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博士(理学)堤 良平 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(理学)堤   良平 学位論文題名

Helicobacter pylori 病原因子CagA による 胃上皮細胞内情報伝達系撹乱に関する研究

学位論文内容の要旨

    Helicobacter pylori(″・ガめめはヒト胃粘膜に感染する螺旋状短幹菌であり、その持続感染 は消 化性 潰瘍、萎縮 性胃炎さらには胃癌等の胃 粘膜病変発症と強い相関が報 告されている。

特に″.ガあガがもつ病 原遺伝子の1つであるcagA遺 伝子を保持する菌株の感染は、疫学的に 悪性度の高い胃病変発症との強い相関が知られている。しかし、cagA陽性″.pyloriによる胃粘 膜病変発症の分子機構は未だ明らかになっていない。

cagA遺伝 子産 物 であ るCagAは 〃 ・ガめガ菌株間 で配列の差異をもつ120−145kDaのタンパク 質で 、そ のC端側にEPIYAモチーフと呼ぱれる特 徴的な配列を含む繰り返し配 列が存在する。

cagA陽性 〃・ ガ ぁガ は胃 上皮 細 胞に接着した際 、菌体内で産生したCagAをW型分泌機構と呼 ばれ る注 射針 状 の分 子集 合体 を 用い て宿 主細 胞内 に 直接 注入する。細胞内 に侵入したCagA は細 胞膜 直下に局在 し、内在性Smファミリーチ ロシンキナーゼ(SFK冫によ りEP職Aモチーフ 内のチロシン残基がりン酸化を受ける。

  培 養細 胞に 卿A陽性 ″ .ガ 捌を 感染させると 細胞増殖因子刺激時に見られ る形態変化に類 似した、ハミングバード表現型と呼ばれる形態変化が誘導される。したがって、リン酸化された CagAは宿 主細 胞 にお いて 細胞 増 殖因子刺激様の シグナルを発生させること が推察され、螂A 陽性″.ガめガはCagA依 存的な宿主細胞内情報伝達 系の脱制御を介して、胃癌をはじめとする 種々の胃粘膜病変を引き 起こす可能性が示唆された 。そこで、本研究ではりン酸化CagAにより 脱 制 御 さ れ る 宿 主 細 胞 内 情 報 伝 達 経 路 を 探 索 し 、CagAの 生 物 学 的 機 能 を 検 討 し た 。

  第1章で はCagAが 細 胞増 殖や 細胞運動を正に制御する事が 知られている細胞内チロシ ンホ スファターゼSHP‐2と複合体を形成することを示した。このCagA・SHP−2複合体形成はりン酸化 チロシン ‐SH2ドメイン間相互作用を 介して行われていた。また、CagAとの複合体形成により SHP―2のホスファターゼ活性が亢進することを明らかにした。さらに、ハミングバード表現型の誘 導 はCagAと の 複合 体形 成に よるSHP−2の活 性化 お よび細胞 膜への局在化に依存する。 ハミ ン グバ ード 表 現型 の誘 導はRaS非依存的である一方、MAPK活 性に依存していることを示 し、

CagAがErk1彪の持続的活性化を引き起こすことを明らかにした。。

第2章で はCagAがSFKの 制御 を行 う事 が 知ら れて いる 細胞 内 チロ シン キナー ゼCskと複合     ―230―

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体を形成し、そのチロシンキナーゼ活性を亢進することを示した。また、CagAは異なる部位を用 い てSHP‑2あるいはCskと複合体を形成することを明らかにした。さらに、CagAにより活性化し たCskが 細 胞内SFKを 不 活化 す る こ とを 示 し 、 アポ ト ー シ スな ど の細胞 傷害を 引き起こ す CagA−SHP−2経路に対して、CagAーCsk経路がネガティブフイードバック機構を構成している可能 性を示した。

  第3章 ではCagAがSHPー2依 存的に 、細胞接 着や細 胞運動 の制御 に重要 な役割 を担うチロシ ンキ ナーゼFAKのチロ シンリ ン酸化レベルを低下させることを示した。また、FAKがSHP‑2の基 質分 子である ことを 示し、CagAによ り活性化 したSHP‑2がFAKを直 接脱リ ン酸化し、FAKのキ ナーゼ活性を顕著に抑制することを示した。さらに、このFAKキナーゼ活性の低下がハミングバ ード 表現型の誘導において重要な役割を果たすことを明らかにした。ハミングバード表現型を 示す 細胞にお いて、 脱リン 酸化を 免れた 活性化 型FAKが細 胞質の 突起の 先端部 分に集積して いることを明らかにした。

  以 上、本 研究に よりCagAの 標的分 子とし てSHP−2およびCskが見出 され、CagAが宿主細胞 に 示す生 物学的 機能の 解明に 向けて新 たな知 見が得られた。さらに、CagAが宿主細胞に増殖 因 子刺激 様形態 変化を 誘導す る際に引 き起こ される細胞内情報伝達系撹乱の分子機構が明ら かとなった。また、SHP‐2−FAK経路の存在が明らかとなり、細胞接着、細胞運動の制御機構に おける新たな知見が得られた。

  Ca,gAによ る胃上 皮細胞情 報伝達 機構の 脱制御は正常な胃粘膜構造の破壊を引き起こす可 能 性が考 えられ 、蝋4陽 性鼠ガめrfが引き起こす強い胃粘膜病変の発症に寄与していることが 示唆された。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    畠 山昌則 副査   教授   菊池九二三 副査    教授    矢 澤道生 副査    教授    坂 口和靖 副査    教授    及 川英秋

学 位 論 文 題 名

Helicobacter pylori 病原因子 CagA による 胃上皮細胞内情報伝達系撹乱に関する研究

    Helicobacter pylori(″・pylori)はヒト胃粘膜に感染し、胃癌をはじめとする様々な胃粘膜病変 を 引き 起 こす 。特 に鼠pylori病原 遺伝 子の1っ であるcagA遺 伝子を保持する菌株は病原性 が高 く胃癌 との密接な関連が報告され ている。cagA陽性〃.ガめガ は胃上皮細胞に接着した際、菌体 内 で産 生 したCagAを宿 主細 胞 内に 直接 注入 す るこ とか ら、CagAが 宿主 細胞において宿主 細胞 内 情報 伝 達系 の脱 制御 し、胃癌発 症にいたる種々の胃粘膜病 変を引き起こす可能性が示唆 され た。申 請者は、これまで不明であ った〃. pylori CagAが標的 とする宿主胃上皮細胞内情報伝達 経 路の 探 索に 取り 組み 、病原因子 としてのCagAの生物学的役 割を検討した。本論文は、筆 者が 解 明し たCagAによ る胃 上皮細胞内 細胞情報伝達系撹乱の分子 機構に関して述べたものであ る。

  第1章で は、CagAが 細胞 増殖 や細 胞 運動 を正 に制御する事 が知られている細胞内チロシ ンホ スファ ターゼSHP−2と複合体を形 成することを示した。このCagA‑SHP‑2複合体形成はりン酸化チ ロシン‑SH2ドメイン間相互作用を 介して行われていた。また、CagAとの複合体形成によりSHP‑2 のホス ファターゼ活性が亢進することを明らかにした。さらに、細胞の著しい伸長で特徴づけられ る ハミ ン グバ ード 表現 型の 誘 導はCagAとの 複 合体形成を介し たSHP‑2の活性化および細胞 膜へ の局在 化に依存することを示した 。ハミングバード表現型の誘 導はRas非依存的である一方、Erk MAPキ ナー ゼ経 路 に依 存し 、CagAがErk1彪 の持 続的活性化を 引き起こすことを明らかにし た。

  第2章では、CagAがSrcファミリ ーキナーゼ(SFK)の活性制御を担うことが知られている細胞内 チロシ ンキナーゼCskと複合体を形 成し、そのキナーゼ活性を亢進することを示した。また、CagA は異な るチロシンリン酸化部位を 用いてSHP‐2あるいはCskと複合体を形成することを明らかにし た 。さ ら に、CagAによ り活性化し たCskが細胞内SFKを不活化 することを示し、過剰な持続 的活 性化が アポトーシスなどの細胞傷 害を引き起こすCagA‐SHP‐2経路に対して、CagA―Csk経路がネ ガティブフイードバック機構を構成している可能性を示した。

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  第3章 では 、CagAがSHP‑2依 存的 に 、細 胞接 着や 細胞 運 動の 制御 に重 要な 役 割を担うチロシ ンキ ナーゼFAKのチロ シンリン酸化レベルを低下さ せることを明らかにした。 また、FAKがSHP‑2 の基 質分 子で ある こ とを 示し 、CagAによ り活 性化 したSHP‑2がFAKを直接脱リ ン酸化し、FAKの キナ ーゼ活性を顕著に 抑制することを見出した。 さらに、このFAKキナーゼ活 性の低下がハミン グバード表現型の誘導にお いて重要な役割を果たすこと を明らかにした。ハミングバード表現型 を示 す細 胞に おい て 、脱 リン 酸化 を 免れ た活 性化 型FAKが細胞質の伸長突起 先端部分に集積し ていることを見出した。

  以 上 、 本 研 究 に よ りCagAの 宿 主 胃 上 皮細 胞内 標的 分子 と してSHP‑2お よびCskが世 界に 先 駆けて見出され、″.pylori‑宿主細胞聞相互作用理解に向けてのまったく新たな知見が得られた。

さらに、エフェクター経路 としてのCagA‑SHP‑2‑FAK経路ならびにフイードバック制御経路としての CagA‐Csk経 路な ど、CagAが 胃上 皮細 胞内 にお い て引 き起こす情報伝達系撹 乱の分子機構が明 らかとなった。本研究から 得られたこれらの一連の知見 は、複数の権威ある国際学術雑誌に発表 され既に高い評価を得てお り、餌必陽性″・ガ轟刑の感 染により惹起される胃癌をはじめとする 様 々 な 胃 粘 膜 病 変 発 症 の 分 子 機 構 の 解 明 に 貢 献 す る と こ ろ が き わ め て 大 き い 。   よ っ て 著 者 は 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。

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参照

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