転移に関わることを明らかにした。C末領域欠損変 異酵素の解析からもこのことが明らかにされた。
以上のように本研究は、インゲンマメより2つのアイソザイム遺伝子を取得し、
大腸菌発現酵素の性質を調べ、それらの酵素特性やアイソフオーム生成過程の推 定、末端領域の機能解析などを行った。これらは学術的大いに価値ある成果と判
断される。
よって審査員一同は、濱田茂樹が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を 有すると認めた。