博士(薬学)福田宏太郎 学位論文題名
ヒ ト 増 殖 細 胞 核 抗 原 ( PCNA ) の構 造 と 機能 の 解 析 学 位論文内容の要旨
序 論 ― 増 殖 細 胞 核 抗 原 (PCNA)は 、DNA polymerase6(pol6) の 補 助 因 子 と し て 機 能 し 、 真 核 細 胞 のDNA複 製 に 必 須 な 蛋 白 質 で あ る 。 著 者 は 、 ヒ ト PCNAの 高 次 構 造 な ら び に 活 性 部 位 に 関 す る 情 報 を 得 る た め 、 蛋 白 質 工 学 的 手 法 に よ っ て 各 種 変 異 体 を 作 製 し 、 そ の 機 能 に 対 す る 影 響 を 解 析 し た 。 得 ら れ た 結 果 を 近 年 解 析 さ れ た 出 芽 酵 母PCNAの 三 次 構 造 の 情 報 と 合 わ せ て 考 察 し た 。 1, PCNA変 異 体 の 構 築 お よ び 発 現 一 構 築 し たPCNAの 変 異 体 は 、1.4種 類 のN
末 端 ま た | まC末端 欠失 変異 体、2. 30種類 の酸 性も し< は塩 基性 アミ ノ酸 をア ラ ニ ン に 変 換 し た 部 位 特 異 的 変 異 体 の 計34種 類 で あ る 。PCRに よ る 部 位 特 異 的 変 異 法 に よ っ て 各 種PCNA変 異 体 発 現 用 プ ラ ス ミ ド を 構 築 し 、 変 異 体 蛋 白 質 の 発 現 お よ び 精 製 を 行 っ た 。 こ の 段 階 で 、A2‑9お よ びA250‑261に お い て は 、 抽 出 液 中 に 目 的 の 蛋 白 質 が 同 定 さ れ な か っ た ( 封 入 体 の 形 成 ) 。 さ ら に 、 ゲ ル ろ 過 を 用 い た 精 製 に お い て も 他 の 変 異 体 蛋 白 質 と は そ の 溶 出 さ れ る 挙 動 が 異 な っ て い た ( 三 量 体 形 成 能 の 欠 失 ) 。 出 芽 酵 母PCNAのX線 結 晶 解 析 か ら 、 欠 失 さ れ た ア ミ ノ 酸 残 基 は .ヽ リン グ構 造の 外枠 を構 成す るB― シー トの 一部 を含 んで おり 、 そ の 欠 落 が 分 子 構 造 に 影 響 を 及 ぽ し た と 考 え ら れ た 。
2:PCNA変 異 体 に よ るReplication Factorg(RFニC)のATPase活 性 お よCF pol6 のDNA合 成 の 活 性 促 進 効 果‑ RF‑Cは 、ATP存 在 下 で プ ラ イ マ ー の3| 末 端 に 特 異 的 に 結 合 す る 複 製 蛋 白 質 の1つ で あ り 、PCNAはRF‑CのATPase活 性 を 促 進 す る 機 能 を 持 っ て い る 。3. 末 端 に お け るRF−CとPCNAの 複 合 体 形 成 は 、holoenzyme 形 成 過 程 の 初 期 段 階 に お こ り 、PCNAに よ るRFーCのATPase活 性 促 進 の 変 動 が 、 直 接 の 相 互 作 用 を 反 映 す る こ と に な る 。pol6はPCNAに よ っ て そ のprocessivity が 上 昇 す る が 、 そ の 活 性 に はPCNAの 有 す る2つ の 機 能 、1.pol6とPCNA間 の 直 接 の 相 互 作 用 、2. PCNAとDNA間 の 相 互 作 用 に 依 存 す る こ と に な る 。 そ こ で 著 者 は 精 製 し た34種 類 のP.CNA変 異 体 を 用 い 、RF‑CのATPase活 性 お よ びpol6 のDNA合成の活 性促進効果について検討した。
そ の 結 果 、A2‑9お よ びA250−261に お い て は 、 両 者 の 活 性 促 進 効 果 が見 られ な か っ た 。 こ れ は 両 変 異 体 蛋 白 質 の 抽 出 や 精製 の段 階で 予想 され てい た 通り 、゛ 本 来 維 持 し て い る 高 次 構 造 が 失 わ れ た こ と が 起 因 し て い る と 考 え ら れ る 。 !:PCNAのg圭端ルー‐プとRF‑Cの相互イ´酎羽一A257−261とA254‑261におし、ては、
pol6のDNA合 成 の 促 進 効 果 が 野 生 型 と 同 様 に 見 ら れ た 。 し か し 、RF‑Cの ATPase活 性 の 促 進 効 果 に お い て は 、A257‑261が 野 生 型 と 変 わ ら な か っ た の に 対 し 、A254‑261は そ の 効 果 を 示 さ な か っ た 。 こ の こ と か ら PCNAの
Lys254‑Ile255
―Glu256 のアミノ酸残基が、RF‑C のATPase 活性の促進効果に関与 していることが明らかになった。さらにこの領域について詳しく解析した結果、
255
番 目の イソ ロイ シン がこ の促 進効 果に関与していることが示唆された。こ の 領 域 は 、出 芽 酵 母
PCNAのX 線 結晶 解析 の結 果か らル ープ とし て全 体の 構造 から 突出 して おり 、この 部分 がRF‑C と 直接 相互 作用 して いる と推 定された。
4
ー:PCNA のりング構造の内側に位置するa ,ヘリックスとDNA の相互作用―塩 基 性ア ミノ 酸を アラニ ンに 変換 した 変異 体に つい て、
'pol6のDNA 合 成促 進効 果について調ぺた。その結果、Lys13 、Lys14 、Lys20 、Lys77 、Lys80 、Arg146 、
Arg149、Arg210 、Lys217 をアラニンに変換した変異体においては、野生型に対 し てほ とん どそ の活性 を失 って いた 。ま たArg64 、
Lys80、
Lysll0、
Lys168、
Arg210をア ラニ ンに変換した変異体においても、部分的にその活性が弱まって いた。
上 記 の 塩 基 性 ア ミ ノ 酸 の一 群は 、出 芽酵 母PCNA の
X線結 晶解 析の 結果 から 判 明し たり ング 構造の 内側 のQ ーヘ リッ クス 領域に ほぼ 一致 (ocAl :
Lys13、
Lys14、
Lys20、
aBl:
Lys77、
Lys80、
aA2:
Arg146、
Arg149、
aB2:
Arg210、
Lys217) し て い た 。 よ っ てこ れら 塩基 性ア ミノ 酸が 、DNA と相 互作 用す るの に重要な役割を果たしていると示唆された。
さらにp016 によるDNA 合成反応の生成物について解析した結果、伐‐ヘリック ス 上 の 塩 基 性 ア ミノ 酸 は お も に
pol6の 合 成 反 応 の 初 期 の 段 階 、 っ ま り
DNA clamping活 性と して機 能す ると 考え られ た。 また、4 つのa‑ ヘリックス上の塩 基 性ア ミノ 酸を
2箇所 同時 にア ラニ ンに 変換 した変異体について同様に解析し た 結果 、こ れら が協調 的に
DNA clamping活性 とし て機 能し てい るこ とが 判明 した。
≦ :PCNA 量
pol6の相互作用一酸性アミノ酸をアラニンに変換した変異体につ い て
pol6の
DNA合 成 促 進 効果 につ いて 調べ たと ころ 、Asp41‑ Ala とAsp122 →
Ala変 異体 にお いて は、 野生 型に 対し て部 分的な活性の低下を示した。以上の 結 果 か ら、
Asp41、
Arg64、
Lysll0、
Asp122そ してLys168 が、
pol6のDNA 合 成 促進 効果 に重 要なア ミ丿 酸と して 同定 され た。 出芽 酵母
PCNAの三 次構 造と比 較す ると
Asp41、Arg64 そ して
Asp122は
p‐ シート構造を連結し、かっりング構 造の 同じ 表面 から突出しているループ上に存在していた。よってこれらのアミ ノ 酸 残 基 が 、
pol6と 直 接 相 互 作 用 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。
6
. PCNA とRF ―C の相互作用―酸性アミノ酸をアラニンに変換した変異体につ い て、
RF―
Cの
AIPase活性 の促 進効 果に つい て調べた。Asp41 →Ala 変異体は、
野 生型 に対 して ほと んど その 活性 を失 って おり、 また
Asp97→
Ala変 異体 にお いては50 ―80 %の活性を示した。
出芽 酵母
PCNAの三 次構 造上 にお ける 位置 を検討 した 結果 、Asp41 、Asp97 は
C末端ループと同様にp ‐シート構造間を連結し、リング構造の同,じ表面から突
出 し て い る ル ー プ 上 に 存 在 し てい た。 よっ てこれ らの アミ ノ酸 残基 は、
C末
端 ル ー プ と と も に
RF‑Cと 直 接 相 互 作 用 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。
まと め―
PCNAが特 徴的 なり ング 構造 を形 成する こと によ って 、多 彩な 機能
を も っ た 分 子 表 面 を 提 供 し て い る こ と が 明 ら か に なっ た 。 さ らに 、pol6 、
RF‑Cと とも に構 成されるholoenzyme 形成過程のメカニズム解明への糸口を見い
出した。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査
教 授 大 教 授 有 助教授 加 助教授 井
塚栄子 賀寛芳 藤宏幸 上英夫
学 位 論 文 題 名