博士(薬学)輔田 学位論文題名
真
ラジカ ル受容型 シリコ ンテザーを用いる反応の開発
ー分枝糖ヌクレオシド合成への展開ー
.学位論文内容の要旨
【序論】
効率 的な 有 機化 学反 応を 実現 する 方法 論と して 、テ ザー を用 いる 反 応(tethered reaction)は 有効 なア プ口ーチである。テザー を用いる反応は、反応にあずかる分子 種(例 えば基質と試薬).をテザーでっなぐことから始まる。 その結果反応点が接近 し 、反 応部 位 が限 定さ れる こと で、 緩和 な条 件下 、位置および立体選択的な反応を お こな うこ と が可 能と なる 。テ ザー に求 めら れる 要件は、基質に容易に導入できる こと、 テザーでっながれた反応基質が、精製や次の反応の反応 条件に耐えうること、
そ して 容易 に かつ 選択 的に 取り 外す こと がで きる ことなどがあげられる。ホウ素、
ケ イ素 、リ ン など さま ざま な原 子が テザ ーと して 利用されているが、その中でもケ イ 素を 用い る テザ ー( シリ コン テザ ー) は上 述の テザーに必要な性質を備えている こ とか ら、 シ リコ ンテ ザー を利 用す る反 応は 非常 に数多く報告されている。1969年 にBreslowら がテ ザー を用いる反応の先駆的な 研究となる遠隔位置の水素引き抜き反 応を報告して以来、テザーはさまざまな反応に利用されてきた。
筆者 らの 研 究室 でも テザ ーを 用い る反 応に 注目 し、ピニルシリル基をラジカルア ク セプ ター と する 反応 に取 り組 んで きた 。恥 フェ ニルセレノアルカノールもしくは ハ ロヒ ドリ ン の水 酸基 にビ ニル シリ ル基 を導 入し た基質を用いるラジカル反応によ り 、ヒ ド口 キ シエ チル 基やビニル基を水酸基の隣接位置へCISの立体配置で導入する こ とに 成功 し た。 以上 のよ うに 、テ ザー を用 いる 反応は位置選択的、立体選択的に 炭 素置 換基 を 導入 する 方法 とし て非 常に 有効 であ る。そこで筆者は、この方法を代 謝拮抗剤として期待される新規2 ‐デオキシー2 ‐リポ型分枝糖ヌクレオシドの合成へ 応 用 す る と と も に 、 テ ザー を利 用 する 新し いラ ジカ ル反 応の 開発 に取 り組 んだ 。
【結果と考察】
1.新規2 ‐デオキシ−2 −リボ型分枝糖ヌクレオシドの合成
筆者 はピ ニ ルシ リル 基を ラジ カル アク セプ ター とする反応の中で、アトム卜ラン ス ファ 一反 応 を利 用す るビ ニル 基の 導入 反応 に注 目し、この反応を鍵反応として代 謝拮抗剤として設計した2 ーデオキシ‐2 ぱ‐ピニルシチジンの合成に着手した。ウリジ ンを出 発原料に4工程で3 位水酸基にピニルシリル基を導入した2 ―ヨードウリジン誘 導 体 を 基 質 と し て 、(Me3Sn)2、AIBN存 在下 ベン ゼン 中加 熱還 流し た後 、TBAFで 処 理する ことで2 ‐ビニルウリジン 誘導体を69%の収率で得た。常法により塩基部をシ トシンヘと変換することで、標的化合物である2 ―デオキシ―2 Q‐ビニルシチジンの合 成を達成した。
2. エ チ ニ ル シ リ ル 基 を ラ ジ カ ル ア ク セ プ タ ー と す るエ チニ ル基 導入 反応 の開 発 ピニ ルシ リ ル基 のか わり にエ チニ ルシ リル 基を 用いてラジカルアトム卜ランスフ
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ア ー反 応をおこなうことで、工チニ ル基をone−potで導入できるのではないかと考え た 。工 チニ ル基 の導 入反 応は これ ま でに 数多 く開 発さ れて いるが、ほとんどの反応 は イオ ン反 応で あり 、ラ ジカ ル反 応 を利 用す る系 は極 めて 稀である。そこで、エチ ニ ルシ リル 基を ラジ カル アク セプ 夕 一と する ラジ カル アト ムトランスファ一反応に よ りB‐ ハ口 ビニ ルシ リル 基を 構築 し、これをTBAFで処理することでエチニル基に変 換 し よ う と 考 え た 。 エ チ ニ ル シ リ ル 基 を 導 入 す る た め の 試 薬 と し て 、Stork、 Chattopadhyayaらの 方法 を参 考に 、TMS工チニルシリル化試薬を合成した。調製の容 易 な2. ヨー ドイ ンダ ン誘 導体 を基 質として反応を検討したところ、ラジカル開始剤 にEt3B、溶 媒に トル エン を用 いる 反 応条 件が 最適 であ り、TBAF処理後84%の収率で 目 的の2‐エ チニ ルイ ンダ ノー ルが 得られた。また、テトラヒドロナフタレン誘導体 や 含窒 素環を基質とした時にも高収 率でエチニル体が得られた。さらに、.テザーの 一 般性 につ いて 検討 した とこ ろ、 エ チニ ル基 、プ 口ピ ニル 基、フェネチニル基をラ ジ カル アク セプ ター とし た時 も本 反 応は 適用 でき 、対 応す るアルキニル基を水酸基 の 隣接cis位 へ位 置お よび 立体 選択 的に導入できた。本反応を鍵反応として代謝拮抗 剤 と し て期 待さ れる2 ‐ デオ キシ −2 a‐ エチ ニル シチ ジン の合 成 を達 成し た。
3. ラ ジ カ ル 水 素 引 き 抜 き ― 環 化 反 応 を 利 用 す る 炭 素 鎖 導 入 反 応 の 検 討 ラジ カル 受容 型シ リコ ンテ ザー を 用い る反 応で は、 基質 にあらかじめヨード基や フ ェル セレ ノ基 のよ うな ラジ カル 発 生基 を導 入し てお き、 ラジカル開始剤により基 質 上に 生じ たラ ジカ ルを テザ ー上 の 不飽 和基 が受 容す る。 この方法では位置選択的 な 炭素 鎖導 入が 可能 であ るも のの 、 基質 合成 に手 間が かか る場合や、構造上合成で き る基 質に 制限 があ る。 そこ で、 筆 者は 従来 のラ ジカ ル受 容型シリコンテザーに水 素 引き 抜き 能を 付与 する こと で、 基 質分 子中 の特 定位 置のC―H結合から水素原子を 引 き抜 き、 基質 上に 生じ たラ ジカ ル をテ ザー 分子 上の 不飽 和基で受容することで、
位置および立体選 択的な炭素鎖導入ができないか挑戦した。
水素 引き 抜き ーラ ジカ ル受 容型 シリコンテザーとして1‐プロモピニルシリル基お よ び2. ブ口 モピ ニル シリ ル基 を考 案した。まず、インダン誘導体を基質として反応 を 検討 した 。1・ ブロ モピ ニル シリ ル基を導入した基質の反応では、水素引き抜き一 環 化体 の生 成は 全く 観察 され なか った。次に2‐ブ口モビニルシリル基を導入した基 質 を 用 い て 検 討 し た と こ ろ 、 基 質 のぺ ンゼ ン溶 液に 加熱 還流 下BU3SnH、AIBNの混 合 ベ ン ゼン 溶液 を4時 間か けて 滴下 後、 玉尾 酸化 条件 で処 理す ると 、 水素 引き 抜き
― 環化 体に 由来 する 化合 物が20% の 収率 で得 られ た。 反応 温度の上昇とともに収率 が 向上 し、 オク タン 中還 流す る条 件 では45% の収 率で 水素 引き抜き一環化体が得ら れ た。 さら に条 件検 討を 重ね たが 収 率や 選択 性の 改善 は見 られず、期待したように 水 酸基 の隣 接位 置に 炭素 鎖を 効率 的に導入することはできなか った。そこで、1‐ブ 口 モビ ニル シリ ル基 およ び2‐ ブ口 モビニルシリル基の水素引き抜き能について検証 し た結 果、 ピニ ルラ ジカ ルのd位も しく はp位 に存 在す るケ イ素原子がラジカルを安 定 化す るために、水素弓|き抜き反 応の効率が低下しているということがわかった。
【結語】
1.ラ ジ カル アト ムト ラン スフ ァー 反応を利用するアルキニル基の効率的な導入反応 を開発し、新規2 ‐デオキシ−2 ‐リボ型分枝糖ヌクレオシドの合成へ応用した。
2.1‐ブ口モピニ ルシリル基および2_ブロモ ビニルシリル基を用いるラジカル水素引 き 抜 き 一 環 化 反 応 を 検 討 し 、 そ の 水 素 引 き 抜 き 能 に つ い て 検 証 し た 。
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学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
助教授 教授 教授 助教授
周東 松田 高橋 小笠原
学 位 論 文 題 名
智 彰 保 正道
ラジカ ル受容型 シリコ ンテザーを用いる反応の開発
ー分枝糖ヌクレオシド合成への展開―
効 率的 な有 機化 学反 応の 方法 論と して、テザーを用いる 反応は有効なアプ口一チ であ る。 テザ ーを 用い る反 応で は、 ホウ素、ケイ素、リン などさまざまな原子がテ ザーとして利用されているが、その中でもケイ素を用 いるテザー(シリコンテザー)
は 上 述 の テザ ーに 必要 な性 質を 備え てい るこ とか ら、 非常 に 有用 であ る。 輔田 真 は、 以下 に述 べる シリ コン テザ ーを 利用する新しいラジカ ル反応の開発とその医薬 化学的応用研究を展開した。
1.新規2'‑デオキシ‐2 ‐リポ型分校糖ヌクレオシドの合成
ピ ニル シリ ル基 をラ ジ カル アク セプ ターとして用いるアトムトランスファー反応 を利 用す るピ ニル 基の 導 入反 応に 注目 し、この反応を鍵反応として新規代謝拮抗剤 として設計した2 ―デオキシ−2 d−ピニルシチジンの合成を計画した。ウルジンを出発 原料に4工程で3 位水酸基にビニルシリル基を導入した2 ‐ヨードウリジン誘導体を鍵 ラジ カル 反応 の基質として合成した。この反応基質を、 (Me3Sn)z`AIBN存在下ベン ゼン中加熱還流した後、TBAFで処理する ことで2 ーピニルウリジン誘導体を69%の収 率で得た。常法により塩基部をシトシン へと変換することで、標的化合物である2 ― デオキシ‐2 a‐ピニルシチジンの合成を達成した。
2. エ チ ニ ル シ リ ル 基 を ラ ジ カ ル ア ク セプ ター とす る新 規エ チニ ル基 導入 反応 エ チニ ルシ リル 基を ラ ジカ ルア クセ プターとするラジカルアトムトラン スファー 反応 によ りp‐ハ口 ピニルシリル基を構築し、これをTBAFで処理することで ェチニル 基に変換する新規反応を考案した。エチ ニルシリル基を導入するための試薬として、
TMS工 チニ ルシ リル 化試 薬を 合成 し、 調製の容 易な2−ヨードインダン誘導 体を基質 とし て反 応を 検討 した 。 ラジ カル 開始 剤にEt3B、溶媒にトルェンを用いる 反応条件 が最 適で あり 、TBAF処 理 後84%の 収率 で目 的の2― エ チニ ルイ ンダノール が得られ た。 また 、テ トラ ヒド 口 ナフ タレ ン誘 導体や含窒素環を基質とした時にも 高収率で エチ ニル 体が 得ら れた 。 さら に、 テザ ーの一般性について検討したところ 、エチ二
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ル基 、プ ロピ ニル 基、 フェ ネ チニ ル基をラジカ ルアクセプターとした時も本反応は 適用 でき 、対応する アルキニル基を水酸基の隣接cjS位へ位置および立体選択的に導 入できた。本反応を鍵反応として代謝拮抗剤として期待される2 ―デオキシ・2 Q・エチ ニル シチ ジン の合 成を 達成 し た。 エチニル基の 導入反応はこれまでに数多く開発さ れて いる が、 本研 究は ラジ カ ル反 応を利用する 点において、新規性が極めて高い。
3. ラ ジ カ ル 水 素 引 き 抜 き 一 環 化 反 応 を 利 用 す る 炭 素 鎖 導 入 反 応 従来 のラ ジカ ル受 容型 シリ コン テザ ーに水素引き抜き能を付 与することで、基質 分 子中 の特 定位 置のC―H結合 から 水素 原子を引き抜き、基質上 に生じたラジカルを テ ザー 分子 上の 不飽 和基 で受 容す るこ とで、位置および立体選 択的に炭素鎖を導入 す る新 規反 応の 開発 に取 り組 んだ 。
水素 引き 抜き―ラジカル受容型シ リコンテザーとして1―ブ口 モピニルシリル基お よ び2―ブ 口モ ビニルシリル基を考案し、インダン誘導体を基質 として反応を検討し た 。1−ブ 口モ ビニルシリル基を導入した基質の反応では、水素 引き抜きー環化反応 は 進行 しな かったが、2−ブ口モビニルシリル基を導入した基質 を用いると、望みの 水 素引 き抜 きー環化体が得られるこ とが分かった。さらに、1ー ブロモビニルシリル 基 およ び2‐ブ 口モビニルシリル基の水素引き抜き能について検 証した結果、ビニル ラ ジカ ルのa位 もし くはp位に 存在 する ケイ素原子がラジカルを 安定化するために、
水 素 引 き 抜 き 反 応 の 効 率 が 低 下 し て い る と い う こ と を 明 ら か に し た 。
以 上 の成 果について審 査の結果、本研究は、有機合成化学及び医薬化学の進展 に 大い に 寄与 するもので、 薬学博士の学位を授与するに十分に値するとの結論に達 し た。
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