博士(薬学)池田未佳 学位論文題名
細胞膜脂質非対称センサー及び その下流シグナル経路の解明
学位論文内容の要旨
細 胞 膜の 脂 質 は 二 重層 を 形 成 し てい る が ,その 内層 と外層 では脂 質組成 が異な るこ とが知 られ,
脂 質 非 対 称と 呼 ば れ て いる 。 脂 質 非 対 称の 維持 および 変化は ,膜 の安定 性,小 胞輸送 ,細 胞極性 , 細 胞 周 期 など の 生 命 現 象に お い て 重 要 であ り , 非 対 称の 破 綻 は ア ポト ー シ ス , 血液 凝 固 などと 関 係 す る 。 した が っ て , 脂質 非 対 称 は 厳 密に 制 御 さ れ る必 要 が あ り ,細 胞 は 変 化 に応 答 す るシグ ナ ル 伝 達 機 構を 備 え て い るこ と が 考 え ら れる 。 し か し なが ら , そ の よう な 脂 質 非 対称 の ホ メオス タ シ スを維 持する 機構は これ まで全 く不明 であっ た。
近 年 ,脂 質 の 二 重 眉間 の 輸 送 ( フリ ッ プ ・ フ ロッ プ ) を 行 い ,脂 質 非 対 称 の規 定 に 大き く寄与 す る ト ラ ンス ロ カ ー ゼ (フ リ ッ パ ー ゼ とフ ロ ッ パ ー ゼ) と 呼 ぱ れ る分 子 が 同 定 され て き ている 。 当 研 究 室 では , ス フ イ ンゴ 脂 質 の 骨 格 部分 で あ る ス フィ ン ゴ イ ド 塩基 の フ ロ ッ バー ゼ ( 細胞質 側 か ら 細 胞 質外 側 へ の 輸 送を 行 う ト ラ ン ス口 カ ー ゼ )Rsblを 酵母 で 同定 した(Kmara孤dIgamShi, メ 脇 ´.C舵所 .277,30048・54,2002)。その後の解析によって,グリセロリン脂質のトランスロカーゼ の 欠 損 に よ っ て グ リ セ ロ リ ン 脂 質 非 対 称 が 損 な われ る と , 通 常低 く 保 た れ てい るRsblの 発 現 が 転 写レベ ルで大 きく上昇するという発見がなされ叩ham孤dIgarashi,胸′.Bf。え,cP〃15,4949・59, 2004) , こ の こ とは グ リ セ 口 リ ン脂 質 非 対 称 変化 を 感 知 す るセ ン サ ー や その 下 流 シ グ ナル経 路が 存 在 す る こと を 示 唆 し てい た 。 本 論 文 では , ト ラ ン スポ ゾ ン の 挿 入に よ り 脂 質 非対 称 変 化(グ リ セ 口1Jン 脂 質 の フ ロ ッ パ ー ゼ ヰ め 欠 損 変 異 )が 誘 発 す るRSbl発 現 上昇 が 損 な わ れた 酵 母 変 異 株 を 単 離 し ,そ の 原 因 遺 伝子 の 解 析 を 行 うこ と に よ っ て, 細 胞 膜 脂 質非 対 称 変 化 を感 知 す るセン サ ー やその 下流の シグナ ル経 路の解 明を試 みた。
ま ず , 兄 鉛 ´ の プロ モ ー タ ー 下に レ ポ ー タ ー 遺伝 子 と し て プリ ン 塩 基 合 成に 関 わ る イDE2を 融 合 さ せ , さ ら に フ ロ ッ パ ー ゼ ル め 欠 損 変 異 を 導 入し た 。Ade2タ ン パ ク質 の 発 現 が 低 いと 赤 色 の プ リ ン 中 間物 質 が 蓄 積 する の で , 細 胞 の色 を 指 標 に 兄鉛 ´ プ 口 モ ータ ー 活 性 を 判別 す る ことが 可 能 で あ る 。そ の 細 胞 の ゲノ ム 中 の ラ ン ダム な 位 置 に トラ ン ス ポ ゾ ンを 挿 入 す る こと に よ り,グ リ セ ロ リ ン 脂 質 フ ロ ッ プ 変 化 が 誘 発 す るRSb1の 発 現 上 昇 が損 な わ れ た 酵母 変 異 株 を 単 離し た 。 さ ら な る 解 析 の 結 果 , フ ロ ッ プ 変 化 が 誘 発 す るRSb1発 現 上昇 に 必 要 な 因子 と し て ,Rsblの 発 現制 御 が 既 知 で あ る 転 写 因 子Pdr1に 加 え , 新 た に 転 写 因 子M0t3, 夕 ン バ ク キ ナ ー ゼMck1,pH応 答 に 関わる 恥n経路の 因子黜n13, ぬm20,恥m21の5つ を同定 した。
そ の う ち , 恥m13, 恥m20,mm21は い ず れ も 細 胞 外pH変 化 に 応 答 す るRjn1経 路 の 因 子 で あ
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り,下流の転写因子Riml01の活性化に必要であるこ とが知られていた。′im101欠損変異細胞の Rsbl量を調べると,rim13, r.加2D ′加2´欠損変異細胞のものと同程度に減少することが明らかと なっ た。 こ のこ とか ら,Rjn113,恥H20, 恥m21はRjn1101を介してRsbl発現誘導を制御するこ とが示唆された。さら に,Rjn1101の活性化には,Rjn113,貼n20,耻n21に加えて,それ以外の 恥m因子 やESCRT複合 体の いく つ かの 因子 が必 要とされる。それらの因 子がーつでも欠損する とフロップ変化によるRsb1の発現上昇が損なわれた ことから,Rjn1経路はフロ ップ変化が誘発 するRSb1の発現上昇に必要であることが示された。
また,Rsb1の発現上 昇は,〆め遺伝子欠損による フロップの変化だけではな く,逆向きの細 胞質層から細胞外層へ の輸送(フリップ)の変化によって誘導される。朋DBm鹹´,′棚J甜欠損 変異を導入するとフリ ップ変化によるRsb1の発現誘 導も損なわれたことから,MDB,Mck1,Rjn1 経路はフ口ップ変化と フリップ変化両方の非対称変化シグナルに関わることが明らかとなった。
さら に,MOB,Mckl,Rjn1経路の経路聞に おける関係を検討したところ ,それぞれの経路が独 立にRsblの発現誘導を制御することが示唆された。
本論文では,恥m経路 がRsblの非対称変化による 発現誘導に必要であることを明らかにした。
さらに,そのRjn1経路 自身がグリセ口リン脂質の非 対称変化によって活性化を 受けるという制 御機構を見いだした。 また,Rin1101による恥blの 発現調節機構の解析を行い,Rjn1101は転写 抑制因子N曙1の発現を 抑制することにより,Rsb1の 発現を正に制御しているこ とを明らかにし た。
以上、本論文では脂 質非対称シグナル経路という新しいコンセプトのホメオスタシス維持機構 の解明に取り組み,グ リセ口ルン脂質非対称変化に よるRsb1の発現誘導には,Rjn1経路,Mot3 やMcklが 関 連す る経 路が 必要 で ある こと を明 らかにした。そのうちRjn1経路は,N曙1を介し て脂質非対称変化によ るRsb1発現誘導に必要である と同時に,脂質非対称の変 化によって活性 化することを明らかに した。これらの結果は,Rjn1経路が脂質非対称応答のシグナル経路である こと を示 し てい る。Rjn1経路の最も上流で は,膜貫通型夕ンパク質R血n21とDfg16がpHセンサ ーとして機能すること が考えられている。脂質非対 称変化によるRsb1の発現誘 導にはRin1経路 の全 ての 因 子が 必要 であ った こ とか ら, 最上 流の恥m21やDfg16がpHと 脂質非対称を同一のも のとして感知している 可能性が高いと考えられる。脂質非対称が変化すると負電荷を持っりン脂 質は細胞膜外層に分布 するようになる。一方,pHの上昇も細胞膜近傍の電荷を負に変化させる。
よってRjIn21やDfg16が ,両者を表面電荷として同 様に感知するのではないかと推察している。
本論文で得られた脂質 非対称シグナルの知見は,今後,脂質非対称が関連する様々な生理現象を 理解していくうえで役に立つことが期待される。
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学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
五十嵐 横沢 木原 川原
学 位 論 文 題 名
靖之 英良 章雄 裕之
細胞 膜脂質非 対称セ ンサー及び そ の下流 シグナル経路の解明
細胞膜 は脂質二 重層から なり, それを構 成する 脂質分子 は外層 と内層に 偏って 分布する ことか ら,脂質 非対称と呼ばれている。この脂質非対称は,トランスロカー ゼという 酵素が ,膜脂質 の細胞 質外層か ら細胞質 層への 移行(フ リップ ),あるい は細胞質 層から 細胞質外 層への 移行(フ ロップ) を行う ことによ って維 持されてい る。脂質 非対称 の維持は ,細胞 膜の安定 性,細胞 分裂, 細胞骨格 制御に 必要である ことや, その破 綻がアポ トーシ スや血小 板活性化 に関わ ることが 知られ ており,生 命活動に 極めて 重要であ る。脂 質非対称 は様々な 細胞応 答と関わ ること から,非対 称が変化 した時 にはそれ を元に 戻す機構 が必要で ある。 しかしな がら, そのような 脂質非対 称の恒 常性維持 の機構 はこれま で解明さ れてい なかった 。申請 者の研究室 では,グ リセロ リン脂質 の非対 称が損な われると ,スフ インゴイ ド塩基 のトランス ロカ ー ゼ Rsbl の発 現 が 誘導 さ れ る こと を 見 いだ し ており, このこ とはグリ セロリ ン脂質非 対称変 化を感知 するセ ンサーや その下流 シグナ ル経路が 存在す ることを示 唆してい た。そ こで申請 者は, それらの 同定と詳 細な分 子機構の 解明を 目指した。
申請者は まず, 脂質非対 称シグ ナル経路 関連因 子を同定 するため の酵母 変異株ス
クリ ー ニ ング 系 の 構築 を 行 った 。 プ リ ン塩 基 合 成に関 わる ADE2 を レポータ ー遺伝
子と し て 用い る こ とに よ り ,RSB1 プロ モ ー ター 活 性を細胞 の色に 反映させ て簡便
に判別可 能とし た。そし て,グ リセロリ ン脂質非 対称変 化(フロ ップを 行うトラン
スロ カ ー ゼpdr5 欠 損 変 異)に より誘導 される RSB ヱプ ロモータ ー活性 の増強が トラ
ンスポゾ ンの挿 入によっ て損な われた酵 母変異株 を単離 した。そ の結果 ,脂質非対
称変化を 感知す るセンサ ーやシ グナル経 路に関連 する因 子として ,転写 因子 Mot3 ,
タ ン パ ク キ ナ ー ゼ Mck1 , pH 応 答 に 関 わ る 耐 m 経 路 の 因 子 恥 m13 , mm20 ,
瓰 m21 を 同 定 し た 。 き ら に その 後 の 解析 に よ り, 他 の 全て の 恥 m 経 路 も Rsb1 発 現
誘導 に に 関わ る こ とを 明ら かにし た。また ,それ らの経路 問の関 係を調べ ,Rim 経
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路や,Mckl ,Mot3 が関連する経路はそれぞれ独立にRsbl の発現を制御すること を示唆した。さらに,Mot3 ,Mckl ,Rim 経路はフロツップ変化だけではかくフリッ プ変化による非対称変化が誘発する Rsbl 発現にも必要であることを明らかにし た。
本 研 究で は ,細胞外の pH 上昇によ り活性化 されるこ とが知ら れていた Rim 経路にっ いてさら に詳細な 解析が行 われた。申 請者は脂 質非対称変化による Rsbl 発現 誘 導に Rim 経路が必要 であった ことから , pH だけで はなく非 対称変 化によっ て Rim 経路が 活性化す る可能性について検討を行った。その結果,グ リセロリ ン脂質非 対称変化 が Rim 経路を活性化することを明らかにした。この 結果は, Rim 経路が脂質非対称が脂質非対称脂質非対称シグナル応答経路である こと を 強 く示 唆してい た。さら にRim21 ,Rim20 ,耐 m13 が制御す る転写因 子 Rim101 の下流に ついて解 析を行い ,聡 m101 は転 写抑制因子 Nrg1 の発現抑制を 介 し て Rsb1 の 発 現 を 正 に 制 御 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 本論文は,遺伝学的アプローチにより脂質非対称シグナル経路という新しいホ メオスタシス維持の機構を明らかにしたものであり,研究テーマ,方法の両方に おいてオリジィナリティが高い。脂質非対称シグナル経路の同定は,脂質非対称 が関わる様々な生命現象を理解していく上で今後重要な知見となる。また,恥m 経路 の 最 上流 の 膜タ ン パ ク質 mm21 と Dfg16 が pH と 脂 質非 対 称を 表 面 電荷 と して感知するセンサーである可能性が考察されており,今後の研究の発展が期待 された。よって,申請者は博士(薬学)の学位を受領するに十分な資質を有する ものであることを認めた。
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